小説/長編

Written by えむ


 ネクストが、ブーストを吹かし駆け抜けていく。
 その先で、それを迎え撃とうとするのはラインアークの防衛部隊だ。

『き、企業のネクストだ!!』
『くそ、こんな時にっ』
『迎撃だ!!迎撃しろ!!』

 迎撃すべく放火を浴びせるが、そのネクストには届かない。

『プライマルアーマーだ!まずはプライマルアーマーを減衰させるんだ!』
『駄目だ。それ以前に―――当たらん…!!』

 その砲火を見切っているかのような、緩やかな動きでそれを左右に交わし、距離を詰めていく。
 そして攻撃。両手に装備しているアルゼブラ製のアサルトライフルACACIAでMTを撃ち抜きつつ、さらに前へ。そして至近距離まで近づいたところで、おもむろにクイックブーストを吹かし、その爆発的な加速を持って、仕留め切れなかったMTの間をすり抜ける。
 緩から急へ急激な動きのシフトに反応が遅れる。
 後ろへ抜けると同時にクイックターン。MTの背中へと機体を向かせ、すぐさまバックブーストで下がりつつ、残ったMTを撃破する。
 その一連の動きに、区切りはなかった。流れるような滑らかさと共に、再び機体を前へと向け、さらに先へと進めていく。

 進路上に新たな敵影が現れる。今度はMTとは違う。――ノーマルだ。
 だがやることはかわらない。
 道路を蹴り、上へと跳ねる。そして前へとクイックブーストをかける。地面との摩擦と言う束縛から解放され、クイックブーストの出力が最大限に発揮される。
 そのままノーマル部隊の頭上へ。そして自ら、ノーマル部隊の陣形のど真ん中へと飛び込む。
 ――敵陣ど真ん中。無謀ともいえる突撃ではあったが、それを攻撃しようとしたノーマルの動きが一瞬だけ固まった。
 仲間への流れ弾による誤射。その可能性に一瞬躊躇いを覚えてしまったのだ。だが単独で動く身には関係のない話。周りは―――全て敵なのだから。
 両手のアサルトライフルを左右に向ける。そして引き金を引いたまま、右方向へクイックターンを行い、クイックターンで切り返す。
 周りにいたノーマルが何発もの弾丸を受け、その場で動かなくなる。

「…次でラスト…かな」

 足場を蹴る。そして、飛ぶ。
 向かう先は反対側の道路上にいるノーマル部隊数機。それを撃破すれば、このミッションは終わる。
 接近して攻撃してもいいが、この距離ならばその必要はないと判断し、両背中に積んだグレネードキャノンGRB-TRAVERSを展開する。そしてノーマル部隊の陣形の真ん中目掛けて砲撃。
 榴弾が炸裂し、爆炎の中へと一瞬にしてノーマル部隊の姿が消えていく。
 レーダーに反応はない。目標は全て撃破だ。

『ミッション完了。ご苦労様』

 通信機から聞こえてきたのは男の声だった。

『さて。ラインアークの守護神が、すでにこちらに向かってるらしいから、さっさと帰ってきた方がいい。それとも――挑むつもりかな?』
「まさか、冗談じゃない…」

 そう答えたのは、若い女の声だった。微妙に、あどけなさすら感じる。そんな声

『だよねー』
「うん」

 AMSを通じて、機体を翻させ、その場からすぐに撤退を開始する。ブーストを使って空へ。ちょうどその時だった。レーダーに一つの反応が現れたのは。
 滞空したまま、そちらを振り返る。遥か向こうから、光の翼に見える特徴的なオーバードブーストの光を輝かせた、純白の機体が近づいてくるのが見える

「ホワイトグリント……」

 生きた伝説。最強のリンクス。だけどぶっちゃけ、戦うことはないだろう。もし戦うことがあったとしても、それはオーダーマッチ程度。実戦で合間見えることは絶対にない。
 理由は簡単だ。自分は独立傭兵ではない。ある企業の専属リンクスの一人として、カラードに登録を行い、その実力を測る試金石を兼ねた「企業連の嫌がらせ」として来たに過ぎないのだから。
 オーバードブーストを起動し、一気にその場から離脱する。
 背を向けて逃げる。全力で逃げる。こんな形で命を賭けたやりとりなど―――まっぴらごめんなのだから。

□ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □

「……本当に新人なのか?」

 その新人リンクスの戦闘記録を見た誰もが、各企業のほとんどが、そんな感想を抱いていた。動き一つ見ても、それは今まで見てきた新人リンクスとはレベルが違う。間違いなく熟練者。もしくは、それ以上かもしれない。
 さらにクイックターンを連続使用しての切り返し。それは紛れも無く、高等テクニックである「二段クイックブースト」によるものだった。カラードのリンクスでも、それが出来る人間は限りなく少ないと言うのに、新人が初戦でいきなりそれをやってのけているのだ。
 驚かないわけがない。
 適性検査の結果によると、AMS適性値が相当高いことがわかっている。これに並ぶのはランク2 リリウム・ウォルコットとランク10 ハリ。この二人くらいだろうか。
 リンクスとしては間違いなく、掘り出し物といっても言い逸材だった。それどころか、自分の企業に引き入れることが出来れば、大幅な戦力強化にもなる。そう、誰もが考えた。
 実は、もう一人新人リンクスがいたりするのだが。ラインアークの結果はともかく、そのあとに模擬戦にてダン・モロに敗北したことが明らかになり、そっちは半ば絶望視されていたりする。
 そういうこともあって、その新人リンクスへの期待は絶大であった。だが改めて映像を見れば、ちょっとばかり嫌な予感もしてくるのも事実だった。主に機体的な意味で。
 一応かつて上位ランクにて、同じ機体を使うリンクスがいたとは言え、それでもぶっちゃけ……いやな予感しかしない。
 そして、ふと脳裏に浮かんだ一つの考えに、何かの間違いであってほしいとすら思い、改めて簡易プロフィールへと目を通す。そして明らかになった現実は残酷な物だった。

