Written by 独鴉



ランクマッチ 有澤重工の真髄・・・

 ホワイト・グリントとの戦闘が終わった後、ストレイドはリンクスと共にもっとも近いGA系カラードへと搬送された。だが、ストレイドが整備場に入ってから一月以上が経過しようとしていたが、修理が行われるどころか損傷を負ったままの状態で保管されていた。
 ホワイト・グリントとの戦いによって酷い損傷を負ったストレイドは、ブースター系と内装を除いて全て使い物にならず、フレーム一式とMARVEとMOTORCOBRAを含め完全に修理不能だった。現在でも、オーメル・サイエンス・テクノロジーによってライセンス生産されたアーリヤシリーズのパーツはある。しかしレイレナード社の純正品と違い、オーメル製品はやはり質が劣る。ストレイドは武装から内装やフレームに至るまで全て純正品、その為整備にも修理にも手間と時間が多く掛かり、損傷がひどければそれだけ修理費と時間を多く必要としていた。
 話があるとリンクスはカラードのレンタル整備場と共に設置され、無料で使える簡易ミーティングルームに呼び出されていた。8人程で一杯になってしまう程度の広さだが、中央の簡易テーブルやディスプレイ等が設置され、部屋と共に古びたものだが必要最低限の設備はそろっている。リンクスがミーティングルームに入ると一番に目に映ったのは簡易テーブルに詰まれた紙の山だった。

「あの、セレンさん?レインさん?」

 さすがに状況の読めないリンクスは周囲を見回す。

「こっちだ」
「テーブルの反対だよ」

 セレンの上げられた手とレインの声にテーブルの反対側へと向かう。リンクスが反対側に回っていくと山のように詰まれた資料の先にセレンとレインが座っていた。

「機体を見てのとおり当分ストレイドは使えん。修理部品を集めるだけで早くとも後2~3ヶ月は掛かってしまう」
「良い機会だと思って他の構成を考えるんだね。高機動だけが戦い方じゃないだろ?」
「わかりました。しかし・・・、この紙の山は一体?」

 リンクスは足元に落ちていた紙を拾うとテーブルの上に戻す。

「レイレナード社製純正パーツの購入申請書類だ。他のモノも混ざってはいるがな」
「カラードの許可は面倒だからね。まぁ仕方ないさ」

 セレンと整備士長のレインはリンクスにそう伝え、乱雑に詰まれた資料の山との戦いを始めた。レイレナード社製のパーツの大半はカラードに保管され、購入する為には多くの申請書類や今までの戦闘記録が必要であり、そう簡単には購入することは出来ない。実際に二人が手をつけている資料はそれだけではないのだが、詳細はリンクスに伝えられていなかった。
 リンクスは簡易ミーティングルームを出るとシミュレータルームへと向かった。途中整備場を見下ろせる通路を通りがかり、リンクスは強化ガラスの向こう側に見える機体を見下ろす。大破したまま整備のなされないストレイド。自分自身が未熟な上、正気を失ってしまったために負った損傷、機体を見ているだけなのだが、平静を常に保とうする意思とは無関係に感情が激しく乱れてしまう。

「…俺の、いや自分のミスか。情けないな」

 リンクスはネクストに搭乗するようになってからというもの、常に平静であるよう勤めていた。戦況を冷静に読み取り、自らの実力を最大に発揮する為だ。訓練の成果によって戦闘中も心をほとんど乱されなくなり、今では冷静な判断が出来るようになっている。だが、ホワイト・グリントを相手にしたとき、冷静さだけではなく自らも見失い、無様な結果を残してしまった。思い出すだけで抑えきれないほど感情が乱れてしまう。

「っ!」

 リンクスは怒りに任せ、何重にも重ねられた強化ガラスを殴りつけた。鈍い音が響き、殴り付けた所を中心に大きくひびが入る。殴りつけた右拳からは血が流れ、裂けた皮膚とひびに沿って血が床に滴り落ちていく。

