Written by 独鴉
スピリット・オブ・マザーウィル・・・・・・・・
「BFFのAFスピリット・オブ・マザーウィルを排除してもらう」
オーメルからの依頼だったが、先日AFカブラカンを撃破したことで目を付けられ依頼を受ける事になった。
断っても良かったのだが、レイレナード系パーツ及び武装をライセンス生産しているオーメルに邪険にされては今後修理に事をかくようになってしまう。
呼び出されたミーティングルームではSOMの現状と大まかな戦術がオーメル側から提供されていたセレンさんが簡易的に説明を始める。
「SOMはすでに老朽化が始まっているが、並みのネクストでは歯が立たない。
だがラインアークに侵攻し、ホワイト・グリントによって搭載兵器の7割を破壊され、
修復と撤退を同時に行っている現状ならお前でも可能だろう」
ミーティングルーム中央に立体表示されたSOMの各武装が赤く表示され、ほとんどの固定兵装を破壊されていることがわかる。
「そこでVOBを使用しBFF圏内を撤退中のSOMに強襲をかける。SOMの主砲圏内を一気に突破するが気をつけろ。
PAが有るとはいえ直撃すればネクストといえどただではすまん」
「了解しました」
「ではブリーフィングルームに行くぞ。そこでオーメルの新人と共闘についての話がある」
「新人ですか?」
独立傭兵用のミーティングルームを出ると二人はブリーフィングルームへと向かう。
「今回はオーメル側から訓練所出の新人を一人僚機としてつけるよう希望している。
これまでのデータから栄えぬきとはほど遠いタイプだが、奴らにとっては期待の新人だろう。
何しろこの前のGAとの争いで二人も新人が死んでしまったからな」
ブリーフィングルームに入ると見慣れない男が仲介人の服とカードを首から提げて待っていた。
「ストレイドのリンクスとオペレーターですね。お待ちしておりました。私が当社リンクスのオペレーターを担当します。あちらが当社の新人ネクスト トリケアです」
共に作戦に参加する僚機として、同じく元レイヴンのランク32ネクスト トリケアがブリーフィングルームに居る。
年齢はほぼ同じくらいのようだが、顔や腕にある無数の戦傷、その風貌が激戦を生き抜いてきた事を表していた。
こちらに気付いたトリケアのリンクスが立ち上がるとこちらに向かってくる。
「その鴉が描かれたジャケット・・・・レイヴンか!」
突然リンクスの襟を掴むと手前に引き寄せる。
「まだ生き残りが居やがったか。薄汚い鴉が!」
リンクスを見るその目は憎しみに満たされ、開いた左手で腰に下げられた銃を掴む。
「そこまでだ。ゆっくりと手を離してもらおうか。お前もだ。撃つな」
セレンさんは男の左手を抑えながら銃を背中に突きつけている。
男はゆっくりとリンクスから手を離すとリンクスの両手には銃が握られセーフティーが外れていた。
あわててオペレーターの部下達が男を取り押さえる。
「オーメルの仲介人。どういうつもりだ?」
「いえ・・・、こちらも何故このような行動を取ったのか皆目検討が尽きません」
「この調子で大丈夫なのか?背後から撃たれても困るのだがな」
「いえ、時間までに調整しますので問題ありません。依頼書どおりお願いします」
そういうと取り押さえられたまま男はブリーフィングルームから引きずり出されていった。
「調整だと?」
「・・・・嫌な言葉ですね。まさか精神操作でもしているのでしょうか?」
「奴の動向にも注意しておけ。変なそぶりを見せるようなら任務放棄してもかまわん」
「了解しました」
セレンさんの言葉にリンクスは頷くと銃のセーフティーを戻しホルスターへと銃を戻す。
カラードに設置された甲板に二機のネクストがVOBの装着作業完了を待っていた。
一機はオーメルサイエンスグループ期待のネクスト トリケア、ライールの頭部・ソーラのコア・ユディトの腕部・
ユディトの脚部、左腕にアルゼブラの誇る実系ブレード ムダン、
右腕は同社製LABIATA、肩にはフレアYASMIN、機動力を重視した戦法なのだろうが、実ブレードMUDANを使いこなせるのだろうか。
「まぁ、大丈夫なはずだよ」
リンクスの心を読んだように女整備士長のレイン・ミンクスがリンクスの肩を叩いた。
「オーメルの連中も馬鹿じゃない。おそらくムダンを扱えるリンクスのはずだよ」
