小説/R-18

《ウォーニング!!》

この作品は異性間に於ける性交を主軸とした小説です。

 
 
 
 

 
 
 
 

Written by 仕事人


 【ケモノのスミカ レギュ06 《濃度》】
 
「……それで、何か申し開きはあるか?」
 尋問のような口調の言葉がその場に発された。しかし、聞いた者はティーカップを手にして円形のテーブルに腰掛けており、聞かれた者も殆ど同じ状態だ。
 また、それを見守るような第三者がいるが、その者にしても、同じように座っているだけである。
「私は何度も言ったよな……?」
 質問者である長い黒髪の女性は対面では、少し白が強い水色の髪の女性が質問者の威圧感に圧されて、怯えたように縮こまって、俯いている。
 片や手に持っている紅茶の水面に怒りによって身体を震わして波紋を広げ続けていて、片や緊張でカップこそ眼の前にしているが、手に持つことすら出来ていない。
 数度呼びかけても黙秘を続けることに我慢が限界を迎えたのだろう、詰問者が怒声を上げた。
「……ASミサイルを撃つな、とッ!」
 そう叫びながらスミカがテーブルにカップを叩きつけて、ガチャンと音を立てた。それに遅れて跳ね上がった紅茶の雫が水面に戻ってぽちゃりと水音を鳴らすと、スミカの対面に居るエイと右隣の少年――エイから見て、左隣――もびくりと身体を震わせた。
「あの~、スミカさん。エイさんも反省し」
「うるさい、黙ってろッ!」
 仲裁に入ろうとした少年であったが、即座に一喝されて、言われた通りにスミカの対面のエイ=プールと同じように黙った。
 それにしても、何故スミカはここまで怒っているのだろうか。言いつけを破ってエイがASミサイルを撃ったところでそれが何の問題になるというのか。
 すると彼女は懐から一枚の紙を出して、見せ付けるようにテーブルの中央に叩きつける。
「反省しているだけで済む問題か! これを見ろ!」
 恐る恐るそれを覗き込んだ少年が上から下までじっくりと見て、”あちゃあ”と云う風に顔を顰めて眼を瞑った。
 それはミッションの経費が記された領収書であるのだが、一番上の欄は呈示された報酬なので、特筆すべきところはなく、額の方も35万Cと、普通の報酬なので、やはり特に言及するようなものでもない。
 では弾薬費、修理費などの全ての経費を差し引いた、実際の手取りを見てみると、
 ――750C
 驚く程に低くなっているのである。
 とはいえ、今回のミッションでは彼らの傍にいるエイを僚機として雇ったので、その取り分の減額はしょうがない。
 しかし、それでもその取り分は少年:エイ=75%:15%だ。
 つまりミッション中に全く経費が無かったとした場合、少年とスミカの方には26万程が入っていた筈である。
 だというのに結果は前述の通りに僅か750C。
 一体何があったというのか。
 「いいか。よく見ろ、この馬鹿が! お前の弾薬費の欄を!」
 スミカの言う通りにエイが今回使用した弾薬費を見てみると――32万2千Cと表記されている。実に呈示されていた報酬の9割以上だ。
 
 ここでその原因となったエイの愛機《ヴェーロノーク》について少し見てみよう。
 支援機と銘打たれているヴェーロノークの武装は全てASミサイルという一度発射すれば自動で熱源を追尾する特殊な武装である。そしてヴェーロノークには武器腕、両背部、そして肩部にミサイルポッドが装備されている。ここまで来ると一種の清々しさすら感じる。
 また、流石は企業専属ということで通常なら不可能なのだが、ヴェーロノークには特別なチューンが施されており、全兵装を同時に操作できるようになっているのだ。勝手に敵に向かってくれるASミサイルだからこそ可能、ということもあるだろう。
 ではそのASミサイルが何発装填されているかと言うと、
 武器腕:AURORA 300発
 背部:LAMIA×2 60×2=120発
 肩部:SCYLLA 40発
 合計――460発
 そして、どれも同じミサイルであるので、一発ごとの値段も同じの700C。
 全装弾数と弾単価を掛けると、
 460×700=322000
 以上のことから分かるように、エイは単価が極めて高価なAMミサイルを一回のミッションで全て撃ち切ってしまったのだ。
 これほどの弾を使い切ってしまったのだから、それは危険なミッションだったのだろうと思われるが――実はそうでもない。全然そうじゃない。違う、そうじゃない。
 エイの弾薬費に対して、少年の方はほぼ0に等しいのだ。それは全ての敵をエイが排除したから、撃つ必要が無かったから、というわけでもない。
 確かに多くはエイの戦果であるが、彼が倒した分はブレードだけで事足りた――何せ敵はMTとノーマル、所謂通常戦力が相手だったのだから。
「お前を信じた私が馬鹿だったよ! ああ、そうだ、一番の大馬鹿だ! クソッ!」
 そもそも何故そんな軽いミッションに僚機を伴ったかと言うと、実は先日、エイが嘗て同じインテリオルに所属していたスミカに、絶対に迷惑は掛けないから僚機として雇ってくれ、とお願いをしていたのだ。
 そのあまりに必死な様子を不憫に思い、同情したスミカは”何もしなくていい”と念を押して、それ受諾したのだが――この結果である。
 では、ミッション中に何があったのと言うと、
「だって、しょうがないじゃないですかぁ……敵が急に後ろに居た私の方に向かってきたんですよ」
「それで、迎え撃ったと言いたいのか?……ふざけるのも大概にしろよ、この糞女が! 確かにお前の方に敵が行ったが、その時お前が何て言ったか、私は確りと覚えているぞ! 何なら今ここで言ってやる! 何にも中に入っていない頭に付いているだけの耳の穴かっぽじって、よぉく聞け!」

 では、ミッションの内容を回想していこう。
 まず、少年が乗っているネクストが敵部隊に向かって突っ込んでいく。すぐにヴェーロノークは上空に飛んでいく。
 ストレイドが多少被弾しながらもブレードで敵を撃破していく。すると討ち漏らした飛行型ノーマルがヴェーロノークに向かって行って――
 
 オーケェイ……
 
 レッツ・パァァァァァァルルルゥイイイィィィィィィィッ!
 
 ハウ・ドゥ・ユゥー・ライク・ミー・ナアアアァァァァァァウッ!
 
 ゴー・トゥ・ヘエエェェェェエエエエルッ!
 
 ――といった具合に、通信の向こうで、撃つなと叫ぶスミカとオペレーターの声を無視して、エイはそれはもう楽しそうに叫びながらミサイルを全弾撃ち続けたのだ。
 しかも眼の前の敵を破壊した後、眼下の敵にもASミサイルは向かっていったのだが、予め発熱パターンを登録されていたために対象から外れる筈のストレイドさえも、其の余波で被弾する羽目に。
 結果、ASミサイルの弾薬費とストレイドのマシンガン数発の弾薬費と、直撃こそ無かったもののミサイルの爆風によって生じた損傷の修理費によって、少年の報酬は750C、エイの報酬は150C。

「だから何度も”撃つな、絶対撃つな”って言ったんだ、私は!」
 泣きそうな表情で叫ぶスミカに、俯いていた顔をちらりと上げたエイが、
「……それって”撃て”って意味ですよね。ダチョウ倶楽」
「へぇっくし!」
 そう言いながら何か例えを出そうとしたが、少年のクシャミのせいでそれは掻き消されてしまった。
「……そうか。じゃあ、私が今からお前に銃を向けるから、同じことを言え」
 その反論にぶち切れたスミカが懐と腰に手を遣ったので、少年が慌てて止めに入り、エイが平謝りし出す。
「お、落ち着いて下さい!」
「ごめんなさいスミカさん! 許して下さいぃ!」
「……それにしても、お前の部屋は本当に何も無いな」
 何とか落ち着いたスミカが紅茶を飲みながら、ふと呟いた。
 何せエイは先のようなことをミッションの度に毎回やっているのだから、稼ぎは殆どない。一応インテリオルからこの部屋のように衣食住の保証はされているのだが、殆ど最低限と云ったところだ。家具類の多くもダンボールが代わりとなっている。
 今三人が飲んでいる紅茶とそれに入れられた砂糖も彼女にとっては貴重な贅沢品である。
「昔から思ってたんだが……お前、リンクス辞めた方が稼ぎが良くなるんじゃないか?」
「ええ、インテリオルもそう考えて、事務職を任されたことがあるんですが……」
 おそらく聞くまでもない結果になったのだろうとスミカは予想していた。
 現状が変わっていないということもあるが、エイと付き合いの長い彼女には何となく顛末が分かるのだ。
「何をやっても失敗しちゃったんです。書類をメールで送ろうとすれば、間違って消しちゃって、それで元のデータをコピーしようとしたら今度はそっちを消しちゃうし、送られてきた送り主不明のメールの添付ファイルを開けちゃって、パソコンをウィルスに感染させて、そのパソコンでメールを送って、オフィス中のパソコンをダメにしちゃったり……」
 少年はそれを聞いてて、涙が出そうになった。世の中こんなにダメな人がいるのかと。
 それから暫く二人は暗い空気を背中に背負ったエイの話を聞かされ続けるのだった。
 それから暫く、エイの愚痴を聞かされていたのだが――最初に異変に気が付いたのはスミカだった。
 隣に座っている少年の顔が紅潮していた、それどころか首筋まで赤くなっているのだ。また息遣いも相当に荒い。怪訝そうな表情で彼に風邪でも引いたのかと、声を掛けようとしたが、今度は自分の身体にかーっと熱が燈っていくのを感じた。
 鼓動が高鳴り出し、息苦しい。
 そして、よく見ると対面に座っているエイも顔を赤くしている。
 一体、何が起きているのかと、二人に視線を送っていると、彼らも異変に気付いたようだ。すると三人の中でも特に症状が激しい少年が、
「……なんか、身体が熱いです……」
 ぼーっとしている様子で呟いた。
 同じく浮ついた顔をしているエイが顔を上げて、直ぐに何かやってしまったような、そんな表情を浮かべた。
「まさか……」
 テーブルの中央に置いてある砂糖の瓶を手に取ってその場で回した。丁度、三人の死角に入っていたラベルを前にするように。
 焦点の定まらない眼だが、顔を寄せて、ラベルの記述をじっと見つめるエイの紅潮している顔がスミカと少年には心なしか徐々に青ざめていくように感じられた。
「二人共、ごめんなさい……」
 すると動揺していると分かる声と表情でエイが謝罪を述べる。何のことか分からず、「どういう意味だ」とスミカが問い質すと、エイは今さっきまで凝視していた瓶のラベルを二人に見せながら説明を始めた。
「こ、これ……」
「これが、どうした?」
「前、テレジアさんから貰った……その……」
 