「そこで何をしている!」

 ガラスの割れた音に気付いた警備兵にリンクスは取り押さえられ、カラードの事務室で適当に割った理由を答え、ガラスの修理代を払った後開放され医務室で傷の手当を受けていた。椅子に座っているリンクスの前には、骨の状態を映したレントゲンを医者が見ている。何度か光に当てて見直した後、カルテに何かを書き込むと口を開いた。

「手の骨は折れていませんし、傷も浅いので一週間ほどで治ると思いますよ。後は向こうの治療室で処置を受けてください」

 リンクスは女性看護士に治療室へと案内される。消毒液の匂いが漂う治療室は清潔な状態に保たれ、2~3人の看護士と1人の医師がカルテを下に治療器具の準備をしていた。皮膚は裂けたもののガラスの破片は奇跡的に刺さっては折らず、処置は傷口の単純な消毒を行い、傷口表面を薄い人工皮膚で覆うものだった。
十分足らずで治療が終わった後、リンクスは軽く手を動かして状態を確認する。包帯が巻かれた手は鈍く痛むが、出血もなく普通に動かすことが出来る。受付で治療費を払った後、リンクスはシミュレータールームへと再び向かった。
 カラード内にはシミュレータールームが設置され、そこまではネクストの模擬戦闘訓練が可能となっている。もちろんそれだけではなくアセンブルの組みなおしも可能だ。
シミュレータールーム前の自動受付端末に必要事項を記入し、IDカードを扉横のカードリーダーに差し込むと扉が開けられる。ルームには4機ほどのシミュレーターが設置され、そのうち1機だけ使用中の表示がされていた。GAにあるカラードである以上、GAに所属するリンクスまたは独立傭兵の誰かだろう。リンクスは開いているシミュレーターに入ると第2アセンブルのSSL型の改良からはじめた。何度も機体構成を変え、シミュレートでチェックし、そしてまた構成と調整のやり直しを繰り返し続けていた。
2時間ほどした後、メイ・グリンフィールドから気になる内容の呼び出しのメールが届いた。前に出会った時。アドレスを教えてから頻繁にメールは届いていたが、今回の内容は今までと違った。

『GAに新しいリンクスが登録されるって』

 GAには有澤から引き抜いたリンクス一名が最近登録され、ローディー・メイ・ドンを含め4人まで増えている。この状態でさらに一名追加されるとなるとGAのネクスト戦力はリンクス戦争開始直前まで戻ることになる。メールを見たリンクスはシミュレータールームを出るとそこにはエメラルドの長髪とメリハリの効いたボディを隠そうともしない女性が立っていた。

「お疲れ様。さぁ行きましょう♪」
「え?」

 リンクスは彼女が居ることを予想していなかった。いや、可能性としては他のシミュレーターが使われていた以上、彼女がいたとしてもおかしくはない。メイ・グリンフィールドは満面の笑みを浮かべ、リンクスの手を掴むとGA関係者以外が立ち入れないエリアへと引っ張っていった。
 
 
 
 

GA管理領域内カラード施設GAグループ専用エリア・・・
 GA環境部門動植物保護室希少生物課特異生物対策班AMIDA専任チーム変異種ミニAMIDA担当、有澤傘下に所属している小さな研究所の一つ、KISARAGI研究所によって作られた環境浄化用生物AMIDA。元々生物兵器だったがその強靭な生命力を買われ、環境浄化用へと改良されている。現在では生息領域の汚染物質の吸収を行い、体内で凝縮と結晶化を行う事で領域を浄化していく。サンプルとしてGAにも数匹研究用に送られ研究されているが、その個体から産まれた新たな変異種たる小型のAMIDAはコジマ粒子さえも吸収する。だが育てる者を自ら選び、担当である彼、アルディー以外には決して懐こうとしなかった。