「・・・そうだといいんですが、ノーマルも極めたレイヴン以外実ブレードはまともに扱える代物ではないと聞いています」
「それに」
レインは腕組みをすると深くため息をついた。
「それに?」
「あんたのアクアビット製で構成された機体の方が心配なはずだよ。あちらさんにはね」
指差した方向にはオーメルの技術者達がなにやらアクアビット製ネクストを見ながら怪訝な顔をしている。確かにアクアビット製は問題なくは無いが。
「まぁ仕方ないですよ。実戦データ収集契約の期間がもうないのです少々無理をしてでも実戦に使わないと」
「だからといってSOM戦にねぇ・・・・」
「損傷を負っている上に援護付だから大丈夫ですよ。相当精神負荷は掛かると思いますが」
待機室から機体を見上げると独特の形状をした頭部のカメラアイがこちらを見下ろすように下を向いている。
「前の主が誰かは知りませんが、こいつとて戦場で使われたネクスト、やれるはずですよ」
戦場で前の主を失い、販売元であるトーラスに戻された機体だ。トーラスが修理を行ったものの損傷が激しく、一度戦闘データを取得した後廃棄することになっている。
その為最後のデータ収集の依頼ストレイドが受けていた。
「メンテナンスや調整は十分にしたけど、異常が起きないとは限らないから異常を感じたならすぐに統合制御体にサポートしてもらいなよ」
「了解です」
パイロットヘルムをかぶるとネクストに乗り込む為、リンクスは待機室から出て行った。
甲板に到着するとVOB装着の完了したネクストが出撃を待っていた。
リンクスが機体に乗り込むと発進作業に追われていた作業員達の退避が始まった。
「発進準備完了!」
「全作業員は安全エリアに退避急げ!」
「急げ!急げ!」
カタパルトに装着されていた2機のネクストがVOBを点火しブースターからコジマ粒子独特の緑色が噴出、
VOBの強大な推進力を抑えていたユニットが解除されカタパルトから2機のネクストが飛び立った。
飛行士開始から8秒、すでに2機はSOMの主砲射程距離まで30秒を切っていた。
「巡航速度に到達、ですが僚機 トリケアよりも遅れています」
アクアビットの右前方にはネクスト トリケアのVOBが徐々に距離が離れていく姿が見える。
「コアとブースターの差だろう。この程度の巡航速度の差なら到着まで大きな差は無い」
「しかし・・・」
「戦場に到着する前にAMS負荷を高める必要は無い。気にかけ、・・・緊急回避!」
マニュアルで右SQBを点火し移動進路を横にずらすと巨大な砲弾が先ほど居た場所を貫いていく。
「目測射撃だが油断するな!相手は手慣れだ!」
SOMでは警報が鳴り響く中迎撃準備に追われていた。
「第2第3砲塔砲撃用意!敵はネクストだ!甲板の全ミサイルランチャーをオートモードで起動!甲板下各砲台は目測射撃で迎撃しろ!FCSは役に立たんぞ!」
そんな中、右舷砲手長は射程圏内に入ったネクストを仕留めるべく部下達に命令を飛ばしていた。
その間にもVOBを装着した2機のネクストはすさまじい勢いでSOMに接近している。
乗組員の焦る気持ちとは裏腹に甲板に設置されているミサイルランチャーのハッチがゆっくりと開かれるが、修理を完了していない2割ほどのランチャーのハッチが閉じたままだ。
甲板上にはノーマルACの配置が行われていくが、配置されているノーマルACの数は少なく、損傷を負っている機体まである。状況は劣勢、それでもBFFの象徴たるSOMを簡単に失うわけには行かなかった。
「VOB限界だ。バージする。敵主砲の威力はばかげている。直撃だけはなんとしても避けろ」
AMSから流れ込んでくる情報量に身を委ねると機体を掌握、高速で流れていく視界情報にアクアビットのカメラアイの情報処理は限界ぎりぎりに達しており、AMSを介して統合制御体から送られてくる情報が制限されていく。
VOBによって得られた運動エネルギーを消費しながらランスタンは減速、徐々に高度を下げながら砂漠に着地。
戦闘エリアに到着すると甲板に設置されている垂直発射式ミサイルの発射口が開かれ、大量のミサイルが2機のネクストに向かって撃ち出される。
「戦闘開始だ。気を抜くな!」
「了解、戦闘開始します」
右前方には先に着地していたトリケアがOBユニットを展開しながらフレアを射出、ミサイルの誘導性を狂わせ突撃を開始しようとしている。
