《ウォーニング!!》

この作品は異性間に於ける性交を主軸とした小説です。

 
 
 
 

 
 
 
 

Written by 仕事人


 【ケモノのスミカ レギュ04 《ミセスの教え》】

「スミカさん、ミセス・テレジアってどんな人なんですか?」
 カラードのエレベーターの中、少年は隣のスミカにこれから会いに行く相手について尋ねた。
 尋ねられたスミカだが、どうやら答えを探しあぐねているらしい。顎に手を遣って、うぅんと唸りながら考え込む仕草を見せている。
 いつもの彼女を知っている少年にはそんな様子が珍しく、驚きを隠せなかった。
 この霞スミカ、何か質問をすれば、ズバっと分かり易く明確に快刀乱麻を断つように答え、分からないなら「知らん」とはっきり答える。そんな女性なのである。
 それだけテレジアというのは難解な人物なのだろう。誰が書いた物か知らないが、流石はカラードの各リンクスの紹介文に『変人』と記載されているだけはある、と少年は変に納得する。
「……そうだな、強いて言えば」
 質問したのは一階だったのだが五階を過ぎた辺りでやっとスミカが顔を上げて切り出した。
「強いて言えば?」
 あのスミカが、これだけの時間を悩んだ問題であり、これだけの時間を使って出した解答だ。少年は抱いている期待の表れに、一歩距離を詰めたのだが、
「――“変人”だ」
 予想外にそのままの答えだった。
 そして、ぽかんと口を開けている処に「まぁ会ってみれば分かるさ」と話を濁すような口振りが続いて、矢張り、いつもの彼女らしくない言葉であった。
 カラード本部にて、リンクス同士が顔を合わせる。
 言うまでもなく、目的はオーダーマッチをする事である。
 しかし、今日は直ぐに其れをしようと云う訳ではない。少年とスミカは約束の時間よりも一時間も前にシミュレータールームに入った。
 スミカ曰く、「しっかり練習しておけ――それでも勝てるかどうかは分からんがな」との事。
 変人と言われているにも関わらず、疾うに引退しているとは云え、歴戦のリンクス、嘗てのオリジナルたるスミカをして猛者と言わしめるミセス・テレジア。
 ――果たして一体どんな人物なのだろうか?
 仮想空間上でネクストを操りながら、彼は未知の人物との邂逅への期待を胸に抱くのだった。
 シミュレーターを起動させ、練習を始めると、スミカは「私は少し用事がある」と言い残して何処かに行ってしまい、少年はシミュレータールームの中で暫く独りであった。とは云え、身の入った練習であったので、寂しさを感じる事はなかったが。
 そうして、漸く約束の時間が迫った時にスミカが戻ってきた――見知らぬ女性を連れて。
「や、こんちは」
「……こんにちは」
 眼鏡を掛けている其の女性が少年に向かって、丈余りのシャツから指先だけしか見えない腕を、ひらりと上げて気さくに声を掛けた。
 少年も至極普通に挨拶を返す。
 スミカと一緒に来た事から、初め、其の人物をテレジアかと思った。
 しかし、小柄で猫背気味の女性は10代の後半、多く見積もっても20代の前半と云った処。
 予めセレンから聞かされていたテレジアの年齢よりも、かなり若く見えるので「テレジアさんはまだのようですね」とスミカに言った。
 すると、彼女は急にくっくっと笑いを堪えるように喉を鳴らすと、
「コイツが例のテレジアだ」
 そう言って隣の少女のような人物を指差した。
 少年は聞いて「へぇ、そうなんですか」と何気無しに反射的に答え、そして、直後に――
「……ええッ?!」
 ばっと身を翻すような大袈裟な身振りで、例の女性をまじまじと見詰める。
 テレジアらしい其の人は、何やら見定めるような眼で少年を見ていた。

「ごめんなさい」
「いいのよ、いつものことだから」
 ぺこりと頭を下げながら謝罪する少年に、テレジアは口にした通りに気にしてなさそうに微笑を湛えている。悠々とした態度は、ミセス、と云うのがよく似合っている。
 頭を上げた少年が失礼だと自覚しつつも、改めてテレジアを具に観察してみるが、矢張り、信じられないと云うのが率直な感想だった。
 スミカと同様にオリジナルとして名を馳せた《国家解体戦争》にも参加していて、また、10年以上前の《リンクス戦争》期に30代半ばだったのだから、40代後半の筈である。
 だが、見てくれは先刻観察した通りの、小柄も相俟って、少女のような容貌である。
 無礼であるが、全身整形でもしたのかと思える程だ。
「そんなに若く見えた?」
 そう言うテレジアだが、良く見れば落ち着いた服装は確かに歳相応に見えなくもない。
 厚い化粧をして年齢を誤魔化している訳でもなければ、寧ろ誤魔化そうとしている節すら感じられない余裕の滲む内面性は歳相応のものであると云えるだろう。
「流石だな、テレジア」
 年齢を気にする様子など微塵も見せないスミカですら、テレジアの持つ其の摩訶不可思議な外見の若々しさに対しては羨ましそうにしている位だ。
 それを聞いて少年がとんでもなく驚いたのはここだけの話にしておこう。
「スミちゃん。あなたも充分若くて、綺麗よ」
「……まぁ、そんなことはいい。こいつの相手をしてやってくれ」
 出し抜けの褒め言葉に、少し恥ずかしかったのだろうか、世間話を切り上げるように、硬質な口調になったセレンが親指で彼をぶっきらぼうに指す。
 今日テレジアとオーダーマッチをしにきたことを思い出して、もう一度頭を下げる。
「お願いします!」
「大丈夫よ、そんな固くならくても」
 テレジアは先程から変わらぬ余裕のある――と云うより、適当と云うか、ぶっきらぼうと云う風な――態度で少年のやる気に
 其の気楽なまでの、何処か覇気が感じられない態度を、年齢通りの競争心の無さだと想った少年は心の何処かで”ランク29”の実力を甘く見ていたのかもしれない。
しかし、その余裕が”大人らしさ”から来るものではなく、“オリジナル”の其れであった事を、直ぐに思い知らされる事になる――。

そして二分後。
「……参りました」
 少年は、それはもう見事に完敗した。
 愛機《ストレイド》の、デジタル的な機体の耐久力であるAP(アーマーポイント)が0%になった時点で、テレジアの《カリオン》は、なんと残りAP65%と云う有様だった。
 確かに少年はリンクスになって日が浅い。
 だが、ここまでやられるとは正直予想外だったので、俯きながら、シミュレーターから出る。
「……まだまだ、だな」
 腕を組んで仁王立ちしているスミカと目を合わすのが恐いので、やはり俯いたままである。
 シミュレーターから出てきたテレジアは、そんな励ますように、ポンポンと肩を叩く。
「センスはいいよ。若いだけあって、眼もいいし、反射神経もいい。でも、ちょっと動きが硬いわね。ぼうやはスミちゃんの弟子でしょ。もっと自信持って」
 圧倒されたオリジナルの実力を痛感させられたのも含め、優し過ぎず、厳し過ぎずの指摘に加え、更には師匠であるスミカを立てる言葉に、少年は感服するばかりであった。

「……ちょっと先に行っていてくれ」
 完敗したが収穫はあった――と思いたい――オーダーマッチを終え、エレベーターに乗り込もうとした時、スミカはそう言って、踵を返して廊下に戻って行った。
 恐らく、お手洗いだろう。聞き返すのも失礼だし、後で酷い目に遭うのも勘弁なので少年は「わかりました」とだけ言ってテレジアと一緒にエレベーターの中に入った。
「どう、スミちゃん元気してる?」
「ええ、はい。毎日しごかれてます」
 普段は人見知りのする少年だが、きさくなテレジアの柔和さに気後れする事もなく、他愛もない世間話をしながら一階に向かっている。
「相変わらずねぇ。大変でしょう? 実は、ウィンちゃんもね――」
 もう一人のスミカの弟子に話題が映ろうとした――その時だった。
「――ッ?!」
 階を過ぎて間も無いのに、急にエレベーターが、がくんと揺れて停止した。
 衝撃でテレジアが体勢を崩し、向かい合っていた少年にその小柄な身体を預ける格好になる。
「……っと。ありがとうね」
「い、いえ」
 少年は一見冷静に振舞っていたが、飾り気の無い無粋な格好にはそぐわない、微かだが濃厚な、香水のような香りに鼻を擽られて、ギャップにどぎまぎとしている。
 更に、受け止めた拍子に些細ながらも胸の膨らみが押し付けられたり、自身の股を割って入ってきた細い太腿や腕に股間の一物を触られたりして、内心かなり動揺していている。
「ど、どうしたんでしょうか……」
 聞こえる訳もないが、高鳴ってしまっている鼓動を隠すように、そして、反り立ちそうになっているモノから気を逸らそうとして、態とらしく狭い室内をきょろきょろと見回す。
 慌てているのを隠そうとしているのを余所に、テレジアはパネルでエレベーターの操作を試みているが、直ぐに「駄目か」と言うと、少年の方に向き直って肩を竦めた。
 どうやら、何も反応が無いらしい。
「故障でしょうか?」
「……この時間は人が少ないから、暫く掛かるかもしれないね」
 そう言ってテレジアはポケットから、小さな筒を出して咥えると、動揺している少年を他所に手に持っていたバッグを床の上に置いて、何事も無いかのように座る。
 非常事態にも関わらず、焦る素振りすら見せずに禁煙パイプを嗜む余裕に、慌てていた少年も倣うように腰を下ろす。
 床に尻を落ち着かせた二人は、時折、まだだろうか。等と短く言葉を交わすだけになり、うんともすんとも言わぬエレベーターは、やがては内部も沈黙に包まれる。

