Written by 雨晴
ローゼンタール製、およびGA製のノーマル部隊が砂漠に展開され、南方からの敵機襲来に備えている。
大隊規模を誇る部隊の本拠はあくまでクレイドルであるからして、全ての操縦士が一定の練度を高い位置で維持している。
少なくとも、今ここにいる全員はそう信じている筈だ。
『敵機接近!距離8000、ネクスト反応を確認、接敵予測まで60!』
「イエロー1より大隊各機、相手が相手だ、集中しろ。クレイドル防衛の要として、意地を見せるぞ」
その大隊を担う者として、敗北は許されない。それがたとえ、化け物染みた相手であっても。了解の声が挙がる。
『敵機加速、接敵予測修正、残35!』
『レッド1よりレッド各機へ、ブリーフィング通り、接敵前に長距離ミサイルで対応する。MLDでスタンバイ』
スタンバイの声が唱和し、一中隊が移動を開始する。他部隊にサポートを要請し、同じく腕部兵装の起動を呼びかける。
『レッド1よりレッド各機、射出のタイミングを合わせる。コールはイエロー1」
「了解レッド1。射出まで、5秒。―――3、2、1、射出」
ヴァーティカルとハイアクトの一斉射。無数の線が引かれ、一点を目指す。
直後、黒点を捉えた。
『敵機視認!』
「ブルー1、こちらでも確認した。着弾予測まで、6」
望遠カメラがその姿を映す。あれこそが。思い、気を引き締める。遠方で、黒が翻る。
『避けられた!敵機、全弾回避!』
無意識で舌打ちを発する。
やはり、ミサイル程度では対応出来ないか。頷き一つ。
「大隊各機へ、全方位から攻撃を仕掛けろ。全機散開、交戦許可」
『了解、展開開始、交戦します!』
仲間が蠢き、ペダルを踏み込み彼らを追う。ライフルを構え、捕捉を試みた。
気付けば、もう相手の交戦距離だ。
『敵機より攻撃!―――速い!』
クイックブーストの光源が飛び回る。ネクストとは、あんな動きを執るのだろうか。いや、そんな馬鹿な。あれが異常なだけだ。
『ブラウン5、回り込まれるぞ!』
『ブルー1よりブルー各機、ブラウンを援護する』
『ブラウン5沈黙、ああ、4沈黙!ブラウン2、3、退避して体勢を整えろ!』
再びの舌打ち。各機のFCSが敵を捉えていない。その処理速度を大きく越える機動に対応できていない。
「全機、距離を取れ。この近距離では対応できないようだ」
言い切ると同時、ミサイルが来る。無意識下での回避行動。強大なGに耐え、何とか回避する。
大きく息を吐き、状況把握。・・・ブラウン全滅?
『畜生、ブルー4もやられた!レッド1、援護を!』
『捕捉出来ない、少し待て』
『後退!後退しろ!』
一瞬、黒が目前を通り過ぎた。衝撃。
「―――ッ!」
恐怖を抑え込み、敵機の背後へミサイルを放つ。が、一瞬でこちらを向いた敵機のマシンガンで迎撃される。
『敵機グレネード展開!退却、退却!』
『レッド2、4、巻き込まれた!』
『イエロー1、敵機が速すぎる!足止めされて後退出来ない!』
「レッド1、早急にブルーの援護を!」
『全滅してるぞ!イエロー8、ミサイル射出!』
残存機数を確認し、愕然とする。接敵から1、2分しか経過していないと言うのに。
と、唐突に黒がこちらを向いた。気付けば、銃口もこちらを向いている。バックブースター。瞬きの間に、ゼロ距離。射撃が来る。
驚愕しているうちに、モニタは戦闘不能を示していた。
『戦闘演習を終了、戦闘時間2分42秒、クレイドル防衛隊全滅、ストレイド健在』
改めての戦闘時間を聞かされ、再び愕然とする。各部隊からあー、やら、うー、やらうめき声が聞こえる。
『皆様お疲れ様でした。行動制限を解除します』
少女の声が聞こえてすぐ、膝をつき硬直していた愛機が直立する。模擬戦闘用のシステムが解除され、通常モードへ移行される。
『まさかとは思いますが、怪我をされた方は?』