その時廃ビルの間から一つの機影が右サイドからトリケア目掛けて飛び出した。
角ばった形状と茶褐色からノーマルACのソーラかと思ったが、聞き覚えのある声が向けようとしていた銃口を止めさせた。
「どりゃぁぁぁ!」
OBを発動し加速、ドーザーブレードをトリケアに叩きつけようと振りかぶる。
「キルドーザー!?何故ここに?」
キルドーザーは砂煙を巻き上げながら加速したが、トリケアがMQBを点火しただけで後方を通過して行った。
「空気の読めない解体屋が、かまわん。攻撃目標に集中しろ」
「・・・一応僚機契約しているのにいいのですか?」
「仮にもリンクス、死にはしないだろう。トリケアに任せてお前はSOMを仕留めろ」
「了解しました。SOMに向かいます」
OBを起動、加速させると前上方から襲ってくるミサイルが後方へと着弾していく。
「EN消費量過大、OBの維持は困難。ジェネレーター容量が小さ過ぎます」
OBをカットし通常ブーストで機体を加速させるが、射程距離まで到着するには随分と時間が掛かる。
EN残量とEN供給量から数秒間高機動が不可能な隙が出てしまうが、タイミングだけでミサイルを回避するしかない。
「プラン通り砲塔やミサイルランチャー等を破壊します。OB再発動可能まで6秒」
「情報が正しければダメージが内部に伝版するはずだ。間違いならば・・・退け」
「了解です」
ブースターを点火し左右に蛇行しながらSOMへと向かって行くが、甲板下部に設置された砲塔からの砲弾は回避できる。
だが、甲板上から発射されたミサイルはこちらへと追尾してくる。着弾寸前でMQBを点火することでミサイル群を回避、
数回MQBを使用した回避を繰り返すことでなんとかEN残量を保った状態でSOM脚部まで到達。
甲板を見上げるとノーマルACなら直接甲板まで飛行することが困難だと考えられるほどの高さだ。
「単独で上がれるか?」
EN残量は後数秒もすればフル状態まで回復するだろうが、問題は展開されているだろうノーマルAC部隊とミサイルランチャーを回避しながら戦えるかどうかだ。
「考えていても仕方ないな」
SOMの脚部第一関節まで飛び上がると一旦着地、消費したENを回復していく中、上方からミサイル群が迫ってくる。
使用したENの2割弱を回復したところで機体を跳躍させる。前後の補助ブースターを調整することでミサイルの七割を回避しながら甲板に着地、
それと同時に周囲の小型砲台やノーマルACの攻撃がランスタンのPAを激しく揺らす。
だが、分厚いPAを完全に貫く事は適わず装甲そのものにはほとんど損傷を負っていない。
「予定地点に到達、これより攻撃目標の破壊に移ります」
全甲板からミサイルランチャーが射出され侵入者へと襲い掛かっていく。
PAに接触し激しく明滅するコジマ粒子の光の中、 両腕のプラズマライフルをミサイルランチャーとノーマルACに向け戦闘を開始した。
「第3甲板にネクスト一機確認!取り付かれました!」
部下のあせった言葉に波立った心を落ち着かせ、艦長は一呼吸置いた後に口を開いた。
「ノーマルACとミサイルランチャーの攻撃を集中させろ。落ち着け、ホワイト・グリントじゃない。我々なら、いや、SOMならやれる」
艦長が焦っては部下達の冷静さが失われる。例え不利だろうと心を落ち着かせなくてはならなかった。
「もう一機のネクストはキルドーザーに任せていい。GAとBFFには救援を求めておけ。まだ増援が来るとも限らん」
「了解しました!」
落ち着きを取り戻しつつある部下達を見ながら内心艦長は焦っていた。
(二番艦が完成するまでこのSOMを失うわけにはいかん)
行動を始めたネクストは甲板を滑るように疾走しながらミサイルランチャーとノーマルACを攻撃している。
「甲板下部の全砲台はまだ離れているネクストを狙え。これ以上取り付かせるな」
その時爆発音と振動が艦橋を襲い、警報がけたたましく鳴り響いた。
「状況報告!」
「第3甲板全ミサイルランチャー破壊されました!」
「隔壁閉鎖急げ!機関部冷却システム全開で暴走を抑えろ!」
「隔壁閉鎖開始、第3甲板生存者は安全区域へと速やかに移動せよ。繰り返す」
「ネクスト第2甲板に移動しました!」
「キルドーザーもう一機のネクストと交戦中、苦戦しています!」
「ノーマルじゃまるで歯が立たない!ネクストの増援は・・・」
