Written by 独鴉
・・・・・・後編・・・・・・・・
フィードバックはアステリズムの僅かな予備動作から肩のブースタを点火し、機体を加速させながら自由落下、
直撃位置から外れたハイレーザーはプライマルアーマーを貫通した。
ほとんど減衰した様子もない事からフィードバックの制波性能ではサックスよりも危険なことがわかる。
一方アステリズムもMSACミサイルを引き付けた後、逆方向に肩のブースタを点火し回避しつつPMミサイルを発射。
経験から相手の先を読むローディーと、高いAMS適正故に視覚認識後回避することができるジュリアス、
その戦い方はまったく逆なのだが勝敗が着く気配はない。
しかしネオニダスからの通信と消えたネクスト反応から月輪が撃破されたことがわかると戦況は変わった。
「やられたのか……。ネオニダス」
視界にはフィードバックだけではなく遠くから自らの機体、アステリズムに向かってくる重量級の機体が見えている。
ひどい損傷を負っているがフィードバックの援護に入ってくる以上勝敗は決してしまった。
「どうやらメルツェルの言うとおり本物ということか」
リンクスがラスター18を撃破してからメルツェルは彼に目を付けていたが、飼い主である霞スミカは付け入る隙を与えず、
接触することはできなかった。霞スミカがリンクスに接触させないためどんな手を使ったかは分からないが、
奴が居ればORCA旅団がここまでカラードに押される事もなかっただろう。
フィードバックとサックスから撃ち放たれたミサイルの群れに紛れ、フィードバックのバズーカ弾がアステリズムのコアに撃ちこまれた。
衝撃で機体が停止し動けなくなったアステリズムに、サックスの発射した32連動ミサイルが迫っている。
迫りくるミサイルを回避できないと悟りジュリアス・エメリーは覚悟を決めた。
「すまんな、皆。 最早、共に成就は叶わん…」
ミサイルが次々と直撃しプライマルアーマーは消失、それでも終わらないミサイルの攻撃は機体に着弾し銀色の装甲板は飛び散り、
美しい外見は見るも無残な姿に変わっていく。一発のミサイルがブースタに直撃し、
飛行し続ける事の出来なくなったアステリズムは湖面に落下後水中に沈み淡い緑色が水に広がっていった。
「……あの天才がORCA旅団につくとは、アスピナが何も知らないとは言えないな」
ローディーが話したとおりアスピナ研の企業体質から考えてジュリアスは優秀な被験者、
取引も無く大事な被験者が逃げきれるとは考えにくい。ORCA旅団とアスピナとの間で何かしらの取引が行われたと考えるのが妥当だろう。
残った衛星破壊砲エーレンベルグを破壊するためサックスが再び移動を始めたとき、オペレータルームの長距離レーダーにまた新たな反応が現れる。
「まて、また増援だ」
エリア外に設置されている光学カメラとセンサー類によって種別特定が行われ、数秒とかからず機種が特定された。
だが、その機種がわかるとセレンは呆れとも取れる声でリンクスに伝えた。
「プロトタプネクストとは懐かしい物を」
左右のバランスを著しく崩していると思われる巨大な5連装ガトリングを装備し、もう片方にはネクスト級以上の威力を持つコジマキャノン、
真正面から撃ち合うには難しい相手だが欠点である旋回性能を突けば勝てない相手ではない。だがそれもサックスが損傷を負っていなければの話だ。
「いま送信するプログラムを実行しろ。制波機能がある程度戻るはずだ」
セレンはつい先ほどレインから送られてきたプログラムをサックスへと転送、最低限プライマルアーマーがなければどうしようもない。
受信したプログラムをリンクスが実行すると停止していた制波機能が再スタート、
しかしコジマ粒子の放出口も歪みプライマルアーマーを十分な出力で展開できない。
さらにサックスの装甲状態は最悪、コジマキャノンの直撃には耐えられないだろう。
ミサイルとガトリングもアステリズム相手に使い果たしており、衛星破壊砲は後一機残っているが弾薬がない状態では戦闘を行えるわけがない。
「すまんな、 こちらフィードバック撤退する」
ローディーも長時間の接続とネクスト同士の戦闘によって疲弊しており、これ以上戦闘を継続することは不可能、戦域外へとオーバードブーストで離脱していく。
「カラードから増援だ。 レ・ザネ・フォルが残敵を排除するため到着する」
サックスが撃墜されるかフィードバックの戦闘継続可能時間が短いことから予備戦力としてレ・ザネ・フォルが待機、
どちらかもしくは両方共が継続戦闘不可能となった場合後を引き継ぐため戦域外で控えていた。