 結局、状況に何の変化も無いままで、時間ばかりが過ぎる。
 元より小さいエレベーターの圧迫的な閉所感が時間の経過に合わせて積み重なっている中で、
「――ねえ。ぼうや」
「はい?」
 少し蒸し暑くなって来たので、ぱたぱたと手を扇いで自分に風を送っている少年に、黒のストッキングに覆われる膝を抱え込むようにしているテレジアが徐に声を掛けた。手を伸ばせば届きそうな距離の壁に顔を向けつつ、横目だけで見遣りながら。
「なかなかの“モノ”を持ってるみたいね?」
「……へ?」
 少年は言われた事の意味が分からず、首を傾げる。
 すると、何処か雰囲気が変わったようなテレジアが悪戯っぽい笑みを浮かべ、顔と眼鏡の隙間から覗ける流し目を、一瞬だけ下の方に落とした。
 ちらと送られた視線が向けられた位置に、彼女が何を言っていたか、何を指しているかを理解して、少年は滅相も無いとばかりに、ぶんぶんと風を切りながら両手を振る。
 テレジアも冗談気な下世話な笑みを浮かべている。だが、改めて向け直してきた顔の、眼鏡の奥の眼は、しかし、笑ってないように感じられて、少年は不安を煽られる。
「好奇心で聞くけど――スミちゃんとはそういう関係?」
 スミカは恥ずかしいと思うだろうから、少年は上手く誤魔化そうと頭を働かせるも、元来、嘘を吐けない正直な性格の所為で、言葉では言わずとも肯定と取れる照れた笑みを浮かべてしまう。
 しかし、顔立ちが整っているから良いものの、不気味な、もっと云えば、人によって気色悪いと感じられる表情とは反対に、テレジアは無表情になった。
「……な、なんですか?」
「いや……そうか、そうか。なるほどねぇ」
 テレジアは明らかに何かを含む口調で呟きつつ、独りで合点したように、うんうんと頷く。
 一抹の不安を抱いた少年が「何が、ですか」と我知らず語調を強くして再び問い質す。
「あー……言っていいのかな、コレ」
 そこまで言われては却って聞きたくなるのは当然の事で、少年は座ったままの体勢で腰を動かして、テレジアに無言で詰め寄る。
「聞きたい? 本当に?」
 更に不安を煽られるものがあったが、少年は先を促すように、こくこくと何度も頷く。
 テレジアは寝癖で髪が跳ねている頭を、ぽりぽりと掻くと、「しょうがない」と溢して、口を割り始めた。だが、可憐な容姿も相俟って、少年の威圧は然程強いものではなったし、また、飄々とした性格が押しに弱い筈もないのに、いやにあっさりとし過ぎていた。
「此の前、スミちゃんが私のとこに電話掛けてきたんだけどね」
 此の前、と云うのは、恐らくオーダーマッチを要請した際の事だろう。顎先に手を遣りながら語る彼女の邪魔をしないように、途中で口を挟まず、少年は相槌だけを打つ。
「あの子と私は付き合いが長いし、知り合いの中だと私は最年長に入ると云うのもあるだろうけど、相談されたってわけよ。珍しい事にね」
 自分にとっては立派な大人であるスミカも、テレジアに掛かっては子供扱いなのか。
 テレジアと同様にスミカが他人に相談した事も含めて、少年が意外そうに思っていると、スッと眼を細める彼女の様子を捉えた。
 本題に入るのだろうと察して、少年は佇まいを直すように、テレジアを見据える。
「そしたらね。ちょっと――”マンネリ”なんだって、ぼやいてたのよ」
「マン、ネリ……?」
 然も気の毒そうにテレジアは言った。
 が、少年の方は其の言葉の意味する処を知らず、不思議そうに聞き返しただけだった。
 反応の薄さに拍子抜けしたような――或いは、つまらなさそうな――テレジアであったが、小首を傾げている理由を察したらしい。
「ん、知らない? そうねぇ。新鮮味が無いとか、飽きが来たとか、そんな感じ」
 先程の口調とは打って変わって、マンネリの意味を簡単に述べた。
「あぁ、言っとくけど――“あっち”の方よ」
 また、口の端を微かに吊り上げさせながら、そう付け加えた。
 聞かされた瞬間、少年の表情が強張った。
 初めこそ激しい動作を見せなかったが、矢張り、堪えたらしく――がっくりと肩を沈めた。
 仮にネクストの操縦の拙さを指摘されたのなら、改められる。直ぐに結果を出せずとも、せめて努力する事は出来るだろう。
 しかし、未だ若い彼にはソレを改善する策など直ぐに思い付く訳もない。
 行為が単純に過ぎたのかと、若しくは酷く拙かったのかと、今までの自分を省みて、更に自責すると、自家中毒のような思考の悪循環に嵌っている。
「あ。やっぱりショックだった? まぁ、当然か」
 只でさえ非常灯だけの薄暗い箱なのに、中の空気すら黒く染めるような少年の落ち込みようであったが、テレジアはそうさせた本人にも関わらず、あっけらかんとしている。
 しかし、ここ最近で最も落ち込んでいる少年に、気の毒と言いたげな声も聞こえていないばかりか、テレジアへの恨み言を頭に浮かべる余裕すら無かった。
「ほらほら、元気出して。若いんだから幾らでも取り返しは付くわよ」
 ――落ち込ませた本人の癖に、何を言うのか。
 膝立ちで近寄って来て、気安く肩を叩くテレジアに、心の中で浮んだ恨み言の通りに――尤も、彼女も含め、誰が悪い訳ではないのだが――少年は恨めしげな眼を向ける。
 しかし、彼が見たのは、へらへらと面白がって笑っている訳ではないばかりか、今日顔を合わせたばかりの他人が懊悩しているだけなのに、何故か真剣な眼差しのテレジアであった。
 少なくとも、他人事だからと適当に言っている様子は無い。前々からもそうだったらしく、今日も見せていた、オーダーマッチへの意欲とは全く正反対だ。
 眼鏡の奥の翡翠色の瞳に、身を張りそうに、力強い光さえ宿している。
「なんなら……」
 テレジアは、そう言いながら腰を浮かせてから、膝を抱える少年の真正面に据わり直したかと思うと、何故か左脚を伸ばしながら、膝を立てる右脚だけを抱える姿勢を取った。
 そうなると自然、目の前の者には、タイトスカートの中に隠れていた黒のストッキングに覆われる太腿と、更に其の奥にある下半身を隠す布切れが眼に入る事になる。
 薄暗い空間の中の、暗がりの内部が微かに露に成った光景に、少年は鼓動を速める。
 一瞬、食い入るように見詰めてしまってから、はっと我に返って焦り、恥ずかしげに視線を逸らしたが、しっかりと目に焼き付いたソコのソレが、独りでに脳裡に浮ぶ。
 実年齢とは掛け離れた幼げな見た目からは想像も出来ないような下着を。
 狭い面積しかないレースの三角の小さな布は、余りにも細い腰の両側で、結び目が蝶のようになっている紐で繋がれている。
 しかも、秘所こそ確かに隠してはいるものの、レースの生地の所為で少し上の方は完全に透けており、かなり際どい位置まで肌が見えているのである。
 そして、透けている位置は肌だけではなく、色も密度も薄い陰毛が確りと見えていたのだ。
 少年もスミカのものを見慣れているとは言え、彼女のソレは、あくまで”処理”されているだけで終わっている。体毛の薄い彼には未だ縁が無いが、丁度、男が朝に髭を当たるように。テレジアのは、まるで髪を美容師にそうされるように、“セット”されている印象を受けた。
 髪というのは見た目に大きく関わるから、整える意味はあるだろう。
 普通は見られない場所を、態々整えているのかと思われるが、テレジアは違うのだろう。
 つまり、誰かに、ソコを見せるつもりがあるのだ。
「ん?」
 顔を赤くする少年を見て、テレジアは何事もないように、しかし、態とらしく首を傾げる。
 明らかに確信的行動に、揶揄われていると思った彼は、テレジアに反応しようとしない。
 未だ幼さを残しながらも、一端の男としてのプライドも持っているが故の依怙地な態度だが、却って幼くて初心な事を如実に示している事には気付きもしない。其れがまた、幼い。
 況してや、テレジアのような熟女相手なら尚更だろう。
 だからこそ、そんな頑なさを容易に崩されるのも、必然であったろう。
「……教えてあげようか?」
 テレジアが突然に妖艶な雰囲気を醸し出しながら問い掛ける声に、少年は、近いが至近ではないのに耳朶に直に囁かれたように、ぞくりと背筋を震わせる。
 更に鼓動が速くなるのを抑えるように自ら言い聞かせるも、微かに込み上がりつつあった昂ぶりは収まる処か、寧ろ身体に熱を燈らせ、一箇所に血を集わせつつある。
 そうして、無視すると決めていた筈だったのに、
「な、何をですか?」
 聞いてはならないと思いつつ、勝手に口が開いて、震える声で聞き返してしまう。
 実年齢に相応しく、艶やかに熟れた妖しさを醸すテレジアに視線を戻してしまう。
 寸前までの頑なさとは裏腹に、眼前に吊り下げられる餌に食い付く魚のような節操の無さは、頑なで居続けようとしていた初心さを、いや、若さを露呈している。
 先と同様に今の自身の滑稽さにも気付かないで、少年はテレジアをもう一度観察している。
 やさぐれていて乾いている印象は消え、しっとりと濡れているように感じられる。
 幼い見た目も彼女の雰囲気に彩られる事で、幼さと艶やかさと云う相反する筈のものが違和感も無く交じっていると見えて、正に妖艶である。其れこそ、異様で異常なまでに。
 不健康そうと捉えていたばかりの青白い肌も、まるで雪の如き儚さと同時に、何か一つの色が交じるだけで其れに負けてしまいそうな色なのに、全てを呑み込みそうな威圧を感じられる。あたかも、其の肌の色とは対極の、あらゆる色が入り交ざった漆黒のように。
「――聞きたい?」
 抱えている脚を更に引き込みながら、テレジアは再び問い掛ける。
 眼鏡の奥で妖光を放つ双眸が少年を見据え、若さ故に脆い心を射竦める。
「だから……何を、ですか?」
 少年は理性を保とうと突っぱねるように語気を強くして返したが、そう問うた時点で、既に彼女の術中に嵌っている事に気付いていない。
 視線も眼前のテレジアと云う個人や存在ではなく、彼女の下半身に注いでいる有様だ。
 最早、誘われていると言った方が正しい。
 初心な反応を見せる彼を今にも嘲けんばかりに、テレジアは頬を歪めて、濡れた唇を蠢かす。
「スミちゃんを、ううん、女を――満足させられる方法」
 スカートの奥から漸く顔に視線を移した少年が強張った表情をテレジアに向ける。
 彼が提案に驚いただけではなく、興味を持った事を、テレジアは察したのだろう。矢張り、今にも揶揄いそうに頬を吊り上げながら、抱えていた脚を僅かだが、外に向かって開いた。
 雰囲気に呑まれている事を自覚しつつ、少年は細い喉を波打たせ、ごくりと生唾を飲み込む。
「――教えてあげようか?」
 にじり寄るように顔を寄せてきたテレジアに対し、少年は無意識にスカートの露な陰の中に再び、ちらちらと視線を送りながら――一度だけ頷いた。頷いてしまった。
 情けないと本人は自覚しているのと同様以上に、傍目には軽率だと白い目で見られるか、そして、スミカからは失望を抱かれ、憤怒を向けられるだろう。
 だが、反対に反対に仕方が無いと共感を持たれてもおかしくない位に、当然でもあったろう。
 女を知ったばかりの文字通りの少年が、どうして妖艶な熟女の誘惑に抗えると云うのか。
 テレジアは表情に更に妖艶さを深め、それでいて、実に愉しそうな笑みを浮かべている。
 全身から滲ませている愉悦は、親子程に歳の離れている若者を誘惑せしめた達成感にか。はたまた、そう云う或る種の気後れも無く、目論見通りに事が進んでいる確信の充実感にか。
「先ず、基本はキス。スミちゃんにするみたいにしてみてご覧」
 合意の判が捺された事もそこそこに、テレジアはそう言いながら眼鏡の向こうの瞼を閉じると、くいと顎を少しだけ上げた。まるで、ソレを強請る少女のように。
 自ら合意を結んだとは云え、スミカへの罪悪感がある少年は「でも……」と当然だが、今更に戸惑うように、もごもごと口篭るばかりだ。意欲を見せておいて、踏ん切りが付かない辺り、矢張り初心さが顕れている。もしも見た目に相応しく未だ女を知らないなら、嘲笑されそうな程だ。
 そんな幼さを受容するのはおろか、享受すらするように、テレジアは母性的なまでに優しげな微笑を湛える――だが、口端を緩める唇から紡ぐ言葉は、黒い打算に塗れていた。
「これは浮気でもなんでもないの。あの子を悦ばせる為なんだから――そうでしょう?」
 ――けど、それでも……。
 篭絡させんとする欺瞞を拒否したいと本心から想いつつも、眼前の薄い肉付きが却って艶やかな唇に濡れ輝く妖しさに逆えず、いいのかと問うような視線を向ける。
 テレジアはふっと笑ったのを肯定にすると、改めて眼を瞑った。
 すると、一瞬前までの艶かしさが消えて、其の容姿の見た目通りの可愛らしさが全面に表出し出したように少年には感じられた――実態や実際、内心や胸中は兎も角として。
 容姿と雰囲気の落差が醸す魅力は激しく、誘われる侭に、少年はおずおずと顔を寄せて行く。
 そうして、膝立ちの体勢で、遂に唇同士を重ねた――重ねてしまった。
 眼鏡の額が鼻に触れ、メントールの香りが口腔に、微かだが濃密な体臭が鼻腔に広がる。
「ン……っ」
 瞬間、テレジアが容姿に似つかわしく、雰囲気や実年齢から思われぬ、甘い声を漏らした。
 狙ってやっているのだろう事は少年にも良く分かっていたが、年上であるスミカとの経験しか持たない少年にとって――体質の所為で、メイの豊満に過ぎる乳房をペニスで犯し、肢体中をザーメンで穢してしまった事や。風邪を引いた際の高熱の所為で、スミカと間違えてスティレットを襲ってしまった事は置いておくとして――見た目だけなら、自分と同年代にしか見えない彼女との口付けは恐ろしいまでの甘美さであった。
(い、いつも通り……いつも通り……!)
 思考が溶けそうになりながらも、あくまで、コレは練習なのだと自身に言い聞かせる。自分とは初対面であり、また、スミカとは友人にしても別人であるテレジアとのキスだが、彼女の言った通りにスミカを悦ばせる為なのだと、必死に自らを欺こうとしている。
 そして、思春期の恋人同士がするような、いじらしい、重ねるだけの口接から、スミカとの経験を培ったものである、一歩進んだ恋人同士との口交へとステップアップさせる。

「ふぅ、ンっ、ふっ……」
 テレジアの小さな二つの唇の間に割り込ませて、肉弁の内側へと舌を侵入させる。
 唇同様に口全体が小さく見えるのが相俟って、驚く程に広く熱いと感じられる口腔の感触、そんな広さをどのように活用して来たかと云う妄想に、逸る気を抑えながら、突き出す舌先で、唇の裏や歯茎の上、更に歯の裏までもを丁寧に愛撫していく。
 すると、擽たかったのだろうか、テレジアが小柄な肢体を小さく、甘美そうに捩らせた。
 とはいえ、ソレも恐らくは少年を奮い立たせる演技のようなものだったのだろう。だが、誘惑野言葉とは反対の目論見通りに、既にキスに耽っている彼が、そうであると気付く事は無い。
 そして、会話していた際に覗けていた、元より少しの汚れも無い歯の洗うような舌先の愛撫を終えると、口腔の中で待ち構える風に鎮座している熱くて厚い肉器官に自身のを絡め出す。
 舌全体は勿論、粒状の味蕾と共に表面が掠れ合い、線から染み出る唾液が、耳障りで淫らな音を立てる。口内に響く音が口蓋を徹して、脳髄を蕩けさせる。其の甘い感触と淫らな感慨と共に。
 されるが侭に口腔に舌を分け入れられているのを、舌に舌を舐め回されているのを受け止めてテレジアは、まるでディープキスをすることが初めてで、緊張している少女のようだ。
 しかし、静かな様は少年など比べ物にならない程に経験が在る故の落ち着きに他ならない。口交をされるが侭に受け止めているのではなく、気が赴くが侭に受け容れているように。
 次第に次第に昂奮が募りつつある少年とは裏腹に、テレジアはあくまで吟味するような心持ちで、それでいて口内粘膜の交合を愉しんでいる――が。
 少年が、舌に舌を絡めるのを止め、柔肉が剥き出しだが固い口蓋に舌先を這わせた途端、
「――ンンっ……!」
 テレジアは感触に驚いたような、予期していなかったような声を漏らした。
 其の我に忘我して耽りつつあった少年も我に返って、顔を離し、キスを中断させる。
 荒い息遣いの二人が、至近距離で熱っぽい吐息を混ぜ合わせながら――テレジアは、少年よりは落ち着いてはいる。いや、正直な処、似たり寄ったりだが――濡れた視線を絡ませ合う。
 完全に弛緩している少年とは対照的に、少し蕩けた程度の表情を見せていたテレジアだったが、ふぅと大きく息を吸い込むと、対峙する彼を包み込むような艶かしさが戻った。
「これでマンネリだなんて……スミちゃんは贅沢者ね」
 テレジアの意外そうな言葉を、取り合えずキスは合格らしいと、少年は受け止めた。
 感嘆を表していたのも束の間、慣れているらしいと経験の量を想像させられる事に、
「何時動くか分からないし。次に行きましょうか」
 そう言って、テレジアは一つ咳払いをしてから、直ぐに弛緩していた佇まいを直した。
 感情を制御出来る辺りも経験の量を連想させる。だが、甘美さに耽るのを堪えるような、焦りを隠すようにした振る舞いから、先程までの冷静さが少しだけ崩れている事が伺える。
 どうやら、今しがたの少年の舌遣いは、想定外のものだったらしい。
 尤も。熟した女らしい、本心を伺わせぬ悠然とした様から、幼い少年が機微を読み取れる筈も無かったが。また、仮に少年が――今ので感じたんだな。それを隠そうとしたんだな――と、読み取れたとして、ソレが本当のものか否かを判別出来る訳も無い。テレジアが相手ならば尚更だ。
「――それじゃ、今度はコッチに、ね」
 感慨に耽っていた間に気が付けば――本当に、無意識に熱を帯びていた情熱さからか、はたまた、意識的な演出からか――テレジアが互いに小柄な身体同士、互いに肉付きも色も薄い唇同士の密着、一方的な舌同士の摩擦を一層に強めんと浮かしていた腰を落としたかと思うと、少年に向かって大きく、ストッキングを纏う細い両脚を、扇情的なショーツに覆われる股を開いて見せた。
 開きながら太腿の上に肘を乗せ、首を傾げるようにしながら頬杖を付いている魅惑的な姿は、まるでモデルのようである。無論、より性的な要素の強い類なのは云うまでも無い。
 ストッキングとショーツに覆われた下半身を男に晒しているというのにも関わらず、恥じらいなどなく、寧ろ誘うように微笑んでいるのも、そう思わせる要因の一つかもしれない。
 狭い密室の中、二人きりの状態で熟れた美女に――服装こそ少々野暮ったさがありながらも、儚げな感のある美少女だが――そんな格好を見せ付けられては、心中に抱いていた恋人に対する罪悪感も簡単に成りを潜めてしまい、眼前の光景、其のポーズに凝視するしかない。
 そして、当然の反応と云うべき事に、ズボンやトランクスの中で、何とか収まっていた逸物にも、今にも布を破りそうな程に血液が充填されている。
「――どうしたの? そんなに、元気にして」
 テントを張っているような股間に視線を注ぎながら、テレジアが愉しげに嗤う。
 浅ましい思考を指摘されたような気がした所為か。少年は羞恥を覚えて、遅蒔きながらに股間を両手で覆って隠すようにすると、くすくすと耳を擽るような苦笑が鼓膜を揺らした。
「若いんだから、そうでなくちゃ」
 テレジアは翡翠色の瞳と同様に、全体が大きい目を細めて、嬉しそうにしている。
 事実、嬉しいのだろう。
 ジーンズの股間の様相が示している肉体的で生理的な反応はつまり、親子程に歳の離れた少年から女として見られ、欲情されている、肉体的で生理的な証左である。
 今までの言動を見ても分かるように、見た目とは反する程に歳を重ねても尚、性の艶を絶やさぬ彼女にとって、其の事実、其の実感は何よりも悦ばしい事なのだろう。

でなければ、露に見せ付けているスカートの陰の中、黒いレースのショーツ、透けている恥毛の下、触れられても無いクロッチに、一筋の染みを、薄い裂目を浮ばせてはいないだろう。