「はぁ・・・」

 アルディーは深くため息をつくと肩に乗っているAMIDAは、ワサワサと脚を動かし頭の上に移動した。彼もまたAMS適性を並程度保持していたが、クレイドル内の環境良化と食料自給が最優先のため、リンクスとしての訓練を定期的に行うのみに免除し、緊急事態まで環境良化業務を最優先に行っていた。しかし、オーメルの保有しているテストリンクスと訓練段階のリンクスの多さが確認され、いままで免除されていた彼もまたリンクスとして登録する事を命じられてしまった。

「人殺しも・・・こいつも、嫌だな。」

 重装甲な機体に重武装を施したリンクス アルディーのネクスト チャリオットは実弾火力で相手を押し潰す事に重点を置いている。メイのメリーゲートに似たアセンブルなのだが、彼女のネクスト メリーゲートは中距離からの火力支援を重視している。一方彼のネクスト チャリオットは近距離から高火力武装を標的に当てる事を重視し、支援ではなく主戦力として戦う事を目標としていた。
 
 
 
 
 メイと共に15分ほど歩いた後、カラードGA専用エリアの通路から見下ろせる場所に着いた。
 
「あれが新しいリンクスのアルディーとそのネクスト チャリオットよ」

 メイの言ったとおりネクストの前に、一人の男が機体を見上げていた。30代前半程度だろうか、GAのマークを付けたリンクススーツを着ているが、見たこともない生き物(?)が頭の上に乗っている。
 ネクストのほうは、完全GA製ネクスト、NSSヘッドとコア、SSの腕と脚部、両腕から下がっている大筒が二つ、GA製旧式バズーカ GAN01‐SS‐WB、右背にDEARBORNO3、左背にGAN01‐SS‐GC、肩にMUSSEL‐SHELL、人目でメリーゲートに近いセッティングであることが分かる。

「アルディーのAMS適性は並くらいかな。新人だけど訓練期間だけは長いから、実力はドンよりも上よ」
「随分と火力重視みたいだが、あれでEN兵器を回避できるのか?」

 GAグループ製の装甲はEN兵器に弱い。それ故に耐えるのではなく有る程度回避する必要性があるのだが、ふとしたリンクスの問いに対してメイの答えはまったく持って異なるものだった。

「あれ?口調変えたの?」

 リンクスはWGに敗北してから感情をフラットな状態に、平静な状態に抑える事が出来なくなり、その変化が言動にも出ていた。

「いえ、そんなつもりはないんですが」

 リンクスは気付いてすぐに冷静な言動に戻す。

「他人行儀じゃないし、私はさっきの方が好きだよ」

 メイは満面の笑みをリンクスに向ける。きっと意識していないのだろうが、彼女の笑みは自然と他者の心を揺さぶり、心に優しく触れてくる。

「あ・・・いや、それでいいなら」

 リンクスは断りにくかった。本当なら再び冷静な状態でリンクスはメイと接しようと思っていたが、彼女の笑みはその考えを全否定させるに充分だった。

「ねぇ。私少し時間が有るんだけど、これから一緒に食事でもしない?」

 彼女はセレンさんよりも心が優しい。いや、女性としてタイプが余りにも違うのだろう。リンクスは断れず、そのまま食事まで付き合うことになった。
今日の食堂は珍しくビュッフェ形式らしい。彼女はいくつかパンを取ると、先に飲み物を持ってテーブルに座っていたリンクスの前に座る。話題はやはり最近の戦況やGAパーツなどについてだが、アセンブルを練り直している事をリンクスは彼女に伝えた。

