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[[小説/長編]] [[小説/長編]] #setlinebreak Written by えむ ---- アンサングが大地を蹴り、空を駆ける。 「……っ」 テルミドールの。アンサングの動きは、とんでもない物だった。 フォートネクストのハイレーザーライフル、カノープスが火を吹く。微妙に射線を逸らし、わざと回避を誘発させ、そこを確実に狙う時間差射撃。 数回の立ち回りを経て、レックスはアンサングのクイックブーストの移動距離を確実に掴んでいる。タイミングに、ズレはない。 それでも―――アンサングには届かない。 一発目の射撃。レックスの思惑通りに方向へと回避。二発目の射撃。射線上にアンサングが飛び込む。しかし瞬時に機体を切り返す。右へと跳ね、そこに攻撃が待ち受けていたと気づくや、即座に左へと飛ぶ。その間、実に1秒以下。 それがクラースナヤも使ってきた二段クイックブーストと気づき、レックスはさらに一手を絡める。 一発目…当たらない。二発目…予想通り当たらない。三発目、二発目の回避を予測してのOIGAMIによる砲撃―――当たらない。 三発目の砲撃に気づいたところで、アンサングがさらに別方向へと、瞬時にクイックブーストを吹かし、避ける。 間髪入れず、カウンターとばかりにレーザーバズーカが容赦なく、回避先へと叩き込まれる。 「…くぅっ…」 『このままでは撃ち負けるぞ、レックス…!!』 「こっちは火力が命なんだ。手数で勝てないのは想定済みだ!!」 セレンの声に、威勢良く答えるレックス。 だがそう答えつつも、まだ道は見えない。 対峙している相手は、この上なく強い。まだ、撃ち合いを重ねていくうちに、レックスは相手との力量差を充分に思い知らされていた。 攻撃も回避も。そのどれもが今まで戦ってきた相手とはレベルが違う。アンサングの機動性が高いと言うのもある。だが、機体性能だけの差ではない。 クラニアムで戦ったORCAのネクストとも違う強さ。こちらの動きを研究し、それを元に組み立てた動きではなく、その場その場でこちらの動きに反応し、即座に対応してくる。 理詰めの動きではない。言うなればぶっつけ本番に近い。だが、それでいて一つ一つの動きも精錬されている。正確無比な攻撃。そして驚異的な回避力。しかも、その回避は、次の攻撃のことまで考えて動いている。 その動きの精度は、レックスから見れば…。もはや次元が違って見えるほどのものだ。 ほとんど一方的に攻撃を受け、ダメージばかりが蓄積していく。 「………っ?!」 そして、それは一瞬のことだった。不意にアンサングの姿が消える。 実際は多段クイックブーストによる、急加速と驚異的な機動によって、フォートネクストの死角へと瞬く間のうちに動いただけなのだが、その動きを追えないものからすれば消えたようにしか見えない。 レーダーは、プラズマキャノンの着弾による影響で、いまだノイズしか走っていない。しかし強敵相手に敵を見失うことほど、戦闘の際に危険なことはない。 「……っ」 直感的にフォートネクストを旋回させる。だが少しばかり遅かった、すでにそこには目前に迫るアンサングの姿があったのだ。 そのまま距離を詰めたアンサングは、フォートネクストを直接蹴りつけた。 重量で勝るタンクに対し、ダメージと言えるダメージはない。だが、それでもその衝撃は、フォートネクストとレックスを怯ませるには充分なものだった。 「ぐぅっ?!」 衝撃に揺さぶられ、一瞬操縦そのものがおろそかになる。それでもすぐに立ち直り、すぐそばにいるであろうアンサングへと、ハイレーザーライフルを向けようと試みるも、そこで動きが止まった。 メインカメラには、レーザーバズーカをぴったりと突きつけるアンサングの姿があった。密着距離ともなれば、PAは効果を持たない。 「……っ…」 『ここまでのようだな』 やはり次元が違う相手だった。ここまでの戦闘で、レックスはそれを痛いほどに思い知っていた。 ラインアークでホワイトグリントのリンクスである『彼』に鍛えてもらうために何度も戦闘した際、その時に感じたのと同じものを、戦闘中の間レックスはずっと感じていた。 根本的な部分で全てが違う。