Written by 独鴉


オリジナル・・・


アルゼブラ領内カラード・・・大会議室

「出撃禁止とはどういうこと!」

 シャミアは先の不明ネクストを撃破し無事帰還したが、突然上層部に呼び出された上に出撃禁止命令を下したことに納得が出来ず、
会議卓の向こう側に座る責任者三人に食って掛かっていた。しかし責任者達の表情は揺らぐことなく言葉を続ける。

「イルビスを失ったアルゼブラにとって君が最後のリンクスなのだよ。勝手に出撃してもらっては困るのだ」

「君が不在の間に地上拠点が攻撃された場合の対処はどうするのだい?カブラカンにも限りがあるのだよ」

 シャミアは返す言葉が無かった。もはや彼女を除いてアルゼブラを代表するリンクスは居ないのだ。
彼女の身に何かがあればアルゼブラはネクスト戦力の保有を失い、最悪の場合オーメルに吸収される可能性さえあった。

「テストリンクス及び訓練段階のリンクスからの選別が終わり、カラードへの登録が終わるまで不用意な出撃は控えてもらう。
君を失うことはイクバール、いやアルゼブラにとって重大な損失なのだよ」

 中央に座る初老の男の顔には幾つもの傷が残っており、スーツの袖から伸びる皺の刻まれた手にも戦傷と思われる古い痕が残っていた。

「しかしあたしは!」

 それでもシャミアは下がろうとせず、会議卓に両手を着いて反論しようとしたが初老の男は片手でシャミアの言葉を制した。

「君に何か有ったとき私に再び戦場に出ろというのかね?もはや君と私以外戦場を経験しているリンクスはアルゼブラに居ないのだよ」

 いくらシャミアでも一度引退した者に再度戦場に出ることを強いることはさすがにできなかった。

「…出撃するのは控える。それでいいんでしょ!」

 相手は怪我を負ったことで現役を退いたとはいえ、狂犬といわれたイルビス・オーンスタインさえ黙らせることが
出来たイクバールのオリジナル リンクスの生き残り K・K、シャミアにとっても容易く反対意見を言える相手ではない。

「君の気性は理解しているがすまないな」
 シャミアの性格はK・Kも良く理解し、シャミアが怒りを抑えるために強く握っていた拳に気付いていた。
それだけ与えた任務は気に入らないものなのだ。

「私からも訓練生の最後の仕上げを急がせるが一ヶ月程度我慢してもらう。なお待機期間中の緊急出撃時には通常軍と傭兵を付ける。以上だ。質問はあるかな」

 しかし、イルビスを失った今シャミアまでも失えばアルゼブラの地位は失墜、そういう方向から考えれば
シャミアを殺さなかったストレイドのリンクスには感謝しなければならないだろう。

「いえ…、了解しました」

 シャミアはそう応えると会議室を後にした。彼女が会議室を出てから数秒後、K・Kは口を開く。

「今回の件、オーメルはなんと言ってくるか予想がついてしまうな」

 K・Kが深くため息をついた後、残っていた議題について三人で話し始めた。

「すでにだよ。回収した残骸の引渡しと解析中の情報を全て提供しろと言ってきている」

「まるで我々は従属国だな。古い言い方になってしまうがね」

・・・・・・
 会議室を後にしたシャミアは更衣室で軍服から袖やスカートに自ら手を加えた制服に着替え、
怒りを発散する獲物を求めてアルゼブラのカラード施設内を歩き回っていた。
足音と怒りに満ちたその表情から読み取れる感情に兵士や職員はシャミアの様子を見ると、
巻き添えを食わない様に何かを調べ始めたり資料に目を通すなどしたりして声をかけられないようにしてしまう。
怒りをぶつける相手を求めてカラード内のAC整備場をシャミアが歩いているとき、7~8mほど離れたT字路をリンクスが横切ったのを見つけた。

「あいつは確かストレイドの…ふふっ、いい獲物ね」

 シャミアは足を速めリンクスの消えた方向へと急いだ。しかし後を追っている足音にリンクスは気付かず、
“⑨” そして “イレギュラー”という言葉の意味をひたすら考えながらACを保管している格納庫へと向かって歩いていた。

「⑨、…まさかナインボールのことか?」

 ナインボール過去伝説の域にまで達したレイヴン創世記最強の存在、その機体には⑨のエンブレムが描かれていた
と以前セレンさんからの命令で過去の記録を調べたときに見た記憶があった。

「だが、なぜ自分の機体に⑨の文字が…」

 情報が余りにも不足している。だがそれ以外“⑨”というモノに該当する記憶がリンクスには無かった。
中破状態とはいえ、通常システムを起動させデータの抽出を行えばわかるかもしれない。その結論に至ったリンクスは走り出すと格納庫へと急いだ。

「あら…?」

 通路を二つほど抜けた所にあり、警備兵達の待合所辺りで追いかけていたリンクスを見失ってしまった。
シャミアは周囲を見回すが、すぐ目の前の警備兵達がゲート周辺を巡回しているだけでリンクスの姿はない。

