Written by 独鴉
「不明ネクスト撃破」
前にメリーゲートと共にリッチランド農場プラントを奪取したがいつの間にかアルゼブラの手に戻っていたらしい。
GAとアルゼブラの間で何かしらの取引に使われたのだろう。
取引の材料に使われる程のプラントを不明ネクストに奪われたままには出来ないと言うことだ。
依頼成功と引き換えにアルゼブラから最新のパーツと武装の購入許可を取り付けたものの、
胡散臭い依頼を受けたと若干後悔していた。
独立傭兵が最新パーツを購入する為にはそれ相応の働きをしないといけないのだが、
何故か戦闘とは別の方向で嫌な予感がしている。
「びびるなよ。手練とは言え、所詮は同じリンクスだ。…多分な」
アルゼブラから送られてきた不明ネクストの戦闘データからセレンさんは相手の実力を見積もってはいるが、
相手がその実力の全てを現していないとは言い切れず、そのため警戒を解いてはいなかった。
戦闘エリアに到着し、敵ネクストは降下を始めたストレイドに気付いた。
「首輪付きか。知らんな。丁度いい。AF相手も飽きていたところだ」
解放回線からの通信、どうやらこちらをなめているようだ。
「標的確認しました。指示をどうぞ」
データにあったとおり重量2脚型ネクスト、どうやら換装や撤退前に到着できたらしい。
「気をつけろ。自動兵器やノーマルACは奴の手に落ちたらしい」
レーダーに映る敵性物体の数が急増していく。MTの管制システムを乗っ取り、さらに部下達にノーマルACを乗せたようだ。
「防衛兵器を破壊して宜しいのですか?」
「問題なかろう。邪魔なら全て破壊してしまえ」
「了解しました」
数分後・・・
(…動きが遅いな。メリーゲートはもう少し動きがいいぞ)
目の前の不明ネクストはプラズマライフルさえ気をつけてさえいればそれほど恐ろしい相手でもない。
数日前にカラードマッチでメリーゲートと戦ったが、ミサイルの雨を回避するだけでも大変な上、
接近距離でのバズーカとライフルの迎撃を回避しながらの戦闘は骨が折れた。
上方と正面からの多連装ミサイルと回避行動中に襲ってくるライフル弾とバズーカ弾、
いくらMARVEを撃ち込んでも耐え切る重装甲、
戦いの終わりは機動力を活かして背後からDORAGONSLYERで切り倒すというという単純なものだった。
重量型は近距離戦闘に弱いという弱点を持っているが、逆に想定距離内で巧みに高火力の武装を使うことで抜群の強さを持っている。
それ故に目の前のネクストは大した相手ではない。装甲もPAも厚く武装も多様だが各武器の使い方が良くない。
多種多様であるが故に切り替えのタイミングは限られ、適切な切り替えと正確な使用が要求される。
メリーゲートは多連装ミサイルによる重圧と両腕の火器による迎撃、
重装甲を活かした単純だが確実な戦法で乱れが少ない。
目の間の重量級は一つ一つの武装の使用は適格だが、同時使用や切り替えのタイミングに関してはそれほどよくなかった。
(対AF武装でネクストを相手にするつもりか?)
自然と口に出かけた言葉を飲み込むと余計な思考を捨てる。
相手は全力でこちらを殺しにきている。
それに対して私情や余計な思考を挟むのは失礼だからだ。
「接近戦を仕掛けます」
OBで急加速し一気に接敵を試みるが、敵ネクストは後退しながらバズーカを連射し牽制、
そしてプラズマライフルはじっくりとこちらに照準を合わせている。
こちらがDORAGONSLYERで攻撃を仕掛ける事を読んでいる。
MARVEでは弾数が足りず、DORAGONSLYERで攻撃する必要があるのは明白なのだが。
OBをカットし、通常ブーストとMQBで接近、バズーカのマズル・フラッシュが見えるたびに機体を左右に振りバズーカ弾を回避するが、
完全回避するにはリンクスの技量が足りなかった。
数発のバズーカ弾は装甲板表面を抉り取りながら弾き飛ばされる。
(あと一発!)
