Written by えむ
レックスがラインアーク入りを果たしてから、すでに1週間。ほぼ連日のように、レックスはホワイトグリントのリンクスであった『彼』の元で特訓を続けていた。それこそ、限界で倒れる一歩手前まで。
無理をしすぎている。レックスのAMS適正の低さを考えるなら、誰もがそう思うところであったが、レックスは一歩も引かず訓練を重ねていた。仮にもラインアークを背負う以上、今のままでは駄目だしさ、と笑いながらに答えて。
そして久しぶりの出撃。ローゼンタールから届いた依頼であるカーパルスの防衛ミッションのための準備が進む中、セレンは一人『彼』の元を訪れていた。その特訓がどれほどの成果となったのか気になって。
「正直に聞く。どうなんだレックスは」
「彼は発想の着眼点が本当に面白い男だな。まさか、ああいう方法を取るとは思いもしなかった」
「どういう意味だ?」
『彼』の言葉の意味がよくわからず、セレンが怪訝な表情を浮かべる。
「一言で言えば、タンク乗りらしい戦い方と言ったところかな。ある意味潔いと言ってもいい」
そう言って、『彼』は苦笑を浮かべるのであった。
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カーパルスへと続く運搬用道路を2機のネクストが併走して走っていた。
1機は、ローゼンタールのトップリンクスであるジェラルド・ジェンドリンが駆るノブリス・オブリージュ。もう1機は、レックスのフォートネクスト。
今回のフォートネクストの装備は、背部にOIGAMI。左腕部にインテリオルのレールガン。RG01-PITONE。右腕にSAKUNAMI。左格納にもSAKUNAMIと言ったところである。そして肩部にBFFの追従型ECM。
『こちらジェラルド・ジェンドリンだ。レックス・アールグレイ。君の噂は聞いている。今日はよろしく頼むよ』
「こちらこそ。えっと役割は?」
『僕が前衛をやろう。君の機体では厳しいだろうからな』
「そっか。それは助かる。出来なくはないけど、その方が気が楽だ。…その分、背中は任せてくれ」
『期待しているよ』
そんな会話を交わしつつ機体を進める。やがて前方にカーパルスの施設が見えてくる。
『こちらローゼンタールのノブリス・オブリージュ。これよりカーパルスの防衛につく』
カーパルスに駐留している防衛部隊へと通信をつなぐジェラルド。だがその呼びかけに返答はない。
『応答がない…?』
「……カーパルスから煙があがっている」
フォートネクストのカメラがカーパルスの各所から上がる煙を捉えた。レックスの言葉に、ジェラルドはブーストをカットし、その場で足を止めた。少し遅れて、フォートネクストも立ち止まる。
『防衛部隊が全滅…?この短時間でか…』
襲撃予定の時刻からは、まだほとんどの時間は経過していないにも関わらず、防衛部隊が全滅してしまったのは遠めに見ても明らかだった。予定では襲撃は受けていても、大した被害が出るまえに辿り着けるはずだったのだが。
「……強敵か」
『その可能性は充分にある。だが、だからと言って退くつもりはない』
ノブリス・オブリージュのオーバードブーストが起動し、コジマ粒子が収束をし始める。
『これ以上の被害を出さないために。―――ノブリス・オブリージュ、イレギュラーを排除する!』
オーバードブーストを吹かし、ノブリス・オブリージュが一足先にカーパルスの方へと向かっていく。
一方、レックスはコクピットの中で大きく深呼吸をしていた。
敵の機体構成は不明。得意とする戦術も不明。当然どんなリンクスかもわからない。対峙するに当たって必要な情報は一切ない。しかも強敵。
奇策はある。だがそれを戦う相手のために用意されたものではない。シミュレーターを通して何度も何度もホワイトグリントと対峙しては撃破される中で見つけた、一つの戦い方だ。ただ恐らく誰も考えないであろう大胆な戦術。そういう意味で奇策と言えば奇策。
あとはそれを実行するだけ。特訓の成果を見せるだけ。
『…お前も行け!!』
セレンの怒鳴り声が響き、レックスは我に返った。そして、すぐさまオーバードブーストを起動し、少し遅れてカーパルスへと急ぐ。
『二機か…侮られたものだな。私のアステリズムも』
『ネクスト一機で何をするつもりだ。大胆に過ぎたな、イレギュラー!』
その頃、すでにノブリス・オブリージュと敵ネクストであるアステリズムは、交戦に入っていた。両機共に激しく動き回り、撃ち合う。
アステリズムとそのリンクスが相当な物であることは、傍目に見ても明らかだった。軽二脚型には積みすぎとしか思えない重武装。にも関わらずノブリス・オブリージュと互角――いや、むしろそれ以上の動きで立ち回っている。
『…強い……』
なんと言っても火力が違いすぎる。もちろん、ノブリス・オブリージュにも切り札ともいえる大火力のレーザーキャノンはある。だがそれは展開に時間がかかるし、その隙を相手が見逃してくれるとは思えない。ブレードで捉えるのも難しいとなると、今頼れるのはライフルしかない。状況としては、こちらが少しばかり不利だ。
