Written by へっぽこ


こんな都市伝説をあなたは知っているだろうか?
自分のドッペルゲンガーに出会うと死ぬ。

ま、そんなわけでさ。
 
     / →第∞階層に 僕ら はログインしています。
 
遠く響く、大砲の咆哮を意識の片隅に。
俺は俺で、自分の戦いに身を投じるのであるが。
鉄の匣で目を覚ます。それは涙が枯れた後である。
身を起せば地上10mの視界。かつてのマイホームにぽつねんと佇む自分自身(ストレイド)。
眼前にそびえるは懐かしきガレージの、凹凸噛み合う巨大な鉄の扉である。
そう、全てがミッションはここから始まるのだ。
そしてこれが、おそらくは最後のミッションになる。俺にとって。

ガコンと一瞬溜めがあって、それからゆっくりと開く。仰々しく重々しく、鉄の軋みをあげながら。
広がる隙間から白光。目を細めて光の先を俺は見通す。
そこは青い空間だった。視界を埋め尽くす青色。
無機質極まりない、空と海とを混ぜたような人工空間。
いつか僕が初めて“ネクスト”を動かした場所だ。
もちろんそれはただのシミュレータであり、このように実際の場ではなかったけれど。
ま、実際も何も、夢だけどさ。これ、全部。

俺は踏み出す。ストレイドに乗って。
青くて冷たいアリーナへ。
ふと振り返ればすでにガレージの扉などなく、幾何学ブロックが足場となって、見えない壁が世界を覆った。
あるのは透明な鏡一枚。とか。見て思う。“ああ、やっぱり”ってさ。
レーダーに点る敵の赤点。それは一機。我が眼前に佇むは―――。

「やっぱり、君がラスボスなんだよね」
相対するネクストに語る。
「何を言う。お前がラスボスなんだよ極悪人」
「いわれてみりゃ確かにそーかもねー」
ゲラゲラと笑う。
「それでは早速だけれど、決着をつけようか」
「そうだね、君とはもう十分話をしたし、「こんな機会はもう二度とないだろうけれど、「それでも、いつまでも続けるわけには「いかないんだ」
語尾を彼が引き継いだ。いや、初めからしゃべっていたのは彼の方で、遮った方が俺かもしれない。
事ここにいたって考えまで同じ。当たり前だが。全部が全部、おんなじなのだ。存在として。
しかし。ただ一つ、譲れないものがここにはある。
それは顛末。
このイベントの、顛末だけは決して同じくするわけにはいかない。

“残念だけど未だに首輪に囚われている首輪付きには、もういい加減飽き飽きなんだよ。”
“残念だけど力任せに首輪を引きちぎった人類種の天敵なんてのは、端からお呼びじゃないんだよ。”
ああ素晴らしきこの世界。
しかし所詮は、誰か一人の首輪付きのものなのだ。
そしてそれはお前ではない。

向かい合う二機の同一機体。ともに同じストレイド。
ためしにライフルを構えれば、刹那の誤差無く、あちらのストレイドまでが肘を伸ばす。
「わかっているのか? これは“そういう”勝負だ」
わかっている。いくら違う道を歩んだ末の存在であろうとも。
分かたれた可能性の人間であろうとも、ひな形は同じ。同じ、一人の首輪付き。
そして、今、まさにこの夢を見ている真に僕な“ぼんくら”は、自分だったらこうするだろうという程度の、自身の戦いをそのまま投影することでしか戦闘脚本が書けないへっぽこだ。
ゆえに、これはそう、首輪付きによる“対ネクスト戦”、というありきたりなミッションの一シーンに過ぎず、その挙動に誤差はありえない無い。
俺たちが分かたれた理由は戦闘によらないからだ。

強いて言うなら裏と表。
俺と私は共にまったく同一のストレイドを有し、まったく同一の戦闘性能を有し、そして、まったく同一の相手を前にしている。
そのすべては、ただ一点に収束する。
「それじゃ、まあ。ぼちぼち始めようか」
「どうぞお手柔らかに」
言い終わりに早速引き金を引いた。ドン。と銃声が響く。
何か合図があったわけでもなし。
突発する戦闘は、けれど初めからそうなることが決まっていたかのように。
俺が放った弾丸は、まったく同タイミングで自分が放った弾丸と寸分の狂いなく、予定調和に二人の中心で衝突した。

そしてブースターに灯がともる。同時に。寸分の差も無く。
それは鏡を見ているかのような錯覚。けれど、もちろんそれは鏡の像ではなく実体。視線の交差点で寸分違わぬ線対称。
とあるルートを真ん中に、両側から羨むだけの僕らはとんだ偽物だ。
それでも、今この瞬間、世界には二体のストレイドがあって、そして僕は二人いた。
二人もいるのだから消えねばならない。

飛び交う銃弾は“なぜか”軸を等しくし、ベクトルだけを180°逆さに、ど真ん中で衝突してはぺしゃんこに潰れて爆ぜる。
もはや意味の無いブースト。クイックを重ねても、対称形は崩れない。
俺が動けば動くだけ、僕は動いて動くのだ。
ここは、ネクストの戦闘力を競う場ではない。
敵はストレイドにあらず。
俺が倒したいのは、一人の首輪付きである。
私が消したいのは、一人の首輪付きである。
一たす一を零にする試み。それを不毛と言わずなんという。
終わり(エンディング)は、未だ見えない。

―――銃弾は衝突する。そして両方ぺしゃんこに。


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