Written by 独鴉
オリジナル・・・
・・・オリジナル任務 旧式ACのシルエット・・・
シャミアに誘われる形でアルゼブラ領内にレイヴンはとどまり、大破した機体の修理を行っていた。DULAKEやSELJQの
パーツを使って装甲や内部構造の修理をしていたが、撃ち砕かれた頭部と右腕は全て交換が必要なため修理はほとんど進んでいない。
大破したACは型式どころか生産メーカーの記録さえもろくに残っていない旧式、細かい改修等を受けているとはいえ
既存パーツとの適合性は高くなかった。そしてパーツの購入費とそれにともなう改修費は決して安いものではない。
「どうしたものかな」
リンクスは深くため息をつくと現行量産ACパーツのカタログを閉じる。レンタルガレージに備え付けられている
修理設備では簡易修理は可能でも、大幅な改造や大破したパーツの修理などは不可能。修理は完全に手図まり状態に陥っていた。
「リンクス!」
リンクスにとってここ一ヶ月で聞き慣れた声、振り返るとレンタルガレージ入り口にシャミアが立っていた。上層部から
待機命令を出されているため出撃できず、カラード内でシミュレータと旧式ACを使った訓練を行っている。
「私の訓練を手伝いなさい。テストパイロット相手じゃ訓練にならないのよ」
カラードランク中堅ともなると訓練する相手は同グループ内に限られ、他企業のリンクスを相手に訓練をすること
はまずない。その為独立傭兵を雇い訓練相手をさせることも珍しくは無かった。
「レッドラムの相手になるネクストなんて上位リンクス以外いないでしょう」
リンクスの言うとおり独立傭兵で彼女の訓練相手になるのはランク6 マイブリスくらいであり、実戦では一応の勝利を収めた
リンクスもシミュレータでは一方的に敗北。平面的とはいえ軽量4脚の高機動戦に着いて行くのは簡単な事ではなかった。
「あんたは戦場でついてきたじゃない。あの動きをまたできないの?」
レッドラムと戦った時、自分でありながら自分ではないものが戦っていたような錯覚をリンクスは覚えていた。
押し黙ってしまったリンクスを見てシャミアはため息を付きながら言葉を続けた。
「あんた…本当にあの機動がなぜ出来たのかわからないのね」
独立傭兵ゆえの守秘事項等理由などいくらでも付けられたが偽る気にはなれず、シャミアには解らないと伝えていた。
精神状態をフラットにする薬物の投与だけでは自分でさえ納得できない動き、自分自身を疑わなければならなかった。
「まぁいいわ。訓練相手にはなってもらうわよ。いいわね?」
「わかりました。善戦出来るように頑張りますが…」
「それでもいいわ。ロイ・ザーランドには頼みたくないのよ」
独立傭兵最高位ネクスト マイブリスを駆るリンクス ロイ・ザーランド、女性関係の噂が良く流れるリンクスだが
その実力は高く、シャミアもカラードマッチでは勝利を得たことは無かった。
「頼みたくないとは?」
リンクスはテーブルの上に広げてあった機体カタログを片付け、シャミアと共にシミュレータルームへと向かう。その間にもシャミアはロイの事を話し続けた。
「あの男しつこいのよ。自分が勝ったら一緒に酒とかデートとか色々つけてくるし」
リンクスはシミュレータルームに着くまで頷きながらシャミアの話を聞き続けた。彼女にとって男は自らを満足させる道具、
話も気分を害しないように聞きさえすればいいのだ。ただ、シャミアもロイ・ザーランドの誘いには少々困っている。
要約すればそういった話だった。
インテリオル・ユニオン領カラード施設・・・
貴重な絵画や調度品など部屋が置かれたインテリオル・ユニオン会長室に三つの人影があった。
「では、やはり戻ってはくれないということですか」
初老と思われる女性はイスに体を預けながら部下の報告を聞いていた。部下の表情は芳しくなく、報告内容が良くないことが見て取れる。
「申し訳ございません。何度も出向き交渉を行ったのですが」
丁寧に頭を下げているのだがその顔には冷や汗が流れ恐怖に引きつり始めていた。
「報告書を置いて下がりなさい」
会長の命令に部下は丁寧に頭を下げた後会長室から出て行った。会長は報告書を手に取るとまだ読んでいないのに机横に設置
されているシュレッダーにかけてしまった。そのまま背もたれのついたイスに体を預けるように座ると机に設置されている
キーボードを叩いた。会長室中央に設置されている3DディスプレイにはネクストACとハイエンドACが一機ずつ表示される。
「やはり動いてくれませんか」
不明勢力がネクストを運用しているとの情報がある以上、少しでも戦力の欲しかったインテリオル・ユニオンはリンクス戦争で
活躍したネクストAC シリエジオのリンクス 霞スミカとハイエンドACのパイロット レインを呼び戻そうと考え
何度も部下を向かわせたが、インテリオルに戻るという報告は一度も無かった。