努力や経験などでは埋められない圧倒的な差のような物を感じていたのだ。 強敵どころではない。挑む相手を間違えてしまったような、そんな感覚。 『悪いが譲れないな。だが、覚えておこう。お前の答えも』 静かな声。そして容赦なく、レーザーバズーカの一撃がフォートネクストへと叩き込まれた。 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ダメージが限界に達し、機能のほとんどを停止したフォートネクストの中、レックス自身は生きていた。だが機体はもう動かない。それどころかダメージでAMSに異常が発生したのか、最後の一撃によるダメージがレックス自身にも伝わっていた。実際の怪我はないものの、精神的に叩き込まれた痛みは言葉にすらならないものだった。 そのダメージによって意識すら飛びかける中、かろうじて動いていた通信機を通して、テルミドールの声が静かに響いた。 『人類の未来のために、クローズ・プランは必ず…成功させる』 恐らく相手にとっては何気ない一言だったのだろう。 「人類の……未来……」 だが、その一言はレックスの中に深く響くものだった。 ORCAの目的はそのためのものだ。地上はもちろん、空まで汚染され始め、逃げ場がなくなりつつある人類に、救いの道として宇宙への扉を開く。 そのためにエーレンベルクを建造し、世界中に点在するアルテリア施設を押さえ、そのエネルギーを使って、障害となっているアサルトセルを排除しようとしている。地上から逃れ、クレイドルへと逃れた多くの人達を犠牲に。 戦いとは無縁のクレイドルの住民を巻き込んで。 「…………」 だが、それは許容できるものではない。だからこそ―――こうして行動に移した。 遠い記憶が脳裏に浮かぶ。 大地を走り、空を舞う人型の大型兵器。その間で飛び交う砲火。その中で逃げ惑う人達。そして、流れ弾の爆発と共に消えてしまった――家族。 それが…全ての始まりだった。 誰かを守れる力がほしい。 それがノーマル乗りになった理由だった。 ノーマル乗りのままでは守れないモノがある。 それがリンクスになった理由だった。 クレイドルを守り、そしてORCAとは違う方法で未来を作る。 それがここに来た理由だ。 ―――人類の未来のため。 聞こえはいいが、何も知らない人達が犠牲になろうとしているのが現実だ。 自律兵器によって道を閉ざした張本人は咎めもなく、何も知らない人達がかわりとなって。 その人達は何も悪くないのに。それは理不尽でしかない。 それが許せなくて。自分は、ここまで色々と動いてきたのではなかっただろうか。 それなら。 今、自分がすべきことはなんだろうか。ここでエーレンベルクを使われてしまったら、全てが水の泡となってしまう。 マクシミリアン・テルミドールを止めなければいけない。 なんとしても止めて、クレイドルが地に落ちることを阻止しなければならない。 どんな手段を取ろうとも。どんな犠牲を払おうとも。 「……ここで……終わるわけにはいかないんだ……」 AMSを再度繋ぐ。ノイズがひどく、その影響はひどい頭痛となってレックスに現れる。耐える。 今自分に残っている手段は一つ。この機体だけだ。 「動け…」 動かない。 「動け…っ」 動かない。 「一度だけ。数分だけでいい。動け…っ!!」 動かない。 「最後の砦なんだ。守るために―――動けぇっ!!」 モニターの一部が復帰する。 システムが再び立ち上がる。 コンディションはオールレッド。瀕死だが死んでない。 ―――動く。 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 『……っ!?』 フォートネクストの右腕が、カノープス本体でアンサングを下から殴りつけようと振り上げられた。予想外の不意打ちだったが、アンサングはそれよりも早く、その場から飛びのいていた。 フォートネクストが、さらに左腕のハイレーザーライフルを、まだ距離を離し切れていないアンサングへと向け放ち、PMミサイルを撃ち抜く。 『馬鹿な。完全に機能は停止したはずだ』 確かにトドメをさしたはずだった。ネクスト反応が消えたのも確認した。にも関わらず、フォートネクストは再び動いていた。ボロボロの状態のままで。 