 ――媚薬、なんです……。
「……は?」
 何を言っているのかというようにスミカが聞き返す声を上げると、エイは続けて頭を下げて「すいません!」と大きな声で謝った。
 すると少年が手を挙げたので、二人が其方に視線を向ける。
「あの……”びやく”って何ですか?」
 効能のせいか息が荒いながらも、二人にそう尋ねた。彼は言っている意味ではなく、そのものが何なのか分からなかったのだ。
「媚薬っていうのは……えぇっと……」
 問われたので、エイが答えようとしたものの口篭った。
 流石に言い難かったらしく、対面のスミカにどうすればいいかと言いたげに、縋るような視線を向けると、スミカは諦めたような顔を浮かべて、こほんと咳払いを一つした。
「……”したくなる”薬のことだ」
 続けて”何をしたくなる”のかと問おうとした少年であったが、女性二人が顔を赤らめていることもあり、流石に気付いた。
 それに先程から急に股間が窮屈になっていることも、その一因だろう。
「でも、どうしてそんなのが……?」
「テレジアさんはよくトーラスの変な試作品を私に送ってくるんです……前も脚とか腕専用のベルトなんかも送られてきて。恥ずかしいし、処分の仕方が分からないから、そのまま隠してあるんですけど……」
 エイの口調から、二人はまるで上司からセクハラ受けて困っているOLの相談に乗っているような気分になる。以前テレジアのせいで振り回された少年は彼女に親近感を含んだ奇妙な同情を覚えるのだった。
 それとエイのようにテレジアから奇妙な道具や薬品を送られているのはウィンやスティレットはエイと違ってダンボールごと燃やしているので、周囲に”そのようなものを持っている”という疑いを抱かせずに処分できているのだ。またインテリオル在籍時代のスミカも同じことをされたが、やはり同じ方法で処分していた。そもそもウィンにそれを教えたのはスミカである。
「……そんなことはどうでもいい。何でそんなものを此処に持ってきたんだ!」
 苛々しながら話を聞いていたスミカがそう問い詰めると、エイは「……そういうものなんです」と小声で呟いた。
「これは、わざと砂糖と味や見た目が同じになっているんです」
「なんで、そんなことを……」
 聞き返そうとしたスミカであったが、言い掛けて気付いた。つまり、この薬は自分が今置かれている状況を狙ったものなのだと。
 砂糖とこれを間違えて食品や飲料に混入させて、相手をその気にさせる品なのだ。しかも砂糖と同じにしてあるために教えなければ相手に気付かれない。そして、貰った癖にエイは間違えて持ってきてしまったのだ。
 スミカはもう一度砂糖のような薬を見て、粗忽者であるエイなら間違えてもしょうがないかもしれないと考えた。自分が彼女の立場でも間違えてしまいそうな気がしたからである。
 それほどまでによく出来ているのだ。
 事実、自分の手でそれをスプーンで掬い、そして口に含めた。そのように二回も接触したというのに疑いもしなかったのだから。
「……それで?これの効き目が切れるのはどのくらい掛かる」
 今更エイを責めてもしょうがないと思い、そう尋ねると彼女は答えを教えるのを恐れるように口篭りながら恐る恐る答える。
「……二時間から三時間ぐらいです」
「さ、三……?!」
 ぐっと息を呑みながら、絶望的と云ったような声を上げるスミカと、ぼーっとする頭を持ち上げてエイを見る少年。
 二人から視線を向けられたエイは申し訳なさそうに俯く。
 それと彼女がラベルなどを見もしないで直ぐにスミカの問いに返答できたのは、前にも間違えて件の物を自分自身に盛ったことがあり、じっくりとラベルを見たことがあるからである。
 その時は自分自身を慰めてなんとか終わらせることが出来た。恥ずかしいために、それを二人に教えることはなかったが。
 不意にスミカと少年の視線が交わる。
「……お前、何杯入れた?私は一杯だが」
「僕は…………三杯です」
 つまり最悪、彼の方は効き目が自分に対して三倍になっているとスミカは理解した。
 眼に不安気な色を滲ませながらスミカが(我慢できるか?)と問う視線を向けると、少年ははっきりと(無理です)と眼で答えた。
 聞いておいてだが、そうだろうなとスミカは予想出来ていたのは自分自身が既に限界に近いからである。
 ブラジャーを屹立している乳頭が押し上げていること、また話していた間にも既にショーツのクロッチの部分は不快さを感じる程に湿っており、溢れた汁が菊門を撫でながら通っていって、尻の下に敷かれる格好になっているスカートをも汚しているのが分かる。
 本心を言えば、勃起した陰核がショーツに擦れているだけで小波のように快感を与え続けているせいで、疼いている秘所に手を伸ばして、弄りたい衝動に駆られているのだ。
 先程媚薬について説明した際に”したくなる”と述べた彼女であったが、その通りに隠すことも出来ずに”したい”と思っているのを自覚している。
 そして、それは少年も同じである。
 劣情を表わすが如く、ズボンを突き破らんばかりに、勃起している男根が布に触れているだけで性感を感じており、僅かに動くだけで、今度は布に擦れて、それを増長させている。
 だが、それはむず痒いようなもどかしさばかりである。
 もし今すぐ、手で――いや腰を動かして布に少しの間、擦り合わせるだけでも果てることが出来そうだという実感があった。
 そして最も熱が燈っている場所だったから少年は気付かなかったが、彼の下着もスミカと同じく、性器から溢れ出た汁によって汚れている。
 再びスミカと少年の視線が交じり合った。
 しかし、どちらの眼も先程のような不安の色を含ませておらず、ただ湿り気を帯びる互いの性器のように潤んでいる。それを認識したからか、それとも薬の効能が最高潮に達したのか、惚けたように二人の顔面は弛緩し、本人達は閉めているつもりだが、だらしなく緩んでいる口許からは熱い吐息が漏れている。
 すると今まで上半身だけを動かして視線を重ね合わせていた二人が、テーブルに向けていた身体を向かい合わせた。テーブルの下に隠されていた互いの下半身が――どちらもわざと股を少しだけ開いて――晒される。
 テントを張るように突っ張っている肉棒がスミカを、くっきりとショーツに染みを拡げている蜜壷が少年を――誘う。
 二人が同時に生唾を飲み込むと、偶然にも男女の逢瀬の時を目撃してしまったように口許に手を当てて驚いているような、恥じ入っているような素振りを見せるエイを他所に、徐々に顔を近づけていく。
 半開きの口から漏れる熱の篭った吐息がお互いに掛かって火照っている頭に更に熱が燈り、濡れた瞳と口腔の中から垣間見える舌に艶かしさを感じていると、やがて唇同士が触れ合う。
「きゃ……」
 その瞬間、エイが手を当てている口から驚愕の声を漏らしたのに構うことなく、触れ合わさせるだけというような生易しいものではない、相手の唇の肉を自身の唇でむしゃぶるような接吻に少年とスミカは、脳髄が限界に達した熱で溶けてしまったような、頭蓋が浮いているような心地良い浮遊感に漂いながら、口先に広がる柔らかさと舌先に広がる唾液の甘さに酔いしれた。
「ふむン……ンン……ふぅ……」
「はぁう……ふ……んむ……」
 出所を別とする唾液同士が上下左右に絡み合う舌と唇の間で交じり合う音と、一人の口と、一体化した二人の口から漏れる荒い呼吸の中が鳴り響き、広めの室内を淫靡な空間に仕立て上げる。
 唇どころか、既に身体同士を密着させて擦り合わさせるようにしながら、時間が経つにつれ激しさを増していく淫らな接吻を、エイは身体を硬直させて眺めている。
 心地良さを噛み締めるように眼を瞑りながら、自身より更に年下の少年の首に絡みつくように両腕を回して、細い背中を撫で回すスミカの妖艶な様は、彼女と長い付き合いのエイでさえ想像も出来ないほどのものであった。
 椅子に座っている自身の太腿の上に持たれるように座っている彼女を受け容れるように、そして求めるようにスミカを抱き締めている少年の、その外見からは考えられないような様が目の前の淫らな光景を更に引き立てている。
 すると、不意にエイは接吻を続けるスミカと目が合って、緊張するように、どきりと鼓動が高鳴った。
 別に彼女を苦手としているわけでもなければ、昔からスミカに怒られることはよくあったとはいえ、普段は仲が良いと言えるので、眼が合うことなどしょっちゅうにも関わらず。
 だというのに、一瞬緊張したのは、そんな二人の関係を以ってしても、更に女性同士であるのに、彼女の眼光に性的な魅力を感じたからだろう。
 まるで意中の異性に見つめられているような感覚を覚えたことで、恥ずかしそうにエイが視線を逸らす。
 だから彼女には見えていなかった。確かにその瞬間、スミカの眼光が嗤ったように歪み、そして少年の背中を這っていた彼女の腕がするりと下がっていくのを。
 「え……?」
 奇妙な、それでいて聞き覚えのある音が、俯くように視線を下げていたエイの耳朶を打つ。
 ミッションを完了した後に常に聞く音。噛み合う鉄が徐々に外れていく音。言葉で表わすならジーと云ったもので、彼女の場合はその音を耳にした時、身体が窮屈さと蒸し暑さから解放され、皮膚が冷房で冷やされる涼しさを感じる。フラッシュバックするように、記憶がその感覚を、そして手元に握られる摘みの感触を身体に思い出させ、エイは音の正体に気付いた。
 ファスナーを開ける音であると。
 そして、この状況でその音が鳴る理由は幾つか挙げられるが、どちらにせよ、それの出所を確認するのに、すべきことは一つだった。
 俯いていた顔を上げて、恐る恐るテーブルに向かって――そして気持ち左に向かって――身体を僅かに傾けて、円形の淵の先を覗き込む。
「あ……!」
 エイの視界に飛び込んで来たのは、少年のズボンの股の部分からはみ出して、先端がぬらぬらと輝いている棒状の肉の器官と、それを握り締めて緩やかに扱いているスミカの手であった。
 初めて照明の下で、しかも昼間に男性の性器を見ることも――そのサイズやグロテスクさが、やはり少年の外見からは想像できないということもあるだろう――また明らかに手馴れた滑らかな手付きでそれに刺激を加えている手の動き。
 今、彼女の眼に映るもの全てが衝撃的であった。
 そして、接吻もそうなのだが、何の示し合わせもすることなく、それを行なえる二人の関係にも。
「んーっ、んーっ!」
 突然苦悶の声が上がったのでエイが視線を上げると、目蓋をぎゅっと瞑った少年の横顔があった。
 耐えるようにも、また陶酔しているようにも見える表情の基となっているのは考えるまでもなく、皮には血管が浮き出ていて、先端部が赤黒く充血している陰茎であろう。
 二人の口腔から聞こえる篭った粘音が大きくなったことから、彼が口中で相当に激しく舌が絡み合わせているらしい。経験が多いとは言えないエイの眼から見ても、少年は限界が近く、其方に気を回そうとしていることが理由なのだと分かった。
 するとスミカの手がぴたりと止まる。
 エイは薬の効果もあって、過度な快感に耐えかねている少年のことをスミカが気遣ったからだと思ったが――その予想は全くの的外れだった。
 彼女は座っていた太腿の上から膝先の方まで尻の位置をずらし、掴んでいる手の握りを持ち替えて、掌を下にするようにすると自然にペニスが地面に対して平行に――握っている本人に対して垂直になった。
 それを眺めていたエイがあっと思った時には、僅かに少年の太腿の上を滑っていったスミカの――自身同様に愛液で濡れているのだろうと予測出来る――ショーツの股布の部分に、まるで飢えて涎を垂らすが如く、太腿の間から腺液を垂らしている肉棒の先端と触れ合った。
「んはぁっ!ンっ ンっ ンっ ふぅンっ!」
 口許を唾液塗れにしている顔の間で舌を絡ませている二人の内のどちらのものなのかは判別出来ないが、黒の薄布越しに性器同士が触れ合った瞬間から、それ以降も高らかに嬌声が漏れ始める。
 少年が痛々しそうに張り詰めている陰茎を、湿り気を帯びているせいでショーツが張り付いてラビアの形がはっきりと見えている秘所を押し込む度に、それぞれが滲ませている淫液が交じり合う音が立つ。そしてスミカが確りと握っている手でそれをシュッシュッと音が聞こえそうな程に必死に扱いている。
 二人の身体が時折、ぴくぴくと跳ねているのはスミカの親指が雁首の出っ張りの最も高い部分を擦り、そして亀頭の上を滑っていって、彼女自身の陰核に触れているためだろう。
 薄布が間にあるだけで殆ど結合し、抽迭しているのと変わらない二人は、何時の間にかに閉じていた目蓋を開けており、蕩け切った眼で見詰め合っている。
 扇情的と呼ぶには十二分な様子に中てられからだろうか、エイは口許に当てられたり、胸の前で握られたりと、落ち着き場所を探しあぐねていた手を我知らず、それぞれ自身の胸と股間に伸ばしていた。
「はぁ……あぅ……!」
 気付いた時には、左手が左の既に硬く屹立している乳頭をブラジャー越しに撫でて、右手の爪でショーツとストッキングの上から勃起した陰核を引っ掻いて、嬌声を漏らす。
 人前で自慰をすることに羞恥を感じない訳も無かったが、心中で、自分という第三者を他所に性交一歩手前の行為に励んでいる二人に比べればどうってことはない、という風な言い訳めいた理論によって、他でもない自身を納得させている。
 吹っ切れたように腰を浮かしてストッキングを太腿まで下げ、続いてシャツを引っ張り上げて裾をスカートから引き抜くと、シャツの中に手を差し入れてブラジャーを乱暴に乳房の下まで引いて、直に乳首を捻るように摘み上げる。
「ふ……ふぁ……」
 更に控えめに開かれていた股を大きく開くと、絞れそうな程に水気を含んでいるショーツのクロッチをずらした。
 ショーツに沁み込んでいた愛液のせいで、陰唇どころか、包皮が剥け掛かっている陰核までもが濡れているエイの秘所があられもなく晒される。布の中で蒸していたこともあり、外気に触れると心地良い涼しさが走り、「ン……」と小さく喉が鳴って、ぶるりと身体が震えた。
 エイは荒く息を吐きながら、ショーツをずらした右手の中指に力を込める。
 緊張か、若しくは期待で震えるそれを、充血して物欲しそうに開かれている陰唇の間に近づけていき――
「ンンっ……あっ、あっ! やぁぁっ!」
 肉襞がうねる膣内に差し込むと、幾ら自身の身体とはいえ、それを鑑みても乱暴に思える程の激しさで指を抜き差しし、蜜壷の天井を抉る。長さが物足りないと言いたげに根元まで指を差し込み、より深い場所に向けて、手を押し込む様は彼女が淫欲に溺れていることを如実に示すのだった。
「ふう……っ! ンンー……っ!」
 するとエイが自身の膣を弄り出した頃を境に、スミカと少年の身体の前後の揺れがより一層激しくなった。
 連なるように高くなる愛液と腺液が交じり合う音に、その混合物が付着している手による手淫の音が加わり、一節の終わりを示唆している。
 エイは股の間と服の中に手を突っ込んだまま、前屈みになりながら椅子の座面から僅かに腰を浮かした中腰の姿勢になり、その光景を肴に更に自慰の快感に耽っていく。始めたばかりとはいえ、二人同様に薬で身体が昂っている彼女もまた、限界は近い。
 三つの淫音。
 二人分の腰遣いで椅子が揺れる音。
 くぐもった嬌声交じりの呼吸音。
 それらが絡み合い、入り混じる中、最初に異なる動きを見せたのは少年であった。
「ンンーーっ!」
 一際大きく椅子がガタンと揺れる音を立てながら全身をスミカに向かって進ませると、押し付けている彼女の秘所に触れながら、律動する度に白濁を吐き出す――または白濁を吐き出す度に律動する肉棒を――その度にぐっぐっと押し付けていき、ショーツの布地が吸いきれぬ程の精液が溢れ出して亀頭を汚す。
「っ! ンっ! ンンンン……っ!」
 その射精の脈動を一身で受け止めるスミカはそれによって絶頂を迎え、布越しに陰茎で開かれた秘所の奥から、精液と腺液を、そして自身の愛液が滴るショーツに向かって更に噴出する透明の――それでも牝の芳香が香る――液体で押し込まれている亀頭を洗っていく。
 二人はほぼ同時に訪れた絶頂によって縋るように身体を密着させ、互いに性器から液体を吐く度に身体も脈動させる。
 スミカの手はおそらく無意識だろうが、陰茎を握っている手を蠢かし、更に少年の射精を促すと、それによる律動が彼女にも快感となって返っていくのだった。
「はあっ! はあっ! はぁぁぁ……っ!」
 それを見届けていたエイも――何時の間にかに二本にしていた――挿れている指を、膣肉の特に敏感な所を集中的に掻くように小刻みに抽迭し、そして止め処なく溢れて指を濡らしながら伝っていく液をストッキングや地面に垂らしていく。
 連続的に愛液を攪拌する音を立てて、全開に開いた口からまるで断末魔のような快楽の声を上げ――果てた。
 手を締め上げるように股をぎゅうっと締めているのは全身に性感の電流が奔っている証左であり、自身の身体を制御できないことも示していた。
 絶頂の疲労で座り込みたい筈なのに、中腰のままでいるのも、それによるもので波が過ぎるのを待っているのだ。
 そしてそれはエイだけではなく、少年とスミカも同様であった。
 三人は絶頂を迎えたままの姿で、まるで彫刻のように――時折、余波で身体を震わせ、荒く呼吸をしているが――暫くの間、静止し続けるのであった――。