「機体構成を変えるの?それなら私のメリーゲートと同じのにしてみない?」
「メリーゲートと同じに?しかし、GAの主力アセンブルをまねていいのか?」

 彼女のネクスト メリーゲートは決して悪い機体ではない。むしろ現GA最高のアセンブルといえる。だが、リンクスは完全な重量級をノーマルの時でさえ扱ったことがない。

「エンリケさんには私から言っておくし、独立傭兵のあなたが使っても大丈夫よ」
「う~ん」
「今なら私のスマイリーマークも使わせてあげるよ」

 考え込んでいるリンクスの顔を身ながらメイは悪戯っぽい笑みを浮かべる。

「いや、さすがにそれは断らせてくれ」

 スマイリーエンブレムのストレイドは余りにも似合わない。あれは彼女だけに許されたマークといえる。そのことに当人は気付いていないのか、残念そうにアイスティーの入ったコップに手を伸ばす。

「ただ、基本アセンブルは遠慮なく使わせてもらうよ」

 そういうとリンクスは自分の飲んでいた空き缶を掴むと席を立った。

「購入申請を出しに行くから先に行くよ。悪いな」
「今日は付き合ってくれてありがとう。またね♪」

 彼女の笑顔は心地いいのだが、リンクスは慣れない感覚に振り回され少々疲れていた。

「あぁ、また」

 それからGAブースに向かったリンクスは必要なパーツの購入申請を行い、その日は事情を説明しにセレンさんとレインの元に向かい一日を追えた。
翌日からメインフレームをGA系に切り替え、メイのメリーゲートを参考に同様のフレームアセンブルを行った。内装系をGASSとGANSS系で調整し、肩部にアクアビット製EUPHORIAを付ける事で制波性能を高めている。慣れない重量級だが、無駄な動きを省きスピードで攪乱するだけの戦法を変える。その為には速度の遅い機体で実戦訓練する必要もあるからだ。

「さて、主力武装はどうするか」

 武装の在庫も多くはない。バランスを考えれば現在該当する武器はCANOPUSと修理の終わったばかりの051ANNRのみ、腕部適性を考えればCANOPUSは外れるが、片腕分武装が足りない。いや、両背部につける武装も足りない。ストレイドは高速を主力としていた以上余計な武装は極力排除していた。

「また購入申請を出しに行くしかないか」

 シミュレータで大まかなアセンブルは決定している。問題は予算的に背部のローゼンタールチェーンガンCG‐R500を、購入するだけの余裕がないということだ。必要なものを最優先で購入し、残りはなんとかするしかない。そういった考えにリンクスはいたるとすぐに各企業のブースへと向かった。
 企業の各ブースから有澤重工でSAKUNAMIをBFFで指揮用背部レーダーを購入したが、ここで予算が尽きてしまう。残る手段は各企業の試作品やテスト武装を試験の名目で借り受けるか、輸送部隊を襲って強奪するかしかないが、後者は選ぶべきではない。となると残るは一つしかない。

「GAN01‐SS‐GC ガトリングキャノン、確かに試作品故に価格もないですが、ただでお譲りするわけには」

 メイから聞いていた試作品の話、手があるとしたらこれくらいしか思いつかなかった。

「戦闘データはこちらで」
「なにやってんだい?」

 少々ハスキーボイスの聞きなれた声に振り返ると、そこには整備士長のレインさんが立っていた。相変わらず女性としての意識が低いのか、普段どおり作業着の前を中ほどまで開け放したままでいる。おかげで胸も半分程度さらけ出しているようなものだが、当人はまったく持って気にしている様子はない。
 インテリオル領域のカラードと違って、GA領域のカラードは女性の割合は低い。その為GAブースの職員や、通りかかりの男達が立ち止まってレインさんを見ていた。中には声をかけ様としているのか、身嗜みを整え始めているものまで出てきている。