今度は男の声だ。ブリーフィングで聞いた、あのネクストのリンクスだろうか。
お優しい事で。そう思いつつ、各隊からの返答を待つ。問題無しの報告。
「こちらイエロー1、大丈夫だ」
『イエロー1、先のミサイル射出タイミングは素晴らしかった。怪我人ゼロも、良いことです』
「迎撃されたがな。しかし、想像以上だ。完敗だよ」
『オペレーターが優秀ですので』
そこまで言って、黒が目前に来る。ノーマルよりも少しばかり背の高い、今やどのネクストよりも有名であるそのネクスト。ストレイド。
『しかし、お互い苦労しますね。企業連も、面倒を押し付ける。わざわざクレイドルから降りてくるのは難儀でしたでしょう』
「確かにな。だがこちらとしては、あんたと模擬戦出来ただけで満足だよ」
本心を伝えれば、それはよかったと回答が来る。
「完敗と言うのが気に食わんが、まだまだ鍛錬が足りないと言うことだ」
『ええ、その通り』
「そこは否定しろよ」
苦笑。向こうからも笑い声が聞こえてきて、何だ、割ととっつきやすい奴じゃないかという感想を得る。
『ハイン様、そろそろ帰投時間です』
先の少女の声が聞こえ、ストレイドのリンクスも了解の意を伝える。
「―――この声、もしかしてリリウム・ウォルコットか?それなら、あんたの女と言う噂は間違いでもないようだ」
『ええ。ちなみに正確には、私の嫁ですが』
『ちょ、ハイン様!』
怒ったような、あるいは恥ずかしがっているような大声が来る。軽く笑みがこぼれる。
「それはそれは、お幸せに」
言われずとも。間髪入れずに肯定される。少し面喰い、軽く噴き出した。
『では、私はこれで。またいつか、機会があれば』
「ああ、是非とも」
それでは。言って、黒が飛翔する。
去っていくその背を追いながら、あの機動を思い返していた。異常としか表現しようが無い。
「・・・各機、帰投するぞ」
この後に待ち構えるであろうお上からのお叱りを想像しながら、一つだけ溜め息を吐いた。今年のクリスマスは忙しそうである。
あの男は、クリスマスはBFFのリリウム・ウォルコットとネンゴロなのだろうか。そう考えると、不意に胸にもやもやした違和感を覚える。
同期のレッド1へ通信を入れる。
「なあ。リリウム・ウォルコットって、もしかして美人なのか?」
『・・・何だ、そんなことも知らんのか?相当の美少女だぞ。―――データを送ろう』
いや待て、何でリリウム・ウォルコットのデータなんて機に持ち込んでんだ。そんな疑問を投げかける前に、モニタに女の顔が映し出される。
途端、胸の違和感が殺意に変わった。あの野郎、ふざけやがって。
『・・・おい、どうした?急に黙り込んで』
「どうもせん」
確かに気の良さそうな奴だが、こればっかりは看過できん。そう思う。
「―――全機へ。次の機会には、何としてもあの男を打ち倒すぞ」
『はぁ?何言ってんだ、あんなの負かせられる訳が・・・』
「黙れ」
そう一蹴して、今後の訓練プランを想像する。あんな化け物に対応するには、かなり厳しい内容となるだろうことは明らかである。
だが、それでも。だとしても。
「こちとらクリスマスなど、今日の始末書に忙殺される予定だと言うのに・・・!」
そのことを考えれば、一度くらいあの男にぐぅの音吐かせないと割に合わない。そう言うことだ。
今日は、18日。イブは一週間後。ああ、確実に終わらないな。
どうせ終わったところで女が居ない事は、考えないようにしておいた。
「・・・いや、言うな、何も言うな」
「何がですか」
廊下。ダン・モロはその男と出会った途端、しかめっ面との組み合わせでそんなことを言い放った。
無論、男には何のことだかさっぱりわからず、挨拶さえ忘れてしまっている。
「わかってんだよ、どうせ幸せ真っ盛りでしょうよリリウムさんとよ。畜生、畜生、何なんだよ、不公平だろ・・・」