「ほら――おいで」
 初めて対面した時とは別人と思える表情と声で、美少女と見紛う美熟女が少年を誘う。
 何処に誘われているかは聞くまでも無く、少年は股間の窮屈さの為に立ち上がれず、床に手と膝を突いて四つん這いの格好になって、一歩ずつ、一手ずつ、じりじりと近寄って行く。
 目的の場所に、視線の熱で焼け付きそうな熱視線の凝視を直向に注ぎながら。
 臀部から生えている尻尾は、今はズボンの中に隠れているとは云え、もし露出していたならば、其の様子たるや、正に主人の下に擦り寄る犬のようであっただろう。
 少年の有様に、テレジアは、くつくつと喉を揺らしている。唇に指を置いているのが、まるで、にじり寄って来ている彼の肉棒を、熱くて広い口腔に咥え込みたそうに、熱くて饒舌な舌で舐め回したそうに、淫らに饒舌な口内粘膜で責め苛めたそうである。
 そうして、少年は、ストッキングとショーツの中に在るが故の蒸れも相俟って、濃密な股間の香りが、嗅がずとも、鼻腔に漂ってきそうな距離に肉迫した。
 テレジアは彼の頭と、前脚と化している腕に手を添え、開けっ広げにしている股座に導く。
 少年の指先に、ストッキングの滑らかなのと、其れ越しの堅いレースの質感と、蒸れている所為か――或いは、別の水気のせいか――微かな湿気と滑り気が広がる。
 すると、眼前の眼下で跪き、股に顔を寄せる彼の耳に、テレジアは顔を寄せ、そっと囁いた。
「……破って」
 そう言われて「え?い、いいんですか?」とそれを破る事を許可された驚きからではなく、彼女が身に纏う衣服を破くことに躊躇いを覚えて、少年は質問すると、テレジアは微笑を湛えて「あら、知らないの?」と逆に聞き返す。
「パンストはね――男に破かれる為に履く物なのよ」
 其れが世間一般、乃至、其の裏に隠されている常識か否かは、少年には分からなかったが、少なくともテレジアには常識であり、また、主義思想のようなものなのだろう。
 脱がせるために腰を浮かす気は無いらしく、その奥を触る為にしょうがなく――それでも、何処か期待に胸を躍らせながら――少年は「し、失礼します」と律儀に声を掛けて、ストッキングの股の縫い目を爪の先で挟むようにして掴むと、左右に引っ張っていく。
 ピリッ、ピッ、と伝線の音を立てながら、黒が開かれていく。
 以前に風邪をひいた際に見た、スミカを犯す夢でも行なった、女の恥部を暴き出す行為に冥い昂奮を抱きつつ、更に破いて行くと、彼女の扇情的なショーツの股間部が露となった。
「先ずはショーツの上から」
 心構えが出来ていなかった内に、早速、行為に及ぶように言われ、少年は「は、はい」と焦りながら返事をして、其処にぐっと顔を寄せる。すると、暗かったから今まで見えなかった、彼女の秘所を覆う布の中心辺りに、小さな染みが出来ていることに気付いた。
 何処に狙いを付ければいいかと云うことが分かったのに加え、言葉以上に許されているのだと云う実感を得て、今まで抱いていた一抹の不安も消えていくようであった。
 首と一緒に伸ばした舌の先に力を込め、微かに香り立つ染みの中心に突き出して、
「……ンっ」
 突き挿すように押し込んだと同時に、奥から更に液体が湧き出た。
 同時に、決して大きな反応ではなかったが、テレジアは確かに身体をぴくりと震わせた。
 先端を押し付けた舌で、布に染みているだけでの僅かな液体を舐めただけで、仄かな酸味が口内に広がり、残滓が漂っていたメントールの香りを掻き消していく。
 布の上から秘所に舌先を捩じ込むように、ぐりぐりと回し、秘唇の淵を刺激していく。
 すると、テレジアは彼から逃れるように腰を引いた。
 其の反応、様子に、膝と股の間から少年は面を上げて、戸惑ったような顔でテレジアを見上げる。
「大丈夫よ。痛かったりした訳じゃないから、安心して。気持ち良いのに、何故か腰が引けちゃう事は、君も経験あるでしょ? だから、こうやって――」
 テレジアは少年の手を掴むと、腕で自分の下半身を囲わせるように導いて行って、
「そう成らないように、逃がさないように――確りと引き寄せるの」
 細い指先で小さな手の純白の肌に包まれる甲を擽るように撫でつつ、指同士を絡み合わせるように擦れさせながら、尻肉の上で固定させた。
 此れで確かにテレジアの、彼女の下半身の逃げ場は無くなって、彼の手の内、と云う格好になった訳だ――勿論、逃げるつもりは毛先程も無いだろうが。
 そうして、少年は言われた通りに、テレジアを、強引に引き寄せ、中心に顔を強く埋める。
 責めているのは彼であるが、顔面で腰を突き上げるようにしながら必死に舐めしゃぶっている様は、どことなく従順な犬を連想させるものがある。
「あぁっ、あ……ふぅ、ン……っ」
 最早、許しているのか、貪られているのか、分からなくなる事に。
 子犬の舌めいた蠢きを敏感な秘唇で感じ取る彼女であるが、口唇奉仕が薄布の上からである為に、もどかしいらしく、擽ったそうに身を捩じらせている。
 しかし、あくまで、自分が教えていると云う立場を崩さないようにと、
「こうやって、ぐしょぐしょにされると、もどかしくって、直接シて欲しくなっちゃうのよ」
 言葉を紡ぐ事で、多少なりとも気を紛らわせようとしている風だ。
 しかし、そんな気丈さも、少年の舌が肌触りの良いショーツの上で、つつっと上に向かって滑って行って、布が薄い所為で彼からは良く見える、ほんの小さな膨らみに触れた途端、
「――ンンっ!」
 テレジアは一際甲高く、一際大きな、甘い声を上げた。
 敏感な場所を弄られる快感に耐えるべく、食んでいた指に、くっきりと小さな歯形が残る。
 根っからの素直な性格であるだけに、純粋に褒めて貰いたいからか。少年は反応著しかった、布を押し上げる陰核に狙いを絞って、舌を這い擦り回らせ出す。
「ンンっ! あっ、ン! あぁンっ!」
 無意識か、意識的にか、少年には判別が付かなかったが、テレジアは奉仕を、より享受しようと、一層に腰を浮かせて出す。接触が強まり、陰毛が薄いショーツ越しに、少年の鼻先を擽る。
 下から舐め上げるように、秘唇に舌を沿わせて行って、陰核に舌先で触れる。続けて、今度は今のを逆行するように最初に陰核に触れて、秘唇を舐め下げる。そのように舌を大きなストロークで上下させていると、不意に舌先に感じる肉の感触が強くなった。
「はっ……ふぅ……」
 どうやらテレジアがストッキングの中に手を入れて、ショーツを股間に食い込ませるように引っ張っている。
 時折、少年の舌の上を布が滑っていくことから間違いない。
 湿った布に浮き上がっていた秘唇の形が、引っ張られることでより浮き上がり、愛液が染み出ている様や、陰核がひくりと震えているのもはっきりと見えていく。
眼の前で自慰を見せつけているような彼女を手伝うような心境で、彼は湧き出る愛液を音を立てながら啜る。
「うぅんっ!もっとよ、もっと恥ずかしくさせるのっ!」
 狭い箱の中に響く淫らな水温に酔いしれるテレジアが腰をかくかくと振り始める。
 その動作から絶頂が近いのだと予測した少年は、一気に吸い込んだ後、口先を秘唇の中央から屹立する陰核に移して、同じように強く吸い上げる。
 その瞬間、テレジアの小柄な身体が彼の眼の前で、そして口中で陰核が震え
「あっ! あぁ……っ!」
 甲高い断末魔と共に絶頂を向かえ、噴出した愛液によってショーツが更に濡れた。
「ふぅっ……」
 床に背中を預けてひくひくと痙攣しながら余韻に浸るテレジアの股間から顔を離し、愛液と唾液に塗れた口許を拭う。
 見下げていると、虚空を見つめていた彼女が顔を上げて「すごく上……」と惚けたように呟いた。
 だが蕩けた顔であったのが、すぐに試すような笑みに変わり、座る彼に向けて下半身を浮かせた。
「もっとイイ方法を教えてあげる」
 持ち上がった脚少年の肩に太腿を引っ掛けられた。当然、彼の眼下に浮いた股間が向けられることになる。
「ほら、このまま私の体を抱えて?」
 やはり言われたままに引き寄せてから、テレジアの身体を抱えると、その光景は想像以上のものであった。
 腰を持ち上げる彼女の格好は、先よりも更に逃れることが出来ないものになっており、否応なしに征服感を感じる。
 更に股間に眼を向けると、黒いショーツのその先に彼女の顔が見えるのだ。
 これは女性のほうにとっても、相当に屈辱的な姿勢であろう。
 するとテレジアはその格好のまま、「スミちゃんはあれで意外とMっ気があるからね、これは喜ぶはずよ」とそれを証明する。
「はい。次はどうすればいいでしょう?」
 問題を解かせるようにテレジアはそう言ったものの、実際のところ、それに意味は無かった。
 何故ならば、彼女の視線は男に捧げているような自身の股間に向けられているからだ。
 少年は緊張と興奮を携えた面持ちで頷くと、眼前のショーツをずらして、彼女の秘所を曝け出す。
 スミカのよりも小さく見える濡れそぼった秘唇は、それでいてぷっくりと肉付きがよく、先の刺激のせいでひくひくと物欲しそうに震えており、其処からは綺麗なピンク色の膣肉が覗いている。
その上で同じように物欲しそうに、存在を主張している陰核はまるで銃の照星のようだ。
 その存在しない銃口の先には真っ白な肌を興奮によって上気させているテレジアの顔がある。
「この格好だと私からどう見えているか分かる?」
 問題を解かせる教師のようでありながらも、愉しんでいるのだと分かる喜悦を含んだ口調でテレジアが彼に問い掛ける。
 だが答えは分からず、「いえ……」と返すと、
「ふふ、私からだとね……おまん○を責められているのが良く見えるの」
 その瞬間、彼は秘唇の奥からとろりと愛液が溢れるのを見た。照明に反射したそれは秘所を輝かせながら伝っていき、やがて陰毛に埋もれていく。
 そんなものを見せられては、そして聞かされては少年も我慢が利かなくなり、貪るように再び彼女の股間に顔を埋める。
「あぁっ!はぁあん……!」
 秘唇を割って膣内に侵入した舌がうねる肉壁に引き込まれながらも摩っていき、腹を抱き寄せていた両手は、片方が下がって細やか胸の膨らみごとシャツの上からでも固くなっていると分かる先端を捏ね繰り回し、もう片方の手の指先で唾液に塗れている陰核を摘むと、テレジアは更に甘い牝声を上げた。
「あんっ!そうっ そうよ……それ、イイのぉ……」
 三点を同時に責められ、膣口が少年の舌を根元から締め上げていく。
 彼女は脳を溶かすような甘い小波に意識を委ねたいのだろう。しかし眼を瞑ろうとはしているのだが、それでも眼の前で犯されている恥部を見ようとして、細くなった双眸が、妖艶さを引き立てている。
 快感に震える度に膝が少年の頭ごとぎゅっと内に向かって抱えていき、それによって、より秘所への快感が強くなっていく。
「ね、ぇ……っ、私の脚を掴んで……」
 快感に耐えながらも、テレジアが三度彼に指示を下す。
 少年は責めの手を緩めてまでも、する意味があるのだろうかと考えながらも、それに従い、肩に掛かっている彼女の足首を掴むと、華奢な脚は掴んだだけで壊れてしまいそうだと思った。
 すると、テレジア自身の力によって、ゆっくりと彼女の両脚が開かれていく。
 その過程で彼が見たのは、脚と同じように開いていく秘唇であった。
「どう?中々、クルものがあるでしょ……?」
 気付いた時には完全に少年は眼の前の女を支配していた。
 力ずくで腰を持ち上げ、股を開かせている上に露出している秘所は中の肉まで暴かれている。
 そう考えた瞬間、居ても立っても居られなくなり、座っていた自分を膝立ちにさせることで、より彼女の腰を浮き上がらせる。
「きゃ……」
 ぐいと身体を引かれたことで、テレジアが驚いたような可愛らしい声を上げ、それも彼の興奮を奮い立たせる一つになっていくようであった。
 その細い身体を折り畳まれるようにされた彼女は、少年によって更に脚を広げられた。
そして、恥じらいを見せるその顔から、直ぐ眼の前で――、
「やぁぅっ!」
 膣内に再び舌を捩じ込まれるのを見せつけられた。
 根元まで挿入した弾力を持つ肉は魚が跳ねるように暴れ周り、壁、天井、床を問わず、蜜壷の内部を蹂躙していく。
 差し込まれたまま暴れるだけではなく、肉棒によってそうするように抽迭を始め、愛液と唾液が交わった混合物が舌によって攪拌されて、粘ついた音を立てる。
「あっ、あっ、ンっ! イキそう……っ、おまん○、イっちゃう……!」
 半開きとなった口から唾液と淫語と嬌声を垂れ流し、テレジアの身体ががくがくと震え出し、それに合わせるように少年が頭を激しく上下させる。
「あぅぅぅっ!あっ……! で、出ちゃいそう……! 出るっ……!」
 テレジアが何事かを繰り返し始めたが、熱心に責めを続ける彼には聞こえていなかった。
それに構わずに頭を上下させつつ、舌を縦横無尽に走らせたときであった。
「うぅんーーっ!」
 テレジアが叫びながら一際強烈に膣を収縮させると、挿し込まれた舌を押し退けるように中から液体が噴出し、少年の口内に注がれていく。
 口腔にそれを収めていく彼であったが、気道にまで飛び込まれ、少しむせ返りながら顔を離す。
だが、なおも勢いの止まらぬそれは、やがて雨のようにテレジア本人に降り注いでいくと、白いシャツに跡を残し、果ては髪や顔を濡らしていった。
「はぁン……はぁ……はぅ……」
 眼鏡の下で曇りを見せる彼女の眼。
 しかし、レンズの上に居座る水滴が身体の痙攣によってプリズムのように光を乱反射させ、その眼が爛々と輝いているようにも見えさせるのだった――。

