小説/長編

Written by えむ


 資金調達を行ってから数日後が過ぎた、ある日のこと。カラードのシミュレーションルームにて、非公式のオーダーマッチが行われようとした。今回は個人的な物であり、ランクの変動などに影響はない。とりあえず考えた機体を試すための物である。
 挑む相手は、前回敗北した相手―――ダン・モロ。
 本当は違う相手にしようと思ったのだが「まず奴に勝て。ダン・モロには悪いが、奴に負けたままでは話にならん」とはセレンの弁。
 仕方がないので、「前回の負けた時の反省を生かして、大規模に機体構成を変えたので、訓練相手になってほしい」とメールを送ってみたところ、「俺でよかったら、いつでも訓練に付き合ってやるよ」と、ものすごく乗り気な返事が帰ってきた。
 どうやら、前回の勝利が相当嬉しかったようだ。しかも自分が勝った相手からの訓練相手要請。先輩として頼りにされているとでも思ったに違いない。実際、レックスにすれば先輩には違いないのだが。
 だが、ダン・モロはしるはずもなかった。その先に待ち受ける恐怖を。

 では、オーダーマッチでのダン・モロの様子をダイジェストにお送りしよう。

「それじゃあ始めるか。よし、どっからでもかかってこいっ」

「タンクと来たか。だけど、その速さなら前より当てるのは楽だぜ?」

「両手グレネードって、どこの社長だよ!?」

「え、ちょっ。ミサイルがっ。ミサイルがめっちゃ来たぁぁぁぁっ!?」

「な、なんだ? なんか、いつの間か何か来てる!? しかも二つも!?こっちに…っ。いや…こっちに来ないで。来ないで、ぎゃぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 試合時間62秒。
 ダン・モロの駆るセレブリティ・アッシュは、レックスの駆るタンク足のネクストのAPを7000近く削ったところで撃破となった。ちなみにレックス機のAPは50000越え。
 ダン相手にそこまで削られるあたりは、やはりレックスがレックスたる所以であるが、勝ったことには違いない。はっきり言って大火力によるごり押しだったのだが。

「ありがとう。良い試合だったよ」
「そ、そうか。そりゃあよかった」

 シミュレーターから外に出て、笑顔を向けるレックスに、ダンの表情は真っ青だったりする。元々、気が小さい彼にとって、レックスのとった戦術はちょっとした恐怖だったのである。それがどんなものかは、もう少し後で説明するとして―――。
 とりあえずレックスは、あまりに彼の調子が悪そうなので、医務室まで連れて行くことにするのであった。

 その後、カラードにある休憩所をかねたカフェにて。

「…なんというか、えげつない機体を考えたな」
「有澤の霧積をベースとしたタンク機体のようだが、かなりいじってあるな。頭部はBFFの047AN02か」
「霧積の頭部でもよかったんだが、ロック距離を優先した。とりあえずで選んだから、もっと良いのがあればそっちにするけど」
「サイドブースターがレイレナードの03-AALISH/Sなのは?」
「クイックブーストをあまり有効に使えないとはいえ、それでも被弾は減らす努力はしないといけないからな。既存パーツの中で水平出力が一番高かったのを選んだ」
「とりあえずクイックブーストに慣れろ」
「努力はするよ」

 そう笑って、注文していたミルクを飲むレックス。彼は紅茶とかコーヒーとか、苦いものがからっきし駄目な人間であった。

「まぁ、ジェネレーターも少し考えたほうがいいかもしれんが…。内装については、戻ってから考えるとしよう」
「わかった」
「しかし、武装は…アレだな」
「俺の腕じゃサイティングもそこそこの技量しかないからな。切り札はミサイルにしたんだ。あれならロックさえ出来れば飛んでいってくれる」
「だから、トーラスのZINCを両背に積んでいるのか…」

 トーラスのZINC。垂直発射型のコジマミサイルであり、ダンを恐怖のどん底に叩き落したレックスの切り札。レックスはそれを、一定間隔で延々うち続けていたのである。32連装の連動ミサイルの弾幕とセットで。