「……エイ、いいか?」
「……え? あっ、なん、ですか?スミカさん」
 静止していた時間を緩やかに破ったのはスミカであった。
 自分を力強く抱き締めている少年の腕に手を掛けて衣服を脱ぐように優しく取り払い、自身の唾液塗れになっている彼の口元から顔を離し、余韻のせいで、そこまで気が回っていないらしい、秘所が晒されている股を大っぴらに開いて椅子の背もたれに背中を預けるエイに声を掛けた。
 眼を覚ましたばかりのような虚ろな眼でスミカを見た彼女は、急いで太腿を閉めつつ、その上に腕を被せて股間を隠すと上擦った声で応える。
「ああ、少し……」
 股間が粘液の糸を引きながら少年の膝から降りてエイの基に寄ろうとしたスミカであったが、そこで言葉を切らせた。
 というのも、円形のテーブルに手を掛けながら、その淵に添って数歩歩いた瞬間、引き止められるように空いている腕を握られてしまったからである。誰がそうしているかは考えるまでもなく、どうしたのだろうかと振り返ろうとする間、すっと腕が持ち上げられて、指先に熱と湿気が広がっていくのを彼女は感じる。
 「スミカさん、どこ行くんですか……?」
 迷子のように不安気な色を滲ませ、縋るような視線を送る少年が、やはり縋るようにスミカの腕を右手で握っている。
 但し普通の迷子と違うのは、引き寄せている彼女の腕の手を自身のペニスに触れさせて、更にその上から自身の左手で覆っていることだ。また、彼の眼にはそれだけでなく、劣情に駆られる光もあった。
 無理矢理に手で性器を握らされている状態のスミカであったが、それを叱責する素振りなど露ほども見せず、むしろ自分から射精直後にも関わらず、全く衰えていない粘液に塗れるそれを優しく数度揉むように握り返すと、少年に向かって――その場の雰囲気にはそぐわないような――優しさを感じる表情を浮かべた。
「ちょっと待ってろ。すぐ戻って、シてやるからな」
 今度はその場の雰囲気には似合っているが、表情とはそぐわない言葉を少年に掛ける。
 すると彼は先程の不安気な様子は何処へやら――それでも眼は快感に蕩けている――ぱぁっと明るい表情になり、その期待を表わすようにスミカの掌の中で、肉棒が嬉しそうに跳ねた。
「それと、戻ってくるまでオナニーしてていいぞ……でも出すのは我慢しろよ?」
 柔らかな表情のままスミカがそう言うと、少年は嬉しそうにこくりと頷く。
 そして彼女はその素直な反応に対する褒美とばかりに、そして言葉を反復するように陰茎を上から包んでいた手を側面に沿わせて、数度扱いた。掌が液に塗れているせいで皮と雁首が触れ合って、にちゅりと粘ついた音が上がり、子供らしかった少年の表情が、途端に快感に惚けるものに変わる。
 言葉と最後の手淫を頭を撫でるなどに代えれば、まるで親が子供に言い聞かせている普通の光景のようだと、エイには思えた。
 しかし、スミカが唇に短く口付けを落として、エイの方に向かい出した背後で少年はベルトのバックルと留め金がカチャカチャと触れ合う音を立て始めた。やがて前面だけベルトを外して、ファスナーを全開にすると、勃起しているペニスが下がる布に巻き込まれていくのを構うことなく腰を上げて、トランクスごとズボンを脱ぎ去った。
 その時、マジックテープが剥れるような音がエイには聞こえたが、それの出所が不明で訝しく思っていると、更に不可思議なものが彼女の眼に映った。
「え……?」
 少年の臀部の辺りから何処から現れたのか、白いファーのような物があったのだ。
 エイは見るのは初めてであるが、それは彼の尻尾である。
 しかし、初見にも関わらず、そして在り得ないという念を抱きつつも、彼女は直感的に尻尾だと判別した。その理由は、スミカを視線で追いながら、何を想像しているのか、自慰をしている彼の蕩けた表情――喜んでいるということ――に呼応するように、左右に振られているのが、犬のそれと重なったからだろう。
「気にするな、アイツには何故か付いているんだ」
 自分が驚愕しているのを他所に自身のモノを扱いている彼を見ているエイは、スミカが傍まで近づいてきたことに気付かず、声を掛けられて、怯えたように身体を震わす。
 さらり教えられた事を噛み締めようとするエイであったが、スミカにそっと耳元に顔を寄せられて、ある”頼み事”をされて、其方に気が回った。何故、”そんな物”が必要なのかと疑問を抱いていると、その心情を察したのだろう、スミカが小声で――少年に聞こえないぐらいの声量で――言葉を続ける。
 その理由を聞かされて、エイは(なるほど)と納得し、”それら”が置いてある部屋にスミカを案内すべく腰を上げた。しかし、ストッキングが下がったままで歩き難かったので、立ち上がった拍子に直した――だが、どうせこの後も二人が交わるのを見る事になるのだから、いっそ脱いでしまえばよかったかなと思った。またそれとは関係無しに、ある失敗をしてしまったので、もう一度ストッキングを下げたい気分であった。
 しかし、スミカを前にして、上げた直後にまた下げるのもどうかと思ったので、結局そのまま、彼女と一緒に奥の部屋まで歩いていった。
 獣のような息遣いを背中に受けながら。
 少年は歩いていく二人を見て、卑猥な想像で――現実ではあるが、丁度死角の場所で起こっている――頭の中を埋めていた。
 先ず、スミカのショーツは自分の精液を多量に含んでいること。
 また先程彼はスミカとの行為に励んでいたとはいえ、エイが自慰に耽っていたことは流石に気付いていた。それで彼女はストッキングをたった今直したのだが、膣に指を差し込むためにずらしたショーツを直していない――つまり、ストッキングに覆われているとはいえ、薄い布の下で、エイの秘所が晒されていること。
 視界の先で歩いている二人の女性が恥部に性的な装飾が施されていると考えると、上下する手の動きに熱が入っていくようであった。
 