「レインさん、前をまた閉め忘れてますよ」
「あっと、わるいね」

 リンクスに指摘されたレインは前のジッパーを引き上げると、周囲の男達は残念そうにその場を後にしていくが、まだ数人が声をかけるつもりなのか残っていた。

「それで、一体何をしてたんだい?」

 前を締めなおしたレインは周囲の男達を手で追い払うと元の話に戻った。

「予算不足で武装が足りないんですよ。製品化の失敗した試作品をただで譲ってもらおうかと」
「それは無茶を言い過ぎだよ。奴等も金をもらって作ってるんだ」

 レインの呆れた表情にほっとしたのか職員は大きくため息をつく。

「逆に廃棄物を回収してやるんだ。金をもらってやらないと相手も困る」

 GAブースの職員の表情が固まる。どうやらレインの言動はあまりにも予想を外れていたらしい。

「それで試作品ってこれかい?」

 レインはテーブルに置かれていた資料に目を落す。

「随分と・・・、問題がある仕様だねぇ。所詮は試作品止まりってとこか」

 カタログのページをぱらぱらとめくりながら、スペックや形状など情報を確認していくが、全て読み終えたところでレインは再度口を開いた。

「買わなくてもこれなら倉庫に有ったはずだよ」
「はっ?」

 購入申請など出した覚えなどない。なぜ倉庫に現物があるのかリンクスにはまったく予想が付かなかった。

「まぁ、あるものを追加購入する必要ないだろ?ほら帰るぞ」
「あ~、わかりました」

 リンクスを置いて整備場に戻るレインの後を追ってリンクスもまた整備場へと戻っていった。整備場に戻ってからすぐに倉庫の奥に眠っていたガトリングキャノンが運び出され、機体の右背部に接続されアセンブルは終了した。GAN01‐SS‐GC ガトリングキャノンは以前NSSを無償譲渡された時、共に搬送され倉庫に保管されていたらしい。

「機体名はどうするんだい?」
「考えていませんが、ストレイドを流用することは不可能ですか?」
「せっかく真新しいアセンブルなんだ、別名をつけたほうがいいさ。こいつも喜ぶだろう」

 レインは組みあがったばかりの機体を見上げる。その目はまだエンブレムも着けられていない左肩をじっと見ていた。

「サックスって楽器を知ってる?」
「サックス?」

 リンクスは音楽をほとんど聴かない。いや、戦場や戦闘に関する物事以外には興味が薄い。それゆえサックスと問われても首を横に振るしかなかった。

「今では珍しい管楽器っていうものなんだが、初心者でも比較的音を出し易く、明るく滑らかで遠くまで伝わる音を出せる。だけど、下積みがなければまずまともな音も出せやしない楽器なんだよ」
「それが?」
「遠くまで届くレーダー、初心者でも比較的使い易いライフル、遠くまで焼くグレネード、経験の要る機体構成、こいつの名前にちょうどいいじゃないか」
「レインさんがそういうなら」

 新しいストレイド、いや新しいネクスト サックスのアセンブルが完了してから僅か半日後、雷電からカラードマッチの依頼が舞い込んできた。断る理由もなく、完成したばかりのアセンブルの初先頭ということになった。
 カラードGA領域で行われることになったカラードマッチは三日後を予定され、当日の顔合わせで雷電のリンクスと出会うこととなった。
 まだ三十台半ばくらいだろうか、上に立つ者の威厳と風格を纏った男が有澤グループのオペレーターと共にシミュレーターの前に立っていた。

「君がストレイドのリンクスだね。GWの時は世話になった。なぜあの時、止めを刺さなかったのかね?」

 有澤重工社長にしてリンクス 有澤隆文、以前の戦闘の事を気にしている様子はないが、彼の質問はGW内での戦闘時、仕留めなかったことから来ているのだろう。

「・・・依頼を遂行するには弾数が足りなかった。それだけですよ」

 事実雷電を仕留めるだけ弾薬はあった。だが、隔壁と機関部を破壊することを考えれば、弾薬は完全に不足していた。

「なるほど、依頼を優先したわけか。だが、今回は雷電が標的だ。無視することは出来ん」
「むろん当たらせて貰いますよ。全力で」
「そこまでだ。カラードマッチ開始まで時間がない」