「弾薬が切れでもまだやるつもりか?」
「まだ武器はあります」
サックスは右手のハンドガンを捨てると各座した月輪が転がっている場所まで移動、地面に落ちていたCANOPUSを掴んだ。
目立った損傷も無く使用に問題があるようには見えない。
「システム情報の書き換えさえすればまだ使えます。 弾もまだあります」
「GA系列の腕部ではエネルギー供給が不足して十分な威力は発揮できないぞ」
エネルギー供給出力が低いGAタイプの腕部では、光学タイプの武装を十分に扱うことはできない。
調整が行われたとしても最適時の80%程度の出力が限界だろう
「継戦許可をください。まだ戦えます」
(まだやるつもりなのか)
弾薬が尽きても現地調達してまで戦闘を望むのかセレンには理解できなかった。しかしここで無理に退かせた所でリンクスは納得できず、
後々に響いてしまう可能性があるため戦いたいというならサポートしてやるしかない。
「……許可する。 やれるだけやってみろ」
「ありがとうございます」
リンクスは統合制御体を介してシステムを書き換え始めた。
そのころ戦闘領域に到達したプロトタイプネクスト・アレサは残った衛星破壊砲を守る為、
対岸にいるサックスとの中間位置に入り防衛体制を整える。迎撃ではなく防衛に入ることから、
時間があればさらなる増援を出せる余力があるのだろう。セレンは一刻も早く敵勢力排除後通常軍に引き渡したほうがよいと考えたが、
プロトタイプネクストを撃破しなければ通常軍にまわすことは出来ない。
そしてスティレットをよく知っているセレンは彼女に一人に任せてもさほど心配は無いが、
サポートとなるリンクスが居た方が優位性を保ち易いことに違いは無い。
「レ・ザネ・フォルが到着した。 共闘する女ではないが頼りにはなる」
「スティレットだ…、お互いリンクスだ 連携も無いだろう。好きにやれ 私もそうする」
まだシステムの書き換えが完了していないため、行動できないサックスを置いてスティレットは単独でプロトタイプネクストに向かっていく。
「相変わらずか、書き換えが終わり次第お前が上手くサポートしてやれ」
サポート、リンクス戦争を越えたスティレットにサポートと言うとおかしな話だが、火力重視のタンク型であるため回避が難しく支援機がいたほうがよい。
[システムの書き換え完了、CANOPUSへのエネルギー供給を開始]
照準が修正されサックスのFCSが対応したものに変更される。だが月輪用にハード面で設定されているCANOPUS、
いつ不具合が発生し使用不能になるかわからないが、他に使用可能な武装が無い以上無理にでも使う必要があった。
最後の衛星破壊砲に向かい始めたとき、すでにレ・ザネ・フォルとアレサの戦闘は始まっていた。
ホバー型タンク脚部のため速度は平均的な2脚型や4脚型に比べて劣り、アレサの5連装ガトリングを回避するのは容易ではなく、
さらに遮蔽物の無い開けた場所となれば装甲だけではなく瞬間火力や最大火力がものを言う。
装甲・瞬間火力・最高速度、旋回性能を除いてレ・ザネ・フォルがアレサに勝る点はない。
だがスティレットも国家解体戦争とリンクス戦争を生き残った実力者、正面からの撃ち合いを避けつつ丘の高低差や高台を壁とし、
武装や装甲の不利を補うように戦っている。優位な位置を取ることで一見レ・ザネ・フォルが押しているように見えるが、
アレサが左腕につんでいるコジマキャノンを貰ってしまうと、
エネルギー兵器に対して有効なインテリオル製の機体とは言えプライマルアーマーごと焼かれかねない。
アレサの旋回速度よりも速く周囲を回りながら攻撃を行っていたが、
生き残っていたノーマルACのミサイルがレ・ザネ・フォル進行方向前の丘を削り取り段差に変えた。
「しまった!」
スティレットが気づいたときには急な傾斜によって減速、5連装のガトリングの掃射がプライマルアーマーに接触し、
急激に減衰していくプライマルアーマーにレ・ザネ・フォルは丘の反対側に機体を滑り込ませ回復を図ろうとした。
だが5連装のガトリングから撃ちだされる凶悪な銃雨は丘を削り取り、徐々にレ・ザネ・フォルの姿を現して行く。
「っ、なんて乱暴な」
戦闘・戦術訓練を受けたものならば対象が防壁等に身を隠した場合、迂回や跳躍などによって射線軸の確保を行うものだが、
強固な防壁自体を破壊するなど効率から考えても決して適切なことではない。一時的に銃撃が止んだタイミングでレ・ザネ・フォルは丘から飛び出す、
しかしアレサの左腕のコジマキャノンがレ・ザネ・フォルを追いかけていた。そのとき青い光がアレサに直撃、
