小説の内容を説明しましょう。
作者はケルクク。
内容はBFF社のリリウム・ウォルコット嬢が大変悲惨な目にあいます。
また21禁ですがエロはありません。
リリウムファンの方やエロを期待した方は戻る事を強くお勧めします。
説明は以上です。
最悪の読後感から逃れる好機です。
そちらにとっても、悪い話ではないと思いますが?(笑)


Written by ケルクク


対岸から池の中心にいる自分に向かって放たれた2発のEN兵器。プラズマは見当違いの方向へ。だがハイレーザーはこのままだと当たる。
敵は1発は外したといえロック距離外にいる動目標に対して手動での狙撃が可能。敵の戦力を自分と互角に再評価。
敵への認識を改めると同時に迫りくるハイレーザーをQBで回避し、同時に067ANLRをロック距離外にいる敵ネクストに発射する。
敵ネクストが067ANLRを回避し、巧みに地形を利用して姿を隠す。
問題ない。061ANRで相手の動きは補足し!?QBの着地直後、突如目の前に現れたプラズマを回避するために機体を横転させる。
無様に水面を転がる。だがギリギリで回避に成功。だが外れたプラズマが水面に着弾し局所的な電波障害を発生させる。
レーダーが潰された。視認も不可能。とっさに063ANEMを起動し、転がる勢いのまま機体を立ち上がらせる。
視界の端に極光!?あれはトーラスで試作後に廃棄された筈のアサルトキャノン!?
左QB。迫る極光。消し飛ぶECM。揺れる機体。
辛うじて直撃は回避したがコジマ汚染は避けきれず、PAの三分の一を奪われる。
「きゃあ!!」
衝撃にリリウム・ウォルコットらしい悲鳴を上げ、同時に敵を再評価。
動きの鈍い重量級で067ANLRを回避し巧みに地形を利用する操縦技術。
ロック距離外にいる動目標に対する狙撃が可能でるだけでなく、それが回避される事すら予測し回避後の場所はおろか回避のタイミングまで読み切りQB後の僅かな硬直を狙い撃つ射撃の腕と戦況予測。
そして余りの扱いの難しさから試作段階で廃棄されたアサルトキャノンを使いこなす技量。
全てが自分より圧倒的に上。一対一なら絶対に勝つ事は出来ない。
だが今の自分の役割は囮及び時間稼ぎ。ならば無理に勝ちにいく必要はない。
「大丈夫ですか!クイーン!!」
「はい、大丈夫です。貴方達は無事ですか?」
先程の悲鳴に心配したのか親衛隊であるサイレントアバランチから通信が入ったのでリリウム・ウォルコットらしい返事を行う。
「はっ、問題ありません。お心遣い感謝いたします。
 大人の手によりE1は沈黙。これによりフェーズ1は終了いたしました。従って対岸のE2及びE3をターゲットにしたフェーズ2を開始いたします。
 従ってクイーンには戻ってこちらに合流していただきます。一分後にイクリプスがそちらに向かいますのでそれに合わせて後退をお願いします」
「了解しました。クレイドルを墜とすなどという蛮行、何としてでも阻止しなくてはなりません。
 その為に御助力をお願いしますね、トロット・S・スパーさん」
「はっ!!」
名前を呼ばれた事に感激した相手が通信を終了する。問題なく相手が望むリリウム・ウォルコットで在れた模様。
電波障害が未だに収まっていない為、周囲の様子を確認しながら慎重に後退していく。
気をつけなくてはならない。先の敵ネクストもそうだが、まだ姿を現していないストレイドにも注意が必要だ。
程無くして電波障害が回復したので状況を確認する。
池の中心にいる自分を中心に前方の陸地にE2。そして後方の陸地の最奥に王小龍、そのやや前方に親衛隊が展開している。そして親衛隊と自分の間にイクリプス。
敵ネクストとストレイドの姿は確認できな!?E2に敵ネクスト反応が出現。データに登録あり。武装及び外装に若干の相違があるけど、このパターンはストレイド。
ストレイドは驚異的なスピード――恐らくOBを使用したのだろう――でE2から離脱。そのまま一直線に自分にむかって直進し、いえ違う。
「イクリプス!!ストレイドの狙いは貴方達です!!注意してください!!!」
リリウム・ウォルコットらしい警告を行うと同時に067ANLRと063ANARで超高速で突進してくるストレイドを狙撃。命中。
だが被弾に構わずストレイドは一瞬にして自分の頭上を通り過ぎていく。
接近するストレイドをイクリプスは迎撃するもその全てをストレイドは回避しイクリプスの無防備な上部に着地。
そのままストレイドの象徴たるKB-O004をイクリプスの中心に打ち込む。
固い外壁を貫き脆い内部でコジマ爆発が炸裂する。
密閉された場所に閉じ込められたエネルギーは解放を求めて内部を蹂躙し、やがて破壊の果てにミサイルやプラズマの発射口やブースターの噴射口から爆炎を伴って噴出する。
全身からコジマと爆炎を噴き上げながらイクリプスが自分と親衛隊の中間地点に墜落する。
半分水没したイクリプスの残骸上からストレイドが自分を睥睨する。
ストレイドからプライベート回線で通信が入る。無視。
「クイーン!!!くそ!!クイーンに合」
こちらに合流しようと前に出た親衛隊の一機がレーダーから消える。
「トロットさん!!」
皆に聞こえるよう故意にオープンチャンネルでリリウム・ウォルコットらしい悲痛な叫びを上げる。
ストレイドからカラード共用チャンネルで通信が入る。無視。
レーダーにはイクリプスの残骸上にいるストレイドに加え、何時の間にか親衛隊の左前方、ストレイド左後方に敵ネクストが現れていた。
この位置にいられると親衛隊がイクリプスの残骸を超える時に狙い撃ちにされる。
そのため親衛隊は前に出れず敵ネクストと睨み合っている。
完全に分断された。
ストレイドからオープンチャンネルで通信が入る。無視。
「ストレイドは任せるぞ、リリウム。私に恥をかかせるな」
王小龍からの命令。
内容は、ストレイドを自分に任せる。
………不可能だ。過去のデータ及び今の動きをみる限り自分では絶対に勝てない。時間を稼ぐ事が精一杯だろう。
だがいくら不可能と解っていても王小龍から命じられた以上、自分の返事は一つしかない。
「お任せ下さい、王大人。ストレイドの撃破後直ぐに援護に向かいますのでそれまでお気をつけください」
「すまんな。よろしく頼んだぞ」
「はい。皆様、王大人をよろしくお願いいたします」
リリウム・ウォルコットらしい返事を最後に通信を終える。
「お前の事情は解ってるがぁそれでも通信ぐらいしてくれてもいいんじゃないかぁ、チビ?」
ストレイドが外部スピーカーを用いて自分に語りかけながら、ゆっくりとイクリプスの残骸から降りてくる。
無視。当然だ。チビはもう何処にもいない。ここにあるのはリリウム・ウォルコットを演じる人形だけだ。そして人形は返事をしない。
067ANLRと063ANPMをストレイドに向けて発射する。
「っと、やれやれ問答無用かよ。いいぜぇ、チビ。あいつの代わりに俺がお前の悪夢を終わらせてやる」
QBで避けたストレイドが右手に鉄塊を左手にコジマを纏い突撃してくる。