 カラードマッチまであと僅かゆえ、緊張感が高まっていたが、セレンはリンクスの首根っこを掴むとシミュレーターへと引きずっていった。一方有澤隆文はオペレーター兼秘書と共に自らのシミュレーターへと向かっていく。
 乱暴にシミュレーターコックピットへとリンクスは押し込まれ、セレンはリンクスの頭を掴むと顔を寄せる。

「良く聞け。有澤はリンクス戦争中も ワカ の名で参戦していた。単体防衛戦における奴の強さは並ではない。気を抜けばやられると思え」

 他の者に聞かれないよう押し殺した声だが、はっきりと聞き取れるほど意思が込められていた。

「・・・了解しました」
「ならいい。だが負けることは許さんからな」

 セレンはリンクスから手を離すとシミュレーターの扉を閉める。

「敗北するときは死ぬだけですよ・・・」

 リンクスは自ら意識せずに冷笑を浮かべ、そう呟きながらAMSとの接続を始めた。

 選択エリアは雷電の得意とする旧ピースシティエリア、重装甲だけでなく遮蔽物を利用されるとなると、さすがに雷電を撃破するのは非常に難しい。
 戦闘が開始されてから数秒間、互いの位置を確認するため静かな時間が流れたが、サックスのレーダーが雷電を捉え静寂なときは終わった。リンクスはサックスのブーストを点火し機体を空中に舞わせる。レーダーの捉えた方向を有視界で確認、雷電は砂煙を上げながら地面を疾走していた。左背のGAN01‐SS‐GC ガトリングキャノンを担ぎ、051ANNRライフルの二つの照準を雷電に合わせる。ライフル側の照準を二重ロック、トリガーを引こうとしたとき、雷電の腕を振り上げられた。

「っ!?」

 リンクスはとっさに右にSQBを点火して機体を走らせる。二門の砲口から撃ち出された大型グレネード弾、機体の大型化と重武装化、リンクスの予想していた以上に機体の反応が悪くなっていたがそれだけではない。グレネードを撃ち放つ瞬間、雷電は微妙に照準をサックスの移動先へとずらして発砲していた。

「ぐっ!」

 回避しきれず直撃した二発のグレネード弾はPA内に食い込み、激しい衝撃と爆炎を撒き散らしサックスを飲み込む。装甲を焼かれながら激しい衝撃によってサックスは後方へと弾き飛ばされる。本来なら統合制御体が自動で機体のバランスを取り直し、衝撃で弾き飛ばされることもないのだが、リンクスは統合制御体の自動サポートを極力停止させている。むろん、しなければならない制御は増えるが機体の追従性は増してくれる。リンクスはメインブーストと左右のブーストを調整し、後方に流れていく機体のバランスを取り直す。発射直前から直後までの雷電の動きを視認していたリンクスは、直撃した理由がはっきりと分かっていた。

「ずらし撃ち・・・、まさかノーマルACの技を使ってくるとは、さすが有澤社長だ」

 グレネードの発射寸前に機体をブーストで標的の移動方向とは逆に走らせる。僅かにずれる照準がグレネードを相手の移動先に着弾させ、照準の外れ易い高速機などに爆風を狙って撃ち当てる方法だ。
 爆炎から抜け出したサックスを確認し、雷電は廃ビルの陰に回りこみながらOIGAMIの展開を始めた。有澤重工雷電の火力は確かに凄まじいが弾数が少なく、相手が重装甲となれば一発一発の必中を心掛けなければならない。

「ふむ。やはりGA製となると硬い」

 RAIDEN‐AWが完全に直撃したにもかかわらず、GA製で組み上げられたサックスはたいした損傷を負っている様子はない。

「やはり削り合いは避けられぬか。・・・良かろう」

 肩のフレアをバージすると雷電は廃ビルの陰からゆっくりと出て行く。襲い掛かってくるだろう銃撃の豪雨に恐怖する様子など微塵もなく、その履帯で砂煙を上げながらサックスへと向かっていく。

