暗闇の中に響く破砕音。衝撃。皆の悲鳴。衝撃。機械が壊れる焦げ臭い鉄の匂い。衝撃。密閉空間で感じるはずのない外の風。コジマが肌と喉を焼く痛み。衝撃。

……
………?
あれ?いつまでたっても体を潰される痛みがこないよ?もしかして痛みを感じるまもなく僕は死んじゃった?だとしたらラッキーなのかな?いやいや、20年とそこそこしか生きてないのに死んじゃったんだからやっぱり不幸だよ、うん。って、ちょっと待って僕!不味いよ。混乱してるよ。なにこの意味のない思考。もっと有意義な事を考えようよ。例えば、僕とロイさんの子供の名前とか。いやいやいや。おかしいでしょ。ロイさんにはウィンさんがいるんだし。でも、万が一って事もあるし、備えあれば憂いなしって言うから考えとくのは無駄にならないよね。えーと、どうしようかな。男ならってスト~ップ!どっちにしろ死ぬんなら子供の名前なんて考える意味なんてないよ。でも全然痛くならないんだよね。どうしたんだろう?もしかして痛みを感じる「いつまで目を瞑っとるんじゃ。ワシ等はきのこったようじゃぞ」「にゃぁあ!?」
無限ループに陥りかけた思考が声と共に胸をわしづかみされた事により強制的に再起動される。
胸を揉むジーニーの手を抓り上げながら恐る恐る目を開くと、機首が潰されて艦橋の天井が無くなって空が見えているが僕達は全員無事だった。
助かったんだ安堵のあまり目の前の通信機に持たれかかると、椅子がピチョリと音を立てた。あれ?椅子が濡れてる??というかパンツまでぐっしょり?って嘘!?まさか僕おしっこ漏らしちゃった!?あわわ!?どうしよう!どうしよう!7歳の時にジーニーに恐い話をされてトイレに行けなくなってリビングでやらかして以来だよう。皆には、特にロイさんには絶対にばれないとって、しまった~~!?
慌てて顔を上げるとジーニーがニタニタいやらしく笑っていた。
「安心せい。全員似たようなものじゃ」ジーニーが皆を指す。
「ふ~、裸になってて正解だっ、へ、ヘックチ」「ペロッ…これはニーニャ殿のオシッコ!!」「人の排泄物を飲むな!!病気になっても知らないわよ!それとメーヴェも風邪ひくから服を着ろ!!」
「まぁ、皆のお漏らし姿はいずれ全世界にネット配信するとして、今は折角拾った命を落とさんようにせんとな」
う、そうだ。助かったからってうかれてる場合じゃなかったんだ。ロイさんから留守を預かってるんだから絶対に全員無事で帰らないと!
決意を新たにし、ストレイドを睨むと同時に
『危ねぇ、危ねぇ。つい勢いでぶっ壊すところだったぜ。おーい!エマ!いるんだろ!とっとと出て来い!』ストレイドが外部スピーカで喚く。
エマを呼んだ?どういうこと?まさかエマがスパイだった?いや、そんな筈ない。そうよ!そういえばエマとセカンドは知り合いだったじゃない!という事は、セカンドは知り合いのエマを殺したくないから攻撃を外したのね。よし!ならセカンドとは交渉できる!エマに私達の助命をセカンドに頼んで貰って、それが無理でも会話の糸口には出来る、…最悪やりたくないけどエマを人質にとってもいいしね。よし!方針決定。後は行動に起こすだけ!いくぞ!
「メーヴェ!ストレイドに全チャンネルで呼びかけて!ブギーはエマに大至急ここ、いえ、第二会議室に行くよう連絡を!」「…駄目ね。全部イかれちゃってる。ここからの通信は不可能よ」「こちらもですな」「落ち着きなさいよ!見て解るでしょ!ここに生きてる機器なんてないわよ!第三艦橋に行くわよ!」「了解!全員第三艦橋まで走って!」

見ていてくださいね、ロイさん。僕達絶対に諦めませんから!

****

死ぬまで美味しい物でも食べていようと人気のない食堂でプリンを食べていたらあの子があたしを呼ぶ声が聞こえた。
呼ばれる理由もわからないし、初対面で殴り飛ばされて肋骨を折られてからあまりいい印象を持ってないし、しかも最近再会した時には王焔やレーヴェ以上に歪んでいたので正直会いたくないが、見捨てられた者に請われれば応えるというのがあたしががあたしに科した(生き方)だった。
トレーにありったけのスイーツと砂糖とミルク増し増しのミルクティーを載せて、食堂から出て最寄の外部ハッチから外に顔をだすと、『遅っせ~よ!早く乗れ!』とストレイドが掌を上にしてあたしの前に差し出した。
あたしが乗るとストレイドが高速輸送機から距離をとり始める。かなり高速で動いているのに一切振動を感じないどころか、ミルクティーの表面にさざなみ一つ立ってないのが不思議だった。
『うっし、これだけ離れればいいか。それじゃあ、皆さん神の国へとご招た「ま、待ってください!!」高速輸送機を攻撃しようとしたストレイドを慌てて止める。
『んだよ?』「殺すのは止めてくださ~い」『無理。だってあいつら俺の敵だぜ?なら殺さないと。いや、これでもサービスしてるんだぜ?本来なら歩兵に嬲り殺させるところをワザワザ馬鹿高いネクストの弾を使ってまで一瞬に苦しまないように殺そうとしてるんだから』「でも~『大丈夫だよ!死んだら神の国に行けるんだからさ!』
あっさりとした断定に壊れた者特有の狂気を感じ取りあたしは説得を諦めた。狂い切れていないあたしの言葉はどう頑張ってもあの子に届かない。
絶望はしたが涙は出なかった。きっともう何度も何度も数えるのが嫌になるくらい似たような事が、大切な人を、家族を、仲間を守れずに失ったり、奪われる事が多かったからだろう。
『あ~、悪いけど予定が迫ってるからそろそろ殺るぜ?そ、そんなに落ち込むなよ!そ、そうだ!今まで世話になった奴等に天国で再開するとはいえ、別れは別れだから挨拶しとけよ、な?』
本当は解ってた。あたしが幸せになっていい筈がないんだって。だからこの幸せはいつか失われて、今まで何度も会ったように全て失くしてしまうんだって解ってた。
だから今日が、解っていたけど、こないように祈り続けていた、全てを失う日なんだろう。
「そうですね」
ならあたしは

精一杯の感謝の気持ちを込めて「今までありがとうございます」の言葉と共に頭を下げた




















































































































先に行ってますね」と微笑んでストレイドの掌から飛び降りた