「どこにいったのかしら?」

 この通路の先にあるのは一般傭兵所やアルゼブラ通常軍の詰所、リンクスとしてのみ活動している
シャミアにとってアルゼブラ圏内カラード施設において未知の領域だった。

「ちょっとそこのあなた!」

「はっ、なんでしょうか?」

 シャミアは巡回警備していた警備兵を一人捕まえた。シャミアはリンクスの特徴を伝え、
行き先を訪ねると警備兵は詰所内に入りゲート通過者のデータを調べ始める。
 待っている間シャミアはなぜここまでしてリンクスを追おうとしているのか考えていた。
何も怒りやストレスを発散するだけならその辺の男を捕まえて傅かせればいいだけのこと。
それなのに何故リンクスをこうまで追いたくなるのか解らなかった。
 シャミアが理由を考えていると5分ほどして調べ終えた警備兵はルートが印刷された地図と共に警備兵は戻ってきた。

「その方でしたら11番のレンタルガレージに」

「そう、わかったわ」

 シャミアは兵士からひったくるように地図を受け取るとゲートをくぐった。それから何ブロックか進む途中、
汚れた服を着た兵士や傭兵とすれ違いながら地図のガレージへと着いた。
呼び出しもせずシャミアはガレージ入り口の扉を開くと鉄が焼け焦げたにおいが漂ってきた。
いや、それだけではなく硝煙やプラスチックなど強烈な匂いに格納庫は包まれている。

「なに…この匂い」

 シャミアは鼻を突く匂いに眉間に皺を寄せる。リンクス達が搭乗するネクストACが使用するモノとは
比較にならないほど薄汚れた手狭な格納庫、整備の為に設置されている自動機器や鋼鉄製の床は汚れと傷が深く刻まれており、
長らく交換がされていないことがわかる。
シャミアは周囲を見回してリンクスを探すと大破したACの横に設置されているタラップをすこし上がったところ、
機体の前へとせり出した場所にリンクスは居た。

「ストレイドのリンクス!」

 声を掛けられて振り返ったリンクスの表情を見たシャミアは何かリンクスから無機質的な変化を感じた。

「あなたは、確かシャミア・ラヴィラヴィさん。自分に何か用ですか?」

 言葉の節々、そしてタラップを降りてくる動作にいたるまでリンクスの動きから無機質なものを感じ、シャミアは覚えの無い苛立ちを覚えていた。

「あんたこそ何をしているわけ?こんなところリンクスが来るところじゃないわよ」

 腕組みをしながらゆっくりとタラップを降りたリンクスに向かってシャミアは歩いていく。

「自分は元レイヴン、分身の近くに居ても問題は無いでしょう」

 こちらを向いた状態でシャミアの問いにリンクスは答えるが、どこか不自然さを感じさせるリンクスの口調にシャミアは苛立ちを増していった。
その苛立ちはヒール音と表情に僅かに表れていくが、リンクスがシャミアの苛立ちに対してなんらかの反応がある様子はない。

「AMS接続もない旧式ACなんてただの鉄塊じゃない。そんなものを分身といえるわけ?」

 多分に棘や毒を持ったシャミアの言葉、だがリンクスは動じるどころか表情の変化も無い。

「長く共に戦った半身です。旧式などと言われたくは無いですね」

 言葉こそ強いものの微細なところまで感情が抑えられた声、一切感情を自分に対して見せようとしないリンクスに
シャミアは苛立ちを隠せなくなっていた。腕を組む両手は強く握り締められ、眉間にはしわがよっている。

「それで自分になにか用ですか、用が無いのならここから出て行って欲しいのですが」

 すぐ目の前まで来ていたシャミアに向かってそういった途端、シャミアは腕を解くと大きく腕を振りかぶった。

「ストレイドのリンクス!」

 シャミアは力任せにリンクスの頬ひっぱたく。狭いとは言えない格納庫なのだが、叩いた音が反響するほどのものだった。
 いきなり叩かれたリンクスはわけもわからず驚いた表情を浮かべていたが、シャミアは構わずに言葉を続けた。

「あんたに何があったか知らないけど、私の前で感情を隠すなんて許さないわ!」

 シャミアはリンクスの腕を掴むと強引にガレージの外へと引っ張っていく。

「反論は認めないわ!」

三日後・・・アルゼブラ領カラード施設・・・
 渓谷で回収した残骸はオーメルからの打診によって全て輸送され、解析や敵部隊の捜査がなされることなく闇に葬られてしまっていた。
しかし、アルゼブラの全てのものがオーメルの指示に従順なわけではない。一部の者が情報部を動かし真相を探っていた。

「それで間違いないのだな?」

 少々手狭な執務室には大きめのデスクとその奥に置かれたイスに腰掛けるK・Kと調査を依頼された部下がドアの近くで直立不動の姿勢で立っている。

「はっ!統合制御体の残骸の一部はアスピナ研の物と確認が取れました。恐らく爆砕破壊を受ける前にコア装甲にダメージを受けた為、
内部を完全破壊する前に外部に飛び散ったためと思われます」

