小説/長編

Written by えむ


「なんだって!?」

 レックスの大声と共に、椅子が倒れる音が響く。
 事の発端は、実に簡単なことだ。レイテルパラッシュとマイブリスの二機が、ラインアークで修理・補給を行っている間。両者は互いに情報の交換を行っていた。
 ラインアーク側から提供されたのは、ORCAの真の目的と、本命であるエーレンベルクの所在地。そしてウィン・D・ファンションからは、企業がなぜORCAから手を引いたのか。その経緯を。
 そして、その経緯を聞いたレックスは、珍しく感情を露にしていた。

「企業は…。自分たちの身の安全と引き換えに、手を引いたってことかよっ!? 」
「落ち着け、レックス」
「……っ」

 横からセレンにたしなめられ、レックスは渋々倒れた椅子を戻して、腰を下ろす。だがその表情は、明らかに険しい物だった。

「先ほども言ったが、直接確認したわけじゃない。…私の推測だ。可能性は限りなく高いが」

 ウィン・Dが静かに答える。
 考えられない話ではない。それでも、いざそれが現実となると、さすがのレックスでも冷静ではいられない。

「ありえない話じゃない。だけど気に入らないってものじゃない。ORCA以上に」

 ORCAは人類の未来を切り開くため、クレイドルを犠牲にして宇宙への道を開こうとしている。手段はともかく、それは決して自分たちの利益のためではない。
 だが企業は違う。自分たちのことを考え、その上でクレイドルの市民を犠牲にしようとしている。
 そもそもORCAの計画を妨害しようと思ったのも、関係のない非戦闘員が巻き込まれることになるのが気に入らなかったからである。まして、一部の人間が自分たちの益のために、守る力があるにも関わらず非戦闘員を見捨てようとしていることなど、絶対に許せない。

「それならそれで、目に物を見せてやるだけだ」
「…どうするつもりだ?」
「難しいことじゃない。でも、まずはORCAの件を片付けないと。企業に対してのアクションは、それからでも間に合うさ。――向こうも、そうそう手は出せないだろうし」

 前回の防衛戦後。企業側に動きは全く見られていなかった。もしかすると、また手を出してくる可能性もあるが、それでも今のラインアークならまず問題はないだろう。
 そのことから考えても、今がORCAのエーレンベルクを襲撃する絶好のチャンスだ。

「となると、誰が行くかが問題だが…」
「出せるVOBは二基までだ。ドロップタンク使って航続距離は伸ばすが、距離が距離だから積めるだけのドロップタンクを使わないと届かないらしい。そうすると、総数の関係上3基出す余裕はない」
「つまり切符は二枚か」
「悪いが、私はなんとしても行かせてもらうぞ」

 開口一番に立候補したのは、ウィン・Dだった。

「このまま、ここで結果を待つなど出来るものか」
「じゃあ一人は決まりだな。行ってくれるのなら、これほど頼もしいものはないし」

 ウィン・Dの実力は、レックス自身もよく理解している。伊達にカラード所属のリンクス全員について調べ上げていたりはしていない。
 ラインアークの人間ではないが目的は同じ。目的の成功率を引き上げることを考えれば、これほどの好カードはない。

「もう一人は?」
「一番ベストなのは、『彼』だろうが…」
「悪いが、俺は無理だな。前回の戦闘で多少無理をしたのもあって、時間を置かないとネクストには乗れそうもない」
「となると残るは」
「俺か、あんただな」
「ボク?! うーん、どうしてもってなら行けなくはないけど。単独戦闘は……」

 ロイがネリスの方を見ると、ネリスは困った表情を浮かべる。ノーマルとの連携を前提にした戦闘を得意とするネリスにとって、ネクスト単体の戦闘はあまり得意ではない。この局面で、自分が出たとしても、コルセールの面々を連れて行けないのでれば、役に立てる自信はない。

「じゃあ、僕が立候補させてもらおうか」

 ネリスが渋々辞退してすぐ。レックス自身が名乗りを上げた。それを見て、ロイが驚いたように目を丸くする。

「おいおい。フォートネクストは大破して、もう動かせないって言っただろうあんた。」
「フォートネクストはね。だけど、一応もう用意はしてあるんだ。フォートネクスト用に置いておいた予備パーツを使って組み上げた奴が」
「なるほど。パーツがあるなら、組み上げるのは修理より早いしな」
「ちょっと思いつきを形にしたものだから、多少無茶な構成になったけどね」
「ちょっと思いつき?……多少無茶な構成…?」

