Written by えむ
「どぅおりゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「ぐっ?!」
高速型ミサイルが飛来。レックスはそれを横へのクイックブーストで回避。だが、そこへ間髪いれずに飛んできたグレネード弾の直撃を受け、大きな衝撃と共に大きく機体を揺さぶられる。
それでも、腕部に装備した有澤製のグレネードと、背部のチェインガンを起動。クロストリガーにて反撃をするレックス。
だが決定打には届かない。チェインガンの弾幕こそ、PAを削っていくらかのダメージを与えるが、クイックブーストで動く相手に、貴重なダメージソースとも言えるグレネードを直撃させるには至らない。
すでにフォートネクストのAPは、キルドーザーとの撃ち合い――ほぼ一方的に近い――によって8割近くを削られており、危険な状態であることを知らせるアラートメッセージが出ている。
だが勝負は、最後までわからない。そして、諦めるつもりもない。
再び飛んでくる高速ミサイルを、再びクイックブーストで回避。しかし、そこでその動きが仇となった。正確にはクイックブーストの回避時には、他の事に気を回す余裕がなくなるのが仇になった。
「どすこぉぉぉい!!」
「なっ、しまった!?」
すでに、キルドーザーが突っ込んできていた。その両手には鉄塊と言ってもいいドーザーが二つ。通常のネクストならともかく、タンクで動きもいまいちであるフォートネクストになら当てれると踏んだのであろう。そして、その判断は間違ってはいなかった。
その両手の一撃を回避する間もなく、グレネードの直撃よりも大きな衝撃がレックスを襲う。APの表示がゼロとなり、機体状況を知らせるモニターには、コアが大破したことを知らせるメッセージが映る。だが、それを確認する事もできぬまま、レックスの目の前は真っ暗となって――――
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そこでシミュレーションは終了となった。
単にこれは対ネクスト戦の特訓のため、セレンが組んだオーダーマッチである。間違っても実戦ではない。
「よっしゃあああ!」
「……キルドーザーにも勝てんのか…」
防音が利いてるはずのシミュレーターの中から聞こえてくる歓声を聞き流しながら、セレンは大きなため息をついた。これで問題点はハッキリとしたが、これは先行き不安ってものではない。
前回のワンダフルボディ戦は、途中から向こうが歩き出したから勝てたようなもの。けれでも全てのネクストがああなる保障は、まずないだろう。強いて言えば、ビギナーズラックと言ったところか。
いずれにしても対ネクスト戦の対策は早々に練る必要があるのは確実だ。問題はどうやって鍛えるか…だが。
「せいやぁぁぁぁぁっ!!」
「うおおおおおおおっ!!」
が、その思考はキルドーザーのリンクスであるチャンピオン・チャンプスと、レックスの大きな掛け声によって寸断された。
何事かと思って見てみれば、再びフォートネクストとキルドーザーが戦闘を行っているではないか。自分から訓練か…と感心しかけたのも束の間、一瞬にしてそれは粉砕された。
そこ繰り広げられているのは戦闘だった。確かに戦闘には違いなかった。…突っ込むとしたら、両機ともドーザーオンリー装備で、ブーストも使わずに至近距離で殴り合いをしている、ただ一点である。
「何をやってるんだ……」
人が真面目に考えている時に。良い度胸じゃないか。こめかみに小さな青筋を浮かべ、通信を入れようとするセレン。だが、その殴り合いを見て、セレンはあることに気がついた。
ちょうど、それはフォートネクストが上半身部分だけを動かして相手のドーザーをかわし、キルドーザーの顔面にカウンターブローを叩き込んでいるところだった。
ぱっと見では、それだけのこと。だが至近距離でのカウンターは簡単なことではない。相手の動きを見切らなければ、沈められる危険だってあるのだ。思い出してみれば、ワンダフルボディ戦の時。ワンダフルボディの動きが鈍ってからのフォートネクストは格段に動きが変わっていた。つまり筋は悪くないわけだ。それどころか、予想以上の腕なのかもしれない。高速戦に対応できないだけで。
「そういえば、元ノーマル乗りだと言ってたが……」
その時の腕はどうだったのだろうかを聞いたことはなかった気がする。
「…いつか聞いてみるか」
もしかしたら、そこから何か突破口が開けるかもしれない。そう考えるセレン。
一方、シミュレーターから出てきた二人は、殴り合いを通じて両者の間に何かが芽生えたのか、がっちりと握手を交わしていた。
あと余談ではあるが、殴り合いに勝ったのはレックスだったりする。閑話休題。
□ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □
さて、それから何にか過ぎたある日の事。レックス達の元に、ある日一通のメールが送られてきた。 送り主は、オーメル・サイエンス。言うまでもなく、仕事の依頼だ。
