小説/長編

Written by えむ


 レックスとセレンの二人は、重大な危機を迎えていた。
 ワンダフルボディ撃破のミッションにして、壮絶なまでの出費を出してしまったのである。それこそASミサイルを撃ちまくるエイ・プールですら霞むくらいのレベルで。
 
「食料は切り詰めたとして、もって2日か…」
「依頼も来ないし…。さすがにやばい気がする」

 こういうときに限ってミッションの依頼と言うのは来ない物だ。
 ミッションが終了して、すでに3日が過ぎている。なんとか、これまではかろうじて残っていたカップ麺だとかで凌いできたが、すでにそれも底をつきはじめていた。

「もう、なりふり構っている場合じゃないよセレン」
「あぁ、そうだな。カラードに連絡して、何でもいいから依頼がないか頼んでみよう」

 そうしてカラードに連絡し、現在ある依頼は全部で4件とのことだった。
 さっそく見てみる。
 まず一つ目。依頼主はアスピナ機関。依頼内容は、「フラジール超高速仕様のテストパイロット募集」と言うもの。備考欄には「壊れないリンクス歓迎」ともあったが―――。
 
「あ、あの機体、現実に存在するのかっ!?う、うわぁぁぁぁぁっ。い、いやだっ。絶対にいやだぁぁぁぁぁぁっ」
「お、落ち着けレックスっ!?まだ受けると決めたわけじゃないっ」

 見た途端に、レックスがトラウマを刺激され発狂、暴れだしそうになったので即刻却下した。
 二つ目。依頼主は、トーラス。依頼内容は「コジマ臨界制御試験」。どう見ても危険フラグだ。と言うか、どうして臨界制御試験でリンクスが駆り出されるのかが謎だ。ちょっぴり好奇心もあったが、命には変えられないと、これも却下する。
 次。依頼主はキサラギとか言う初めて聞く名前の相手だった。軽く調べてみたところ、どうやら何かの研究開発をしている小規模なコロニーらしい。依頼内容は「新型生体兵器性能テスト」とあった。詳細としては、「コジマ粒子による突然変異体との模擬戦」。

「…なんだろう、セレン。この依頼は受けたら駄目な気がする…」
「私もだ。これはやばい気がする…色々と」

 理由はわからない。だが二人とも共に本能的に危機を感じていた。これも受けちゃ駄目だと。
 まぁ、上の二つと比べたら、かなりマシな気もするのだが。

「こ、こんなのしかないのか…?」
「まともな依頼は、他のリンクスが受けてるのだろうな…」

 結果、こういうのが残る…というわけである。だが、なりふり構わず―――とは言った物の、あまりに依頼の内容が凄まじい。命のためなら、生活が犠牲になっても構わないと思わせる程に。

「…どうするよ、マジで」
「……待て、後一つある」

 あぁ、もう本当にどうしよう。この際だから、装備とか売り払おうか…などと考え始めつつ、最後の希望を賭けて、その依頼を見てみる。
 依頼主は、こっちもトーラスであった。依頼内容は、「試作型FCSの性能試験」。さらに「タンク型ネクストのリンクス希望」の条件付。多少罠の気もするが、臨界制御試験とか、得体の知れない生体兵器の性能試験に比べれば、どうってことはない。と言うわけで―――即決だった。





 次の日。レックスとセレンはトーラスの地上支部へと来ていた。トーラスのスタッフに案内され、連れてこられたのはネクスト用のハンガー。
 ハンガーにたどり着くや否や、白衣にメガネという技術者風貌の男が近づいてくる。

「よくきた!!君が、依頼を受けてくれたリンクスか」
「レックス・アールグレイです。よろしく」
「この私が今回のクライアント。トーラス第三開発部主任のエクストラと言う。いやぁ、助かったよ。どういうわけか、受けてくれる人がいなくてねぇ」

