Written by えむ
「うーむ……」
彼女、セレン・ヘイズは悩んでいた。その理由は言うまでもない。自分が面倒を見ているレックスのことである。
先日BFFのフラグシップであるスピリット オブ マザーウィルを撃破したことで、レックスのリンクスとしての評価はそれなりに上がった。BFFを含んでいるGAグループの風当たりが強くなることも懸念したが、予想に反してそれもなかったのは幸いだったと言えよう。
結果、対ノーマル、対AFに関しては、重ね重ねそれなりの評価を得たレックスだったが、対ネクストに関しては致命的であることを忘れるわけにはいかなかった。
シミュレーションを何度も重ね訓練を続けているが、やはりネクストのクイックブースト機動に追従できていない。通常機動限定だと、ネクスト相手でも善戦するのだが。今後を考えるのなら、ほぼ間違いなく対ネクスト戦の対策を練る必要がある。
ただセレンは、やっぱり悩んでいた。タンク型とそれ以外の機体とは、勝手が大きく違っており、それゆえに有効な対策を見出せずにいるのである。
彼女が今見ているモニター。そこでは、ネクスト戦の練習のために組んだオーダーマッチが行われていた。
相手はランク29。ミセス・テレジアの駆るカリオン。四脚型なら、二脚型よりはタンクに近いから、何か得る物があるかもしれないと踏んで依頼を出してみたところだ。
もちろん戦闘の様子は細かく書くまでもない。例外なく当たらない、よけれない。ボッコボッコである。
そうこうしているうちに、フォートネクストがバズーカを食らい、時間差で飛んできたコジマミサイルによって吹き飛ばされた。APが限界を迎え、そこでシミュレーションは終了となった。
AMS適正が高くないのもあって、連戦による疲労からシミュレーターから出てくるなり、「ちょっと休憩室行ってくるよ…」とふらふら歩いていくレックスを尻目に、もう一つのシミュレーターのほうから出てくるミセス・テレジアへと、セレンは近づく。
ミセス・テレジア。年齢的には結構いってるはずなのだが、傍目には30代にしか見えないと言う謎の人物である。ちなみに彼女に年齢の話題はNGで、それに触れる=地獄を見る、というのはカラード内で密かにささやかれている噂である。一説によれば、コジマ漬けにされるとかされないとか。
「協力に感謝する。参考までに聞きたいのだが…。どうだろうか?」
「今のままじゃ駄目ね」
熟練のリンクスとしての意見。それを求めたところ帰ってきたのは、だいたい予想してた通りの意見だった。ここまでは。
「だけど筋は悪くないと、私は思う。確かに動きについて来れてはいなかったっぽいけど、こちらの動きは追えてたみたいだしねぇ」
「…なんだと…? 本当なのか、それは」
「ん? オペレーターなのに気づいてなかったの? …いや、気づかないのも当然か。あんな機体だものねぇ」
そう言って視線を向けるのはシミュレーターの状態をチェックするモニター。そこにはフォートネクストと同じアセンの機体が映っている。リンクスの反応が上がっていたとしても、それが明確に出てくるような機体では決してない。
「意外と動きの軽い機体なら、良い線行くんじゃないかしら」
「だが、あいつはなんというか…。タンク大好き人間でな。他の機体も乗れなくはないが、嫌だと言って聞かないんだ」
重装甲型にするなら、重二脚でもいいんじゃないか?そう言ってみたら拒否されて、タンクのよさを延々2時間に渡って講演されたのは、良い思い出(?)である。
「なるほど。じゃあ、あれでがんばるしかないわね。でも、そう悲嘆することもないんじゃない? 私の見た限り、あれは間違いなく磨けば光る」
「…そうか。それがわかっただけでも充分だよ。改めて、感謝する」
「私も暇だったし。それじゃあ、これで失礼させてもらうわ」
そう言って、のんびりとその場から立ち去っていくミセス・テレジア。その後姿を眺めつつ、セレンは次をどうするか考えはじめるのであった。
□ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □
さて、セレンがミセス・テレジアと話していた頃。
レックスは休憩室でグロッキーになっていた。置いてあるソファーに腰掛け、背もたれにグテ~っと寄りかかって、「あ゛~~~…」などと、ゾンビっぽい呻き声を出しつつ、目を閉じてボーっとしていたりする。