 それからもテレジアによる幾つかの手取り足取りの授業は続いた。
 責めて絶頂に誘っても、直ぐに体力を回復する彼女の絶倫ぷりに驚かされながらも、言われた通りにこなしていった。
 そして、彼女が「ここら辺にしておきましょうか」と言ったのを聞いて、荒く息遣いをしながらへたりと座り込む。
「はっ……はっ……はっ……」
 フェロモン臭によって包まれたエレベーター内の凝った空気を肺に送り込んでいっていると、オーダーマッチ後の雰囲気に戻ったテレジアが「よく頑張ったね」と褒めるように彼の頭を撫でる。
 ――これでスミカを喜ばすことが出来る。
 少しの罪悪感と達成感を抱きながら、呼吸を落ち着かせてから感謝の言葉を彼女に掛けようとした時であった。
「――さて。それじゃあ”授業料”を貰うわよ」
 それを聞いて、え?と聞き返しながら、視線を上げる。
 ――授業料。
 少年は単純に金のことだとは思わなかった。
 彼が見たのは、一瞬で室内の牝の臭いを凝縮させたような雰囲気を放つテレジアだったからだ。
「ほら、立って」
 すっと腕が差し出された。だが少年がそれを取ることはない。
 まるで駄々を捏ねる子供のように床に座り込んだままである。しかし、明確な拒否を表わしているわけではなく、困惑しているのだ。
 本当に、本当に彼女は自分の思っていることを求めているのか、と。
 少年が疑惑を抱いて逡巡していると、テレジアは彼の肩口辺りに向かって突き出していた腕を、その少し上、彼の首元まで上げていき――
「――わぁっ?!」
 その細い腕からは想像も出来ないような力で、革製のチョーカーを掴むと、お痛をした猫を叱る時のように、少年をぐいと持ち上げた。
 喉の方から掴まれたために、首が絞まることはなかったが、立たされた身体が壁に叩きつけられて、衝突音が鉄の箱の中に響き、彼の動揺を表わすように空間がぐらりと揺れた。
大したものではないとはいえ、背中に走った鈍い痛みを感じつつ、テレジアに睨む眼を向けようとしたが、
「……ッ!」
 頭の直ぐ横を掌底が掠めていき、再び鈍い音がエレベーター内に響くと、少年は慄いて身体を硬直させる。
 そして、ずいと寄せられた無表情の顔に真実、恐怖を抱いた。
「ぼうや、分かってないわねぇ。私はリンクスなのよ?」
 報酬を受け取ることが至上の目的である、ということを示唆しているのであろう。それは同じ稼業についている少年はよく分かることである。
 だが、報酬なら既に支払っているはずである。というのが彼の考えであった。
「で、でも……テレジアさんは、そ、その何度も……」
 流石にこの状況で当人を眼の前にして、何度もイッたのだから、とは言えないので口篭る。
それに今までのことはあくまでスミカのためにしたことなのである。”それ”を許したら、彼女を裏切ることになるという思いがあったのだ。
だがテレジアは彼の反論を、そしてその心中の想いを嗤うように頬を歪める。
「私がイッたのは、あくまで授業の結果よ。例えば、1+1=2と教えたとする。私が教えたのは+に当たる”式”なの。でも、それだけじゃ不十分。2という”答え”を導き出せないようにしなきゃ意味が無いのよ。そして、この場合、答えは……」
 ――絶頂。
 そういうことなのだろう。一理あると少年は思う。それどころか正しいとさえ考えている。
 ならば、彼女の求める”報酬”を差し出さねばならないのかもしれない。
 だが、やはりスミカへの想いがそれを阻むのは当然のことだろう。
 しかし、この狭い室内は既に彼女のテリトリーと化しているということを彼は忘れていた。
「うあっ?!」
「ほら、固くしてるじゃない」
 テレジアが細い指先で少年の股間をそっと撫で上げながら囁いた。
 その突然の――予測できていたかもしれないが――行動に驚愕を、そして艶を含めた声を上げてしまう。
 ぴくりと身体を震わせた彼の反応など、気にする素振りすら見せることの無い彼女は、手を下にずらすと、いきなりぎゅっと手を握り締めた。
「あぅ……」
「この中のを出したいんでしょ――若いんだから。一回ぐらい出しても気付かれないわよ」
 掌握された睾丸をもぞもぞと刺激され、少年は拒否どころか全ての意思が消えていくような感覚に捉われた。
 テレジアが獲物と化した少年の耳朶をしゃぶりつつ、下半身を弄んでいる。
 端整な横顔が嫌々ながら快感に歪む様は見ていて愉しい事この上ないといった表情だ。
 そして、空いていたもう片方の手も股間に遣り――
「あ……っ?!」
 慣れた手付きでジッパーを開いて、ズボンの中からするりと肉棒を取り出し、手で触れた。
 細く滑らかな指先が手触りや固さを確かめるように勃起した陰茎に絡み付いていく。
 そして更にそこに血液を集わせるように、柔らかい掌で包み込むと上下に擦り始めた。
「ふぁ……!」
 快感によって少年の身体から力が抜け、先程見せていた拒絶もどこへやら、快感を享受し始める。
 張り詰めていた腰が彼女の手淫を受け容れるように気の抜けたように落ちていったが、輪を作る指が出っ張りに触れる度に突き出すように浮き上がらせる。
「汁がこんなに出てきたわよ?」
 先端から溢れ出した先走りを指先で絡め取って竿に塗り込み、手淫の潤滑剤にしながら、鼓膜に責めの言葉を囁くと、それに反応するように更に熱が沸きあがっていく。
 行為を止めさせようと、上下する腕に手を掛けてきたが、小さな甘い嬌声が口から零れており、その動作に説得力は無い。
 だが愉悦の笑いを漏らしながらも、テレジアは手をぴたりと止めた。
「さて……」
 準備を始めるような一言を残して、少年から離れて背を向けると置いてあるハンドバックに手を入れて、何かを探し始めた。
 下半身のものを露出させたまま、肩を揺らして荒く呼吸をする彼が呆然とそれを見る。
 やがて、目的の物を見つけたのだろう、テレジアが屈んでいた身体を持ち上げて振り返った。
 その手には、銀色の包み紙に包装された四角いものが握られていた。
「これじゃ、まるで保健体育の授業ね?」
 テレジアは茶化すようにそう言うと、包装紙を破って、中からコンドームを取り出した。
 いつも常備しているのだろうか――惚けた頭で少年が場違いにもそんなことを考えたが、遅まきながらもそれの唯一の使い道を思い出した時には、やはり手馴れた手付きでテレジアがそれを彼のものに、装着を終えていた。
 ――本当にマズい。
 既に股間を密着させたテレジアに拒否の意思を示さなければと思い、少年は焦燥感の滲み出る表情で口を開こうとしたが、
「そんなにイヤ?」
 と、先程までの強気な態度を翻すようにテレジアが何処となく淋しげな表情と声色で彼に問う。
 その様子に可愛らしさを感じて、胸が締め付けられたような気がしたものの、「当たり前です!」とあくまで拒否を示した。
 すると彼女は考えるように顎に手を遣りながら天井を見上げる。少し経ってから何かを思いついたように、少年に視線を戻し、「じゃあ、こうしましょう」と提案を始めた。
「これが最後の授業ってことで。内容は、そうね――責められ方」
 勝手に話を進める彼女に当惑しながらも「……何を言ってるんですか?」と呆れたように聞くと、
「さっき私、スミちゃんはMだ、って言ったけど、Sなところもあると思うのよ。君は知ってるでしょうけど」
 少年の問いには答えずに持論を展開し始めた。
「それでね、男は声を上げるのを我慢しがちなの。でも男だって責めている時に女が喘ぐと嬉しいでしょ?それは女も同じ。だから」
 当然の如く、呆然となる少年を無視して尚も続けるテレジアであったが、そこで切ると――、
「――ああっ!」
「ンンっ! ――君が喘ぐ練習をするの」

油断していた少年の肉棒を一気に自身の膣の中に迎え入れた。

「抜いて、抜いて下さい……っ!」
 壁を背にしている少年は後ろに逃げることも出来ずに結合してしまっている。
 震える手で彼女の肩に手を当てて、押し退けようとするも、普段彼がスミカにするように強く腰を突き出すテレジアの抽迭を受け、快感に仰け反る。歯の隙間から漏れ出るような「く……ぅ」という声を出してはいるが、耐えようとしている。その抵抗を嘲笑われるように腰を掴まれ、
「ほらぁッ!」
「あぅううっ!」
 嗜虐極まりない笑みを浮かべたテレジアによって犯されるように全身を引き寄せられ、その膣肉のうねりを堪能させられる。
 そのまま腰を小刻みに揺さぶられ、手でそうするように、ペニスを扱かれる。
 屈辱と背徳が交じり、少年の脳を溶かしていく最中、それに拍車を掛けるように彼女が抽迭を続けながら囁く。
「おち○ち○、気持ちいいんでしょ? もっと声を出していいのよ?」
 それでも少年は男としてのプライドとスミカへの操を理性の最後の砦となっており、そして後者の方が精神を支える上で重要であり、「僕には、スミカさんが……」と嬌声を滲ませながらも、誘惑を撥ね退けようとする。
「スミちゃんはここにはいない、あなたと私の二人だけ。だから思う通りに――」
 ――感じていいの。
 その言葉が彼の中の牡を表出させようとする。
 自分を凌辱している女の腰を逆に掌握し、肉棒を挿し込もうと腰を僅かに引いた。
だがテレジアはそれを読み取り、「でも、これはあくまで授業だから君は動かなくていいわ。いえ、動いちゃダメ」と釘を差す。
 屈服したことを悟られた少年は観念したように、言葉通り、為すがままとなって突っ立ったままで僅かに嬌声を漏らすだけとなる。
「でも、その代わり――声は出しなさい」
腰を前後に遣いながら、命令を下す。
「――ぁっ」
 言われたままに少年の喉から小さな音が漏れる。
 だが、僅かでしかないそれは、まるでダムの決壊の始まりのようであった
「――あっ! あぁっ! あぅっ!」
 少年の透き通る美声が快感によって上擦り、男すら狂わせそうな嬌声と化す。
それを搾り出そうとするかのように、脈動する肉棒を咥え込む蜜壷が自身の奥から溢れ出させている愛液を塗り込むように、泡立てるように抽迭を繰り返し、淫音を上げる。
 それらの音が混じり合いながら、鉄の箱の壁に響き、反響し、二人の脳髄に染み渡っていく。
魔性に当てられたように女のように喘ぐ少年であるが、そうさせているテレジアもまた酔いしれている。彼に反応を求めながらも、時折ではあるとはいえ、同じように甲高い声で喘いでいる。
 片や自身を責めながら、片や愉しみながら快感に身を委ねる情事に終わりが訪れようとしていた。
「はぁぁっ!もう、もうっ!」
「いいわよっ、イッていいのよ――イきなさいっ!」
両者が叫びながら互いを求めるように腰を前後しだし、より激しくなった抽迭が結合部から風呂釜を掻き回すような水音を立てる。
 まるで恋人の身体に縋るように抱き締め合う二人の身体の熱が重なり合い、限界を溶かしていく。
最後を導くようにテレジアが膣口を締め上げながら、肉棒をずるりと奥底まで収めた瞬間――、
「――うぁああああっ!」
「くうぅっ、うぅっ、ン、ンン~~……っ!」
 肉茎がゴム越しに淫肉に律動を伝播させ、熱塊を袋の先端の余剰に溜まらせて行くのを、畝り痙攣して蠢く蜜壷が肉柱を撫で擽り摩り舐め回し、それを手助けしていく――、

「――ご、ご無事ですかッ?!」
 エレベーター内に久しぶりに光と空気が入った途端に慌てふためく男の声も飛び込んできた。
 恐らくカラードの職員だろう。中に居るのが二人の内、一人は企業お抱えのリンクスである。もし何かあったら首が飛ぶだけでは済まない。
 自己保身から――多少なりとも、閉じ込められてしまった人間の事を心配する気持ちも含まれているだろうが――顔を青ざめているのだろう。
「あぁ、ありがと」
 だが返って来たのは到って平穏な声であった。
 よっこいしょ、と言いながら立ち上がったミセス・テレジアが背筋を伸ばすようにしながら歩きながら、整備員や職員、果ては警備員までもがいる中、心配そうな顔をしているスミカに近づいて、「心配した?」と簡単に言ってのけた。
「全く。少しは深刻そうにしろ――アイツは?」
 そんなテレジアに呆れ返りながらも、眼の前にいる当人の以上に不安気な表情を浮かべて、もう一人のことを聞くと、テレジアは袖からなんとか見えている親指を背後の方に突き出した。
 スミカが職員達を掻き分けながら、押し退けながらエレベーターの前に行くと、狭い箱の隅で少年が丸まるように膝を抱えて座っている。
「平気か」
 他人からすれば口調こそぶっきらぼうではあったが、駆け寄る際の速さと、背中からでは伺えない彼女の表情はこの一時間に渡る不安を凝縮させたようなものであった。
彼の肩に手を掛け、弱く揺すると、「あ……スミカさん」と少年は昼寝から目覚めたような顔で彼女を見上げた、
 そんな彼の様子を見て「心配して損したよ」と溜息交じりに愚痴を零すと、職員の山の向こうから「あら、心配したの?」とからかうような声が飛んできた。
 その野次を無視して――少しだけ苛立ちを込めるように――彼の腕を引っ張りながらスミカが立ち上がり、吊られたような格好になる彼を伴って、エレベーターの中から出ると、それぞれが様々な表現をしているとはいえ、安心しているのだと顔を浮かべる人々が二人に道を譲る。
「スミちゃん。私、帰るから。じゃあね」
 既にエントランスを抜けようとしているテレジアが腕を、というより服の袖を振りながら、そう言って帰っていく。入り口を抜けるまで職員の一人が横に付いて謝っていたが、テレジアは気に掛ける素振りすら見せていない。
「何なんだ、あの余裕は……」
 毒づくように呟くスミカであったが、
「どうした、気分でも悪いのか?」
大人しく、というよりは静かに過ぎる少年に心配したように声を掛けると、「あ、あの。ずっと狭いとこに居たせいかも……」と元気の無い声が返ってきた。
「ネクストのコアの中よりは広かったろうに」
 それを聞いて軽口を叩くスミカであったが、その瞬間、肩に掛けていた手の力が強くなり、足取りが速くなったのを少年は感じた。
 だが、それに感慨を抱く暇もなく、既にテレジアの姿は無かったとはいえ、彼の脳は頭に焼き付いた彼女の姿と声を思い浮べていた。