リロードと発射のタイミングから計算し、後一発バズーカ弾を回避すればもうリロードは間に合わず、
プラズマライフルを撃たなければこちらのDORAGONSLYERの間合いに入れる。距離240 MQBを点火、音速の壁を突き破り一瞬で攻撃範囲内に到達したが、敵ネクストはこのタイミングを待っていた。
プラズマ粒子が砲口から射出され機体を抉り取ろうとストレイドに迫っていく。
「ぐっ!」
体が引き千切られるようなGの衝撃に耐え、ストレイドはSQBによって敵ネクストの右サイドに回りこんでいた。
Gに振り回されながらDORAGONSLYERのレーザーブレードを発生、
敵ネクストの右腕を切り落としコアの装甲板を抉り取ったが、
重量級の装甲はそれだけでは完全に貫くことは出来ない。
DORAGONSLYERを切り払った加速を殺さず、
そのまま敵ネクストの後方へと駆け抜ける。
QTで180度方向を変えながらプラズマランチャーを担ぎ敵ネクストの背中へプラズマ粒子を射出。
DORAGONSLYERによってひび割れていたPAは砕け散り、コア背部にプラズマ粒子は叩き込まれた。
だが、敵ネクストはたじろぎもせず、左にSQBで距離を取るとすぐにQT、
左手のプラズマライフルを撃ちながら右肩のOGOTOを担ぎ、
バランスの崩れた機体を巧みに操りながらBQBで再度距離を取ろうと試みている。
(仕留め損ねた)
残EN要領はすでに残っておらず、これ以上EN系武装での追撃は不可能だ。
MARVEを構え乱射、DORAGONSLYERとプラズマランチャーの攻撃を受け、
PAはとうに霧散している為干渉を受けず、
銃弾は装甲板に接触して激しい火花を上げている。プラズマランチャーをバージ。
(完全EN供給完了まで7秒 カウント開始)
余計なEN供給ルートを断つことで回復速度を引き上げQBの連続使用に備える。
「なるほど……これがストレイドか。データ以上とは」
並みのリンクスであればラスター18の敵ではない。
だが目の前のリンクスは並以上、それも扱いの難しいアーリアを巧みに操縦している。
恐らく数秒後にはMQBを点火しDORAGONSLYERでコアを狙ってくるだろうと、ラスター18は先を読む。
「だが、戦場とはこうでなくてはな!」
右腕を切り飛ばされたにもかかわらず、ラスター18の戦意が落ちることは無く逆に高まっていた。
ネクスト フェラムソリドスは彼の意思に従って機体の反応が鋭敏になる。
ストレイドはMQBを点火、レーザーブレードを発生させDORAGONSLYERを振りかぶる。
BQBを点火しフェラムソリドスは後退、切り払われるレーザーブレードの範囲外へと逃れる。
だがストレイドは追いすがり、MARVEを乱射しながら頭部目掛けて突きこんでくる。
QTで機体を左に半回転させ左SQBを点火、大重量に任せて機体をストレイドに叩きつけた。
PAの緩衝作用によって損傷こそ免れたものの、重量の劣るストレイドは衝撃で弾き飛ばされてしまう。
だが、右肘から下を失ったフェラムソリドスもまたバランスを崩し追撃ができないでいた。
先に体勢を立て直したのはパラーウェイトで勝るストレイドだった。
弾の切れたMARVEを投げ捨てOBユニットを展開、あふれ出た光が収束し膨大な推進力を解き放とうとしている。
距離からいって発動時の瞬間最大推進力中にレーザーブレードの範囲にはいるはずだ。
フェラムソリドスはOGOTOとSAMSARAを構え、接近してくる一瞬を迎え撃つ体制を整える。
グレネードとプラズマをアーリアのコアに叩き込めばストレイドのリンクスが死ぬ。
だが、迎撃に失敗すればコアにDORAGONSLYERを突き刺されるだろう。
OGOTOの命中率を上げるため機体を固定し、FCSと機体動作をストレイドに集中させる。
ストレイドがOBを発動、音速の壁を突き破る速度にラスター18は反応し、
撃ち出されたグレネードとプラズマ粒子がストレイド目掛けて向かっていく。
だが、ストレイドはPAをカットしMQBを点火。ストレイドの機体表面ぎりぎりをグレネードと
プラズマ粒子が通過しDORAGONSLYERのレーザーがフェラムソリドスのコア目掛けて突き出される。
ラスター18は繰り返される単調なミッションに油断していた自らの甘さに苦笑しながら呟く。
「雌伏のうちに果てるとは…。これも戦場を甘く見た報いか…」
次の瞬間には高密度に収束されたDORAGONSLYERのレーザーブレードが装甲を貫きラスター18を蒸発させた。
不明ネクスト撃破後・・・・
リッチランド農場プラントにもっとも近いカラード施設へと向かっている途中、輸送機の故障で立ち往生を余儀なくされた。
「さすがに買い替え時だな」
リンクス戦争以前に製造されたノーマルAC用輸送機をネクスト用に改造して使っていたがどうやら限界らしい。
移動中に2基のローターから白煙が上がり緊急着陸してしまった。
「カラードから独立傭兵用のレンタル機を手配した。だが、到着まであと一時間は掛かる。ゆっくりと待つことだ」
2基のローターから煙を上げている輸送機からマニュアル操作でネクストを離れさせる。
周囲はまだ若干の自然が残る地域だが、微量だがコジマ粒子が浮遊している以上動物らしき生き物の姿は見えない。