5連装ガトリングのうち一つを焼き付かせ使用不能状態した。突然の攻撃にコジマキャノンの発射態勢を解くと、肩と背部のブースタを点火しサックスから距離をとった。
一方武装の一部を破壊したのにリンクスの表情は曇る。コジマキャノンを撃つため停止していたアレサのコアを狙ったにもかかわらず着弾箇所がずれる。
これはハードソフト両面で調整を受けていない為の照準誤差だ。
「照準がずれている……。FCS修正プログラムを実行」
再び統合制御体によって照準誤差の修正が始まり、その間CANOPUSで射撃の出来ないサックスはハンドガンでアレサをけん制するが、
適正距離を大幅に超えるため損傷は期待出来ない。
アレサはサックスの攻撃を気にも留めずレ・ザネ・フォルに対して攻撃を集中させ最大の脅威を取り除くつもりだろう。
修正時間は1分足らずなのだが戦場では一分一秒無駄に出来る時間は無い。
[FCS修正完了]
再調整の終わったCANOPUSでアレサに向けトリガーを引いたが、発射直後右腕部から黒い煙が噴出し警告メッセージが鳴り響く。
[エラー発生、右腕部エネルギー供給ライン強制切断]
ソフト及びハードの両面において調整が成されて初めて武装として成り立つ、ソフト面だけ書き換えた所でエラーが発生するのは当然のこと、
腕部がもつ供給量を超える出力要求に回路が耐え切れず強制切断されたらしい。
「回路再接続プロセス開始」
あと数発撃たなければアレサに対して牽制にならず無理にでも使用しなければならない。
しかしリンクスが考えているほど状態は良くなかった。
[供給ライン再接続不能、システムに異常発生FCS機能停止]
「こんなときに!」
さすがにこの状態に焦りリンクスは叫んでしまった。援護が必要な状態で武装が使用不能となればもはや手が無い。
レ・ザネ・フォルの機体構成はアレサに対して有利とは言い難くサックスが援護できないのは危険だ。
「もう退け! 武装が無ければ何も出来ないだろう!」
全ての武装が使用不能となり継続戦闘が完全に不可能となった今戦場に居続ける意味は無い。
さらにリンクスの精神が高揚し、脳波は再びセレンが危惧している状態にリンクスは近づいていた。
セレンの言葉よりも依頼よりも、必要以上の力を持つ対象へ向けられる排除意思に特化した状態、
戦闘に支障が無かったとしてもセレン自身認められるものではない。
リンクスはセレンが退けと命令を出したとき、すでに激しく乱れる感情とめまいに襲われ、その言葉はほとんど耳に届いていなかった。
薄れていく意識の中必死に自分を保とうと足掻いていたが、徐々に視界は暗闇に覆われ数字が現れる。
(また……⑨か)
⑨の数字、リンクスが知っているのは過去のRAVENであるということだけ。自らとの関連性も何も知らず、
ただこの数字が現れたとき自分を見失うきっかけ程度でしか理解していなかった。ただ繰り返しセレンから自分を見失わないように言われ、
気を張っていても同じ状態になろうとしている自分にリンクスは不甲斐なさを感じてしまった。
(……なさけないな)
精神を落ち着かせる訓練を行っていながら、自分自身気をつけていながらまた同じ結果になろうとしている。
自らの不甲斐なさと情けなさに苛立ち視界は完全に闇に覆われてしまう。
リンクスの意識が完全に表から消え去り、再度動き始めたサックスがレ・ゼネ・フォルのほうをみるとコジマライフルに光が集まり始めているのが見える。
威力が絶大な代わりにチャージ時間が長いため、撃つスティレットもタイミングを計りかねているのだろう。
エリア情報をみるとレ・ザネ・フォルは遮蔽物となる丘周辺に誘い込むように戦い、コジマライフルを撃つタイミングを作ろうとしている。
周辺はレ・ザネ・フォルのSULTANブラズマキャノンの影響でレーダーは使い物にならず下準備は出来上がっている。
何を思ったのかサックスはすでに使用不能のCANOPUSを構え、回りこみながらアレサに向かっていく。
むろんCANOPUSを発射することの出来ない以上ただの飾りに過ぎないが、相手がそのことを理解するまでは十分威嚇として使える。
実際に先ほどの5連装ガトリングの一門を潰したCANOPUSの威力を知っているアレサは、
サックスを脅威と見て攻撃目標を変更、距離をとってレーザーライフルを使用していたレ・ザネ・フォルよりも危険度が高いと判断したのだろう。
アレサは真正面から向かってくるサックスに対して後方に下がりながら丘の間を抜けつつガトリングを掃射、
推進力で勝るアレサとの距離は詰まるどころか徐々に離れサックスの損傷のみが増大していく。
