Written by 独鴉
WG戦後篇です
前編18.3 中編18.6となります
ホワイト・グリント撃破後編・・・
リンクスとなる前からあいつの体の数箇所に微細な手術痕があり、首にもAMSとは違うコネクトがあった。
AMS技術者連中はすでにどこかのリンクスかテスト被験体じゃないかと疑ったが、調べたところAMSとは違うものだと判明した。
結局よくわからないままあいつのリンクスとなる処置を終えている。
私は疑問に思いながらも旧式ACが格納されている整備場へと向った。
乗り手の癖や戦い方を調べあいつにマッチしたアセンブルを調べる為だが、あいつの使っていたACのコックピット内部も普及型ノーマルと大幅に差があり整備士や技術者達も首を傾げるばかりだった。
だが、老齢のノーマルAC技術者が聞きなれない言葉を発した。
「強化人間用の機体じゃな」
老齢の技術者の話を他の整備士や技術者は笑い飛ばし、どうせ素人の改造だろうとほとんど気にも留めていなかった。
疑問に思った私は老技術者の話しを聞くと整備場の片隅に呼ばれ、老技術者は紙でできた資料の束を取り出してきた。
技術者だった曽祖父から受け継いだという手書きのノートや手帳、そこにはレイヤードと呼ばれていた地下に人々が居た頃の事が書かれていた。
AMS技術やネクストACが生まれる遥か以前、ACを越える為の模索が行われていた事は技術者でなくても容易に予想が付く。
いくつも模索されたと見られるデータやデザインが書かれていた。
そして所々に書かれていること、それは
【今の人間では扱いきれない】【操縦が機体に追いついていない】【衝撃に人間が耐えられない】
そういった走り書きだ。
確かにAMSや最新技術が無ければネクストも今の人間には扱いきれるものではない。
そして老人が手渡した最後のノートの最初のページにはこう書かれている。
【我々のACに耐えられないのなら、人間を耐えられるように改造し強化すればいい】
「人間を改造し強化する…だと」
リンクスもAMSと接続するための処置は受ける。
だが、それは改造と言うわけではなく、あくまで接続処置に過ぎない。
それから数ページに渡って強化の必要とする項目が書かれていた。
【神経系の処理速度を上げる必要がある】【Gに耐えられるように筋組織や骨格を強化する必要がある】【衝撃に耐えられるよう内蔵を強化バイオパーツと置換する必要がある】【・・・
この全て強化が実行されれば確かに人は人としての限界を超えられる。
だか、もはやこの処置を受けた者は人間といっていいものなのだろうか。
異常とも思われる処置の内容を確認していく中、最後のページに首のコネクターの正体が書かれていた。
【情報を目で見ていてはタイムロスとなる。見ずに認識できるようにする必要がある】【操縦桿では人に近い動きが出来ない。脳からの直接操作が必要である】
AMSが無い時代に機体と人間を一体化するという途方も無い夢を実現するため、昔の技術者が出した答えだった。
老技術者に聞いたがノートと手帳以外のことはなにも解らないらしい。
だが、機体とACを一体化させるなどAMSでもなければ今でも不可能だと言うことだ。
もしこの技術がいまもどこかで受け継がれているとしたら全てつじつまがあう。
あいつは強化人間の処置を受けている。
そしてそのことをあいつ自身は知らない。
しかしいくらなんでもそれはおかしい。
手術を忘れるような馬鹿など居やしない。
だが、その答えは手帳の走り書きで見つかった。
【人格の書き換えと記憶操作による情報処理能力の高速・高度化、これで私の開発したACは未来永劫負けることは無い】
今目の前でその答えが出ている。
徐々にだがホワイト・グリントの動きを読み取り自らのものとし、ホワイト・グリントの装甲の各所に弾が直撃した痕が刻まれ始めていた。
ストレイドは回復したPAを消費しながらOBで正面からホワイト・グリントに向かっていく。
一方ホワイト・グリントは冷静にストレイドに突撃ライフルとライフルを向け待ち構えていた。
戦っている最中リンクスの頭の中で何かが叫んでいるのが常に聞こえていた。
聞きなれた声だが怒声ではない。
狂喜と戦闘高揚で意識が混濁している中で言葉を聞き取れる状況ではなかったが、ぼんやりとした意識を表示画面へと向けた。
「馬鹿野郎がっ」
表示されている女性の目から透明な何かが流れ落ちた。
(涙?)
