小説/長編

Written by 独鴉



ランク23 フランソワ=ネリスとの戦い
パッチザ・グットラックやウィスやイエェーイはカラードマッチを忙しいことを理由に拒否し、
自らより上位のものと戦う権利を明け渡した。
ドン・カーネルはカラードマッチを行うことを望んではいたが、
奇襲とはいえ実戦で敗れたことからGA上層部がストレイドとのカラードマッチを行うことを許さず、
順当にバッカニアとのカラードマッチを行うこととなった。
バッカニアとのカラードマッチに備え、最後のパーツ交換を行っていた。
さすがに光学兵器に弱いGA系では無理だということで新たなパーツの購入契約を結んでいたが、
インテリオル輸送隊が不明部隊に襲われたことで納品が遅れ、
カラードマッチが行われる今日までパーツは届かなかった。

「コアの調整が終わり次第各パーツと接続する!各部パーツの調整急げ!」

『了解!』

カラードマッチ開始まで残り2時間を切り、整備場は歌劇の舞台裏の様に慌しく、
機体調整に追われる整備士達が駆けずり回っていた。
AMSの調整を残してコアの調整が終わり、各パーツとの接続が行われている中大問題が発生した。

「注文したCANOPUSが納品されてません!」

「なんだと!?どうして納品時にチャックしなかった!」

納品がぎりぎりになれば小さなミスが発生する確立が上がるのは当然だが、
肝心なメイン兵装がないとなるとただ事ではない。

「届いてないなんて知られたら・・・・セレンに殺されるぞ!!急いで連絡をつけてなんとかしないと!!」

レジール整備士長は青ざめ、急いで通信室へと走っていった。
レオーネ・メカニカ時代から付き合いが長い彼女はセレン・ヘイズの性格をよく分かっている。
どんな時でも最善を尽くさなければ、彼女は決して許さない。
それ故に彼女に付いてこられる者はほとんどいないのだが。
急いで通信室へと向かっている途中、見慣れない女性が整備場の渡り廊下からストレイドを眺めているのに気が付いた。

(誰だ・・・?)

ストレイドのパーツを一通り確認したのだろうか、見慣れない女性はゆっくりと渡り廊下から姿を消した。

今回の戦闘エリアはシミュレーターA、セレンさんの見立てではバッカニアと真正面からやりあっても、
機体と武装タイプの相性から勝てると判断している。その為シミュレーターAを選択した。
戦闘が開始した瞬間僅かに光が走り、反射的に右へのSQBで機体を走らせた瞬間二条の蒼い光が先ほど居た場所を貫いていった。

「超長距離からの精密狙撃!?あの武器で!」

BFFのFCSでもロック不可能な長距離からの精密狙撃、普通では考えられないことをバッカニアは行ってみせた。

「中・遠距離は不利と判断。予定されていた中距離からの撃ち合いではなく、接近し近距離での戦闘に変更します」

オペレーターからの応答は禁止されているが、こちらの声はセレンさんに届いている。
当初の予定を変更するのだからすぐに報告をしなければ後で何を言われるか分かったものではない。

(・・・初弾を外した?)

フランソワ=ネリスはコックピットでそう呟くと嫌な汗が出てくるのを感じた。
いまだかつて初弾を外した相手は自分を過去に倒した一人しか居ないからだ。

(いえ、外させたのね。・・・良いわ。こいつ)

テルスは距離を詰めるためだろうOBの光を放ち始めている。
遠距離では不利と判断し、あの男と同じように接近距離で仕留めるつもりなのだろう。

「上等だよ!かかってきな!」

それから2連同時発射から1射ごとの単射に切り替えられた蒼いハイレーザーは正確にこちらを捉え、
回避行動を予測して襲い掛かかってくる。
ハイレーザーを無理やり回避するため、連続したMQBとSQBの連続で必然的にEN残容量が減り、
苦し紛れにQBの反動でぶれる照準を合わせながらCANOPUSを撃つが銃口が向けられる方向に反応、
バッカニアはSQBで射線軸からいち早く外れ、逆にこちらのENの残量を減らす結果に繋がるだけだった。
シミュレーターAの中心で2機のネクストは全方向のQBを派手に吹き上げ、サイドとバックの取り合いを行っている。

テルスはバッカニアの僅かな反応によって回避するため統合制御体は予測処理を行えず、
突如として入力される命令になんとか反応しているが、
目まぐるしく変わる機体状態と敵位置の情報がAMSを通してこちらに高負荷をかける。