「有澤重工の力を魅せるに相応しい相手だ」

 左背にガトリングと右腕のBFFライフルからの連射、三つの砲身から連続して撃ち出される弾丸は雷電のPAを突き破り、装甲と接触することで激しい火花を散らしている。しかし、ガトリングキャノンから撃ち出される銃弾の反動と試作品故か、銃撃ラインの不安定で雷電の一箇所に集中することはない。ただ、右腕のBFFライフルの反動を完全に抑えられ、銃弾はコアと頭部に撃ち込まれていく。
 だが、あえて銃撃を受けながら雷電はサックスに向けてOIGAMIの引き金を引いた。巨大なフラッシュファイアと共に撃ち出された砲弾は、サックスのPAを突き破り大爆発を引き起こす。サックスは再び衝撃で後方に吹き飛ばされる。

「まだだ、まだ足りぬだろう」

 有澤隆文の言葉通り、後方に吹き飛ばされながらもサックスは着地、砂煙を上げながら後方へと滑る機体を停止させ、SQBで機体を横に滑らせもう一度跳躍、空中に舞うと再度の銃撃を開始した。

「そうだ。向って来い」

 雷電は退こうとせず、ただ向かってくるサックスに向けてOIGAMIを向ける。

「こちらもまだ、撃ち足りぬ!」

 重装甲と強大な一撃を誇る有澤重工 雷電は豪雨のように襲い掛かってくる銃弾を回避せず、ひたすら耐えては正確無比なグレネード弾のカウンターをサックスへと叩き込んでいく。サックスもまたガトリングキャノンを一瞬たりとも停止させず、銃撃の猛攻をただひたすら雷電へと浴びせ続ける。空中を舞いながら弾丸を雨のように降らすサックス、高射砲台のように正確な砲撃を浴びせる雷電、巧みな操縦も精密な照準も爆音と爆炎に隠れてしまうほど、エリア中央で強大な力同士のぶつかり合いが2分近く続いた。
 力同士のぶつかり合いは空中から撃ち下ろしていたサックス側の弾切れで終わった。サックスは空転するガトリングを折りたたみながら機体を降下させていく。だが、有澤重工の誇るOIGAMIもまた弾が切れていた。背部から2分割にバージされ、砂煙を上げながら砂地に転がった。
 サックスは装甲前面ほぼ全てが焼け焦げ、関節の何箇所からもスパークを上げ、限界が近いことを物語っている。だが、雷電も無傷ではない。頑丈なはずの脚部やコアには銃撃によって拉げ、貫通した弾痕がいくつも穿たれている。こんな状態で動けるのはGAと有澤のみで構成された雷電以外存在しないだろう。

「ここまで良くやったが、残念だな」

 空中からの無造作な降下、その速度から着地と同時にサックスは衝撃で硬直、例えQBで直前に移動を行ったとしても、確実にグレネード弾を当てられる技量を有澤隆文は持っている。数秒後には来るだろうその時を電の二門の砲門が静かに待ち構えていた。
 サックスは着地寸前にガトリングキャノンをバージ、機体バランスを変化させSQBの点火、僅かだが予想の範囲外に外れた為グレネードの爆炎が僅かにサックスを襲っただけだった。爆風と衝撃波に機体を押され、バランスを崩しながら地面に着地、激しい砂煙を上げながら爆風で煽られた機体を停止させる。