まぁ、当然だろう。AMS適正は高くないのに、長時間にわたって訓練をして、その後に続けてオーダーマッチまでしたのだから。むしろ、それだけ長時間繋いでおきながら、この程度で済むほうが驚きである。
半分ボーっとしつつも、レックスはレックスで今回の戦闘を振り返っていた。例によって惨敗。敗因はやはり攻撃を当てれないことに起因する。回避は、まぁ専念すればなんとかなるだけマシだろう。だが攻めなければ勝てないのも事実だ。
「もう一工夫しないと無理だろうなぁ…」
ここだけの話、相手の動き――クイックブーストの機動は、目では追えるようにはなっている。原因は、だいぶ前にセレンによって実行された「超高速仕様ソブレロによる高機動耐久コース」。
あれを経てから、動体視力が馬鹿みたいに上がったのである。反応速度は低いので、現状では生かせてないが…。うまく活用できれば、レベルアップできるはず。その確信だけはあった。
あとは、それをどう活用できるか…が問題なわけだが。
そんなことをぼんやり、レックスが考えていると、不意に目の前が陰ったような気がした。なんだろうと思って、目を開けてみると、そこには一人の若い女が覗き込んでいた。
「………え?」
その人物は知らない顔ではない。最も、久しぶりに見た顔ではあったが。
何で、こんなところに…?と思う間もなく、その若い女はニッコリと笑顔を浮かべる。それは女神のように屈託のない笑みだった。あまりにもまぶしすぎて、恐怖を感じるくらいに。
「……え、えーと…。ひ、久しぶり…だな」
「うん、久しぶり。そして何も言わずいなくなって、心配かけた罰。覚悟しろ」
「うお!? …ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
レックスの顔を片手でわし掴み、そのまま締め上げる。
アイアンクロー。正式名称はブレーン・クローとも呼ばれる、握力があると脳を損傷する程の大怪我をすることもある恐ろしい技である。もちろん、手加減はしているので、そこまでは至らないが。
さて、一しきり締め上げられてから、レックスはなんとかアイアンクローから解放された。ただ、あまりのダメージに再びぐったりとなってしまったが。
「知らなかったよ。リンクスになったなんて」
そして、次に出てきた第一声がそれだった。先ほどとは違う、本気で心配している声。
「なんでまた急にリンクスになろうと思ったんだよ。せめて一言言ってくれれば良かったのに」
「だって…言ったら反対するじゃないか」
「そりゃあ、そうだよ。ノーマルとネクストは全然違うんだから」
「知ってる。それはつくづく思い知った。だけど先に言っておくぞ。やめる気はないからな」
「むぅ…」
そう言ってレックスの隣で、ふくれっ面で黙り込む。知っている仲だからわかるのだ。こうなったら絶対に曲げることはしないと。昔から、そうだったし。
「わかったよ。ボクは止めない。でも、一つ聞かせてよ。なんでリンクスになったの?」
「う…それは――――」
「それは?」
言葉に詰まったレックスを、真っ直ぐに見つめてくる瞳。理由が理由なだけに、素直に言うことが出来ず、レックスはスッ…と視線を逸らす。
「あ、こらっ!!目を逸らすな!! さては何か隠してるなっ!? 言わないと、今度は―――」
「待て!!落ち着け!!と言うか、今やられたらマジで死ぬからっ!!」
じりじりと距離を詰めてくるのを見て、あわてて後ずさるレックス。互いに睨み合い対峙するさまは、まるでハブとマングースの如く。
そして、ちょうとそこへ。ミセス・テレジアとの話を終えたセレンがやってくる。
「…何をやってるんだ。お前は…」
「あ…いや、なんと言うか…。久しぶりに知人と会ったと言うか…」
「…? この人誰?」
「あ、あぁ紹介する。セレン・ヘイズ。僕がリンクスになる時に色々世話になって、今はオペレーターもやってくれてる人だ」
「ふぅん…。あ、レックスがお世話になってます。初めまして、ネリスと言います。フルネームは、フランソワ・ネリス。以後、よろしく」
レックスがセレンを紹介し、それに伴って自己紹介にて答える。その名前を聞いたセレンがわずかに眉をひそめた。