 そう言って、うれしそうに笑う主任さん。彼の言葉を聞きながら、セレンはひそか思う。
―――あたりまえだ。現在いるリンクスの何人がタンク型のネクストを使っていると思っているんだ…と。
 さらに言えば、スティレットはインテリオル所属で上位リンクス、有澤隆文は有澤重工の社長でもある。あと一人、フランソワ・ネリスがいるが彼女も独立傭兵部隊の長。つまりのところ…タンク乗りで忙しくない人間はいないのだ。レックス以外。

「それで…? 僕が乗る予定の試作ネクストってのは…」
「あぁ、今見せるよ。おい、ガレージのハッチをあけてくれ!!」

 すぐそばにあった格納用ガレージのハッチが開き、一機のネクストが姿を現した。

「こ、これは……っ」
「こう来たか……」

 その姿に驚くレックスと、半分くらいは予想していたと頭を抑えるセレン。
 ハイドラ・アルギュロスをベースに脚部は有澤重工のRAIDEN-L。両背にはコジマキャノンのARSENIKON、両肩にはPA整波装置と言った具合である。
 グレネードの有澤タンクと来て、コジマのトーラスタンクと来た。恐らく次は、インテリオルあたりのレーザータンクと来るに違いない。まぁ、それはさておいて。

「訓練用エリアにターゲットがいるから、この機体で撃破してくれたらいい。データはこちらで取るから遠慮なくやってくれたまえ。ふふふふ、試作型FCS、こいつはすごいぞぉ……。どんな物かは使ってのお楽しみだがなっ!!」

 主任は、続けてミッションの概要を説明し始めた。その傍らでレックスは、トーラスタンクを見上げてため息をつく。それに気づいたセレンが、小さな声で尋ねる

「どうした、レックス?」
「こいつは…火薬分が圧倒的足りない。防御面に関しては及第点なだけに…惜しいよ」

 タンク乗りのレックスにとって、実弾>>>レーザー>>(越えられない壁)>>コジマなのである。

「…お前と言うやつは―――」

 セレンは、とりあえず突っ込みを入れるべきだろうか…と思ったが、今はやめておくことにした。
 だって人が話している最中だし。

 そしてミッション開始となった。
 指定された訓練用のエリア。そこは何もない砂漠だった。いや、それはいい。問題は試験用に宛がわれたターゲットである。数百メートル先には、巨大な陸戦兵器の姿があったのだ。
 その姿を見たセレンが思わず叫ぶ。

「ランドクラブだと!?」
「そうそう、それがターゲットだよ。先日、我がトーラスのリンクスであるミセス・テレジアがGAの部隊と遭遇戦になったらしくてね。その時にせっかくだから拿捕してもらった」
「いや、待て。それはいいとして、破壊前提の試験にAFを使うのか?!」
「はっはっは、どうせ改修する予定だからねぇ。消し飛ばしさえしなければ、壊しちゃったって問題はないのだよ!!」

 あっさり答える主任に、セレンはただただ開いた口が塞がらない。ただのFCSのテストのためにAF一機を潰す。他の企業が聞いたら卒倒しかねないが、そこはトーラス。技術のためならば、ある程度の犠牲は一切問わないのが、彼らのモットーなのだ。ただし自分たちから他人への迷惑は、なるべくかけない方向性で。

「とりあえず始めてくれたまえ。さぁ、試作型FCSを立ち上げるのだっ!!」
「わ、わかった」

 主任のノリに圧倒されつつ、レックスは例のFCSを起動させた。
 表示される情報を見た限りでは、至って普通のFCSだ。ロック速度や補足距離なども、特に目立つものはない。
 しかし、試作型というからには何かあるのだろう。それは使えばわかるか、と使用武器を切り替えるコマンドを送る。そして、そこで気がついた。通常ならば、右手と右肩。左手と左肩で切り替えが起きるはずなのだが、それ以外の武器使用モードが存在したのである。
 すぐさま、そのモードを起動させる。両肩のコジマキャノンが展開し、さらに碗部兵装までもがスタンバイとなる。