 それから十分経つか、経たないかぐらいの時間で二人は奥の部屋から、戻ってきた。
 そして、手に小さめのダンボールを持っているエイと、ティッシュの箱を持っているスミカが扉を開けて、最初に見たのは、
「あ……だめ……で、ちゃう……でちゃう……あっ あっ あっ……あ……あぁ……っ」
 椅子に座って、うわ言のように呟きながら、手で屹立させるように扱いているペニスから、さながら噴水のように精液を噴出している少年の姿であった。
 射出された白濁は急な弧を描いて、彼の手や太腿、脚、そして床にも落ちていき、室内に青臭い臭いを充満させている。射精を抑えようと――殆ど口振りだけであるが――していたのは、スミカに言いつけられた事を守ろうと、またそれを受け止める物が無いためだったのだろうが、昂っている身体に奔る性感を止めることが出来なかったのだろう。
「あ……あの……ごめん、なさい……」
 背もたれに預けるように仰け反っていた少年が蕩けた表情を浮かべて、涎を口許から垂らしながら肩を揺らしていると、遅ればせながらにスミカ達に気付いたらしく視線を送る。そして、今にも泣きそうな顔になると、謝罪した。
 呆然と自慰による射精を見届けたエイは、それがスミカだけに発せられた物だと思ったが、すぐに自分も対象であると察した。部屋の床を汚したことへの。
 すると、当惑するエイを他所にスミカは少年に向かって微塵の驚愕も見られぬ足取りで歩を進める。叱られると思っているのだろうか、彼は怯えているような素振りを見せている。
 汚さないようにしていたのか、テーブルから一歩退くように少し椅子の位置をずらしている少年の傍に行くと、すっと屈んだ。
 エイからは彼女の背中しか見えないが、その瞬間にティッシュを数枚引き抜く音がしたので、床に撒き散らされた液体を拭き取っているのだろう。申し訳無さそうな顔で、少年がそれを手伝おうとして、身体を立ち上がらせ掛けたが、スミカは「座ってろ」と短く言って、其れを制する。
 それを見てエイはこれを――つまり、少年が自慰で堪え切れずに果ててしまうことを、予想していたのだと分かった。
 黙々と床を掃除するスミカをエイと少年が静かに見守っていると、その沈黙をスミカ自身が破る。
「……何回イった?」
「え……その……」
「正直に言え」
 詰問するような口調の強さに少年が言い淀んだが、更に詰められて、更にしゅんとした様子で小さく答えた。
「……二回です」
 その答えに対して、スミカが如何様な反応をするのか、緊張するように――或いは期待を込めて――エイがダンボールを持って立ったまま事の成り行きを見守っている。
 暫く反応は無かったが、やがて床を拭き終えたのだろう、スミカが立ち上がり、伺うように見上げる少年を見下ろすと、手を持ち上げていき――その動きとスミカの顔を交互に見返す――彼の頬にそっと重ねて前屈みになると、
「よく我慢したな、偉いぞ」
 実際は回数など、何回だろうと、どうでもよかったのだろう。不安にさせておいて、掌を返すように安心させることが目的だったのだ。
 口許から顎に掛けて軌跡を刻んでいる唾液の線を顎の方から舐め取っていき、終着点の唇に部屋から出る前と同じように短い口付けを落とした。
 遮られていたスミカの後頭部が離れるとエイの眼に、その間、添えられていた手で頬を撫でられていたからか、心底嬉しそうな、そして甘えるような顔で見上げる少年の顔と、それを体現するようにふるふると左右に振られている尻尾が映る。
「あぁ、脚も汚れていたんだっけな」
 頬の次に頭を撫でていたスミカは思い出したようにそう言うと、また少年の足元に屈んだ。
「……そこは、自分でやります」
 流石に自分の身体ぐらいは自分で後始末しようと思ったのだろう、彼が再び申し訳無さそうな顔になって、立ち上がろうとする。だが、スミカは冷艶な――エイから、表情までは伺えなかったが、そう感じた――表情を浮かべると、喜悦を含んだ声を出す。
「”自分で”? ……出来るのか?」
 喜悦以外にも何かを含めたその言葉を聞いて少年は、え?と言葉にも、そして顔にも聞き返すものを出した瞬間、
「あ……!」
 すっと彼の脚が持ち上げられて、スミカは自身の頭をそれに寄せた。
 見ていたエイがまさかと思ったが、そのまさかで「ン……」と彼女が喉を鳴らすと、ストローで飲料を飲むような液体を啜る音が室内に響く。
 そう、少年が吐き出して脚に付着した体液を口で吸い取っているのだ。
 あまりに破廉恥と思える行為にエイが絶句する。
 しかし、彼女からはそれがよく見えないからか、確信しているのにも関わらず、本当にそんな事をしているのだろうかと疑いを持ち、自身の眼で確認しようと云う気になった。また、手に持っているダンボールをテーブルの上に置くためであると、自分に言い訳するように。
 ゆっくりと二人に向かってエイが進むと、その途端に少年が気持ち良さそうに眼を瞑って、
「うぁ……」
 という声を上げた。
 ”おそらく脚に何かされていて”快感を感じているのだろうと予想するエイは、尚も鳴っている啜りの音を聞きながら、その発生源であるスミカの背後を通って、その右側に行く。
 丁度、自分が座っていた椅子に掛け直すように。その途中、長い黒髪に背中まで覆われているスミカの背面しか見ていなかったのだが、ふとその上で少年が甘い嬌声を上げる度に跳ね上がっている肉棒が見え、今度は其方に意識が回っていく。
 やがて正にスミカの側面に到達したエイがテーブルにダンボールを置くと、鼓動の高鳴りを聞きながら、盗み見るように横目で斜め下を見遣り、
「……っ」
 息を呑んだ。
 予想していたどころか、確信していた光景に。
「はぁ……ン……」
 スミカは時に舌で舐め取りながら、時に窄めた口吻で吸い取りながら、点々と跡を残している精液を自身の口中に含めていた。
 足の甲、腿、膝と両脚のそれぞれの箇所を綺麗にしていくと、徐々に頭の位置が上がって行っている。
 そして膝周辺を終え、顔を上げて最も白濁で汚れている太腿を――そして既に三回も精を放っているのに、隆々と聳え立っている男根を――見た瞬間、彼女がその光景に見惚れるように小さく嘆息を漏らして嬉しそうな表情になったのを、エイは見逃さなかった。
「ほら、脚を広げろ……そう、いい子だ……」
 菓子で出来た家を見つけて喜ぶ兄妹の童話というのがあるが、今のスミカの顔は正にその瞬間の妹の方のものだろうとエイはふと思った。
 自慰をしていたこともあり、椅子に腰掛けていた少年が両脚を広げると、彼女は彼の下半身の何処までも顔を届かせることが出来る状態である。汗の香り、そして――菓子の家を装飾するホイップクリームの代わりに――牡の肉欲の権化の芳香が香る、白いきめ細やかな滑らかな肌に覆われる細い太腿にスミカが顔を埋める。
「ンン……ン……は……はぁ……」
「あ……あぅ……」
 まるで猫が水を飲むように、スミカがぺちゃぺちゃと音を立てながら――それでも水滴とはとても呼べぬ、凝り固まったジェル状の――精液を舌で絡め取り、そして太腿を撫で回していくと、少年はか細く喘ぐ。
 エイは既に視線の類を、盗み見から凝視へと変えており、舐める傍らに鼻を動かしているスミカと同じ牡の芳香を嗅ぎながら、立ち尽くしている。
 舌先に広がる味に、口腔と鼻腔に広がる香りに、喉の中を撫でられる感触を甘受しながら、自身の唾液に塗れる少年の太腿に頭を預け、次は自分の番と太腿の上で舐め取られるのを待つ体液を見つめ、時折昂奮で反り返っている陰茎を、更に其れ越しに善がっている顔を見上げるスミカの眼光に、少年もエイも背筋がぞくりとするような妖艶さを感じた。
 唾液に塗れた太腿が、照明に照らされて鈍い光を放っている。
 既に彼の下半身の汚れは全くと言って良い程にエイからは確認出来なくなった。しかし時間にして五分少々である。
 幾ら用いたのが舌だけとはいえ、広い訳でもない、”舐める”だけならもっと短く済んだろうに。やはり彼女は楽しんでいたのだろう、それにエイは舌の根が痛くないのか、だとか、疲れてないのか、とか思った。
 だがそれにNOと答えると予想、いや確信出来たのは、最後に汚れが残った――残していた――場所を見つめたスミカが
 ――ふふ
 儚げながらも確かに、そして妖しげに笑ったのが、聞こえたからだ。
 スミカは膝立ちで一歩進むと、耳に掛かっている髪を掻き揚げながら少年の股間に顔を寄せていく。
 頬が紅潮し、愉悦を滲ませるように半開きの口許の口角が上がっている。
 爛々と輝く彼女の眼が視線を注いでいるペニスは、竿の上に線を引いて下にある陰嚢までをも汚している白濁だけではなく、先程までの舌による殆ど愛撫と云っていい掃除で性感を存分に感じていたらしく、先端から透明の腺液を垂らしている。
 粘性があるため、上を向いているために、体外に排出されても鈴口で堪っている珠を、スミカが口付けするように口吻を触れさせて、ちゅると音を立てて吸い取った。
「ぁン……」
 少年が喉を鳴らすのと同時に、触れられた肉棒も僅かに跳ね上がって、彼女の唇を摩る。
 まるで元気な子供を見守るように親のように、それを見守ったスミカは、座面に顎を付ける程に下げていくと、彼の陰嚢に舌を這わした。
「あ……!」
 端整な顔立ちが歪んで感じていると分かった途端、エイは下腹部に再び熱が篭っていき、奥底が疼き出したのを知覚していた。
 鼻先のモノを嗅ぎつつ、少年を上目遣いで見遣り、柔らかな袋を嘗め回して白濁を拭き終えたスミカは、顎をくいと上げると、見せ付けるように舌先だけを蛇の如く舌をチロチロと蠢かして、竿を刺激していく。
 それを見せ付けられている少年は散発的に甘ったるい嬌声を漏らして身体を震えさせ、エイは知識だけはあったが自分で行なったことの無い行為に羞恥で顔を赤らめつつも、彼女が幸福そうな顔をしている事に羨望を感じ、問い掛けるように心の中で呟いた。
(おいしい、のかな……)
 普段ならそんなことを考えれば、一人でも顔を恥じ入るのだろうが、今の彼女には其れが当然のように思えるのだった。
 意識して半開きになっていた唇を更に僅かに開くと、口内で舌を下から上に舐め上げるように、ゆっくりと動かす。下唇と上唇の裏側に舌先が触れた瞬間、小さな嘆息が漏れて、疼きが更に強くなった。
 すると偶然にもエイが口淫の真似事をした直後、スミカはそれに倣ったように陰茎の裏筋を大きくなぞり上げると、唾液と交じって薄くなった白濁が舌先に絡め取られ、積み上げられていく。
 先端に溜まったものを落とさないためだろう。
 舌が上がり切る瞬間、唾液の微小な水飛沫を上げながら勢い良く掬い上げて、捕らえた精子と一緒に口中に含められると、粘性の液体の混合物はスミカの唇の間と、性器の間で照明に反射する銀色に輝く糸を紡いだ。
「ふぅ……ン……はぁ……はぁ……はぁ……」
 荒い息遣いをしながら、力無く腕を垂れ下げ、背もたれに身体を預けて紅潮した顔で奉仕者の一挙一動を見守る少年。熱い吐息を掛けられながら、男根は塗りたくられた唾液で滑り気を帯びており、スミカとエイはそれに熱の篭った眼で視線を注いでいる。
 息を整えるようにスミカがふぅと吹くと――それに擽られた男根は落ち着くどころか、逆に跳ね上がった――顔を上げて、見下げる少年と自ずから眼を合わせ、背筋を伸ばすとペニスの真上から顔を寄せていき、今にも腺液が零れ落ちそうになっていて、尚且つ唾液で濡れていない亀頭に自身の唇を割り込ませるように、口腔に咥え込んだ。間に引かれていた糸が戻っていった。
「ふぁぁ……!」
 腹の奥から染み出たような嬌声を漏らして少年が仰け反る。
 とはいえ、見守るエイの予想とは違って、腰を動かしたり、自身のモノを含んでいるスミカの頭を押さえつけたりということはせず、性感を享受しているだけである。またスミカの方も、雁首から上を咥えているだけで下っていこうとする気配も感じられない、静かな口淫である。
 しかし、それはあくまで見た目だけなのだとエイは考えた。何故ならば――
「あっ あぁっ! スミカさん、すご、い……」
 実際は大した動きがあるわけでもないのに少年の身体と陰茎はひくひくと震えており、スミカの唇はもごもごと蠢き、押し上げられているように口許の肉が盛り上がる。何より篭ってはいるが水音が鳴っている。
 スミカは口内で亀頭や雁首の辺りを丁寧に嘗め回しているのだ。
 エイは――はっきりとは分からないが――おそらく男性の性器の中でも特に敏感であろう場所”だけ”を刺激されるのはどういう気分なのだろうと、女のように嬌声を上げながら、時折感想を述べる少年の顔を見ながら思った。自分に置き換えるなら、陰核を摘まれているようなものだろうかとも予想してみる。
 