輸送機から200mほど離れたところで機体にひざを付かせ、機能を待機モードに切り替える。
一息ついたところでコックピットハッチを開いて機体から降りる。さすがにパイロットヘルムを外すわけにはいかないが。足元からストレイドを見上げる。
「やはり、ノーマルACとは違うか」
操縦に慣れてきたとはいえ、やはりネクストACとノーマルACはまとう気配さえ大きく違う。
ACというカテゴリー内だとしても、ノーマルACに乗りたいと思うリンクスは思っていた。
「いまさら、ノーマルACか…」
苦笑しながら通信機片手にストレイドから離れ近くの木下に向かっていく。
「あれは…鳥か?」
倒れた木の上で小さな黒い鳥が動いている。コジマ粒子に汚染された地上で生き物を見ることは珍しく、
ほとんどの生き物はクレイドルまたは地下施設で保護されている。
近くに寄ってみると親鳥らしき鳥が近くで死んでいる。死んでから数日だろうか、虫たちがたかり始めている。
「…このままだと死ぬかな」
まだ産毛の残った鳥を拾い上げ、カラードに到着するとすぐにセレンさんに見せる。
「これは鴉・・・だな。まだ地上に存在していたのか」
「からすですか?」
「国家解体戦争前はかなり居たのだがな。だがこれは何鴉だ?私が知っているものとは少々違うが…、
まぁいい。とにかくアルゼブラ地区の保護施設に行けば分かるだろう」
各企業の管理する地域ごとに原種生物の保護施設がある。
到着後のレポートや許可やらでカラードから保護施設に着いたのは3時間も経ってからだった。
「これは…、渡り鴉ですね。コモン・レイヴンとかレイヴンやレーヴァンと呼ばれていました。
普通の鴉と違って顎の下辺りの羽毛が他のと違うでしょう?」
保護区域に到着して担当者に見せるとデータバンクにアクセスしすぐに調べ上げる。
映し出された映像のカラスとは確かに違い、羽毛がもっさりとしている。
「すでに地上では絶滅したと思っていたのですが、まだ生存していたとは驚きです。それも産まれて一年と経っていませんので、
まだ地上で繁殖している個体が居るということですが、随分と弱っていますのでコジマ粒子の除去措置など治療を行わなければ」
「費用は口座から好きに落としてかまいません。頼みます」
それからすぐに渡鴉は治療室へと運ばれ、コジマ粒子除去措置など医療措置を受けている。
「鴉を育てるつもりか?私の国では鴉は不吉と言われ、死を運ぶものと忌み嫌われたものだぞ」
「私も同じレイヴンですよ。こいつの名は【レーヴァン】」
「なんのひねりも無いのか…」
セレンはまだ産毛の取れきっていない鴉と、いまだレイヴンだと言い張る未熟なリンクスを交互に見ると深くため息をついた。
レーヴァンの治療を終え、アルゼブラかラード施設に戻るなり、
アルゼブラのリンクス シャミア・ラヴィラヴィに胸倉を掴まれ銃口を突きつけられてしまった。
「新人の癖にアルゼブラででかい顔してんじゃないよ!」
どうやら新参の独立傭兵がアルゼブラから直接依頼を受けたのが気に食わないらしい。
「いや…そんなつもりは」
なんとかこの場を早く離れないと不味い。セレンさんは先生でありオペレーターであり普段からも鬼教官でもある。
企業専属リンクスと接触していると気分を害する上に、女性となるとさらに輪をかけて機嫌が悪くなる。
ただ、彼女はオーメル系のブースには近付かない。
ウィン・D・ファンションやエイ=プールの後輩達が居ればインテリオル系にも行くかも知れないが、
企業からの誘いが煩いとの事だ。元レオーネ・メカニカの最高戦力なのだから仕方ないが。
その為最悪の事態であるこの状況がセレンさんに知られることは皆無に近い。だが、最悪の状況を想定してしまうのは、いままでの体験からだ。
このシャミアは…。キレた服装と耳・唇・舌・ヘソに付けられた多数のピアスと赤い髪、
服装を整えて狂気染みた眼さえどうにかすればモデルにだってなれるだろう。
問題項目は多いが。掴みかかられているとはいえ、相手は美人、セレンさん知られればどうなるか予想もつかない。
かすかに聞こえる力強いハイヒールの足音。いや、鬼の足音だ。
(セレンさんが接近している!しかも…この足音はかなり機嫌が悪い!)
セレンさんは正直切れると手に負えない。説教は長い、口答えは許されない、
地べたに正座、逆らうと殴り飛ばされか蹴り飛ばされる。まぁ、リンクスでなくても結婚できないタイプだ。
「悪い!」
片手で銃を掴んでいた手をひねると、開いているもう一方の手で銃を取り上げた。
「なっ!」
リンクスの突然の反撃にシャミアはバランスを崩し廊下の壁に寄りかかる。
「このままだとこっちの身が危ない。退かせてもら…」
すでに時遅し、人間運が無いときはとことん無いものだ。セレンさんが通路からこちらを見て眉間にしわを寄せ、眉間と握られた拳には青筋が浮かんでいる。
(…さようなら約三時間)
抵抗を諦めその場に俺は座り込んだが、無謀にも抵抗を試みたシャミアは充分過ぎるほどに引っ叩かれた後、
同じように約三時間カラードのアルゼブラ分室前の冷たい床の上で正座させられ説教を受けることとなった。
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