「まぁ、武器装備は状況や任務によって変更するつもりだけどな」
「つまり依頼内容に応じて、武器装備を使い分けるつもりと?」
「そのとおり。知ってのとおり、俺の技量はリンクスの中でもワーストに入る程度だろうからな。となれば装備で実力差を埋めるしかないわけで」
「本当にお前は元ノーマル乗り――レイヴンなんだな。だが、そうなるとますます資金の問題が出てくるぞ? ネクストの装備を色々揃えるとしても、元では必要だ」
「それもわかってる。資金の方は問題ないんじゃないかな。うまくいったし。まぁ、見てみてくれ」
「ふむ…」

 言われてさっそく携帯端末を操作し、現在の預金額を確認するセレンだったが、画面を見たところでなぜか固まった。その間、レックスはそ知らぬ顔でのんびりとミルクを飲んでいたりする。
 それから約1分ほど過ぎたところで、セレンが顔を上げた。

「私は疲れているのか。預金額のゼロが二つくらい増えて見えるんだが…」
「言ったじゃないか。資金のことなら任せてくれって」
「こんな短期間で100倍になるか阿呆がっ!!はっ、まさか―――アスピナで!?」
「いやいやいや、そんな命を投げるような真似しないってっ!!」
「じゃあ、一体何をした」
「株取引」
「は?」
「だから、この前の資金を元手に株取引やって増やした」
「ありうるのか…。そんなことが…」

 確かにうまくいけば一攫千金も可能だ。ただし一気に増やそうとすればするほど、危険が伴うわけで。ぶっちゃけてしまえば、失敗する確率の方が高いのが株と言うものである。

「色々調べてやれば、そうそう損はしないものさ」
「そうかもしれんが…。むぅ…」

 どこか釈然としないものを感じつつも、まぁ資金はたくさんあって困るわけではないし…と結局はあまり気にしない方針でいくことにするセレン。それから一しきり休憩をしてから、装備の選定とネクストの内装等を突き詰めるべく、再びシミュレーターへと入るのであったが…。
 色々な装備を試す中、セレンはある事に気がついた。
 どういうわけか。両手のグレネードは外さないのである。そして両手装備を変えたかと思えば両背にグレネードを必ず積むのである。
 グレネードにこだわらなければ、もっと装備のパターンに幅が出る。そう忠告したところ、レックスは真面目な表情でこう答えたのである。

「何を言ってるんだセレン。グレネードのないタンクなんて、タンクじゃないんだよ」

 そして、そこからグレネードについて延々2時間にも渡る講義が始まることとなる。どうやら、彼――レックスはグレネードには並々ならぬ何かを持っていたらしい。
 ちなみに講義の内容は意外にも実用的なものであり、運用方法から無駄のない整備方法。各企業のグレネードについての考察など。気がつけばカラードの職員や、たまたま訪れていた企業の技術者などが集まって聞き入いるほどのものであった。
 そして、その中に―――

「ほぉ…今時のリンクスにしては珍しい。なかなか見所がある」

 一人のリンクスがいたことを、このときのレックスは知るはずもない。
 そして、それからさらに1週間後。レックスの新しいネクストが組みあがったところで、一つの依頼が届くこととなる。

TO BE COUNTINUE…..

☆作者の一言コーナー☆
 第一話の予想以上の反応にびびってしまっている、えむです。
 レックスのネクスト登場。今後は装備が頻繁に変わることになります。装備を使い分ける主人公もないなぁと思ったのが理由。
 ただしグレネードは必ず二つ装備。これだけは譲らない。
 ついでなので、機体構成も載せておきます。ちなみにレギュは1.2準拠。

頭部 BFF 047AN02
コア GA GAN01-SS-C
腕部 GA GAN01-SS-A
脚部 有澤 KIRIMITU-L
Mブースタ
Bブースタ
Sブースタ 03-AALISH/S
Oブースタ KB-JUDITH
右腕武器 NUKABIRA
左腕武器  NUKABIRA
右背中武器 ZINC
左背中武器 ZINC
肩武器   MUSKINGUM02
F.C.S 047AN05
ジェネレータ ARGYROS/G

FRSメモリ
旋回性能・積載・Sブースター水平出力・照準精度・運動性能・ロック速度・ミサイルロック速度MAX

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