 そして次に意識をスミカに移した。
 有り体に言えば、性器を口に含めているだけなのだが、どれ程昂奮しているのか、と。
 先の舐めているだけで相当のように見えたが、今は更に昂っていて、下半身を如何ともし難い疼きが奔っているに違いないとエイは確信する。
 何故なら、スミカは少年のモノを咥えたまま、秘所を弄りたいと言わんばかりに内股を擦り合せているのだ――そう、エイと同じように。
「あ……あン……」
 但し、エイは口淫を優先しているスミカよりも激しい。
 ストッキングの上から愛液に塗れている秘唇と、先程一瞬だけ気を回した陰核を揃えた人差し指と中指でしきりに擦っている。指と繊維の網目による攪拌のためか、愛液はやや泡立ちを見せており、それが更に性感帯の滑りを増長させていく。
「ひゃうぅっ! あっ! やぁ……っ」
 一際声が大きくなったのは、網目に包皮が引っ掛かって剥けて、充血した陰核が剥き出しになったからだ。少年が咥えられている亀頭と同じように。更に指による刺激に加えて繊維に細かに擦られることで、性感が強くなっていく。
 再び、エイが二人の痴態を肴に自慰を本格的にさせていくと、
「あっ!スミカ、さんっ! それ……だめ……だめっ!」
 不意に少年の嬌声が強くなった。
 なにがだめなのか。細部にまでは気が回ってなかったエイが、尚も指を動かしながら――シャツの上から乳頭を摘むのを加えて――口とペニスの結合部の方に視線を送ると、スミカの頬が少し窄められており、また耳を澄ますと控えめに啜る音も聞こえてきた。亀頭を嘗め回しながら、吸引しているのだろう。
 同時に襲って来る二つの刺激に耐えかねるように、少年が手を握る開くを繰り返すなどして悶えながら途切れ途切れに喘ぎ声を漏らす。
 そして、更に追い詰めるようにスミカが下品と思える程に吸引の音を強くした瞬間、
「でるっ! ああっ! あっ……あっ……!」
「むぐ……ンン……んく……ン……ン……ンっ」
 椅子の上で背で弧を描きながら仰け反り、少年は腰を押し込むとスミカが一瞬、苦悶の声を上げた。
 直後、その音が漏れた唇の合間に挟まっている肉棒が律動すると、その度に彼の身体も震え、またスミカは喉奥に向かって吐き出されていく白濁を嚥下していく。喉元が動く度に、鳴る音は苦しそうには全く聞こえず、むしろ甘いものであった。
「はぁ……はぁ……はぁ……ぁンっ!」
 仰け反ったままで身体を硬直させていた少年が座面に尻を落とすと、その拍子に――唾液に塗れた唇に挟まれていたせいだろう――ちゅぽんと音を立てて、スミカの口から――射精直後だが、膨漲している陰茎が離れていった。しかし、彼が嬌声を上げたのは其れが理由ではなく、直後にスミカが追うように、また咥え直したからだ。
 だが、まだ口淫を続けるというわけではなく、尿道に残った精液と吸い取るために一瞬強く啜ると、今度は僅かに汚れたらしい亀頭を綺麗にするように控えめに舌を這わしていると、少年がスミカの頭に手を当てて優しく撫でる。
 すると普段は毅然としていて、彼よりも立場が強い筈のスミカは撫でられた瞬間、甘えるように眼を瞑る。また、口を離した後も少しの時間撫でられていたのだが、彼女は陶酔した眼で少年を見上げていた。
 それに驚愕したエイは指を止めていた。暫くして我に返った時に、触れている感触で性感が奔り、自慰を再開しようとしたのだが、自身を見たスミカの眼光に射止められて――咎めるような色を持っていると感じたからか――それを止めた。
「エイ」
「は、はい」
「”アレ”、出してくれ」
 そう言われてエイは、テーブルに置いていたダンボールの箱を開けて、中の物を――指先に愛液が付着していることに気付き、ぢょうがなく自分のスカートで拭ってから、取り出した。
 それは少年が首に着けているチョーカーと似ている革製の黒いベルトであった。ただ異なる点として、二つで一組で、二つは鎖で繋がれており、ベルトの厚さと相俟って重圧感を感じる。
 椅子に座って不安げな眼で其れを見ているのは、どういう物か分かっているからだろう。
 腕同士を縛るための所謂、SMプレイ用の拘束具であると。
「私が着けるから、お前は抑えてろ」
「ス、スミカさん?エイさん?」
 少年が二人に呼び掛けた時には既にエイに肩を押さえ込まれていて逃れようがない状態であった。縋るような眼でスミカに視線を送るも、ベルトをバックルから外しており、腕に巻き付ける準備をしていると云った様子だ。
 そして、少年の傍に寄ったスミカがベルトを伸ばして、腕に添えると――
「……え?」
 エイが頓狂な声を上げた。
 少年の、ではなく自分の左腕の手首にベルトが巻かれていたからだ。
 更にスミカは聞き返す間も与えず、バックルにベルトを通してがっちりと固定すると、呆気に取られているエイの右肩を掴んで背中を向けさせると、残った方も暴れられない内に手早く固定し、後ろ手で彼女の両腕を拘束した。
「スミカさん?! これは……きゃあっ!」
 これには当然の如く、エイは抗議の声を上げようとするが、背後から膝に脚を差し込まれて体勢が崩れた所を、側面に向かって力を入れられ、床に放られてしまった。腕が拘束されているために受身も取れず、身体を床に預ける格好になる。
 しかし、スミカはもう一人呆気に取られている少年をも無視して、拘束具が入っていたダンボールをテーブルの上で引き寄せると、中を漁り出した。
「えーと……流石、テレジアだな。”こっちの方”もあったか。おい、エイを抑えてろ」
 更に何かを取り出しながら、スミカは少年に命令を下す。呆然としていた彼であるが、言われた通りに床で身体を投げ出しているエイに近寄るが――躊躇するように、立ち止まった。こちらも至極当然の反応だろう。そうしてスミカを見遣る。
 すると彼女はエイの腕に着けられているものよりも一際大きなベルトを二組と、それとは別に細めの物を――こちらも二組――持ちながら、少年の耳元に口を寄せて何事か囁いた。心配そうな表情を浮かべている彼であったが、徐々に なるほど、と云った風なものに変えて行く。
「二人共、どういうつもりなんですか!……や、待っ……!」
 そんな光景に不安、それと恐怖も感じたエイが毅然とした様子で声を上げたが、右脚を少年に抱えられ、即座に太腿にベルトを着けられた。
 次に何処にするかは分かっていたので、膝から下をぶんぶんと振るが、
「……っと。ほれ、パス」
「了解」
 スミカに掴まれて下げられ、そのまま少年に手渡される。そして片方を脹脛にも回されて、右脚が膝を曲げた状態で固定された。
 その後も抵抗と抗議を続けるも二人掛りではどうすることも出来ず、左脚も同じようにされ、更にもう一組持っていたベルトで腕と脚の拘束具を繋げられてしまった。
 こうなると自然にエイの脚は後ろ手になっている両腕に引っ張られる事になるので、
「やめ……!外して、外して下さい……!」
 まるで太腿を自分で抱えながら股を大きく開く格好になる。
 隠すべき下半身が無理矢理に晒されている上に、ショーツはずらしたままなので恥部すら見せてしまっている。そんな辱めを受けられているような状態にこれ以上無いくらい羞恥を感じて、殆ど涙声で拘束を解くのをせがむ。
「さて、完了だな」
「そうですね、じゃあ……」
 それを聞いてエイが怯えたように、ではなく真実、恐怖に慄いて身体を震わせた。
 ――犯される。
 そう思ったからである。
 見下げている二人がすくっと立ち上がった瞬間、恐怖で眼から涙が溢れ出した――、
「え……あれ……?」
 だが二人は――特に少年は――彼女から離れるように、テーブルの方に戻っていった。
 そう思っていると、些細な物音がし出した。しかし、縛られているエイはそれを確認出来ずにいると、少し経ってから、スミカだけが戻ってきて、
「……な、ちょ、ちょっと……ンンんー?!」
 顔を寄られ――突然にキスをされた。
「ンン……んく……ンン……」
 更に口中に何かを流されて、口腔に覚えのある砂糖の味と同時に、嗅ぎ覚えのある生臭い香りと初めて口腔に含んだ苦味が広がっていく。
 口に加えて鼻まで塞がれてしまっているせいで息が出来ず、咄嗟に流されたものを飲み込んでしまった。それが目的だったらしく、スミカが顔を離すと、エイは咳き込みながら呼吸をする。
「いったい、なんの……」
「さっきの薬だがな、溶ける際に水の量が少ないと効くまでの時間が早くなるそうだ。ラベルに書いてあった」
 ティーカップを手にしているスミカはエイの抗議を遮って、飄々とした様子でそう言った。
 聞かされ、あの媚薬を飲まされたのだと理解して青ざめたエイであるが、すぐにそちらからスミカの一連の行動の方に意識を回す。
「だから! これは何の真似なんです、スミカさん!」
「罰だ。お仕置きと言った方がいいか」
「罰……? お仕置き……?」
「お前のドジに私達は巻き込まれた上に、おまけに先日には暴走のせいで報酬は雀の涙。少しぐらい何かしてやらんと気が済まん。それにお前が言ったことだろう、”何でもするから許してくれ”と」
 空になったティーカップの取っ手に指を入れて、遊ぶようにくるくると回しているスミカは、無表情で言い切った。
「それとこれに何の関係が……」
 どこか恐ろしげな様子に怯むながらも抗弁と続けるエイであったが、スミカは無表情であったのを冷艶な笑みに変えた。
「繰り返すがお前のドジによって飲まされた薬のせいで私達は昂っている――自分は違うとは言わせんぞ?先程、一人でお楽しみだったものな?今も弄りたいのか、ん?……まぁ、それはいい。直ぐに分かる。それでだ、私達は今からそれを積極的に解消しようと思う。つまりはセックスするってことだ。勿論お前は縛ったまま。今、飲ませた分も含めて、都合二杯分の薬が効いてる間、オナニーをすることも出来ないってわけだな……どうだ、素晴らしいお仕置きだろう?」
 嗜虐的な笑みと嗜虐的な口調で罰の説明をし終えたと同時に、スミカは指で回していたティーカップを握った。これから自分がどうなるかを悟ったエイを見下ろしながら。
「それじゃあ……おっと、その前に」
 肩膝を突いて座っていたスミカは立ち上がって、少年の方に向かおうとしたが、思い出したようにエイの開かれている脚の間に入ると、手を伸ばしてストッキングの股間周辺に爪を引っ掛けて破り、穴を空けた。
「な、何するんですかっ!」
「ストッキングに擦り付けれないようにしたんだ。上の方も開けておくか」
 声を張り上げたエイに対して、さも当然と言わんばかりに返したスミカは、そのままシャツの方にも手を伸ばして、ボタンを一つずつ外していく。その間も拒否を示す声を上げるエイであったが、抵抗出来るわけもなく、あっさりと下着を晒された――のではなく、
「こっちもずらしてたのか。まぁ、お陰で手間が省けたが」
 既に下着は乳房の下に下げられていたので、胸部が晒された。
 縛られ、恥部を二箇所共、見せているという惨めな自身の状態を思い、エイは涙を流す。更に嗚咽も漏れそうになったのだが、
「あっ!やめっ……はぁンっ!」
 その代わりに嬌声が漏れた。
 突然にスミカに乳頭を摘まれ、ラビアの淵をなぞられたからである。更に二三度淵の上を往復した指の先端に、膣の浅い場所を掻き回され、堪えながらも喘ぐと、先程の憂鬱も何処かへ消えて行きそうであった。
 しかし、それも直ぐ終わりを向かえ、甘美な性感の余韻を残して指は離れていってしまった。
「私達は楽しませてもらうとしよう」
 そうスミカが言い残したのと共にして。
 丁度、エイの頭の直上にテーブルや椅子がある。但し、仰向けの体勢のままの彼女が其処を見るには、後頭部をフローリングの床に擦り付けるようにしつつ、眼球を白目を剥くようにして背一杯上に上げなければならない。そうまでしても眼に無理をさせているために、視界に映るものの細部は分からない。精々、判別出来るのは歩いていったスミカと少年が椅子の上で重なり合っていることと、彼らの声だけである。
 しかし、状況を把握するには、それだけで十分である。
 何せ、見えるのは上に座っている方が黒髪を振り乱して上下動している姿で、聞こえているのは男と女の甘い嬌声なのだから。
「ああっ やぁンっ!はぁっ!」
「ふぅっ ううっ!うぁぅっ!」
「いいっ……んだぞ? 我慢しないでも……」
「でも、でもぉ……! あっ! そんな、動いたらぁ……」
「ほら、イキそうなんだろ……? 出せ……」
「はい……っ あっ、あっ、あっ! でるっ でるっ!」
「はぁンっ! すご……いいっ……いいっ!」
「でるぅ……っ!ふぅっ ふぅぅ……」
「はぁ はぁあ……ぁぁ……っ あつ、い……あ……すごい……まだ、出てる……」
「スミカさん、僕……」
「ンンっ! 硬い……な……いいぞ、好きなだけ、しても……」
 朧げにとはいえ、眼の前で重なっている所を見せられ、更に果てたのだと分かる程の嬌声と会話を聞かされて、エイは秘所の奥から迸る疼きに耐え切れ無さそうに荒々しい息遣いをしながら、もぞもぞと腰を動かす。
 しかし、掻き毟りたいとさえ思っているのに、自身の身体の何処にも触れることは出来ず、ただ羨望と嘆願の眼差しを送るが二人はそんなことに気付く素振りすら見せず、同じ体勢で抽迭を始めているのだ。
 スミカが上げている普段の姿からは想像も出来ない甘く淫らな喘ぎを聞いて、エイは性感を感じていることに殆ど嫉妬に近い羨望を抱く。
 ――挿れて欲しい、などと高望みはしないから、指だけでも触れさせてほしい。
 心中に浅ましい想いを持っても、羞恥を感じて、また喉が渇き切っているせいで声にすることは出来ない。幾度か発しようと思ったが、消え入るようなか細い声は、高らかな二人の嬌声に容易く掻き消されるのだった。
「あっ イクっ イクっ!イクぅぅ……っ!」
「はぁ、はぁ……」
「……なぁ……こんなことするのはどうだ?」
「え?……もう、ほんと……エッチですね、スミカさんは」
「ふふっ。私の中にたくさん出しているお前には言われたくないぞ」
 もう何度目の節目なのだろうか。一度スミカと少年が同時に果てると、こそこそと耳元で囁き出した。
 勿論、遠くにいるエイには、内容が聞こえるわけもないが、口振りから察するに更に快感を強くすることを始める気なのだということは分かり、何をするのだろうと、ぼんやりと傍観する。既に性感を求める劣情で予想しようと思考する気力も無かったのだ。
 すると、二人は結合を解くように、先ず上になっているスミカから立ち上がった。
 何処かに移動する気なのだろうか、どちらにせよ自分には関係の無いことだと思うし、するなら遠くで自分の劣情を刺激しないで欲しいと思う。だがその傍らで、近くでするのを見せて欲しいような、エイの心境は相反する物が絡む複雑なものである。
 移動する気配を確実に見せていた二人であったが、
「あっ……」
 スミカが小さく嬌声を漏らすと、立ち止まった。
「どうしたんですか、スミカさん……あ……」
「すご、い……こんなに……」
 床と空気を伝わって、エイの耳に多量の水の塊が落ちるような――しかも粘性を持っている――音が聞こえて、二人が熱の篭った声で呟き合う。
