小説/長編

Written by えむ


 有澤重工格納庫。
 今、ここには有澤重工第43代社長 有澤隆文のネクスト。雷電が静かに、その身体を休めていた。
 有澤重工が誇る、装甲と炸薬。その二つに関連した技術をフルに使って注ぎ込み建造した、いわば有澤の象徴とも言える機体。特に背部兵装である、超大型グレネードキャノン「老神」は、グレネードキャノンの中でも一際秀でた代物であり、これもまた象徴と言えるものだ。
 そっと雷電の装甲へと触れる。金属特有の冷たい感触が手に伝わる。
 だが、これらとて。何もなしにポンと完成したわけではない。ここまで作り上げるため、多大な時間と労力を費やしてきたのだ。
 ふと脳裏を少し昔の記憶が過ぎる。そう、あれは確か――――





 リンクス戦争が終結し、その際に大きな傷を受けた企業がようやく元の力を取り戻しはめていた頃。企業は数の限られるリンクスとネクストに変わる戦力、アームズフォートの建造へと取り掛かっていた。
 アームズフォート。ネクストだけに頼ることに危機感を覚えた企業が、代替を得やすい戦力として求め、建造を始めた巨大兵器だ。
 言うまでもなく有澤重工の所属するGAグループもAFを建造しており、すでにランドクラブと呼ばれる量産使用を前提としたAFが数機完成。さらに、BFFが主体となり全長2400mという恐らく空前の規模となる巨大なAFスピリット オブ マザーウィルと、さらに全長7kmになる地上最強を目指すAFグレートウォールの建造も始まっていた。
 言うまでもなく、この2つのアームズフォートのため、有澤重工も装甲や主砲に使用される予定の大型砲弾や榴弾などを得意分野にて携わっていた。
 そして、それらの研究開発が一段落し、製造ラインなども安定して、一段落ついたころ。当時、今より少し若かった有澤隆文は自社の部下達に告げたのである。
 
「我が有澤重工も、象徴と言える物を造ろう」

―――と。
 当時はまだ未完成のアームズフォートも多かったとは言え、それらは間違いなく企業の象徴となるだろう。特にワンオフで建造されたものなら確実に…だ。
 だが、その提案をした時、その場にいた部下達はこぞって難色を示した。GAグループに籍を置いているとは言え、立場的には中堅レベル。アームズフォートを建造するだけの力は有澤重工には、とてもではないがなかったのである。さらにGAグループが2つもの超大型アームズフォートを建造している今、3つ目の建造に取り掛かるとは到底思えない。
 それらの意見を聞いた、有澤隆文は唸った。確かにその通り。だが、それで引き下がるわけにもいかない。そう思った有澤隆文は、打開策として、さらに一つの提案を出した。

「それならばアームズフォートではなく、ネクストならどうだ?」

 アームズフォートではなく、ネクスト。スケールダウンの程は桁違い。だが象徴であればいいのならアームズフォートにこだわる理由はない。ローゼンタールの誇るノブリス・オブリージュが良い例だ。
 この提案には、部下達も良い反応だった。ネクスト一機なら、有澤重工だけでも建造可能だったからだ。
 そして、その日から有澤重工のネクスト開発が始まることとなる。当然、象徴とも言える機体でなくてはいけないため、技術の全てを注ぎ込んだ新たなグレネードキャノンの開発に取り掛かる。
 だが、その開発経緯は簡単ではなかった。
 まず始めに。新たなグレネードキャノンに使用する専用の大型グレネード弾が完成した。アームズフォートを意識したその大型榴弾は、スペック上はランドクラブの主砲にも匹敵するか、下手をすればそれ以上の破壊力を秘めた素晴らしいものだった。
 それにあわせて発射装置であるキャノン本体は、OGOTOの口径を大きくしたものを用いることとし、試作第一号とした。
 そして試射当日。記念すべき第一発は失敗に終わった。大型榴弾が予想以上に重かったため、発射に必要な加速が得られず、射程が大幅に落ちてしまったのである。さらに発射反動も凄まじいもので、ベース機であった霧積が転倒しそうになるというアクシデントまで発生。とてもではないが実戦に使用できるレベルでないことだけは確かだった。
 新型装備開発と言うのは、試行錯誤の繰り返しでもある。この教訓を元に、すぐにスタッフは次の開発へと取り掛かる。だが、作業は予想以上に難航した。大型榴弾の射程距離を伸ばそうとすると、どうしても砲身が長くなってしまうことに気づいたのである。そして長くしてみれば、こんどは強度的な問題が明らかとなってしまい、スタッフは日々、頭を悩ませることとなった。
 だが、そんなある日のこと。その話を聞いた有澤隆文は、スタッフの元を訪れて尋ねた。