アルゼブラ領カラード施設・・・
シミュレータ戦闘が終わった後、リンクスとシャミアは休憩を取るためにカフェに居た。高速戦闘は極度に精神をすり減らし、
いくら高速戦闘を得意とするシャミアと言えども疲労の色は隠せず、口も聞かずカフェのイスに身を預けながら紅茶を飲んでいた。
リンクスはというと静かにシャミアの向かい側の席で静かにその様子を見ているだけだった。そんな状態が20分も続くとシャミアが口を開いた。
「アールグレイ貰ってきて。アイスで」
リンクスはイスから静かに立つとカウンターまで行って飲み物を受け取り、再び静かに席に戻るとテーブルの上においた。
AMSにより頭痛は時に激しい為専用の痛み止めを服用するかアルコールを摂取して抑える事が多い。だがシャミアは薬も
アルコールも摂取するつもりが無く、頭痛が酷いときはカフェで静かに過ごしていることが多かった。
少し痛みが落ち着いてきたシャミアはポケットから小さな紙切れと封筒を取り出しテーブルのうえに置いた。
「各坐した旧式が一機倉庫にあったと思うわ。確か元研究資料と言っていたから、詳細は紙に書かせといたわ」
リンクスが封筒を開くと中には廃棄ACの使用許可証、そして紙切れには倉庫までの地図が描かれていた。
「廃倉庫で廃品扱いされているから使ってもいいのよ。倉庫だってここ数年間放置していたっていうし」
話すだけでもやはり頭に響くのかシャミアは痛みに表情を歪め、額に手を当てながらリンクスの持ってきたアールグレイに口を付けた。
リンクスはすでに痛み止めを服用しており、激痛が消え頭の中のもやもやだけが残っていた。そのもやもやも徐々に
薄れつつあり、後一時間もすれば平常時に戻るだろう。
「たまたま知っただけよ」
旧式ACの事をシャミアは偶然知った訳ではなかった。シャミアは自らの伝を辿ってリンクスの使っていた旧式ACに
似た機体を探していた。ただその事を素直に伝えることは避けたかった。
「ありがとう」
リンクスはそうシャミアに礼を伝えるとまだ頭のもやもやが抜けないまま倉庫へと向かっていった。その姿を見ながらシャミアはため息をついた後イスの背もたれに身を預けた。
アルゼブラ領旧AC研究施設・・・
企業連の条約によってカラード施設近郊ではネクストでの攻撃が禁止されているとはいえ、地上の施設は敵対企業によって
通常軍の攻撃を散発的に受けている。
そのためアルゼブラの研究施設も無事な状態とは言えず、崩れた建物や破壊された兵器の残骸が転がっていた。
廃墟とも言える古びた倉庫群の一角にシャミアの言った旧式ACは置かれていた。外装は焼け焦げ砕けて駆動部が露出して
しまっている箇所まであった。しかし頭部と腕部は原型を留めており、状態さえ良ければ修理を行うことでリンクスの機体に
使う事が出来るだろう。機体の構成も中量級と軽量級の中間的なものであり、リンクスの使っていた機体に近いものだった。
リンクスはACのコックピットまで上がると機体のコンソールの電源を起動させる。研究資料としてある程度使われて
いたのかコックピット内が明るくなり、ジェネレータのバッテリー機能がまだ生きている証拠だった。自己診断プログラムを
起動させると機体状態が調べ上げられる。一つ一つ診断結果が表示されていく中でほとんどがレッド表示なのだがヘッドパーツも
駆動系も基本機能は生きていた。全てのチェックが完了するのに1時間以上掛かる事が解るとリンクスはシートに寄りかかり目を瞑った。
「回避しろ!」
突然の言葉にリンクスは飛び起きる。だが視界に入ったのはコックピットではなく戦場そのものだった。ブースタが火を噴くように
機体を持ち上がらせ、すぐ横をプラズマ粒子と思われる光が通り過ぎていく。
「次が来る前に破壊する。一番、二番、三番機は私に着いて来い」
先を進む緑色の機体は軽量級の特徴である細身のフォルムであり、搭載されている武装も積載量に余裕を持たせ速度重視なのが
わかる。狭いトンネル内を移動しつつどこか目標へと向かっているようだった。
「三番機遅れているぞ。ペースを上げろ」
どうやらリンクスは三番機のカメラアイから状況を見ているらしく、通信機からは上官もしくは隊長機から檄が飛んでいた。
状況が飲み込めないままリンクスは武装の確認をする。ライフルとレーザーブレード、右背のレーダーに左背の6連装ミサイル、
エクステンションに迎撃ミサイル、基本構成なのだがもっとも安定している構成だった。パイロットはペダルを踏み込むとブースタが点火、
機体を加速させ先行している機体に追いつく。
「2番機は1番機のバックアップを忘れるな。3番機私のバックアップに付け」
最低限のブースタ点火によってエネルギー効率の悪い軽量級を巧みに操り高速機動を維持している。本来ならば中量級ACでは
着いて行くのもままならなかったが、バックアップが可能な範囲以上離れることはない。軽量級の機動力を生かせないといえばそうなるが、