熱くなっていた意識が急激に冷め自分を埋め尽くしていた何かが無くなり急激にからっぽになっていく。
冷静になった視界には淡い光を放ち始めたホワイト・グリントが映った。
OBのまま左にQBTとMQBを点火した瞬間強烈な光が周囲を覆う。
ホワイト・グリントのAAによって放出されたコジマ粒子はPAを消失させ、BFFライフルとMARVEを破壊しストレイドを弾き飛ばす。
ストレイドは橋げたに激突し橋の上に落下、激突とAAの衝撃で機体のフレームは歪み各関節からはスパークが上がっていた。
もはや戦闘の継続も戦線離脱も不可能な状態だ。
ホワイト・グリントは動けなくなったストレイドの前にゆっくり降り立つと二つの銃口を向ける。
動けない状態のままアーリヤのカメラアイをホワイト・グリントへとリンクスは向けた。
度重なる銃撃を受けたホワイト・グリントのコア周辺は酷い損傷を負っていたが、致命傷となるほどの損傷を受けている様子はない。
リンクスは死を前にして感慨も恐怖もなかったが心残りはあった。
「伝説のレイヴン、そして伝説のイレギュラー、あなたはなんの為に戦っているんだ」
返ってくるはずのない問い掛けをしたあと、自分を殺すホワイト・グリントをただじっと見ていた。
「…若きレイヴン、君が私と【同じ】ならばいずれ解る時がくるだろう」
初めて聞いた伝説のレイヴンの声はとても静かなものだった。
ホワイト・グリントの蒼いカメラアイの光が消えていき、力を失ったかのように両腕のライフルを落とすと海面に落下、ストレイドの目の前に古いBFF製のライフルを残してゆっくりとその白銀の機体が水中へと沈んでいった。
ホワイト・グリントが沈んだのを確認したフィオナ・イェネフェルトが言った。
「あなた達は、昔の私達と同じです。考えてください。何の為に戦うのか」
これから先の事を見透かしたかのような言葉が投げかけられた後、ラインアークからの通信が途絶える。
リンクスはボロボロの機体を動かし古びたBFF製ライフルを掴むと機体をゆっくりと起こす。
「俺にも…解るときがくる?」
エアキャリアーに回収された後セレンさんからたっぷりと説教が待っているだろう。
回避しようの無い地獄の時間に覚悟を決めつつAMSを切った。
機能を停止させたストレイドを残し戦闘が終わった。
先ほどまでの激戦があった名残を残しラインアークに静けさが戻っていく。
そんな中、最大望遠で戦闘を眺めていた一機の旧式ネクストが静かに離れていった。
企業連の用意した輸送機にストレイドは回収され帰還の徒についていた。
リンクスもセレンも疲れ切っているだけではなく、ホワイト・グリントとフィオナ・イェネフェルトの残した言葉を二人とも考えていた。
何の為に戦うのか。今はまだはっきりとは解らない。だが、もしかしたら戦う理由は・・・。
レイヴンの時代、それは伝説のレイヴンが『アナトリアの傭兵』となった時にはすでに終わっていた。
それでも伝説と伝承のレイヴンに憧れ続け自らもレイヴンとなった。
だが、長きに渡って戦場を支配した大鴉でさえ新たに生まれた山猫には敵わなかった。
飛ぶ時さえも与えられず、緩慢な死を待つしかなかった鴉を拾い上げたインテリオルのオリジナル リンクス。
アナトリアの傭兵のような伝説的な力もない、自ら飛ぶ翼も力もない鴉に翼と力を与えてくれたあの不器用な女神の為に。
『私は、不器用で乱暴な、あなたのために』
そう断言できる時が来るかも知れない。
(・・・柄じゃないな)
まだ20代中盤のリンクスには、そんな一言で恥ずかしさを隠し思考を切り替えようとする若さとプライドがある。
だが、いつかリンクスとして彼女に一人前と認められた時、慣れない言葉と場所、そして柄じゃない贈り物を用意してみよう。
きっと不器用な女神の見慣れない表情と焦った言葉が聴けることだろう。
セレンはフィオナが言ったその言葉と通信から読み取れた感情が頭から離れなかった。
(私は・・・、なんの為にまたこの世界に戻ってきた)
任務とはいえ国家解体戦争とリンクス戦争で嫌というほど人を殺した。
命を賭けたやり取りに嫌気が差し、リンクス戦争が終わってから新しいリンクス探しと指導を引き換えにネクストから降りた。
もう二度と乗るつもりは無いが、シリエジオは主である私を待ちながらインテリオルの格納庫に今も眠っているだろう。
半年という短いリンクス探しの期間が終わり、インテリオルに戻るとき、運悪く他の企業の部隊に襲撃された。
そんなとき企業同士の利権が絡むいざこざに乱入してきた時代遅れの一羽の鴉がいた。
乱入した理由などたいしたことはない。
聞いてみればインテリオルの味方をして生き残れば謝礼がもらえるだろうという甘い打算だ。
このままにしておけばこの若い鴉はいずれ死ぬが別段珍しいことでもない。
きっかけはほんの気紛れだった。
謝礼を渡す代わりに受けさせたAMS適性検査でそれなりの数値を叩き出し、リンクスにすることが決定、カラードのAMS訓練施設に渡せばそれで私の役目は終わりのはずだった。
だが、訓練所で即日問題を起こし私が呼び出された。
他の訓練生と殴り合いの喧嘩を起こした挙句、止めに入った教官連中までも殴り飛ばしたというのだ。
見つけてきた私の面目は丸潰れだ。
理由はレイヴンの存在を卑下したということだが。
最初知ったことはガキだ。
プライドが高く、いまだに大鴉になる馬鹿な夢を持っている。
次に知ったのは強靭な精神力。
辛いAMS接続訓練にも吐いたりぶっ倒れたりしながらも予定スケジュール以上のペースでクリアしていった。
この伝説を追う翼も力もない若い鴉。
その癖諦めも悪く、必死で飛ぼうと足掻いている馬鹿をほってはおけない。私の理由は・・・
『私は、どっかの馬鹿野郎のために』
奴が一人前になった時私は不要になるだろう。
それでもまだ私を必要とするなら…、それ相応の覚悟を見せてもらうとするか。
まだ20代半ばの男が年上の、それも不器用な私を選ぶわけが無いが、せいぜい下手な言葉と似合わない場所を選んで贈り物を用意する事だろう。
そしてその焦った様をせいぜいからかってやるとしようか。
最後の通信の後、フィオナ・イェネフェルトは姿を消したらしい。
リンクス戦争中、そして戦争が終わってからの八年間、伝説のレイヴンとフィオナ・イェネフェルトの間に何があったか知るすべはない。
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