 電子的に遮断された扉が物理的に抉じ開けられたのよりも少し前。
 テレジアは、徐に少年の肉棒から取り外したコンドームを恭しく掲げる。
 どうするのかと、倦怠感に包まれながら眺めている彼に見せ付けるように、空に向かって突き出した舌に垂らすように、袋を引っ繰り返してから、中にたっぷりと詰まった、こってりとした白濁塊を、口中に迎え入れ始めた。
 時間を掛けてコンドームが空に成ると、其れを放精した本人に確認させるように少年に視線を送り、クチャクチャと唾液と精液が交わる音を響かせながら咀嚼し始める。味わったモノをゆっくりと何回にも分けて嚥下する度に「ン……」と小さく喉を鳴らし、やがて口腔も空にすると一言、
「――御馳走様」
 と、艶っぽい笑みを浮かべながら言ってのけたのだ。
 そうして”授業”を終えると、テレジアはポケットから禁煙パイプを取り出すと、精液の臭いを掻き消すようにメントールの香りを吸い込みながら、空になったコンドームをバッグの中から小さいビニール袋の中に入れてぎゅっと口を縛る。それを放り込んだ後、香水を取り出し、さっと自分とエレベーターの中に振りまいた。
 恐らく、それも臭いを消すための工作なのだろうと、行為後床に座り込む少年が多大な罪悪感と共に彼女の行動を眺めていると、またもバッグの中から何かを二つ取り出した。
それは銀色の紙に包まれた小さな四角であった。
 彼はテレジアが先程捨てたコンドームを思い浮かべて、どきりとしたが、そんな彼の心中に気付くこともなく彼女は一つの紙を丁寧に開き出す。
 中から出てきたのは、透き通った白い固形物だった。
 指で摘んだテレジアがすっと彼の元に寄って来て、指ごとそれを口内に突っ込んだ。
「んむっ?! ……ん?」
 彼女の突然の行動と口腔に異物を入れられたことで驚く声を上げたが、口内に広がる清涼感を感じて、その正体が判明した。
 ハッカ味の飴、だった。
 少年はテレジアと接吻を行なった。そして彼女はその前に禁煙パイプを使っていた。
 ということは彼の口内からもその香りが幾分かする筈である。そしてそれを隠蔽するために、彼女は同じ香りのする飴を食べさせたのだろう。
 テレジアは一つを彼のポケットの中にも入れたのも、彼女から貰ったという印象を強めるため。
 その手際の良さというか、用意周到さに少年は感服するばかりであったが、一つ気になるのは飴を入れるために一緒に入った指が、まだ自分の口の中にあることである。
 そのことを疑問に思っていると、その指先が彼の内頬や、口蓋をなぞり始めた。
 口腔を撫でられるくすぐったさに身を捩るも、何故か逆らえずに弄られ続ける。
暫くしてから指がゆっくりと抜かれていき、ハッカの香りのする唾液が唇と彼女の指の間で銀色の糸を紡ぐ。
 すると、テレジアは唾液交じりの自分の指を咥えて、アイスキャンデーを食べるようにしゃぶり始めた。
 ちゅぱちゅぱとフェラチオのような淫音を立てる光景を陶然としながら眺めていると、ほぅと甘い溜息を吐きながら彼女は今度は自分の唾液に塗れた指を抜いた。その指を下から上から様々な角度で愛おしそうに眺めてから少年に視線を移し、微笑すると――、
「――頑張ってね」
 と、言ったのだった――。
 テレジアによる授業を受けることになった日の深夜。
 少年はベッドの中で罪悪感を抱きながら、壁の方に身体を向けながら丸まっていた。
天井の照明が落とされてはいるが彼の背後からは明かりが漏れており、カタカタとキーボードを叩く音が聞こえている。
 何時頃からか、少年とスミカは同じ部屋でベッドを共にすることになった。元々彼女のベッドは一人分にしては広かったので丁度良く隙間が埋まっている具合である。
彼の記憶が正しければ、おそらくスミカが風邪を引いた日の後から、この習慣は根付いていた。
 事務仕事を終えたのだろう、タイピングの音が止まると同時に伸びをするスミカの「ん~」という声と、骨の関節を鳴らす音が聞こえる。
 デスクのスタンドの灯が落ち、部屋は暗闇に包まれた。
 寝巻きに着替えていたスミカがほんのりと温まっているベッドに入る気配がする。
 そして彼女は自分に背を向けている少年に「おやすみ」と一言告げると、彼の頭に一つ口付けをした。
 彼はこの瞬間がたまらなく幸福である。
 だからいつもはどんなに眠くとも、どんな姿勢であろうと、身体を彼女の方に向けて額にしてもらうようにする。頬や口の時もあるが。
 だが今夜、彼は寝たふりをした。
 どうしてもスミカの自分に愛情を一心に注いでくれる眼を見ることが出来なかった。
胸中の罪悪感を消すために彼女を押し倒して愛を伝えたり、または謝るという手段もあっただろう。
だがどちらも彼には出来なかった。
 前者をすれば否応なく彼女の眼を見ることになり裏切ったことを痛に実感しなくてはならなくなる。後者は真実を語ることになり、彼女に愛想を尽かされてしまうかもしれない。
 スミカに捨てられることは、彼にとって死と同義なのだ。
 だから少年はこの罪悪感が消してくれるのを時の流れに任せることにした。
 明日になれば忘れられる。スミカの眼を見れる。
 怯えながら、そして背後の彼女に心の中で謝罪を繰り返しながら、床に就くのだった。

「う……」
 穏やかな心中でなかったせいか、眠りが浅かったらしく少年は目覚めた。だが、暗闇というわけではなく、常夜灯の仄かな光が天井に灯っている。
寝返りを打っていたのだろう。眼の前には壁ではなく、天井がある。
頭を横にするだけでスミカの姿を眼に入れることが出来るだろうが、そうすることはせず、また出来ない。
ぼんやりとした思考の中でも、罪悪感が募り出し、憂鬱な気分になり始める。
そんな風に暗い感情に心が占有されそうになった時であった。
下半身からむず痒さ、側頭部には温かい風が当たっている感覚がした。
何だろうと思い、前者を確認しようと下半身の方向に眼を遣ると、掛けていた筈のシーツがない。
 だが、その代わりに、
「え?」
 下半身が、そして自身の勃起したペニスが露出していた。
 更に立たせるように支えている手があることにも気付き、それが伸びている方を見るように頭を傾けると、直ぐ眼の前に顔を上気させているスミカの姿があった。
 人間の感覚とは不思議なもので、さっきまでは感触も鈍かったというのに、いざ認識をすると急に神経が鋭敏になっていき、小さく声を鳴らす。
「あっ……」
「やっと起きたのか」
「な、何をしてるんですか……スミカさん」
「分からないか? お前のを扱いているんだ」
 はっきりと直接的な表現でそう言いながらも、スミカは戸惑う彼の顔に熱い吐息を浴びせつつ、手淫を続けている。
 快感によって薄くなっていく視界の中で、なんとか彼女を捉える。頬を歪ませていることから、どうやら楽しんでいるということが分かる。
突然、陰茎を撫でるように摩っていた手が、根元から先端まで一気に駆け上っていき、
「うぁっ!」
 仰け反り、汗が滴る細い首筋が曝け出される。
 するとスミカの左手が彼の後頭部に添えられ、「ほら、見ろ」と言いながら、姿勢を正すように頭を持ち上げて、視線を下半身に向けさせる。
 ゆっくりと持ち上がっていく彼の視界が捉えるのは、当然自分のモノである。だが先刻は気付かなかったが、それは先走りの汁でぬらぬらと濡れている。その様子からどうやら長い時間、手淫を寝たまま受けていたらしい。
「出させないようにしてたが……これではあまり変わらんな?」
 スミカの言う通り、肉棒の鈴口から溢れ出た汁の量は放出した精液と大差がない。また彼が起きるまでの間に何度か果てそうになったのを、留められていたらしい。その証拠に肉棒は我慢の限界と言わんばかりに、柔い手の中でびくびくと震えている。
 そして彼の見ている前で、今度は根元まで手が一気に下り、汁が絡みつく音が鳴った。
「はうぅっ!」
 身体が無意識に仰け反ろうとしたものの、力強く添えられる手によって叶わずに、男根を掌握している様を見せ付けられる。
 何か非難をしようとして口が開いたが、何故か言葉を紡ぐことが出来ず、餌を求める金魚のようにぱくぱくと開閉するだけに留まる。
「お前も限界だろう。そろそろ――」
 スミカは冷静な口調でありながらも、嗜虐の色をありありと輝かせる眼を彼に向けながら、

 ――イカせてやるからな。

 そう続けると、スミカの手が上下にストロークし始め、少年の怒張を責め立てる。
「……っ、……っ!」
 突然に迫り、そして蓄積していた快感に、声にも、音にもならないものが口から漏れる。
 右手で男根を扱きながらも少年の頭に添えていた左手を離し、彼のシャツのボタンを上から数個外すと、服を引っ張って肌蹴させて汗ばんだ胸板を露出させる。其処に顔を寄せると、男らしさを感じさせる汗の芳香が鼻腔を擽った。そして曝け出された薄い胸の上で屹立している小さな桃色の突起を尖らせた唇で咥えると、少年の身体がぴくりと跳ねた。
「ンンっ!」
 乳首を責められて女のように善がる彼の反応を視界に収めながら、ちろちろと舌を小刻みに上下させると、小さいながらも甘い声が聞こえてくるのが愉しく、スミカは今度はそこを吸引してみる。
 上下に動きながらも収縮を繰り返す手淫を潤滑剤と化した自身の先走りが手助けする、まるで挿入しているかのような感触と、柔らかな唇に挟まれて乳首を吸われて背筋に走る感触が交わった快楽に耐え切れなくなった彼は眼を見開きながら、ブリッジをするかのように身体を大きく仰け反らせると――、
「――あああァァアっっ!」
 絶叫しながら、肉棒を激しく何度も脈打たせながら熱い白濁を放ち、スミカの手に、そして自身の脚に降り注がせていった。

「はっ……はぁっ……」
 射精後も、少年は仰け反ったまま痙攣するように身体を震えさせていると、スミカはアーチを作る彼の背中を撫で、爪で背筋をなぞっていく。
 やがて力尽きたようにベッドに身体を委ねた彼は、紅潮させた頬、焦点の合っていない眼という快感に蕩け切った表情を貼り付けたまま、頭を横に傾ける。それを見て、彼女はぞくぞくと背筋を奔って行く例え様の無い程の征服感を感じていた。
「気持ち良かったか?」
 髪を介しても発熱していると分かる頭を撫でながら優しい声でそう尋ねると、少年は素直ながらも、芯が入っておらず、呂律も回っていない声で「……はい」と小さく答えた。
 抑えきれない愉悦で作られた艶やかな微笑を浮かべながら、彼の濡れた唇に口付けを一つ落としてから、スミカはすっと身体を起こす。
 少年はその時、常夜灯の薄い橙色の光に包まれる肌を見上げることで、彼女が裸になっていることにやっと気が付いた。
 全裸でベッドの上で立ち上がったスミカは仰々しく脚を伸ばして少年の身体を跨ぐ。それは丁度彼に秘所を見せ付けるような格好であった。
 上の白い乳房には漆黒の髪が纏わり付いて、そのコントラストがより彼女の美貌を際立たせる。
「ふふ・・・」
 舌なめずりをしながら妖しく笑うと、跨ったまま股間に両手を遣って、秘唇を開く。遮るものが取り去られて露になった膣肉がモノ欲しそうに涎を垂らして、少年の下半身に僅かに落ちて行った。
 その光景に当てられ、滾りながらも横たわっていた肉棒が、直上の牝にその存在を主張するように屹立する。股間の下で自身に向かって愚直なまでに劣情を向けるそれを一瞥して、スミカは嬉しそうに眼を細め、濡れた瞳で同じように潤んでいる少年の眼を見つめながら、荒い息遣いと共にゆっくりと腰を下ろし始め、挿入する――と、思われたが、
「あ……?」
 亀頭と膣口が触れる気配すらもない距離で彼女は止まってしまった。
 期待が空回りしたことで空虚さすら感じる少年が切なそうで見上げると、「どうして欲しい?」とスミカから問われた。
 いつぞやの夢の反対の状況に立たされている少年だが、そのことに頭は回っていない。間髪入れずに自分の欲求を、欲望を伝えようとする。だが、何故か言葉にするのが躊躇われた。
 彼自身にもそれは不可解であった。昼のテレジアとのことが関係しているわけではない。今の少年にとって、そんなのは些細な事柄だ。
 今すぐにもスミカを犯したい――そう考えているのに、そう望んでいるのに、言葉に出来ないのは、羞恥を感じているからであった。
 そう言えば、彼女と交じれる。だが、それは自分が彼女を抱くのではなく、彼女が自分を抱く――つまり、彼女に抱かれる。ということになる。
 恋人でありながら、弟のような立場である彼に、それは受け容れやすいことのように思えたが、男としてのプライドがそれを許さないのだ。
 逡巡する少年の上で答えを待つスミカが、彼の屈服を誘うように、更に少しだけ腰を落とすと、円を描くように腰を回し、二つの液と性器を擦り合わせて、ちゅると音を立てる。
 ぎゅっと目蓋を瞑ってそれに耐えるも、今度は柔く熱い膣肉で先端を撫で回すように小刻みに腰を振る。その時、彼が無意識に腰を持ち上げ、一瞬、亀頭の半分が包まれていったが、それを許さず、腰を上げると二つの液の混合物が彼の未練を示すように糸を引いていく。
顔を紅潮させながら速い息遣いで呼吸をする少年を見下ろしながら、「お前も中々強情だな」と嘲るように言った。
「……少しだけサービスしてやる」
 そう続けてから、スミカは再び腰を落とし始め、
「はァ……はン……」
 天井を見上げて嬌声を漏らしながら、膣の中に彼の肉棒を――それでも丁度出っ張りを境にした、先端だけ――迎え入れた。そこだけは粘液と熱い肉に包まれながらも、竿の部分は外気に晒され、一つの性器に冷と熱の二つの感触が走る。
 少年は喘ぎながら、堪らず腰を持ち上げようとするも、手で下半身をベッドに押し込まれ、「勝手に全部挿れたら、これで終わりだぞ」と釘を打たれた。しかも、その場合は当分お預けだと続き、シーツを掻き毟るように掴んで耐える。
 しかし彼を制しながらも、スミカの身体はその意思に反して、しっかりと肉棒を咥え込んでいる膣肉が奥へ誘おうとしている。
 その蠢きも伝わって、陰茎が今にも射精してしまいそうに痙攣している。
「ほら、言ったらどうだ?」
 苦悶の表情を浮かべる少年に嗜虐感を抱いて強い語調で詰問しつつも、今にも彼のものを埋めて欲しいという願望を隠すように、下半身を押し込んでいる手を片方だけ少し浮かし、陰茎を掌で撫でて、更に彼を追い詰めようとした瞬間――
「――あぅぅぅっ!」
「きゃ……っ?!」
 添えた掌に何かが駆け上っていく感触が奔ったと思った時には肉棒全体が脈動し、膣内で射精が始まっていた。
 打ち上げられた白濁は膣壁を叩いてから、べったりと張り付くと、やがて重力に負けて撫でるように愛液と交じりながら下って行き、亀頭の上に堪る。膣口に熱が募っていく中、結合部の隙間から漏れたそれは、更に陰茎に添って下っていくと肉棒を、そしてスミカの手を汚した。
「たったコレだけで出したのか?」
 手に付いた白濁を舐め取りながら罵るように言いながら見下ろすと、彼は今にも泣き出しそうな顔をしている。達したばかりで苦しげで、まるで犬のような息遣いで酸素を取り込んでいる。
 失神してしまいそうな弱気な表情ではあるものの、それとは正反対に、ペニスは精を放ったばかりだというのに、自分を求めるように剛直さを保ち続け、咥えている膣口を押し広げるようにしている対比にスミカは愉快さすら感じている。
 スミカがわざとぺちゃぺちゃと突き出した舌を動かし、更にじゅるると啜りながら音を立てて、精液が付着した手を綺麗に掃除していると、
「お願い……します……」
 少年が弱々しく声を上げた。
 遂に彼は屈服し、懇願を始めたのだ。
 しかし、支配感に心を躍らせながらも、スミカはそれを曖にも出さずに、むしろ更に高めるために最後の詰めに入る。
「ん?」
「いれさせて……ください」
「何を?」
「僕の、おち○ち○を……」
「これを? どこにだ?」
「スミカさんの……おまん○、に……いれ、させてぇ……」
 スミカに抱かれることを受け容れた少年がたどたどしいながらも懇願した。
 完全に彼が自身の手の中に落ちたことに支配感を、そして全能感すら感じ、それだけで秘所が更に湿っていくようであった。
 だが、まだスミカには言わせなければならない言葉があった。
「それだけでは、足りんな」
 恥も外聞も、あまつさえプライドもかなぐり捨てて強請ったというのに、足りないと言われてしまい、少年は眼から一筋涙を流した。
「どうすれば、いいんですかぁ……」
 身を焦がすほどの彼女を求める思いで、思考がまともに働かせることが出来ない。どうしていいか皆目検討も付かずに、涙声で答えをせがむようにそう言うと、今更ながらに泣いている顔を隠そうとして、腕を顔の前に遣ると嗚咽が漏れ出した。
 スミカはその腕を掴むと、やんわりと退けた。
 遮るものがなくなった彼が見たのは、先程からの余裕など露ほども伺えない、紅潮し、眼を蕩けさせた牝の表情になっているスミカの顔だった。
「私のこと……好き、か?」
突然の変貌に驚く暇もなく、彼はその問い掛けに応えるように何度も頷く。
「言葉で、言ってくれ……」
「好きです……」
 嗚咽が交じるのも気にならず、そう言う。そして何回も続ける。
「スミカさんが、好きです……」
それを聞いて、嬉しそうに微笑んだスミカが、
「――私もだよ」
 そう言った瞬間、
「――あぁあーーっ!」
「く……うぅっ!」
 スミカが、ずんと腰を落とし、少年の欲望の権化を迎え入れた。
「あぁっ!はぁあっ!」
 テレジアの授業が利いたのか、それともスミカのせいか、少年は半開きどころか全開になった口から涎を垂らしながら、自分の上に跨り、豊満な胸を千切れんばかりに身体を揺らす女以上に高々に喘ぎ、感じていることを示す。
 そんな彼の上でスミカはプロポーションのいい身体を強調するように腕を頭の後ろで組み、自身の秘所が男根を咥え込んでいる様を、自分が彼を支配している様を見せ付けるように、大きく股を開いている。
 薄っすらと茂る陰毛の下で愛液に塗れる秘唇が口を開いて、抜けて行った陰茎を呑み込んでいく。
「どう、だっ? 気持ち、イイっ、のかっ?!」
 嗜虐的でいて、まるで獲物に牙を向く肉食獣のような凶暴な笑みを浮かべ、少年の想いを聞き出した時の劣情に蕩けていた眼を、今は常軌を逸した狂気によってぎらぎらと飢餓の色に輝かせながら、半狂乱の声色で叫ぶ。
 先端を咥えこんだだけで暴発し、挿入してから更に何度も精を放ちながらも、休む暇を与えられず責められ続けている少年はそれに応えることができない。何かを喋ろうとした口は壊れたように開閉を繰り返すだけだ。
 だが、尋問のようにスミカは彼の黙秘を許さず、亀頭を子宮口に擦りつけるように腰を遣いながら、繰り返し、繰り返し問い質す。
「……きもち……イイですぅっ!」
 掠れながら、腹から振り絞った声で叫ぶ。縋るように手でシーツを掴んでいて、その腕は力みのせいで浮き出た筋がはち切れそうになっている。
 いたいけな少年を犯しているという事実と、卑猥な感想を叫ばせることでサディズムが満たされていく。
 しかし、まだ足りない。
 尚も体内に収まっているペニスを蹂躙するように、ともすれば壊すかのようにしながら「もっと、もっと言えっ!」と脅しかけるような口調で、渇きで喉が張り付き、疲労と絶え間なく押し寄せる快感で呼吸すら満足に出来ていなさそうな少年に詰め寄る。
「はぅうっ! すごいっ!あっ、あっ! すごいぃぃっ!」
 女のような口調で甘く甲高い声を上げる彼は、まるで普段の情事の時の自分が鏡に映った虚像のようだとスミカは思った。
 内から溢れる快感にどうすることも出来ずに、シーツを掴みながらも悶えるように身体を中心に寄せる姿は欲情させられるほどの蠱惑さを持っている。
「お前の……ンっ、いつもより、大きいぞ?」
 それに反論するようにぎゅっと眼を瞑りながら弱々しくかぶりを振る。
 虐めれば、虐めるほどにサディズムを満たしていくような彼の反応に、ぞくぞくと背筋に走っていくものを感じ、スミカは更に頬を更に吊り上げていく。
「責められて嬉しいのか? この――」