 K・Kは情報部からの紙面式の書類に目を通すとその場でシュレッダーにかけてしまう。

「ご苦労だった。この件は完全封印、忘れるように」

「了解いたしました」

 情報部の男は丁寧に頭を下げるとK・Kの執務室から出て行った。静かになった執務室でK・Kは完全オフラインのPCを立ち上げる。

「…オーメル、やはりシャミア一人では奴等の暴挙を抑えきれないか」

 イルビスやテクノクラノートのド・スが敵企業だけの牽制の為にいたわけではない。
オーメルに対する無言の牽制、全てのカブラカンを対GAに対して使っていない理由もそこにもあった。
 情報ではオーメルは以前リンクス戦争の影響で力の弱まったローゼンタールそのものを吸収しようとしたこともあるのだ。
幸い訓練の最終段階に合ったジェラルド・ジェンドリン等によって吸収だけは逃れたようだが、
 ローゼンタールに対してオーメルの介入が行われたのは間違いない事実だ。
K・Kは何度かマウスとキーボードを操作するとリバードライブの機体データが呼び出される。

「再び戦場をかける時がきたのかもしれんな」

 綺麗に整えられていたネクタイを解くと苦々しい表情を浮かべながらK・Kはイスから立ち上がった。

BIGBOX・・・
 薄暗い大会議室中央の立体映写機にはラインアークで行われた戦闘映像が流れていた。
戦闘が終わるまで終始大会議室は静かだったが、戦闘が終わりを告げると一番奥に座っていた男が口を開いた。

「彼の実力は見てのとおりだ。こちらに引き込んで損は無いだろう」

 先ほどまで戦闘映像が流れていた場所には新たにアセンブル適性や武装適性などカラードで得られるだろう情報が表示されていく。

「メルツェル、問題はカラードの首輪ではなく飼い主の霞スミカだろう。我々の話を聞くと思うか?」

 声の方向、大会議室の右中央にはリンクスとは思えない美しい女性が座っていた。
目の高さ近くまで伸びた前髪の間から覗くその眼光は鋭く、首に存在しているAMSコネクターから秘書や技術士官などではないことがわかる。

「その点は問題ない」

 メルツェルと呼ばれた男は下がっていた眼鏡の位置を正し言葉を続けた。

「カラードとは少々離れた立場に居るリンクスだ。それ故にリンクスへ直接話を通していけばいい。
むろん霞スミカへも伝わるがリンクスの意思は尊重するだろう。元よりカラードに対して霞スミカが従順とは言えない節も有る」

「そこまでお前が言うのならこれ以上の異論は無い」

 異論が無いことを確認すると機器を操作し映像を切り替える。

「そしてもう一人候補が居る」

 中央の立体映写機に重武装の機体が表示され、複数の戦闘映像が同時に流れ始めた。

「GAの新人リンクス アルディーとそのネクスト チャリオットだ。栄えぬきとは行かないが、実力としては」

「良い機体だぜぇ!もっとパワーがあれば最高だがなぁぁ!」

 突然静かだった会議室に大声が響き渡り映像が止められる。メルツェルが視線を向けた先に声の主が会議室左中央にいた。
暗闇に隠れてはっきりとは見えないが、並みの軍人よりも鍛え上げられたその体躯は標準体型のメルツェルよりも2周り以上大きい。

「ヴァオー、少し静かにしていてくれないか。まだ話の最中だ」

「わるいな!メルツェェル!」

 ヴァオーは豪快に笑いながら謝ると大きめのイスに寄りかかった。その姿を見て軽くため息をつくとメルツェルは話を続けた。

「実力としてはカラードリンク中位程度だ。しかし失ったラスター18の代わりとしては充分だろう。
それ以上の可能性に付いてはジュリアス、君のほうが見極められるはずだ」

 再スタートされた映像をジュリアスは見極めるように確認していく。15分ほど一通り戦闘映像を確認した後ゆっくりと話し始めた。

「素材としては悪くは無い。こちらの意思に同調するのならば迎えるのも悪くは無いだろう」

「【素材としては】か、まぁいい。」

素材、つまり基本とした動きに問題は無いということだ。これはいい評価ではないのだが、
メルツェルとて声をかけられる数少ないリンクスからさらに選別をかけてアルディーを選んだ以上の他のリンクスに期待は出来なかった。


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コメント返し

>・・・ゲイヴン・・・、お前ら一体何歳だ?w -- 2011-04-10 (日) 17:57:24
彼らに時空次元の壁などイイ漢を探す為の障壁になりましょうか…
>成る程。真面目にヤってるんだな。解ります -- 2011-04-10 (日) 18:28:06
彼らは至極真面目にヤってますよ。
>up主これ見ていたら再開を頼む続きが読みたいんだ!! -- 2011-07-27 (水) 23:26:57
なんともありがたきお言葉…。これからはペースを上げられるようさらに頑張りますのでこれからもよろしくお願いします。m(_ _)m


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