こうして勝つ可能性など何処にもない、絶望的な戦闘が始まった。


私は親の顔を覚えていません。
私は自分の名前を知りません。
私はなにも持ってはいません。

****

私は物心ついてからずっと施設で生きてきました。
施設とは親や保護者が死別等で自分が今後子供の養育が出来なくなった時の為に事前に既定の金額を支払っておく事で、保護者が養育不能状態になってから子供の養育を代行する機関の事です。
ただ私のいた施設は最低ランクで、職員達は子供達が生きていれば良いと最低限の物資の配給をするだけで後は無関心。だから子供達は少ない物資を奪い合いながら生きていました。
子供達の生き方は二つ。強者となり弱者から奪うか、強者に媚び諂い強者のおこぼれで生きるか。
無力な私が選んだのは後者でした。
ただ要領の悪い私は媚び諂う事すら上手く出来ず、当時私が所属していた二十人程度のグループの中の私の席次は最低で、皆に蔑ずまれ殴られ、着る物すらなくボロボロの毛布を裸の身体に巻き付け、食事も一日にパンを一口食べられれば良い方でした。
蔑ずみの視線やストレス解消に振るわれる暴力を諂いの笑みでやり過ごし、皆の食べ残しのパンを食べ、ドアの近くの床で寒さに震えながら眠る。そんなただ生きるだけの毎日。
そんな生活を物心ついてから五年ほど送りました。
当時の思い出は殆どありません。きっと生きる事と苦痛をやり過ごす事に精一杯だったからでしょう。

