小説/長編

Written by えむ


 アルゼブラから、リッチランドを占拠した不明ネクストの撃破依頼が届いた。アルゼブラのトップリンクスとも言えるイルビス・オーンスタインを撃破したにも関わらず、そのような依頼が来る辺り、相当事態は切迫していたのだろう。
 まぁ、どこかを贔屓するつもりのないレックス達は、当然断ることもなく承諾。協働相手の提示も出ていたので、顔見知りになっていたカニスに頼むことにした。
 そしてミッション当日。打ち合わせをするため、レックス達と合流したカニスが見たのは、格納庫の隅っこで膝を抱いてうずくまっているレックスの姿だった。

「なぁ、オペ子さんよ。レックスの奴どうしたんだぁ?」
「あぁ、お前も聞いているとは思うが。前回のミッション終了後、謎のネクストと遭遇戦になったのは知っているな? その時に、NUKABIRAを二つとも失くしてきたらしくてな。今回のミッションに持っていく装備を選ぶ際に、それに気づいてから…。ずっと、あの調子なんだ。あとオペ子と呼ぶな」
「んあ? いいじゃねぇか。固いこと言うなって」

 セレンが睨みつけるも、さらりと受け流すカニス。

「……。さしあたって、あいつはミッション開始までには元に戻るそうだろうから、気にしなくていい」
「そうなのか? じゃ、気にしねぇわ。んで、俺はどうしたらいいんだ?」
「あぁ、そのことだが…」

 とりあえずは打ち合わせ。凹む直前にレックスと相談していたプランをカニスへと告げる。
 と言っても内容は実にシンプル。サベージビーストが前衛、フォートネクストが後衛。前衛が敵をかく乱し、その隙に後衛が叩くというもの。もちろん前衛でかく乱役だからと言って遠慮する必要はない。攻撃もどんどんしてしまって構わないと言う、そんな感じだ。
 
「わかりやすくていいじゃねぇか。何、俺がついてるんだ。大船に乗ったつもりでいな」

 そう言って、笑いながらカニスはサベージビーストのほうへと歩いていく。
 あの自信はどこからくるのだろうか。カニスの後姿を眺めながら、セレンは思う。
 カラードからは、依頼を選り好みするビッグマウスと低い評価だが、実際に協働したことのあるリンクスの大半はそれを否定する。確か大口は叩くし、任務も選り好みするが、実力が確かなのも事実である。
 ここだけの話。セレンも最初はカニスの噂しか知らなかったため、第一印象は良くなかった。だがレックスの言うとおり、話してみれば予想に反して、とっつきやすい男だったのである。個性は強いが性格は悪くはない。それが今の印象だ。

「……そろそろ時間か。レックス、いつまで凹んでる。いい加減、戻って来いっ!!」
「うぅぅぅ。NUKABIRA…」

 セレンに怒鳴られ、すっかり元気をなくしたまま立ち上がるレックス。そのままフラフラとフォートネクストへと歩いていく。
 そんなフォートネクストの今回の装備はOGOTO2本差しに、ガトリングガンのGAN01-SS-WGP 2本と言う、至ってスタンダードなもの――と思いきや、格納にも一つ。本人曰く「切り札」が仕込まれているのだった。

□ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □

『ミッションを開始する』

 輸送機下部ハッチが開放。ロックが解除され、フォートネクストとサベージビーストの2機が降下を開始する。
 着地の瞬間ブーストを一瞬吹かせ静かに下りる。

『グレネード二本差しのタンク機。そうか、貴様が手負いの状態で真改を退けたと言うリンクスか』
「……!?」

 すぐに戦闘に入ろうとしたところで向こうから通信が入ってきた。

『AFにも飽きていたところだ。さぁ、楽しませて―――』
『おい、ちょっと待てよ』

 おもむろに、カニスが会話に割り込む。

『俺に関しては何かねぇのか? こうなんと言うか、カッコイイ通り名で知られてるとかっ』
『知らんな』
『………』

 沈黙。相手は何も気にしてはいないだろうが、なぜかレックスは気まずく感じてしまった。
 ほんの数秒の沈黙であったが、その静寂を破ったのは誰でもなくカニスだ。
 
『だったら、俺の最強っぷりを見せてやろうじゃねぇか。サベージビースト、いくぜっ!!マッハで蜂の巣にしてやんよ!!』
『面白い。せいぜい、楽しませてもらおうか!!AFとは違うネクスト同士の戦闘だからな!!』