――変態が。

 閉じた目蓋から、何の感情で溢れたか、涙を流しながら一層強く首を横に振る少年であるが、熾烈な言葉で詰られた瞬間、彼自身何故だか分からなかったが、確かに膣内で肉棒が更に膨らんだ。勿論、咥え込んでいる彼女にも、いや彼女こそがそれを彼以上に感じ取っている。
 顔を寄せて、流れていく水滴を突き出した舌で掬い取る。熱い吐息が掛かって、上気した顔に更に熱が灯っていくようだ。
「あんっ! 震え、てるぅ……イ、クのか……?」
 照明に反射して宝石のように輝いていた少年の涙を喉に流した瞬間、彼女の中で限界を伝えるように肉棒がびくびくと震え始めた。
 だがスミカにおねだりをしてまで挿入を許可してもらった彼は、今日はずっと主導権を握られた形で何度も、そして今まさに彼女の言葉責めによって絶頂を迎えることに、なけなしの――それも指で摘む程度の――プライドが最後の意地を見せるべく、拒むように射精を我慢している。
「う……っ! ううっ!」
 睾丸から尿道を昇ろうとしている精液を抑制しようと、腹筋が千切れんばかりに力を込める彼は快感によって開きっ放しになっていた口を閉じ、それでも唇はやや開いているものの、二枚の唇の向こうでは、ギリギリと音が聞こえてきそうな程に白い歯が砕けそうに強く砕噛み合わさっているのが見える。
 そんな彼と逆にスミカは愉悦、喜悦を一心に感じており、愉快なのは、その煩悶、苦悶という言葉を体現するような表情の源が性感であることだ。
 そして邪な期待を抱いていた――この最後に現れた我慢という壁が、そして砦が崩れた時、眼下の少年は如何様な変貌を見せるのだろうか、と。
「イッて……いいんだぞ……」
「でもっ……でもぉ、恥ずかし……」
 スミカの許可に性交に全く不慣れな少女のような、あどけなさを感じさせる言葉を漏らす。
 すると彼女は「恥ずかしくなんてないさ……」と彼の本能へ、理性を留める障壁の隙間から染み入るような魔性の囁きを響かせる。
「お前は――私の……モノ、なんだから……」
 そして止めを刺すように、スミカは少年の身体を、その下にあるベッドを壊してしまいそう強さと速さで身体を上下させ始めた。
「あっ、あっ! だめっ! だめぇえっ!」
 [改訂]凄まじい勢いでペニスを凌辱され全身に恐ろしいほどの快感が奔り、少年が半狂乱で叫ぶ。
 スミカの膣奥から夥しいほどの愛液が泉のように溢れ、男根を包んでいくが、それを摩擦で蒸発させてしまいそうな程の抽迭によって二人の性器が燃え上がるような熱を発する。身体の防衛本能が性器が傷付くことを恐れ、更に結合部に潤滑剤を補充していく。
 愛液に満ち、精液に塗れた蜜壷を腺液を伴う男根が掻き回す淫音と、スミカの尻肉と少年の太腿や男根周りの肉がぶつかり合い、弾け合って、まるでスパンキングをしているかのような破裂音が部屋の壁に木霊する。
「あぁあああっ!出る!出る!でるっ!でるぅっ!」
 更に少年が壊れたレコードのように同じ言葉を何度も何度も繰り返す。
 少年の肉棒から精液を搾り出そうとするかのようにしているスミカも限界が近い。むしろ既に訪れていてもおかしくはなかった。だが、イケないというわけでもなく、まるで常に寸止めをされているかのような感覚に陥り、切なさに心が掻き立てられる。
「いいぞっ! いけっ、いけっ、いけえっ!」
 命令を下すように少年に絶頂を促すが、それは自分のためでもある。自身を解き放つのが何か、彼女は本能的に理解していたからだ。
 だから、
「……イってぇぇぇぇっ!」
 彼に絶頂を乞う。
「……うぁあああああっ!」
 今まで彼女の抽迭を為すがままに受けていた少年がその懇願に負けないほどの声量で叫びながら、圧し掛かっている身体を持ち上げるように腰を高く突き上げ、それと同時にスミカの身体が落ちたときであった。
「あぁぁぁーーっ!」
 少年が鉄の棒が入ったように張り詰めた四肢を四方に伸ばし、掴んでいたシーツを引きちぎりながら裏返った声で叫び、びゅうううッ、と長大な射精の第一射を放つと、
「ひぁあああっっ!」
亀頭と直接に触れ合った子宮口に精液の奔流を撃ち込まれ、少年を追う様に絶頂を迎え、仰け反ったスミカが舌を突き出した口から悲鳴を上げ、膣からビシャアッと透明の液体を吹き、少年の股間を塗らした。
 しかし、まだ終わっていなかった。
「あーーっ! あーーっ! あーーっ! あーーっ! あーー……っ!」
「はあぁぁ……あぁ……ぁっ……!」
 第二射以降の射精を続ける少年の肉棒は、まるで口で吸引するかのように奥へ奥へと引きずり込んでいく膣肉に竿を撫でられ、残りの精液を余すことなく吸われる。まるで射精が射精を導いていく快感に壊れたように絶叫を続ける傍らで、スミカは自身が導いている一つ一つが大きく、そして高い男根の律動を感じながら天井を見上げながらこれ以上伸ばせないほどに舌を伸ばす。
 そのように二人は全身で快楽を余すことなく享受するのだった――。。

「ふぼっ! んんむぅっ! ぐ、ぼっ!」
 ミセス・テレジアが床に座り込んでいる姿勢で、その小さな口に隆々と聳え立つ男根を押し込められて、苦しげに喘いでいる。
 口淫をしている格好であるが、彼女の方は全く動いていない。だがその男根は充分な刺激を感じている。というのも、その口腔を犯している男に、腕を掴まれたまま持ち上げられる、天井に吊られているような格好で、口の中を肉棒が行き来しているからだ。
 しかも小柄なテレジアに対して、男の体格は彼女どころか、並みの成人男性と比べても相当に大柄である。その体格差のせいでテレジアは尻を床に預けながらも、若干身体が浮き気味になっていることと、彼女の口に釣り合っていないようなペニスのサイズのせいで、苦しさも一入である。
 男の抽迭に加減はなく、口腔どころか喉まで蹂躙されており、舌が押し込まれることで唾液が溢れ出して潤滑剤の役目を果たしているとはいえ、苦しさから眼鏡の下の眼から涙を零している。
 ともすれば少女のようにしか見えないテレジアの苦悶の表情を浮かべている口に自身のモノを突っ込んでいる背徳感と、滑る粘膜と狭い口腔による圧迫感から来る物理的な快感によって、男が限界の到来を感じ、それを促すように更に乱暴に彼女の口腔を凌辱する。
 最早声なのか、違うのかも分からない音が彼女の口から漏れ出していく。
 やがて、男根自身が彼女の口腔を堪能し終えたかのように、びくびくと震えると、男は「くぁあっ!」と苦しげな声を上げながら引き抜く。
「うぇっほ! げほ、げほっ!」
 泡立って塊になった唾液を口許から垂らしながら咳き込むテレジアから半歩離れると、我慢出来なさそうにしている肉棒を肢体に向けて、
「う、おぉう……!」
 その大きさに見合うような大量の精を放った。
添える手の力を弱くしていたことで、一回射精の脈動を起こす度にペニスが暴れるように跳ね回って、白濁がテレジアの、白い髪に、顔面に、青みがかったシャツに、黒いスカートに、黒のパンストにと全身に降り注いでいく。
 呼吸が出来なかったせいか――はたまた別の原因でか――尚も眼前でいきり立っている陰茎をテレジアが紅潮している顔で見上げる。それにピントが合っている眼球はぼやけながらも眼鏡のレンズに張り付いていた精液が垂れていくのを見、そして熱く生臭いシャワーの香りが鼻腔を擽って、彼女の奥底からとろりと蜜が溢れた。