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 名前:イリア・T・レイフィール
 年齢:18
 性別:女性
 所属:『トーラス』
 経歴:(省略)

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 トーラス。よりにもよって、あのトーラス。つまり彼女は、すでに首輪付きということである。この事実に誰もが敗北感を覚えた。こんなとんでもいない逸材をトーラス如きに取られたと言う事実に。
 しかしトーラス所属と言う事は、リンクスとしての危険度は少ないと言う事でもある。今のトーラスは、一言で言ってしまえば技術者の集まりであり、企業間の経済戦争など全く興味の外。さすがに関係施設などに攻撃を行えば、防衛のために遠慮なく迎撃してくるものの…。基本的に向こうから何かをしてくることは非常に稀なケースなのだ。
 その最たる例がトーラスの抱えるリンクス。ミセス・テレジアだ。彼女は上位ランクに匹敵する腕を持ちながら、トーラス関連施設の防衛とオーダーマッチにこそ出てくるが、それ以外の局面で出てくることはほとんどない。
 だから、その驚異的とも言える腕を持つ新人リンクスも。きっと似たような位置づけなのだろうと、誰もが判断した。そして、それは大体間違いではない。






「初ミッション、お疲れ様~」

 トーラス地上支部、ネクスト用のハンガーにて。愛機であるランスタンから降りてきたイリアを、オペレーターがわりの技術者が笑顔で迎えた。

「いやぁ、実戦でもあそこまで動かせるとは。他の企業の連中が唖然とするのが目に浮かびそうだよ」
「ほ、褒めたって何もないからね。そもそも、私は新人さんだし。防衛以外だと、主にテストパイロットとして色々することになるわけだし」

 テストパイロット。それが彼女のトーラスにおいての主な役割であった。
 主にトーラスの技術者達が趣味やロマンで作り上げたネクスト用の試作装備や、データ収集のためのネクスト運用。そのための人材として、ここにやってきたのである。

「でもわからないぞ? インテリオルとかから要請とか来たら、立場上あんまり断れないからねぇ」
「…むぅ…」

 傘下なのだから仕方ない。そこはイリア自身もわかっているらしく、反論はしない。

「それにしても君が来てくれて助かったよ。テレジアさんはテレジアさんで頼りになるんだが、やっぱり―――」
「ストップ。それ以上言うと、締められるよ」
「おっと危ない危ない。ともかく、イリア君が来てくれて本当に助かるよ」
「えへへへへ」

 そう言われれば、イリアは素直に嬉しそうに笑みを浮かべた。
 どうやら彼女本人としても、トーラスに来たことは満更ではないらしい。

 さて、ここで唐突だが。
 まだ若いのに正気か!?とか、あれだけの実力と可能性を秘めておいて、どうしてトーラスなんかを選んだんだ…とか。もしかすると読者の皆さんは考えたかもしれない。
 そこで、その考えへの答えとして。一つのエピソードをここでお話しよう。
 それは彼女の愛機についてのエピソードで、話は彼女が初ミッションでラインアークへと赴くことになった時にさかのぼる。

「おめでとう、イリア君。カラードから正式にリンクスとしての登録完了通知が届いたよ」
「え?本当に?」
「うむ。それと共に企業連から依頼も来ている。まあ、新人リンクスなら誰でもやる通過儀礼みたいなものだがね。だが、どっちにしても君のネクストを用意しなければいけないわけだ」
「じゃあ、私専用のネクストが?」
「そのとおり。すでにネクストのカタログは、ここに用意した!!インテリオルからは、同社グループ内の機体にしろといってるが、そんなのはどうでもいい。トーラスの社訓にはこういうものがある。『やりたいようにやれ』。よって、君が乗りたい機体を選ぶといい」
「じゃあアクアビットマンがいい!!」※この間。約0.5秒。

 こうして、彼女の愛機はアクアビットマンもといランスタンとなり、今まさにガレージに置かれているのが、それなわけである。しかも明るい青みがかった緑カラー。コジマカラーのランスタンである。

「ともかく、これで正式に我がトーラスのリンクスとして色々やってもらおうことになる。これから、よろしく頼むよ」
「うんっ。こちらこそ、よろしくねっ」

 明るい声で答え、その場で丁寧に頭を下げる。
 そして、この日から。イリアのリンクスとしての日々が始まるのであった。

 これは、トーラスを舞台にした。一人の若きリンクスの笑いと涙の日々を描いた記録である。

~つづく~


☆作者のコメントコーナー☆

 懲りずに第二作目突入した、えむです。
 色々ツッコミどころはあると思いますが、これでいいんだ。正直ここだけの話。トーラスなら何をしても許されそうな気がした…。後悔はしてない。

 なお、今作ではネクスト戦闘よりも、それ以外の部分…例えば日常とか。その他のリンクスとの交流とか。そっち方面に重きを置けたらと思っています。 
 同時に、VOWよりもネタに、フリーダムにと走る予定でもありますが、生暖かく見守っていただければ幸いです。
 それでは、再び…これからよろしくおねがしますm(__)m


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