Written by 独鴉
カラードランクマッチ
予算が十分に溜まり、ネクストでの戦闘に慣れてきたことから当分の間カラードのオーダーマッチを行うことになった。
オーダーマッチ方法は実戦式ではなく、
ネクストの統合制御体をカラードの特別なシステムを介してリンクし、実戦差ながらの戦闘を行う方式をとる。
無論AMS負荷も十分に与えられ、特殊システムを介した事でGの衝撃さえも擬似的に再現してリンクスに与えられる。
オーダーマッチは各クレイドルやコロニーなどでリアルタイム放映され、
カラードランクだけではなく企業の戦力図にも影響を及ぼしている。
その為各企業は新機体と新武装の開発に予算を捻出し、新しいリンクスの育成にも力を注いでいる。
GAのNSS計画が一番知られている例の一つだ。
優れたリンクスとネクストが相手では通常戦力など役に立たないことくらい企業の上層部は知っている。
セレンさんはカラードから戻ってくるなり告げた。
「当分の間カラードマッチを行い、カラードランクを上げることに専念する」
「カラードマッチですか?」
唖然としている自分を前にセレンさんは話を続ける。
「カラードランクが低いままではこちらに回ってくる依頼も限定され、報酬もそれに見合ったものとなる」
実際に今までの戦果と報酬の比率はそれほど良くはない。
DRAGONSLYERを使って弾薬費を削ってはいるが、ストレイドの修理費やエアキャリアーの維持費など諸経費を差し引けば多くは残らない。
「ランク20程度まで大まかな話を通しておいた。明日から連日のカラードマッチになる。覚悟しておけ」
相変わらず優しさの欠片さえも感じさせない言葉で話を締めくくり、セレンさんは自分の仕事場である情報・解析室へと戻っていった。
ミッション中に適切な指示を出すには常日頃からの情報収集と解析が必要ということだ。
情報・解析室の扉を開くと暗い部屋の電気をつけた。
「ふう・・・」
ため息をつきながらイスに座り、テーブルに置いてあるカップを手に取る。空いた手でキーボードを叩くと複数のディスプレイが今までの戦闘映像を表示した。
「・・・・まだまだだな」
ストレイドのリンクスは常時安定したAMS数値を表示し、高速下やQB時でも安定している。
だが安定している反面、その速さに頼った行動や攻撃が多く見られ、
今のレベルでは量産型AFやランクの低い相手ならどうにかなるだろうが、
中堅ランクの相手やGWやSOMのようなAFには通用しないだろう。
「初戦はキルドーザーか」
キーボードを叩くと目の前のディスプレイにキルドーザーのデータが表示される。
ネクスト キルドーザー、機体構成はサンシャインL型にGA特注のGAN01‐SS‐WD、別名ドーザーブレードを両腕に装備。
背にVERMILLON01とGRB‐TRAVERSを装備している。
戦い方は猪突猛進を形にしたOBによる突撃とドーザーブレードによる殴打とミサイルの乱射。主に受ける依頼はGA系のものが多い。
リンクス チャンピオンチャップス、元GAアメリカ 土木建設作業員、男性、35歳、AMS適正劣等、
戦闘中は雄叫びを上げ、精神を奮い立たせることで低いAMS適正をカバーしている。
「こいつに苦戦するようなら・・・、一から訓練のやり直しだな」
セレンは他のデータを表示させるとリンクスの訓練結果を調べ始める。
キルドーザーとの戦い
カラードマッチ待機室にはストレイドのリンクスともう一人、大柄の男、チャンピオン。
チャップスが現在行われているマッチング、ノーカウント対セレブリティ・アッシュの戦いが終わるのを静かに待っていた。
古びたパイロットスーツを着たその男は壁にかけられているディスプレイには目もくれず、
シケモクをくわえながら壁際のイスに座り右手に持った写真をじっと見ていた。
無精ひげと若干白髪交じりの風貌から、恐らく30代後半から40代前半と言ったところだ。