 サベージビーストがオーバードブーストを起動。それに気づいたレックスも、機体を前へと出す。だがこちらはオーバードブーストは使わない。一部例外を除いて回避は苦手なのだ。PAは温存したい。
 接近を開始するこちらに対し、敵ネクストはその場から動かない。ミサイルとバズーカを構え、迎え撃つつもりのようだ。
 高速でかっとんでいったサベージビーストが先に接敵する。距離を詰め、突撃ライフルとPMミサイルによるXトリガー。それに対し敵ネクストは、多少の被弾は気にも留めず、クイックブーストで前へ。サベージビーストの真下を潜り抜け、振り向きざまにバズーカを放つ。

『うぉ、あぶねっ?!』

 背後からの攻撃。だが、すんでのところでサベージビーストがそれをかわし、すばやく機体の向きを変え、突撃ライフルをさらに連射。それを見たレックスも、背中のOGOTOを展開・砲撃する。
 直撃、爆発。防御能力の高い重二脚型とは言え、PAを削られたところにグレネード二発を受ければ、ただでは済まないはず。
 そう思ったレックスであったが、その直後―――爆炎をかいくぐって飛来したプラズマ弾がフォートネクストに直撃した。

「ぐっ!?」
『ってぇっ!?』

 同じタイミングでカニスの声も通信越しに響く。どうやら向こうも被弾したようだ。
 追い討ちを避けるため、すぐさまフォートネクストをその場から退避させるレックス。同じく、敵ネクストから一度距離をあけるサベージビーストの姿がカメラに映る。
 その両者の間に挟まれて、バズーカをサベージビースト、プラズマライフルをフォートネクストへと向け、両腕を大きく広げた敵ネクストの姿があった。爆炎の中、正反対の位置にいる二機をカウンター撃ちで同時に狙ったのだ。

『その程度か…? だったら期待はずれもいいところだなっ』
『はっ、言ってくれるじゃねぇかっ』

 相手の挑発に、カニスが反応する。
 だが挑発に乗っているようでサベージビーストの動きに変化はない。感情に走った動きではなく、これまでと全く変わらない動きだ。
 サベージビーストが距離を保ちながら、レーザーライフルと突撃ライフルで攻撃を行い、レックスもガトリングガンの弾幕でそれを援護する。敵ネクストは、それらの攻撃を連続クイックブーストで機体を左右に振りながら、回避。避けきれない攻撃もあるが、その攻撃のほとんどは分厚いPAによって弾かれてしまう。
 ―――硬い。
 PAのせいなのだろうが、無駄に硬い。それでいて装備の大半は単発の火力武器。

「(あれでタンクだったら最高なんだがな…)」

 こんな状況ながら、思わずそんな事を考えてしまうレックス。
 だが、このままではまずいのは、目に見えて明らかだった。相手の機体構成は主にGAフレーム。実弾系の攻撃に対しては耐性があるが、逆にレーザー兵器には弱い。相手も、それはしっかりと理解しているのだろう。常にレーザーライフルを警戒し、確実にそれだけは回避している。しかし、だからと言って、こちらへの警戒がお留守かと言えばそうでもない。
 攻撃をすればしっかり回避するし、チャンスがあれば確実に攻撃を仕掛けてくる。しかも、バズーカではなく、プラズマライフルの方を。
 エネルギー防御が低いGAフレームとは言え頑丈には変わりないので、そう簡単に沈みはしないが、それでも何度ももらいたいものではない。
 2対1と言う状況ながら、流れは少しずつだが向こうへと傾いているのを、レックスは直感的に察していた。
 こちらの攻撃は避けられ、耐え切られる。それに対し、相手は無駄弾は撃たず、一発一発を大事にしているのがわかる。回避能力の高いサベージビーストは、まだ大丈夫だろうが…。フォートネクストはそうもいかない。攻撃の頻度こそ高くはないものの、このままだと自分が先に落とされかねない。
 ネックはPAの厚さだ。重量型とは言え、PAが異常に厚い。グレネードキャノンをダブルで当ててもダメージが軽いのが良い証拠だ。。
 あのPAを何とかしない限り、このままでは確実に負けるだろう。サベージビーストも相当な数の攻撃をしている。残弾もそろそろ危ないはずだ。

