小説/長編

Written by えむ


「なん……だと…?」

 彼女、セレン・ヘイズは唖然としていた。今、目の前では信じられない光景が広がっていた。
 リンクスの技量を測る試金石とも言えるミッション、ラインアーク襲撃をそこそこの評価で抜けて数日後。ネクストとの戦闘も経験させておくべきだろうと、カラードでオーダーマッチを組んだのがきっかけだった。
 戦闘は、かなりの長期戦となり善戦こそしたものの、最終的に負けてしまった。敗北自体は悪いことではない。それを糧にして、さらに訓練を重ね、上を目指せばいいのだから。
 だが、しかし。今回の敗北は無視するわけにはいかなかった。この結果は予想外の物であり、それこそ危機感を覚えるほどのものだったのだ。

「帰ったら、反省会だ。覚悟しておけ」

 一方的に告げて、通信を切り、ヘッドセットをはずす。
 今まで数多くのリンクスを見てきたが、自分が拾ってきたリンクスはある意味…地雷だったらしい。たぶん、核の。
 育てがいがあるといえば、育てがいはあるが。それでも……負けた相手が負けた相手だけに、今後について色々と考える必要がある。

「よっしゃーっ。勝ったーっ!!」

 物凄くうれしそうな声が響き、そちらを振り向く。
 そこには、ちょうどシミュレーション用のポッドから出てくる今回の対戦相手の姿。
 ランク28 ダン・モロ。―――それがその名であった。

 数時間後。拠点代わりとしているガレージのリビングルームにて。セレンは腕を組んだまま床に正座して縮こまっている相手をにらみつけた。

「さて、レックス。私はお前に色々言いたいことがある」
「だ、だろうな。こう…なんというか。プレッシャーがすごいし」

 だらだらと脂汗を流し、引きつった笑顔を浮かべている青年。彼こそが、ダン・モロに敗北したネクスト・ストレイドのリンクスである。
 名前はレックス・アールグレイ。一応元ノーマル乗りの経歴を持っているが、詳しいことについてはセレン本人もよくは知らない。

「そもそも、どうしてクイックブーストを使わない。あれでは的も同然だぞ!?」
「いや、その…忘れてた」

 そう告げて、視線をそらすレックス。同時にセレンのこめかみに青筋が一本浮かぶ。

「馬鹿か、お前は!? ネクストとノーマルを一緒にするなと、あれほど言っただろうがっ!!」
「わ、わかってはいるんだが…。速さについていけないんだ」
「……何?」
「動きについていけないと言うかだな…」

 その一言でセレンは察することができた。レックスは元ノーマル乗りだ。そして、ノーマルとネクストでは比較にならない機動力の差がある。通常の機動性もさることながら、クイックブースト使用時の機動力はさらに輪をかけて速くなる。が、どうやら彼はその機動力についていけてないらしい。
 思えば、ラインアーク襲撃の時。あの時もクイックブーストなどは使っていなかった気がする。ノーマル相手だったのでさほど気にもならなかったが…。

「…そういうことか。ちなみに聞くが、ノーマル時代は、どんな機体に乗っていた…?」
「重装甲重火力のタンク型」
「…どうして、私は先にそれを確認しなかったんだろうな。これは機体構成から考え直す必要があるか。すまん、もっと早く気がつくべきだったよ」

 思わずため息。それをわかっていれば、少しは変わっていたのかもしれないが。
 ノーマル時代はガッチガッチのタンク。そして今のネクストは高機動型の軽量機。そのスピードの差は天と地の差がある。次元が違うと言ってもいい。スピードに振り回されても―――まぁ、仕方ない気がする。

「あ、いや…。悪いのはセレンじゃない。僕のほうだ」
「そうだとしても、だ。しかし、どうするかな…。今のストレイドを元手にしても、新しくネクストと武装をそろえるだけの資金を確保できるかが問題か」

 ネクストはなんだかんだで超高額な機体である。簡単にポンと買い換えることができるような代物ではない。ラインアーク襲撃の報酬とストレイドのパーツを売り飛ばせば、それなりの資金にはなりそうだが。果たして足りるかどうか…。
 頭の中で計算を始めるセレンであったが、おもむろにレックスが口を挟む。

「そこは……そうだな。僕に任せてくれないか?」
「ん?何か伝手でもあるのか?」
「まぁ、ちょっとな。数日かかるけど」
「気にするな。今後のためだからな」
「わかった。じゃあ端末を使わせてもらうな」

 そう言って、端末の前へと座り、システムを起動。ネットワークを立ち上げるレックス。
 その様子を眺めながら、テーブルの席へと腰を下ろす。
 まさか、いきなり機体構成を大きく変えることになるとは思わなかった。だが、それでこの先を生き残れるのであれば…。決して悪い判断ではない。
 それでもクイックブーストに振り回され、しかも元ノーマルのガチタン乗りと言う部分に。さすがのセレンも少しばかり先行きを不安に思わずにいられなかったのは、ここだけの話。

 だが、ここからが本当の意味でスタートとなる。それだけは間違いようのないことであった。

☆ 作者の一言コーナー☆

 お初にお目にかかります。えむと言います。
 だいぶ前から、こちらの小説を色々読ませていただいていたのですが、書きたい衝動をついに抑えられなくなって、今回突撃させていただきました。

 どうせ書くなら、あまり見ないタイプの主人公と機体で…、と思い切った挑戦をしようと思っていますが、果たしてどうなることやら…。
 フォーアンサーのストーリーに沿いつつも、半分勢いとその場の思いつきで突き進むと思うので、色々突っ込みどころ満載、オリジナル展開もあると思いますが、生暖かくでも見守っていただければ、光栄です。
何はともあれ、これからよろしくおねがいいたします。

あとWIKIの編集も初めてなので、慣れるまではお手数かけるかもしれませんorz


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