そんな生きるだけの生活の終わりと、幸福に満ちた二年間の始まりは、人の死でした。


「ほい。今日の配給だよ~ん」
私達の部屋に何時もより遅れてやってきた職員様がケースを机に下ろす。
「あざーす」
礼を言ってリーダーが中身を確認する。
暫くして確認が終わったリーダーが満面の笑みを浮かべながら顔を上げる。
「何か今日は何時もより多いっすね。消耗品だけでなく服やらなんやら色々あるじゃないっすか!!」
「うん。今日は新入りが来るからね。その分だよ。いやぁ~、これを持ってくるのは苦労したよ」
「へへへへ。ありがとうございやす。今日はその分までサービスしますよ!!おい!!」
リーダーが声をかけると同時にお姉様達が職員様に群がり、キスをしたり肩を揉んだりする。
「おお!エマちゃんは相変わらず胸が大きいねぇえぇ~」
職員様がエマお姉様の胸を揉みながらだらしない顔で笑う。
リーダーが言うにはこの職員様は私達に無関心な他の職員様と違い、私達を食い物にする本物の最低野郎なのだそうだ。
ただその分御しやすいのでこうした取引が成立しやすいらしい。私ももう少し大きくなったらリーダーに抱かれた後にお姉様がやっている接待に参加する事になっている。そうすればご飯が少しだけ増える。
「へへへ。んじゃぁ今日はどうします?またエマにしやすか?」
「うーん、どうしようかなぁ~。昨日もしたからなぁ~」
職員様がお姉様達を舐めるように見廻す。その視線が部屋の片隅で丸くなっていた私の上で止まる。
「あー、ねぇ王焔くん。あの子は駄目かなぁ~?ほら、えーと部屋の片隅で丸くなってるあの子?あれ名前なんだっけ?」
「え?ああそいつっすか。名前なんてないすよ。赤ん坊の時にここに棄てられてそん時に名付けられてなかったらしくてそのままっすね。おい、こい!」
リーダ―に呼ばれたので慌てて立ち上がりリーダーの前に向かう。
「馬鹿!俺の前に来てどうすんだ!職員様の方を向けよ!たっく相変わらずどんくせぇな!」
怒鳴られたので慌てて後ろを向く。
「王焔くん、そんなに怒らない怒らない。わぁおぅ!毛布の下は裸かぁ~。いいねぇ~」
職員様が私を舐めるように見た後に腕を伸ばし私の胸を弄ぶ。思わず後ろに下がりそうになるがリーダーに「じっとしていろ!!」と怒鳴られたので踏み止まり、諂いの笑みを浮かべる。
職員様が私の手を引く。バランスを崩し、職員様の腕の中に倒れ込む。私の全身を職員様の腕が這い回る。思わず悲鳴を上げそうになるがギリギリで噛み殺し、諂いの笑みを浮かべ続ける。
「うんうん、いいねぇ。ねぇ王焔くん。今日はこの子がいいなぁ~」
「まじっすか!?そいつはまだガキすっよ?」
「たまには青い果実を食べたくなる時があるんだよ」
「でもねぇ、幾らなんでもこんなガキを差し出すのはねぇ~」
「いいじゃんいいじゃん!何事も早い方が良いしさぁ~。そうだ!明日は何時もより三人分多くもってくるよ!」
「でもねぇ、そいつの初モンは俺が頂こうと思ってたんすよ?」
「相変わらず王焔くんは商売上手だなぁ~!よし解った!明日は二倍持ってこよう!!」
「ふぅ、解りましたよ。ただし、そいつ初めてなんで下手だからって文句言わないで下さいよ?」
「うんうん、大丈夫!あ、ちょっとぐらい手荒く扱ってもいいよね?」
「壊さないで下さいよ?おい!聞いての通り今日のあいてはお前だ。上手く出来たら暫くは俺等と同じもん食わしてやるから気張れよ!!」
「ひゃっひゃっひゃ!君は何もしなくていいよ~ん!お兄ちゃんが気持ち良くしてあげるから任せておきなさぁ~い!」
商談が成立し、職員様が荒い息をつきながら私の顔に口を寄せる。
臭い。顔を背ける。だが強引に職員様の方に向き直され唇を奪われる。
送り込まれる臭い息と唾液に、口の中を這い回る気色悪い舌。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。
吐き気を堪え強張る私を嗤う職員様。その手が私の全身を這いまわり、その舌が私の股の間を舐め回す。