「重量級相手だし、そう思って持ってきてみたけど、正解だったかな」

 格納に入れてある「切り札」を思い出す。それを使えば、いくら分厚いPAとは言え、剥ぎ取る事はできるだろう。問題は、どうやって当てるか…だが。
 しばし考える。―――閃いた。すぐにカニスへと通信する。

「カニス。返事はしないで良いから、聞いてくれ」

 サベージビーストは今もフェラムソリドスに取り付いている。集中を割かないため、返事は待たずに自分のプランを説明していく。
 そして説明が終わったところで、ただ一言カニスから返事があった。

『ま、大船に乗ったつもりでいなって』






「何か仕掛けてくるな…」

 敵ネクスト――フェラムソリドスのリンクスであるラスター18はフォートネクストの僅かな挙動から、それを察した。ほんの僅かだが攻撃の頻度が下がった。恐らく、別の何かに思考を割いているせいだろう。
 真改との戦闘記録から、フォートネクストは奇想天外な手を使ってくることがわかっている。真改との戦闘の命運を分けたのも、それによるものだ。だが、そういった手を使ってくる相手だと知っているのなら、心構えが出来る。
 奇策は、いかに相手の意表をつくかに限る。逆を言えば、冷静さを失わなければ、かなりの確率で対処できる攻撃でもある。
 おもむろに、フォートネクストがオーバードブーストを起動。強引にフェラムソリドスへと突撃を仕掛けてくる。すぐに機体を翻し、プラズマライフルとバズーカを連続で撃つも止まる気配は見せない。被弾も気にせず距離を詰めてくる。
 その動きを見て、ラスター18は不敵な笑みを浮かべた。

「そういうことか…!!」

 一人が動かすネクストだからこそ、その動きなどから感情を読み取ることができる。そして、そこから相手が何をしようとするのがわかる。
 恐らく近接兵装を使うつもりなのだろう。相手はタンク機ゆえに格納機能に優れている。となれば、タンク以外の機体でも格納できる装備は入れている可能性は低い。さらに、ここまでの戦闘から、こちらのPAが厚いことは気づいているはず。それでも挑んでくると言うことは、このPAを剥がせるほどの装備があるということだ。
 そこから推測できるのは、コジマブレード。接敵ギリギリで格納から取り出して使用するつもりなのだろう。

「いいぞ。お前の感情が見えるぞ。やはりデカイだけの鉄屑とは違う。戦場はこうでなくてはな!」

 さらに近づいたところで、フォートネクストが両腕のガトリングガンをパージ。格納から現れたコジマブレードを両腕に装備する。
 まさか二つもとは思わなかった。だが驚くには値しない。冷静に回避行動に移る。オーバードブーストで急な動きは出来ない。絶妙なタイミングでクイックブーストを吹かし、横へと避ける。コジマブレードを空振り、そのまま通り過ぎていく…と思いきや。

「…っ!?」

 フォートネクストはオーバードブースト状態でクイックターンをかけ、強引に再度の突撃を仕掛けてきた。
 これはラスター18自身も予想はしていなかった。確かに奇策。だが心構えが出来ているラスター18はその不意打ちにも、自分を見失わず冷静に対処する。再びクイックブーストで回避。そしてクイックターン。
 その先では、オーバードブーストを使い切って失速するフォートネクストの姿があった。

「最後の詰めがあまかったな」

 タンクで強引ながらも軽量機ばりの機動を取って、再度攻撃をしてきたのは賞賛に値する。実際、心構えの出来ていた自分ですら一瞬焦ったほどだ。だが、オーバードブーストのせいで、PAは完全に剥がれている。ネクストとの戦闘に置いてPAを完全に失うことがどれだけ危険なことかはわかっているだろうに。
 もちろん、ネクスト戦のセオリーとして、そのチャンスを逃しはしない。バズーカとプラズマライフルを向ける。FCSがロックを完了。そして引き金を引こうとしたところで、気づいた。
 最初の突撃で奴は両腕にコジマブレードを装備していたはず。だが、今は右手だけ。では残るもう一つはどうした…?
 思考が一瞬止まる。その直後――――