 スミカは肩幅よりは狭く脚を開いている秘所の真下に手を差し伸ばしていて、少年はそれを見詰めているように見える。聞こえた会話の内容から、どうやら結合を解いたせいで、膣内に放出された精液が零れ出しているらしくスミカが垂れ落ちるそれを手で受け止めていると、少年がす、と彼女の股間に手を伸ばした。
「やっ……あっ あぁっ」
 やはりエイからはよく見えないが、少年は自身が吐き出したものをスミカの中から掻き出しているようだ。先程自分が自慰をしていた時のような、小刻みな攪拌音が聞こえる。
 立ったまま蜜壷の中を指で掻き回されて嬌声を上げるスミカは膝が曲がって今にも崩れ落ちそうであるが、空いている手で少年の肩を掴んで、なんとか姿勢を維持している。自身の股にあるその手は、尚も二つの液体の受け皿となっているのだろう。
「もう……っ ぜんぶ、でた……からぁ……だめっ だめぇ……はぁンっ!」
 やがて、中に残っていたものは全て出切ったらしいが、少年は指を止めず、スミカが必死な声色で止めるよう懇願しているが、肩を掴んでいた手で彼の身体を抱き寄せている。迫っている性感に耐えるように縋る、というよりは、逆に更に求めるようにして。彼も空いている手でスミカの身体を抱いている。
 そして、やや遠くにいるエイからも、ぽたぽたと水の粒が床に滴るような音が聞こえると、
「ンン……っ! ふぅ、ふぅ、はぁぁ……」
 スミカが少年の肩口に頭を埋めるようにして、くぐもりながらも、一際大きな喘ぎを上げて、幾度も身体を痙攣させた。
 果てたのを確認した少年が指を引き抜き――その拍子に指が膣壁だかを摩ったのだろう、スミカが小さく喉を鳴らす――愛液に塗れているであろうそれを、自身の肩口にある持ち主の口に近づけていった。突っ伏すようにしていたスミカであったが牝の芳香が漂ってきたことに気付いたのだろう、彼の指を見詰めると何の躊躇も見せずに、口淫をするように舐め出すと、愛液を味わおうと彼もそれに続く。一本の指を間に置いて、二人が舌先を絡め合う。
 愛液と唾液を堪能し終えたのだろう、二人が指から舌を――最後まで名残を惜しむように舌先を絡ませながら――離すのと同時にスミカの方からしがみ付くのを解いて、今度はずっと股間の下にあった手を自身の顔の前に掲げるように持ち上げると、少年の前で淫液の混合物に、猫が水を飲むように――舌を這わせていった。
 舌を遣いながらも、視線は少年に注がれており、おそらく媚を示す色を含んでいるのだろう。エイにその眼は見えずとも、雰囲気から察した。そして、自分の痴態を省みて酔いしれる陶酔した表情を浮かべているのだろうとも。
 劣情に駆り立てられながらも僅かな快感すら得ることの出来ない彼女には、それが酷く羨ましかった。
 流石に舌だけでは、舐め取るのに時間が掛かると思ったのだろう、最後には小さな白い水溜りに口吻を接させたスミカは啜って、口中に収めて――飲み難いらしく、顎を上げるようにして、喉に流し込み口腔を空にしてから、伺うように少年を見る。それを見守っていた彼の彼女の痴態には満足したらしく、応えるように肉棒を跳ねさせた――ずっと彼の眼だけに視線を送っていたスミカはそう感じたろうが、全景を見ていたエイは、ずっとそれがひくひくと震えていたのを見ていた。
 そして褒めるように少年はスミカの頬を撫でると、先程まで座っていた椅子の背もたれに手を伸ばす。
 そういえば、何処かに移動しようとしていたのだったと、エイが思い出す。すると背もたれを掴んだ少年は椅子を持ち上げて――スミカと共に彼女のほうに近寄って行く。怪訝そうな視線を送るエイを他所に、その直ぐ傍に椅子を置くと、その上に座った。
 先程まではっきりと見えなかった少年が伸ばせば手が届きそうな距離で――ほぼ真下に位置しているので、彼の股間で屹立しているものを――特に見上げる格好になる。
 スミカの中に収まっていたそれは、粘液で淫靡に輝いており、更に見上げている格好のために威圧感のような物を感じ、エイが生唾を飲み込むと秘所の奥から一際多く蜜が溢れたような気がするのだった。
 エイが蕩けた眼でそれに視線を注いでいると、視界の端からす、とスミカが現れた。
 愉悦を含んだ眼で見下ろして僅かな間だけ眼を合わせると、すぐに少年の上に跨って、エイの眼の前で自身の割れ目と肉棒を擦り合わせる。雁首が粘ついた音を立てて秘唇を割ると、桃色の膣肉を垣間見せた。
 エイは瞬間、後悔した。
 先程、近くで彼らの交わる所を見たいという願望を、たとえ僅かでもあっても、抱いた事に。
 そして、絶望に近い感情を抱く彼女を他所に、その今すぐ触れたい場所と同じ物が浮き上がると、剛直が狙いを定めたように――赤黒くなっている先端を――血管が浮き上がっている竿を――徐々に埋めていく。
 昂奮が頂点に達したエイが犬のように荒々しく喘ぐ中、少年とスミカの溜息のような嬌声が同時に発せられ――
「はぁぁぁン……」
「ふぅぅぅ……」
 股間の肉同士が密着するほどに深く、二人は繋がると同時にエイの蜜壷はとろりと塊のような愛液を溢れさせて、床の上に垂らすのだった。
「ふぅぁ……さっきより……おっきいぃ……」
「スミカさんのも、しめつけて……きます……っ」
 少年の身体に寄り添うように身体を預けるスミカがゆっくりと腰を浮かし――落としていく。
 エイの眼の前で、まるで陰茎が伸び縮みするように姿を現し、蜜壷の中に呑み込まれて行く。抽迭を滑らかにするため、秘唇の隙間から漏れる白濁の愛液が広げられて、膜のように竿の上を伝って流れて、褐色の包皮が白に覆われる。
 少年は動かず、ただスミカが腰を上下させている。それは自分に見せつけているのだろう、エイはそう考える。
 何故なら、彼女の腰遣いは先程までと比べると、ひどく遅く、ゆったりとしているからだ。細部の隅々まで見せる気で、事実見られていることを意識している二人はより昂っているらしく、惚けたように囁き合っている。
 そして、それは罰として、存分に効果を見せている。
 エイは結合部を食い入るように見詰めて、抜き挿しが反復する度に、秘所から更に液を溢れさせ、垂れた液が菊門を撫でるだけで身体がびくりと震えるが、それだけでは不足で、むしろ中途半端な性感は彼女の劣情を煽るだけに終わる。
「あぁっ……ごめんなさい、イキそう……です……イク、イクっ……!」
「ンンっ! は……ふぅ……」
 すると、薬の摂取量の違いに加えて見られている背徳感のせいだろう、実に呆気なく――少年がスミカの身体を抱き締めて絶頂を迎えた。
 不意の射精に彼女も僅かに仰け反ったが、至りはしなかったようで、ひしと胸に顔を埋めるようにして抱き付きながら身体を脈動させている少年の頭をあやすように撫でる。
 その間、エイは最初に彼の陰嚢が引き締まった直後、びくりとペニスが膨らみ、その後もホースを介してポンプが水を送るように竿が収縮を繰り返すのを見届けていた。そして予想と云うよりは、そうなるだろうという期待を抱いて、結合部の隙間から精液が染み出すように零れるのを待っていると、
「あぁぁっ!スミカ、さん……まって、まってぇ……!」
 突然に、スミカが腰を激しく上下させ始め、少年が射精したばかりで敏感になっている陰茎への過度な性感に苦しむ声を上げる。
「はンっ!ンンっ!はぁぁっ!」
 しかし、スミカは聞こえていないわけでもないだろうが、それを無視するように続行している。
 多量の水分に塗れている二人の性器の結合部は、激しく摩擦し合うことで、淫らな念音を高らかに奏で、室内の三人の聴覚を刺激していく。その抽迭の中ではエイが姿を現すのを期待していた、スミカの中に撃ち出された白濁も愛液と攪拌されて混じり合い区別が付かなくなった。
 柔らかな肉同士がその液体を伴ってぶつかり合うと、衝突によって弾かれた水気が飛沫となって舞い、下に居るエイの顔に点々と降り注いでいく。また顔面だけではなく、息苦しかったために大きく開けて呼吸していた口の中にも飛び込んで、口腔に牝と牡の味を、また奥の方で繋がっている鼻腔に到達して芳香を香らせると、
(すごい、かおり…………それにおいしい……)
 香りや味の善し悪しではなく、ただ自分を昂らせるか否かでエイはその液体を、そう評価した。
 それからも、エイの眼の前で二人は芳香を浴びせ、痴態を見せ付けるようにして、繋がり続けた。
「あっ! すごいっ! もっと、もっと、ついてぇ……っ!」
「うぅあっ!くううっ!」
 スミカが椅子の上でエイと同じように太腿を抱えて脚を開き、少年がその中心に向かって腰を遣う。
 正常位の体勢で、秘唇の間で男根が上下を繰り返し、中に溜まっている液体を雁首で掻き出していくと、やがて奥底に根元まで打ち込むと、二人の臀部や太腿の筋肉が引き締まる。
 射精を終えたペニスが引き抜かれると、型どったように、その太さのままで開ききった膣口が痙攣する度に、精液がどろりと流れ出す。
「やぁンっ! そこっ! そこ、いいっ! いいのぉっ! きもちいぃっ!」
「ぼくもっ! ぼくも、きもちいいですぅっ!」
 椅子の裏に回って、背もたれを掴んで支えにしてスミカが立ったまま尻を高く持ち上げ、その細い腰を掴んで少年が後ろから突き上げる。
 真っ直ぐに奥へと突き込んでいると、性感のために時折膝が崩れてしまうが、持ち上げるように突き上げる。雁首の段差も相俟って、その動きが膣壁を抉りながら、子宮口を押し込む。
 持ち上げる筈が、強烈な快感で更に腰が下がってしまい、更に膣が収縮すると、下がる、突き上げるという噛み合った体勢で、肉棒が律動を始め、搾るように膣肉がそれを撫でる。
 そのまま硬直していると、二つの白濁の混合液が秘唇の隙間を掻い潜り、ペニスを伝って、床にぼたりと無様な音と共に落ちて行く。
 そのように体位を変えたり、同じ状態で何度も行なったりを、繰り返す二人の嬌声と結合部で鳴る淫音、そしてエイのか細くも、荒い呼吸音が室内に木霊していく――。
「あっ、あっ、あっ、あっ、あっ! くるっ、くるっ! くるぅぅ……っ!」
「うぁぁっ! あぁぁぁ……あっ……あぁ……っ」
 最初のように椅子の上で座って――少年の上にスミカが跨っているのは変わらないが逆の向きの――体勢で二人が果てた。
 すると、絶頂の余波でスミカは音を立てる程の勢いで薄い液を噴出す。膣口の向きに沿って流れる筈のそれは、出口をペニスに塞がれているために、水道の蛇口が塞がれる様相を呈し、本来の機動から大きく外れながらも勢いを溜まったまま、彼女の前方へ、小刻みに噴出されていく。
 椅子に腰掛けている少年の上に座っているために、空中で弧を描いて床に落ちていく――だけではなく、床に寝そべって性交を間近で見届けているエイにも降り注ぐ。
 しかし、同性の、しかも性器から排出される愛液であるが、彼女は惚けたままの表情でそれを受け止める。むしろ多くが喉に飛び込んだことで、渇きが僅かに癒えた――それでも生殺しによる劣情は更に煽り立てられたが。
「はぁ……はぁ……あ? ……落ち着いてきた、気がする……」
 潮を吹き終えたスミカが少年の身体に背中を預けていると、そんなことを呟いた。どうやら、薬の効果が切れてきたらしい。
 しかし、エイが述べた三時間には到底至っていない。
 しかし彼女の説明に不足があったのだ。放っておいても効果は三時間程度で切れるが、効き目が――男女問わず性感に対して敏感になり、男性は精力が増大する――ある間にオルガスムスを迎えれば迎える程に徐々に効能時間が短くなっていく。つまり、例の薬は、性交を行なう内の一人だけに飲ませることで――勿論、騙して飲ませることも含む――あたかも相手を異常なまでに求めていると思わせることが本当の使い道なのだ。
 これはラベルの注意書きにも書いてある。相手だけに飲ませるようにと。
 というのも、仮に両者が飲んだとして同じ分量なら問題はないが、もし違いがあるなら、こうなってしまうからだ――。
「スミカさん、僕、まだぁ……」
「あっ……ちょっと……やぁ……」
 昂りも消え、激しい性交を行なったという感慨の余韻しかなく、疲労を感じ始めているスミカとは逆に少年は尚も収まることはなく、快感を求めている。彼女の劣情を煽るように、行為の最中で胸部を露出させられた、凡そ半分程度ボタンが外されていて捲り上げるように肩口が肘の辺りまで引っ張られ、上半身の内其処だけを露出している乳房を揉みしだき、何度も嬲られて既に赤く充血している乳頭を捏ね繰り回す。
 しかし、前述の通り、既にスミカは昂揚が無い。残り一回だとかなら、出来ないことも無いだろうが、元々精力が強い上に彼女の三倍の薬の効果も重なっている彼がそれだけで済むということは絶対に無いだろう。
「ま、待て……私、もう……」
 敏感さだけは残っている為に胸部を弄られて、その都度身体をぴくりと震わせるスミカが、限界である旨を伝えようと首だけを回して背後の少年に眼を向けるが、言い淀んだ。視界に飛び込んだのは、快感によって、というよりは、縋るように潤んでいる彼の眼であった。それを例えるなら、捨てられている子猫だか、子犬とかの眼であろう。よりによって彼が見せる物の内、スミカが最も抗えぬ種類のものである。
「わかった……じゃあ、手とか口で……あぅンっ!」
「嫌です……おまん○がいいです……」
 妥協案を提示しようとしたスミカであったが、却下と言わんばかりに少年は一回大きく腰を突き上げる。
 だがスミカには体力の限界を超えて尚も重なり続けた経験は一応ある。
 しかし、それからまだ半年も経っていないので、出来ればそれ以外の方法で処理して貰いたい彼女は焦ったように、辺りを見渡すような仕草を見せる。このままでは、押し切られて、想像通りの結果になることは明白だからだ。
 だが、自身が一番分かっていることで、周囲にそれを解決する方法があるわけもない。
 そう思っていたが、殆ど消えたとはいえ昂揚の残滓が微かに残っている彼女の脳は面白い物を見つけた――。
「エイ……エイ!」
「……は。な、なんですかぁ……?」
 一度呼んだだけでは反応せず、二回目に少し声を強くしてエイを呼ぶと、締まりの無い顔を愛液と汗で濡らしながら、結合部を一心に見詰めていたエイが惚けた声で応えて、顔を少し上げた。
 自分よりは少し年下というだけであるが、可愛らしいという形容が似合う彼女は、紅潮した頬、蕩けた眼、開ききった口許と、嗜虐を煽るような表情であり――尚も胸部を弄られていることもあって――スミカの背筋にぞくりと悪寒が奔ったが、嘗ての後輩に、しかも同性に僅かとはいえ欲情を煽られたということを隠すように、咳払いを一つすると、
「……イキたいか?」
 短く、そう聞いた。
「え……?」
「イキたいのかと、聞いてる」
 驚くエイに同じ質問を重ねる。
 答えなど聞く必要も無く、相手も言うまでもないと思っていることだろう。しかし、そうであっても羞恥を感じるのはしょうがないであろう。そもそも応える義理も無い。
「どうなんだ?」
 何故か室内に緊張感が走ったせいか、少年もそれを見守るようにスミカの乳房や乳頭を弄んでいた手を止める。