長時間戦闘では損傷を控え弾薬節約する為連携が必須、そう考えれば先陣を切り高速機動で敵の照準を散らし、後衛が6連装
ミサイルかライフルで仕留める。安定した戦術と言えるが前衛に掛かる負担は決して少なくない。ときおり機体すれすれを砲弾が
掠めていき、楽な高速機動ではないことがわかる。
「3番機遅れるな」
しかし先行する機体は臆する事無く敵の照準を引き付け回避してみせる。一方向に跳躍しつつブースタを利用し反対方向への
切り替えし敵の攻撃を回避、機とみれば躊躇せずにOBで突撃し両手のショットガンで仕留める勇気、リンクスとは比べ物に
ならないほど練達したレイヴンだった。
【エネルギー充填完了まで残り10分】
広域放送から確認できる謎のカウントダウン、何が起きているかは不明だがこの部隊に関するものであることは間違いないだろう。
「1番機と2番機は右通路を、3番機と私は左通路を抜ける。到着次第制御装置を破壊しろ」
いくつかの隔壁を越えた先には大規模な空間が待っていた。何かのエネルギー増幅器と思われる装置が壁際に多数配置され、
天井一面特殊ガラスが貼られておりその先には星空が覗けた。星空を見ていると突然視界すぐ下にレーザー光が現れた。
いつの間にか背後に回っていた不明機の攻撃に回避の遅れた3番機はコアを貫かれ地面に転がった。コアを貫いた黒色のACは
距離を取るとレーザーブレードを消しブースタで距離を取る。
「情報に合ったAI機か」
リンクスは破壊されたACのカメラアイから戦いの行く末をただ見守るだけだった。
緑色のACはマシンガンの掃射を回避すると牽制に左肩の小型ロケットを連射、移動先を予測したロケット弾は正確にAI機の
移動先に直撃するはずだった。しかしEO(イクシーオービット)を起動させロケット弾を撃墜、EOを収納するとリニアキャノンと
レーザーキャノンを担いだ。AI機からリニアキャノンが撃ち出されたが緑色のACはなんなく回避、だがその移動先には時間差
を置いて撃ち出されたレーザーキャノンが迫っていた。
緑色のACはブースタを一瞬カットし逆方向へと最大出力で再度点火、左肩のエクステンションを粉々に打ち砕き衝撃波が機体
を襲った。しかし緑色のACは小型ロケットをバージしステルスミサイルと残ったエクステンションミサイルを連動発射、レーダーに
反応するミサイルは再度起動されたEOによって自動迎撃されるが、レーダーが反応しないステルスミサイルはAIACに直撃するはず
だった。しかしマシンガンの掃射によって迎撃されてしまう。
緑色のACはエクステンションとステルスミサイルをバージ、機体を軽量化し黒色の機体との距離を詰める。中距離以上で最大の効果を
発揮する武装をAI機が持つ以上接近し、マシンガンとレーザーブレードの間合いで戦うのが最適な選択だった。むろんEOの注意は
必要だが、AIACが使用しているEOは威力はあるがエネルギーの消費も多く連射が効くものではない。見切って回避するつもり
なのだろう。緑色のACはほんの僅かに機体の挙動を変化させることで出来る限り装甲が厚い所に弾丸を食い込ませ、装甲が薄い関節や
センサー系などはかばいつつ近距離での射撃戦を始めた。
そろそろエネルギーが尽きてきたのだろうリンクスが見ていたカメラアイの映像が揺らぎはじめた。
「そろそろバッテリーも終わりか」
カメラの機能が停止しかけた時、先ほど来たルートとは別の隔壁が開き増援が到着。どこかで見たことのあるエンブレムがかすかに見えた後視界が絶たれた。
再び目が覚めるとディスプレイは機体状態チェックが終了した事を示しているだけだった。
「夢…だったのか?」
廃倉庫のまま機体は動いておらず、現実に起こった事ではないようだった。だが記憶にははっきりとあのACの戦いを、
峻烈かつ華麗なACのシルエットを覚えていた。
now:21
today:4
yesterday:0
total:3799
>まさかのリバードライブ出撃フラグか。記憶が正しければ、ロケットととっつきだったっけ…。ごくり。あとはリンクスを引っ張り出したシャミアが気になる、なぜそこで切ったしw 続きは次回ってことか・・・ -- 2011-08-06 (土) 16:54:05
続きを待っています -- 2011-08-15 (月) 20:42:14
リンクス戦争を抜け生き残った彼の実力は…。シャミアの続きは通常では載せれないのでなしということでお願いします。
>up主これ見ていたら再開を頼む続きが読みたいんだ!!< -- 2011-08-18 (木) 21:53:44
↑ミスりました。これを書いた者です。後二話頑張って下さい。続きまってます!! -- 2011-08-18 (木) 21:56:42
ありがたきお言葉!ですが後2話ではないんですよねぇ。これからも書き続けますのでよろしくお願いします。