そして顔を上げた職員様が荒い息を吐きながら自分のズボンのベルトに手をかけた時、突如ドアが蹴り開かれた。

****

開かれたドアの向こうにいたのは私より少し上ぐらいに見える少年だった。
少年は驚く私達を無視して職員様が持ってきたケースを開けて、一人分の配給品を取り出す。
そのまま部屋を出ようとした少年の前に私達の中で一番強いノーリ様とアディーン様が立ち塞がる。
「てめぇ!何のつもりだ!!!」
「何って、俺の配給がなぜっかこっちに来たから取りに来ただけだよ。ほら、ここに名前が書いてある」
少年は自分より五歳は上で体格も倍ぐらいあるアディーン様が怒鳴っているのに全く恐れずに袋を見せ「わかったらどけ」と告げた。
「ふざけんな!!」その態度に怒ったアディーン様が少年に殴りかかる。だが少年は一歩下がる事でその拳を避けるとそのままアディーン様の股間を全力で蹴りあげた。
その場に崩れ落ち悶絶するアディーン様。少年は苦しむアディーン様を嗤うと、アディーン様の脇腹をサッカーボールをシュートするように思い切り蹴り飛ばした。
壁に激突し口から真っ赤に染まった吐瀉物を撒き散らし痙攣するアディーン様。
「てめぇ!よくもやりやがったな!お前等!ぶっ殺せ!!」
リーダーの怒声と共に、リーダーとお姉様達と私と職員様以外の全員、総勢十名が一斉に少年に襲いかかった。

少年は嗤いながらケースを置いた。

****

少年は圧倒的だった。
十倍の人数差や二倍近い体格差など関係なく少年は一人一人倒していった。
少年は徹底的だった。
蹲る者の鼻を蹴り砕き、泣き叫ぶ者の口に足を振り下ろして歯を全て叩き折り、戦意を失い背を向け逃げ惑う者の背中に鋏を突き刺し、傍観するだけのお姉様達を殴り倒した。

