未成年が侵入しただと! 狙ったか、サーモン・ピンク!
よりによってR18で… クッ、ダメだ、許さん!
…退避だと? 馬鹿な、これが私の最期と言うか!
認めん、認められるか、こんなこと
Written by ケルクク
「やぁ~、マイハニィ~。遅れてすまないねぇ~。いやぁ、研究がなぁ~かなぁ~か一区切りつかなくてねぇ~」
指定の時間から二時間も遅れて怪しくやってきたアブが怪しく頭を下げて怪しく謝罪する。
「誰がハニーだ。遅れたのは構わん。急ぎじゃないからな」
アブが本当に必要でなければ定刻どおりにやってこないのは何時もの事なのでもう慣れて怒る気にもならん。
「なぁ~んだぁ~。ならもう少しおぉくれぇればよかたねぇ~。まぁいいやぁ~。それで何のようだい?」
「こいつについて聞きたい」
集めた資料をアブに差し出す。
「ほむほむほむ。No20『霞スミカ』君の資料かぁ~。
き~みはま~じめだねぇ。まぁ、いくらくわぁ下とはいえ単純に撃破するんじゃなくて片やおちょ~するなら当然かぁ~」
集めた資料を凄まじい速度で怪しく捲るアブがのんびりとした口調で言う。
むぅ、相変わらずこいつの速読は気色が悪いな。
「片八百長だろうが撃破だろうが格下相手だろうが格上だろうが、事前に出来る事は全てやっておく性質でな。
何せ才能や実力に胡坐をかいて格下にやられた強者を嫌ってほど見てきたからな」
「なぁ~るほどぉ~。それが君が今まで生き残ってきた理由の一つというわけだね。
それできぃ~みの聞きたいことに関する回答だが、結論から言えばか~のぉうだよ。もっともそれを為すには
「そうか、…って、ちょっと待て。質問の内容を言ったか?」
「ちょぉ~くせつは言われてないけどぉ、資料を読めば君が疑問に思うところなんてかぁ~んたんに推察可能だよぉ~」
アブが怪しく身をくねらせて怪しく微笑む。
資料を読めばって、単にNo20の活動の記録を時系列に並べただけの資料を見てよく分かるな。相変わらず天才の頭の回転の速さは気味が悪い。
「そうか。しかしトップクラスのAMS適正を持っている者に高負荷をかけてさらにAMS適正を上げると戦闘能力が上がるなんて事がありえるのか?
低いAMS適正の者に高負荷をかけてAMS適正をあげれば戦闘能力が上がるのは分かる。
俺みたいにAMS適正が低いと、まともにLINKも出来ずに思い通りにネクストを動かすことが出来ないからな。そこに高負荷をかけて正常にLINKが出来るレベルまでAMS適正を上昇させれば、ネクストを自由に動かせるようになる。
その意味においては高負荷をかけてAMS適正を上げることが戦闘能力の上昇に繋がるだろう。
だが逆に言ってしまえばネクストをまともに動かせるレベルのAMS適正があるならそれ以上負荷をかけてAMS適正を上げても無駄だろう?
いや、より精密に動かせるから完全に無駄ではないかもしれんが上昇量は誤差レベルだ。むしろ負荷による集中力低下で戦闘力が下がるんじゃないか?」
「う~ん、正解正解。基本はそぉれぇであっているよ。だがねぇ、何事にも例外は存在するんだよ。
まずはそうだねぇ、AIの発達した現代でぇどうして未だにリンクスなんてもぉろぉい生体部品をネクストに積んでいるんだと思うかぇね?」
「決まっている。力有る意思を持たない機械は脆いからだ。
確かに実行速度と反応速度の速さは認めてやってもいいが肝心の実行内容がマニュアル通りでは意味が無い。
それに機械は100%の力しかだせん。必要な時に無茶を、自らの限界以上の力を引き出せないおもちゃに何の意味がある?
さらに…ってどうしたアブ?」
捲し立てようとしたところでアブが似合わない感慨深げな顔をしていたので問いかける。
「なに、君がジョシュアとまったく同じ反応をしたから懐かしくてね。
まぁいい。君の答えは戦士としては正しいのだが、科学者、あるいは技術者としては違う答えがあるのだよ。
技術者の答えは『人間にあって機械にない感覚的把握能力の有無が戦闘能力に如実に影響する』からだよ」
「感覚的把握能力?カンの事か?」
「ん~、カンは論理飛躍だからち~がうねぇ~。まぁ、カンを情報を深層領域において処理した結果発せられる無意識下の警告とくわんがえれば含まれない事もないんだが。ん~~、君にはりぃろ~んより見せた方がはぁやい~だろうね~」
アブが手元のキーボードを操作するとモニターにドットで書かれた花が表示される。
「これは何に見えるぅ~?」
「花だろう?」
「なぜ、そう判断したのかね?」
「いや、見ればわかるだろう」
「その通り!ひゅ~め~んならば見れば解る。で~もぉ、マッシ~ンはそぉ~もいかないのだ~よ。
マッシ~ンはまずこのドォ~ットを一つ一つシロ~か黒~か調べ~て、今度はそ~れがも~っているデ~タと同じか調べるんだぁ~よ。
検査対象物のA1はし~ろでぇ、画像1のA1はし~ろだから~一致ポイント+1。画像2のA1はく~ろだから~一致ポイント+0。ってなか~んじでね。
こ~やって全ドットを調べて、最後にいちば~ん一致ポイントがたっか~いのをえらぶのさ~。
まぁ、実際はこ~んな簡単じゃなくてこの後色々な判断方法でた~めすんだけど、基本は今説明したほ~うほ~うだよ~。
だから見ただけでわかるヒュ~メンと違って判定に莫大な処理をしなきゃいけないマッシーンは時間がか~かるんだよ。
まぁ、それでも画像判別だけならマッシ~ンの方が人間より遥かに処理の~力が高いから早いんだけど、戦闘は画像判別だけじゃな~くてい~ろいろやらないといけないからねぇ~。だからどうしても総合的な判断能力ではヒュ~メンに負けてしまうのさ。
人より高性能な無人機をつくるにはそうだねぇ~、今より三桁ぐらいマッシ~ンの処理速度が上がって、二十分の一ぐらいにコ~ンパクトになって、万分の一にコストダウンさ~れなきゃむ~りだろうね~。
でもそうなってもき~みがさっき言ったようにマッシ~ンは応用力がないから~人より強くは無理だねぇ~。
例えばこれなんに見える?」
ディスプレイには今度は『穴』と表示される。
「フラジール」
「正解だぁ~。でも幾ら性能が上がってもマッシ~ンがこれをフラジ~ルと判断するのは無理だろうねぇ~。
人にエラ呼吸が出来ないようにマッシ~ンの種の限界ってやつさぁ~」
「成る程、よくわかった。それでこの話がAMS適性を持つものに負荷をかけると戦闘力が上がる件にどう関わる?」
「もう少ししたら繋がるからが~まんしたまえ~。
それでさぁっきぃも言ったけど戦闘にはいろんな~情報の処理が必要だぁ~。
相手の動きの予測に武器の軌道計算に地形や天候の影響エトセトラ~エトセトラ~。
そんな秒刻みで変わる雑多な情報を大雑把に把握してゆぅっせん順位をつけるのは人間しかできな~いからもぉろぉい生体部品をつまざぁるをえない。
そしてぇ、もぉろい生体部品を積むならぁ、それぇを守る為に耐Gジェルやなんやら余計な部品を積まなきゃいけない~。
でもネクストの性能だけでかぁんがぁえるなら余分な部品はなぁるべく少ないほうがいいよねぇ~?
そのシィンプルな考えで生まれたのが『ファンタズマ』プロジェクト、もぉろいぃ生体部品を必要すわぃていげんな脳だけにする事で余分な部品をげぇんかぁいまぁで減らして無駄をな~くす。これがイィ~マのアスピナの主流だぁね~」
………ファンタズマね。
「でもかぁつてぇはさらにファンタズマを推し進めたプロジェクト『Q』があったのさ。
『Q』は現状情報の優先順位の振り分けおんり~なリンクスに一次計算、答えの大雑把な絞込の事だよ、までやらせようっていう計画さぁ。
まぁ今のENブレードと同じだねぇ。ENブレ~ドは大体の標準をリンクスがあわしてから細かいけぇ~さんを統合制御体がした方が最初から統合制御体にさせるよりはぁ~るかにはやぁ~いよね。それをぜぇ~ん処理で行うって事さ。
計算上ではこれが実現すればネクストの戦トゥ力は数倍に引き上げられるってすぅんぽうさぁ」
「そんなに上がるものか?」
「そうだねぇ。かぁ~んたんに説明するなぁら、防御性能や弾速みたいに100%ハードに依存しているもの以外の実行速度は半分いぃかになって、精度は倍ぐらいになるよぉ~。計算速度が上がったぁら答えが出る時間が短くなってその分余計に計算できぃるから精度が上がるんだよぉ。
特に二次ロックや硬直時間や安定性能や命中精度は大幅に上ぐわぁるからぁ多分一般的な軽量二脚が老神を空中で撃っても硬直しなくな~るんじゃないかなぁ~?
そして計算をリンクスがやる事で余裕が出来た統合制御体のリィソォスをネクストの駆動系と未来予測に割り振る事でネクストの力を100パ~ッセント発揮させる事が出来るようにな~るんだよ」
「…それは俺がネクストの力を引き出せていないという事か?少なくともカタログスペック程度には使いこなしているつもりなんだが」
「いやいやいや、きぃみは私のWGを十二分に使いこなしていぃるさ~。今言っている100%というのはも~じどおり限界までといういみさぁ~。
そうだね~、人間は全力を出したと思ってもそぉれぇは半分以下の力でしかないって事は知ってるかな?」
「あぁ。確か全力を出すと骨や肉を痛めるから無意識に庇っているんだったな」
「それと同じ事がマッシ~ンにもいえ~るのだよ~。ネクストの各パーツの耐久力を想定される負荷にギリギリ耐えられるだけにすぅると~ちょぉ~~っと想定外のふぅかがぁ~かかっただけで壊れてしまうだろぉ?まっしてネクストは戦闘するものだからねぇ~。無茶な動きもする。
だからぁネクストを構成しているパーツはカタログスペックの力を発揮しても壊れないように頑丈に作ってあるんだよ~。それこそ二倍三倍の負荷がかかっても壊れないようにね~。
そしてあぁんぜぇんにぃ性能を発揮できる限界を超えないように統合制御耐ぐわぁリィミッターをかけているわけだ。
もしそれを取り払ったらそうだね~、ネクストは二倍さぁん倍の力を発揮できる」
「ただしいつ負荷に負けてネクストが壊れるか解らないか。戦闘中に突然腕が動かなくなったり、ジェネレーターが落ちるのは勘弁して欲しいな。
幾ら性能が上がっても安全性と信頼性が確保できないんじゃ兵器として失格だ」
「そぉのとぅりぃ!限界テストは研究室内でやぁるものでぇあって、現場でやるものじゃないからねぇ~。
でもねぇ、もし全てのパァツゥの限界点とぉ次の自分の行動でかぁくパーツにかぁかる負荷を予測できたら?
この二つさぇ予想できればぁ、パーツがこぉわれぇるギィッリギィッリまでネクスト~の性能をヒキだぁ~す事が出来る。
『Q』の目的はそぉ~んなスペッシャルっなリンクスをつくっちゃおうっていうけ~いかくだったわけだぁ~」
「ネクストの各パーツの情報を管理している統合制御体から管理権限を奪う。いや、違うな。
どちらかというとリンクスと統合制御体が共同でパーツ情報の管理を行うのか。
つまり、リンクスと操縦ユニットを同化させたファンタズマからさらにもう一つ踏み込んで統合制御体と同化させるのがQか。
それでいい加減いつになったら負荷の話は出てくるんだ?」
「もうすぐもうすぐぅ。焦る男はじょぉせいにきぃらわれるよぉ~?」
「話が長い男もな」
「はっはっはっは~~!これはい~っ本取られたねぇ!なら今言うから待っていてくれたまぇ~。
それでね統合制御体と同化させるのにはAMS適正が高ければたっか~いほどぉいいのさ~。
ぬわにせネクストを操縦だけするのとは違って外界と内界の全情報をくぉう速でぇたぁいりょうにぃ処理しなければいけないからね~。やり取りする情報が増えるとAMS負荷もあがってゆくからぁ、それに耐えられるAMS適正が必要だぁ~。ん~、大体リンクスにかかる負担は数千倍以上になるかなぁ~。そのかわりぃ、AMS適正が高ければ高いほどしょりぃできる情報がぁ増えるからぁ戦闘力はあがっていくよぉ~。
もしぃ、AMS適正ぃがきょぉくたぁんに高ければぁ、最初だけでなく各計算過程の最初にリンクスに値の絞り込みをさせる事が出来るからねぇ。もし全ての計算かてぃに介入できたらぁ、限定的な未来予知すらぁ可能になるだろうねぇ~」
「…つまり奴はAMS適正が高ければ高くなるほど強くなるQの成功作だと?」
「ん~それはないねぇ。なにせQはし~っぱいしてるからねぇ。
いやねぇ、論理の確立は上手くいったんだけど~、実験に必要な最低値までAMS適正をとぅわかめる為の負荷にぃ耐えられずに廃人になる素材がほとぉんどらしかったから、デェータ取得にがかぁなりぃきびしかったみたいだよぉ?
フラジールの限界テストをしぃていたころはぁ、一回データを取って廃人になった素材をフラジールにまわせたからぁデータは取れてたけどぉ、限界テストが終っちゃうとテストのたびぃにCランクを使い捨てるのはどうかって意見が出てきてねぇ~。
それでまともに素材が回らなくなってぇプロジェクトはぁ、縮小されていってぇ、最後は中核メンバーである夫婦二人になったんだよぉ~。
それでも手持ちのイリ~グワルを使ってほぉそぼそぉと研究を続けていたんだけどねぇ~」
「非正規品?それとやけにアスピナの内情に詳しいな。幾ら故郷とはいえプロジェクトの内情まで知っているとは」
「ん、あぁイリ~グワ~ルっていうのはねアスピナでは研究の規模や有用度にぃ応じてぇ、各研究者やプロジェクトに素材が割り振られるんだがぁ割り振られた数がたぁりなかったり、私的な研究のデータを取りたい時のために研究者がじぃ前で調達したそざぃの事だよ。確かあの夫婦はAMS適性を持つようにくわこうした受精卵を奥さんの胎内でぇ育てるって方法で調達していたはずだねぇ。
それとアスピナのぬわいじょうにくぅわしいのはぁ、ぼぉくがフラジールの開発にアドゥバイザァ~としてかぁくわってイタからさぁ~」
「………血は繋がっていないとはいえ自分の胎を痛めて産んだ子を平然と実験で使い捨てる精神の異常性と、未だにお前がフラジールの開発に関わるほどアスピナと繋がっていた事、どちらを驚けばいいのか解らんな。こちらの内情はもらしてないんだろうな?」
「…残念だがイリーガルの生産手段に女体を使うのはスタンダートな方法なんだ。胎児を育てる専用の装置は場所を取るし維持費もかかる。
その点適当に水と食料を与えておけば後は勝手に育つ人間は場所も取らないし維持費もかからないし、生んだ後も乳児を養育してくれる理想的な生産設備なんだよ。
だから自分の胎を使うっていうのはまだいいほうでね。ロボトミーした女性を何十人も用意して素材を出荷するプラントを作っているプロジェクトチームもあるんだよ。
それと情報漏洩の事なら心配する必要はないよ。彼等はこちらの事情になど興味はない。
彼等の興味は唯一つ。自らの知的好奇心を満たす事だけさ。それ以外は倫理も情も企業も思想も金も何もかも関係がない。
アスピナは最大多数を救う為の犠牲を最小少数で済ます為にあらゆる非道を行うという当初の目的を見失い、今では自らの知的好奇心を満たす為には何でもする人でなしの研究者の集団に成り果ててしまったからね」
アブが普段の彼らしくないなんとも苦い顔で首を振る。
「すまんな」
「別に君のせいじゃない。君がジョシュアを襲ったのでなくジョシュアが君を襲ったのだから。
それにもしジョシュアが生きていたとしてもクレイドルシステムがある以上堕ちるのは時間の問題だったさ。
市民が、監視者がいなくなれば研究者である彼らが暴走するのは仕方のない事なんだ。
僕も研究者だから解るんだが、研究者とは食事や性交や睡眠等の快楽よりも、『雑多な事象を組み立て仮説を打ち立てる喜び』と『仮説の正しさを証明する悦び』の二つを快感とする異常者なのだからね。
それでも、いやだからこそ、私は人である前に科学者である事を選んだ彼等を許すつもりも認めるつもりもないがね」
「…あまり思いつめるなよ?」
「あぁ、解っているつもりだよ。
………っと話が脱線したね。
話を戻すと、夫婦の研究は非正規品の最後の一体の所でようやく試作段階まで漕ぎ着けたんだけどね、そこで致命的な問題が出てきたんだよ。
統合制御体とリンクするとあまりの情報量にリンクスの自我が飲み込まれて拡散してしまうんだ。
コーヒーに一滴だけ垂らされたミルクのように拡散し最後には消えてしまうんだよ。確か2~3分位が自意識を保ってられる限界だったかな?