と、そこへ遠距離から高速弾がアステリズム目掛けて飛んできた。アステリズムはクイックブーストで回避するが、
『…っ!?』
その回避先に、待っていましたとばかりにOIGAMIの榴弾が飛び込んで来ていた。絶妙なタイミングでずらした時間差砲撃。クイックブーストをさらに吹かせようとするも、再使用可能までの僅かな間隔の隙を突かれ避けれそうにはない。
並みのリンクスでなくても回避困難と思われる一撃。だが、アステリズムはそれを回避した。併用していた通常ブーストをも咄嗟にカットし、下へ軌道を逸らしたのである。アステリズムのすぐ頭上をOIGAMIの榴弾が掠め、カーパルスの外壁に直撃。強大な爆発を起こす。
『あれを放っておくのは危険か…』
―――危なかった。今の一撃はアステリズムのリンクスであるジュリアス・エメリーですら、そう思わないわけにはいかなかった。まして、当たった際の一撃がでかすぎる。
このままノブリス・オブリージュに集中していては危険だと判断し、ジュリアスは矛先を変えることにした。ノブリス・オブリージュへとPMミサイルでけん制を仕掛け、フォートネクストの方へと向かったのである。
ジェラルドは前衛機の役目としてそれを阻止しようとするも、アステリズムの巧みな連続クイックブーストによって抜けられてしまう。
『しまった、抜かれた?!』
レックスはその一部始終を冷静に見ていた。相手がこちらに矛先を向けてくる可能性は、充分に有り得る。今さら慌てたりもしない。
アステリズムが、予想以上の速さで距離を詰めてくる。OIGAMIもレールガンも装填中。OIGAMIから右腕部武器への変更も時間がかかるため、迎撃はできない。
アステリズムがレーザーライフルとハイレーザーライフルを同時に放った。それらの攻撃が、フォートネクストの両サイドに着弾するも―――フォートネクストは動かない。
『……?』
至近弾ともなれば、何らかのリアクションがありそうなものだが。その場から全く動かないフォートネクストの様子に怪訝な表情を浮かべつつ、背後へとまわりこんで次の攻撃を仕掛けようとする。
だが、アステリズムが頭上を飛び越えクイックターンをした時、フォートネクストもまたアステリズムをクイックターンで正面に捉えていた。
フォートネクストのレールガンとアステリズムのレーザーライフルが同時に放たれる。フォートネクストのみ被弾。だが直撃したにも関わらず、フォートネクストはその場から動かない。代わりに追い討ちとばかりに間髪入れずにOIGAMIの榴弾が飛んで来る。
精密な狙い。それを再び紙一重で回避し、距離を離さずフォートネクストへと攻撃を仕掛ける。回りこみながらハイレーザーライフル。今度は回避すると思いきやフォートネクストはそれを正面から受け、カウンターで再びレールガンを放つ。今度は先ほどよりも距離が近いのもあって、回避は間に合わなかった。アステリズムが被弾する。軽量機にすれば、地味に痛い一撃だが大したダメージではない。
そこに後を追ってきたノブリス・オブリージュがライフルで追撃を仕掛けてきた。
『こちらを忘れてもらっては困るぞ!!』
『…ちっ』
回避行動を取り、左腕のハイレーザーライフルで牽制。同時に、レールキャノンを展開してフォートネクストを狙う。―――避けない。またしても直撃。代わりに再びOIGAMIを撃ち返してきた。だが今度は直接ではなく、地面を狙ってだ。
予想外の一撃だが、それでも判断は早かった。OIGAMIの爆発範囲が広いことを利用しての攻撃だろうが、それも予測できれば対処は難しくない。連続クイックブーストで着弾予想地点から退避。巨大な爆発が起こるも、アステリズムは安全距離。ただ大きな炎と煙が巻き起こり、視界が一時的に遮られてしまう。すぐさまレーダーをチェックするが――ノイズが走っていた。ECMだ。
ほんの数秒、完全に相手の姿を見失ってしまう。だが、その数秒が命運を分けた。
『………っ!?』
爆煙の中から、六本のレーザーが放たれ、アステリズムを貫いた。そして爆煙が晴れた時、羽のようなレーザーキャノン2門を構えたノブリス・オブリージュがそこにいた。
さすがに、それをまともに受けては軽二脚機のアステリズムはひとたまりもない。そのまま機体の各所から火花を散らし、下へと落ち始める。
『私か…侮ったのは…』
一対一なら恐らく問題はなかっただろう。だが2対1という状況を、特にノブリス・オブリージュの僚機を侮っていた。フォートネクストが援護に入った時点で、流れは変わっていたのだ。
だが、それに今さら気づいたところでどうにか出来る問題ではない。自分は敗れてしまったのだから。
『すまんな、皆。共に成就は叶わん…』
唯一の悔いは、それだけだった。出来るものなら、共に成就するところを見届けたかったが―――それももう叶わない話だった。
『敵ネクスト、撃破を確認。終わりだな』