「長くすれば、実用レベルで撃ち出せるわけか」
「はい。ですが砲身がこれまでの常識を覆すサイズとなってしまって、強度の問題が出てくるんです。発射反動の大きさもあって――(中略)――なのです」
「…強度か。ならば尋ねるが、我が有澤重工の専門分野は何かだったかね?」
「炸薬と装甲です」
「そのとおりだ。そして装甲と言うのは機体と乗り手を守るためのものであり、強度はそのためのものだ」
「……!? ま、まさか…」
「砲身の強度が足りぬのなら、装甲で覆えばいい」

 砲身を装甲で覆い補強する。有澤隆文から出されたアイデアに、その場にいたスタッフ全員の目が覚めたようだった。
 このアイデアを元に、スタッフはすぐに作業へと着手。そうやって砲身を装甲強化した結果、強度の問題はクリア。さらに予想外なこととして、装甲によってグレネードキャノン全体の重量が大幅に上がったため、自重によって発射反動までもが大きく抑えられることになったのである。
 こうして完成したのが、現在一般に知られる「老神」であった。
 そして「老神」完成後、それらのデータを下に新たな脚部を開発に取り掛かる。そして作り上げたのが、後に「RAIDEN-L」と名づけられる大型タンク脚であった。これにも装甲技術がおしげもなく使われ、発射反動はもちろん直撃反動にも耐えられる代物となった。

「…この脚部。戦艦を意識したか」
「はい。昔の言葉で大艦巨砲主義…と言うのがあったらしく。ちょうど有澤重工の得意分野とイメージがかぶったものですから」
「ほぉ…」

 その脚部を見て、彼は満足そうに笑みを浮かべたと言われている。
 そして腕部も、武器腕型のグレネードキャノンを搭載することになった。当初は、もっとバランスを考えた装備にするはずのだったが―――

「この機体は、有澤重工の象徴だ。炸薬と装甲――それだけで充分だろう?」

――との社長の言葉により、今のそれとなったのは、ここだけの話である。
 こうした経緯を経て、ようやくロールアウトが可能になったと思われたが、最後の最後で重大な問題が持ち上がってしまった。。その問題は実にしょうもないものだったが、それでも無視することはできない問題だったのである。
 それは一体何なのか。
 それは砲身が長すぎて。輸送機につめない。ネクスト用の格納庫に入りきらない。と言うものであった。確かに「老神」の砲身長は、ネクストのそれを大きく上回っており、最もな話だ。ただ有澤重工の大型格納庫で建造されていたため、今の今まで気づかなかったのである。
 なんというミス。だがここに来て老神を小型化するとか、そういう発想は一切なかったため、最後の最後で壁にぶち当たってしまった。さすがの有澤隆文も、今回ばかりは打開策を思いつくことはできず、再び頭を抱える日々が始まった。

 だが閃きやアイデアと言うのは、思いもしない形で君臨するものだ。

 その日、有澤隆文は少しばかり機嫌が悪かった。自社で開発しているネクストのコンセプトを知ったGAが、今時そんなのは時代遅れだと批評したのである。
 たしかにレーザーやコジマ粒子を主体とした兵器等の開発が進み、ネクストに至っても高機動型が多くなっているご時世。鈍重・重火力な機体は、そう見えても仕方はない。だがその機体は、有澤重工の鑑でもあるのだ。それを馬鹿にされると言うことは、有澤重工そのものを馬鹿にされたようなものだ。
 最も、彼はそれを言われたところで怒鳴ったりするような人間ではない。その場は何も言わず、ぐっと堪え、そして今に至る。だが思い出したところで、腹立たしく思えてきたのも事実であり、思わず手にしていたボールペンを片手でへし折ってしまった。作業の一部を手作業でしているのもあり、また社長でありながら工場で共に作業を行う有澤隆文の握力を持ってすれば、そのくらい難しいことでもなんでもない。
 ただボールペンに八つ当たりしたところで、彼は冷静さを取り戻していた。