感覚的把握にはリンクスの知性が必要だからこれは致命的な問題だ。
そして問題を解決しようにも残りの素材は一体しかいなく、妻も年齢的に出産は不可能だから調達も難しい。
焦った夫妻は当時まだ未成年だった娘の胎を使おうとしたらしたんだが、娘に拒否された。
そしてショックを受けると同時に身の危険を感じた娘に、元々機会をうかがっていたんだろうね、非正規品の養育を任せていた事務員一家が接触したんだよ。
結果、一家と娘は生き残りの素材と共にアスピナから脱走しようとし、両親はそれを止めようとした。
両者の争いの末、事務員一家と研究者夫婦は死に、生き残った娘と素材は脱走。
かくして研究者の死亡によりプロジェクトQは終ったのさ」
「霞スミカがその生き残りである可能性は?」
「ないね。断言しよう」
「何故だ?」
「僕達は既に彼等にあっているからさ」
「誰だ?」
「君の一つ下。No.10『時間限定の天才』ハリ君だよ。リンクス登録時に提出された遺伝子デザインとアスピナに残されたモノが一致したので間違いない。
…彼がネクストにまた乗ったのは驚きだが、彼にはネクストを動かす事しか出来ないし、企業の傘を離れて生きていくには傭兵が最も適しているから仕方ない事なのかもね。
……実は彼にラインアークで保護しようかと申し出たんだが断られてしまったんだよ。まぁ、彼から見れば僕もアスピナの一員みたいなものだから仕方ない事なんだろうけどね」
「…ハリはランクマッチで負けたら悔しがって、アドバイスついでに褒めてやったら喜ぶただのガキだったよ。見たところオペレータとの関係も良好だった。
それでな、オペレーターが生活能力皆無なんで炊事洗濯も全てハリがやっているそうだ。ただ料理は趣味なので苦痛には感じていないらしい。オペレーター曰く外で喰うより旨いから適材適所なんだそうだ」
「何が言いたいんだい?」
「ハリはネクストを動かす以外にも出来る事があるということだ。
確かに研究所にいた頃はネクストを動かす事しか出来なかったんだろうさ。だが今は料理等の一通りの家事は出来る。
いや脱走した直後だって単純な肉体労働は出来ただろうし、体を売る事も出来ただろう。
違うか、アブ?」
「確かにそうだろうね」
「なら、アイツにはネクストを動かす事しか出来ないなんていうな。
アイツは少ないかもしれなかったかもしれないがそれでも数ある選択肢の中でリンクスになる事を選んだ。
アイツは誰に強制されたでもなく自分で決めた道を笑いながら歩いてる。
その誇り高い選択を部外者のお前が勝手に同情し、哀れみ、助けを求めてもいないのに手を伸ばす。
そんな余計なお世話、振り払われて当然だ。思い上がるなよ、アブ。お前は何様だ?」
「…確かにそうだね。どうやら僕にはアスピナを悪く言う資格はないらしい」
珍しく沈むアブ。少々言い過ぎたか。しかし慰める気も謝る気もない。
だがアブの事情もわかってるし、アブも善意でいったんだからこれ以上は責めずに話題を変えるべきだろう。
「しかしその生き残った素材がハリだって事は、結局霞スミカとQは無関係って事か?」
「ん~、僕は天然モノだと見ているんだけどね。
つまりNO20は生まれながらにしてQが作り出そうとした『統合制御体と同化する事が出来る』リンクスなのさ」
暗い顔で沈んでいたアブが頭を振って答えを返す。
「簡単に言うがそんな人間が自然に生まれてくる事はありえるのか?ありえないからこそ人工的に作ろうとしたんじゃないのか?」
「0ではないというレベルで僕はあると思うよ。生まれながらに超高レベルのAMS適正を持つ事はセロという先例があるからありえる。
としたら後は情報に飲み込まれても拡散しない強固な自我さえ持てばいい。あの情報量で拡散しない自我を人間が持てるとは思えないけど持てないと断言できる材料もない。つまり強固な自我を確立できる確立は0でないって事さ。
両方とも0でないのだから両者を持って生まれてくる可能性は0でないのだろう。
天文学的な確立にはなると思うが、公開されている彼のランクマッチの際のデータを見る限りそうとしか思えないね」
「だとしたらアスピナの連中が作りえなかった存在が自然に生まれて来た事になるわけか。皮肉だな。
ん?もしかしたらインテリオルもQと同じ内容の研究をしていたんじゃないか?」
「ん~~、No20の情報をあっさり公開しているあたりそれはないと思うけどね。
まぁ、彼も完璧じゃない。リンクは不完全だ。恐らくAMS適正が微妙に足りてないんだろうね。通常では統合制御体とリンクできずに高負荷をかけてAMS適正が上がった時だけ限定的にリンクしているよ。
僕からしてみれば50%以上の負荷をかけて後遺症や精神汚染が発生してない事の方が脅威だけどね」
「負荷は覚悟と気合で意外と耐えられるぞ?」
「あぁ、君もカンと経験でこちらの想定以上の数字を叩き出すヘムタイだったね。自分の作品を使いこなしてくれるのは嬉しいんだが理論上の限界を超えるのは止めて欲しいんだよねぇ。未だに君がどうやってVOBをあそこまで長持ちさせたかわからなくて気持ち悪いんだけど」
「何度も言っているが『なんとなく』としか答えられんぞ?」
「…まぁいいさ。科学者として解き明かす謎が増えることは望ましい事だからね。
話を戻すとNO20が統合制御体と同化する事が出来る事は間違いない。
だから彼と戦う時は突然動きと攻撃性能が飛躍的に高まる事に気をつけたまえ。
弱点はそうだね、時間制限かな。彼は子供だし長く高負荷に耐えられる事は出来ないはずだ」
「だから負荷は気合で」
「…もし負荷に耐えられてもGには耐えられないよ。ここだけの話ネクストの耐G性能は技術とネクストの構造の問題でギリギリOB中のQBに耐えられる程度しかないんだ。その証拠にVOBでは無茶苦茶なGがかかっただろう?
だからネクストの速さを想定以上に上げたらリンクスが持たない。生命時装置をフル稼働させてもいずれ痛みか怪我で意識か命を失うだろうね」
「つまりは持久戦か。ただ今アブが言った問題を何らかの方法でクリアしている場合も考えておくべきだな。
…しかし勝つならともかく不自然でなく負けるってのは中々に難しいな」
「大丈夫なのかね?」
「何とかなるさ。こっちより圧倒的に性能が上の機体と戦うのは慣れてるから、難しいのは単に俺の演技力の問題だ。
それよりアブ、喋り方が素に戻ってるぞ」
「おぉっとぉ、こぅれぇはいぃけなぁい。いやぁいやぁわぁだぁいぐわぁわぁだぁいだぁからぁつぅいねぇ」
「たく、わざわざおかしなように喋るんだからな。普段からまともに喋ればフィオナや皆の評価も変わるだろうに」
「いいんだよぉぅ。ほんとぅのぼぉくぅはきぃみだけぇがしぃっていてくぅれればぁさ」
「気色悪い事言うな。それよりア「あぁあああぁあなあぁああぁあたぁああぁああぁああ!!!!!」
「………またかね?今度は何をしたんだい?」
「さぁ?なんだろうな?まぁ、出撃が近いからな。仕方ない」
「ほぉうぅ!きぃみがそぉこにぃきぃづぃているとは意外だねぇ。てっきり、ぼぉく念仁の君はきぃづいてないと思っていたよぉ」
「確かに俺はそちらには疎いが、フィオナとの付き合いは長いんだ。流石に気づくさ。
フィオナは俺と同じようにミッションに向けてコンディションを高めて、感覚を鋭くしていってるんだろう。
そして鋭くなった感覚が普段は気づかない俺のアラや過ちを見つけ出してしまうんだろうさ」
フィオナの銃撃にアブを巻き込まないように、ドアと自分を結ぶ斜線上にアブが入らないように移動する。
「…前言撤回だ。やはり君は朴念仁だよ。まったく、これではフィオナ君が可哀想「見つけたわよ!アナタァア!!死ねぇええ!!」
肩を竦めたアブが机の下に避難すると同時に、ドアを蹴り開けたフィオナが俺に向けて銃を乱射する。
「落ち着けフィオナ!!室内で銃は跳弾が!?うぉお!?」
「フィオナ君がミッションの前に癇癪を起こすのは、ミッションで君を失うのが怖いからさ。その恐怖を紛らわせる為にこんな馬鹿騒ぎを起こす。これは彼女の精一杯の甘え方なんだよ。
まったく、本当は君に抱きついて『行かないで』と喚きたいだろうにこんな形に転化するなんてフィオナ君は不器用だねぇ」
「?何か言ったかアブ?ってうぉ!フィオナいい加減にしろ!せめて理由を言ってくれないと謝る事もできんぞ!!」
「理由!理由ですって!!アナタの服からイヤラシイお店の会員証とポイントカードが出てきたのよ!お酒ならともかく、あんなイヤラシイお店にいくなんて、ううん、それでも一度くらいなら許してあげるけどご利用回数九回って何よ!!浮気だわ~~!!」
「あぁ、アブと飲んだ後よく行く店か。って、うぉお!?落ち着け!フィオナ!!愛情とセックスは別だろう!!」
「ちょ!?僕を巻き込むのは止めたまえ!!」
「そう、アブ・マーシュさんも同罪なのね。なら二人まとめて死ねよぁあああぁあ!!!!」
200%の負荷を設定した瞬間にAMSから人体に重大な被害を与えますだの、精神崩壊の危険などの、命が惜しいなら止めとけ系の警告が流れてくるが全て無視。
すると最後に、本当にやりますかと聞いてくるのでYESと答えると自分が溶けてストレイドと一つになった。
その次の瞬間頭に流れ込む自分の情報敵の情報足場の情報空の情報風の情報コジマの情報機体の情報勝利の情報敗北の情報戦闘の情報戦術の情報戦略の情報情報情報情報情報情報激痛情報情報情報情報情報情報情報激痛情報情報情報情報激痛情報情報情報情報情報情報情報情報情報激痛激痛情報情報情報情報情報情報情報情報情報激痛激痛情報情報情報情報情報激痛激痛激痛激痛激痛激痛情報全ての事象は情報となり情報は抽象化され記号化され数字化されさらに1と0の集合に集約される我が脳は情報をもとに求められる答を生み出す式を編む思考思考演算演算思考思考激痛激痛演算演算思考思考演算演算思考思考演算激痛激痛激痛激痛激痛演算思考思考演算激痛演算思考激痛激痛思考思考激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛思考演算激痛激痛激痛激痛激痛演算激痛激痛激痛激痛激痛思考思考演算激痛激痛激痛激痛激痛演算思考思考演算激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛演算思考思考演算演算激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛嘲激痛激痛激痛笑激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛嘲激痛笑激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛嘲激痛激痛激痛激痛激痛笑激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛!!!
痛い!!痛い!!痛い!!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛てぇ!痛てぇんだよ!!!
嵐の様な情報に呑まれ翻弄されて自我が引き裂かれる痛みとストレイドと溶け合い一つになった事で全身を傷んだ大気に蝕まれる痛みに悲鳴をあげる。
だがこれは首輪から送られる幻痛でもなく、かつての記憶を思い出したのでもない。今まさに
そして魂すら蝕む痛みが俺の形を際立たせる。痛みを発している場所が俺だ。
情報の波に砕かれ拡散した俺を痛みを導にかき集め再構成する。そして再構成された俺はまた情報の奔流に砕かれるので痛みを頼りに再構成。拡散と再生。これが一秒間に約7268927回繰り返される。
砕かれ拡散した自我を掻き集めるのに上がった演算機能の殆んどを使ってしまい、戦闘に使えるのは極僅か。
だがそれでもさっきまでとは比較にならない処理能力だ。
今ならあいつの全てを予測できる。今なら
だから殺してやる。喰ってやる。スープにしてやる。俺に痛みを与えたお前に報いを受けさせてやる。
脳が過熱する与えられる情報処理すべき情報式を編む作業いずれも脳の処理を越えている限界を超えて暴走する脳は栄養と酸素を求め血液はそれを供給すべくまた暴走する思考と演算の繰り返しの中も相手は動き私も動くゆえに情報は変化し記号は更新され数字は踊る唯一変わらぬ解に向けて式は編まれ破棄されまた編まれる暴走する血液は血管を摩擦で燃やし傷つける耐Gジェルが灼熱する体を強制冷却し破裂した毛細血管から溢れる血を止めるべく硬化する思考思考痛み演算演算思考思考演算苦痛演算思考思考演算演算思考思考苦痛演算演算思考思考演算苦痛演算思考思考思考思考苦痛演算演算思考思考演算演算思考思考演算演算思考痛み思考演算演算視界が紅く染まる脳の異常でもなく機体の異常でもなく眼球の毛細血管が破裂しただけ一時的に肉体の視覚からの情報を削除介入演算苦痛演算介入演算介入演算思考思考思考介入演算介入演算思考苦痛演算介入演算介入演算介入演算思考無限に近しい思考と思索の果て遂に求めた解を出す式は編まれ我はそれを実行する。
計算終了。277秒後にお前は死ぬ。
****
セレン・ヘイズは目まぐるしく表示内容が変わるモニターに苛立たしげに舌打ちしながらストレイドの処理に介入する。
少年は自らの命に執着がないのか、あるいは他の理由でか自分の体もストレイドの各パーツと同じように戦闘が終わるまでもてばよいと扱っていた。
これではハリを倒しても、戦闘終了後に最悪命を落とす。そうでなくても重大な後遺症が残ってしまう。
だからセレンは少年がこれ以上壊れないようにストレイドに介入し少年の体を守る。
幾多の警告を全て無視してセイフティを解除する。
その次の瞬間頭に流れ込む自分の情報敵の情報足場の情報空の情報風の情報コジマの情報機体の情報勝利の情報敗北の情報戦闘の情報戦術の情報戦略の情報情報情報情報情報情報情報情報情報情報情報情報情報情報情報情報情報情報情報情報情報情報情報情報情報情報情報情報情報情報情報情報情報情報情報情報情報情報情報情報情報全ての事象は情報となり情報は抽象化され記号化され数字化されさらに1と0の集合に集約される我が脳は情報をもとに求められる答を生み出す式を編む思考思考演算演算思考思考演算演算思考思考演算演算思考思考演算演算思考思考演算拡散演算思考拡散拡散思考思考拡散拡散拡散拡散思考演算拡散拡散拡散拡散拡散演算思考思考演算拡散拡散拡散拡散拡散演算思考思考演算拡散拡散拡散拡散拡散拡散拡散拡散拡散拡散拡散拡散拡散演算思考思考演算演算拡散拡散拡散拡散拡散拡散拡散拡散拡散拡散拡散拡散拡散拡散拡散拡散拡散拡散拡散拡散拡散拡散拡散拡散拡散拡散拡散拡散拡散拡散拡散拡散拡散拡散拡散拡散拡散拡散拡散拡散拡散拡散拡散拡散拡散拡散拡散拡散拡散拡散拡散拡散拡散拡散拡散拡散拡散拡散拡散拡散拡散拡散拡散拡散拡散拡散拡散拡散拡散拡散拡散拡散拡散拡散拡散拡散拡散拡散拡散拡散拡散拡散拡散拡散拡散拡散拡散拡散拡散拡散拡散拡散拡散拡散拡散拡散拡散拡散拡散。
津波の様な情報に負けないように僕は身を固める。
だがそんな僕を嘲笑うかのように情報は僕を呑み込み翻弄し削り取っていく。
少しずつ自分が削られていく感覚に泣き喚きたくなる。
怖い。苦しい。痛い。辛い。一人じゃ耐えられない。
…でも大丈夫。僕は一人じゃない事を知っている。父さんも母さんもそしてミーシャも死んでしまったけれど、それでも僕を守ってくれる人がいる。
ほら。誰かがそっと僕を背中から抱いてくれる。
顔は見えないけど誰かはわかる。地獄のようなあの場所から僕を助け出してくれてその後もずっとずっと僕を守り続けてくれた僕の大切な人。
僕が泣いた時や辛い時に何も言わずに抱きしめてくれたこの暖かさを僕が忘れるはずがない。
ヴァイオレットさんは情報から僕を守るように必死に抱いてくれる。それでも守り切れずに少しずつ僕は削られていく。
でも怖くない。だって僕は一人じゃないから。だから戦える!
