Written by えむ
ギアトンネル。
複数の大型トンネルが交わり、輸送ルートの要所ともいえるその場所を占拠している部隊の指揮官には、この場所をそう簡単には奪還されないと言う絶対的な自信があった。
大型レーザー砲であるプロキオン。方向が限定され、さらに回避スペースもほとんどないトンネルと言う環境内において、それなりの射程をもつプロキオンの砲撃を回避するのは、相当に難しい。
もちろん複雑なトンネル構造をしている以上、迂回路と言うものは存在する。プロキオンとは言え、背後を突かれれば一巻の終わり。だが、迂回路を使われることも想定してアクアビット製の大型兵器を配置してある。そして狭い通路にはブレードやグレネード装備のノーマルを配置。
布陣としては、ほぼ完璧。そう思っていた。襲撃されるまでは。
状況に気がついたのは、プロキオンの一機がいきなり攻撃を受け、大破した時だった。だが周囲に敵の姿はない。迂回路となるトンネルや脇道に配備した部下からも一切報告がない。
そうこうしているうちに、さらにもう一機のプロキオンが被弾。反撃することもできぬままに破壊される。
姿を見せない敵に、焦燥感が募る。だが場所が場所だ。攻撃のルートは限定されているはずだ。
「まさか、長距離攻撃か…?!」
プロキオンの射程外からの攻撃。この状況に置いて、もはやそれ以外に方法は浮かばない。
すぐさま、ノーマル部隊を狙撃地点と思われる場所へと急行させるが…、メインルートに出れば狙撃により撃破される。それならばと迂回路を使って襲撃を試みるが、迂回路に入ったところでグレネードを叩き込まれ、近づくことすらままならない。
思いつく対応を全て潰されてしまい、打つ手はなくなっていた。そうこうしているうちに、プロキオンが一つ。また一つと撃破されていく。現場の司令官は、その様子を、自分の部隊がやられていくさまを眺めることしかできなかった。
「こういう場所での戦闘は楽でいいな。一方向に注意を払えばいいし」
最後のプロキオンの撃破を確認し、レックスはスナイパーキャノン2門を装備したフォートネクストの中で大きく背を伸ばした。
『狙撃も出来るのか。とことん多芸な奴だ』
「まぁ、狙撃に関しては足を止めないと当てれる自信はないけどね」
『それでもだ。普通は、特徴があまりに違う武器に切り替えても、すぐには対応できないものなんだぞ?』
「わかってるって。でも、そこが僕の売りの一つだからさ」
『それもそうか。とりあえずミッションは完了だ。戻って来い』
「了解した」
トーラスの基地に帰還後。
スタッフの一人がプロキオン排除の依頼を出した事情を話してくれた。なんでも改修中のランドクラブに搭載する予定の新兵器のパーツを輸送するため、どうしてもギアトンネルが必要だったらしい。
空路を使うと言う手も考えはしたのだが、完成するまで人目に見られたくない。と言う理由で却下されたのだとか。
レックスもセレンも自分にはあまり関係ない話だと思って、この時はそこまで気にはしなかったが――――。後日、気にしないわけにいかなくなるのは、ここだけの話である。
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さて、話は戻って数日後。今度は対AF戦の依頼がレックスの元へと飛び込んできた。
相手はインテリオルの新型AFスティグロ。届いたメールには、スティグロに関してのおおまかな情報が添付されている。
「…なんか、最近急に依頼が増えた気がするんだけど」
「それだけ、お前がリンクスとして認められてきたということだ。すでにスピリット オブ マザーウィルに始まり、ネクストも3機撃破しているのだからな」
「…それもそっか」
資料に目を通しながら、納得した様子で頷くレックス。実際、セレンの言うとおり。ここ最近になって、レックスに対する企業の評価は大きく上がっていた。依頼の頻度が増えるのも当然のことである。
「スティグロ…。高速型のAFか」
「前面に大型のブレードを展開して突撃。と言うのが戦法らしい。わかりやすいといえばわかりやすいが、このサイズのレーザーブレードとなれば、当たればひとたまりもないだろう」