力なく座り込んだままのテレジアが呆然としていると、男は彼女の肩を力強く掴んで、

「あぅ……」
 易々と床に転がす。
 そこまで勢いがあったわけではないが、体の側面を床に打ち付けた。だが彼女はその痛みよりも、床と自身の秘所を繋いでいたものが切れたような感覚のほうに意識が行っていた。
 男は視線を合わすように屈んで、横たわり、四肢を床に投げ出す格好になった細い足首を掴むと、強引にそれでもやはり簡単に持ち上げて、彼女の股を開かせる。
「や……っ!」
 か細い声を上げながら、テレジアが股間に両手を遣って恥部を男の眼から遮ろうとするが、男は当然のように空いている手で、差し出すように伸ばされた両手首を掴んで、ぐいっと上に上げる。テレジアが先程の口辱の時のように手錠を嵌められて鎖で吊るされるような状態になる。
 勿論、こうなると、彼女の下半身を隠すものはなくなり、パンストと下着が晒される。
 だが、パンストは視線を遮る意味では効果の無いものである。その生地が薄いから、ということではない。
 何故なら、爪先から太腿、果ては腰まで覆っている黒に一箇所だけ、よりによって最も隠さなければならない股間の所に穴が空いている。
 既に其処は昼の時点で、少年の手によって破かれていたからだ。
 それを確認した男は右手で掴んでいた彼女の足を一旦離して脇に抱えて、無遠慮にショーツにクロッチを右手の人差し指で押すと、ぶじゅと液体が漏れて、指を濡らすと同時にテレジアが抑え目の嬌声を上げる。そのまま布越しに秘唇の間に捩じ込むように指を押し込みながら回してから離す。それを惜しむように股間と指の間が白い糸で繋がれた。
 男はそれを満足そうな顔で見ながら、糸が切れないように丁寧に持ち上げていき、テレジアに見せ付けると、彼女は恥じ入るように視線を男に向けながらも僅かに顔を逸らす。彼女が見たことを確認してから、自身の濡れた指に舌を這わせて、愛液を舐め取ってから、漸く口を開いた。
「どうして、こんなに濡れているんだ?」
「そ、それ、は……」
 羞恥に顔を赤らめながら、テレジアが口篭る。昼に少年に指と口で愛撫され、更に犯すようにセックスした余韻が夜に残っているから――とは流石に言えない。しかも、その少年はもし彼女が出産を経験していたのなら、自分の子供と同じであってもおかしくないような年齢なのだ。
「ん?」
 言葉を省略して、もう一度質問を重ねながら、男はショーツと肌の間に指を差し込んで濡れそぼった秘唇を撫でると、俯いていたテレジアが「んんっ!」と嬌声と頭を上げた。男は秘唇を撫でていた指をその合間に浅く埋め、膣口の辺りで小刻みに上下させる。
「あ……やん……」
 くちゅくちゅと指に溜まった愛液が攪拌されながら塗れた秘裂が擦られて、まるで卵でも掻き回すような音が断続的に鳴る。
 数時間経っても、未だ性感の余韻の残るテレジアは淫音と弄られる快感に、ぴくぴくと身体を震わせつつ、もっと奥まで指を挿し入れて欲しいと言いたげに膣口を収縮させている。
 質問の回答など期待していなかったのか、テレジアは何も言わなかったが、すっと秘所から指を抜いた男は愛液で汚れた指先を彼女の唇の間で拭う。
 口紅を塗ったように唇が濡れて、妖しく輝いた。
 そして綺麗になった指でショーツを横にずらしてから、彼女の秘所の様子を観察するように観て、
「――まぁ、これだけ濡れているのなら、準備もしなくていいから楽かな」
 と、無表情で呟いた。
 膣を弄られて、荒く呼吸をしていたテレジアがそれを聞いて、耳に入った言葉を再確認するように上体を起こす。だが、手枷となっていた男の左手が外れた瞬間、彼女の視界は再び床と平行になっていた。その眼が遠い順にものを捉えていく。
 天井――見下ろす男――そして、愛液が光を反射して煌く自身の恥部――。
 テレジアは昼の授業で少年にさせた体位になっていた。
 手は自由になったとはいえ、既に全身の自由は封じられている。しかし、彼女から良く見えないとはいえ、曝け出された秘唇は男の手で股を広げられて、ピンク色の膣肉を見せるようにぱっくりと開いているだろう。それを隠そうと、もう一度、両手を遣って股間を隠そうとした時であった。
「あ……!」
 臀部の割れ目とアヌスの上を熱が擦りながら通っていくと感じ、直後手がその熱に押し退けられた瞬間、彼女の恥部の上から、のそりと男の剛直が顔を出した。秘唇の上を通った竿は愛液で濡れており、自身を覆っている掌を腺液で汚す。
 口辱の際に付着した唾液が幾分か乾き出しているも充分に湿っている肉棒が、更に滑り気を帯びるため、愛液を身に纏うように秘所の上を数回往復していく。
「はぁ……」
 指とは比べ物にならない太さと熱さを持つ牡の器官に秘唇を撫でられて、テレジアは口から甘い溜息が漏れさせてしまう。
 だが、その性感に身を委ねていると男は彼女の頭の傍に両手を付き、反り立つ怒張を秘所に垂直に突き立てるように前屈みになった。
 それが挿入の合図だとは考えるまでもなく、待ってと言葉を発しようとするも、最初の音すら出ることなく――、
「うぁあああ……!」
 テレジアの小さな膣口が、幹とも形容できるような肉棒によって、めりめりと音が聞こえてきそうなほどに痛々しく押し広げられて行く。
彼女は性交が未経験と云うわけでは決して無い。しかし、その様は正に処女が始めて男を受け容れるようであった。
 すると、男は亀頭を収めた辺りで侵入を止める。
仮にも少女のように見える彼女が苦悶の表情を浮かべたことで慮ったのか――というわけでもなく、その直後。
「はぅぅうぅっ!」
 一気に腰を下ろして、肉棒を奥底にまで到達させた。
 まるで膣口に手を掛けられて無理矢理に拓かれたかのような感触にテレジアは眼を見開き、全開に開いた口から「は……っ」と肺から空気が漏れたような声を出して、先刻のに輪をかけて辛苦の様子を見せる。
 しかし、彼女の秘唇は前述の口同様に苦しげに口を開いて、男のものを挿し込まれながらも愛液が染み出していた。
 そして、男が挿したのと同様の力強さで腰を引く。
「ンぁああ……」
 出っ張りの高さも凄まじい陰茎に膣壁を抉られて、テレジアは喜んでいるのだと疑いようのない嬉声を漏らす。
 先の肉棒と秘唇の僅かな合間から流れた愛液であるが、それは既に蜜に満ちていた蜜壷が棒を入れられて、漏れ出たように見えなくもなかった。だが実際は、新たに彼女の奥底から溢れ出ているものであったのだ。
 それを証明するように、男が亀頭を半分露出させるほどにギリギリまで引き抜いたペニスを再び彼女に乱暴に挿し入れると、
「やぁぁンっ!」
 はしたなく嬌声を上げた。
 その開かれた眼には先程までの悲痛な色はなく、ただ喜悦の光だけを灯して輝いている。
「あぁあンっ!はぁんっ!」
 防音ガラス越しで見れば、小柄の少女が後頭部と肩周りだけを床に触れさせている格好で男に貫かれている、強姦、凌辱としか見えない光景であるだろう。力なく投げ出されている腕は諦観による無気力の証明と取れる。
 だが、実際はその嬌声を聞けば分かるとおり、テレジアは男の抽迭を全身で受け容れているのだ。
すると男が彼女を突きながら詰問する。
「すっかり出来上がっているじゃないか。そんなに”良かった”のかい?」
 男が敢えて過去形で聞いたのは、数時間前のことを聞いているからだ。
 前戯もほぼしていないで、挿入をしたというのに、痛みを感じている様子は露ほども見られない。
 ならば、行為が潤滑に行なえているのはそれが大きい原因であることは疑いようもない。
尋問され、痛い腹を探られたテレジアが高々と上げていた嬌声も抑えるようになり、床に転がされていた時同様に、もごもごと口篭る。
「どうなんだッ?!」
 質問に答えない彼女に業を煮やしたのか、男は更に乱暴な抽迭と言葉で彼女を責め立てる。
「あぁうっ! ご、ごめんなさいっ!」
 テレジアか涙声で謝罪を述べるが、喘ぎ声を含んでしまっているせいで、説得力は全くと言っていいほどない。
 口辱の時に口から漏れていたのに近い音が膣口から上がり、男の「そうなんだなッ!」という怒声と、彼女の嬌声交じりの謝罪が部屋に響く。
「やぁっ!許して、許してぇっ!」
 昼の授業をしていた時とは別人のような殊勝さでテレジアが赦しを乞う。
 少年とセックスをして感じたことにか、それとも乱暴にされて感じていることへなのか、或いは両方になのか。いずれにせよ、凌辱している相手にそんなことを言う必要は無いだろう。
だが彼女が犯されながらも、謝罪を重ねるのには、ある理由があった。
「ごめんなさいっ! 許してくださいぃ……」
 ――あなたぁ……。
「僕以外の男に抱かれて、感じたんだなッ?!」
 男が執拗と言えるほどに詰問すること、それが嫉妬が原動力であること、全ての理由が、この男がテレジアの夫であるからだ。
「はい……感じたのぉ……私ぃ、感じ、ちゃったのぉ……っ」
「――ッ!」
 妻から罪の告白をされ、憤怒の表情を浮かべる男が罰と言わんばかりに彼女の身体を壊すように一層抽迭を激しくさせる。
 それによって、”ミセス”・テレジアの身体が暴力的に揺さぶられ、その肉棒の大きさを含む熾烈さによって、絶頂への道を辿り出す。
「ふぁぁあっ! イクっ! イクッ!!」
 元々狭い彼女の膣が快感と近づく絶頂により更に窄まって行き、それが更に肉棒による自身の嬲りを強めていき――、
「イっクぅーーっ!」
 夫の眼前で暴れるようにテレジアの身体が痙攣しながら跳ね回る。
収縮を繰り返す膣から白濁の液が溢れ出し、肉棒を汚していった。
「はぅ……」
 中腰から膝立ちになった夫が絶頂の余韻を残す彼女の身体をそっと抱きかかえ、子供をあやすように背中を撫でる。
 尚も結合したままで、しかも射精をしていなかった肉棒はまだ隆々としており、彼が動くたびにひくひくと蠢く膣を刺激されてしまう。だがそれよりも、大事そうに夫に抱き締められることにテレジアは喜びを感じて、胸に頭を埋めながら、その広い背中に愛おしそうに手を回した瞬間。
「――きゃっ!」
 驚愕を示しながらも、どこか期待を滲ませる声色で小さくテレジアが叫んだ。
 彼女を抱えたまま夫が膝を上げたのだ。しかし、まだ完全に立ち上がってはおらず、彼女の脚も爪先だけとはいえ、床に接している。
 陰茎の上を滑り落ちていくような感覚に、テレジアが小さく喉を鳴らすと、
「……何回、イッたんだい?」
 彼女の頭の上から震えている声で彼が少年との行為で絶頂を迎えた回数を問うた。何で震えているかは、考えるまでもない。
 この先を想像して、ぶるりと身体を震わせたテレジアは、頭を埋めている胸板に熱く、短い吐息を吐きかけながら、彼の心臓に囁くように呟く。
「……四回ぐらい、かしら」
 それを聞いた瞬間、夫の自分を抱き締める腕の力が強くなったような気が、彼女にはした。そして、それは実際にそうだったのだろう。
 一瞬、彼が呼吸を荒くする。直後、自分を落ち着かせるように、大きく鼻から息を吸ってから「ふぅ……」と早い溜息を吐いた。
「じゃあ君は何回、僕の前でイケばいいと思う?」
「――五回、ぐらい?」
 期待に胸を踊っているのを隠しているのが明白な、態とらしい殊勝を演じる声で、白々しく誤答をすると、彼は一瞬、彼女を壊しそうなほどに腕の力を強くする。
 そして、間欠泉が噴き出すのに酷似した勢いで立ち上がった。
「――きゃああァァァっ?!」
 子宮口に肉棒が突き刺さったと思えるほどの衝撃を受けて、テレジアが悲鳴のような嬌声を上げながら弓のように仰け反る。
 彼女の脚が床から離れて、宙に浮いてしまっている。つまりその身体を支えているのは、夫の腕と膣内に深々と挿れられているペニスだけである。
 そして、彼女はほぼ一突きで絶頂を迎えていた。彼は立ち上がっただけであるから突いた勘定に入るかどうかすら怪しいが。
「はっ、はっ、はァっ……!」
 眼鏡を掛けていながらも焦点の合っていない眼を見開いて、舌を突き出し、仰け反って身体全体をぴんと張り詰めさせたテレジアを抱き寄せてから彼がそっと耳に「正直に言うんだよ」と囁くと彼女は単発的な呼吸を繰り返しながらも、こくりと頷いた。
「イッたのかい?」
 荒い呼吸をしながら、ぶるぶると震える腕を懸命に伸ばし、彼の身体に必死そうに抱きつくと、短く、しかしながら、明瞭に、
「……はい」
 と、一言答えた。
 ちかちかと電灯が点滅を繰り返しているような思考の中、彼はおそらく怖い笑顔をしているのだろう、と予想しつつ、更にそれを掻き立てると分かりつつ、テレジアは彼に言葉を掛ける。
「ね、え……」
「ん?」
「私は、あと何回……」

 ――イケばいいの?

 夫から身体をやや離し、潤んだ瞳で見上げながら、そう尋ねた。
 その問に彼はにこりと快爽な笑みを浮かべると、

 ――僕が満足するまでだ。

 そう答え、手を回している妻の腰を落とさせると同時に自分は腰を突き上げながら足を床に付けたままとはいえ、ジャンプするように跳ねた。
「ひゃあああっ!」
 根元まで押し込まれた陰茎に膣の底を――更にその奥にある子宮をも――体内に押し退けられるような抽迭を受けて、テレジアの身体が甲高い声で叫んだ。持ち上げられている見た目通りに軽い身体は夫の腰の上で軽々、がくがくと揺すられる。単純に肉棒の往復だけではなく、その衝撃も彼女に重々しい性感を与え続けていく。
「あぅンっ! ンっ ンンぁっ! 太い、のっ! キてるぅっ!」
 夫の首に腕を回しながら、媚びる声色で自身の強く感じる所にペニスが来ていることを示す。
掬い上げるような腰使いでテレジアの膣の天井を突き上げている彼はその媚態に気を良くしたのか、頬を吊り上がらせながら、「……どっちが大きかった?」と意地悪い質問をする。
「あなたの、方がぁ……」
 快感を受け止めるように身体を丸めていたテレジアは視線を上げて、夫の顔を見上げて単純に答えようとしたのだが、どうすればもっと喜んでもらえるかと思慕し、一旦そこで切った。だがすぐに躊躇いをかなぐり捨てながら、
「……あなたのチン○のほうが大きいっ!」
 はしたなく、淫らに叫んだ。
 言葉で自分に奉仕する彼女に支配感を覚えたのか、彼は収まっている肉棒を僅かながら膨らませると、突然、ゆっくりとだが歩き始めた。
 先の言葉が恥ずかしかったのか、顔を隠すように抱き付いているテレジアは、彼が一歩一歩進むごとにシャツとブラジャー越しとはいえ、なだらかな乳房の上の突起が引き締まった筋肉に擦れていき、そして子宮口を小突かれて、その度に身体を震わせていく。
 まるで猿の親子のような格好で移動している二人。ベッドの傍に辿り着くと、恭しくテレジアをその上に降ろされた。
 正常位でするのか、と考えた途端、それを否定するようなタイミングで、結合したまま、夫が彼女の身体を反転させる。
「うぅンンっ!」
 視界が回転する中で、カリに膣肉を真一文字に削られて、嬌声を上げる。
 正常位から後背位に移行し、今度は後ろから突かれるのかと予想したが、彼はテレジアの太腿を掴むと、ぐいと持ち上げる。驚愕の声を上げる彼女であったが、それは無視され、代わりに掴んだ太腿を開いて開脚させられる。
 まるで女児が排尿を親に手伝って貰っているような格好にさせられて、テレジアが「きゃ……!」と、その格好に似つかわしい幼気な声を上げた。尿の代わりに愛液を垂らし、更に尿道口は肉棒で隠されているという点で違いはあるが。
 彼は彼女を抱えたまま、ベッドの反対の壁の方に体の向きを変えた。丁度そこにはテレジアが毎日使用している使い慣れた化粧台が置いてある。
 そして勿論、あらゆる化粧台に必ず付属しているモノも。

「あなた……や、めっ……!」

 端整な顔を嗜虐的な笑顔で歪める夫と、羞恥に顔を赤らめ、眼を濡らしているテレジア。
二人の前に、結合した自分達がいた。映っている、と云うほうが正しいか。
 そして、その痴態を見ているのは現実の本人達だけではなかった。
 化粧台に置いてある写真立てに納まっている写真の中で並んでいる二人も、笑みを浮かべながら、自分達と対峙しているのだ。
 顔を逸らして、それらを見ないようにしているテレジアであったが、自由である手で顔を覆うなりしないことから、本当にそうしようとしているわけではないだろう。
 その証拠に盗み見るように、ちらちらと鏡に視線を送っている。その度に被虐による快感からか、膣肉が収縮を繰り返す。恥じ入ることで興奮を示すテレジアを見て、更に嗜虐心を煽られたのだろう。夫が真っ赤になっている耳にそっと囁く。
「……大きいの、好きかい?」
 脳髄を溶かしていくような緩やかな空気の振動に、テレジアは甘い溜息を漏らしながら身をぶるりと震わせ、鏡越しに夫に視線を合わせながら首をゆっくりと縦に振った。満足そうに彼も頷くと、腰を突き上げ始める。
 揺さぶられるテレジアは目蓋を下ろし、快感に安らかに身を委ねている。だが、彼は今、そんな平穏なセックスなど望んでいない。
赦しを乞いながらも、感じて喘ぐ彼女を抱きたいのだ。
「大きかったら、誰のでもいいのかい?」
 残酷にそう言うと、再び妻の業を責め始めた。
テレジアはかぶりを振って、拒否を示す。違うとはっきり言おうとしているのだが、途端に激しさを増した抽迭に言葉が上手く発することが出来ない。言葉よりも先に嬌声が漏れ出てしまうからだ。
 その後も、彼が詰りながら突き上げていると、テレジアが一言一言を確かめるように慎重さすら伺えるように言葉を紡ぐ。
「違、うのぉ……ぅンっ! あなたの、だから……」
 殊勝にも涙を浮かべながら弁解する彼女であるが、夫はそれを邪魔するように抽迭の勢いを緩めることはない。
 寧ろ、この後のためにそうしているのかもしれなかった。
 彼は何かを押し留めるように真剣な眼差しになっていた。
「あなたの……」
 淀みながら、鏡に映る虚像から、直ぐ背後の彼の眼に視線を移す。
 振り返りながら見上げる途中、彼女の目の淵に溜まっていた涙が一滴、零れた。
「あなたの……チン○だから、感じるの……」
 彼女がそう言うのと、雫が床に落ちて極小の飛沫を上げたのはほぼ同時であった。そして、夫の劣情が爆発するのも。
「あァァっ! あっ、あぁっ!」
 無言になった夫が一心不乱にテレジアの身体を揺らし続ける。言葉を発することで口に意識を持っていくのも面倒になったのだろう。
 彼女を愛するために。
 そして、限界が近いということもある。震え出した肉棒がその証左だ。みっちりと占有されている膣は僅かに痙攣するだけでも、抽迭によるものに加え、更に快感を引き出されていく。
 二人が見つめ合い、その顔の間で、短く吐かれる、燃え上がるような熱を持つ吐息が交じり合う。
 テレジアの半開きの唇から覗ける、てらてらと艶かしい粘膜に誘われたような錯覚に陥った彼は絶頂の間近、其処に自身の舌を突っ込んだ。
 決まりごとのように、差し出されたそれに、彼女は自身のものを絡ませてくる。
 唾液を掻き混ぜるように舌同士を絡ませ合いながら、若干彼が引くと、追うようにテレジアは舌を伸ばした瞬間、彼は唇でそれを挟んで吸引する。
「ンンっ!」
 口で舌を吸いながら、肉棒を渾身の力で突き上げ――
「ンンっ、ふぅうンンーーっ!」
 テレジアが果てた。
そして、それに一歩遅れて彼も――、
「……っ!」
 口が塞がれているために声は出せなかったが、搾り出すように呻く。肉棒が爆ぜるように膨らんで、白濁を彼女のテレジアの奥底に発射すると、膣肉が本能的に吸い上げていく。
上では吸い上げ、舌では吸われる。テレジアからすれば上では吸われ、下では吸い上げるという真逆に挟まれながら、二人は身体を歓喜で震わせた――。

