小説/長編

Written by えむ


 インテリオル・ユニオン本社。今、そこは少しばかり慌しい状況であった。
 直接は関係ない立場とは言え、インテリオル・ユニオン本社へと出向中のミセス・テレジア、何かの異変を敏感に察知していた。

「…何かあったのかしらね」

 今はのんびりとティータイム中だ。
 ちょっとした用事でインテリオル本社へと出向したのが、いざ到着してみると何か起こったらしく、待ちぼうけを食らって、仕方がないのでカフェで時間を潰しているの現状。
 ただ、その本社内のカフェ。そのすぐ近くを行き交う人々の一部の表情が、どことなく固いのだ。
 一見すると大した変化ではないようにも思えるが、見る者が見れば、明らかに何かが起こったと感じ取れる。戦場で感じる緊迫感、しかも味方が被害を受けたと聞いた時のような、そんな雰囲気がうっすらとだが確かに漂っているのである。
 とはいえ、企業グループで互いに牽制しあったり、ちょっかいを出し合ったりしている現在。そう珍しい光景ではない。こんな言い方をしたら怒られるかもしれないが、よくあることだ。
 恐らく、どこかインテリオルの施設か基地が襲撃を受けたと言ったところだろう。
 まぁトーラスの施設じゃないし、何も言ってこないからどうでもいいか。そんな気分で、のんびりとお茶を楽しんでいたテレジアであったが、携帯端末の呼び出し音が静かに、その音を奏でた。

「はい、もしもし?」
『テレジアか。突然だけど、カリオンは出せるかな? インテリオルの方から、ミミル軍港に接近中の艦隊迎撃に出て欲しいとの通知が来てるんだが』
「なんだか唐突ね…」
『うむ。なんでもGAに雇われた独立傭兵によってミミル軍港が壊滅的な打撃を受けたらしい。そして、戦力が激減した軍港を占拠するために、GAの第3艦隊が接近中らしくてな。それの迎撃に力を貸して欲しいそうだ』
「ミミル軍港は、インテリオルの大きな拠点の一つですものね…。確かにトーラスの施設が一番近いけど。マティアス。あなた忘れてない? 今、私はあなたの代わりに仕方なくインテリオルに出向してるのよ?」
『…あぁ、そういえばそうだった』

 マティアスと呼ばれた彼は、何を隠そうトーラス設立の立役者の一人であり、今はトーラスの名義上は社長的な立場にいる男であった。だが、トーラスがどんな場所となっているかを考えれば、この男がどんな人物かは言うまでもない。

『すまんな。どうしても、今やってる研究から離れることが出来ないんだ』

 インテリオルグループの代表会議を、研究が忙しいというそれだけのことですっぽかす、彼もまた根っからの技術者だった。まぁ、本当に重要そうな会議の時には、しっかりと出てくるのでインテリオル側もとやかくは言わないのだが。もはや毎度のことだし。
 
「だから、私が出るのは無理。それにトーラスの施設にいたとしても、カリオンは分解整備中。…あの子で良いんじゃない?」
『…ふむ。そうだな、イリア君も立派なリンクスだし。実戦経験も、もっとさせておいてもいいか。わかった。こちらから伝えておくとしよう』
「えぇ、お願いするわ。それじゃあ、よろしく」

 そう言って通信を切る。そして、お茶――緑茶――の入った湯飲みを手に取る。

「GA第3艦隊…。まぁ、あの子なら大丈夫でしょう」

 あの子は、技術も才能もある。足りないものがあるとしたら、それは経験。だが、それは今から積み重ねていくしかない。そればかりは、時間をかけていくしかない。
 だけど心配はしていない。だからこそ、テレジアはすぐに思いを切り替え、手元のお茶へと視線を落とした。両手で湯呑みを持ち、お茶――緑茶――を一口飲む。
 
