小説/長編

Written by 独鴉


乱筆+粗製文で申し訳ないです。


霞スミカの視線の先には目の前のノーマルACだけではなく、遠くから高速でこちらに向かってくる機影が映っていた。
ノーマルACが束になっても敵わないネクストAC、インテリオルから緊急通信を受けた
リンクス ウィン・D・ファンションのネクスト レイテルパラッシュが
クーガー製のVOB(ヴァンガード・オーバード・ブースター)によって他の任務を終えたばかりの状況で救援に到着した。
VOBバージと同時にレーザーが照射され1機のノーマルが直撃し爆砕、
VOBの高速状態をほとんど維持したままレーザーブレードを発生させるとノーマルACの間を駆け抜けノーマルACを次々と倒していく。
目の前のノーマルACはこちらに向かってくる普及型ノーマルACをライフルで牽制していたが、
レイテルパラッシュは僅か数秒でノーマルACとMTを撃滅し、こちらを守っていたノーマルACに銃口を向けた。

「そこまでだウィンディ!そいつは敵ではない。・・・今のところはな」

霞スミカが通信機向かって叫ぶとレイテルパラッシュは警戒しながら銃口を下ろした。
戦闘が終わった事で護衛部隊は突如救援に現れたノーマルACを警戒しつつ、増援が来るまで護送車の周辺警護を始める。
戦闘が終わってから5分ほどして到着した増援部隊によって部隊は再編成され、
落ち着きを取り戻したことで救援に駆けつけたノーマルACの処遇について話し合われることになった。
護衛部隊長が直接話しを聞いた所、救援を行った謝礼金と機体整備を希望しているとの事だ。
個人データを確認するため元所属先を聞いたところ、旧メリエス社の末端工場に雇われていたらしい、
当時のデータを確認した所AMS適性検査をまだ受けていないことがわかった。
そのためAMS適性検査を受けさせることになったが、少々聞きたい事があった霞スミカはノーマルACのレイヴンを護送車へと呼び付けた。

謝礼を支払う前に聞きたい事と書類記入があると俺は護送車へと呼ばれた。
ACから降りると機体は整備士達によって簡易整備が始められ、
銃火器を携帯していないか厳重にボディチェックを受ける。
その後兵士達が護送車扉前を警戒する中、護送車の中に入ってすぐに息が詰まった。
正直俺は美的センスがないと親父達や仲間から言われている。ガキの頃から戦術とACの扱いばかり教えた親父達も悪いのだが、俺自身もセンスがないと思ってもいる。
しかし、それでも目の前の女性は相当美しいと断言できた。
レオーネ・メカニカ社が正式採用していた男物の軍服に身を包み長い黒髪を紐で上げてはいるが、
白い肌に均整の取れたスタイルと収まりきれず開けられた胸元、鋭い眼つきとモデルさえも敗北する美貌が・・・・。
いや、男らしくない思考はこれくらいでやめておこう。とりあえず女好きの奴らじゃなくても敗北覚悟で一度は声をかける。
旧式だが俺のACを賭けたっていい。そんなことを考えていると手元のボードを見終えたのか鋭い目がこちらに向けられる。
女性とは思えない鋭い目つきと眼光に体が固まる。

(ぐっ・・・)

視線だけで凄まじい圧力。AC同士でのレーザーブレードの斬り合いもした事があるが、こんな恐怖は感じたことはない。
背筋が凍りつき冷や汗が流れる。

「何故救援に来た。ACのパーツにメリエス製が一部使われているがインテリオルになんらかの関わりがあるのか?」

どうやら先ほど見ていたボードには俺の機体の事が書かれていたようだ。
内部パーツには工場護衛を行っていたときに幾つかメリエス製のパーツを見繕って使っている。
製造工場の倉庫に眠っていた古いパーツ以外ほとんど改造無しでは組み込めなかったが。

「俺は・・いや、自分はメリエス社系列製造工場の護衛を一時請け負っていました」

「そんなに硬くならなくても良い。そこのイスにでも座ってくれ」

(なら、その視線は辞めてくれ・・・)