少年がケースを置いてから十分ほどで私達三人と少年以外は全て血と涙を流しながら床に倒れ伏していた。

****

泣き叫ぶドヴァー様の顔を嗤いながら何度も壁に叩きつけていた少年が、ドヴァー様が意識を失うと舌打ちして床に叩きつけた後にゆっくりとこちらを向いた。
「さぁて、後はお前らだなぁ?」
全身を返り血で斑に染めた少年が嗤う。
「嘘だろ?十人はいたんだぜ。くそ!なっなぁアンタ、俺達が悪かった。そこにあるのは全部持って行って良いから勘弁してくれよ。
 いや、そうだ!アンタ俺達の頭にならないか?アンタの力があれば、くそ!話を聞いてくれよ!!」
嗤いながら近づいてくる少年に怯えたリーダーが捲し立てる。
私を抱いている職員様も真っ青になりながら震えている。
そんな二人を見て少年がさらに強く嗤う。
私も殴られるのかな?別にいいか。何時もより少し強く殴られるだけだもんね。
それに何時も威張っているリーダーや職員様が何時もの私みたいに怯えているのは面白いし、何時も私に酷い事をしていた皆が酷い目に遭うのは嬉しい。
私は昏い喜びを感じながら少年に嗤い返す。
「くっく来るな!!来たら撃つぞ!!僕はほっほっ本気だからな!」
職員様が震えながら懐から銃を抜き、少年に向ける。
「ひゃ、ひゃ、ひゃひゃはははは!さすが職員様!!けけけけけぇ!形勢逆転だなぁ~!!おい!こら!ぶっ殺されたくばければ土下座でもしろよ!!」
「ふっふふっふ!よっよくも僕の楽しみを邪魔してくれたね!お礼にボコボコにしてあげるよ!!なんだい、その顔は?悔しかったら抵抗してみなよ!もしそうしたら頭を打ち抜いちゃうけどね!あははああはは!」
リーダーと職員様が笑いながら少年を嘲る。
銃を向けられている少年が今までとは違う笑みを浮かべる。
「いいぜぇ、できるもんならやってみろよ?ただ一つだけ教えてやる。銃を向ける時は相手を殺す覚悟と相手に殺される覚悟をしなくちゃいけないって爺さんが言ってたぜ。
 つまりそれを外したらアンタは俺に殺されるって事を解っているんだよなぁ~!!」
喋り終わると同時に少年がこちらに向かって走り出す。
「くそ!!ゴミクズの分際で!!」
職員様が慌てて安全装置を解除して走ってくる少年に銃口を向ける。
「死んじゃ!?ってお前何するんだよ!離せ!!」
職員様が引き金を撃つ直前に、銃を持つ手に縋りつく。
………なんでこんな事をしたんだろう?自分でも解らない。
目の前で人が死ぬのは嫌だったのか、それとも自分を虐めたリーダー達に復讐をしたかったのか、それとも自分の代わりに復讐してくれた少年にお礼をしたかったのか?
とにかくあたしは無我夢中で職員様の腕に縋りついた。
直ぐに職員様に殴り倒されて引き剥がされたが、職員様が自由になった銃を再び少年に向けた時には既に少年は職員様の目の前にいた。
「おせぇ!!」
少年が自分に向けられた銃を持つ腕を左手で払う。そのまま職員様の懐に入った少年が右腕が半分埋まるほど強く職員様のお腹を殴りつける。
体をくの字に曲げて吐瀉物を撒き散らす職員様。その顔を少年が思い切り蹴り飛ばす。
血と涎と歯を撒き散らしながら悲鳴を上げて床を転げ回る職員様の首の上に少年が勢いよく飛び乗る。
ゴキャリという音と共に職員様の首が潰れ、蛙の潰れた様な悲鳴を最期に上げたきり静かになる職員様。
痙攣する職員様の上から少年が下り、職員様の手から銃を奪い取る。
「ひっ人殺し!!」「いやっぁぁああぁああ!!」「たっ助けてくれ!!」「うわぁぁああああぁあ!!」「しっ死んだ!?殺しやがった!!」
まだ意識があった何人かが悲鳴を上げ逃げ惑う。だがここは五階だしドアの近くに少年が居るから壁際によるだけだ。
「おいおいおいおい?なぁに勘違いしてんの?こいつは窓から落ちて不幸にも首の骨を折っちゃったんだよ?そうだろ?」
少年が嗤いながら唯一無傷なリーダーに銃を向ける。
「あっああ、そうだ。こいつは足を滑らせて窓から落ちたんだ。ここにいる全員が見たから間違いない」
少年の意を汲み取ったリーダーが何時もの私のように諂いの笑みを浮かべる。
「じゃぁ、とっとと運べよ!!」
「はっはい!」
リーダーが慌てて職員様を担ぎあげる。一度手に職員様のおしっこやうんちが着いた時に悲鳴を上げて手を離したが、少年が舌打ちすると慌てて窓際に引き摺って行く。
そのまま職員様を窓から突き落とそうとしたリーダーに少年が嗤いかける。
「おいおいおい?何してんだよ?」
「何って、言われたとおりにこいるを窓から突き落とそうと」
「ばぁか。お前も一緒に落ちるんだよ」
「え?何を言って」
戸惑うリーダーを少年が嗤う。