僅か二分間の攻防でテルスから与えられるAMS負荷はすでに許容量を超えていた。

「なんでこんな負荷に耐えられる!?」

莫大な情報量に意識が潰れそうになりながらそう叫ぶとテルスを空中に飛ばせた。
その動きに合わせて振り上げられたA12‐OPSの2条の蒼い光がテルスのPAを貫きコアと頭部の右半分の装甲を抉る。

「ッッ!」

絶叫を上げる余裕さえも押し潰す高負荷が意識を食い荒らし自らが消えていく。

テルスは無防備かつ不安定な状態で降下。AUTOMODE特有の無駄な低速ブースト着地をしたあと動こうとしない。

「・・・どうやら負荷を超えてブラックアウトしたみたいね。それじゃあ止めを刺させてもらうわ」

A12‐OPSがテルスに向けられ、2つの砲口から僅かな光が漏れたときテルスが動き、
2条のハイレーザーを通常よりも大きな噴出炎を巻き投げながらテルスは左にSQBで回避、
両腕のCANOPUSから2条の光が放たれバッカニアの右胸部装甲に叩き込まれる。
バッカニアはBQBと右SQBでテルスの左サイドに回りこむが、
また大きな噴出炎を上げながらテルスは右・前と2連続QBで左サイドに回りこみCANOPUSが胸部装甲を抉りとる。

「2段QB!?」

機体とリンクスに過度の負担をかける2段QBはそれ相応の代償を覚悟しなければ使うことは出来ない。
通常よりも遥かに増える機体情報とその情報処理量から比例して増大するAMS負荷は並大抵では耐えられない。
それ故に2段の不要な高出力QBが開発されているのだから。

(標的ロック、照準誤差5%修正、敵移動予測、敵行動予測、照射タイミングから推測し、全工程の再修正・・・完了)

トリガーを引きながらCANOPUSの照準を微調整し、QBで回避しようとしているバッカニアのコア目掛けて二条の光は正確に叩き込まれ、
損傷を追っていた部位を貫き、残っていたAPは一瞬で消え去りかラードマッチは終わった。
だが、テルスは動きの止まったバッカニアに向けてCANOPUSを何発も撃ち込み、シミュレーターとの統合制御体の接続が切れるまでそれは続いた。

「ご苦労だった。もういいぞ」

セレンはそう伝えたが、テルスのコアから降りてくる気配はなく、コックピットハッチは閉じたまま動くことはなかった。

「おい、どうし」

疑問に思ったセレンがサイド声をかけたときネクストのカメラアイが急に光り、AMS以外停止していた機体の各部が起動プロセスを開始した。

「何をしている!カラード内だぞ!」

だが、テルスは各部の機能の起動プロセスを停止せず、後一分もすれば戦闘可能な状態までジェネレーターの稼働率は上がるだろう。

「止めろと命令しているのが聞こえないのか!!」

「命・・令・・・・」

生気のない声が聞こえた後テルスの機能は停止、コアのコックピットが開かれた。
表情のまったくないまま機体から降りると力が抜けたように体に傾く、
駆け寄ってきた整備士がとっさに支えると近くの長椅子まで引き摺っていく。

「すぐにいく!医者を呼んでおけ!」

セレンはオペレーター室から急いで駆け出した。

セレンが整備場に着いたときにはすでに到着した医者があれこれ調べていた。
その中長イスに寝かされたままのリンクスは相変わらず生気のない顔をしている。

「大丈夫か!?」

「落ち着いてください」

急いで駆け寄ろうとしたが看護士に制され、他の整備士達と共に近くで診察が終わるのを待った。

それから15分ほどして診察が終わったのか、医者はセレン達を呼んだ。

「一度精密検査をして見なければ分かりませんが・・・、AMSによる脳や神経への影響はないと思います」

全員ほっと胸をなでおろしたが、セレンは聞きたいことがいくつかあった。長イスで寝ている男の顔には生気が戻ってきてはいるが、また似た事態がおきてはことだ。

「異常行動の原因は?」

医者は神妙な面持ちで少し考え込んでから口を開いた。

「恐らく・・・、一種の精神的問題でしょう。長期に渡って高負荷を受け続け、頭部に攻撃を受けた事でAMS限界を超え、その影響でなんらかの記憶のフラッシュバックか何かが起きたのではないかと推測しますが・・・・、精神科は私の専門ではないので断言はできません」

「そうか・・・、今回は助かった。料金は後で送っておく」

(少しこいつの過去のことを調べなくてはならないな)


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