『もらったぜぇっ!!』
「ぐうぅっ!?」

 カニスの勢いある掛け声と共に背後から凄まじい衝撃が走った。同時にフェラムソリドスのカメラが真っ白に染まり、PAの状態をあらわすゲージが一気になくなる。そして、機体損傷率も一気に上昇。
 何も見えない状態のまま機体を翻す。
 そしてカメラが復旧したところで映ったのは、レーザーライフルの代わりにコジマブレードを装備していたサベージビーストの姿だった。それを見て、悟る。
 最初の突撃を回避した後、片方をパージ。そして再突撃を仕掛けることで、自分に注意を引く。オーバードブーストでPAを完全に消したのも相手の策。対ネクスト戦に置いて、PAが完全に消えた状態と言うのは絶好の攻撃のチャンスであり、そのチャンスを逃すリンクスはまずいない。そのセオリーを逆手にとって、自分を囮とする。その間に、サベージビーストがコジマブレードを回収し、それを持ってフォートネクストに注意が向いている隙を突く。
 サベージビーストの突撃ライフルとASミサイルが向けられる。PAが完全に消え、しかもこの距離。重量機である以上…回避は困難。もはや、ここまでか。
 
「…雌伏のうちに果てるとは…これも戦場を甘く見た報いか…」

 戦いと言うのは、何が起こるかわからない。ただ、それだけのことだ。

「…だが、悔いはない」

 そう呟き目を閉じる。
 フェラムソリドスは突撃ライフルとASミサイルを近距離で叩き込まれ、沈黙する。そして、リッチランド農業プラントにおける不明ネクストの撃破が確認された。






『なんとかなったようだな。だが、毎回こんなでは、私は心労がたたりそうなんだが』
「このくらいでどうにかなるようなセレンでも―――いや、なんでもない」

 うっすらと背筋が寒くなるのを感じ、レックスは一度口を閉ざす。

「ま、まぁ…結果オーライってことで」
『……そういうことにしておこうか』

 背後での爆発音を聞きながら、レックスはフォートネクストの中で、ぐったりとしていた。極度の緊張と、オーバードブースト中のクイックターンと言う無茶苦茶な機動を取った反動である。
 一歩間違えれば、落ちていたのは自分だった。PAを完全に失った状態で相手に背中を向けたのだ。正直、生きた心地すらしなかったほどだ。
 ギリギリのタイミングで決めてくれたカニスには、感謝の言葉しかない。

「カニス、ありがとう。策に乗ってくれてさ」
『なーに気にするこたぁねぇよ。良い先輩ってのはな、後輩の頼みでも聞く時は聞くんだぜ?』
「じゃあ、僕は良い先輩に恵まれたわけか」
『そういうこった。よくわかってるじゃねぇか』

 カニスの陽気な笑い声が響き、つられて笑みが浮かぶ。
 何はともあれ、ミッションは完了だ。後は基地に帰還するだけ。
 レックスは再びフォートネクストを立ち上げると、サベージビーストと並んでリッチランド農業プランを後にするのであった。

 To be countine……


now:23
today:1
yesterday:3
total:3200


移設元コメント


☆作者の一言コーナー☆
 前の話で誤字報告がなくて大喜びの、えむです。
 って書くと、きっと誤字報告来るんだろうな…(=▽=;)

 それはさておき、不明ネクスト撃破。
 パージした装備を他の機体に使わせるとか…。まぁ規格は一緒なんだし、格納から出した装備を簡単に装備できるくらいだから、違う機体に渡すというのもありかなと…。
 例によって今回も後悔はしてません。

 しかし今回は戦闘中、セレンさんが完全空気にorz
 コレは今後の課題と思っておきます…。

 あと次回、試しに今回のについたコメント返信をしてみたいと思います。
 理由は特にない。ただなんとなくそんな気分になっただけですので…。

 では、今回はこのあたりで。
 ここまでお付き合いいただきありがとうございました(・▽・)ノシ


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