脳が過熱する与えられる情報処理すべき情報式を編む作業いずれも脳の処理を越えている限界を超えて暴走する脳は栄養と酸素を求め血液はそれを供給すべくまた暴走する思考と演算の繰り返しの中も相手は動き私も動くゆえに情報は変化し記号は更新され数字は踊る唯一変わらぬ解に向けて式は編まれ破棄されまた編まれる暴走する血液は血管を摩擦で燃やし傷つける耐Gジェルが灼熱する体を強制冷却し破裂した毛細血管から溢れる血を止めるべく硬化する思考思考痛み演算演算思考思考演算苦痛演算思考思考演算演算思考思考苦痛演算演算思考思考演算苦痛演算思考思考思考思考苦痛演算演算思考思考演算演算思考思考演算演算思考痛み思考演算演算視界が紅く染まる脳の異常でもなく機体の異常でもなく眼球の毛細血管が破裂しただけ一時的に肉体の視覚からの情報を削除介入演算苦痛演算介入演算介入演算思考思考思考介入演算介入演算思考苦痛演算介入演算介入演算介入演算思考無限に近しい思考と思索の果てそれでも解は出ず我は演算を続ける。
答えは出ない。それでも僕は!!
****
ヴァイオレットは目まぐるしく表示内容が変わるモニターに泣きながらクラスナーヤの処理に介入する。
必死にハリの自我を定義していくが、モニターに映される数字は無情にも少しずつだが確実にハリの自我が失われていっている事を示していた。
これではそう遠くない未来に、ハリの自我は再生不可能なまでに失われてしまう。
破滅の時を少しでも引き延ばそうとヴァイオレットは懸命にクラスナーヤに介入しハリの心を守る。
二段前QBで距離を詰めるストレイドに合わせて二段後QBを使いながら両手のライフルをパージしブレードを取りだすクラースナヤ。それでもMBとBBの出力差で両者の距離は零距離になる。
下から振り上げられるストレイドのドーザーを身を捻りかわしたクラスナーヤが回避と同時に円を描くように振るった左手のブレードを回り込む事で回避したストレイドが突き出したコジマブレードをQTで振り向いたクラースナヤが右手のブレードでコジマブレードが発動する前にストレイドの右手を両断しようとするが、クラースナヤの狙いを寸前で読み切ったストレイドは二段後QBで距離を取る事でかわす。
そこにクラースナヤが背武器のレーザーキャノンを発射しさらに二段前QBで距離を詰めようとするのをストレイドが半歩左に動きレーザーを回避すると同時に発射した背武器のスナイパーキャノンで迎撃し、それを左前に二段QBで飛ぶ事でかわしたクラースナヤが回避と同時に振るった右手のブレードにストレイドがドーザを合わせようとするのを寸前で右手を捻る事で回避したクラースナヤは自身へ突き出されたストレイドのコジマブレードを横二段QBで距離を取る事でかわしたところにスナイパーキャノンを発射と同時に二段前QBで踏み込んできたストレイドの放ったドーザーをクラースナヤはストレイドの腕の軌道上に右手のブレードを展開する事で防ぎ、さらにストレイドが左手を引いた隙にスナイパーキャノンをQTで回避したクラースナヤが回転しながら振るった左手のブレードを身を屈めてかわしながらストレイドが下から跳ね上げるように放ったコジマブレードをクラースナヤは…………
****
二機のネクストは一瞬も止まらず動き続けていた。
二機は互いを斃すために自らの全てを使って移動し、攻撃し、回避する。
限界まで性能を引き出されたネクストの死闘。
これ程までにネクストの性能を限界まで引き出した二機が戦闘を行ったのはリンクス戦争でのバルバロイを駆るアマジークとホワイト・グリントを駆るジョシュア・オブライエンの戦闘以来である。
二人のイレギュラーの戦いはホワイト・グリントの勝利に終わった。
それはジョシュア・オブライエンにはアナトリアの傭兵の援護があったからではなく、高レベルのAMS適正を持ち、最初期からAMS被験体となっていたのでAMS及びネクストに慣れていたが故に殆んど負担もなくホワイトグリントの性能を限界まで引き出せたジョシュア・オブライエンと、劣悪なAMS適性を補うために強烈な精神的負荷を甘受する事でバルバロイの性能を限界まで引き出していたアマジークの差であった。
両者のネクスト・操縦スキルは互角であったからこそ、時間とともに急激に精神を摩耗させていったアマジークが破れたのた。
そして今回の戦闘もまた過去と同じ流れを見せていった。
セレンとヴァイオレット。二人は共に自らのパートナーを守るべく死力を尽くした。
だが幾ら強く指を合わせようと掬った水が掌から零れおちていくのを完全には止められないように、どんなに二人が守ろうと足掻いてもパートナーを完全に守る事が出来ない。
だが、二人が守ろうとしているものは決定的に違う。
セレンが守っているのはパートナーの体であり、ヴァイオレットが守っているのはパートナーの自我である。
つまりストレイドのリンクスは体が傷ついても死なない限り戦闘力は微塵も減少しないが、ハリは自我が減少するたびに少しずつだが確実に戦闘力が落ちていく。
最初は僅かだったその差は過去の戦いと同じように時間が経つにつれ少しずつだが確実に大きくなっていった。
駄目だ!!このままじゃ殺される!!
ハリは演算した結果出た覆す事の出来ない死に絶望の叫びをあげる。
死の恐怖と生存本能が自我を強固にするがそれでも少しずつ僕は削られていく。
自我が削られるにつれ、執着すべき自己がなくなって行く為か死の恐怖が薄れていく。
死ぬ事がどんどん怖くなってしまっていく事、これが何より怖い。
死んでしまえば僕を守るために死んでしまった皆の夢を継げなくなり、ヴァイオレットさんに会えなくなる。
普段ならば想像するだけで震えてしまう事が今は目の前に来ているというのに、希薄になった心は殆んど揺れていない。
だから限界は近い。97秒後に僕の自我は修復不可能なまでに拡散される。
だがその前、76秒後に自我が希薄になり処理能力が落ちた僕をストレイドが破壊する。
しかしそれをわかってもどうしようもない。希薄になった自我を戻す方法はないので処理速度を上げる事はおろか低下を止める事すらできない。
このままじゃ74秒後にストレイドの動きに処理速度が追いつかなくなり僕は死ぬ。
ううん、僕は既についていけていない。
今はこちらの動きに全て反応するというストレイドの超反応を逆手にとってフェイントを大量に行う事で何とか均衡状態を保っているけど、それも後73秒が限界だ。
どうする!どうしたらいいんだ!!
薄れた自我を奮い立たせて起死回生の手を演算するが思いつかない。
そうしている間にも自我は薄れていき、取れる手段が少なくなっていく。
いっそ、一か八かの賭けに出てもいいのだけれど、思いつく全ての賭けの成功率を計算してみたが全て0%だった。これでは賭けにならない。
一か八かの賭けにすら出る事が出来ず、僕はただ避けえない自らの死に向かって歩み続ける。
「ごめんなさい、ヴァイオレットさん。もう無理みたいです」
「成程。状況はわかった。キタサキジャンクションにブラインドボルドを除くインテリオルの全ネクストが集結か」
「応よ。多少の犠牲は出るが勝つことはできる。だが、勝てばインテリオルの戦力を削りすぎることになる。それでは…」
メルツェルは銀翁が声に出さなかった言葉の意図を正確に読み、溜息をつく。
「そうだな、よく連絡してくれた。すまない。少し時間をくれ」
「構わんがそんなには待てんぞ?」
「あぁ、五分でいい」
「了解した。すまんな、いつもお前にばかり難しい判断をさせて」
労わりの言葉とともに通信を切った銀翁に自分はそんなに難しい顔をしていたかと溜息をつく。
やはりあの煽動馬鹿のようにいかなる時にも自信に満ちた態度を取ることはできんか。
仕方ない。これも持って生まれた才の差だろう。凡人は凡人らしく分をわきまえて立ちまわればいい。
まずは目の前の問題をどうするか考えないとな。
今回の作戦は、SOM及びGWといったフラグシップ級AFを立て続けに失い、さらにワンダフル・ボディを失ったGAと、マロースに続きステイシスとフラジールを失う事になるオーメルに対して、
比較的戦力減少の少ないインテリオルを叩き三社の力関係のバランスを保つ事が目的だ。
故に今回の狙いはマイブリス・ヴェーロノーク・レイテルパラッシュの3機の撃破(とセレン・ヘイズこと初代霞スミカの引き抜き)だ。
だが予想に反して網には追加でレ・ザネ・フォルとカリオンまでかかった。もしこの全てを撃破してしまうとインテリオルが保有するネクスト戦力は一機となってしまう。
さらにラインアーク周囲に展開中のオーメル及びインテリオル連合軍を殲滅してしまうと、インテリオルの軍事力は極端に弱体化してしまう。
そうなれば確実にオーメルやGAは野心を起こす。だが経済戦争でなく合併や占拠を狙われればインテリオルも死に物狂いで反撃しよう。
その結果インテリオルの占拠がなろうとなるまいと企業はその力を著しく疲弊する。
地球を汚染しつづけるクレイドルを排除するというORCAの目標からみれば企業が争い戦力を消耗するのは悪くない。
戦力を減らせばクラニアムの防御は薄くなる。
しかし、最初の五人のみが知るORCAの真の目的であるアサルト・セルの排除という点からみると企業が力を失い過ぎるのは不味い。
正確に言うとクローズプラン終了後の世界を考えると企業の力があまり削がれているのは不味い。
悲願が達成されアサルト・セルを撃ち払っても企業に宇宙というフロンティアを開拓する力を持っていなければ意味がないのだ。
ORCAの目的はアサルト・セルノ排除だが、それは最終目的のための手段でしかない。
私達レイレナードの遺児の目的は人類に宇宙というフロンティアを与えて、大開拓時代という黄金の時代を齎す事なのだ。
だから実際に開拓を行う企業の体力はできる限り温存しておきたい。
それに現状は一社を全戦力を上げて攻めればもう一社に足元をすくわれる三竦みだからこそ均衡がとれているのだ。
もしインテリオルが脱落すれば残った二社は覇権を確固たるものにするべく相手の打倒を目的とした最終戦争を始め、共倒れになるだろう。そうなれば宇宙開拓どころの話ではない。
つまり真の目的を達成するためには、企業間の力関係をそのままに企業の軍事力のみを削いでいかなければならない。
今回の作戦もその一環だ。
しかし現実にはこのまま戦闘を続けると自分達の手で三竦みを壊してしまう。
だがここで撤退してはインテリオルの戦力を削ぐという目的を果たすことはできなくなる。
それに既に戦闘を始めてしまったPQとブッパ、それにハリが上手く離脱できるかもわからない。
最悪、離脱しようとしたところを叩かれて撃破される恐れもある。
そうなればクローズプラン開始前に三機ものネクストを失ってしまう。
インテリオルのネクスト戦力をここで叩いても後からGAとオーメルを叩いて均衡を取り戻すことは可能だ。
しかしそれでは企業の力を大きく削いでしまうことになり後の開拓の遅れにつながる。
インテリオルのネクスト戦力を叩かずに撤退しても後にインテリオルの戦力を削ぐことは可能だ。
それに三機のネクストを失ってもクローズプランは最悪、最初の五人さえ生きていれば実行できる。
しかし戦力の低下はクローズプラン成就の可能性を下げる事になる。
失った戦力を補うために無理をしなくてはいけない場面も出てくるだろう。
特にプロトタイプネクストを動かせるのはハリだけなのでプロトタイプネクストを戦力に組み込む事が出来なくなる。
それに撃破された三人からの情報漏洩の危険もある。
…どちらを選んでも博打か。
……
………
…………
……………
ならば、
「撤退の合図を出してくれ、銀翁」
「ほう!よいのか?ここは倒してしまって後で他企業を削ったほうが危険は少ないと思うぞ?」
「勘違いするな。我々の目的は人類に黄金の時代を迎えさせる事だ」
確かに後から削るほうが楽だろう。だがそれだと最悪の可能性だが企業に宇宙を開拓する余力がなくなる場合があり得る。
但しその確立は1%以下。起こり得ないと無視してもかまわないレベルだ。
だがもしそれが起こればレイレナードから、ペルりオーズ様から継いだ崇高なる遺志を無駄にしてしまう。
それだけは許されない。
この判断はおそらく誤りであろうし、私は臆病者の誹りを免れないだろう。だが賭けるべきモノが我らが悲願である以上ここは万が一にも危険を冒すわけにはいかない。
「ほぅ、良い目じゃの。まるでテルミドールの小僧のようじゃ。いかにリアリストな策士を気取ろうがお前も根は革命家じゃったな。忘れるところだったぞ」
「当たり前だ。だからORCAをやっているんだ。とにかく証拠を隠滅した後撤退してくれ。最悪、三人は見捨てて構わん。優先すべきは三人よりお前達の存在を悟られぬ事だ」
「相変わらず面倒を押しつける。了解した」
「頼んだぞ。人類に黄金の時代を」
****
「終わったか。それでメルツェルはなんと?」
「撤退だとさ。ヴァオー、悪いが撤退の信号弾を上げてくれ。重要度は最優先、時期は即座でな」
「わかったぜ!ネオニダァァァアアアァアアアァアアアァアアァアアアァアアアァアス!!」
「さて、これが吉と出るか凶と出るか、どちらかの?」
奇跡はこの世に存在する。
正確に表現するなら極小の可能性が連続して起きる事はあり得る。
例えば何の細工もしていないサイコロを100個振って全て1の目が出るという事も、宇宙の開始から1秒に1回ずつ試行していけば、確率的に三度宇宙が死を迎えるまでには起こるのだ。
起こる可能性が完全に0でない限りあらゆる事象は発生する可能性を秘めている。
そしてその宇宙の開始から終焉までのかけても起こり得ない極低確率の現象が発生し人がそれに助けたられた時、人は運が良かった、あるいは奇跡が起こったと称する。
例をあげよう
****
幸運な女の話をしよう。
死体から防護服を剥いで耐Gジェルに跳び込んだ女がいた。
幸運な事に彼女が剥いだ防護服を着ていた整備員は気真面目な性格だったため作業前にきちんと防護服内に新鮮な酸素を満たしており、さらに小柄な彼女に比べて大柄であったために十分な酸素が確保された。
さらに幸運な事に彼女が耐Gジェルに跳び込んでより五分後に撃ち込まれたグレネードとライフルは全て彼女が入った耐Gジェルの貯蔵層に直撃しなかった。
そして幸運な事に燃料に引火してホームが爆発した時も他の資材が壁となり爆発の直撃を受けなかったため貯蔵層は破損しなかった。
しかも幸運な事に彼女は爆発の衝撃で気を失ったために酸素の消費を最小限に抑える事が出来た。
そして幸運な事に彼女が気絶した間に周囲で起こった戦闘は互いにPAがダウンした状態で格闘武器で攻撃し合うという形で行われたため貯蔵層がPAや射撃武器に巻き込まれる事がなかった。
しかも幸運な事に周囲に戦闘が起こっていたため彼女は酸素が無くなる前に目を覚ます事が出来た。
そして幸運な事に彼女が貯蔵層から這い出した時、彼女を見つけたのは彼女の旧知の人物だったのである。
んだぁ?10M後方に人間がいる?ホームの人間に生存者か?
気にすることはねぇか。生存者の救出はミッションに含まれてねぇからな。
優先順位を最低限に設「ぷはぁ~、うぅ~、死ぬかと思いましたぁ~。って、おやぁ?」
んな!?この声、まさかエマなのか?