アステリズムが沈黙したのを確認し、ジェラルドが通信を繋いできた。
『礼を言わせてもらおう。君がいなければ、勝てなかったかもしれない』
「それを言うなら、こちらこそだよ」
『いや、謙遜することはない。あのネクスト相手を追い詰めていたのは君の方だ』
ジェラルドはそう告げて、フォートネクストとアステリズムの立ち回りを思い出していた。常にアステリズムを正面に捉え、大火力の武器を当てようと試みる。ただそれだけのことだったが、一撃が痛い軽量機にとって、それほど大きなプレッシャーはない。
傍目に見れば、フォートネクストが押されていたようにしか見えないが、一撃で状況をひっくり返せる火力を持っているだけに、あのまま1対1で戦ったとしても、勝負は最後までわからなかったことだろう。
『何はともあれ、改めて礼を言わせてもらおう。ありがとう』
「ど、どういたしまして…」
頭を掻きつつ答えるレックス。だが今回の戦闘は、レックスにとっても手ごたえのある戦闘だった。そして、特訓は無駄ではなかったと実感した瞬間でもあった。最も、もう少し改善の余地があることもわかったが。
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戦闘の一部始終を見守っていたセレンは、一人オペレータールームにて唖然としていた。と、同時に、『彼』の言っていた「タンク乗りらしい戦い方」、「ある意味潔い」の言葉の意味も理解していた。
常時ネクストの状況等をチェックできる環境だからこそ、全てわかったことなのだが。
レックスの取った戦術。それはタンク機の装甲に物を言わせ、必中させることだけを考えて動くと言うものだった。
だがその戦い方も当てれなければ意味はない。そこでレックスは命中率を上げるために、これまで移動関連に限定していたAMS制御を腕部制御と照準に関係する部分のみに変更した。 そもそも移動しながら撃ったりできないから、腕部制御をマニュアルにしていたわけなので、AMS制御を逆にしてしまっても、レックス的には問題はない。ただ移動よりも攻撃に重きを置いただけのことだ。
ただ問題もある。
大火力を確実に当てるつもりで挑むにしても、回避を捨てているので当然損傷が大きくなるだろう。ようは削られる前に削っちまえ的な戦い方なわけだから。と言う事はつまり、やっぱりギリギリの戦いになるわけで。
「……たまには心臓に悪くない戦いをしてほしいのだがな…」
見守る側のセレンにとっては、気が気でない日々がまだまだ続きそうなのは確実だ。
ただ、そうだとしても。軽量機など動きの早い相手に対して、正面からある程度戦えるようになったと言うのは、レックスにとっては大きなこと。それは疑いようもない事実だった。
To Be Countinue……
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☆作者の一言コーナー☆
ちょっぴりご無沙汰の、えむです。
レックス君、パワーアップその1。固定砲台モード(仮称)です。これで軽量機やすごく動き回る相手に、前よりもかなり当てられるように!!
ちなみに従来の移動砲台モードも立ち回りが少しレベルアップしてる予定。それについては追々…。こちらは正統法ですがw
そして、この場を借りて、色々アドバイスを頂いた方々に多大な感謝をっ。本当に助かりました、ありがとうございますm(__)m
では恒例のコメントレスをば…。
>お,ラインアーク来ましたか.やりたい放題してくれるのを待ってます.
>真改とやり合ったあたりで、企業連ルートと踏んでいたが……。今後の展開を楽しみにしてます。
>ラインアークルートか…この先の展開が楽しみだな。レックス君が一体どんな奇策をめぐらせたのかも、気になるところだ。策謀家であるメルツェルをして面倒だといわせる相手なわけだし。
ご、ご期待に添える展開に出来るか凄く不安ですが(つじつまとか)、細かいことは気にせず突っ走っていこうと思います><
>てか、カーパルス戦はあの高機動型の二人な訳だが、大丈夫なんだろうか?主にアルテリア施設が(爆風的な意味で
無駄撃ちを前よりしなくなりましたので安全度が上がりました。あ、でも使ってたのがOIGAMIだから……(滝汗
>ラインアークルート一番乗りオメ!そして次回ダリオの活躍は果たして見られるだろうか
残念ながらダリオの出番はありませんでした。でも一応生きてます。出番も後一回あります。ここだけの話(ぉ
以上、コメント返信でした。
指摘突っ込み感想その他、今後ともよろしくお願いします。
ちなみにトーティエントとPQのHARDで出現する二名は…後の方で本編登場の予定だったり。どのような形で参戦するかは、お楽しみということで一つ。
それでは今回はここまで。お付き合いいただきありがとうございました~(・▽・)ノシ
7/27追記
先の展開考えているうちに出す余地がないと気が付いて、作者コメ修正。
勢いとノリとその場の思いつきで書いた結果です、ごめんなさいorz