ぶつぶつとした言い草に、私?と、男の隣に居たリリウム・ウォルコットが首を傾げる。
先まで着ていた耐Gスーツの入った鞄を左手に、男の眉が寄る。
「・・・新手のAMS障害ですか?」
「んなわけねえだろ」
「では何なのですか」
何も言うなと言われましても。そう続け、溜め息をひとつ。
「リリウムとの幸せなひとときを、お裾分け出来ないではないですか」
「そいつがああああああああああああァァァァァァァァァァァァ!」
突如として目をひん剥いたダン・モロが男に殴りかかった。が、左廻し蹴りでインターセプトされる。
グキ、と嫌な音。
「危ないじゃないですか、何です急に。リリウムに何かあったら、いくら貴方でも容赦しませんよ?」
宣言通り容赦無しの蹴りを受け、ドス、と大きな音を立てて接地する。
驚いたリリウムが駆け寄り、大丈夫ですかと声を掛けた。が、反応は無い。
「は、ハイン様、ダン・モロ様がぴくりとも動きません・・・」
「心配せずとも大丈夫ですよ、リリウム」
何せ、と、男がリリウム・ウォルコットを向く。
「ロイが言っていました。彼には、ギャグキャラ補正なるものが掛かっていると」
「いや、いくらギャグキャラ補正っつっても、死ぬときは死ぬけどな」
二人が声に振り向く。ロイ、と男。よう、とロイ。良く会いますね、全くだ。そんな遣り取り。
「そいつがそんななのは、来たる24日を共にする相手が居ないからだ」
「24日?」
首を傾げつつ反芻、さもわかっていない風。
しかしながら男の隣を居場所としている少女には伝わったようで、ああ、と言うような顔をしている。
「ご存知なのですか、リリウム」
ええ、とリリウム・ウォルコット。
「クリスマス・イブですよ、ハイン様。25日、クリスマス当日に向けた前夜祭です」
「まさかクリスマスも知らないなんて言うなよ?」
聞けば、さすがにそれは、と返答が来る。そのまま続けられる。
「これでも生まれはキリスト教圏だったもので―――ああ、今でこそ無宗教ですけれどね」
「何だ。信じてないのか、神様」
「私が信仰するのであれば、少なくともロイの言うところの神様ではありませんし」
言われ、ロイは少し考える。この男の過去を少し振り返り、納得。しかしながら、と男。
「多少の仕来り程度なら実行しますよ。様式美、とでも言いましょうか?」
「ああ、結婚式とかだろ?」
「ええ、是非に」
例によって例の如く一瞬で真っ赤になるリリウムを軽く冷やかしながら、キリが無いので先へ行く。
「お節介かもしれないが、ちゃんとリリウムにプレゼント選んでやれよ?」
ぴくりと反応したリリウムが、あの、と申し訳無さそうに口を挟む。
「ロイ様、そんな・・・」
「良いんだって。前にも言ったが、リリウムはもう少し我侭言ったほうが良いんだ」
なあ、と男に尋ねる。笑顔の頷き。
「ええ、ロイ。私としては、リリウムにはもっと、そうであって欲しいですね」
「で、それを口実に余計甘ったるい生活サイクルを築いていきたいわけだな」
笑顔が一瞬で神妙な顔つきへ変貌する。何かを噛み締めるような沈黙が続き、次いで真っ直ぐな視線が来る。
「―――ああ、それは素晴らしいな」
「・・・お前、ここ最近キャラおかしいよな」
そうですか?と尋ねる男の表情はいつも通りの笑顔に戻り、しかしリリウムはぽかんとしている。
まあいい、と咳払い。
「んじゃ、俺は行くぜ」
「あ、はい、ロイ様」
「ロイも、ウィン・Dと素敵なクリスマスを」
「おう。抜かりないぜ」
じゃあな、と立ち去るロイを見送りながら、あ、とリリウムが声を上げた。どうしましたか、と男。
「・・・あの、どうしましょうか」
例によって白目ひん剥きつつピクピク痙攣しているダン・モロを心配そうに見下ろしながら、そう呟いた。