さらにフォートネクストがハイレーザーライフルを放つ。一発、また一発とアンサングが被弾を受ける。避けてないわけではない。避けているはずなのに当てられるのだ。 命中率が上がっていた。次々と放たれるハイレーザーがアンサングを貫き、さらにダメージを加えていく。 『動きが…急に?!』 フォートネクストがオーバードブーストを吹かし、強引に後退するアンサングへと距離を詰めにかかる。 やがて通信越しにレックスの声が響いた。 「エーレンベルクは撃たせない。絶対にだ…っ」 『……何をした、貴様』 「…最後まで、諦めなかっただけだっ!!」 OIGAMIが火を吹く。さすがに、それの直撃を受けては今のアンサングでは一たまりもない。 すぐさま射線上から退避し、避ける。 「…これだけの力がありながら、どうしてこんな手段を選んだ!!」 『…っ。悠長に対処するような時間が、この星に残されていると思うのか!!』 後退しつつプラズマキャノンを展開し放つ。フォートネクストが右腕のカノープスを射線上に投擲。プラズマ弾の直撃を受け、カノープスが吹き飛ぶ。 だが同時に撃っていた左腕のカノープスが、レーザーバズーカを撃ち抜いていた。爆発したそれを、アンサングはパージ。すぐさま上空へと一気に飛びあがる。 「やってみなきゃわからないだろうっ!!」 『……貴様…。その惰弱な発想が、人類を壊死させるのだ!!』 オーバードブーストをカット。そして、反動軽減システムもカットし、OIGAMIを射角ギリギリまで上に向けて発射する。 オーバードブーストの勢いが付いたままの反動砲撃によって、フォートネクストの機体がウィリー走行でもしているかのうに、前と滑りながら後ろへ傾く。そして、前が大きく持ち上がったところで再びオーバードブーストを起動し、強引に空へと飛び上がる。 「結果すら出てないのに、惰弱と決めつけるなぁっ!! 」 『口では何とでも言える…!!』 真っ直ぐに突っ込んでくるフォートネクストへとアサルトライフルを放つ。だが、それはプラズマキャノンを確実に当てるための布石だった。 フォートネクストは限界のはずだ。どういうトリックかはわからないが、動いているのが奇跡にすら見える。 一撃。 一撃入れることが出来れば片はつく。 アサルトライフルの攻撃をフォートネクストが横方向へのクイックブーストで回避する。強化されているサイドブースターは、今までにない加速を持ってアサルトライフルの弾を避ける。 クイックブースト直後の一瞬の隙を突くかのように、プラズマキャノンが放たれていた。 飛び込んだ先に迫るプラズマ弾。――噴射直後ゆえに再びクイックブーストを使うことは出来ない。回避は不可能。 いや不可能ではない。クラースナヤや、アンサングが使ったクイックブーストによる瞬時の切り返し。それを持ってすれば回避は可能。 問題はそれが出来るかどうかだ。違う。出来るかどうかではない。やるのだ。 『二段クイックだと!?』 フォートネクストが瞬時にクイックブーストで切り返しを行い、プラズマキャノンを回避したのを見て、テルミドールは驚愕に包まれた。 AMS適正が高くても誰でもは出来ない高等技術。それをAMSが低いはずのレックスがやったのである。しかしそれも絶対有り得ない話ではない。ホワイトグリントのリンクスも、低いAMS適正でそれをやってのけているのだから。 『……くっ』 距離が迫る。 アサルトライフルで迎撃しようとするも、フォートネクストは止まらない。 左腕のハイレーザーライフルをパージ。さらに加速する。クイックブーストを使って突撃を回避しようと試みる。だがアンサングの動きに、フォートネクストは食らいつく。 距離が迫る。 至近距離一歩手前。プラズマキャノンを再度発射。フォートネクストが僅かに高度下げ回避する。だが少し遅い。コアへの直撃は避けれたものの、頭部が吹き飛ぶ。 「頭部破損程度で、元レイヴンを止められると思うなぁぁぁぁぁぁ!!」 距離が最高に迫る。 OIGAMIの砲身がアンサングの腰部辺りへと突き刺さる。 ゼロ距離。 そして――――― To Be Countinue…… ---- now:&online; today:&counter(today); yesterday:&counter(yesterday); total:&counter(total); ---- **移設元コメント [#se429991] -元レイヴン。