最優先で照合!!
一致しただと!くそ!間違いねぇ!!
「この!アホエマ!?お前こんなところで何してやがる!?あ~もう!待ってろ!今助けてやる!」
****
薄れゆく自我の中それでもストレイドの攻撃を必死になって捌いていると一瞬、ストレイドの動きが止まった。
何だ?誘っているのか?
怪しんで何を考えているか検討していると突然ストレイドが後ろを向いて何かを怒鳴り始めた。
その決定的な隙を見て、罠だと警戒する前に前に体が動いた。
****
「何を考えているんだアイツは!?」
目の前のモニターにはクラースナヤに両腕を斬り飛ばされたストレイドの姿が映っていた。
少年は自身の再構築すら放棄して緊急のタスクを割り込ませ、それが終わると同時に戦闘を放棄して背後を振り向いた。
「あれは女?知り合いか?くそ!何をやってるんだ!」
その理由がストレイドの後方に突然出現した女である事を悟ったセレンは舌打ちをすると同時にクラースナヤへと通信を開く。
理由はどうあれ自分達は負けた。なら死にたくなければ勝者に命乞いをしなければならん。
「ハリ!私達の負けだ。こちらにこれ以上の抗戦の意思はない。なので命だけは助けてくれないか?相応の対価は払おう」
ストレイドを強制的に戦闘稼働から通常稼働にし、隠れていた指揮車の偽装を解いてクラスナーヤへと向かう。
『では貴方達には捕虜』
クラスナーヤからの返答の途中で空に大きな信号弾が上がった。
『撤退信号!?しかも最優先!?一体どうして!?』
幸運と不幸は表裏一体である。
誰かが幸運になれば必ず誰かが不幸になる。自らの幸運は他者の不幸であり、その逆もしかりである。
道を歩いて幸運にも硬貨を拾った者がいれば不幸にも硬貨を道に落とした者も必ず存在する。
故に対立する二者の片方が幸運によって命を救われた場合、残る片方は不運にも命を落とす事になる。
例をあげよう。
****
「またこりもせずに突撃ですか。無駄な事を。
さて、本来ならブッパの援護をするのですが、オーダーが入っていますからね」
PQは自分を牽制するために突っ込んできたヴェーロノークがばら撒いたASミサイルを捌きながら嗤う。
「支援、足りないぞ!約束が違うじゃないか!」
PQはマイブリスに追われて逃げ惑うノーカウントからの通信を無視してレーダーに映るレイテルパラッシュとブッパに注目する。
「成程。確かに動きが先ほどまでより僅かながら良くなっています。どうやら勝負にでるというのはブッパの勘違いではなかったようです。私を無視すると決めた分動きが良くなってきたのですね。
てっきり、ハリか銀翁達が来るまで様子を見続けると思っていましたが、流石のランク3。思い切りがいい。しかし、残念ですが、その博打は失敗です」
PQは致命的なタイミングでブッパを援護すべく、ASミサイルから逃れるように見せかけて高く跳びあがり、レイテルパラッシュを捕捉しタイミングを計る。
「15秒前。14、13、12、11、10、9、な!?」
しかしカウントダウンを開始したPQの目に突如高く打ち上げられた赤い信号弾が映った。
「撤退信号!?このタイミングで!?何故です!今私達は圧倒的に優勢です!あと、ほんの少しで全滅させる事が出来るというのに!!まさか銀翁達がやられたとでもいうのですか!?」
あまりに想定外の事態に驚愕の叫びをあげるPQ。
「しまった!?」そして次の瞬間捕捉していたはずのレイテルパラッシュを見失った事に気付いた。
「逃げてください!ブッパ!!」
****
「このタイミングで撤退命令か。想定外の事態に弱いPQの援護は期待できそうにないな」
ブッパは視界の端に映った赤い信号弾に舌打ちする。
「まぁいい。五分の勝負に戻っただけだ。来るがいい獲物よ。罠は不発に終わったが狩人の銃は健在だ。俺の狙撃を捌いて喉笛を喰い千切れるかどうか、試してみるといい」
ブッパはそれっきり撤退信号もPQも全て忘れ、自分と獲物だけに集中する。
牽制のNIOBRARA03をばら撒きながらQBを駆使して下がりながら右背に背負ったビックバレルにコジマを集める。
徐々に距離は詰められ既に獲物はINSOLENCEの射程内。
だが今は撃つべき時ではない。撃つべきは必中の間合いになってからだ。
しかしそれでは同時にレールガンと双発ハイレーザーの必中距離に入る事になる。
だが同時に撃てば獲物のほうが早い。故に必中距離に入る少し前に撃たねばならず、当然そうなると必中というわけにはいかなくなる。
撃つのが早すぎては獲物に避けられ、遅すぎては引き金を引くより先に喉笛を食い千切られる。
難しいが、本来狩りとはこういうものだ。
要は獲物の牙にかかる寸前で猟師は獲物の眉間を打ち抜けばいいのだ。失敗すれば獲物に喉笛を食い千切られる。
命を賭けた勝負の緊張と喜悦に口の端を釣り上げる。
これだ。この獲物とのギリギリの勝負がしたいがために俺はORCAに入ったのだ。
感謝するぞ、獲物よ。礼に万感の敬意をこめて貴様の眉間を撃ち抜こう!
勝負だ!
「残念ですが、事情が変わりました。最優先かつ最速で撤退しろと指示されてしまいましたので貴方達を悠長に武装解除して捕虜にするなんて悠長な事が出来なくなってしまいました。
ですからすいません。二分だけ待ちます。その間にセレンさんは指揮者からの脱出し、ストレイドはセキュリティーを全て外して、外部からのアクセス可能な状態にしてください。
こちらの要求を承諾してもらえないか、二分を過ぎた場合撃破します」
『命は保証してくれるんだろうな?』
「こちらの要求に従ってくれるのなら」
『了解した。お前もそれでいいな?』
『あぁ、文句はないぜ』
少年はセレンに同意すると同時にストレイドのセキュリティーを全て解除し、待機状態に移行させる。
同時にセレンは大慌てで立ち上がり、貴重品だけ掴むと服を脱ぎ捨て防護服に着替え始めた。
「ありがとうございます。ヴァイオレットさん、すいませんがストレイドから僕たちの情報を消した後、十分間リンクスの生命維持以外は一切できないように設定してもらっていいですか?」
『口封じに消さないのか?』
「はい。僕は二人と共に闘う日がきっと来ると信じてますから」
『…甘ちゃんが。まぁいい。老人と子供は大切にしないといけないからな』
『なぁなぁ、ハリ?』
「なんですか、二代目霞スミカさん?」
『俺も降参する事については別にいいんだけどよ、ババァの他にそこにいるアホも回収していいか?』
「…はい。僕にとっても恩人なわけですし構いませんよ。それに何もかも投げ捨ててでも守りたい大事な人は僕にもいますから」
『どうだろうな?俺は馬鹿だからわかんねぇよ。俺にわかるのはあのアホのせいで負けたってことだけだな』
先程までの狂気を一切感じさせない落ち着いた口調で少年がハリに返答し、コジマを防ぐ防護コートも身に纏わずにパイロットスーツのまま外に飛び出して、女のもとに駆け寄っていく。
それを見て微笑むハリにヴァイオレットが声をかける。
『お疲れ様、ハリ。よく頑張ったな』
「ヴァイオレットさんが守ってくれましたから。ありがとうございます」
『それが仕事だからな。礼を言われる筋合いはねぇよ』
「それでも言わせてください。ヴァイオレットさんにはいつも守ってもらっていますから。
そうだ!ミッションが終わったら、今までのお礼も兼ねて何か奢りますよ!だからデートしましょう!」
『…ターコ。10年早ぇえ。年下に奢られる趣味はねぇ。むしろ俺が打ちあげって事で奢ってやるよ。なんでもいいぜ?何がいい?』
真っ赤になった顔と動悸を隠すためにヴァイオレットが捲し立てるのをハリは気付かないふりをして微笑む。
「ちぇ。残念です。でも、ヴァイオレットさん本当に何でもなんですか?」
『おうよ!女に二言はねぇ!ガキが下らん遠慮せずに食いたいもん言えよ』
「じゃぁ、僕ヴァイオレットさんの手料理が食べたいです」
『なっなっなっなっなぁああぁああ~~!!んな、何アホなこと言ってるんだてめぇ!』
「ですからヴァイオレットさんの手料理が食べたいんです。駄目ですか?」
ハリが必要以上にしょんぼりとした声を出すと、ヴァイオレットが慌てて取り繕う。
『だって、俺は料理した事ないし』
「大丈夫。僕が教えますよ。それに味なんてどうでもいいんです。ヴァイオレットさんが僕の為に作った料理を食べたいんですよ。
それにヴァイオレットさんが初めて作る料理を他の誰かに取られたくありません。ヴァイオレットさんの初めては僕のモノです」
『初めてとかやらしい事いうなぁ!!』
「?やらしい?はじめての何がやらしんですか?」
『い、いや、それはだなぁ、その』
「教えてくださいよ、ヴァイオレットさん?」
ハリは真っ赤になっているであろう純情なオペレーターを想像して笑いを堪えながらあくまで純朴を装って問い詰める。
『それは、その、セセセッ』
「セ?」
『セック、あ~~もう!どうだっていいだろ!料理だな!!料理!いいぜ!作ってやるよ!そのかわりまずくても文句言うなよ!』
「はい!ありがとうございます、ヴァイオレットさん!」
極限まで高まった集中力が一秒を数千倍に引き延ばす。
間延びした時間の中をコマ送りのようにゆっくりと近づいてくる獲物。
今だ!!
声ではなく数千倍に加速した思考の中で勝利の叫びをあげ引き金を引く。
数千倍の体感時間の中で右背に背負ったINSOLENCEがゆっくりとその身にコジマを貯めた弾丸を解き放つ。
同時に獲物がコマ送りのように緩慢な動きで右手を上げながら右に移動していく。
遅い!今から発射体勢を始めたのではレールガンが俺に当たるより先にINSOLENCEが発射される。そして今更右に動こうが回避できるものではない!
ようやくINSOLENCEの銃身から緑色に輝く弾丸が飛び出す。
勝った!次の瞬間にレールガンが発射され先にこちらに突き刺さるだろうがそれだけだ。手傷は負うが致命傷には遠い!
だが予想に反して獲物はレールガンを発射しなかった。
?どういう事だ?諦めたか?
訝しむ間にも緑光を放つ弾頭はノロノロと獲物へと向かっていく。
そこでようやく獲物の手からレールガンが発射された。
今更?どういうつも…しまった!!
放たれたレールガンが弾丸に激突し、ひしゃげた弾丸から緑色の光が溢れ出す。
溢れ出した緑光にまず突き出された獲物の右腕が呑みこまれ、次いで獲物の右半身が呑みこまれていく。
だがそこまでだ。獲物より僅かに前で爆発したために右に移動した獲物の全身を呑み込むには僅かに効果範囲が足りない。
最初からこれを狙っていたのか。
コジマ爆発から獲物が抜け出す。
右腕を融解させ、右半身をひしゃげさせながらも傷つく前と変わらぬ動きで背負ったハイレーザーキャノンを構える。
俺の完敗だ。獲物よ。だが、最後に一仕事させてもらうぞ!!
放たれる二つのハイレーザーを無視して050ANSCを起動するのと同時に二発のハイレーザーが突き刺さる。
「ぐぅうう」
数十万度を超えるレーザーに焼かれ一瞬にして数百度にまで上昇した耐Gジェルに悲鳴を上げながら照準を合わせる。
高熱に変形し融解したコックピットの外壁が体を傷つける。致命傷だな。後十秒ともつまい。
だが構うまい。照準は合わせ終わった。後は引き金を引く事とスイッチを一つ入れる事だけだ。
「餞別だPQ。後は上手くやれよ」
ひしゃげた外壁が胸から下に喰い込み自分の体を二つに裂くのを他人ごとのように感じながら引き金を引く。
完璧だ。
会心の手応えに笑みを浮かべると同時にリンクが切れたか目が潰れたのかは解らんが視界が黒一色に染まる。
「終わりか、楽しかったぞ、獲物よ」
最期にもう一度生涯最高の喜悦を味わわせてくれた獲物に対する礼を述べ、スイッチを入れた。
****
「クッ!?」コアが融解し戦闘不能はおろか行動不能になったはずの四脚が突如発射したスナイパーキャノンを回避する。
「このまだ生きて!」完全に止めを刺すべくACRUXを発射する。
だが放たれた二つのハイレーザーが四脚に命中した瞬間、四脚が大爆発した。
「はい、現在撤退中です。しかし一体何があったんですか?」
理由を尋ねる少年の声に不満の声を感じ取り銀翁は苦笑する。
「インテリオルが隠し玉を用意していたんじゃよ」
「隠し玉ですか?」
「応。それもカリオンにレ・ザネ・フォルというとびっきりの隠し玉をな」
「オイオイ、クソジジイ。ロートル二匹相手になにビビってんだよ!2対3にビビるとかどんだけヘタレだよ。玉ついてんのかてめぇ?」
「手厳しいがビビっているといわれたらその通りと返さざるをえんの。相手はオリジナルじゃ。メルツェル以外の最初の五人が三人ならともかく二人とその他一人では万が一がありえるからの」
通信に突然割り込んできた少年のオペレーターのいつも以上に無礼な態度に銀翁は丁寧に答える。
無礼な態度はともかく疑問に思うのは当然だし、無礼な態度もこちらをイラつかせ情報を引き出す手段であろうからそれにのってやる必要はない。
「ケッ。安全に生きたいならとっととネクストを降りろよ臆病モン」
とはいえここで何の理由も告げないのは不味いかと思い、銀翁は面倒な役目を押し付けたメルツェルを内心で罵りながら口を開く。
「確かに8割勝てる勝負を逃げたとなれば臆病者と言われても仕方ない。
だがPQ達3人相手に若手最強の二人にヴェーロノークといった最高戦力を用意しておきながら、尚もストレイドに加えオリジナルを二機も予備戦力に用意したのか考えてみよ」
「そうですね。後詰ならストレイドだけで十分です。万全を期して3機に対して6機を当てるのなら今度は戦力の割り振りがおかしい。この戦力比なら最低でもストレイドは第一陣に回すべきです。
つまりこの不自然な配置はこちらにまだ十分な予備戦力があるかと知っていたからだと?」
「作戦が漏れてたってことかぁ?だとしたら伏せてる戦力が少なすぎるだろ」
「そうじゃな。だから隠し玉はこれだけではないかもしれん。メルツェルの小僧はその可能性を考えて撤退を命じたんじゃよ」
「ち、解ったよ。この場はこれで納めてやる。だがアジトに戻ったら詳しい話を聞かせてもらうぜ?」
「おう。それと撤退ついでにグッドラックのホームを沈めてきてくれんか。バッチからの漏洩は避けられんので余り意味はないかもしれんがそれでも漏れる口は少ない方がいい」
「わかり「お断りだ。その程度の雑用はそっちでやりな。こっちは色々と限界なんだ」
「ヴァイオレットさん、僕は平気です。それぐらいなら」
「駄目だ。お前自分の状況わかってんのか!本当ならとっととネクストから引き摺り降ろしたいところなんだよ!」
「でもここでネオニダスさん達が動くとここに僕以外のネクストがいたことがばれてしまいます!ここは無理してでも僕が!」「ハリ!!!」
「ふむ、そういう事情なら仕方ないの。ここはわしが出張るとしよう」
銀翁は熱くなる二人を宥めるように割って入った。
「いえ、ネオニダスさんが動く必要はありません。ここは僕が」
「冷静になれ。ここでもう一機ネクストがいる事が企業に知られる事とお前が再起不能になる事どちらがORCAにとってより大きな痛手かわからぬわけではないだろう?