「でも、超大型のブレード以外にはミサイルしか積んでないのか。スティグロの速度的に考えればけん制用ってところか?」
「恐らくはな。しかしこいつの速度は半端じゃない。振り切られると大変だぞ、特にお前の機体だと」
スティグロのスペックデータを見てみれば、その最高速度は余裕でフォートネクストを上回っている。オーバードブーストを使っても、たぶん追いつけはしないだろう。
「ヒットアンドアウェイってことか。……一度振り切られると不利。じゃあ、振り切られる前に片をつけるのが一番だな」
「それは確かに一つの手だが…。できるのか?」
「たぶん、いけるんじゃないかな。相手は突撃型。しかもでかい。良い的じゃないか」
「確かにそうだろうが…。火力と手数を両立させなければ、恐らく止められないぞ」
「わかってる。と言うわけで、コレにしようかと思うんだよ」
レックスが装備一覧の中から、選んだ装備を見せる。それはテクノクラート製の5連装ロケット砲CP‐51だった。
その数日後。フォートネクストとスティグロが交戦し、スティグロを撃破されたとの報告を受けたインテリオルの役員一同は騒然となった。
仮にもネクストが相手だ。AFとは言え、やられてしまったも何もおかしくない。だが問題は、その撃破にいたる経緯であった。
スティグロに搭載されていた外部カメラの映像が、役員室のモニターへと映される。
高速で移動する先、そこに半分水没したビル郡が見える。そのビルの屋上に、ぽつんと一機のネクスト。
おもむろにフレアが打ち上げられる。そして、間髪いれずに大量のロケット弾が飛来、被弾によって映像が揺れながらも、前進による接近によってネクストの姿も大きくなってくる。が、そこまで。フォートネクストの姿が画面いっぱいに映ったところで画像が途絶えた。映像時間約7秒。秒殺である。
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ネクストがスティグロを一歩も動かず秒殺した。その知らせはインテリオルだけでなく、各企業にも伝わっていた。この知らせを受け、海上戦力を持つ企業の艦船ほとんどに、ネクスト用の多連装ロケットが搭載されることなったのは言うまでもない。
だが動かずに秒殺されたことに衝撃を受けたインテリオルが、スティグロを強化。ブレードに光波を撃ち出す機構を組み込んだために、結局は以前と何も変わらず蹂躙されるはめになったりするのだが、それもまた別の話だ。
ともかく、その知らせは各企業にも伝わり、当然BFFの王小龍の耳にも入ることとなった。
「…ほぉ」
その一部始終を聞き、王小龍は口元に笑みを浮かべた。
以前から、レックス・アールグレイと言うリンクスを、密かに注目はしていたが。ここに来て、大方自分が予想していたリンクスであることがはっきりしてきていた。
今回の一件だけでも、そうだ。スティグロは高速性能を重視した設計となっているため、AFの中では装甲は薄い。そして動きこそ早いが、突撃が主体である以上。動きも読みやすい。足止めて狙うのなら、ノーロックでも当てるのは難しくはない。
またCP-51のロケット単発の威力はそれなりだが、5発全弾命中すればその威力はグレネードキャノンに匹敵。さらに連射性能はグレネードキャノンとは比較にもならない速さだ。それを2つ同時起動で叩き込むわけだから、その総火力は見た目に反して壮絶なのだ。AFとは言え、ただではすまない。
それらを考慮に入れれば、ロケット砲の使用は実に理にかなったものと言える。最も、あんなにあっさり撃破できるとは本人も予想外だっただろうが。
他にも注目すべき点はある。アルゼブラのイルビス・オーンスタイン。そして、協働ミッションではあったがリッチランドを占拠していた不明ネクストの撃破。さらに非公式ながら、別の不明ネクストの襲撃をボロボロの状態ながらも退けたと言う情報もある。しかも三つ目の戦闘は、タンク機にとって、一番相性が悪いブレード主体の高速機相手。