「…やれやれ。何をしているのだか」

 ボールペンで八つ当たりしたところで意味がない。使えるかどうかは、実際に見せてやればいい。自社の炸薬技術と装甲。これら二つを存分に生かした機体だ。決して、悪いものではない。
 そんな確信と共に、とりあえず折れたボールペンをゴミ箱に捨てようと立ち上がる有澤隆文。だが、そこで彼は気づいた。
 ボールペンは確かに折れていた。だが完全に折れたわけではなく、一部が繋がったままで折れた半分が静かに揺れていたのである。

「…………」

 何気なく、それを折りたたみ。そして、元に戻してみる。

「……そうか」

 数回それを繰り返し、有澤隆文は開発部へと向かうべく、部屋を後にする。
 そして、これがきっかけとなり、最後の問題も一挙に解決へと向かうことになったのである。格納の問題の都合上、両背のジョイント二つを占有してしまうことになってしまったが、それは大した問題ではなかった。
 そして、ついに有澤重工の象徴とも言えるネクスト「雷電」がついにロールアウトすることとなったわけだが――――。
 ここに来て、懲りずにまた問題が持ち上がる。GAグループに当時、手の開いているリンクスがいなかったのである。
 それを知った時。彼はすぐに自らがリンクスとなって雷電に乗ることを、部下達に告げた。当然、その時には今までになく猛反対を受けたのだが、そんな反対の言葉を受け、有澤隆文はこう言ったと言う。

「。装甲と言うのは、その内部を外から守るためのものだ。そして、この機体は有澤重工の装甲技術の粋を尽くして作り上げたもの。私は、有澤重工の装甲を。諸君らが一つ一つ仕上げた、これらの装甲を信頼している。――それらの装甲が機体を守るのであれば、私自身も守ってくれるだろう。私自身も内部なのだからな」

 そして、彼――有澤隆文はリンクスとなり、自ら雷電を駆ってデモンストレーションを行ったのである。アームズフォート相手に、回避も捨てて正面から撃ちあうと言う前代未聞のデモンストレーションを。
 その戦いを見事に制し、それを見たGAグループの役員達は「あれは、小型化したAFじゃないのか…?」などと、かなり驚いたらしい。
 だがそれはまんざら間違ってはいない。雷電は確かにネクストであるが、有澤重工のフラグシップのつもりで「建造」したのだから。
 ともかく、その戦いを見後に制したことで、有澤重工と雷電の評価はGAグループ内でアップ。その後、カラードのランクマッチでもかなりの好成績を残し、ランク16と言う数字を得ることとなる。






 そして今に至る。
 有澤重工の評価が上がったのもあり、また雷電そのものの活躍によるアピールにより、それなりにグレネードキャノンの発注なども増え、それなりに経営は安定していると言っていい。以前よりもだ。
 
「…「老神」の発注はさすがにないか」

 けれどもさすがに。超大型グレネードキャノンである「老神」を使おうとするリンクスがいないのも、また実情であった。気持ちはわからなくはない。重量機ですら扱いに苦労しかねない代物。タンク機ならまだマシだが、カラードにいるリンクスでタンクを使う者など片手で数えるほどしかいない。しかもどちらとも軽量~中量型であり、言ってはなんだが「老神」の使用には向いた機体ではない。
 仕方がないとは言え、やはり苦労の末に作り上げた装備。誰かに使って欲しいと思うのは、親心的なものだろうか。

「社長。こんなところにいたんですか? もうすぐカラードに向かう時間ですが」
「あぁ、もうそんな時間か。わかった、すぐに行く」

 探しに来た秘書に声をかけられ、頷く。そして雷電を見上げ、静かにその場を離れるのであった。いつか「老神」の良さをわかってくれるリンクスもいるだろうと思いながら。

 だが、その彼の願いは。思わぬ形で実現することとなる。
 グレネードをこよなく愛する、もう一人のガチタン乗りとの出会いによって。

The End……


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☆作者の一言コーナー☆
 本編が珍しく完全に詰まってしまったので、気晴らしに久々書いてみた番外編。
 時系列としては、レックスと社長が出会う直前から昔話って感じですかね。
 ぶっちゃけ短編で出しても良かったような気がしなくもないですが、そこはご愛嬌です。
 ネタとしては、随分前から構想にあったので形にしてみた。
 ノリ的には、合同小説でのソルオビ話と同じですが(=▽=;)

 まぁ、少しでも楽しんでいただければ幸いです><


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