それにバッチが敵の手に落ちる以上複数のネクストが増援として控えていた事は確実に漏れる。なら早いか遅いかの差じゃ」
「…解りました。では撤退します」
「おう。後は任せておけ。それと一眠りしたらでよいから後でメルツェルの元に報告に行ってくれ。霞の嬢ちゃんいや、今はセレンと名乗っているのだったかとのやり取りの経緯を聞きたいそうだじゃ」
「了解しました」
「ではよろしくの。あまりパートナーを泣かせるでないぞ」
「ッ!!」
「姐さん!!」視界外からのスナイパーキャノンが直撃し、そのまま墜落してピクリとも動かなくなったヴェーロノークを見てロイは悲鳴を上げる。
「くそ!またコックピットドンピシャかよ!姐さん!!」
「…」
「姐さん!!」
「…」
「くそ!返事がねぇ!衝撃で気絶でもしたのか?それとも…」呼びかけても反応がない事に最悪の想像をしかけ、それを首を振る事で撃ち消したロイの耳に更なる爆発音が響く。
「て、今度は何だよ!?」スナイパーキャノンが飛来した方向で起こった大爆発にロイは毒吐く。
「高濃度のコジマ反応?クソ!何が起こってるんだ!」立て続けの出来事に一杯一杯になったロイが頭を抱える。
「あ~もう!わけわかんねぇ!とにかく今は姐さんのフォローに回らねえと!!」
****
「このコジマ反応は。
…ブッパ、そうですか逝ってしまいましたか。すいません。私のミスで。
ブッパ、貴方の最期の援護無駄にはしませんよ!!」
PQはレーダー上でビッグバレルがロスト後に、スナイパーキャノンを発射し自爆をした事に涙する。
「今のでヴェーロノークは戦闘不能。そしてレイテルパラッシュもああも至近距離で自爆に巻き込まれたら助からないでしょう。
なら後はマイブリスを倒すだけです!!」
PQは涙を流したまま墜落したヴェーロノークに照準を合わせミサイルを発射する。
「マイブリス!貴方の弱点はわかっているのですよ!!」
マイブリスがヴェーロノークの間に割って入り飛来するミサイルを迎撃していく。
そして迎撃しきれないミサイルは自らの体を盾として止める。
「やはり、盾になりましたか。愚かな。そのまま死んでいきなさい!!」
叫ぶと同時にPQは右背のZINCを起動させる。
050ANSRとOSAGE03で攻撃を続けながらZINCにコジマを供給し、PQは嗤う。
「いいでしょう。フルチャージで死体もろとも吹き飛ばしてし上げます」
****
降り注ぐミサイルをWGPで片端から撃ち落とす。
撃ち落としきれなかったミサイルと弾幕にまぎれて放たれるスナイパーライフルは自らの体を盾にして止める。
当然こんなアホな戦い方をしていたらAPがガリガリ削られていく。現在のAPは40%を割ったところ。
何故かグッドラックが攻撃に参加していないので何とかなっているがそれでもすぐに限界を迎えるだろう。
自分でも馬鹿な事をしている事はわかってる。姐さんをとっとと見捨てて戦うべきなのも解ってる。
だが…。
ハッキング紛いのコンタクトで強引に繋げたヴェーロノークとの回線を開く。
網膜に意識を失い右腕に重傷は負っているが確かに生きている姐さんの姿が映される
統合制御体に診断させると姉さんは後三十分に以内に治療を受けないと死んでしまうそうだ。
だが逆に言えば、姐さんは今生きていて、30分以内に治療すれば今後も生きていられる。
「なら、見捨てられるわけねぇだろうがぁ!」
牽制になればとVERMILLION01を発射し、ゴキブリ野郎がQB避けた瞬間にQB後の硬直を狙ってBECRUXを放つ。
だが完璧には狙えずにBECRUXが命中する寸前に硬直が解けたゴキブリ野郎にQBを使われ回避される。
くそ!やっぱりか!この状態で有効打なんざ与えられるわけがねぇ!
こうなりゃ姐さんを見捨てる事が出来ない以上ウィンディーが来るまで粘れるだけ粘るだけだ!!
「あぁもう!助かったらたっぷりサービスしてくださいよ、姐さん!」
「んで、これからどうするんだババァ?ロイ兄のところに応援に行くのか?」
「両腕を落とされて、コックピットに非戦闘員を二人抱えた状態でいけるか!邪魔になるだけだ!!勝てる勝負を色ボケして落としやがって!」
全裸だったいつぞやと違い今度は防護服を着たセレン・ヘイズが目の前の少年の頭に拳骨を落とす。
「って!んじゃ、どうするんだよ?二人とこ戻るか?」
「あれだけ啖呵を切っておいてノコノコ負けましたと戻れるか!
それに心情的を別にしても不明ネクストに見逃してもらったわけだから疑われても文句は言えん。
だから最低限何かしらの手土産が欲しいんだが…」
「あのぅ~、それなら第三輸送部隊のトラックに向かうのはどうでしょうか?直前の情報だと何個かの死体が周りに転がっていただけなのでもしかしたら誰か生きてるかもしれません」
考え込むセレンにエマが告げる。
「そうだな。クラスナーヤの去っていた方向から考えるとグッドラックのホームにはハリがいる可能性もあるが、そっちにはいないしな。
何かある可能性は低いが、ここで考えていてもしょうがないしとりあえずいってみるか」
「うぃ。了解。それじゃぁ動けるようになったら第三輸送部隊へ向かうぜ」
「ふぅ、ようやく落ちましたね。しかし、血って意外と落ちないんですね」
元人間の残骸の掃除が終わった年の若い整備員が座り込んでタバコを吸いながら先輩の整備員に話しかける。
「脂がやっかいだからな。まぁ、楽しめたんだからいいじゃねぇか。それより、お前初めてだったよな?どうだった?」
「最高です。まさか女を好き勝手するのがあんなに気持ちいいなんて思いもしませんでしたよ!」
「そんなに気持ちよかったんなら今度彼女にやってみたらどうだ?」
「まさか!逆にぶっ殺されちまいますよ!!
でもマジ気持ちよかったス!首を絞めると絞りが良くなるって本当だったんっすね!
腕を二本も入れたせいで広がったガバマンがあんな絞め付けてくるなんって思いもしませんでしたよ!
それに死んだらゆるくなると思ったらキツイままなんすね!裂けたケツはゆるいままでしたけどw
あと眼球ファックも超気持ちよかったっす!あの突っ込んじゃいけないところに突っ込んだ感が最高っすよね~」
「だったら今度脳に突っ込んでみろよ。あれは楽しいぞぉ~?
掻き回す度に壊れたオルゴールみたいな声をあげてな。マジ笑えるぞ?
それにありきたりだけど内蔵ファックもなかなか。あのぬめりと絞め付けはマンコやケツアナじゃ味わえないぜ?」
「マジっすか?うわぁ~超やりてぇ!あ~、次はいつなんでしょうねぇ?」
「バッチさんが勝てば今度はインテリオルのホームを好きにさせてくれるって言ってたから、上手くいけば半日後ぐらいじゃないか?
だからそれに備えて飯で―――
先輩の整備員が後輩の肩を叩きながらそこまで喋った瞬間、二人は緑色の極光に包まれてこの世から蒸発した。
****
銀翁はアサルトキャノンの直撃を受け、この世から蒸発したバッチのホームの様子を確認し頷く。
「作戦終了。さて帰還するかの。ジョニー、お前も退け」
「おやおやおや、いいのかい?我輩がいなくなってしまうとECMは10分程度で消えてしまうよ?」
「構わんよ。十分あれば決着はつく」
「だがしかし、しかしだね、PQ達が勝ったとしてもECMが無ければオリジナル2機の追撃から逃れることは不可能だと思うがどうするんだね?」
「………」
「はははははは、答えられないか。そうだろう、そうだろうとも。
君の独断か副長殿の指示かは知らないが君は二人を見捨てる気なんだろう?
いやぁ、怖い、怖いねぇ。君達の目的は知らないがその為にあっさりと仲間を切り捨てるなんて、震えが止まらないよ。ははははははははははははは」
「………それで指示には従うのか?従わんのか?」
「従うよ、従うともさ。我輩はあくまで雇われにすぎないからねぇ。クライアントの意向に従うとも。はははははは。
それに個人的に確認したかった彼がコジマパイルバンカーじゃなかった、コジマブレードを使いこなしているかも見れたからねぇ~。
ははははははは!彼は凄い、凄いねぇ。あの扱いづらい兵装をああも自在に扱うとは。譲ったかいがあったというものだ」
「それは良かったの。気がすんだのならとっとと退くんじゃな。じゃぁの」
「了解。あぁ、すまない、すまないねぇ。我輩は君達を見捨てたくはないんだがこれも契約、契約なのだよ。怨むなら我輩ではなく副長殿を怨んでくれたまえ」
「チャージ完了!!これで止めです!!」
PQはOSAGE03を発射し、マイブリスが垂直ミサイルの迎撃を始めると同時に050ANSRを放つ。
マイブリスがミサイルの迎撃を続けながら050ANSRの射線上に自らを割り込ませる。
「今です!!」ミサイルの迎撃とスナイパーライフルの射線、マイブリスの意識が二つに向かい自分から外れた瞬間にZINCを放――
「な!?」
――とうとした直前、PQの体は二つに両断された。
「レイテル・パラッシュ!!まだ生きて!?
まだまだです!おちませんよ、私の鎧土竜は!
貴方達も道連れです!!」
急速に薄れていく視界の中で最期の意地で遠ざかるレイテルパラッシュを掴み、中断したZINCの発射指示の再開とアサルトアーマーの発動を統合制御体に命じ、さらに自爆スイッチを入れる。
「まだまだ、まだまだです!」
急速に暗くなる視界の中、ARGYROSから漏れ出すコジマにその身を蝕まれながらPQは祈る。
「私とこの鎧土竜はここまでの様です。ですが、貴方達は生きてください。
願わくばこの荒廃した台地で貴方達が力強く、そして幸せに生きる事を」
OBで突っ込んできたレイテルパラッシュがそのままゴキブリネクストを左肩から袈裟斬りに両断する。
「サンキュー、ウィン…まだだ!ウィンディ!」
外部スピーカーをオンにして歓声を上げようとしたところでゴキブリネクストが残った右手でレイテルパラッシュを掴んだのを見て慌てて怒鳴る。
直後、両断されたゴキブリネクストから濃密なコジマが溢れ出て、同時にコジマミサイルが発射される。
「私に構うな!お前は先輩を!!」
ウィンディが叫ぶと同時にQTでゴキブリネクストを引き離す。
直後AA、いやコジマ爆発するゴキブリネクスト。
レイテルパラッシュがコジマ爆発から逃れようとQBを噴かすが間に合わず呑みこまれる。
「ウィンディ!!」
今すぐウィンディの元に行きたい衝動を堪えて迫りくるコジマミサイルに意識を集中させる。
行くのはこいつを墜としてから、いやノーカウントを墜としてからだ。
ウィンディは自分に構わず姉さんを守れと言った。なら俺はウィンディーを信じて姉さんを守る。
「それが信頼ってやつだ!!」緑色の尾を引きながらこちらに迫りくるコジマミサイルにWGPを乱射する。
「よし!!」空にもう一つ緑色の花が咲くのと同時にレイテルパラッシュがコジマ爆発から飛び出してくる。
良かった、無事だったか。
って、よく見りゃ満身創痍じゃねぇか!!全身融解してあちこち爆装して、特に右腕は肩から吹き飛んでやがる!
あれじゃぁ、リンクを続けるだけで相当な負荷の筈だぞ!
着地したレイテルパラッシュがそのまま膝をつく。
「おい!大丈夫か!ウィンディ!!」
ノーカウントの牽制を続けながら慌てて声をかける。
「あぁ。命に別状はない。無理やりレイテルパラッシュとリンクしたせいで目眩がしただけだ。先輩は無事か?」
「無事じゃねぇが死んでもねぇ。二十分以内にホームに戻れば助かる。ウィンディ、キツイと思うが姐さんの護衛を頼む。俺はノーカウントを片づけてくる」
「解った、早めにな」
「おうよ!三分で片づけてやるぜ!!」
最後のBELTCREEK03を付けて両背のミサイルを発射すると同時にノーカウントに向かって突っ込んでいく。
もう、ゴキブリネクストの援護はねぇ!なら攻めて攻めてぶっ潰してやる!
左右共に腕武器に換えてミサイルに追われて逃げ惑うノーカウントに照準をつけて発射――
「待ってくれ!降参だ!!」
――しようとしたところで、ノーカウントの懇願が耳に飛び込んできた。
「はぁ!?なに言ってんだお前?」
あまりに予想外の言葉が聞こえてきたため引き金を引くのも忘れて問いかける。
「俺は、指示された通りやっただけだ あいつがいなけりゃ、戦う意味もない。
それに、あんた達はまだ生きてる ノーカウントだ、ノーカウント!
な、分かるだろ? 同じリンクスじゃないか」
ノーカウントが着地して武器をパージして命乞いを続ける。
うわ、こいつマジかよ!戦場で武器を捨ててここまで惨めに命乞いをするなんて俺には出来ねぇ。
「…すげえな、こいつ 大物だ、感動した…」そんな場合じゃないってことは解っているが、つい称賛してしまう。
「阿呆だな。まあいい、消えろ。興味もない」
逆にウィンディは呆れ半分、軽蔑半分で吐き捨てる。
「へへへへ、ありがとよぉ~。それじゃ、失礼して」
「だぁあ~!!待て待て!消えるな!」
ウィンディの言葉を許可と受け取ったのか離脱しようとしたノーカウントに武器を向けて慌てて止める。
「なんだよぉ~。助けてくれよぉ!そ、そうだ!あんたらの仲間の輸送隊の奴を一人だけだが俺のホームで保護してるんだ!
あいつらは全員殺してしまえっていったんだけど何とか粘って一人だけ助けられたんだよ!
そ、それに、あいつらはあんたらの仲間を直ぐに殺さずに嬲り殺しにしてたからまだ生き残りがいるかもしれねぇ!
なぁ、今から俺があんたらの仲間が捕らえられてたトラックまで案内するから殺さないでくれよぉ!
解るだろ?俺は脅されてただけで本当はあんた達の仲間なんだ。
だから助けてくれよぉ!この通り!」
遂には土下座まで始めるノーカウント。器用な奴だな。
「別に殺すつもりはねぇよ。ただ、アンタに逃げられちゃ困るんだ。アンタにはイレギュラーの事をうたってもらわないといけないからな」
「あぁ、解ったよ。言う言う。命さえ助けてくれれば何でもするぜ」
立ち上がって何度も頭を振るノーカウント。
「なら、ロイ。お前はソレを連れてまずはトラックにいって生き残りの確認を。その後ソレのホームと合流後にカラードまでソレを届けてくれ。
私は限界が近いから先に先輩を連れてホームに戻ってベースに帰らせてもらう。
面倒をかけてすまないがj補給その他はソレのホームか自前のホームを呼んで行ってくれ」
ウィンディからの通信が入る。
つまりこのままバッチをカラードに送るのを名目にインテリオルから離れろって事か。
確かに俺にとっちゃぁ好都合だがイレギュラーをインテリオルで確保して優位に立つっていうインテリオルの思惑を外すことになる。当然俺を逃した事も不興を買うだろう。
俺を助けたせいでウィンディーが監禁されるとかは勘弁してほしい。
「カラードに引き渡すにしても、一回確保してインテリオルが情報を引き出した方がいいんじゃいないか?」
「ソレはただの雇われだ。大した情報を持っているとは思えん。精度の低い情報の為に先輩の命を危機に晒してたまるか。
それにインテリオルに連れて行ったら情報を引き出すためになにをするかわからん。ソレは一応仲間を助けた恩人だからな。流石に廃人になると解っていて引き渡すわけにはいかん」
「廃人~~!!か、勘弁してくれよぉ~。た、頼むからカラードにつれっててくれ!お願いします~~!!」
マイブリスにすがりついてくるノーカウント。
器用だな。じつはこいつ無茶苦茶AMS適性が高いんじゃなかろうか?