「…ごめん、よく聞こえなかった」
そしてレックスは、セレンから伝えられた一言が信じられず。思わず聞き返していた。
それに対して、セレンは単語の一つ一つを強調し、ハッキリともう一度告げる。
「オーメルから、BFFのフラグシップ。スピリット オブ マザーウィル撃破依頼が来た」
スピリット オブ マザーウィル。BFFが所有する超大型のAFである。AFとしては旧型らしいが、豊富なノーマルの搭載数と圧倒的な火力量により、いまだなお現役。その凄まじさは、ランク9のホワイトグリントをも退けたことが物語っている。一言で言ってしまえば、まさに難攻不落の移動要塞。それを撃破しろと言うのだ。
「……誰に?」
「お前だ、レックス」
「マジで?」
「マジだ」
そんなやりとりを経た後、二人はそろってため息をついた。―――依頼する相手を間違えてないですか、オーメルさん…。それが二人の共通の意見である。
だが、それでも詳しい話を聞くだけ聞いてみることにする。自分達のようなランクの低いリンクスに、そんな依頼をしてくるからには、何か理由があると思ったのである。
連絡をして詳細を聞いてみたところ、とあるルートからスピリット オブ マザーウィルの設計図を入手。それを解析した結果、スピリット オブ マザーウィルの弱点がわかったのだと言う。それが偽りでない証拠に、オーメルの依頼人はその設計図のデータも送りつけてきた。
「砲台を潰していけば、そのダメージが内部に伝播していくと言うのか…。たしか、これなら上位リンクスでなくてもいける可能性はある」
「普通のリンクスだったらだけどな…。僕のフォートネクストじゃ、機動性が足りない。ある程度は耐えられるけど…時間をかけたら、スピリット オブ マザーウィルの近接防御で削り切られるのがオチだ」
ミサイルと砲台。主砲を抜きにしても、その弾幕量は恐らく相当なものだろう。クイックブーストの回避に専念すれば凌げるかもしれないが、恐らくそれでは攻撃する暇がなくなってしまうだろう。
しかし攻撃に移れば、すばやく動き続けられない以上、被弾は増える。スピリット オブ マザーウィルの壊すべき砲台は広範囲にわたって配置されていることを考えれば、必然的に砲火にさらされる時間は長くなるに違いない。そして、どれほど破壊すればいいのかもわからないとなると、なおさらのことだ。
「じゃあ、どうする? 絶対に受けなければいけない決まりではないぞ?」
「そうだな。でも……なんと言うか。逃げたくはないんだよな…。こいつを撃破できれば、リンクスとして、ある程度は認められるんだろう?」
「ジャイアントキリングは、一種の奇跡だからな。…じゃあ、受けるのか?」
「――受けるよ、セレン。何か手もあるはずだし」
こうして、スピリット オブ マザーウィル撃破のための準備が始まった。
さしあたって、相手が相手なので作戦を練る時間がほしいとオーメルに通達し、レックスは少し調べ物がしたいとセレンに申し出て、一人端末へと向かう。
少ししてセレンが覗き込んでみれば、そこにはスピリット オブ マザーウィルの設計図を筆頭に。設計図から読み取った構造材のデータやら、使用されている装備のスペックデータやら、戦闘となる旧ピースシティエリアの詳細データなど、大量のデータがそこに表示されていた。
そして、それらを前にレックスは真面目な表情で、じっとそれを見つめ考え込んでいるようだった。
集中しているようだから邪魔はしない方がいいか…と、とりあえず入れたコーヒーを置いて下がるセレン。
それから数時間が過ぎて、おもむろにレックスは振り返った。
「セレン、一種の賭けになるけど…。勝てるかもしれない」
「ほぅ。聞こうか…」
「じゃあ聞いてくれ。色々調べて考えてみたんだが――――」
そう言って、レックスは自分のプランをセレンへと説明していく。
「それが本当なら、お前でもやれるか。だが確証はない…、だから賭けか」
「駄目なら、全力で逃げるよ」
「だろうな。いいだろう、やってみろ。……で、装備はどうする?」
そうたずねるセレンに、レックスは小さく頷いて、自分が持っていこうと思っている装備を告げた。
普通だったら、反対したくなる装備だったが―――レックスのプランを先に聞いていたのもあって、セレンはあっさりと納得することができた。レックスのプランなら、それが最適だと思えたからである。
そして、数日後。作戦当日。
VOB取り付けを担当することになっているオーメルの整備員達は、そろって自分達の目を疑った。
対スピリット オブ マザーウィル。BFFの誇るフラグシップに。タンク機がインテリオルのレーザーブレードLB-ELTANIN二つと、アルドラ製のグレネード2門で挑もうとしていたからである。
To be countine……
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