女神の姿をした悪魔を目の前に冷や汗をかきながら平常心を保とうと必死だった。
今となっては恐怖と緊張ととある理由でほとんど覚えていないが、経歴と戦闘経験を洗いざらい吐かせたと後々言われた。
とある理由は最後に年齢を尋ねた後に受けた一撃が原因だが、一撃を受ける寸前に聞こえた「30前」と言う声と恐ろしい程の打撃力は記憶に残っている。
今後年齢の事を聞くのは避けた上で他人が年齢を聞くのは極力止めようと心に誓ったのはいうまでもない。

簡単な機体検査を終え、整備工場にACを運ぶという事で監視状態に置かれた後、
機体は回収され護衛部隊のランドキャリアと共にもっとも近いインテリオル系企業のコロニーへと向かうことになった。
クレイドル体制に移行したといっても、軍事及びコジマに関わる者は一部を除いてクレイドルに移ることはできず、
生産基地に近い場所にはもちろん人が住むためのコロニーが設けられ、密閉型や開放型などのタイプが存在していた。

数時間後に到着したインテリオル系コロニーの軍事施設で謝礼の受け取りと機体整備を受けることになったが、
謝礼を払う前に幾つか身体チェックを受けることになった。機体はランドキャリアと共に整備工場へと運び込まれ、俺は厳重な警備が行われている施設へと案内された。

「ここは?随分と厳重な警備ですが」

「詳しくは話せません」

前を歩く研究員らしき男に声をかけたが、振り返りもせずに答えるとまた何も言わずに前を歩き続ける。
それから無言で数分歩き続け、厳重なセキュリティを通り抜けた後、周囲を警備兵に囲まれながらある部屋の前に着いた。
中に入ると白衣を着た男達が何人も計器らしきものの前に座り何かデータを取っている。
左壁一面に鏡が張られているが、恐らくマジックミラーだろう。警戒しながら案内され、大人一人がやっと入れるポッドのような前に立たされる。

「これでチェックを受けて貰います。少々辛いものですが我慢してください」

研究員の説明どおりポットに入ると扉が閉められ一分と経たない内に頭痛と吐き気が襲ってきた。
形容するなら二日酔い・船酔い・乗り物酔いと言った所だが、直接頭に響く所が前例と大きく違った。
頭の中が波打つ違和感にイライラしながらチェック終了まで耐えると、ポッドの扉か開かれ慌しく走り回る研究員達が眼に映った。

「・・・悪いが飲み物をもらえないか」

まだ波立つ頭を抑えながら走り回る研究員の一人を捕まえて頼んだが、忙しいのか適当に答えた後どこかへ行った。
片手で頭を押さえながら空いていたイスにすわっていると、すぐに責任者らしい男が駆け寄ってきて俺にAMS適正があると説明をした。

それからインテリオルにコネのあった霞スミカ・・・いや、セレン・ヘイズさんの口添えでカラードのリンクス養成施設に入った。
AMSに接続と同時に襲ってくる吐き気と頭痛で数値が下がる毎に飛び込んでくる叱咤と罵声、
接続限界時間までぎりぎりの訓練を立て続けに行った。
訓練中幾ら吐こうが激痛でぶっ倒れようが優しい言葉など一切かけず、訓練が行われている最中常に鋭い眼でこちらを見ているだけだった。
そしてまる半年間、色々問題を起こしながら地獄のようなAMS訓練を終え、専属オペレーター兼先生となってくれたセレンさんには心から感謝している。
ノーマルACの戦術はネクストACの戦術とは違うため余り当てにはならず、元リンクスであるセレンさんのオペレートは信頼が出来た。

そして今、両親と仲間を殺したネクストACの形をした死神のリンクスとなっている。レイヴンは昨日共闘した奴が今日敵としてぶつかることだってある。
いや、戦闘中に裏切られることや、偽の依頼を受けることだってある。だから部隊を潰したアナトリアの傭兵に陳腐な恨み言は一切ない。
親父達の部隊がアナトリアの傭兵に殺されていても、レイヴンなのだから当たり前だと割り切っている。
殺しても殺されても文句はない。それなら何故俺はリンクスになってネクストに乗っているのか、それだけが良く解らなかった。

「聞こえているのか!ラインアークに機体を降下するぞ!」

もはや聞きなれた怒声に波立っていた意識がはっきりと落ち着いてくる。

「ストレイド、任務を開始します」


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