「本当にいいんだな?」
「ああ、構わない。なんならインテリオル正規リンクスウィン・D・ファンションとして独立傭兵ロイ・ザーラントに正式に命令しようか?」
「いや、いいよ。ここは借りとくぜウィンディー」
「なら、有澤への温泉旅行よろしくな」
「うぐ、了解。何とかしてみる」
「楽しみにしているぞ、ロイ。それじゃ、余り長話して先輩を殺すわけにはいけないから私はゆくぞ」
レイテルパラッシュが片手で器用にヴェーロノークを担ぎあげ、ホームの方向へと飛んでいく。
「うぃ。それじゃぁ、また会える日を楽しみにしてるぜ、ウィンディ」
小さくなってゆくレイテルパラッシュの背中を見送った後に、ノーカウントに声をかける。
「さて、それじゃぁ案内してもらおうか?」
PQがコジマの緑光の中に消えてから僅かの後、ノーカウントが命乞いを始めた頃、ただ一人の生存者と無数の死者、そして数多の蟲が蠢くトラックに異変が起きた。
初めに異変に気付いたのは人ではなく蟲達だった。死者と生者を貪っていた蟲達は同時に食事を中断し、触角をざわめかせる。
次の瞬間、PQが仕掛けた爆薬が爆発し、トラックの外壁を吹き飛ばした。
闇と血と臓物の匂いが支配するトラック内に突如差し込んできた日光。
蟲達は初めて見る日の光に最初は怯え日の当らぬトラックの反対側に逃げ出したが、やがて一匹、また一匹と外に向かい始めた。
外に出た蟲達は今までいた場所とは違う果てのない大地と、燦々と大地を照らす太陽の光に感動したかのように触角や羽を震わせる。
そして蟲達は無限の大地へと単独で、あるいは番いや家族と共に旅立っていった。
汚染のないトラックからコジマの蔓延る大地に何故蟲達は旅立ったのか。
それは生活圏を広げんとする原初の本能なのか、それともPQが与えたDNAレベルでのコジマ耐性が役に立ったのか、あるいはPQの最後の願いを聞き届けたのか。
答えは解らない。だがただ一つ確かな事があるとすればPQの最後の願いは叶ったという事であろう。
「私とこの鎧土竜はここまでの様です。ですが、貴方達は生きてください。
願わくばこの荒廃した台地で貴方達が力強く、そして幸せに生きる事を」
「げ!進路上にネクスト!?お、おい、どうするんだよ!」
「落ちつけよ。相手はこっちに気付いてんのか?それと誰だかわかるか?」
動転するバッチと自分を落ち着かせようと、冷静を装ってロイは言葉を続ける。
「おたおたする必要はねぇよ。イレギュラーや他企業の奴等だったら今まで仕掛けてこないのは不自然だ。大方俺達と連絡が取れなくなったからインテリオルが慌ててよこした援軍だろ。
本命はスティレットの姐さん、対抗にストレイドの坊主、大穴でテレジアさんだな」
とはいえ、助勢してくれなかったのは不自然だけどな。単にECMで見つけられなかっただけなのか、それともあえて助けなかったか。
どさくさに紛れて不穏分子の俺を殺っちまえって命令がでてもおかしくはないんだから注意しとかないとな。
無駄にバッチを怖がらせる必要はないので後半は声に出さない。
「助かったぜ、相手はストレイドだ!」
「うし、連絡はとれるか?」
坊主か。テレジアさんほどはやばくはないが、スティレットの姐さん程には安心できねぇな。
シリエジオの姿が見えないってことはセレンの姐さんが人質にされてる可能性がある。ちょっぴり慎重になるか。あーあ、身内に警戒するとか嫌なんだけどなぁ~。
「あぁ。ECMが薄くなってきたから指向性を持たせて強く出せば。ただ、相手は俺達の位置がわからないからこっちが一方的に話すだけになるぜ?」
「好都合だ。ストレイドの位置情報をくれ」「わかりました。どうぞ」
ノーカウントからリアルタイムで送られてくる位置情報に向けて指向性の通信を送る。
『よう、カスミの姐さんに坊主。こちらロイだ。二人がこのミッションを受けてたなんて初耳だぜ。今そっちに合流するんで悪いんだけどそこで待っててくれや』
指向性通信を切ってノーカウントに繋ぐ。
「ストレイドの様子はどうだ?」
「とりあえず動きは止まった。なぁ、これだけでいいのか?先手を取って攻撃とまでは言わないが、戦闘モードを解除させたほうがいいんじゃないか?」
む、こいつ俺が警戒してる事に勘付きやがった。流石生存本能だけは超一流と評判なだけの事はありやがる。
「そこまで言ったらあからさますぎんだろ。大丈夫。坊主も姐さんも腹芸が得意なタイプじゃない。敵か味方か判断するならこれだけで十分だよ。ほれ、いくぞ」
****
幸いな事にストレイドから攻撃を仕掛けられる事はなく、無事に合流する事が出来た。
盗聴を防ぐためにACから降りて情報を交換しあうと互いになにが起こったか大体の事が把握できた。
まずストレイドが合流できなかった理由は俺達のホームを襲ったイレギュラーネクストの増援と交戦したせいでの不可抗力だったらしい。
ホームが潰されたせいで姐さんの治療が出来無い事に気付き慌てたが、それはカスミの姐さんのホームで請け負ってくれた事に安堵した。
そう、安堵したんだ。確かに皆が死んでしまった事は少なからずショックだが、その悲しみよりも姐さんの治療が出来る事、坊主とカスミの姐さんが負けたといえ生き延びた事、エマちゃんが奇跡的に生き延びた事で感じた喜びの方が遥かに大きかった。
昨晩は第三輸送部隊の皆が死んだ事にあそこまで気落ちしておきながら今は殆んど沈んじゃいない。
いや、解ってる。見知らぬ他人が1000人死んでもなんとも思わないが、知人がかすり傷を負っただけでショックを受けるのが人間だ。
だから100人を超えるインテリオルのホームの搭乗員とエマちゃん達3人を比べたら後者の方が俺の心で大きな部分を占めているってだけだろう。
よく考えてみれば第三輸送部隊の皆が死んだ痛みも手近なエマが傷つけられた怒りで簡単に消えたしな。
はぁ、薄々解ってたけど俺って結構ドライなんだな。ちょっと、ショックだ。
「…おい!ロイ!聞いているのか!!」
いかん、ボーっとしてた。カスミの姐さんに怒鳴りつけられて我に返る。
「スンマセン、ちょっと、呆けてました。もう一度お願いします」
「チ、気を抜くのが早すぎるぞ!まだ作戦中なんだ。死にたいのか!!」
怒声とともにスナップの利いた平手が顔面を襲う。
「はい!すいません!」
パイロット服越しでもなお十分すぎる威力の平手にクラクラしながらも研修時代の癖で敬礼を返す。
「ふん。じゃぁもう一度だけ繰り返してやる。
そちらの事情はわかった。私からも上手く言っておいてやる。これは貸しだからな。
それと小娘も返してやる。インテリオルに渡すなよ?
もし渡してしまえば私達の証言の裏付けを取るためだけに廃人になるまで薬漬けにされて洗いざらい情報を吐かされるぞ?」
「解ってますよ。企業の手口は。不明ネクストとの戦闘中エマは気絶してて何も見なかったで突っ張りとおしますよ」
なにせなにか企んでるかもであんな強烈な自白剤を使うんだ。貴重なリンクスである坊主やカスミの姐さんならともかく1クルーであるエマちゃんなら奴ら情報の確度を高めるために平気で薬漬にするだろう。
「解ってるならいい。ならそろそろ動くか。ここからトラックまで300Mだ。生き残りがいた場合を考えるとネクストで近づけるのはここが限界だろう。
ロイ、お前はアイツと小娘を連れてトラックに向かえ。私はここでバッチと見張りながらレイテルパラッシュを迎えに行くよう通信を入れておく」
「坊主を連れてって大丈夫っすか?ストレイド動かすために残しておいた方が」
「私でも動かせるから問題ないさ。それとも、私の腕では不安か?」
「いえ、そんなことはないっすけど」まじぃ、怒らせたか。
「冗談だ。そんなに怯えるな。これは政治的な理由だよ。生き残りの調査に私達も同行しないとインテリオルの受けが悪くなるからな。
それにお偉方と話す時はアイツが同席していないほうが都合がいい」
「あ~、確かに。主従ともどもダン抜いて失言TOPの座に輝いてますからね」
「ほっとけ。本当ならお前のクルーは守ってやれたらいいんだが流石に異物をコックピットに入れるのはきつくてな。すまんな」
「いや、俺の身内なんだから俺が面倒見ますよ。そんじゃそろそろ行ってきます」
「あぁ、借金娘の事は任せておけ。おい!いつまで遊んでいる!!パッチの見張りはどうした!!」
頷いたカスミの姐さんが俺達の後ろで○×ゲームをしていた坊主とエマちゃんを怒鳴りつける。
「ご、ごめんさ~い」
「話終わった~?あ、パッチなら大丈夫だぜ。頭に一発入れて眠らせといたからなにもできねぇだろ」
「反省の色が足りん!」「て!」
悪びれない坊主の頭にカスミの姐さんが拳骨を落とす。
「たく、お前らはロイと一緒にトラックの偵察に行け。敵はいないと思うが油断はするなよ。何かあったらロイの指示に従え!いいな!」
「うぃ~す。足引っ張るなよ、エマ」「は、はい!が、頑張ります~!」
慣れた手つきでナイフと拳銃を弄ぶ坊主とは逆におっかなびっくりライフルを抱えるエマちゃん。
ふ、不安だ。まぁ、敵はいないだろうから大丈夫だろうけど。
それにここまで殆んど証拠を残してこなかったイレギュラー共が捕虜を生かしておくとは考えられないので、おそらくあるのは死体だけだろうが、それでも生き残りがいる可能性は0じゃない。
なら見に行くのは悪くない。
「よし、それじゃぁ行くぜ二人とも」
奇跡はこの世に存在する。
正確に表現するなら極小の可能性が連続して起きる事はあり得る。
例えば何の細工もしていないサイコロを100個振って全て1の目が出るという事も、宇宙の開始から1秒に1回ずつ試行していけば、確率的に3度宇宙が死を迎えるまでには起こるのだ。
起こる可能性が完全に0でない限りあらゆる事象は発生する可能性を秘めている。
そしてその宇宙の開始から終焉までのかけても起こり得ない極低確率の現象が発生しそれに助けたられた時、人は運が良かった、あるいは奇跡が起こったと称する。
例をあげよう
****
幸運な女の話をしよう。
筋弛緩剤を打たれ蟲にその身を貪られた女がいた。
だが幸運な事に彼女の位置は残された5人の中で蟲達から1番離れた場所だった。
さらに幸運な事に彼女は5人の中で一番小柄で肉付きが悪く蟲達にとってあまり魅力的な餌ではなかった。
そして幸運な事に彼女に群がった蟲達はほぼ満腹しており、2、3口彼女を齧ると満足して離れていった。
しかも幸運な事に彼女が食われた部分は全て生命活動に支障が出る場所ではなかった。
そして幸運な事に常人ならショック死するであろう蟲にその身を貪られる痛みだが、彼女は痛みを快楽に変える性癖を持っておりショック死する事がなかった。
しかも幸運な事に蟲達の消化が終わり彼女を本格的に喰らう前にPQが死に蟲達は外界に旅立っていった。
そして幸運な事に彼女が失血死する前に彼女の仲間がやって来た。
そこは地獄だった。
血と臓物が床一杯にぶちまけられ、所々に赤黒く染まった肉の塊が落ちている。
それは肉の塊にしか見えない。一見しただけではそれが元人間であることなんか解る筈が無い。
でもそれが確かに人間であると解ってしまうのだ。
それは肉に絡みつく髪の毛の束だったり、真っ赤な肉から僅かに突き出した白い骨だったり、赤黒い肉塊にデコレーションのように散らばっている白い歯だったり、指が全て失われた腕だったり、とにかく所々にある不具合な人のパーツがこの肉塊が元人である事を無言にだが強硬に主張していた。
パイロットスーツの浄化フィルターを持っても消去しきれない濃密な血と臓物の腐臭が鼻につく。
次の瞬間、俺は堪え切れずに胃の中のモノを吐きだしていた。
直ぐにパイロットスーツのヘルメット内が自らの吐瀉物で埋まり、溺れそうになり慌ててヘルメットを外す。
その瞬間何十倍にも増幅された腐臭に襲われる。
何十倍にも増幅された嘔吐感に胃がひっくり返ったような不快感を感じ、もはや胃に吐きだすものが無くなったにもかかわらずさらに絞り出すように胃液を吐き出していく。
胃酸で喉が焼かれる痛みと胃から無理やり胃液を絞り出す痛みに涙と鼻水が止まらない。
「あわわぁぁ~~!ロ、ロイさん~ん、大丈夫ですか~」
「あ~、たく。このくらいで情けねえなぁ、ロイにぃ」
心配した二人が俺の背中を摩るのを感じるが、礼も詫びも言う余裕はない。
俺はただひたすらに襲い来る吐き気と腐臭に痙攣するように胃液を吐き続けるのだった。
『それで何の用じゃ、霞の?わざわざスティレットを小娘の迎えに行かせたという事はあちきにだけ話したい事があったんじゃろ?言うておくが、取りなしはできんぞ?
大口を叩いて作戦を無視して出撃したあげく負けただけならまだ庇えるが、流石に敵に見逃されたのは無理じゃ。
おんしがイレギュラーと何らかの取引や繋がりがあったかと疑われるのは仕方ない事じゃて、下手におんしを庇おうものならあちきまで疑われかねん。悪いがおんしの為にそこまではできん』
「そっちは自分で何とかするさ。それより、私達が戦った不明ネクストの事なんだがな」
『なんじゃ?操縦に知り合いの癖でも見つけたか?』
「いや、初めて見るものだった。問題なのはリンクスじゃなくてネクストの方だ。敵はLATONAだった」
『…それは確かか?』
「あぁ。内装は恐らく違うがフレームは完全にLATONAだった。これが意味するところは」
『そうじゃな。LATONAは市場には出回っとらん。故に調達が可能なのはおのずとインテリオル内部の人間になるの』
「あるいは、私かロイのどちらかが漏らしたかだな」
『それが無い事は解っとるから安心せい。おんしがLATONAを調達した事はなく、ロイの小倅も旧ピースシティ・エリア一度きりじゃ。その時は余剰及び廃棄パーツは返却しておる。
つまりインテリオル内部に裏切り者がいるという事になるの』
「そこで相談なんだがな、私達は不明ネクストについてインテリオルに話した後、カラードでも話さないといけない。それはインテリオルにとって不味いんじゃないか?