「だからぁ、いい大人が足を滑らすって変だろ?でもアンタが足を滑らせて窓から落ちそうになったのを助けようとして失敗して一緒に落ちたんなら不自然じゃないよなぁ?
 そして咄嗟にお前を庇って死亡。うんうん、美談だなぁ」
「そんな!ここは五階なんだぜ?こんなところから落ちたら死んじまうよ!勘弁してくれよ!!」
リーダーが泣きながら少年に慈悲を乞う。
「だぁめ!残念だけどウチの家訓は『敵意には敵意を、悪意には悪意を、そして殺意には殺意をもって返せ』でな。
 アンタはこいつらに俺をぶっ殺せっていったよなぁ?そいつが銃を俺に向けた時にもぶっ殺すって言ったよなぁ?
 なら俺を殺そうとしたお前を俺が殺してもなぁんの問題もないよなぁ?」
「ちげぇよ!言葉の勢いだ!!本当に殺す気なんて無かったんだ!!」
「俺もだよ。俺もお前がここから落ちても死なないって思ってるぜ?まぁ死んでもいいとも思ってるけどな」
「そんな!勘弁してくれよぉ。何でもするからさぁ~」
頭を床に何度も叩きつけてリーダーが懇願する。その不様を見て少年が嗤う。
「ちゃだ。ほら、そろそろ立つんだよ!大丈夫!そいつを下にすれば死にはしないって、多分。
 それともこいつで頭に穴を開けられてから落ちるかぁ?俺はそれでもいいぜ?」
土下座を続けるリーダーに少年が銃を向ける。
リーダは泣きながら立ち上がり、グズグズと窓に向かう。
だが踏ん切りがつかずに、職員様の死体を前に窓際で泣き続ける。
「あ~、もう早く跳べよ!!男らしくないなぁ!!もういいよ!10!9!」
痺れを切らした少年がカウントを始める。
「あ、あ、ああ、お願いだよ!待って!!」
「6、5、4」
少年が目を細め引き金に指をかける。
「3、2」
「1」「うわぁああああぁあぁぁっぁああぁぁぁぁぁぁぁ~~!!!!!!!!!!!」
絶叫し死体と共にリーダーが窓から飛び降りる。
次いで下から鈍い音がし、悲鳴が上がる。
それに一切気を払う事無く、少年が最後の獲物である私の元に歩きだす。
目の前で起きた事に現実感失ってしまった私は殴られた時に出た鼻血を流しながら呆然と座り込み少年がやってくるのを見つめる。
私はどうなるのかな?殴られるのかな?それとも殺されちゃうのかな?どっちでもいいけどあんまり痛くない方がいいな。
少年が私の前に立つ。思ったよりも小さいな。私より十センチくらい大きいだけだ。いくつなんだろう?
殴り倒された私の手を少年が掴み強引に立ち上がらせる。
そして少年は私に頭を下げた。
「助かったぜチビ。お前があそこで助けてくれなかったら死んでた。サンキュな」
頭を上げた少年が私に笑いかける。
辺りを見回す。周りに私以外誰もいないから多分私にいっているのだろう。
「チビ?」
それでも他人から嘲笑以外で笑いかけられた事が無く不安に思った私は自分を指差す。
「他に誰が居るんだよ。俺を助けたのはお前だろう、チビ?」
「………殴らないの?殺さなくていいの?」
「何で恩人のお前にそんな事するんだよ。ウチの家訓は爺さんの代で『好意には好意を、善意には善意を、そして愛には愛を持って報いろ』ってのが加わったんでな。
 だから今度は俺がお前を助けてやる。何かしてほしい事はあるか?」
少年がもう一度笑いかけて私の頭を撫でる。
あ!私誰かに頭を撫でて貰うのって始めてだ。
視界がぼやける。
「うお!何泣いてんだよ!!おい!チビ!あ~、もう鼻か!鼻が痛いのか!!」
泣きじゃくる私に少年が慌てる。
「………って!」
「ん?何か言ったかチビ?」
「……てって!」
嗚咽のせいで上手く言葉が出ない。懸命に息を落ち着かせ声を絞り出す。
「連れてって!」
「いいけど何処にだよ?保健室?」
だけど頑張って絞り出した声は言葉が足りず意味が通じない。
「違うの!私をここから連れて行って下さい!私を貴方と一緒にいさせてください!迷惑かけないし、言う事きくし、いい子にしてるからお願いします!!!」
言葉と共に下げた私の頭にポンと手が置かれる。
「ん?そんなんで良いのか?じゃぁ、ついてこいよ」
少年は私の頭を撫でた後に踵を返し、置いていたケースを拾う。
「んじゃぁ行くかって、おろ?チビ荷物は?」
「ない………です」
少年の問いに首を振る。本当は毛布があったのだがあの騒ぎの中どこかにいってしまったし、それにこの部屋の物は何も持って行きたくなかった。
「ふーん。んじゃぁ行くか」
少年が懐から地図を取り出してドアに向かって歩き出す。私は慌ててそれについてく。
返り血で斑に赤く染まった銃を持った少年と鼻血を流しながら少年の一歩後ろを歩く裸の私。
異常な二人組に関わり合いを恐れた他の子供たちは慌てて逃げ出していく。