彼の事は良く知らないが、写真の人物は差し詰め家族か恋人だろう。
チャンピオン・チャップスに声をかけようとイスから立ち上がったとき、ひときわ大きい歓声が響き渡った。
歓声の元であるディスプレイには満身創痍のノーカウントと大破したセレブリティ・アッシュが表示されている。
「ランク30キルドーザー、ランク31ストレイド、以上のリンクスは15分以内にネクストに搭乗してください」
戦闘準備を促す放送にチャンピオン・チャップスは手に持っていた写真をパイロットスーツの胸ポケットにしまうとイスから立ち上がった。
「っ!」
ゆっくりとこちらを向いたチャンピオン・チャップスを見てストレイドのリンクスは息を呑んだ。
いままで反対側に居たため気付かなかったが、こちらを向いたチャンピオン・チャップスは左目を含めた左上半身を機械化、
首のAMSジャックから一本のコードが腕に接続されている。
「ストレイドのリンクス。俺は手加減できるほど上手くネクストを扱えない。気をつけてくれ」
そういうとチャンピオン・チャップスは待機室を出て行った。
気合と根性と突撃魂を持つチャンピオン・チャップスのキルドーザーは対ネクストや対ノーマル戦などはほとんど行わず、
大型AFの進行上邪魔な建造物の排除などを主に行っている。GAの仲介人いわく「ネクスト級土木機械」らしい。
「手加減できない・・・か、戦闘で手加減してもらえるなんて思っていませんよ」
そう呟くと待機室出る。
シミュレーター内級ピースシティエリア・・・
普段と同じようにエアキャリアーから降下し、カラードのオーターマッチは始まった。
AMSからは現実となんら変わらない情報が伝えられ、ここが仮想空間だという事を認識しづらくなっている。
現実との差異を確認するためMARVEの銃口を近くのビルに向けたり下ろしたりを繰り返す。
「何をしている!すでに戦闘は始まっているのだぞ!」
セレンさんの声に意識を戦闘に傾けると、背後のビルが音を立てて崩れ始め、OBで光を放ちながらキルドーザーが現れた。
まだキルドーザーとの距離があり、ストレイドはQBTで旋回するとMARVEを向けた。
このままMARVEとTRESORで狙い撃ちにしながら後退すればそれだけで片付くはずだ。
「どおぉすこぉぉぉいぃぃ!」
雄叫びを上げた途端、キルドーザーは音速の壁を幾つも突き破り、一瞬でストレイドの目の前に接近していた。
(なっ!?)
ストレイドが右SQBを全力で噴かすと、すぐ真横をドーザーブレードがPAを容易く貫き、キルドーザーそのものがOBの速度を維持したまま突き抜けていった。
「外したか!」
チャンピオン・チャップスがそうつぶやいたとき、ストレイドは砂煙を巻き上げながらQTで機体を180度回転させ、
MARVEとTRESORをキルドーザーに向けた。
QTの衝撃と高速回転で狙いは曖昧になりやすいが、高速戦闘に適している03‐AALIYAH/Hの複眼は正確にキルドーザーを捕らえる。
同時に撃ち放たれた銃弾とプラズマ粒子がOBで移動し続けるキルドーザーの背後に叩き込まれた。
周囲にプラズマ粒子が四散し、立て続けに連射された無数の弾丸がキルドーザーの装甲板にぶつかり激しい火花を上げている。
だが、キルドーザーは構わずOB状態のままどんどんストレイドとの距離をとっていき、廃ビルの裏へとチャンピオン・チャップスは機体を滑り込ませた。
チャンピオン・チャップスは激しい頭痛に耐えながらストレイドが接近してくるだろう数秒後に備えてPAを回復させ始める。
霧散しかけていたPAはジェネレーターからコジマ粒子の供給を受け元の状態へと戻り始める。
キルドーザーのベースとなったのはGA系ネクストSSL型、お世辞にも性能が高いとは言えず、
GA製の対実弾性の高さと頑丈な割に若干軽量ということ以外、元となったSS型や廉価型のSSE型にも劣っている。