いい響きだ。そういやレックスはレイヴンだったんですよね -- 2010-10-28 (木) 00:31:47 -引っ張るなぁ今回 ペースを考えると気にならないけど でも、満身創痍で老神0距離って、今度こそ持たないんじゃ・・・(このためのタンク補正なのか?) -- 2010-10-28 (木) 00:34:34 -ネクスト反応って…… -- 2010-10-28 (木) 00:52:09 -来たか0距離…! ボロボロになりながらも最後の最後で勝利する、その姿は最高にカッコイイ! 確かに、LRではタンクはしょっちゅう頭壊れるもんな。そのくらいでレイヴンは止まらないさ! -- 2010-10-28 (木) 05:53:37 -ご都合主義でもこういう熱いのは好みだぜ -- 2010-10-28 (木) 07:12:15 -最後の所、「フォートネクスと」になっているところがありますよ。 -- 2010-10-28 (木) 11:24:12 -やるかやるか?と思ってましたが、とうとうやっちまいましたね老神ゼロ距離w WG並みに再起動するレックスの姿に鳥肌立ちました -- 2010-10-28 (木) 13:30:59 -ゼロ距離射撃に関するコメントをしたら、ホントにやりやがったよこの人・・・。しかし、再起動からの特攻か・・・実に燃える展開だが、大丈夫なのかレックス君? -- 2010-10-28 (木) 19:12:25 -そういやOBからの老神ブッ刺しもコメントしてたな俺 よもやランク1に対してやるとは思わなかったが(コメ時はスプリットムーン相手のつもりだったし) -- 2010-10-28 (木) 19:48:49 -ラストのレックスとテルミドールの短い対話に熱いナニかを感じました。あぁ、ラストか…寂しくなるな -- 2010-10-29 (金) 19:35:08 ---- ☆作者の一言コーナー☆ 気が付いたら、次を書き上げていた、えむです。 ―――個人的には、これで満足!!以上!! でも、もうちょっとだけ続きますので、あと少しお付き合いくださいね>< 11/1追記:コメントレス後回しにして忘れてたの件…ごめんなさいorz >社長の台詞のアレンジで締めくくるか いくらSS腕とはいえカノプスは威力十分だし、老神も言わずもがな これ、普通に当てれれば十分だよな(トドメは勝手に老神であると期待させてもらいます) 火力は充分です。当てれれば充分です。当てれれば…。 >最後のセリフにしびれた!レックス頑張れー!! >当てるんだから、か・・・めちゃくちゃかっこいいぞ! がんばれタンク乗り!! 誰もが忘れた頃に、読者さんからのネタを使う。それがえむ'sくおりてぃです(ぇ >レックス君かっけ~。しかし、やっぱりウィンディーでは輝美を止められなかったか…しかし、どんだけ頑丈なんだよOIGAMI流石有澤と言うべきなのだろうか… 装甲と炸薬に定評のある有澤重工の提供です(キリッ >まさかとは思うがアンサングをOIGAMIで串刺しにしてゼロ距離グレネードとかきそうだな・・・この人ならやりかねんよ。 やりました。 >最後の一言がガチタンの全てを表している…ただひたすらサイティングだけに全身全霊を込めた旧作時代の思い出が蘇るな これをゲームでやると…相手によっては…orz >狙ったんだろうがスプリットムーンにぶつかったOIGAMIから<不正はなかった とか聞こえてくるようだwさあラストスパート派手に行って下さい!! 自分的には派手に行ったつもりですが、果たして…(==; >どーやらUP主にとっては「逆関節」は「逆間接」が正しいらしい・・・。で、下のコメ返しにも誤字。×非情にたくさん○非常にたくさん 毎度お手数おかけしますosz 以上、コメントレスでした。 今回も色々なコメントをありがとうございます。ここでのOIGAMIトドメコメがなかったら、普通に撃ち抜いていt(ry ---- **コメント [#l835e07f] #comment ---- RIGHT:[[小説へ戻る>小説/長編]]