五分程歩き、三階の部屋の隅に辿り着いた少年はドアを開けて部屋に入る。
部屋は台風の後のように荒れ果てていた。よく見ると所々に赤い染みや乾いた吐瀉物がこびり付いている。
きっとどこかのグループが占拠していたのを、先程と同じように少年がここは自分の部屋だからという理由で奪ったのだろう。
「えーと、左の上段が俺のベットで、右上は今はいねえぇが埋まってるな。でも下は両方ともあいてるから好きな方使えよ」
少年が部屋割りが書かれた紙を私に渡した後、自分のベットに上がる。渡されても私字読めないんだけどな。
「んじゃ、俺運動して疲れたから飯まで寝るわ。お休み~」
そう私に告げてベットに寝っ転がった少年が直ぐに鼾を掻き始める。
私は暫く迷った後、少年から貰った紙を無くさない様に握りしめてベットを上がって鼾を掻く少年の隣に潜り込む。そして眠る少年に抱きつき瞳を閉じる。

そして私は生れて初めてのベットで、生まれて初めて他人の暖かさに包まれて眠りにつくのだった。


その後は最初の数日間こそ他のグループに配給を取られたり襲われたりしたが、その全てに少年が徹底的な報復を行うと私達に手を出してくる者はいなくなった。
それからは今までの生活と比べると楽園のようだった。
殴られる事も蔑げずまれる事も無く、三度も食事をお腹一杯になるまで食べられ、眠る時も寒さに震えながら床の上で毛布に包まる事も無く暖かいベットの上で眠る事が出来る。

ただ少年は一日三回のご飯の配給を取りに行く時とトイレとシャワー以外はベットの上から降りてこず、
また私が少年のベットに上がろうとすると「来るな!」と怒鳴られ追い出されたので少年と話や触れあっていたかった私は少し寂しかった。
でも二日に一度、一時間ほど少年は泣いた。その間だけは隣に座っても怒られなかったので私はその時間が楽しみだった。
膝を抱え泣く少年に寄り添ったり頭を撫でたりするだけだったがその瞬間は確かに少年に触れている事を感じられたのだ。
まれに泣く少年に押し倒される時もあった。それは苦しくて痛かったが、同時に少年に求められている事を強く感じられて私は凄く嬉しかった。
少年が誰のでもいいから温もりを求めていただけというのは解っていたがそれでも良かった。だって私も誰かに必要とされたかっただけなんだから。
結局私達は一人でいるのが嫌なだけだったのだ。
その証拠に一か月一緒に暮らした中で少年は私に何も尋ねなかったし、私も少年に何も尋ねられなかった。

そんな二日に一度少年と触れあう以外は部屋の片づけなどをして過ごす穏やかな日々は一ヶ月後にお姉ちゃんが来るまで続いた。
そしてお姉ちゃんが来た事でようやく私達は忘れていた、或いは知らなかった『幸せ』を知る。