カラード経由で得た戦闘記録によれば、全て奇策を用いての勝利ではあるが、その奇策が全て成功に終わっていると言う点も評価としては大きい。
レックス・アールグレイと言うリンクス。恐らく、経験もさることながら情報分析にも長けているのだろう。そうでなければ、罠に嵌めることなど…そうそう出来るものではない。「敵を知り己れを知らば、百戦して危うからず」 古い時代の格言ではあるが、まさにこれを体現していると言っても過言ではない。
ほぼ予想通りのリンクスだ。今までに見ないタイプの。だが、どうせならその予想を確かなものとするために、手を打っておきたい。
「…………」
思考を巡らせる。そして、王小龍はデスクの上に置かれた受話器を手にとった。
「私だ。オーダーマッチを開きたい。あぁ、そうだ。リリウムのな。相手は―――」
To be continue……
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☆作者の一言コーナー☆
ちょっとお久しぶりです。えむです。
スティグロ動かず撃破。適当にアセン組んで試した結果です。攻撃開始が遅れるとちょっと怖い&失敗したら轢かれます。興味のある方はぜひお試しあれ。
次回はオーダーマッチ。そしてみんなのアイドル(?)リリウムさん登場。
さて、レックスはどう立ち回るか…。お楽しみに~。
○コメント返信コーナー
では予告通り、コメント返信といってみましょう。
>カニス先輩がとてもいい人だ。
>ACwikiでのカニスは「頼れる兄貴キャラ」ポジションが確定しつつあるなwいつも“考えて”戦うレックスが素晴らしい…
>カニスがとっさにコジブレを使えるとは・・・ 最近のSSのカニスは「報酬分くらいは働いたぜ」のイメージが本当にない、いい先輩だな
>最近カニスの能力値がずいぶん上がってきてるな…個人的にカニスは好きなキャラなのでGJです。
本当に良い人だと思います。ゲーム中では、結構お世話になりましたし…。
こうなった背景には、たぶん別の方の小説の影響が大きいと思います。そして、書き始めたきっかけでもあると言う…。
>パージした武器を使わせる事に関しては作者さんが後悔してないのであればいいのではないかなーと。
今後も後悔せず突き進みたいと思います。
>いつも“考えて”戦うレックスが素晴らしい…
”考えて”戦う。そこを褒めていただいてありがとうございます。何気に今作のテーマだったりするんです、これが。
>話してみれば予想に反して、とっつきやすい男だったのである>とっきやすい男・・・だと?
>↑興>それはつまり…干>我々の出番という事か!
>↑2 そのとっつきじゃねぇだろwww
とっつきやすい男の後に続いたコメントを見て、初めて把握した自分…。
とりあえずお二方は、お帰りくださいw
>展開として面白い・・・が気になる点が一つ。コジマブレードって「手に持つ」武装じゃなくって「腕にくっつける」武装ですよね。それを装備するには 突ライとレザライ置いて右手で左手にコジブレくっつけて突ライ拾って・・・ という流れになってラスター18が見逃すとは思えないんですが。コメ返信するというのでお手数でなければそのあたり詳しく聞いてみたいです。次回も楽しみにしていますね。
意外と一つのことに集中すると、見えているようで他のことは見えてないことがあるものです。コジマブレードを外した時点では、ラスター18は背中を向けたまま。その直後に背後から再強襲されて対応してますが、回避後は通り越したフォートネクストに注目しています。その状況で、カニスの動きこそレーダーで見ていたかもしれませんが、細かい行動にまで注意を割いていなかった、と言うのが理由です。脅威として見ていなかった、と言ってもいいかもしれません。
説明としてはこんなところですが、どうでしょう?(汗
>各種誤字報告
毎度毎度お世話になっております。油断大敵って、まさにこのことですね…ors
以上、コメント返信でした。
色々なコメントありがとうございました。今後も、これを糧にがんばって生きたいと思いますっ。
では、また~。(・▽・)ノシ