Written by えむ
キタサキジャンクション。
それは砂漠のほぼど真ん中にある高速道路交差点であり、インテリオルが保有する各コロニーを結ぶ陸上交通の要でもある。
その要とも言える場所が、ノーカウントと正体不明のネクストに占拠された。ノーカウントを駆るパッチ・ザ・グッドラックの性格からして、彼が主犯でないのは明らかだ。それに彼は独立傭兵という立場でもあることから、恐らくはただ雇われたに過ぎないのだろうと、インテリオルは判断した。
だが、いずれにしても地上の要所を抑えられることは、インテリオルにとっては痛手であった。そこですぐさま奪還のための戦力を送り込むことにしたのだが―――
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目覚ましが鳴りだした。例によって毎度の如く、無意識でその目覚ましを掴み、壁に向かって投げつけるイリア。だが、堅牢さに定評のある目覚ましは止まらない。主を起こすべく、ただただひたすらに鳴り続けている。
「……んん…」
やがて、いつものようにイリアはノロノロとベッドから這い出し、目覚まし時計を拾い上げ、スイッチで止める。
「……壁、壊れなくなったけど……なんだか…なぁ」
結局あれから数回の投擲を経て、ついに壁に穴があいてしまったため、イリアの部屋壁は修理することとなった。だが、このまま修理しても、同じ悲劇が繰り返されるのは確実。そこで、コレを機に、部屋壁を総とっかえした。
壁紙によって、普通の部屋にしか見えないが、イリアは知っている。その裏にある壁が、装甲板。しかもよりにもよって有澤重工製の奴であることを。
たぶんネクストが襲撃してきても、無事だろう。というか、もはやちょっとしたシェルター状態である。ちなみに実行したのは、スタッフの一人。壁の修理なら任せて!!と言って、装甲板を買ってきた時には、誰もが目を疑った。
「まぁ、いいか」
これで修理代とかに手持ち資金が持っていかれることはないのだから。そう前向きに考えることにして、イリアは朝の支度に取り掛かるのであった。
さくっと着替えを済ませ、手乗りAMIDAのアミちゃんと一緒にキッチンへ。そして朝食を取っていると、オウガが携帯用端末片手にやってきた。
「あぁ、イリア君。いいところに。インテリオルから依頼が来てるよ」
「何かのテスト?」
「いや、対ネクスト戦を前提としたミッションみたいだ」
そう言って、携帯用端末を渡す。
「キタサキジャンクションの奪還…?」
「うむ。しかもイリア君名指しだ」
「私、名指しって。私のランクは、下から2番目だよ…?」
イリアのカラードでのランクは相当に低い。理由は、カラードの依頼をほとんど受けず、独自に試作装備等のテスト役をこなしていたためであり、実績と言うものがほとんどない。それに加えて、越えられない壁が一つ。現状ではキルドーザーにしか勝てていないことになる。非公式には上位リンクスとも互角以上だったりするのだが。閑話休題
「そうだけど、実際の実力はもっと上に相当するだろう? そもそも、非公式だけどグレートウォールを襲撃した際、あの雷電をほぼ一方的に行動不能にしてる。それだけでも相当のことなんだ。たぶん、その辺の評価もあってだろうね。まぁご指名が来た理由は別の理由なんだろうけど」
「そうなの?」
イリアが尋ねると、オウガは小さく頷いた。
「インテリオルのトップリンクスであるウィン・D・ファンション。それにスティレットの二名は現在別ミッションに出撃中。インテリオルの独立傭兵であるロイ・ザーランドも同じだ。テレジアさんは例によって、トーラス施設防衛以外では動かないから、今動けるのはエイ・プールのヴェーロノークとトーラスよりの独立傭兵であるイリア君だけということになる」
「じゃあ、エイさんと協働なるんだ…」
「そうなるね。まぁ、今回赤字にはならないだろう。なんせ、イリア君の愛機アレだから………」
ガレージに立つイリアの機体を思い出す。
一応発想はあった。だけど、まさかほんとうにそれを実行に移す人間がいるとは思いもしなかったのである。しかもそれが身近な人間となれば、なおさらだ。
なにか言いたげなオウガに、イリアは不機嫌な表情と共に告げる。
「私の得意な高機動をフルに発揮できて、なおかつEN管理の負担が少ないアセンで考えた結果があれなの。それに訓練でも射撃戦メインでいくより、勝率一気に上がったんだよ、私?」
「それはわかってる。わかってるんだけどさ……」
実際シミュレーションで動きを見せてもらって、射撃主体相手の機体――スティレット相手に対しても引けをとらなかったのは、この目で確認している。でも、やっぱり何か釈然としない物を感じるオウガであった。
「ともかく、だからエイさんが思いっきり撃っても大丈夫―――」
そう言いかけて、ASミサイルを大量にばら撒くヴェーロノークの姿が脳裏をよぎった。
どうしてだろう。こちらが弾薬費ゼロに抑えても、報酬が危険な気がするのは。
「――だと思いたい」
結局大丈夫と断言できず、そこで折れてしまうイリアの姿があった。
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とりあえず依頼は受けることにして、イリア達はすぐにミッションの拠点となる基地へと向かった。
その後、すぐにブリーフィングルームへと通され、そこでエイ・プールと顔を合わせる。
「イリアちゃん、お久しぶりです♪」
「エイさんこそ。元気してました?」
「えぇ、ずいぶん前に大赤字出しちゃいましたけど、その後はなんとかうまくやってますよ。あぁ、これ家庭菜園で作った無農薬のキャベツなんです。後でわけてあげますね」