溶解した装甲表面を激しく火花が飛び散り、不完全なプライマルアーマーは意図も簡単に霧散してしまう。
しかしサックスはコアを左腕で守りながら向うため装甲板は4連装のガトリングによって穴が穿たれ、
装甲板がはじけとびむき出しになった脚部駆動系に銃弾が撃ち込まれる。ブースタ系までやられたのか被弾した右足の補助ブースタが消え、
バランスを崩しひざをついた形で停止してしまう。
反撃不可能と見たのかアレサはコジマキャノン発射体制に入り動きを止めた。おそらく今までの掃射から残弾数が減ってきているためと、
サックスの構成からコジマキャノンの方が良いと考えたのだろう。
動けなくなったサックスに照準を合わせたコジマキャノンが光を放ち始めたとき、
丘の間から姿を現したレ・ザネ・フォルのコジマライフルがアレサに直撃した。
元々丘が乱立する周辺にアレサを誘い込み、高速移動を封じさらにプラズマ粒子でレーダーを使用不能にした状態で遮蔽物を利用しつつコジマライフルを使用する。
今回サックスが囮になったことでより確実に射撃が可能となり、アレサがコジマキャノンを使う為に動きを止める瞬間まで身を隠していた。
アレサはコジマキャノンに蓄えていたコジマ粒子の圧縮装置が壊れたのか腕を中心に爆発し、
放出されるコジマ粒子の煙は柱のように空に向かって伸びていった。戦闘が終わり企業連の通常軍が到着、
スティレットとサックスは輸送機に運び込まれカラードへと運ばれこの戦域での戦闘は終わりを告げた。
最大棒遠距離で事の顛末を見届けたストリクス・クアドラは戦域を離れるためその場を跡にしようとした。
「どこにいくのかしら? 王小龍」
少し離れた丘の上には2脚型のネクストが静かに佇んでいた。
レーダーに反応が無かったことを考えると随伴型ECM発生装置を使用しながら接近してきたのだろう。
「メアリー・シェリーか。いまさらなんのようだ」
王小龍は最初から話を聞くつもりが無いのか、ストリクス・クアドラの背部ユニットが開く。
コジマ粒子の光が収束しオーバーブーストユニットが起動、高速状態に入るとエリアを離脱していく。
「話す必要が有って?」
メアリー・シェリも話をする為に戦場にきたわけではない。すでにAMSとのリンクを終えていたプロメシュースの持つ2つの銃口は、
オバーブースト状態に入ったストリクス・クアドラを追いかけていた。狙い済ました一撃は右側オーバーブーストユニットに直撃、
バランスを崩したストリクス・クアドラは動きを止めてしまう。
「私の照準からは逃れられない」
セレン・ヘイズに頭を下げてまで手にいれたプロメシュースのパーツと情報、
単独行動をしているこの時しかリリウム・ウォルコットに邪魔されず、王小龍を仕留めることはできない。
怪我によって操縦技能の落ちた彼女ではリリウムが居た場合、王小竜を取り逃がしてしまうだろう。
最大射程から撃ち出される弾丸はストリクス・クアドラの脚部に食い込みその優位性を徐々に確かなものへと変えていく。
王小龍は政治家としては一流だがリンクスとしては2流以下、怪我によって腕が落ちたとはいえ、リンクス戦争を生き残ったメアリー・シェリーの敵ではない。
数分後連絡を受けアンビエントが戦闘エリアに到着した。カメラアイに映ったのはすでに各座し、
コジマ粒子を放出しているストリクス・クアドラの姿だった。
「王大人!」
正確に脚部とコアのみ損傷を負っている。そのことから並みのリンクスが相手ではなかった事はすぐリリウムにも理解できたが、
これほどの腕を持つリンクスが現カラードにいるとは知らない。
BFFの本社であり戦略拠点であった旗艦QUEEN’S LANCEが撃沈、
それからBFFを掌握する王小龍によって企業も通常軍もリンクスも全て彼の意のまま、
GAが復興したBFFを動かす為には王小龍は不要であり、BFF上層部の総入れ替えを考えている現在邪魔な存在だった。
そのためGAはクーガーを通してメアリー・シェリーと秘密裏に取引を行い、王小龍の排除を行うことを条件に彼女の要求をいくつかのんでいた。
「これで、誰も王小龍の傀儡になることはない……か」
これからリリウム・ウォルコットはBFFの象徴として動かなければならない。リリウムをBFFの象徴として権利全てを保護する、
それがメアリー・シェリーの出した唯一の条件でありBFFを守る答えだった。メアリー・シェリーはゆっくりと自らの部下達が待つカラードへと戻っていった。
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