ところで私達は最近栄養不足で視力が落ちていてな。他企業のネクストをLATONAに勘違いしているかもしれない。あ~あ、誰か親切な人がおいしいものを食べさせてくれれば頭がはっきりして勘違いする事も無いんだけどなぁ~」
『それが自分で何とかする方法か。あざといの。まぁええ。お前の話はインテリオルに伝えておこう。じゃから早まった事をするでないぞ?』
「あぁ、解っている。私もインテリオルとは上辺だけでも良好な関係を続けたいからな」
『どの口がほざく。まぁええ。上に話を通しておくから少し待つとええ』
「了解した。期待してるよ、テレジアおばさん」
通信がオフになったのを確認して大きく息をつく。
何とか上手くいったか。これで当面インテリオルは存在しない裏切り者探しに夢中になって私達とついでにロイにちょっかいをかけてくる事はないだろう。
それにテレジアさん経由でトーラスもこの真実を知った。インテリオルの弱みを知ったトーラスが今までのように従順にインテリオルに従う事はあるまい。
そうなればインテリオルの都合でテレジアさんを好き勝手に動かせなくなり、自由に使える私とロイの価値も上がる。
まぁ、これは最高に上手くいった場合だが、最低でも時間が稼げればいい。
現在インテリオル及びオーメルが行っているラインアーク侵攻。
現在はノーマル及びAFが主力だがそんなものでWGを斃せるわけが無い。遠からず失敗するだろう。
そうなれば次はネクストを用いる。
だがラインアーク以外のイレギュラーがいる今、企業専属のネクストはそんなには動かせまい。
そうなればどこの企業にも属していない独立傭兵のなかでハリに次ぐ高位である私達に声がかかる可能性は高い。
そして、今日の戦闘で確信した。対ネクストに限定するならコイツは最強だ。例えオッツダルヴァだろうと、ベルリオーズだろうと、WGだろうと私のリンクスには勝てん。
まして、一対一ではない。数を用意できないからこそ企業も最高クラスのネクストを動員するに違いあるまい。
ストレイド+最高クラスのネクスト+私。
この布陣ならばいくら生ける伝説といってもどうしようもないはずだ。
そう、もうすぐ私の十年越しの復讐が叶う。もうすぐだ。もうすぐ、お前の敵を取れる、ペルリオーズ。
そうだ。まずはWGに復讐する事だ。
それから先はその時に考えればいい。
引退するか、このまま傭兵を続けるか、それともベルリオーズの遺志を継ぐか。継ぐにしても私個人でやるか、それとも奴らに合流するか。
全てはWGに復讐してから考えればいい。
復讐を終える事で私はようやく歩き始める事が出来るのだから。
「大丈夫ですか~?ロイさん?」
「あぁ、なんとかな」
ようやく落ち着いた俺はエマちゃんが差し出してくれた水筒から水を飲みながら答える。
ここまでナマの死体の臭いと光景がキツイとは知らなかった。正直甘く見ていた。
俺だってそれなりに長く戦場にいるので死体は見慣れている。
だが俺が普段見る死体は戦場でネクスト越しに見るか、戦闘が終わった後に葬られるモノだ。
ネクスト越しに見る死体は当然臭いもしないし、脳に直接送られてくるとはいえ直接的に見たわけじゃないし、何より戦闘中のためそれは景色の一部でしかなく、言ってしまえば現実感に乏しい。
葬られる時に見る時もネクストを安全圏に退避させてもろもろの戦闘後の処理を終えてから戦場に戻ると結構な時間がたっており、その頃には大抵死体に対する処理は終わっているから臭いも無く外見も綺麗に繕われていた。
だから、言ってしまえば俺は今まで一度も本物の死体を見た事が無かった。
本物の死体は生前がどうだったか関係なくここまで臭く醜く、生理的な嫌悪感を掻き立てるものだったんだな。
「ま、初めてなら仕方ねぇンじゃないの?ババァも初めてん時はピィーピィ泣き喚いてたし。それに比べりゃロイ兄は立派だよ」
坊主がヘラヘラと笑いながら肩を叩いてくる。
「下手な慰めあんがとよ。さて、見苦しところを見せちまったけど、落ち着いたしそろそろいこうか?」
二人の頭をクシャクシャに撫でながら立ち上がる。
まだ胃は痙攣しているみたいに痛いが、臭いには大分慣れた。これなら大丈夫だろう。
「大丈夫ですか?どうせ生き残りはいないでしょうし私達で見てくるのでロイさんはやすんでいても~」
「ありがと、エマちゃん。だけど折角ここまで来たんだ。なら見てやんないと。
折角ここまで来たのに気持ち悪いからって立ち会わずに帰ったら第三輸送隊の皆に悪い。知り合いに誰も弔ってもらえないんじゃ悲しすぎんだろ。だからせめて俺だけでも弔ってやらないと。
それに身元の確認ができるのは俺だけだろ?」
後からイレギュラーの調査部隊が来るだろうがそれがいつになるかはわからない。ひょっとしたらその前にイレギュラー共が来てここを消し飛ばしてしまうかもしれない。
だから今ここにいる俺が弔いと遺品探しぐらいはやるべきだろう。それが多少なりとも縁があってこの場に立ち会った俺の義務だ。
「まぁ、来るならいいけどあんまし無理すんなよ?気絶でもされたら運ぶのめんどくせぇから」
先頭に立つ坊主が肩を竦めて歩きだす。
「ヘイヘイ。頑張らせてもらいますよ」
軽口を叩きながら坊主の後に続いてトラックの内部に入る。
「く」一際強くなった臭いに一瞬気が遠くなるも、気を強く持ち一番近い肉塊に向かう。
「お前らも何か遺品になりそうなもの探してくれ」
「へ~い」「はい!」
二人の返事を聞きながら床に溜まった血をの上を歩いて肉塊に近寄っていく。
一歩歩くたびに粘性のある血が脚に絡みつき離れ、ビシャビシャとくぐもった音を立てる。
肉塊に近づく度に臭いがキツクなってゆく。
視界が微妙にぼやける。この涙はただの臭いに反応した生理現象なのか、それともこんな姿に成り果ててしまった第三輸送隊の誰かに対する哀惜の涙なのかは解らない。
10CMの距離まで近づいた。それでもこれが誰かは解らない。
何か遺品になるものが無いかと、周囲を見回すが何もない。
仕方ないと覚悟を決めて肉塊に手を伸ばす。
触れた感触は想像とは違い固かった。これが誰だかわからないが、第三輸送隊の皆は皆柔らかかった。それがこんなに固くなっちまうなんて。そういえば俺は死体を触ったのも初めてだったな。
半分現実逃避しながら一番上の肉塊を持ち上げる。
次の瞬間、窪んだ眼窩と眼があった。
「ひっ」思わず後ずさる。持っていた肉塊が落下し、血の池に落ちビチャリと音を立てる。
落ちつけ!単に下にあったのが頭部だったってだけだろう!
気を取り直して新たに出てきた頭部を見る。
ひでぇ。肉がほとんど残ってなくて半分以上骨が見えてるじゃねぇか。酸じゃねぇな、削ったんでもない、これは齧ったのか?くそ!ネズミにでも喰わせたのかよ!!
「ん?」半分齧られ外れかけた耳にピアスを見つける。
「これは、確かフレイアちゃんがつけてたな」
ピアスを外し目の前で見てみる。うん間違いない。
にしてもひでぇ。あんなに綺麗だったフレイアちゃんがこんなになっちまうなんて。「くそ!!」行き場のない怒りに声が出る。
まぁいい。とにかく遺品は見つけた。もう片方の耳からもピアスを回収する。
そうだ!確かフレイアちゃんはヘソにもピアスをしていたはずだ。
頭をどかすと内臓まで食い荒らされほぼ胴体が出てくる。
そして食い荒らされた胴体のすぐ脇に血に沈んだ見慣れたピアスを見つけた。
やっぱりこれはフレイアちゃんだったか。フレイアちゃんおへそが性感帯でピアスの周りを舐めると可愛い声で鳴いたんだよな。もう二度と聞けないのか。
吐き気以外のナニカがこみあげてくる。それを頭を振って強引に沈める。
しかりしろ!まだ一人だ!第三輸送隊は十五人いるんだぞ!
自らの両頬に手を打ちつけ気合いを入れなおし、次の肉塊に向か―――
「ロイ兄!こいつ生きてるぜ!どうする?」
―――おうとしたところで奇跡が起こった。
****
「マジかよ!!」
全速力で駆けつけるとそこにはレミーナちゃんがいた。
そう、レミーナちゃんだ。あちこちに酷い怪我をしてるが見た限りだと命に関わる怪我はねぇ!
「良かった。本当によかった」
安堵のあまり床にへたり込む。
視界がぼやける。やばい、俺泣いてる。
「あ、ロイ兄泣いてる~」
「うるせえよ。嬉しいんだから仕方ねえだろ」
坊主のからかいに返すが口元が緩むのを止められない。
「う~ん、果たして喜んでいいのでしょうか~?」
俺より少し遅れてやってきたエマちゃんがレミーナちゃんの様子を見ながら呟く。
「まさかどっかに致命傷でもあるのか!?」
「いえ~、怪我は多分大丈夫だと思うのですが、問題は心の方ですぅ~」
エマちゃんが無造作にレミーナちゃんの傷跡を撫でる。
「おい!なにして「ひゃうぅ~~うう!!ひ、ひはい!ひ、ひもひ、ひひ~~!!もっと!もっと!レミにイタイほほひてくはは~い、ふしは~ん!ひゅ~うう」
途端にレミちゃんが体をくねらせ嬌声を上げる。
「んな」「あ~やっぱり、この人こわれちゃってます~よぉ~、ロイさん」
余りの事に絶句する俺にエマちゃんが笑いかける。
「壊れてるって、おい、レミーナちゃん!しかりしろ!」
ケタケタと笑い声を上げるレミーナちゃんの肩を掴んで揺さぶる。
「あ~~~~、いっは~~い、ひもひひ~!きゃたぎゃジンジンふる~、あ~ひもひひひよ~!れみ~、ひく~!いくぅ~いっちゃいまふ~~!」
ピントの合っていない目で俺を見つめるレミーナちゃんが涎を垂らしながら達し、痙攣と同時に潮をふく。
「んな!?どういうことだよこれはぁ!!」
絶叫する俺にエマちゃんが優しく微笑む。
「だからぁ~、この人壊れちゃってるんですよぅ~。多分、この人痛いのが気持ちいい人なんじゃないですかぁ~?
それでぇ、ショック死しないように体を食べられる痛みを片端から快感に変えていたんでしょうけどぉ~、余りにも快感が強すぎて心が耐えられなかったんですねぇ~。
こうなっちゃたら、もう戻りませんよぉ~。お薬のやり過ぎでこんな風になっちゃた人を何十人も見てきましたけどぉ~、元に戻った人を見た事ないですもん」
「ふざけんな!!他がそうだからってレミーナちゃんがそうだって限らないだろ!ちゃんとした設備で治療を受けさせれば」
エマちゃんの残酷な宣言に反射的に反論する。
「仮に戻ったとしてぇ~、それはこの人にとって幸せなんでしょうかぁ~?だって見てくださいよぉ~、ロイさん。
この人、顔は半分近く齧られてますからどんなに頑張っても傷跡が残るのは避けられませんしぃ~、おっぱいも右が無いですし、お尻と女の人の部分も食われて機能しそうにないですし、手足の腱もここまで千切られたらリハビリしても半分も回復しないでしょう。
他にも体中にある無数の噛み後。さて、果たして正気に戻ったとしてこの人は生きていたいと望むでしょうかぁ~、どう思います、ロイさ~ん?」
「そ、それは…」エマちゃんの指摘に言葉が詰まる。
「それにぃ~、怪我の治療とこれから生きていくのにすっごいお金かかりますよ~?私は企業の事とか解りませんけどそこまで面倒みてくれるんですか~?」
無理だろう。レミーナちゃんも一応保険に入ってはいるだろうが、それで賄える金額じゃない。家族がいたとしても平均的な一般市民の収入じゃ無理だ。
黙りこむ俺に微笑みながらエマちゃんが慈母の如き微笑を浮かべながらレミーナちゃんの傷をなぞっていく。その度にレミーナちゃんが壊れた嬌声を上げる。
「しかも~、この人一般的な病院じゃ面倒見るの無理でしょうねぇ~。多分~、この人放っておいたら快感を得るために自傷行為を繰り返して最後には死んじゃいますよ~。
だからもしこの人を助けたいなら~、誰かが付きっきりでこの人について死なない程度に痛みを与え続けてあげないといけないでしょうね~。
つまりそれはこの人に自らの一生を捧げないといけませ~ん。ロイさんはその覚悟があるんですか~?」
無い。金ならまだしも俺はレミーナちゃんを助けるために自分の人生を投げ出す事は出来ねぇ。
沈黙する俺の答えを悟ったのかエマちゃんが無邪気に微笑む。
「大丈夫ですよ~、ロイさ~ん。安心してくださ~い。ロイさんは無理でもきっと、ウィンさんかぁ~、エイプ~ルさんがきっと面倒を見てくれますから~。
お二人はロイさん以上に善人でぇ~、ロイさんより弱いですからねぇ~。きっと可愛そうなこの人を見捨てられるはずがありません~」
エマちゃんが指摘した最悪の事実に目の前が暗くなる。
そうだ!あの二人が見捨てられるはずがねぇ!
目の前の弱者を切り捨てられないウィンディも、リンクスの収入のほぼ全てを孤児に教育を受けさせるために作った学費無料の学校の運営費用に回してるお人よしの姐さんが、傷ついた仲間を見捨てられるはずが無い。
だがそうなれば出撃以外の全ての時間をレミーナちゃんに取られるだろう。
仕事で敵を殺し、帰ってきたらレミーナちゃんを傷つける。ただそれだけの人生になる。
駄目だ!!あの二人にそんな重りを背負わせるわけにはいかねぇ!!
どうすればいい!どうすれば!どうすれば止めさせられる?
いや、悩む必要なんてない。答えは一つだけだ。でも、それは…。
煩悶する俺をいつの間にか近寄っていたエマちゃんが抱き寄せ、そっと耳に囁く。
「そうです。ようはこの人が生きているから問題なんです。なら殺してしまえばいい。そうすればお二人がこの人の面倒をみる必要はありません」
禁断の答えをはっきりと言葉にされた事で体が震える。寒くもないのに体の震えが止まらない。
「迷う事なんかありませんよ。この人が正気ならきっと殺してくれと頼む筈です。そして狂った今の望みは快感を得る事だけです。ならばロイさん、彼女に致命傷という極上の快感を与えてあげれば良いんですよ。
それが誰もが満足する選択なんです。だからロイさん、恐れないで」
震える俺に優しく唆すエマちゃん。きっと傍から見てる坊主には怯えた子供を諭す母親のように見えている事だろう。
そうだ。殺すしかないんだ。二人を助けたければレミーナちゃんを殺すしかない。
俺にとっては二人の自由の方がレミーナちゃんの命より遥かに重い。重いんだ。だから殺せ。戦場でいつもやっている事だろう!ロイ・ザーランド!!
エマちゃんの胸から顔を上げ、腰から拳銃を取りだし未だに喘ぎ続けるレミーナちゃんの頭にゆっくりと照準を定める。
そして引き金を―――
「駄目ですよ~、ロイさん。ロイさんの持ってる銃で撃ち殺したら検死の時にばれちゃいますよ?」
引こうとしたところでエマちゃんに手を抑えられる。
「じゃ、じゃあどうすれば」
掠れた声で訪ねる俺の手を取ってエマちゃんがゆっくりと微笑む。
「簡単ですよ。素手で殺せばいいんです。これなら後でパイロットスーツを処分すれば証拠は残りません。
そうですね、ここは正攻法に首をギュッとするのはどうでしょう?
ほんと~は、殴り殺してあげた方がこの人も一杯痛くて喜ぶんでしょうけど~、他にそんな殺され方した死体はありませんから目立たないほうがいいですからね~」
エマちゃんが俺の手をレミーナちゃんの首に誘導する。
「ひゅ~、くひはひはいへふ~。ひぃ!ひぃへふ!もっとひふくひてくはさい!!」生皮を食われ露出した肉に触れられたレミーナちゃんが嬌声を上げる。
「あぁ、ああ」だが力を込める事が出来ない。パイロットスーツ越しでもわかるぬめっとした血と柔らかい肉の感触と、確かに感じる鼓動が確かにレミーナちゃんの命を感じ、それが手に力を入れる事を拒んでいた。
この程度の痛みでは物足りないのか、レミーナちゃんが切なげに腰を振る。
「ち、いつまでダラダラやってんだよ。ロイ兄が出来ないってんなら俺がやるからどけよ」
坊主が俺を押しのけようとする。
「いや、いい。俺がやる。俺がやらなきゃぃけないんだ」
それをゆっくりと制する。
そうだ。俺がやらなきゃいけない。本当は助かるレミーナちゃんを俺の都合で殺そうってんだ。なら俺が手を汚さないといけない。
てめぇの都合で殺すのに他の誰かに手を汚させたら俺は卑怯者以下になってしまう。
俺は既に自分の為に仲間を殺そうとする最低の男だがそれでもその最後の一戦は譲っちゃならねぇ。
覚悟を決めてレミーナちゃんの上をまたぎ、手に力を込める。ぬめりとした感覚と柔らかい肉の感触、そして流れる血の感触が一層強くなる。
「ひぃい!いはい!いはいです!もっと、もっとひつくしてください!レミの首ギューギューしめて~!」
レミーナちゃんが満足そうに首から与えられる快感を貪る。
荒い息が大音量で聞こえる。煩い。レミーナちゃん喘ぎすぎだろ。いや、違う。これは俺の息の音だ。いつのまにかこんなに荒く息をついてるんだ。
レミーナちゃんの顔が赤く染まっていく。快感で?それとも酸欠で?
さらに手に力を込める。ぬめりとし達の感触がと柔らかい肉が強く感じられる。あぁ!くそ!これホントにパイロットスーツつけてんのかよ!脱げてるんじゃないか!だって、こんなにリアルに生々しく感じられるんだぜ!
そして血液の流れる鼓動はますます強くなっていく。ドクンドクンドクンとまるで耳元でテープを再生されているいるかのような大音量。なんだ!これはなんなんだ!うるせぇ!うるせぇ!うるせぇええ!!
レミーナちゃんは快楽にとろけきった顔をしている。くそ!俺はこんなにも辛いのになんでなんでこんな気持ちよさそうな顔してんだよ!くそ!くそ!もうすぐお前死んじまうんだぞ!解ってんのか!!
歪む視界。傷む視界。狂った視界。これは涙か汗が目に入ったのかそれとも俺が狂ったからか。
さらにさらに力を込める。まるで一体化したような血の感触、肉の感触。手から感じるレミーナちゃんの命の鼓動はもはや俺の心臓の鼓動と一つになり二乗に大音量を奏で続ける。
うるせぇ!うるせぇ!うるせぇ!!もはや鼓動以外何も聞こえない。感じない。青い顔して舌を唇から突き出すレミーナちゃんは確かに快感の声をあげているはずなのに。坊主とエマちゃんは確かに隣にいる筈なのに。
突如、腰の下のレミーナちゃんが大きく体を動かし始める。なんだろう?イったんだろうか?くそ!イくんじゃなくて逝けよ!