「…ふぅ…」

 ほっと一息を付く。昼下がりの時間、日の当たる場所でお茶を飲む。それはテレジアのささやかな楽しみの一つであった。

□ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □

 さて、舞台は変わってトーラス地上支部。

「……私のアクアビットマンが……また……」
「これはトーラスとアクアビット。その二つを融合させた新型機だ。とりあえず試作と言う事で、イリア君のランスタンをベースに弄らせてもらったけど」

 トーラスの上から、インテリオルからの要請についての話を聞き、早速出撃するためにガレージへとやってきたイリアの前にあったのは、またしても変わり果てた愛機の姿だった。
 いや、前よりは随分マシだろう。アクアビットマンの面影もちゃんと残ってるし。 
 具体的には脚部と腕部をアルギュロスに換装。武装はオーメルのコジマブレードx2と、背中にコジマミサイルBISMUTHx2と言う全身コジマ装備である。あと肩には、追加整波装置EUPHORIAと言ったところだ。あと内装もいじってあるが、諸事情により割愛する。
 ちなみに敢えてオーメルのコジマブレードを使っているのは、使用回数の多さ=継戦能力を意識してのことである。当初はコジマライフルを使うつもりだったのだが、弾数が少なく通常戦力すら倒しきれなくなる恐れが出てきたので、こうなったことをこの場で付け加えておこう。

「オウガさん。なんで…こんなことに…?」
「あぁ、話すと長くなるのだが…」

 半ば呆然としつつイリアが、全ての元凶としか思えないオウガに尋ねると、彼は不敵な笑みを浮かべ、静かに語り始めた。

~回想タイム~

「こ、これは…っ」

 ミミル軍港が襲撃された時の映像を見たオウガは衝撃を受けていた。いや、オウガだけではない。その場にいた数人のネクスト方面のメンバー全員が衝撃を受けていた。
 モニターの中では、一機のタンク型ネクストが次々と駐留していた艦隊やノーマルをグレネードで吹き飛ばしていた。そして、手持ちのグレネードを撃ち切ったかと思えば、格納からさらにグレネードを取り出し、攻撃を続行する。

「グレオンタンクだと…。GAめ、なんて機体を出してきたんだ…っ。素敵過ぎるじゃないか!!」

 潔いまでのグレネード尽くし。その心意気に、その場にいる誰もが感銘すら受けていた。
 だが同時に、ちょっとした対抗心も芽生えてきた。そして「思いついたが吉日」と言う社訓のあるトーラス社員一同の行動は早かった。

「これはなんとしても対抗せざるを得ない…!!そう思わないか、みんな!!」

 オウガが振り返って、その場にいる一同が一斉に頷く。

「あぁ…!!GAがグレオンなら、こっちは言うまでもないだろう」
「だが、待て。コジマ兵器は総じて弾数が少ない。短期決戦ならともかく、通常のミッションでは逆に不利になりかねないぞ」
「何を言ってる。ロマンを追求するのに、実用性なんてどうでもいいんだろう!!」
「うちにはタンクないからなぁ…。なぁ、上に掛け合ってタンク脚部を購入してもらおうぜ」
「そうだな。そうしよう」
「でも、どうする? とりあえずは今ある機体を使うしかないぞ」
「今ある機体か……」

 周囲を見回す。
 そこには分解整備中のカリオンと、イリアのランスタンが並んでいた。

「カリオンは駄目だな。こっちはGAEの奴だし」
「あぁ、でも隣にいいのがあるじゃないか」
「アクアビットマン。うむ、これをベースにすれば良いのができそうだ。これこそ我らの理想にふさわしい」
「よし、それなら話は早い。わが社の社訓にも「思い立ったが吉日」と言う言葉がある。すぐに着手するぞ!!」
「「「おーっ!!」」」