「どっせぇぇぇ!」
気合と共にQBを点火し軽量級ネクストを視界に捉えようとするが、一瞬視界に映るだけ
ですぐにサイドかバックを取られライフル弾がPAを突き破り装甲板と接触し火花を散らしている。
だが、ライフル一丁だけで削りきれるほどSSLはもろくは無い。かならず左腕のムダンを当ててくるとチャンプスはその瞬間を激痛に耐えながら待っていた。
だが、SOM主砲が先ほど迎撃中放った砲弾によって生じた地面の陥没に足を取られ、右側から傾きバランスを崩してしまった。
チャンスと見た軽量級ネクストがMQB点火、左腕の大きく引きながらチャンプスの左サイドへと接近していく。
「よいしょぉぉぉ!おりゃぁぁぁ!」
掛け声と気合を上げながら機体を回転させ軽量級ネクスト目掛けて右腕のドーザーブレードを振り下ろした。
金属が砕け散る激しい音が周囲に鳴り響き、キルドーザーの後方に金属が飛び散ると片膝を付いた状態でキルドーザーは動きを止めた。
「隔壁破損!ダメージが中核部に!」
「敵ネクスト第5甲板破壊!全ノーマルACは第6甲板を死守しろ!」
「熱量負荷限界突破!駄目です!抑え切れません!」
各班長達は必死でSOMを持たせているが勝敗は付いていた。近接火力の8割近くを破壊された状態ではネクストを破壊、もしくは追い払えるだけの力をSOMは持っていない。
「・・・副艦長、救援はあとどれくらい掛かる」
「まだ15分ほどかかります」
深くため息をつくと艦長は帽子を取ると館内放送のスイッチを入れた。
「全搭乗員に告ぐ。現戦力ではSOMを護りきることは出来ないだろう。優秀な兵である貴官らは建造中の2番艦において必要な人員である。
ただちに本艦を捨てて退艦せよ。SOMと最後を共にしたいものは最後まで残るがいい。以上だ」
通信を切ると椅子に深く座る。艦長である自分は最後まで艦を、SOMを降りるつもりは無かった。
「副艦長貴官も退艦しなさい」
「しかし艦長」
「最後まで付き合う必要は無い。皆を誘導してやってくれ」
「っ、了解しました」
敬礼を行ったあと副艦長は艦橋を出て行ったが、残りの各班長達はその場に残った。
「貴官らも退艦しなさい」
「何言ってるんですか艦長、脱出するまであなた一人で持たせられるんですか?」
「我々は最後まで残りますよ」
「最後の維持を見せてやりましょう」
各班長達はSOMを一瞬でも長く持たせるため命令を下していく。
「ダメコン班で残った奴は甲板を落とせ!僅かでもSOMを持たせろ!」
「砲兵長!左三連主砲の一門が無事です!」
「機関部停止!残ったエネルギーを全て主砲駆動部に集めろ!」
「通信班!最後の瞬間までSOS信号を止めるな!」
「主砲遠隔コントロール駄目です!主砲砲座付近に誰か居ないか!」
「全員退避!退避しろ!マザーウィルが崩壊するぞ!」
誘爆の始まったSOMを捨てて各員が脱出していく中、砲手長は左三連砲塔の唯一無事な一門の火器官制室へと向かっていた。
着いてみると拉げた隔壁や砲塔周辺では焼け焦げ、ばらばらになった元部下達の死体が転がっている。
痛む体を引きずるように歩き、残った砲塔の火器管制室へとたどり着いた。
ゆがんだ扉をこじ開け中に入ると、制御台の前にあるはずの対爆ガラスは砕け、足元には砲手だったであろう肉の塊が転がっている。
砲身制御桿を掴もうとしたが、手だけが操縦かんを握っていた。吹き飛ばされる直前までネクストに狙いを定めていたのだろう。
硬直の始まった手を無理やりひっぺがしたとき、割れた対爆ガラスの向こう側には離れていくネクストが見えた。
「くそ・・・逃がすものか」
血だらけの腕で離れていく黒いネクストに砲手長は照準を合わせ引き金を引いた。発射と同時に巻き起こった爆発で壁に叩きつけられ、
意識が遠のいて行く彼の眼には左腕を吹き飛ばされたネクストが映った。
誘爆の始まったSOMから離脱を始めたとき突如としてロックオン警報が鳴り響き、一発の砲弾がPAを貫きランスタンの左腕を抉り取った。
「っ!」
AMS負荷の激痛に耐えながらQTで振り返ると誘爆の始まったSOMの左三連砲塔の右端の砲口が硝煙を上げて拉げている。
爆発に巻き込まれないようそのまま離れていくとSOMは連鎖爆発を起こし崩壊した。
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