小説/長編

Written by えむ


 AF…アームズフォート。
 それは代替可能な人員により制御・運用され、平均的なネクスト以上の戦闘力を持つ巨大兵器である。高ランクのリンクスにとっては、葱しょった鴨程度であるが、そうでないリンクスにとっては脅威とも言える存在だ。
 逆に、それを撃破出来るようになれば、リンクスとして1ランクアップと言うことになる。
 そして、今回。レックスの元へと届いた依頼。それはリッチランド農業プラントのアルゼブラ部隊への攻撃であり、レックスにとっては初の対AF戦であった。
 

「ランドクラブ…?」
「そうだ。それが今回お前が対峙するであろうAFの名前だ。元はGAのだが、アルゼブラに鹵獲されたようだ」

 そう言って、携帯型端末の画面をレックスへと向けるセレン。
 そこには3連主砲を背負った大型の機動兵器が2機と、それなりの数の守備部隊の状況が表示されている。

「それ以外の敵はノーマルか…。でも数が多いな」
「動き回れば、それなりに被弾は減らせるだろう。タンクとはいえ、ネクストだ。ノーマルよりは機動性に長けている。当然、火力もな」
「先手必勝なのは毎度のことってことか。ところでセレン、この協働依頼ってのはどういうことなんだ?」
「今回のミッションではGA側が僚機を出してくれるらしい。候補は、3人だが…。今回は立候補がいるらしい」
「立候補?」
「ランク16 雷電のリンクスである有澤隆文本人が、そちらがよければ協働したいと申し出ているそうだ」
「有澤隆文って…有澤重工の!?」

 有澤重工。その名前はグレネード大好き人間のレックスが知らないはずはない。実際、彼が所有しているグレネードはすべて有澤製なのもあるし、自分が使っているネクストのベースも有澤製の霧積だ。もちろん、有澤重工だからそれらの装備にしたのではなく、たまたま自分に合うパーツなどを選んだら、それらが有澤製だった―――だけのことである。
 さらに。有澤隆文と言えば、重装甲重火力を地で行くタンク乗りであり、同じタンク乗りとして、名前は知っているレックスであった。他にも2名ほどタンク乗りがいるのは知っているが、レーザー兵器を使うタンクはタンクじゃないと言う偏見をレックスは持っているため、そちらは現在除外である。

「あぁ、そうだ。なぜ指名してきたのかはわからんが…。まぁ、どこぞの老鎮とは違う。裏などはないだろう」
「じゃあ断る理由もない。それでいこう。ところでセレン」
「ん?なんだ?」
「誰か年取ってる奴で嫌いな奴でもいるのか? なんか――さりげなく誰か意識してたっぽいけど」
「……。あぁ、一人な。お前も覚えておくといい。BFFの王小龍と言う名前を」
「ふむ。まぁ、わかった」

 とりあえず頷いておくレックス。もちろん、この時点では王小龍と言うのがどういう人物かは、知るはずもないのだが。
 その後、有澤隆文本人のご指名を受けることにして、カラードへと返事を送り、レックスは一人自室にて、今回の装備を選ぶことにした。
 さっそく現在所有している各種装備の一覧を眺め、思案をめぐらせる。相手はAFで3連主砲が主兵装。機動力は皆無だから当てるのは簡単だろう。むしろ自分にとっては、数の多いノーマルのほうが脅威だ。
 さしあたって両背に有澤製のYAMAGAを積んでいくのは確定事項として。両手の装備をどうするか。なるべく一度に複数の相手を攻撃しておきたいというのが、今回の考えである。両手両背グレネードの4本差しも悪くはないが―――、今回の弾薬費は自分持ち。さすがにそれをやったらセレンの拳が唸りそうで怖い。
 色々考えた結果、MSACの腕部用のミサイルNIOBRARA03を持っていくことにした。もちろん両手持ちで。火力は少々不安だが、ノーマル相手なら問題はないだろう。さらに言えば、FCSはマルチロック対応だから複数攻撃が可能だ。

「こんなところかな。あとは―――本番と」

 画面を消し、椅子の背もたれに寄りかかり、目を閉じる。まずはAF、これに勝つことだけを考えなければ。






 それから数日後。リッチランド農業プラントへと向かう輸送機の中にて待機するフォートネクストの姿があった。カメラを動かして窓の外を見れば、併走して飛ぶ輸送機がもう一機。向こうは雷電を輸送している輸送機だ。
 本来なら、ネクスト2機運べるだけのスペースを持つ輸送機なのだが、さすがに重装甲重火力型のタンク2機での協働と言うのは前代未聞のことだったらしく、なんと重量オーバーになることが発覚。そのため、輸送機2機に分けて運ぶことになったのである。

「間もなくリッチランド上空だ。準備はいいな?」

 通信機の向こうからセレンの声が響く。

「いつでもいける」
「よし、それじゃあ行って来い」

 下部ハッチが開き、身体が浮遊感に包まれるような錯覚に包まれた。下へと視線を向ければ、ランドクラブが2機と多数のノーマル部隊がいるのが見え、豆粒のように見えるそれらが見る見るうちに大きくなってくる。
 着地の瞬間にブーストを吹かし、軟着陸。改めて前方の敵へとカメラを向ける。
 ―――でかい。近くで見るAFは、なんとも言えない迫力があった。思わず生唾を飲み込むレックスの耳に、落ち着いた――それでいて渋みのある声が響く。