「あ、ありがとうございます」
いつもながら、どこかおっとりした感じのエイ・プールであるが、相変わらずと言う考え方で行けば、むしろ変わらず元気と言う事で、どこかほっとするもの。
そのままついでに日常会話の一つでも――と思うが結局、その前に仲介人の人が来たため、おしゃべりはお預けとなった。
「それではミッションの詳細について、ご説明します」
やり手のキャリアウーマンと言った感じの仲介人が静かに説明を始める。試作装備テストの時とは状況がまったく使う雰囲気に、自然とイリアの表情も緊張気味だ。
「ミッション・ターゲットは、キタサキジャンクションを占拠するネクスト、2体です。1体はノーカウント。ランク27の逆脚タイプ。もう1体の四脚タイプは、詳細が確認できていません。今回は、細かなミッション・プランはありませんあなたにすべてお任せします。ターゲットを破壊してください」
「…ふぇ?」
全て任せる。その言葉にイリアの目が点になった。
「任せるって何を…?」
「ですから全てをです。戦術・作戦…。目標達成さえできれば、手段は問わないと言う事です」
「あ、なるほど…」
手段を問わない。つまり状況はインテリオルにとっては、それだけ重大ということなのだろうか。政治的な思惑とかその辺はさっぱりのイリアにとって、キタサキジャンクションの重要性というのはよくわからない。だが、とりあえず大変なことらしいというのだけは、イリアでもわかった。
「作戦と言っても、エイさんが後衛で私が前衛ってぐらいしか、浮かばないよ…?」
「そうですね。そういえば……イリアちゃん。機体の武装やアセンを一部変更したって聞きましたけど」
「うん。ようやく「自分の機体」を見つけたの」
エイ・プールの言葉に、どこか嬉しそうな笑みを浮かべるイリア。だが、その陰ではオウガが静かに一人頭を抱えていた。
「…? あのオウガさん? さっきから何を…?」
「いや、あの機体で本当に実戦に出るのかと思うと、どうしても不安で―――」
「…どんな機体なんです?」
「実際に見れば、すぐわかるよ…」
そう言って、オウガは大きなため息をひとつつくのであった。
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輸送機のハッチが開放され、2機のネクストが投下される。
一機はイリアの駆る対ネクスト戦を想定してアセンを見直した「自分の機体」。もう一機は、エイ・プールの駆るヴェーロノークである。
まずイリアの機体が着地し、その少し後方にヴェーロノークが着地する。それが支援機であることを自覚しての立ち位置であることは明らかだ。
「………え?」
現地にてイリアの機体を見たエイ・プールは、思わず自分の目をこすった。
ランスタン頭部にアリーヤコア。そしてユディト手足のアクアビットマンもどきなスタイルは変わってはいない。前と全く同じだ。
違うのは武装とエクステンション。ただ、そのチョイスが少々問題だ。いや道理には適っているのかもしれないが、それでも突っ込みの一つでも入れたくなる。
背中と肩にオーメル製の追加ブースター。そして両腕にインテリオル製のレーザーブレードLB-ELTANIN。以上。
そう、レーザーブレードしか積んでいないのだ。もしかすると格納に何か入れているかもしれないが、それでも主力武器がレーザーブレード以外にないのは、誰の目にも明らかだった。
「イリアちゃん。その…それで大丈夫なんですか?」
「…大丈夫。色んな意味で、本当の現実での実戦だけど。行けるよ、絶対」
エイ・プールの問いかけにハッキリとした声で答えるも、その手は僅かに震えていた。武者震いか、それとも無意識のうちに恐怖を感じているのか。シミュレーションとは違う現実での対ネクスト戦。下手をすれば、間違いなく命を落とす本物の戦場。
だが、ここまで来たのだ。やらないわけにはいかない。
「まずはノーカウントに一撃狙っていくけど、そのあとはエイさんに任せるね。ASミサイルならECMも関係ないだろうし」
「わ、わかりました。任せておいてください」
AMS接続の度合いを再チェック。いつもながら、最高の状態だ。
「それじゃあ行こうか」
自分の機体に語りかける。
「あの人」は「あの人」。「自分」は「自分」。今でも密かな目標にはしているが、同じになることはできないことはわかっている。
自分は、魔を滅する銀色の弾丸になることはできない。だが似て非となる物にならなれる。同じ銀でありながら、弾丸とは違う武器――刃を選び、「あの人」のことを意識しつつ、自分は自分で見つけた道を進むという決意の表明として、愛機にその名を冠した。
「――シルバーエッジ」
あの人が乗っていた機体。シルバーバレットのエンブレムを模して作った銀色の剣のエンブレムが陽の光によって微か煌く。
「イリア・T・レイフィール。行きますっ!!」
初っ端からオーバードブースターを吹かし、イリアのシルバーエッジは、まずその矛先をノーカウントへと向けた。
~つづく~
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☆作者の一言コーナー☆
ちょっぴりお久しぶりな感じの、えむです。
まさかの追加B満載ブレオン機。ありがちだけど他小説で同じアセンはいないから問題ないと思った。悩んだけど後悔はしていない。
さて次回は、狙撃機VSブレオンと言う展開ですね。相手も相手なので簡単に懐には飛び込ませないでしょうが、果たして―――
それでは、ここまでお付き合いありがとうございましたー。