いや、違う!!いつの間にか快感を貪るだけの獣の表情をしていたレミーナちゃんが死を前に怯え必死に抵抗する人間の顔に戻っていた。
それに僅かに怯んでしまう。「がぁああやああ!!」レミーナちゃんが獣のような雄たけびを上げる。
「な!?」腱が切断され動かないはずのレミーナちゃんの右腕が俺の顔に当たる。
「しまっ!?」思いもかけない奇襲に思いもかけない力だったため、弾き飛ばされてしまう。
解放されたレミーナちゃんが獣のような荒い息をつきながら呼吸を再開し酸素を貪る。
「あ~、手を離しちゃ駄目ですよぉ~、ロイさ~ん。人間いくら狂おうと覚悟しようと死ぬ寸前では目茶苦茶に抵抗するものなんです。
理性や狂気ではどうしようもない生存本能みたいなものなんですからそこでひるんだら誰も殺せませんよ~」
エマちゃんが失敗した子供に失敗点を教えてやり直しを促す教師のように優しい笑顔を浮かべながらへたり込む俺に手を伸ばす。
「チ、やっぱロイ兄じゃ無理だって。俺がやるよ」
「駄目ですよ~。これはロイさんが犯すべき罪でロイさんが背負うべき罪なんです~。誰かが代わりに背負っていいものじゃないんです~。
あなただってあの子を殺す時に誰かが代わってくれるって言ったら代わりましたか~?」
「あ~、なるほどな。ん?俺お前にあいつの事話したっけ?」
「いいえ~。でもあなたがそうまで成り果てたのを見れば大体なにが起こったのは想像がつきますよ~。あなたがそこまで成り果てるにはあなたがあの子を殺したぐらしか考えられないですもん。
疑問を言えば何で生きてるかぐらいですかね。約束でもしました~?」
「うぐ、正解。おのれ、アホエマに見抜かれるとは」
「バカとアホではアホの方が賢いんですよぉ~」
何でもない口調で凄惨な内容を話す二人。普段なら気になるところだがそんな余裕はない。自分の事で精一杯だ。
そうだ。これは俺が背負うべき罪。だからやらなきゃ。今度こそ!今度こそ何が起きても離すな!!
確実に殺せ!!
もう一度レミーナちゃんにまたがり首に手をかける。
レミーナちゃんも今度は自分に何が起こるのかわかるのだろう。
「たひけて。たひけてください。死にたくない」命乞いをしながら首の手から逃れようと体をくねらせている。
「ごめ」口から出かかった言葉を何とか呑み込む。ここで止めるならともかくこれから殺そうとする加害者が殺される被害者に謝るな。
それは謝罪ではなく自らの心を楽にしようとする卑怯な真似だ。そんな恥知らずな真似をするな!
俺は俺の為にレミーナちゃんを殺す。
もう一度手に力を込めていく。
「たしゅけて。たひゅけて。しぬのはいや。死にたくない。いやいや、たすけて、エイプールさん、ロイサン、パパ、ママ」
涙を流しながら行われる命乞いを無視して全身の力を込めてレミーナちゃんの細い首を絞める。
手に感じる血と肉と命の鼓動を消さんがために全身の力を込める。
何も考えるな!ただ手に力を入れる。それだけを考えろ。
「助けて、お願い。死にたくない。死にたくない。お願い。いやぁ、いやぁ、ロイさん。止めてぇ」
「あぁあああぁあああぁあああぁああああぁあああぁああ!!!」
レミーナちゃんの命乞いを掻き消すように大声を上げる。それでも俺の声に比べて遥かに小さいはずのレミーナちゃんの声ははっきりと俺の耳に届き心を穿つ。
くそ!なんでさっきはあれだけ聞こえた鼓動が全然聞こえないんだよ!もっとなれよ!大きな音を出せよ!くそ!くそ!くそがぁあ!!
視界が歪む。これは涙?それとも汗?わからない。グルグルと思考と景色は回転し頭と体が洗濯機の中に放り込まれたよう。
グルグル回る世界の中でたった三日だけ肌を合わせたレミーナちゃんの姿が浮かんでは消えていく。
舌を掴んで感じたレミーナちゃん。姐さんの尿を美味しそうに啜るレミーナちゃん。初めて男のモノをいれて快感にうち震えるレミーナちゃん。フェラのやり方を皆に教えてもらい俺に習ったばかりの技術で一生懸命奉仕するレミーナちゃん。皆にいじめられて幸せそうにイき続けるレミーナちゃん。初アナルセックスで中出しされてトイレに駆け込むレミーナちゃん。貧乳をよせて精一杯のパイズリをするレミーナちゃん。真っ赤に赤くなりながら皆の前で放尿するレミーナちゃん。レミーナちゃんの笑顔、快楽にとろけた顔、羞恥に染まった顔。レミーナちゃんの体。性感帯。声。そんなものがグルグルと俺を回りながら本当に殺すのかと攻め立てる。
うるせぇ!殺すんだ!殺すんだよ!!俺はレミーナちゃんを殺すんだ!!俺の為に!レミーナちゃんより大事な二人の為に殺すんだよ!!
レミーナちゃんの体が残った最後の力を振り絞って暴れだす。どこにこんな力があったんだろう?生きようと足掻くレミーナちゃんを全力で押さえつけ、首の力を更に絞め付ける。
レミーナちゃんの腕が顔に当たる。レミーナちゃんの脚が背中に当たる。痛い。痛い。痛い。
レミーナちゃんが徐々に大人しくなっていく。同時に手に感じる鼓動も弱くなっていく。確かに自分の手で命が消えていく感触に吐き気がする。もう吐くものなんてないはずなのに胃が痙攣を始める。
胃酸が喉元にこみあげる。口から出そうになる何かを呑み込む。俺の汚い胃液でこれ以上レミーナちゃんを汚すな!!
そして大きく三回痙攣した後、弱く一回痙攣するとレミーナちゃんは動かなくなった。そして鼓動も止まった。
それでもなお絞め上げる。本当に死んだのかわからない。もし、もう一度蘇生されたら最初からやり直す気力はない。
だから殺さなきゃ。レミーナちゃんを確実に殺さなきゃ。
だからピクリとも動かなくなったレミーナちゃんを絞め続ける。
絞め続ける。
絞め続ける。
絞め続ける。
絞め続ける。
絞め続ける。
絞め続ける。
絞め続ける。
絞め続ける。
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絞め続ける。
絞め続ける。
絞め続け「もういいですよ。ロイさん」
誰かが俺の腕にそっと手を置く。
何を言ってるんだ。まだ足りない。まだ生きてる可能性がある。だから絞めないと。もっと絞めて確実に殺さないと。
「白目を剥いてから十分間絞め続けました。これなら蘇生することはありません。それに、気付いてないでしょうが首の骨が折れてます」
「つまりそいつは死んでるってこった。童貞卒業おめでとう、ロイ兄。感想はどうよ?」
死んでる?つまり俺はレミーナちゃんを殺したのか。
「ぐっ!?」我慢していた何かが胸にこみ上げてくる。
何とかレミーナちゃんの上からどいてそのまま血の池に崩れ落ちこみ上げて来たものをぶちまける。
「あわぁぁ~!だ、大丈夫ですか、ロイさ~ん」
「あ~あ、折角飲んだ水を吐いちまって」
慌ててエアちゃんが駆け寄ってきて俺の背中をさすり始める。
「よく頑張りましたね~、ロイさん。これでお二人がこの人を助ける必要はありません」
エマちゃんは心から無邪気に祝福してくれている。にも拘らずそれに底知れぬ悪意を感じ取ってしまうのは俺の心が荒れきってるからなんだろう。
吐いても吐いても吐き気は収まらない。苦しさに涙が出そうだ。まるで心が自分の都合で人を殺した罪悪感と自分に対する嫌悪感を吐き出そうとしてるかのように胃液を搾り出す。あるいは自己に苦しみという罰を与える事で罪を償おうとするかのように自己を傷つける。
当然罪悪感も嫌悪感も罪も消えはしない。これは俺が一生背負っていく罪だ。
「俺の事はほっといていい。それより二人ともこの事は」
吐き続けながら二人に確認を取る。
「はぃい~!ここには生き残りはいませんでした~~!」
「あいよ。貸し一だぜ。今度飯でも奢ってくれよ。にしてもアンタも不幸だったな。折角奇跡が起こって生き延びたってのに殺されちまって、まぁ天国で幸せになってくれや」
天国?天国って何だ?そこに行けばレミーナちゃんは幸せになれるのか?
「そうですね、貴女に安らぎを~。神の国にいけますように~」
俺の元から離れたエマちゃんがレミーナちゃんのために祈る。
安らぎ。安らぎか。死んだレミーナちゃんは神の国にいけて安らぎを得たのか?
「お!アイツの祈りを覚えてるなんてすげぇな。俺は馬鹿だから忘れちまったよ。
あ~、それとロイ兄もあんまり気にするなよ。その死ねば神の国、天国に行って幸せに暮らすんだ。だからこいつも殺された直後の今は恨んでるだろうけど天国にいけたら許してくれる、つーか感謝するようになるって。
私を苦しみから救ってくれてありがとう。私をこんな素晴らしい楽園に行かせてくれてありがとうってな。だからそんなに気にスンナよ?」
坊主がエマちゃんの頭を撫で回した後、俺の肩を叩いて慰める。
「
だからレミーナちゃんは殺す事で苦しみから解放してあげた事を感謝している?
「そうだぜ!天国で皆幸せに暮らしてる。だからこっちでの事はあんまり悩むなよ!」
坊主が俺の肩をばしばし叩く。
あぁ、確かに魅力的だ。死後に
その考えはとても魅力的だ。
だからこそ、
「…ねぇ」
「へ?」
「死後の世界なんてねぇ!!死ねばそれで終わりだ。そのさきはねぇ!!
喜びも悲しみも怒りも楽しみも生きてるときしか味わえねぇ。死んだら全て0になる!なくなっちまうんだ!
だから殺しは最低の行為なんだ。相手の未来を全部奪う、最低最悪の行為なんだ!!」
だからこそ逃げるなロイ・ザーランド!!
天国の概念は死者の喪失に耐えられないか死を恐れる生者が楽になるために作り出したものだ。
死んだ大事な者にいずれ会えるから喪失感を忘れて生き続けられる。死んでも次があるから死の恐怖におびえずに生き続けられる。
普通の奴等がその考えに逃げ続けるのはいいだろう。
だが、殺人者が殺した被害者が天国にいけるから罪が許されるなんて最低な逃げを打つな!!
思い出せ!レミーナちゃんの命乞いを!命の鼓動を!それを自分の都合で奪ったのは俺だ!!
「いやいやいや、そんなわけ無いだろ、ロイ兄。神様はいるんだよ。でないと」
「うるせぇ!!神はいねぇ!!天国はねぇ!!俺はそんな都合のいい幻想にすがらねぇ!!
俺がレミーナちゃんを殺したのは邪魔だったからだ。俺は俺の都合でレミーナちゃんを殺したんだ。
俺に殺されたレミーナちゃんはいなくなった。なくなっちまったんだ!!」
「おい、いくらロイ兄でもそれは聞き捨てならねぇぞ!取り消せ」
「うるせぇ!何度だって言ってやる。神はいねぇ!天国もねぇ!死んだ奴はそれっきりだ!!」
「この!「落ち着いてくださ~い。今、ロイさんは大事な人を殺してとりみだしてるんですよ~?あなただっていくら天国にいけると知っててもあの子を殺した時は戸惑ったでしょう?」
「…そうだな。ここは経験者の俺が大人にならないとな。悪いエマ。俺遺品捜してくるからロイ兄頼むわ」
「は~い。引き受けましたぁ~。お任せあれぇ~」
「ふふふ、それにしてもロイさんはとっても強いですね~。凄いです」
エマちゃんがブツブツ呟く俺の頭を抱きしめて頭を撫で続ける。
俺はそれに甘えながらうわ言のように繰り返し自分に言い聞かせていく。
そうだ。俺は神なんかに頼らない。この罪は俺のものだ。俺が犯した罪で俺が向き合う罪だ。俺はこの罪を一生背負い生きていく。そしてこの罪に一生苦しめられるだろう。
だが逃げねぇ!俺は自分の為に友人を殺すゲス野郎だがそれだけはしねぇ。
それが最低最悪な殺人者ロイ・ザーランドのたった一つのプライドだ。
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幸運と不幸は表裏一体である。
幸運と不幸はまるでコインの裏表のように容易く入れ替わる。
一日の初めに幸運であった者が一日の終わりに幸運であるとは限らない。その逆もまた然りである。
そしてその日が幸運であったか不幸であったかが決定するのは大抵最後に襲い掛かったモノが幸運か不幸であるかである。
朝に大金を拾い昼に宝くじが当たり夜に交通事故で全身麻痺の大怪我を負った場合、その日を幸運な一日だったと評する者は少ないであろう。
その日に限らず物事が終わるまで幸運か不幸かは解らぬものである。
例をあげよう。
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不幸な女の話をしよう。
筋弛緩剤を打たれ蟲にその身を貪られた女がいた。
だが幸運な事に彼女の位置は残された5人の中で蟲達から1番離れた場所だった。
さらに幸運な事に彼女は5人の中で一番小柄で肉付きが悪く蟲達にとってあまり魅力的な餌ではなかった。
そして幸運な事に彼女に群がった蟲達はほぼ満腹しており、2、3口彼女を齧ると満足して離れていった。
しかも幸運な事に彼女が食われた部分は全て生命活動に支障が出る場所ではなかった。
そして幸運な事に常人ならショック死するであろう蟲にその身を貪られる痛みだが、彼女は痛みを快楽に変える性癖を持っておりショック死する事がなかった。
しかも幸運な事に蟲達の消化が終わり彼女を本格的に喰らう前にPQが死に蟲達は外界に旅立っていった。
そして幸運な事に彼女が失血死する前に彼女の仲間がやって来た。
だが、不幸な事に彼女は生きていては不都合だと仲間に殺されてしまったのである。
後書き
某所からの移送です。良かったら見てください
なお、移送元では最初のレイヴンたちのやり取りは仮面劇として独立していましたが、
なんとなく気分で移送に辺りロイのアブノーマルな殺人に一本化しました
「あの、ロイさん。レミお願いしてもいいですか?」
「ん?何だいレミちゃん?俺は美人のお願いはよほどの無理じゃない限り叶えるから遠慮しないでいいよ!」
「ありがとうございます。そ、その、レミ、男の人はロイさんが初めてだったんですね、それでその、男の人って想像してたより乱暴じゃないし、優しかったし、気持ち良かったんですね。
あの、レミの事優しく虐めてくれましたし、とっても感じました」
「そりゃどうも?なんだい?俺のチンポが忘れられないから帰ってきたらもう一発頼むかな?」
「あ、あの~、そうなんですけど。そうじゃないんです。その、ロイさんレミと一杯Hしてくれました。でもですね、何時もする時はお姉様達が一緒だったじゃないですか?
皆、レミの事イジメてくれますし、とってもとっても感じるんで不満は無いんですけど、その、やっぱり一杯人がいると廻す為に直ぐにイかせるじゃないですか。
でもですね、レミは直ぐイくのも好きなんですけど、一杯一杯我慢して焦らして高め合うった末にイクのが一番好きなんです!だからですね、その~できれば」
「OK!二人っきりでジックリねっぷりイきたいって事だな!OKだ。依頼が終わったら連絡入れな。ただし、インテリオルの皆にはばれないようにするんだぞ?ばれたら邪魔しにくるだろうからな。
特にウィンディーには内緒な。バレたら殺されるから!」
「はい!ありがとうございます!ロイさん!レミ、お礼に一杯一杯ご奉仕するから期待してくださいねロイさん!か、かわりに」
「あぁ、腰が砕けるまでとかしてやるさ」
「わ~い!楽しみです!あ!そろそろ集合しないと怒られちゃう。それじゃ、レミいってきます!」
「あぁ、いってらっしゃいレミちゃん!次に会える日を楽しみにしてるよ」
「レミもです!それじゃぁいってきます、ロイさん!」
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