「有澤重工、雷電だ」
「フォートネクストのレックス・アールグレイです。今回はよろしく頼みます」
「あぁ、よろしく頼む。では、正面から行かせてもらおう。それしか能がないのでな」

 そう告げて、ブーストを吹かし前へと走り出す雷電。受ける攻撃を物もともせず武器腕のグレネードでノーマルを吹き飛ばしつつ、ランドクラブの方へと向かっていく様は、まさに豪快としか言いようがない。

「タンク乗りの鑑みたいな人だな」
「だからと言って、お前も付き合う必要はないぞ。敵AFの火力は絶大だ。側面から回り込んで―――」
「いや、僕も正面から行かせてもらう。回り込んだところで、ノーマルに削られるだけだし」
「…お前と言う奴は。…言ったからには落ちるなよ?」
「当然っ!!」

 そう答え、ブーストを全開。フォートネクストもまたもう一機のランドクラブの方へと向かっていった。

「ランドクラブか。相手にとって不足はない」

 雷電を前へと進めながら、彼…有澤隆文は背部に積んだ大型グレネードキャノン老神の砲身を展開させた。
 通常、ネクストによるAFの攻略方法は、機動性を生かして回り込み、ブレードやAAによる至近距離の攻撃で落とすのが定石と言われている。上位ランカーにもなると、中距離で撃ち合うリンクスもいるが…あくまで被弾しないことを前提とした回避メインの戦い方である。
 だが雷電は違う。とるべき手段は実にシンプル。AF相手に正面から撃ち合いを仕掛けるだけ。
 通常なら無謀と言えるこの戦術だが、雷電の装甲をもってすれば、例えAF相手だろうと削り合いにて勝てる。そう彼は確信していたのである。
 結果は言うまでもない。数発にわたる撃ち合いの末、さきに沈黙したのはランドクラブだった。

「この雷電相手に削り合いで挑もうなど……まだまだ早い」

 当然の結果。それが彼の感想であった。それだけ、自分のネクスト―特に頑強さ―に自信を持っているのである。だがそのまま感慨にふけるような人物でもない。すぐさま、周辺の残ったノーマルの掃討へと移る。
 そんなときに、もう一機のランドクラブと撃ち合いをしているフォートネクストの姿があった。
 どうやら向こうは先にノーマルを倒してから、ランドクラブと対峙したらしい。すでに向こう側のノーマル部隊は全滅している。
 ブーストを使って左右には動いているが、それでも完全回避には至らない。所詮はタンク。被弾率も高い。だがそれを物ともせずに、両背のYAMAGAを叩き込んでいく。

「ふむ……」

 以前見かけたときにも思ったが、やはり今時には珍しいリンクスだ。そんな思いが脳裏をよぎる。機動性重視のはずのでネクストで、防御に物を言わせた「古い」戦い方をするリンクスが、このカラードに一体何人いるだろう。
 そうこうしているうちに、もう一機のランドクラブが大きな爆発を上げた。どうやら勝負がついたらしい。
 とりあえずミッションは終了。残敵がいないことを確認した有澤隆文は、フォートネクストのリンクスへと通信をつないだ。

「その機体でよく耐えるものだ。感心した」
「はははは、頑丈さがタンクの取り柄ですし。タンクは耐えてなんぼでしょう、やっぱり」
「ふっ、今時には本当に珍しいリンクスだな。どうやら思った以上に、君は面白い男のようだ」
「褒めても何も出ませんよ?」
「何、素直な感想だ。いずれ機会が会えば、ゆっくりと話してみたいものだ。同じタンク乗りのリンクスとしてな」
「…え?マジで? そ、その時はぜひっ」
「承知した。では、私は一足先に戻らせてもらおう。会議があるのでな」

 そう告げたところで通信は切れ、一足先に雷電がブーストを吹かせて撤退していく。
 一方、コクピット内のレックスはと言うと――――

「セレン、どうしよう。なんか気に入られた!!」
「ある程度の予想はしていたが、ここまでとはな…。まぁ良いんじゃないか? コネが出来るのも悪いことじゃない。だが、同時にそれが何を意味するかもわかっているんだろうな?」

 セレンの最後の一言に、レックスの表情が一気に引き締まる。

「わかってるさ、セレン。…覚悟はある、最初からな」
「そうか、ならいい」

 向こうはGAの傘下だが、こちらは独立傭兵だ。依頼によっては、GAと敵対することもあるだろう。そして、そうなれば敵として対峙する可能性も出てくる。そうなったときの覚悟はあるのかと、セレンは言いたかったのである。それに対して、レックスはその覚悟は、すでに出来ている。
 ただ、それでも―――

「それでも…出来るなら、敵としては会いたくないけどな」

 そう願わずにはいられないレックスであった。

TO BE COUNTINUE…..

☆作者の一言コーナー☆
 ひそかにヒロインを誰にしようと悩む、えむです。
 フラグ立ちました。いろんな意味で。
 
 さて今回のリッチランド襲撃。試しにランドクラブの正面で足を止めて撃ち合いをしてみたら、大きなダメージもなく余裕綽々で倒せました。
 もっと苦戦すると思ったのに…どういうことなの…? 難易度はノーマルでしたけど…タンクの底力を見た気分…(汗
 
 さて次回。
 グレ好きタンク乗りのレックスですが、仮にも主人公。それなりのスキル持ちだったりします。それは―――


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