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[[小説/長編]] [[小説/長編]] #setlinebreak Written by えむ ---- アンサングが大地を蹴り、空を駆ける。 「……っ」 テルミドールの。アンサングの動きは、とんでもない物だった。 フォートネクストのハイレーザーライフル、カノープスが火を吹く。微妙に射線を逸らし、わざと回避を誘発させ、そこを確実に狙う時間差射撃。 数回の立ち回りを経て、レックスはアンサングのクイックブーストの移動距離を確実に掴んでいる。タイミングに、ズレはない。 それでも―――アンサングには届かない。 一発目の射撃。レックスの思惑通りに方向へと回避。二発目の射撃。射線上にアンサングが飛び込む。しかし瞬時に機体を切り返す。右へと跳ね、そこに攻撃が待ち受けていたと気づくや、即座に左へと飛ぶ。その間、実に1秒以下。 それがクラースナヤも使ってきた二段クイックブーストと気づき、レックスはさらに一手を絡める。 一発目…当たらない。二発目…予想通り当たらない。三発目、二発目の回避を予測してのOIGAMIによる砲撃―――当たらない。 三発目の砲撃に気づいたところで、アンサングがさらに別方向へと、瞬時にクイックブーストを吹かし、避ける。 間髪入れず、カウンターとばかりにレーザーバズーカが容赦なく、回避先へと叩き込まれる。 「…くぅっ…」 『このままでは撃ち負けるぞ、レックス…!!』 「こっちは火力が命なんだ。手数で勝てないのは想定済みだ!!」 セレンの声に、威勢良く答えるレックス。 だがそう答えつつも、まだ道は見えない。 対峙している相手は、この上なく強い。まだ、撃ち合いを重ねていくうちに、レックスは相手との力量差を充分に思い知らされていた。 攻撃も回避も。そのどれもが今まで戦ってきた相手とはレベルが違う。アンサングの機動性が高いと言うのもある。だが、機体性能だけの差ではない。 クラニアムで戦ったORCAのネクストとも違う強さ。こちらの動きを研究し、それを元に組み立てた動きではなく、その場その場でこちらの動きに反応し、即座に対応してくる。 理詰めの動きではない。言うなればぶっつけ本番に近い。だが、それでいて一つ一つの動きも精錬されている。正確無比な攻撃。そして驚異的な回避力。しかも、その回避は、次の攻撃のことまで考えて動いている。 その動きの精度は、レックスから見れば…。もはや次元が違って見えるほどのものだ。 ほとんど一方的に攻撃を受け、ダメージばかりが蓄積していく。 「………っ?!」 そして、それは一瞬のことだった。不意にアンサングの姿が消える。 実際は多段クイックブーストによる、急加速と驚異的な機動によって、フォートネクストの死角へと瞬く間のうちに動いただけなのだが、その動きを追えないものからすれば消えたようにしか見えない。 レーダーは、プラズマキャノンの着弾による影響で、いまだノイズしか走っていない。しかし強敵相手に敵を見失うことほど、戦闘の際に危険なことはない。 「……っ」 直感的にフォートネクストを旋回させる。だが少しばかり遅かった、すでにそこには目前に迫るアンサングの姿があったのだ。 そのまま距離を詰めたアンサングは、フォートネクストを直接蹴りつけた。 重量で勝るタンクに対し、ダメージと言えるダメージはない。だが、それでもその衝撃は、フォートネクストとレックスを怯ませるには充分なものだった。 「ぐぅっ?!」 衝撃に揺さぶられ、一瞬操縦そのものがおろそかになる。それでもすぐに立ち直り、すぐそばにいるであろうアンサングへと、ハイレーザーライフルを向けようと試みるも、そこで動きが止まった。 メインカメラには、レーザーバズーカをぴったりと突きつけるアンサングの姿があった。密着距離ともなれば、PAは効果を持たない。 「……っ…」 『ここまでのようだな』 やはり次元が違う相手だった。ここまでの戦闘で、レックスはそれを痛いほどに思い知っていた。 ラインアークでホワイトグリントのリンクスである『彼』に鍛えてもらうために何度も戦闘した際、その時に感じたのと同じものを、戦闘中の間レックスはずっと感じていた。 根本的な部分で全てが違う。努力や経験などでは埋められない圧倒的な差のような物を感じていたのだ。 