~回想タイム終わり~

「というわけだ」
「………」

 グレオンに対抗してコジマオン。ただそれだけで生まれたのが、この機体であった。

「オウガさん……」

 俯いたままイリアが静かに口を開く。心なしか、手も少し震えているようだ。
 
「な、なんだい…?」

 どことなく不吉な予感がしたオウガは、その場で身構えながら答える。ふと気が付けば、この機体を用意するのに協力したスタッフ達は全員物陰へと隠れていたりする。
 やっぱりイリアのランスタンを直接弄ったのはまずかっただろうか。そんなことを思いつつ、オウガが戦々恐々と、イリアの次の言葉を待っていると―――

「これ、すごく良い!!」

 イリアは満面の笑顔を浮かべ、オウガの両手を握る。

「トーラスマンも格好良いと思ってたけど、これもすごく格好良い!!アクアビットマンには勝てないけど、二番目くらいに!!」

 それこそ目を輝かせて喜ぶイリアに、オウガはホッと密かに胸をなでおろす。

「とりあえず、これで出るから。出撃準備の方をお願いね」
「え?マジで?」

 そして続く言葉に、思わず目を丸くする。これは完全に自分とスタッフ一同の趣味で組んだようなものなので、実戦で使うことはあまり考えていなかったのである。そのため内装は前のままで、EN総消費はイエローラインに達しているほどの負荷っぷりだったりする。

「だって、あまり時間ないし」

 そう言って、イリアはアクアビットーラスマン(仮称)へと、さっさと乗り込んでしまう。

「イ、イリア君!!さ、参考までに敵の戦力は何か教えてくれ!!」

 相手によっては絶対に止めなければいけない。そう思って、オウガが尋ねると、すぐに返事が返って来た。

『GAの第3艦隊だよ』
「あ、なんだ…」

 それを聞いてほっとする。艦隊相手なら、とりあえず負けることはない。防御力とPA整波性能は元から高い。弾数的な不安はあるが、それでも一発で一つは確実に沈められる火力はある機体だ。最低でも32隻沈めることは可能なので、ミッションとしても問題はないだろう。
 つまり心配することはない。
 となれば、あとやることは決まっている。

「よーし、イリア君!!コジオン(コジマオンリーの略)機の力を存分に見せ付けてくるんだ!!」
『わかった!!』






 その日、第3艦隊はコジマ兵装満載のネクストによって壊滅的な打撃を受け撤退。ミミル軍港への進撃は、かろうじて阻止された。
 コジマミサイルをばらまき、攻撃を分厚いPAで防ぎつつ接近し、コジマブレードで艦を一隻ずつ吹き飛ばしていく。そのネクストは第3艦隊の生き残りに少なからずトラウマを植えつけることとなったのだが、それはイリアの知るところではない。
 そして最後のオチとして。
 今回のミッションを依頼したインテリオルは、トーラスから送られてきた弾薬費を見て頭を抱えることになった。
 コジマミサイル20発と、両腕のコジマブレード全弾撃ちつくしたアクアビットーラスマンの総弾薬費は、実に430000にもなっていたのである。
 だがそれは予兆にすぎなかった。その後、GAのリンクス撃破を依頼した独立傭兵が再び同じレベルの弾薬費をたたき出したのである。だが、この時のインテリオルは知るはずもないことであった。

~つづく~


now:27
today:1
yesterday:1
total:1621


移設元コメント


☆作者の一言コーナー☆
 第3話にて、早くも今回の作風に不安を覚え始めている、えむです(ぇ
 ちょっと自信なくなってきた…orz
 
 それはさておき、アクアビットーラスマン。
 実際に使うとEN周りが、それはもうすごいことに…。スペック度外視で組んだとは言え、EN総消費が黄色になるとか初めて見ました…。
 ネタ以外の何者でない機体ですが、通常戦力相手なら戦えます、さすがに。
 弾薬費すごいですがw

 そしてVOWでレックスがやはりとんでもない出費を叩き出してた話を思い出しましたが、今見直してみると弾薬費を間違っているような気がしなくもない…。
 まぁ、過ぎたことなのでいまさらですが><

 何はともあれ、今回も読んでいただいてありがとうございました。
 また次回、お会いしましょうっ。


コメント



小説へ戻る