 レックスの言葉に、ロイは本能的に予感めいたものを感じていた。直接の面識はほとんどなかったとは言え、彼もまたレックスの評判などは度々耳にしていたことがある。時折、とんでもないことを考えて実行するリンクスだと」

「そうそう。…セレンは知ってるよな。アレ」
「あぁ、アレか。って、本当にアレを出す気なのか」
「…ちょっと待て。どんなのだ、それ」

 セレンが複雑な表情を浮かべるのを見て、さらに嫌な予感が強まったのだろう。ロイが怪訝な表情で尋ねる。

「……説明してもいいけど。見てもらった方が早いかもしれない。どうせだから…シミュレーターでマイブリスで対戦してもらおう。どっちが行くか決めるのにも役立つかもしれないし」
「実際に戦って腕が良い方が行くって訳か。わかりやすくて良いな、それで行こう。…だけどなあ、ほんとに一体どんなのだよ…」
「見たらわかるって。じゃあ、ちょっと行って来る」

 そう言って、レックスとロイの二人は、シミュレータールームへと出て行く。二人が出て行った後、ネリスは恐る恐るセレンに聞いてみた。

「ねぇ、セレンさん。アレってどんな機体なの? なんか、普通の機体じゃなさそうな感じしたんだけど」
「レックスの趣味を徹底的に突き詰めたような機体だな。それでいて弱いわけじゃないから性質が悪い。恐らく、これまでの戦い方を最大に生かすために考えたんだろうが…。」
「レックスの趣味を徹底的に突き詰めたような……。えっと、ずっと前にミミル軍港に行ったって言うアレ?」

 ネリスの脳裏に、両背・両腕と格納に計グレ6本を積んだタンクが浮かぶ。それに対し、セレンは静かに首を横に振る。

「いや…たぶんある意味、あれ以上だろうな…」

 そう答え、セレンは深いため息をつくのだった。
 ちなみに。レックスとロイの間で行われた模擬戦は、レックスの勝利に終わった。そして、レックスの言う実験を兼ねて組んだと言う機体を見たロイは、後に知り合いにこう語っている。

「あれはネクストの皮を被った何かだった」と。






 そして次の日。
 ラインアークのVOB発射用カタパルトには、ウィン・Dのレイテルパラッシュと、レックスの新生フォートネクストの姿があった。
 すでに準備は最終段階となっており、レックスはコクピットにて機体の最終調整を行っていた。

『レックス、聞こえる?』

 そしてAMSとFCSの設定も終わったところで、ネリスが通信機ごしに話しかけてきた。

「ネリス? どうした?」
『…んーと。なんていうか、すごいね、その機体』
「僕が考えた最強のタンク…ってな。でも、これなら連戦でも何とかいけるはずだ。僕の腕で」
『火力、すさまじそうだもんねぇ』

 ポツリと呟いて。そこにある新しいフォートネクストを見上げる。
 そこには、いろんな意味で凄まじいことになっているタンク型ネクストの姿があった。
 脚部をRAIDEN-Lに。胴体部はGAN01-SS-C。腕部はGAN01-SS-A。頭部は047AN02と、ここまではまぁ…普通のタンクと大差はない。
 問題は武装である。
 まず両腕にNUKABIRAとSAKUNAMI。これだけ見ると普通に見えるかもしれない。だが実際は「両腕に」それぞれ二つを装備していたりする。片方は手持ちで、片方は腕部に装着するタイプであるのをいいことに強引に装着したのである。この二重装備の結果として腕部の運動性能は落ちてしまっているものの、弾数的には倍増。さらに一斉射撃を使えば4発同時が可能だ。
 そして極め付けが展開状態で両背に装備されたOIGAMI2門。折りたたまなければ二門積めるとの発想の元、これもまた無理やり展開システムに手を加えてまで乗せた無茶苦茶っぷりである。