強敵どころではない。挑む相手を間違えてしまったような、そんな感覚。 『悪いが譲れないな。だが、覚えておこう。お前の答えも』 静かな声。そして容赦なく、レーザーバズーカの一撃がフォートネクストへと叩き込まれた。 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ダメージが限界に達し、機能のほとんどを停止したフォートネクストの中、レックス自身は生きていた。だが機体はもう動かない。それどころかダメージでAMSに異常が発生したのか、最後の一撃によるダメージがレックス自身にも伝わっていた。実際の怪我はないものの、精神的に叩き込まれた痛みは言葉にすらならないものだった。 そのダメージによって意識すら飛びかける中、かろうじて動いていた通信機を通して、テルミドールの声が静かに響いた。 『人類の未来のために、クローズ・プランは必ず…成功させる』 恐らく相手にとっては何気ない一言だったのだろう。 「人類の……未来……」 だが、その一言はレックスの中に深く響くものだった。 ORCAの目的はそのためのものだ。地上はもちろん、空まで汚染され始め、逃げ場がなくなりつつある人類に、救いの道として宇宙への扉を開く。 そのためにエーレンベルクを建造し、世界中に点在するアルテリア施設を押さえ、そのエネルギーを使って、障害となっているアサルトセルを排除しようとしている。地上から逃れ、クレイドルへと逃れた多くの人達を犠牲に。 戦いとは無縁のクレイドルの住民を巻き込んで。 「…………」 だが、それは許容できるものではない。だからこそ―――こうして行動に移した。 遠い記憶が脳裏に浮かぶ。 大地を走り、空を舞う人型の大型兵器。その間で飛び交う砲火。その中で逃げ惑う人達。そして、流れ弾の爆発と共に消えてしまった――家族。 それが…全ての始まりだった。 誰かを守れる力がほしい。 それがノーマル乗りになった理由だった。 ノーマル乗りのままでは守れないモノがある。 それがリンクスになった理由だった。 クレイドルを守り、そしてORCAとは違う方法で未来を作る。 それがここに来た理由だ。 ―――人類の未来のため。 聞こえはいいが、何も知らない人達が犠牲になろうとしているのが現実だ。 自律兵器によって道を閉ざした張本人は咎めもなく、何も知らない人達がかわりとなって。 その人達は何も悪くないのに。それは理不尽でしかない。 それが許せなくて。自分は、ここまで色々と動いてきたのではなかっただろうか。 それなら。 今、自分がすべきことはなんだろうか。ここでエーレンベルクを使われてしまったら、全てが水の泡となってしまう。 マクシミリアン・テルミドールを止めなければいけない。 なんとしても止めて、クレイドルが地に落ちることを阻止しなければならない。 どんな手段を取ろうとも。どんな犠牲を払おうとも。 「……ここで……終わるわけにはいかないんだ……」 AMSを再度繋ぐ。ノイズがひどく、その影響はひどい頭痛となってレックスに現れる。耐える。 今自分に残っている手段は一つ。この機体だけだ。 「動け…」 動かない。 「動け…っ」 動かない。 「一度だけ。数分だけでいい。動け…っ!!」 動かない。 「最後の砦なんだ。守るために―――動けぇっ!!」 モニターの一部が復帰する。 システムが再び立ち上がる。 コンディションはオールレッド。瀕死だが死んでない。 ―――動く。 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 『……っ!?』 フォートネクストの右腕が、カノープス本体でアンサングを下から殴りつけようと振り上げられた。予想外の不意打ちだったが、アンサングはそれよりも早く、その場から飛びのいていた。 フォートネクストが、さらに左腕のハイレーザーライフルを、まだ距離を離し切れていないアンサングへと向け放ち、PMミサイルを撃ち抜く。 『馬鹿な。完全に機能は停止したはずだ』 確かにトドメをさしたはずだった。ネクスト反応が消えたのも確認した。にも関わらず、フォートネクストは再び動いていた。ボロボロの状態のままで。 さらにフォートネクストがハイレーザーライフルを放つ。