 エイは喋る準備をするためか、なけなしの唾液を飲み込んで喉を動かした。そして、我知らず、自身を見ている二人を劣情を煽り立てるような弱々しい表情で小さく、確かに呟いた。
 ――はい……イキたいです
 そう言うと、スミカが頬を歪めるのをエイは見て、すっと立ち上がった。その拍子に結合が解かれ、性感が消えることを嫌がる声を少年は上げたが、すぐに肉棒を握り、扱いて、それを制する。度重なる性交によって、異常なまでの水気に覆われているために、握っている手を僅かに動かすだけで高く鳴る粘音を立てながら、スミカはエイに視線を合わせる。
 「わかった……じゃあ、これを挿れてやろうか?」
 再びエイがそして少年も驚愕すると、スミカの秘唇を割って白濁が漏れて、エイの顔の傍にべちゃりと音を立てて落ちた。
「スミカさん、何を……あぅっ!」
 エイよりも先に問い質そうとした少年であったが、急に扱きを強くされて、邪魔だと言わんばかりにまたも制された。そして彼女は、どうすると、と問う視線をエイに投げかける。
 快感を望みながらも、友人の恋人に抱かれるなどいいのだろうか、という本能と理性の二つの間でエイが揺れる。しかし、眼の前で粘液によって輝き、隆々と聳え立ちる男根と、顔の直ぐ傍で放つ牡の芳香が彼女の鼓動を高鳴らせ、そして気付いた時には口を開いていた。
「……おねがいします……いれて、ください」
 その驚く程に殊勝な言葉にスミカは満足げな表情を浮かべると、また少年の耳に顔を寄せて何かを囁き始めた。
 何かを企んでいることは明白であり、それが自分に向かって来るのだろうと、エイは不吉なものを感じたが、もうどうでもよかった。早く、この息苦しさから解放して欲しかったのだ。
 言い含められた少年が了解と云った風にこくりと頷くと、スミカは彼のモノを握っていた手を離す。
 そして椅子から立ち上がった彼は、縛られている故とはいえ、待ち望んでいるように脚を大きく開いているエイの、その股の中心に座ると、事実、待ち望んでいたエイが、過呼吸になってしまうのではないかと思える程に呼吸を荒くして、ぎこちないながらも無意識に強請るように腰を上下させる。
「はやく……はやく、いれてぇ……!」
 恥も外聞も無いといった有様で、甘い牝声で挿入を嘆願する。
 それに応えるように少年が一歩進み自身の亀頭と、尿でも漏らしたかのように濡れそぼっている秘所を触れさせると、粘つきの極まった淫音が立ち、エイが久方ぶりの焦がれた性感によって、
「はぁぁぁうっ!」
 傍目から見れば挿入したのではないかと思える程に大きな嬌声を上げて身を捩った。その拍子に性器同士が擦れ合い、更に快感が訪れる。
 それが収まると、少年は本格的に挿入を開始した。
 急いで仰け反った首を戻したエイは徐々に充血した先端が自身の中に入ってくる光景を眼に焼き付けるように見詰めていると――
 「――ひぃああああああっ!?」
 すちゅりという激しい粘音が立ったと同時に、身体の奥底に重々しく衝撃が奔り、喘いだ、というよりは叫んだ。
 亀頭が半分挿いった辺りで、突然にペニスを根元まで挿入されてしまい、劣情が蓄積していた上に、急で激しい抽迭とはいえ、僅か一突きで果ててしまったのだ。
 久しく男を受け容れていなかった膣は、爆発的な勢いによって――しかも今までの経験の中で最大級の大きさのモノによって――最深部まで余すとこなく押し広げられて、肉襞が驚愕したように痙攣する。
「はー……はー……はー……っ!」
 内臓を突かれたような衝撃と身体の中でみっちりと収まっている怒張のせいで、息も絶え絶えと云った風に肺から空気を漏れ出しており、視界が明滅しているような錯覚を覚えるエイであるが、
「……あぁぁぅっ!やぁっ!まっ、まってぇ!」
 少年はそんな彼女に構うことなく、突然に抽迭を始めた。しかも、明らかに精を放とうというのが伺える程の激しさで。
 これはエイには予想外であった。何故ならスミカと彼が性交をしているのを見て、羨ましいと思ったのは、互いに相手の事を想っているように見えたからだ。
 確かに相手よりも先に果ててしまうことはあった。しかし、限界まで粘って、それでも駄目だったと云ったような、いじらしさを感じたのだ。
 しかし、今の彼の腰遣いには、そんなことを一切感じられない。恋人ではないから当然かもしれないが、それにしたって独り善がりと思えるものである。
 嫌々と拒否するように叫ぶエイは、そう考えて、気付いた。
 これがスミカが先程、彼に言ったことなのだと。
 自分以外の女を抱いてもいいから、その代わり、自分が果てることだけを考えろ。そのようなことを言ったのだろう。
 つまり、それが意味するのは、自分は自慰の道具でしかない、ということだ。
 エイがそこまで思考を巡らした時であった。
「あっ……でる……でる……」
 独り言のように少年が呟き出した。
「まって、だめっ……だしちゃ……だめぇ……!」
 言葉でそれを制しようとするエイであったが、更に激しくなる抽迭による肉同士がぶつかり合う音、淫液が攪拌する音、そして彼の独白によって、それは掻き消されていき――
「あぁぁー……っ」
「いやぁぁぁ……っ!……ぁ……あぁ……」
 少年は無遠慮に肉棒を奥底まで捩じ込み、鈴口と子宮口を密着しながら射精した。
 その瞬間、エイは絶叫したが、どうすることも出来ず、膣内でペニスが律動し、奥底を熱の塊でノックされる感触を味わされるのだった。
「うっ……うぅっ……わたし、はじめて……なのに……」
 涙を零し、嗚咽を漏らしながらエイがそう言うと、少年が驚いたような、それでいて罪悪感を持ったような表情を浮かべる。
 すると、傍でそれを見ていたスミカが二人の結合部を覗き込んでから、顔を上げると「あぁ。中に出されるのが初めてってことだ、気にしなくていい」と言って、少年の腰をポンと叩いた。
「でも……本当にいいんですか?」
「コイツが言っただろう? ”いれてくれ”って。なぁ、エイ?」
 躊躇を見せる彼にスミカはそう言うと、続けてエイを見たが、問われた彼女は応えなかった。
「……まぁ、嫌だったり、気持ち良くなかったら別にいいんだがな」
 冷徹なまでの口調で独り言のようにスミカがそう呟いた。
 エイが力無く垂れ下げていた頭を起こして「そ、それは……」とそれこそ嫌だと言いたげな声を上げる。するとそれを聞いたスミカは、冷笑を浮かべた。
「……はい」
 自分はどうすることも出来ないのだと悟ったエイは、諦めたように一言だけ言った。
 僅か一言であるが、それには彼らの言動全てを受け容れるものが含められていた――
「うぅっ! うっ! ふぅっ!」
「はぁっ! あぁンっ! やっ、やぁっ! イクっ、イクぅぅっ!」
 少年が腰を遣い、果てる合間にエイが絶頂を迎える。しかし、それでも抽迭は止まることは無く、エイが服従を示して以降、部屋の中には二人の嬌声と淫音がひっきりなしに鳴り続いている。
 抽迭そのものは少年が射精する時に腰を限界まで押し込むので止まるのだが、その間もエイから腰を遣っているために、三つの音が止まることはない。
 また、徐々にその音も一つに収束している。
 というのも、少年の嬌声と攪拌の音を掻き消すまでに、エイの嬌声が高らかになり始めているのだ。
「あぁっ! だめっ! きもちいいっ! きもちいいよぉっ!」
 恍惚とした表情で蕩けた眼は何処も見ていない。
 膣内を陰茎に抉られる快感に酔いしれて、絶頂の頻度も上がり出している。
「うぁぁっ! あついのっ、だされてるぅっ! ま、またっ! また、きちゃう……っ!」
 射精されるのを感じると、脈動する男根を自ずから締め上げる。
 それによって、より性器同士が密着し、感じる振動が強くなっていく。
「ひゃぁぁっ! こんなの、こんなのはじめてぇ! すごいっ、すごいぃっ!」
 敬語を絶やさぬせいか清楚さすら感じる女性は何処かに消えて、ただ性感を貪る淫欲に溺れた牝が其処にいた。
 エイが乱れに乱れているせいか、上で腰を振っている少年も、また本人も、その場から離れたスミカに気付くことはなかった。
「イク……イクっ! イクっ! イクっ! イっちゃうぅっ!」
 嬌声の裏で膣内に溜まった精液と溢れ出した愛液がペニスに掻き出されて、下腹部がぶつかり合う度にべちゃべちゃと音を立てながら撒き散らされて、二人の臍の辺りまで汚している。
「くぅぅ……っ!」
 最初はただ出すだけの筈だったのが、少年は何時の間にかに射精を促されるようになった感触を覚えた。
 それほどまでにエイの膣肉は自身のモノを強く吸引してきていているのだ。更に自分が吐き出した液と彼女のものによって滑りも良く、かなり快感が強い。それは彼女にも言えることで、スムーズに奥を突かれ、肉壁を摩られるのは、この上なく快感であった。
「……エイ? お前さっき、テレジアから貰ったのは隠してるって言ってたよな?」
 少年は流石にスミカとしていた後のために疲労を感じ始め、速度を緩めた抽迭を行ない、エイがもっと早くと強請るように腰を遣っていると、スミカがエイを縛った拘束具を運んできた部屋から戻ってきて、何処か愉しげにそう言った。
 二人がスミカに視線を送って、その手に持っているものを見て、少年は首を傾げ、惚けた表情を浮かべていたエイが紅潮していた顔を更に赤らめた。
「ん?”コレ”から、甘い香りがするぞ?」
 傍に座ったスミカが手に持っているモノをエイの眼前で見せびらかすと、彼女は恥じ入ったように顔を背けてしまった。スミカが見せたものは――根元の方にスイッチがあり、男性器を模ったバイブであった。
 首を傾げていた少年であったが、スミカが何を言いたいかに気付いた。
 つまり、テレジアから色々な性具を送りつけられているエイであるが、殆どは処分出来ずに隠していたのだろうが、其れだけは愛用しているということなのだろう。
 おそらくスミカが二度行った部屋は、エイの寝室で、拘束具などよりもバイブは近くにあったのだろう――そうベッドの近くに。
「相当、出されたようだな? どれ、私がコレで掻き出してやる」
 無残になった結合部を覗いたスミカはそう言うと、少年の腹を押して結合を解かせると、二人が名残惜しそうな声を上げる。
 無理矢理に退かせられた少年は未だにいきり立っているモノはどうすればいいのかと問うような眼を向けると、スミカに睨まれた。
「口が空いているだろう」
 何故かは分からないが、明らかに不機嫌そうなので口答えをすることなく、言われた通りにエイの頭の方に近寄った瞬間、
「あぅぅンっ!」
 近寄ろうとした頭が突然に仰け反ったので、慌てたようにスミカの方を見ると、エイの秘所にバイブを突き挿していた。
 更に腕を前後させて、抽迭している顔は嗜虐感に溢れている。それを見て、何となくだが、スミカの意図が分かった。
 ――嫉妬してるんだ。
 おそらく彼女の想像では、エイがそれなりに感じながらも拒絶を見せるだろうと思っていたのだが、現実にはエイは受け容れてしまって、あまつさえ自分を感じさせてしまった。その様子が気に喰わなくて、このような横暴を働いているのだ。
 少年がそう考えていると、途端に振動音が鳴り始める。
「やぁぁぁっ!」
 スミカがバイブのスイッチを入れて、中のモーターを起動させたのだ。しかも、その音量から察するに最大で。
 八つ当たりをするように抜き挿ししている上に、激しく振動しているために、淫液が撒き散らされる程の音を上げている。
 呆然と彼がその様子を眺めていると、
「あうっ?!」
 肉棒に滑り気を帯びた何かが這う感触を感じ、飛び上がるような声を上げた。
 ばっと下半身に視線を送ると、エイが乱暴な膣への嬲りに耐えながらも精一杯首を伸ばして、自分のモノに舌を這わしていた。
「ふぅン……ンンンっ! ……ンン」
 スミカにそう言われたからか――正確には少年の方が言われたのだが―― 一生懸命に舌を動かしているいじらしさと、先程果てていなかったことに加え、不意にということもあり、少年は呻き声を上げると、そのまま射精してしまった。
「うっ、うぅっ!」
「ン……はぁ……」
 顔面に精液を浴びせられるエイは、眼を瞑った愛おしそうな表情で受け止めるのだった――
「ふむっ! むうっ! んぐ……!」
「でる……また……でる……っ!」
 既に膣内に精液など欠片も残っていないだろうに、スミカがバイブで膣内を掻き回す最中、エイは少年の陰茎を陶酔した表情で咥え込んで、秘所から感じる性感から気を逸らすように舌を一生懸命に口内で蠢かしている。
 口淫をしたことが無いのか、最初は歯が当たったりしていたのだが、途中からコツを掴んだように責められて、少年が呻き声を上げながら、絶頂を迎えると、吐き出された粘つく精液を苦心しながらも、エイは喉に流し込んでいく。
 それを邪魔するようにスミカが偶に突然に激しく抽迭するために、飲み損なって苦しそうに咽て、咳と共に幾らか吐き出した白濁や唾液を口許から垂らすのだが、尚も恍惚とした表情を浮かべている。
「……んむぅぅぅぅっ?!!」
 すると、突然にエイがペニスを咥えたまま眼を見開いて、苦悶の声を上げた。
 何をしても、快感を感じる素振りを見せるエイに感じていた苛立ちと甚振ってやろうという気持ちが最高潮に達したのか、スミカが子宮口に突き刺してやると言わんばかりにバイブを掌で押し込んでいるのだ。
 また殆ど根元まで埋まっているせいか、振動音かなり篭ったものになっていることからも、振動すらも逃げ場を失くしていることが分かる。
「ンンっ!」
「あっ! あぁっ! イクっ……イクぅっ!」
 自身のモノを加えているエイが苦悶の表情をしているせいか、少年の嗜虐感も高まり、喉奥に向かって――それでもやや控えめに――腰を遣うと、第一声以降は、声にもなっていない音がその口から漏れ出す。
 上も、下の口に――贋物を含むとはいえ――乱暴に、強引にペニスが突き立てられ、抽迭を繰り返していく。
 どう見ても強姦に等しいような、無残な光景の中、最後の合図と言わんばかりに少年が
「あぁぁぁっ! でますっ! でる、でる、でる、でるっ! でるぅっ!」
 叫びながら腰を小刻みに動かした後、出来るだけ我慢しながらも、眼下の顔面の口に腰を押し込むと、スミカも一際バイブを強く押し込み――
「ンンンンーーっっ!」
 エイが口を塞がれていることでくぐもった絶頂の断末魔と、喉奥を突き込まれて同時に精液を流される苦悶の声が入り混じった叫びを上げた。
 全身を痙攣させてながら尿のように噴出した薄い液体がバイブの振動によって、スミカの顔まで飛び散って床を汚すと、射精を終えた陰茎が抜かれる。
 陶酔、恍惚――性感によって生まれるそれらを顔にありありと浮かばせて眼を曇らせているエイは半ば失神しており、だらりと頭を左肩の方に預けると、開き切った口から唾液と精液が混じった塊を頬を伝って床に垂れ流す。
 すると丁度、頭を傾けた反対側の方にあるペニスが、尿道に残っていた白濁をその顔の上に、ぽたりと小さな塊を幾つか落としていく。
 それに呼応するように気を失いながらも、バイブの抜かれた膣から愛液を幾度か更に噴出させて、尻の下に出来ている水溜りに、雨が降り注ぐような水音を立てるのだった――。
 