その為、リンクス戦争以来失敗作の烙印を押されたのと同様の扱いを受け、
チャンピオン・チャップスのキルドーザーを除いてもはやSSL型を使うリンクスはいない。
徐々にPA形成率は上昇し、完全な状態にまで回復するには最低でもあと8秒は必要だったがもう時間は無かった。
レーダーにはこちらにブーストと思われる速度で向かってくるストレイドが表示されている。
「うおおおりゃ!!」
キルドーザーは気合と共にSQBを噴かすと廃ビルから飛び出し、
ロックせずに背のVERMILLION01ミサイルとGRB‐TRAVERSグレネードを発射した。
ミサイルとグレネードの衝撃と爆炎によってPAを揺らがされただけで、ストレイドは大した傷もなく爆炎の防壁を突き抜けてきた。
キルドーザーは両背の武装をパージ、チャンピオン・チャップスは最初からストレイドと真正面ぶつかるつもりだった。
ミサイルとグレネードでPAを削り取れば、キルドーザーのパワーと速度、そしてドーザーブレードの質量と頑強さを全て叩き込めばネクストさえも一撃で鉄の塊に変えられる。
「だっしゃぁぁぁぁっ!」
チャンピオン・チャップス気合と怒声の混じった雄叫びを上げAMSに命令を入力、情報統合体は各部推力系の限界まで出力数値を設定、
地響きのような音を発しながら全てのブースターが起動した。
頑丈な基礎構造を持つSSL型の各関節が軋み、悲鳴をあげながら無骨な機体が音速の壁を幾つも突き破り、ストレイドに真正面から特攻をかける。
互いに距離が近い状態から行ったキルドーザーのOBとMQBにも関らずストレイドは瞬時に反応、
BQBとブーストで後方に下がりながらMARVEを乱射しつつ、DRAGONSLYER発生させた。
だが、余りにも近すぎた為迎撃が間に合わず、左腕のドーザーブレードがストレイドのMARVEを押し潰し、
振り上げられた右腕のドーザーブレードがストレイドに叩き込まれようとしていたが、
張り詰めた糸が切れたようにキルドーザーの動きが鈍くなった。
低いAMS適正を精神力で補っている以上、限界が来れば通常以下に性能が落ちてしまう。
普段行わないカラードマッチと対ネクスト戦レベルでの高AMS負荷に2分足らずで限界が来てしまったようだ。
動きが鈍くなったキルドーザーにストレイドはDRAGONSLYERをコアに突き刺しカラードマッチは終わった。
「やっぱりかぁぁ・・・」
カラードマッチが終わり、激しい頭痛に耐えながらチャンピオン・チャップスは機体から降りた。
そしてすぐにリンクス用の薬を飲むと割れそうに鳴り響く頭を押さえてすぐ近くのイスに座った。
ネクストの置かれている格納庫には彼以外誰もいない。独立傭兵の中でも土木屋や解体屋呼ばわりされ、最初から誰も俺の勝利を期待してはいない。
カラードマッチで自分に賭け手くれる奴も、友人であるアルドラのリンクス ヤンのみだった。
それからゆっくりとキルドーザーが普段着の古びた作業服に着替え終えた後、カラードのGAブースで次の依頼を探しているとき、
ストレイドのリンクスがオペレーターに連れられて戦いの礼を伝えにきた。
「今回の戦いは内のリンクスのいい経験になった礼を言う」
「ありがとうございました」
ストレイドのオペレーターは随分綺麗な女性だったが、鋭い眼つきの上に笑顔のひとつも浮かべていない為、
本当に礼をのべているのか分からなかった。だがストレイドのリンクスの方は丁寧に頭を下げていた。
「いや、こちらもいい経験をさせてもらったよ」
普段着ている作業服のポケットに入れてあるシケモクを取り出すと口にくわえた。
「俺は用があるのでこれで」
オペレーターとリンクスに別れを告げるとチャンピオン・チャップスはGAブースから出ていった。
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