一発、また一発とアンサングが被弾を受ける。避けてないわけではない。避けているはずなのに当てられるのだ。 命中率が上がっていた。次々と放たれるハイレーザーがアンサングを貫き、さらにダメージを加えていく。 『動きが…急に?!』 フォートネクストがオーバードブーストを吹かし、強引に後退するアンサングへと距離を詰めにかかる。 やがて通信越しにレックスの声が響いた。 「エーレンベルクは撃たせない。絶対にだ…っ」 『……何をした、貴様』 「…最後まで、諦めなかっただけだっ!!」 OIGAMIが火を吹く。さすがに、それの直撃を受けては今のアンサングでは一たまりもない。 すぐさま射線上から退避し、避ける。 「…これだけの力がありながら、どうしてこんな手段を選んだ!!」 『…っ。悠長に対処するような時間が、この星に残されていると思うのか!!』 後退しつつプラズマキャノンを展開し放つ。フォートネクストが右腕のカノープスを射線上に投擲。プラズマ弾の直撃を受け、カノープスが吹き飛ぶ。 だが同時に撃っていた左腕のカノープスが、レーザーバズーカを撃ち抜いていた。爆発したそれを、アンサングはパージ。すぐさま上空へと一気に飛びあがる。 「やってみなきゃわからないだろうっ!!」 『……貴様…。その惰弱な発想が、人類を壊死させるのだ!!』 オーバードブーストをカット。そして、反動軽減システムもカットし、OIGAMIを射角ギリギリまで上に向けて発射する。 オーバードブーストの勢いが付いたままの反動砲撃によって、フォートネクストの機体がウィリー走行でもしているかのうに、前と滑りながら後ろへ傾く。そして、前が大きく持ち上がったところで再びオーバードブーストを起動し、強引に空へと飛び上がる。 「結果すら出てないのに、惰弱と決めつけるなぁっ!! 」 『口では何とでも言える…!!』 真っ直ぐに突っ込んでくるフォートネクストへとアサルトライフルを放つ。だが、それはプラズマキャノンを確実に当てるための布石だった。 フォートネクストは限界のはずだ。どういうトリックかはわからないが、動いているのが奇跡にすら見える。 一撃。 一撃入れることが出来れば片はつく。 アサルトライフルの攻撃をフォートネクストが横方向へのクイックブーストで回避する。強化されているサイドブースターは、今までにない加速を持ってアサルトライフルの弾を避ける。 クイックブースト直後の一瞬の隙を突くかのように、プラズマキャノンが放たれていた。 飛び込んだ先に迫るプラズマ弾。――噴射直後ゆえに再びクイックブーストを使うことは出来ない。回避は不可能。 いや不可能ではない。クラースナヤや、アンサングが使ったクイックブーストによる瞬時の切り返し。それを持ってすれば回避は可能。 問題はそれが出来るかどうかだ。違う。出来るかどうかではない。やるのだ。 『二段クイックだと!?』 フォートネクストが瞬時にクイックブーストで切り返しを行い、プラズマキャノンを回避したのを見て、テルミドールは驚愕に包まれた。 AMS適正が高くても誰でもは出来ない高等技術。それをAMSが低いはずのレックスがやったのである。しかしそれも絶対有り得ない話ではない。ホワイトグリントのリンクスも、低いAMS適正でそれをやってのけているのだから。 『……くっ』 距離が迫る。 アサルトライフルで迎撃しようとするも、フォートネクストは止まらない。 左腕のハイレーザーライフルをパージ。さらに加速する。クイックブーストを使って突撃を回避しようと試みる。だがアンサングの動きに、フォートネクストは食らいつく。 距離が迫る。 至近距離一歩手前。プラズマキャノンを再度発射。フォートネクストが僅かに高度下げ回避する。だが少し遅い。コアへの直撃は避けれたものの、頭部が吹き飛ぶ。 「頭部破損程度で、元レイヴンを止められると思うなぁぁぁぁぁぁ!!」 距離が最高に迫る。 OIGAMIの砲身がアンサングの腰部辺りへと突き刺さる。 ゼロ距離。 そして――――― To Be Countinue…… ---- now:&online; today:&counter(today); yesterday:&counter(yesterday); total:&counter(total); ---- **移設元コメント [#se429991] -元レイヴン。