『でも、動けるのこれ?』
「旋回性能と横移動だけはなんとかまともなレベルだしな。回れれば、なんとかなるさ」

 そう答え苦笑を浮かべる。
 ネリスの言うとおり。この機体は重量過多なんて物ではなかった。機動性なんて、ほぼ死んだも同然の状態であり、ブーストなしでは、移動すらままならいほどだ。
 だが旋回性能と横移動だけは、なんとかマシなレベルにしてある。と言っても両肩に追加ブースターを乗せ、サイドブースターをトーラスのARGYROS/Sに変更し、FRSメモリもサイドクイックにフルに振って――ぶっちゃけ重いのをブースター出力で強引に振り回しているだけなのだが。
 あとは、さりげなくオーバードブーストを違うのにしてたり、スタビライザーを使って、可能な限り重心も後ろへと向けてあったりと言った変更が行われている。ほとんどまともに動けないのに何の意味があるんだと思うだろうが…。
 マイブリスは身をもって、その意味を思い知ることになったのはここだけの話である。

『…回避捨てて、当てに行くスタイルだってのがよくわかるよ…』

 これらから導かれる戦い方はもう言うまでもない。
 完全に固定砲台化するつもりである。だが狙うことに集中したときのレックスの命中率の高さを考えれば。決して無茶なだけの戦術ではないのも確かだ。

『あとさ、VOB…飛べるの?』
「計算上はギリギリ届くって行ってた。。ところで、何か用があったんじゃないのか?」
『ん? んー、いやなんとなくってことで』
「そっか。じゃあ……こっちから。今回の件が片付いて。企業との片もついたら。話したいことがある」
『…ちょ、やめてよ。それ死亡フラグだって』
「大丈夫。仮に落とされても死にはしないさ。タンクだからな」
『うわぁ、レックスが言うと説得力ありすぎるよ、それ…』
『レックス、そろそろ時間だ』
「わかったセレン。――じゃあ、行って来る」
『うん、がんばれ』

 ネリスからの通信が切れる。

「今回は、またセレンのオペレーター付きか」
『なんだ。ない方が良かったか?』
「いや、ある方が安心できる」
『そうか。大事な局面だ。ここでしくじるなよ…?』
「わかってる。仮にしくじりそうになったら―――。それでも最低限の仕事はするさ」
『フラグか?』
「フラグかな? でもほら。たくさん立てると、逆に消えるって言うし?」
『まったくお前と言う奴は…。準備は良いな?』
「いつでも出来る」
『よし…射出するぞ』

 後方からブースター点火に伴う轟音が響き始める。それと共に機体がゆっくりと前へと動き出し、機体のメインブーストの力も借りて上昇を始める。そして速度メーターが上がり始め、時速1000kmを越え、先行するレイテルパラッシュの後に続くのであった。
 
□  ■  □  ■  □  ■  □  ■  □  ■  □  ■  □  

 シベリア。
 直径1,200メートル、深さ525メートルの大穴。そこに衛星軌道掃射砲エーレンベルクが存在していた。
 周辺には防衛部隊が配備されているが、こちらはVOBを使っての強襲だ。防衛網を強引に突破し、一気にエーレンベルクへと肉薄する。

『VOB使用限界だ。パージする』

 併走して飛ぶ二基のVOBが空中で分解し、二機のネクストが虚空へと投げ出される。そのままブーストを使って下降速度を抑え、地面へと着地。砂煙を上げつつ、停止する。
 視線の先には、ネクストが2機。そのうち1機はレックスも見覚えがあった。

『レックス。あのアリーヤだが…』
「うん。…あの時のブレード機…。ORCAだったんだな」

 リンクスになって、まだ間もなかった頃。PA-N51襲撃を終えて帰還中に襲ってきたアリーヤ。その姿が確かにそこにあった。

『お前達・・・やはり腐っては生きられんか』

 通信越しの声。メール越しに一度しか聞いていない声だが、忘れはしない。ORCA旅団長マクシミリアン・テルミドールの声。そんな大物が守りにいると言う事は、ここが紛れもなく「当たり」である証拠だった。

『もはや多くを語る必要はないだろう。生き残った側が、己の目的を果たすことが出来る。それだけのことだ』
「…………」

 お互い引くつもりは一切ない。となれば、後はぶつかり合うだけ。
 この状況で和解することは、不可能だろう。そもそもラインアーク側として、ORCAに打撃を与えてきた経緯もある。ここまで邪魔しておいて、今さら仲良くしようなど言えるはずもない。
 敵は今のところ2機。こちらも2機。となれば、自然とどういう形になるかは一目瞭然。あとは、誰がどっちを相手にするか…だが。