「死ぬかと思ったわ!」
「すみません、ダン・モロ。加減を間違えました」
立てますか?差し出された手を、ダン・モロ様が掴みハイン様が引き上げる。
というか、加減も何も無かったと思いますが。
「ロイから伺いました。申し訳御座いません、貴方への配慮が足りませんでしたね」
「そんな申し訳無さそうにされても逆に腹立つ!」
本当に申し訳無さそうな表情が一転、じゃあどうしろと?と半分怒ったような表情に変わる。
いや怒んなよと言われ、はあ、と一息。すぐに、大体いつもの表情に戻る。
「・・・そうですね、無礼のお詫びに何かお力になりましょうか?」
「あ、なら、リリウムをイブの日1日貸してくれ」
「撃ち殺しますよ?」
「う、嘘、嘘だって!冗談だって!」
にこやかにグロッグを取り出したハイン様をたしなめて、仕舞っていただく。失礼、とハイン様。
「でしたら、女性を紹介しましょうか?」
「・・・え?」
唐突の提案に驚いて横顔を捉える。いつも通りの笑顔。
マジかよ!と飛びつく勢いで尋ねてくるダン・モロ様に、嘘は言いませんと返された。
少々お待ち下さいと端末を取り出す。操作する。耳に当てる。
誰でしょうか。
疑問が過ぎり、彼がお久しぶりです、と切り出す。なんとなくその声色からは、仲が良さそうな印象を得られた。
24日は暇ですか、会いたいという人が居る、そのような内容を簡潔に述べ、軽い世間話。それでは、と挨拶。やっぱり仲が宜しそうな声。
彼が向き直る。
「別に構わないそうですよ。ちなみに、当日3日前にも時間はあるそうです」
「―――俺は、未だかつてないほどお前に感謝している。これが人類愛ってヤツか・・・!」
「それはそれは」
有難う、有難うとダン・モロ様が彼の手を握り繰り返す。その瞳は、いつの間にか濡れていた。
「しかし、私に出来るのは紹介まで。あとはダン・モロ、貴方次第です」
「ああ、わかったぜ・・・!」
「待ち合わせの時間と場所はどうします?21日、一度会っておかれますか?私から彼女に伝えておきましょう」
そうだな、と一瞬悩み、21日の11時と、カラードのエントランスを指定される。ひとつ頷くハイン様。
「了解しました。お伝えしましょう」
「で、それよりも美人なのか?俺の知っている人か?」
「私の主観評価で宜しければ。そうですね、美人と解答しましょう。ちなみに、貴方も彼女も、互いに知り合いの筈ですよ」
美人なんですか。そうですか。彼と知り合いらしいその美人さんに、少しばかりの嫉妬を覚える。
「ほう、そうだな・・・メイさんか!?」
「メイ?その名ではありませんね、残念ですが」
まあ、お楽しみと言うことで。ハイン様がそう言うと、ダン・モロ様がそうだな、と頷く。
「じゃあ俺、用意しに行くからな!」
「ええ、ダン・モロ。素敵なクリスマスを」
「今日のことは忘れないぜ!さすがは俺の見込んだ男だ、この借りは必ず返す!」
「期待しないで待っています」
おうよ!と大声を発し、じゃあな、と走っていってしまう。挨拶の暇もなく、ふたり取り残される。元気な方だと思う。
いや、今はそれよりも。
「・・・ハイン様、どなたなのですか?」
「どなたも何も、貴女もご存じの方ですよ」
その言葉にふと、いつかGA本社で出会った、彼と知り合いらしいオペレーターの女性が浮かぶ。
ええ。確かに、美人でした。
それにGA社と繋がり深いダン・モロ様なら、彼女と互いに知り合い同士であってもおかしくはない。
・・・そうですか、そうですか。
「もしかして、怒っていますか?」
「・・・怒ってません」
覗き込んでくる彼から視線をそらす。その美人の連絡先を知っていたり、あるいは男性を紹介できるほど親密だったり、そして何よりも。
「ハイン様、あんなに仲睦まじく会話されるほどだったんですね、GA社のオペレーターの方と」