フランソワ・ネリス。その名前はセレンもよく知っている。ランク23のリンクス。だが、彼女はどちらかと言うとリンクスとしてより、もう一つの顔の方が有名だ。
コルセール。現在ネクストを唯一保有する独立傭兵部隊であり、同様の他の傭兵部隊と違い、まともな部類に上げられるグループだ。
「フランソワ・ネリス…? ランク23のリンクスで、あのコルセールの? …ぶしつけで悪いが、レックスとはどういう関係だ…?」
「レックスは元々うちの所属で、副長だったんだよ」
「…なに…?」
元コルセール。しかも副長。さすがにこれには驚きを隠せないセレンだった。それに対し、レックスは思いっきり視線を逸らしていたりする。こめかみに脂汗を浮かべつつ。
「そうなのか?」
「ま、まぁ。一応…」
「意外だったな。まさか、そういう経歴があったとは」
「…まぁ聞かれなかったしな」
「確かにそうだな」
そう答え、苦笑を浮かべるセレン。お互い余計な過去の詮索はしないと言う暗黙のルールを敷いてきたのだ。今まで知らなかったからと言って、どうということはない。
「ところで、セレンさんだっけ? 唐突に聞くけど、レックスはリンクスとしてどうなのかな? あのスピリット オブ マザーウィルを落としたくらいだから、結構すごいとは思ってるんだけど」
「ノーマルとAF相手には、まぁいける。だが対ネクスト戦がからっきしでな。現在対策を練っているところだ」
「ネクスト相手には、からっきし…」
「あぁ、からっきし駄目だ。相手の動きに対し、攻撃すら碌に当てれない。贅沢を言えば、ネクストの長所を生かせてないのも問題なんだがな。まぁ…タンク型にそこまで求めはしないがな」
「…ふぅん」
短くそうとだけ答え、ネリスはレックスの方へと視線を向ける。
「で、どうするの?」
「特訓あるのみ…だな」
「じゃあ、セレンさん。その特訓、ボクも協力していいかな?」
「ん…? いいのか?」
「構わないよ。しばらくは仕事もないしね。それに同じタンク乗りだから、アドバイスも出来ると思うし。何より、ボクもレックスに死なれちゃ困るしね」
「そうか。それは助かる。ぜひとも頼もう」
ネリスの申し出を、あっさり承諾するセレン。その傍らでは完全においていかれたレックスが一人呆然としている。
だが色々考えても、セレンにとってはネリスの申し出は魅力的であった。同じタンク乗りだし、レックスの戦闘技術なども知っている。人材的に見ても、非常に理想にかなっているのだ。
「よし、決まりだね。それじゃあさっそく特訓と行こうよ」
「え…?今から?」
今から特訓との言葉に、目を丸くするレックス。まだ休憩始めて、そんなに時間も過ぎていない。しかし彼に逃げ道はなかった。
「今から。ボクだって時間は限られてるんだよ?それにコルセール出身のリンクスがへぼいままじゃ、うちの看板に傷がつくし。そうならないためにも、きっちり強くなってもらわないと」
「そうだな。コルセールと言う部隊を率いている以上、ネリスはお前にずっとは付き添えないわけだし…。それなら出来る時にやっておいた方がいいだろう」
すでにセレンとネリスの二人によって包囲網が完成していた。孤立無援。突破は不可能。
それでも最後の最後まで諦めない。そんなモットーの元、悪あがきを試みるレックス。
「……た、頼むから。あと少し休憩を―――」
「悪いが却下だ。時間が限られている以上、少しでも特訓に付き合ってもらわないとな」
「そういうこと。それじゃあ行こうか」
「ちょっ…。待っ…」
がっちりと腕を掴まれ、そのまま半分引き摺られるように連れて行かれるレックス。もはや拒否権はなく問答無用であった。
To be countine……
now:17
today:1
yesterday:2
total:3175
☆作者の一言コーナー☆
気がつくと、うちのネリスも僕っ娘になっていた。何を言ってるかわからないだろうが(ry な、えむです。
と言うわけでヒロイン登場。立場が立場なので登場頻度はちょっと少ないと思いますが…。活躍ネタも、すでに一応考えてあります。対ネクストで。
一応次回でレックスは、対ネクスト戦において、なんとかまともに戦えるようになる予定です。でも具体的なアイデアは、いまだ浮かばなかったりする罠。マジでどうしようorz
では今回もお付き合いいただきありがとうございました。