「これは……まさかっ!?」
「ふふふ、どうやら気がついたようだな…」

 不敵な笑い声が静かにこだまする。

「全兵装一斉射撃…それは兵器としての浪漫の一つ!!そして、そのFCSこそがっ。我がトーラス第3開発部が作り上げた全兵装同時使用可能なFCSなのだよっ!!」

 どどーん。心なしか、通信機の向こうから爆発音が聞こえたような気がした。
 浪漫のために全てを賭ける。それもまたトーラスクオリティである。

「さぁ、見せてくれ!!コジマキャノン4門によるコジマ粒子の輝きをっっっ」
「……レックス、早くやってくれ。なんかもう帰りたい」

 なんかヒートアップしてるっぽい主任と、さらにクールダウンしていく様子のセレン。レックスとしても何かしてあげたいが、ぶっちゃけチャージがしないことにはコジマキャノンの真の力は発揮できない。
 すぐさまコジマチャージを開始。4門ものコジマキャノンの砲口に、緑色に輝く光が集束を始める。ランドクラブの砲撃を回避しつつ待つこと、少し。チャージ完了を知らせる表示が点滅する。

「撃て…!!コジマの力を今、ここにっ!!」

 集束されたコジマ粒子が吐き出される。4発分のコジマ粒子は、そのまま真っ直ぐにランドクラブへと襲い掛かり、爆音と共に緑の光で包み込む。

「ふはははははっ。成功だ!!成功したぞぉぉぉっ!!」」

 なぜか通信機の向こうから、大勢の歓声が聞こえてきた。どうやら主任だけでなく開発関係者全員が見に来ていたらしい。

「じゃあ、そのまま戦闘を続けてくれたまえ」

 さすがに4門一斉射撃程度で落ちるほど、ランドクラブもやわではない。レックスはすぐさまブーストをふかして移動を開始。攻撃を再開するのであった。
 その後は、特に大きな問題もなく無事にミッションは終了した。
 報酬をしっかりといただいたレックスであったが、なぜかボーナスまでついていた。予想外の収入であったが、主任の言うところによれば―――

「我々の夢をかなえてくれたんだ!!これくらいのお礼はさせてくれ!!」

…とのことだった。そんなわけで、しっかり喜んで受け取ることにし、レックスとセレンの危機はなんとか去ったのであった。と同時に、ちょっとだけトーラスの評価が上がったのは言うまでもない。
 ちなみにその試作型FCS。全兵装を一斉使用する際には、ロックオンシステムが停止。さらに、タンク脚部でしか使えないと言う謎の仕様により、量産されることはなく終わったと言う。

 さて、レックスの資金運用術による、資金倍増により、なんとか元の生活基準に戻ることが出来てから、数日が過ぎたある日のこと。 オーメルから一つの依頼が届いた。
 BFFのフラグシップ。スピリット オブ マザーウィルの撃破である。

~おまけ~

「主任、作ったコレどうしますか」
「破棄するのはもったいないし、そもそも作った物を捨てるなど技術者のプライドに反する!!」
「そのとおりです主任っ。では、どうします?」
「せっかくネクスト用に作ったんだから、ネクストに使ってもらわなければ意味がない!!だから、この際だ。この前のリンクスのところにでも送っておけ!!」
「わかりましたっ」

To Be Countinue……


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移設元コメント


☆作者の一言コーナー☆
 フロム脳の活性化により、ヒロインを誰にするかが決まったえむです。
 
 今回はお金稼ぎの話。結局バイト先はトーラスとなりました。設定的に無理そうでも無理が通るこの企業の存在は偉大だと思います。
 なお今後レックスが試作FCSを使うかは未定のままです、あしからず。
 あと今回依頼でコジマ装備を使いましたが、必要ならばレーザーだって使いますレックス君。

 さて、次回はいろいろ序盤の山場。スピリットオブマザーウィル戦。
 あの鈍重な機体で、果たしてどう挑むのか。

 お楽しみにっ。


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