「は?」
「良いんです、もう。私なんかよりずっと美人ですよね、お綺麗ですものね。ダン・モロ様に紹介せずとも、貴方が・・・」
「ああ、それは勘違いですよ。おっと、何だかデジャビュを感じます」
勘違い、その言葉にちらと彼を伺えば、例の意地悪そうな笑顔を浮かべている。ははあ、と声が掛かる。
「成る程、これがロイの言っていた、ヤキモチと言う奴ですね。実際、その姿を見るのは初めてだ」
「え、ち、違・・・」
違わない。言い当てられてむっとして、そっぽを向く。
「・・・全部ハイン様のせいです。もう」
溜め息が漏れた。おや、とハイン様。
「機嫌を直してください、リリウム」
「知りません!」
「・・・では」
彼が身体をこちらへ寄せるのを感じ、左へ一歩避ける。
正対。
「・・・む。逃げられては抱き留められないではないですか」
「今日はその手に乗りませんからね。うやむやにされてしまうのは嫌です」
で、誰なんですか。少しだけ語気を強めると、誰も何も、と彼。
「セレンですが」
―――――えぇ?
脳内で、大変にだらしのない声が漏れた気がする。
「私が誰かに紹介できる女性なんて、彼女くらいしか居ませんからね。いや、ダン・モロも喜んでくれているようで良かった」
「・・・え、じゃあ、先ほどのお電話も?」
「勿論です。確認されますか?」
端末の画面を見せられ、そこにはセレン・ヘイズの文字と、今日の日付、大体数分前の時刻表示。
「ね?」
固まっていると、首を傾げつつ微笑まれる。自分ひとり空回りしていた状況にようやく意識が向き、顔が熱くなる。
俯く。とてもとても恥ずかしい。
「あ、あの、失礼しました・・・」
「いえいえ、ヤキモチなるものを拝見できましたし。やはりリリウムは驚異的なほどに可愛らしい」
「い、言わないで下さい・・・」
「そうですか。では」
そこまで言って、一歩先に居る彼が表情をそのままに手を広げる。上目に伺い、大体の意味を汲み取る。一歩進み、彼の腕の中へ。
「―――良かった。避けられたときには少しだけですが、ショックだったのですよ?」
そう言う彼の背を掴み、彼の鼓動を感じる。すみません、と一言。いえ、と彼。
「たまにはそんな姿も見せて下さい。・・・けれど、何度でも言いましょう。私には、貴女だけですからね。この指輪と、妹に誓って」
一気にそう言って、私を包んでくれる腕の力が強くなる。
「―――はい」
何度同じ過ちを犯せば気が済むのか。何と言うか、私は嫉妬深いのだろうか。軽く自己嫌悪。
けれど髪を撫でられ、そんなものは何処かへ行ってしまう。いや、行ってしまってはまずいのだが、仕方ない。仕方がないんだ。
「さて、名残惜しいですが」
身体が少し離れ、彼が真正面に来る。少しだけ気恥ずかしくて、赤いであろう顔を彼の胸に押し付け隠す。
それでさえ何も言わずに受け入れてくれて、髪を梳き続けてくれる彼が愛しい。擦り寄る。幸せ。
・・・あれ?
「あの、ハイン様」
「何です?」
浮かんだ疑問に、顔のほてりが不意に冷める。けれど彼から離れてしまうのは勿体無くて、少しだけ彼の胸から離れたところで尋ねる。
「セレン様って、おいくつなのでしょうか」
彼の手が止まり、顔をあげて伺えば、数瞬、何かを考えるような表情。
「・・・さあ?」
そう言う彼は、どこか遠い目をしていた。
「・・・まあ、嘘は吐いていませんし。そもそも男女関係の下に年齢など、大した障害でもないでしょう」
そういうものなのだろうか。だが、彼が言うのならそうなのだろう。
クリスマスまで、あと一週間。話題がそこにシフトしていき、私たちは帰路についた。
今日の夕飯は、サーモンのムニエルだ。
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