「あっちの追加ブースター背負ったアリーヤはこちらは引き受ける」
『わかった。ではテルミドールは、私が引き受ける』
「よろしく頼むよ」

 レイテルパラッシュとフォートネクストが構える。その動きに呼応するかのように、アンサングとスプリットムーンもまた身構える。

『勝機はあるのか?』

 セレンが尋ねる。

「ある。なんせ万全の状態で、レベルだってあがってる。それにまた戦うことを想定して、手は考えてある。…勝てない相手じゃないよ」
『ふっ、大した自信じゃないか』
「初見の相手をするよりはね」

 フォートネクストは、ゆっくりとした動きでグレネード2種を装着した右腕をスプリットムーンへと向けた。お前の相手は自分だと言わんばかりに。
 そのご指名に気が付いたのか。向こうもこちらを狙いに定めたようだった。

「それじゃあ、まずはリターンマッチといこうかっ」

 両腕のグレネードを起動する。
 そして、ORCAとの最後の戦いの火蓋が切られた。


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移設元コメント


☆作者の一言コーナー☆
 軽く魔改造ネクスト登場の回。ぶっちゃけこれが一番やりたかった…!!
 脅威の六連グレネード、ふーはーはー!!…こほん。

 さてついに始まったラストバトル。
 まずはスプリットムーン戦。レックスは勝機があると言ってますが果たして…。
 いずれにしても完結まで秒読みとなりました。もう少しお付き合いくださいね><

>遂にフォートネクストは力尽きてしまったか…レックス君まさかとは思うが、次からホワイトグリントに乗り換えたりして
 乗り換えた先は、やっぱりタンクでした。

>機体は倒れても乗り手は守る……。まさに有澤の、いやタンクの精神ですな……。
 fa本編でGW戦後に社長が登場しなかったら、きっとこの展開はありませんでした…。

>気になるのは、今後のアサルトセルをどうするか。ラインアークにウィンDたちが来るのならORCAが絶対悪でないこともわかるように思える。クレイドルを落とすことなくアサルトセルを破壊するという計画にテルミドールがどう行動するか、和解or拒否?ますます今後が楽しみな終わり方ですね。
 絶対悪ではなくとも、もはや和解は不可能と言う状況――。
 アサルトセルに関しては、今後をお待ちください。

>ウィン達が素直にラインアークについていったのは腑に落ちませんが、最大の頭脳を失ったORCAはこれからどう動くのか。ともかく次も楽しみにしてます。
 実は密かに迷ったところです…。ただORCAと決着が付いてない以上は、他に行き場もないのではと思った次第です。

>火力と装甲にものをいわせたごり押しはタンクがもっとも得意とする戦法・・・勝てばいいのだ、勝てば! やはりタンク乗りはいいねぇ・・・しかし・・・やはり無茶が祟ったか・・・おやすみ、フォートネクスト・・・(TT)
 そしてあっさりパワーアップ(?)して帰ってきたフォートネクストであった。
 
>要塞は主を守り通して崩壊するか・・・ これはまさしくタンクの真髄だな  しかし、最大のパートナーを失ったレックスは次どうするのだろうか(まさか社長との繋がりから車懸を受けとるとか)
 ごらんの結果となりました…。

>メルツェルがオーバーキルすぎるwwwよく黄金の時代をって言う暇あったなwwwしかし真面目な話これは見事な『奇策』だと思った。ある意味レックスの人生を賭けた奇策だしなあ。ともかく、ORCAを殲滅せぬままに企業連を裏切ったロイとウィンディーの帰る所が無いのは確かなので、これでラインアークの戦力が更に増強されたな!w
 最強レベルの布陣だと思います。今のラインアーク(汗

>自らが果てようとも相棒を守り通したフォートネクストに敬礼! メルツェル、そしてフォートネクストに! (`・ω・´)ゞ ・・・・・・・ (`;ω;´)ゞ -- 2010-10-20 (水)
 敬礼!!(`・ω・´)ゞ

>テルミドールは2段QBが使えるのか!やはり、ランク1は伊達ではない。彼のアンサング即ち100%の実力は凄まじいはず。全盛期のレイヴンに匹敵する彼相手にレックスはまともに戦えるのだろうか?
 騙して悪いが、ウィンディーさんが相手なんだ…

>さらばフォートネクスト・・・。今回読んだ後だと前話の「賭けてみるか。全額を!!」が何故か重く聞こえるのは気のせいか・・・愛機がこうなることを予見していた?
 覚悟はしてたものの、予見はしてませんでした。あと言われて気づいたのは、ここだけの話…(マテ<重く聞こえる

 以上、コメントレスでした。
たくさんのご感想や励ましの言葉。今回もありがとうございました><


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