「……すまなかったな」
「……いえ、私の方こそ」
 事後、暫くしてティーカップで紅茶を――ではなく、身体から湯気を立ち上らせている二人が水を啜ると、互いに申し訳なさそうに謝罪し合っていた。
 テーブルを囲むように椅子は元の位置まで戻っているわけだが、少年は居ない。今、彼はシャワーを浴びている。三番目であり、シャワーを使った順番は汚れを表わす順番でもあり、勿論エイが最初であった。とはいえ、失神していたために、スミカと少年は起きるまで待っていたわけだが。
 
 謝罪を述べた後、二人の間には気まずい沈黙が訪れた。
 それもそうであろう。
 古くからの友人、戦友でありながら――片方は責めてしまい、片方はそれで感じてしまったのだから。
 言うまでもなく、二人はそんな風に互いを見たことがないのが唯一の救いであるが、同性愛的な行為を行なってしまったのは、やはり――気まずい。
 その沈黙を破ろうとしたのか、エイが恐る恐ると云った風に口を開く。
「あの……スミカさん」
「ん、何だ?」
「彼とは……いつも……その……あんなに、激しいんですか?」
「な……そんなわけ……!」
 突然の質問にお湯を浴びて紅潮しておる熱を更に赤くして、否定しようとしたスミカであったが――何故だろうか、否定の根拠が見付からなかった。
 確かに薬のせいで、エイの前でしてしまったとはいえ、行為そのものは殆ど普段と変わりが無いような気がする。
 更に言うと先程エイが目覚めるまで、少年とスミカはピロートーク代わりに愛の言葉を囁き合いながら、身体を重ねていたということもある。
 言い淀んだのを肯定としたのか、エイは わぁ、というような表情を浮かべた。
「……文句あるか」
「なんていうか、すごいな、と思って……口でするのとか、中に出されるのとか……私、今日が始めてだったから……」
「ほんとにそうだったのか……すまないな……いや、そう言うのも変かもしれんが」
「口とかは……ちょっと、私はまだ苦手かもしれません。やっぱり凄いです」
「あんなの、慣れだと思うがな……お陰で最近じゃ”アレ”の味も……」
「え?」
「い、いや、何でもない。何でもないぞ」
 スミカがかぶりを振っていると、ガラっという音共に脱衣所の扉が開き、
「すいません、タオル何処ですかぁ?」
 扉の陰から少年が上半身だけ覗かせて、そう尋ねた。
「タオル? エイ、何処にある? ……エイ?」
「……えっ? あ、は、はい! えっと……そこに置いてあります」
 はっ、と我に返ったように、エイが彼が顔を出している扉の表側の傍にキャスター突きの籠を指した。
「はい、ありがとうございます」
 一言そう言うと彼はバスタオルを一枚取って、扉を閉めて、脱衣所に戻った。
「何を、見惚れてるんだ。ええ?」
「……ごめんさなぁい」
 向かい合っていた二人だったが、スミカがエイの隣に行って、頬に拳をぐりぐりと捩じ込むと、彼女の言う通りに少年の半裸に見惚れてしまっていたので素直は謝る。
「少しは否定しろ」
 スミカとしては、むしろそっちの方が腹立たしかった。拳を離されたエイは確かにそうだと云ったような表情をすると、一つ嘆息を漏らす。
「……な、何だ」
「羨ましいなぁ、と思いまして」
「貴様、人の男を……」
「いえ、違います。そうじゃなくて……え。今、”自分の男”って言いました?」
「私がそんな事を言うのが、おかしいか?!」
「はい……あ、ごめんなさぁい! ぐりぐりしないでぇ……意外だなと思ったんですぅ」
 再び拳を頬に捩じ込ませていると、そんな事を言われてスミカはぴたりと手を止める。
「意外?」
「ええ、スミカさんが男の人と幸せそうにラブラブというのが想像付かなかったから……それだけ愛し合っている相手が居るのは、羨ましいです」
「あぁ、そういうことか……でもラブラブってのは、やめてくれ」
「あ! 照れてるんですか?! スミカさん、可愛い~!」
「……よし、今度は殴る」
「顔真っ赤ですよ! やっぱり照れてるんですねぇ、うふふ」
「うるさいッ!」
 とはいえ、意外と満更でもないスミカであるのだった――。
 


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