「外したか!?」

 グレネードを外したことは有澤隆文にとって、驚きを隠せないほどのものだった。直撃はなくとも、爆風圏内に確実にとらえるはずだったのだ。驚かないほうが無理がある。

「次弾装填まで・・・持つか!?」

 雷電の損傷は軽微ではない。むろんライフル弾などまだまだ耐えられるが、問題はサックスの左腕が持っている代物だ。有澤重工製榴弾兵器 SAKUNAMI、他の手持ち榴弾兵器よりも火力と爆発力は劣るが、その威力は決して侮ることは出来ない。それは有澤重工の社長たる有澤隆文がよく理解していることだ。極度の緊張状態ゆえに、有澤隆文の目には自らへと向けられるSAKUNAMIの砲門の動きが、非常にゆっくりと感じられた。
 雷電はSQBを点火、撃ち出されたグレネード弾は雷電のPAに接触せず、そのまま空を切り、少し離れた後方に立っていた廃ビルにぶつかり粉々に撃ち砕いた。RAIDEN‐AW次弾装填まで69、SAKUNAMI次弾装填まで72、051ANNRのライフル弾がPAに接触し装甲を削っていく。雷電はBQB、サックスはMQBを点火、2機の距離は若干詰まるもののまだ距離は充分ある。雷電は下がりながら廃ビルの陰へ向かっていく。その間にもライフル弾は的確に雷電のPAを減衰させ装甲を削る。RAIDEN‐AW次弾装填まで残り34、SAKUNAMI次弾装填まで37、雷電が廃ビルの陰へと入るのを確認するとサックスはOBを起動、コジマ粒子が収束し後方へと光が集まっていく。RAIDEN‐AW装填完了、SAKUNAMI次弾装填まで残り3。
 有視界に捉えていないが、レーダーの光点には高速で雷電へと向かって来るサックスの姿が映っていた。

「無造作にOBを使用とは、最後につまらないまねを」

 廃ビルの陰からSQBで飛び出しながらグレネードのトリガーを引いていた。だが、雷電の目の前にはAAの光が迫っていた。グレネード弾はかき消され、激しい衝撃が雷電を襲った。だが、雷電はAA程度の爆発で吹き飛ばされることはない。強固な装甲と重量を支える分厚い履帯は機体を押しとどめ、AAの衝撃にさえ耐えてみせた。
AAの衝撃が過ぎ去り、ホワイトアウトしていたカメラアイが通常に戻ったとき、雷電の目の前にはSAKUNAMIをコアと頭部の間に突きつけるサックスの姿が映る。

「私の負け・・・だな」

 有澤は撃墜されることなく敗北を認めた。ここで撃墜されればAMS負荷は高くなり、次の雷電の運用を行うのに数日の猶予が必要となってしまう。
カラードマッチの表示はリンクス側の勝利が映し出され、リンクスには次の15位との挑戦権が与えられた。有澤隆文はシミュレーターから出ると、オペレーターのセレンと共に引き上げようとしていたリンクスに声をかけた。

「良い試合をさせて貰った。雷電を重量機でねじ伏せに来るとは思わなかったが」

 リンクスは立ち止まるとゆっくりと振り返る。

「ねじ伏せたつもりはないですよ。限界まで撃ちあって、たまたまAAが成功しただけです。本来の砲撃戦では雷電の勝ちでした」

 AAが外れていれば、一瞬発動が遅ければ、雷電が迎撃ではなく回避を優先していれば、サックスは消し炭となっていただろう。

「謙虚にならず誇ってくれないか。君は有澤重工 雷電を倒したのだ」

 有澤隆文は自らの勝利を偶然と言い、認めようとしないリンクスに苦笑しながらそういうと右手を差し出した。

「いずれ有澤重工として依頼。また雷電として共闘することもあるだろう。そのときは頼らせてもらおう」

 リンクスは軽く手を握り返し、丁寧に頭を下げるとすでに通路の先に行ってしまったセレンを追いかけていった。

「変わった人ですね。まるで自らの勝ちを認めようとしない」

 離れていくリンクスを見ながら秘書がそう呟くと有澤隆文は首を振った。

「自分の何かを否定したいのだろう。さすがにわからないが、さて仕事に戻るぞ」
「はい」

 先を歩く有澤隆文の半歩後に続き秘書もその場を後にした。


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