いい響きだ。そういやレックスはレイヴンだったんですよね -- 2010-10-28 (木) 00:31:47 -引っ張るなぁ今回 ペースを考えると気にならないけど でも、満身創痍で老神0距離って、今度こそ持たないんじゃ・・・(このためのタンク補正なのか?) -- 2010-10-28 (木) 00:34:34 -ネクスト反応って…… -- 2010-10-28 (木) 00:52:09 -来たか0距離…! ボロボロになりながらも最後の最後で勝利する、その姿は最高にカッコイイ! 確かに、LRではタンクはしょっちゅう頭壊れるもんな。そのくらいでレイヴンは止まらないさ! -- 2010-10-28 (木) 05:53:37 -ご都合主義でもこういう熱いのは好みだぜ -- 2010-10-28 (木) 07:12:15 -最後の所、「フォートネクスと」になっているところがありますよ。 -- 2010-10-28 (木) 11:24:12 -やるかやるか?と思ってましたが、とうとうやっちまいましたね老神ゼロ距離w WG並みに再起動するレックスの姿に鳥肌立ちました -- 2010-10-28 (木) 13:30:59 -ゼロ距離射撃に関するコメントをしたら、ホントにやりやがったよこの人・・・。しかし、再起動からの特攻か・・・実に燃える展開だが、大丈夫なのかレックス君? -- 2010-10-28 (木) 19:12:25 -そういやOBからの老神ブッ刺しもコメントしてたな俺 よもやランク1に対してやるとは思わなかったが(コメ時はスプリットムーン相手のつもりだったし) -- 2010-10-28 (木) 19:48:49 -ラストのレックスとテルミドールの短い対話に熱いナニかを感じました。あぁ、ラストか…寂しくなるな -- 2010-10-29 (金) 19:35:08 ---- ☆作者の一言コーナー☆ 気が付いたら、次を書き上げていた、えむです。 ―――個人的には、これで満足!!以上!! でも、もうちょっとだけ続きますので、あと少しお付き合いくださいね>< 11/1追記:コメントレス後回しにして忘れてたの件…ごめんなさいorz >社長の台詞のアレンジで締めくくるか いくらSS腕とはいえカノプスは威力十分だし、老神も言わずもがな これ、普通に当てれれば十分だよな(トドメは勝手に老神であると期待させてもらいます) 火力は充分です。当てれれば充分です。当てれれば…。 >最後のセリフにしびれた!レックス頑張れー!! >当てるんだから、か・・・めちゃくちゃかっこいいぞ! がんばれタンク乗り!! 誰もが忘れた頃に、読者さんからのネタを使う。それがえむ'sくおりてぃです(ぇ >レックス君かっけ~。しかし、やっぱりウィンディーでは輝美を止められなかったか…しかし、どんだけ頑丈なんだよOIGAMI流石有澤と言うべきなのだろうか… 装甲と炸薬に定評のある有澤重工の提供です(キリッ >まさかとは思うがアンサングをOIGAMIで串刺しにしてゼロ距離グレネードとかきそうだな・・・この人ならやりかねんよ。 やりました。 >最後の一言がガチタンの全てを表している…ただひたすらサイティングだけに全身全霊を込めた旧作時代の思い出が蘇るな これをゲームでやると…相手によっては…orz >狙ったんだろうがスプリットムーンにぶつかったOIGAMIから<不正はなかった とか聞こえてくるようだwさあラストスパート派手に行って下さい!! 自分的には派手に行ったつもりですが、果たして…(==; >どーやらUP主にとっては「逆関節」は「逆間接」が正しいらしい・・・。で、下のコメ返しにも誤字。×非情にたくさん○非常にたくさん 毎度お手数おかけしますosz 以上、コメントレスでした。 今回も色々なコメントをありがとうございます。ここでのOIGAMIトドメコメがなかったら、普通に撃ち抜いていt(ry ---- **コメント [#l835e07f] #comment ---- RIGHT:[[小説へ戻る>小説/長編]]
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