 それからもベッドの上、床の上。立ちながら、抱え上げながらと、場所を変え、体位を変えながら、二人は身体を重ねた。
 言われた通りにテレジアは何度も絶頂を迎え、その合間に彼も彼女の回数に劣るとはいえ、精を放っていった。
「あなたぁ……あなたぁ……っ!」
「ふぅ……ううぅ……っ」
 ベッドの上で二人が、女に男が覆い被さる、正常位で繋がっている。
 必ず最後はこの体位で最後を迎えると暗黙の内に決まっていた。
 ”最後”というのも、二人は長年連れ添った経験で、互いの状態を読み取り、どちらが言い出すこともなく、自然にこれに落ち着く。
 互いが互いの背中に腕を回して、抱き締め合いながら、互いに腰を遣い合う。
 やはり、こちらも長い結婚生活の賜物か、腰を引く、入れるの動作は阿吽の呼吸と言ってもいいだろう。
 二人の噛みあった抽迭が、肉棒の出っ張りが膣口ギリギリまで膣肉を抉り、肉襞が竿を撫でていく快感を倍増させていく。
 結合してから一度も抜かれていないことで、膣内に溜まった愛液と混じった精液が少し掻き出され、シーツを汚す。
 幾度も掻き出されたが、何度も補充されたことで全く中が空にはならなかった。
 そして、思考がぼやけるほどの疲労に包まれながらも、最後の補充をすべく、二人が互いの性器を求め合う。
「くううぅっ! うぉおっ!」
 夫が肉棒を震わせながら、獣の咆哮を上げ、
「あなたぁっ! キそうっ! キそうなのぉ! 私ぃ……っ」
 妻が絶頂の到来を叫ぶ。
 ひしと抱き締め合い、幕を閉めるように僅かに空いていた二人の身体が、強く重なり――、
「――イっ……クぅぅううっっっ!」
 最深部を突かれたテレジアの膣は愛液を噴きながら収縮し、肉棒から精液を搾り取るように根元から締め上げ、
「おぉぉおっっ! おおぉぉっっ!」
 痛いほどに締め付けられながらも、引きずり込まれるようによって、彼はテレジアの中に白濁をぶちまけた。
 絶頂による硬直で、二人は相手の身体に痕が付くほどに強く、一体になるような抱擁をする。

「はぁっ……はぁっ……」
 息も絶え絶えというような息遣いをしながら、彼が身体を起こす。本心はこのまま眠りたいところであったが、ある楽しみがあるのだ。
 まだ快感の余韻が残っているだろう、ひくひくと締め付けてくるテレジアの膣に名残を惜しさを感じながらも、身体ごと、数度の射精によって萎びているものの充分といえるほどのサイズを誇る陰茎が、ずるりと抜けていく。
 空気が入ったような鈍い音と、テレジアが惚けながらも上げた嬌声が響く。
 怒張が抜けた瞬間は暗い穴を見せていた膣口が直ぐに閉まるも、噴出した愛液の内、内部に留まっていたのが奥から流れ出す。
 すると楽しみを思い出したのか、テレジアが半ば焦るようにして、夫に続いて身体を起こすと、秘唇に指を宛がって眼の前の彼に見せ付けるよう開くと、愛液に混じってやや薄まりながらも、それでも塊のように凝り固まった精液が、幾度もの抽迭によって腫上がるように赤みを帯びている膣からどろりと流れ出した。
 彼はそれを見て、喩え様の無い満足感で心を満たしていた。
 女の恥部から自身が出したものが漏れる、凌辱したことの証拠には勿論。どちらかというと根っこの方は、彼相手ならば殊更に、マゾヒストの傾向が強い妻が、それは嬉しそうな、それはそれは愉しそうな、それはもう悦ばしそうな、淫乱と云う言葉を具現したかのような、淫悦を極めた、淫靡な笑みを浮かべていることに――。

「ンむ……ぷぁ、はぁ……ふ、う」
 放心したように力なく四肢をベッドに投げ出す少年の精液やら愛液で汚れた肉棒を口で掃除し終えたスミカが長髪を掻き上げながら、面を上げて彼の様子を見遣る。口淫をされながらも身体どころか、陰茎にすら反応が無いので、流石に心配になったのだ。
 そして、今この間も少年は焦点の定まっていない天井を見上げているばかりである。
 サイドテーブルの上に置いてあるティッシュペーパーを数枚、未だに精液の残っている秘所や、それが垂れた太腿を拭った後、今度は唾液に塗れている彼のものを拭く。
(……やりすぎたか?)
 わざと刺激するような拭き方をしてみても、若いはずの彼のものに反応は見られず、萎えたまま。
自省や自戒の念を抱きながらも、「……おい、平気か?」と彼の顔の前で手を翳す。
 何処か遠くを見ているような眼が、その手にピントを合わせた。それでも彼自身からは大きな反応は見られず、「……はい」ぐらいしか返ってこない。更に罪悪感を深めつつも、隣に横たわり、自分と彼の上にシーツを覆わせてから、そっと仰向けの少年を横から抱き締めた。
「ちょっと……調子に乗りすぎた、な……すまん」
彼の頭を撫でながら、数分前の自分のことを省みて、恥じ入るように顔を赤くしながら、謝る。すると天井を向いていた少年は、スミカのほうに寝返りを打って、彼女の胸に埋もれるような格好になり、谷間から覗くように見上げ、
「……すごく、きもちよかったです」
 と、まるで少女が年上の男の手によって女としての喜びを知らされたような口調で感想を述べた。
 中性的な表情とはよく云うが、この場合に限り女寄りの表情だったにも関わらず、スミカはどきりと胸打たれてしまい、更に顔を赤らめた。それを隠すように、さっさと話を切り上げて就寝しようかと思ったが、素直な彼に合わせてもいいかと思い立った。
 そして、サイドテーブルの上にある彼のチョーカーを手に取ると、それを少年の首に着けてから、
「……また、して欲しかったら、いつでも言え」
 そう優しく言ってやると、彼は輝くような笑顔を浮かべて、こくんと頷いた。
 今度は照れを隠そうという気にもならず、真っ直ぐに少年のことを(……可愛い)と思いつつ、おやすみの合図でもある、額へのキスをすると、二人はすぐに眠りに入ったのだった――。

 さて、翌日。
 彼らに朝を告げたのは、端末からの無機質な電話のコール音だった。
 抱き枕の感触に浸りたいのでシカト決め込みたいスミカであったが、依頼かもしれないので、心中で舌打ちをすると、眼を擦りながら、ベッドから起き上がって、ヘッドセットを装着し、受信ボタンを押そうとしたが、自身が全裸であることを思い出し、急いで音声のみに切り替えた。
「……もしもし?」
 一瞬抱いた焦りを隠すように、咳払いを一つしてから、仰々しく声を出す。丁度、彼女の背後で抱き枕も眠い眼を擦りながら起き上がったところだった。
『おはよう、スミちゃん。よく眠れた?』
 相手はテレジアであった。
 声に皮肉の色が交じっていることから、おそらく二人の状態を看破しているに違いない。
「テレジアか――何の用だ」
 認めることは勿論、否定しても次には皮肉が返ってくるだろうから、スミカは無視して、用件を聞き出そうとする。
 だが、テレジアは逆にスミカの苛立ちを無視し、
『どう? ”上手くいった”?』
 と言うと、スミカも話が長引くのも面倒だと思ってか、
「ああ。”なんとかな”」
 そう返した。
 何かを含む彼女らの会話は成立しているようだが、少年には全く内容が理解できていない。
テレジアから電話ということで、彼一人だけ緊張感が走っていたということもあるが。
『スミちゃん、そのことのお礼と言ってはなんだけど、一つお願いがあるんだけど?』
 するとテレジアはまるで子供が親に玩具を強請るような媚びる声色になった。
それに不審を抱く二人であったが、スミカは面倒そうな声であるが、お願いとやらの内容を問う。
「……何だ。言ってみろ」
『じゃあ、単刀直入に言うけど。今度、”スワッピング”してくれない?』
 束の間、沈黙が流れる。
 再開の口火を切ったのはスミカであった。
「……何だ、それは?」
 しかし、全く未知の単語であったので、聞き返しただけである。
 それを聞いたテレジアは恭しく説明を始める――も、
『スワッピングっていうのはね。カップルが相手を交換して……』
 途中でスミカが電話を切ってしまった。

「ス、スミカさん……?」
 突然、沸き立つような怒りを背中に滲ませ始めたスミカに少年に恐る恐る声を掛けた。
ヘッドセットを取り外し、ゆっくりとデスクの上に置いた彼女が背後に振り返る。
 その表情は能面のように無表情であった。
「正直に言え」
 そして発した言葉には抑揚が無い。
「は、はい」
「……お前、昨日テレジアに何をされた?そして、何をした?」
 どういう経路でそれを疑うことになったのかは、彼にはさっぱり不明であったが、誤魔化すのも、言い訳するのも不可能だと理解し、言われた通り正直に話すことにした。
「そ、その……テレジアさんに……」
「ああ」
「スミカさんを、“満足”させられる方法というのを教えてもらいました……」
 はっきりと内容については言わなかったが、スミカにはその内容がどのようなものかは、想像ついているだろう。
「……それだけか?」
そして、スミカは彼の最大の罪悪感の源に言及を始めた。
「あの……僕は、嫌がったんです……」
 言い訳するだけ無駄だと分かっていながらも、男の性だろうか、それを始めてしまった。一応事実ではあるが。
「したのか」
 但し、彼女はそんなことを聞いているわけではない。過程などどうでもいい、結果を問い質しているのだ。
 そして彼は、言葉にするのが恐ろしかったのか、それに頷くだけで終わった。
「……そうか」
 今、スミカは沸々と怒りを沸き立てているらしい、深く呼吸を繰り返しながら小さくそう呟いた。
 少年の方は、告白をしたことで、彼女を裏切った罪悪感が表出したのか、眼に涙を浮かべ出した。
「ごめん、なさい……」
 いくら彼がまだ子供とはいえ、物事の分別は付いている。泣いて謝ればいいというものではないことはよく分かっている。しかし、それでも流れる涙を止められなかった。
 拒否することは出来たのだ。先程のテレジアの提案に対するスミカの反応のように。
 だが、自分はそれをしなかったのだと、彼は自責の念を抱いていた。
「――あの色情魔がッ!」
「……へ?」
だが、彼の予想に反して、スミカの怒りの矛先はテレジアにであった。
「私を嵌めたな……ッ」
 そう言いながらわなわなと身体を震わす。彼女の弁を聞くに、どうやら騙されたらしい。
 握り締める拳を見ながら、歯を噛み締めるスミカに、恐る恐る彼が声を掛ける。
「あの、どういう……」
 するとスミカにキッと睨みつけられたので、言い淀んだ。
「あいつはな、お前から、話を聞いてやると、そう言ったんだ……」
「な、何のですか?」
「私のことを、その、ああ、クソッ――どう思ってるかをだッ!」
 暴風のような怒声で、彼が飛んでくるものから身を守るように手を掲げながら怯む。
 しかし、よくよく思い返すと、その言葉の意図が分からず、指の隙間から伺うようにしながら、質問を重ねる。
「僕が、スミカさんを……ですか?」
 言うまでもなく恋人なのだから、勿論、好きということになるはずである。
「私はな、あの女にどうすれば……お前をずっと傍に置いておけるかと相談したんだ。そしたらな、”本人から聞くのが確実だ、それとなく希望を聞いてやる”なんて言ってっ……!」
 仮にも美少年である彼が他の女になびかないようにはどうすればいいか。それを経験豊富なテレジアに聞いたところ、力になってやると言われた。ところがどっこい、彼女は少年をつまみ食いした。ということらしい。
「何が押しに弱い”かも”だ……っ! 確かめたくせに……っ」
 昨日カラードから帰った後、おそらく少年が風呂に入っているなどしているときにテレジアから電話があり、それを参考にしたのが昨日の夜に繋がったのか。
 少年がまるで推理小説を読んでいるような気分でそう結論を出した。
 するとスミカは落ち着くように深呼吸をすると、ベッドの上に座っている彼に近づき、殴るのに近い強さで少年を突き飛ばした。
 跳ね返るほどの勢いでベッドの上に叩きつけられた彼が、平謝りしようと思いながら起き上がろうとしたら、スミカに襟首を掴んで持ち上げるように首輪を掴まれて首を持ち上げられた。
「――するぞ」
「え?」
「つべこべ言わずに、さっさと勃たせろ!」
「は、はいぃ!」
 恐怖を感じながら、勃起させるのも難しいことであるが、少年は自分のものを手で少し弄って、元気にさせると、
「……覚悟しろよ」
 そう凄まれたのだが、彼は不謹慎ながらも、淡い期待感を抱いていたのだった――

「――あら。切られちゃった」
「そうかぁ。いやあ、残念だな」
 スミカたちと同じく全裸のテレジアたちが呟き合う。
 すると、その言葉に反応するところがあったのか、テレジアはベッドの真ん中で胡坐をかく夫に向かい合いながら、その膝の上に座ると、
「そんなに私以外の女を抱きたい?」
 と意地悪い口調で言う。夫からは「君が言うか?」と当然の反論が帰ってきたが、それはスミカと違い怒りは含んでおらず、徹頭徹尾皮肉の意味だけであった。
「あ、分かった。私が他の男に抱かれるのが見たいのね?もう、好きなんだから」
やはり意地の悪い声色で夫の嗜好を揶揄すると、彼は顎に手を遣って、考える風に天井を見上げる。
「うん。それも、あるかな」
「……それも?」
 彼女は、その何かを含んだ言い方に期待感を抱いている。
「他の男の手で喜ぶ君の姿を見るのもいいが……」
 そういいながら、彼は妻に視線を戻すと、
「僕の手で――それ以上に喜ぶ君が見たいんだ」
 爽やかな笑顔で、そんなことを言われたテレジアは、はにかみながら、
「そんなに見たいなら、いつでも見せてあげるわよ?」
 と挑発的に笑った。
「それじゃあ、早速――見させていただくとしよう」
 彼は胡坐を解きながら、妻に短いキスをすると、ベッドに押し倒すのだった――。


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