お姉ちゃんは私と少年が出会って丁度一ヶ月後に私達の部屋にやってきた。
お姉ちゃんはよく笑う人だった。
ここにいるのは誰かに棄てられたか死に別れた心に傷を負った子供たちばかり。だから誰も笑わなかったし笑えなかった。
でもお姉ちゃんは違った。私や少年に笑わないと天国にいるお父さんやお母さんが心配するから楽しく笑って生きよう!と笑いかけてくれた。
ううん、私達だけじゃない。お姉ちゃんは来たその日から施設にいる皆にそう言って笑いかけてくれた。
喧嘩をしている子がいたら仲直りをさせ、泣いている子や昔の私みたいに虐げられている子がいたら励まして助けようとした。
最初は上手くいかなかった。お姉ちゃんは何時も真夜中にボロボロになって帰って来た。
私はお姉ちゃんが怪我をするのが嫌でたまらなくて早く諦めて、部屋の中で私だけに笑いかけてくれるように願っていた。
でもお姉ちゃんは諦めなかった。殴られても騙されても傷だらけになりながら何度でも何度でも私達に笑いかけてくれた。助けようとしてくれた。
だから何時の間にかお姉ちゃんの周りには少しずつ、でも確実に人が集まっていった。

最初は私みたいな無力な小さい子達が集まった。
お姉ちゃんは怯えた私達にもう大丈夫だよと笑いかけてくれたので私達はお姉ちゃんにしがみ付いてワンワン泣いた。
そして、泣きやんだ私達にお姉ちゃんは遊びや勉強や神様の事を教えてくれた。

次に私達より上のお姉様達が集まった。
お姉ちゃんが卑屈に媚びるお姉様達にもう大丈夫ですよと笑いかけたらお姉様達は子供みたいにお姉ちゃんに抱きついてワンワン泣いた。
そして、お姉様達はお姉ちゃんと一緒に私達と遊んでくれたり勉強を教えてくれるようになった。

そして少年が何時の間にか私達の輪に加わっていた。
最初の内は皆の分の配給を持ってくる以外はずっとベットの上で私達が遊んだり勉強したりお祈りしたり笑ったり、たまに泣いて皆に慰めて貰ってまた笑う様子を見ていた。
でも徐々に少年は配給をベットの上じゃなくて私達と一緒に食べるようになっていった。徐々に私達と遊んでくれるようになっていった。私が少年の事をお兄ちゃんと呼ぶようになったのはこの頃だ。
そしてお兄ちゃんは気がつくと私達と一緒に遊んだりお祈りしたり、勉強を見てくれるようになった。

最後に私達より上のお兄様達が少しずつ加わっていった。
お兄様達は私達が楽しく助け合って生活しているのを羨ましそうに横目で見ながら喧嘩を続けていた。
でもお姉ちゃんが説得したり、お姉様達が恋人や友達を誘ったり、お兄ちゃんが半殺しにして連れてきたりして少しずつ少しずつ私達の仲間になっていた。
そして気がつくと全員が家族になっていた。

****

集まった私達にお姉ちゃんは教えてくれた。
死んでしまった家族は神様のいる天国で幸せに暮らしていて私達を見守っている事を。
そしていい子にしていれば私達も天国にいけてまた家族やみなと楽しく暮らせる事を。
だから私達は天国に行った時に家族や皆に楽しい思い出を一杯話せるように頑張って仲良くいい子で生きていこうと決めた。

****

それからは凄く楽しかったし、幸せだった。
私達小さな子は毎日皆で遊んだりお勉強をしたりする。
お姉ちゃんぐらいの年上の子は私達のお勉強を見てくれたり遊んでくれたり、お家のお掃除やお洗濯や皆の料理を作ったりする。
そしてお兄ちゃんみたいな一番大きな子はお外に働きにいった。

私達は毎日追いかけっこやボール遊びやカード遊びやボードゲーム等今までした事が無い他愛のない普通の遊びを夢中になって遊んだり、知らなかった文字の読み方や書き方や足し算の仕方を教わった。
それに一か月毎に行うその月に生まれた子皆を祝うお誕生日会とか運動会とかお兄ちゃんが中心になって施設の人達と『極めて穏便かつ平和的な交渉』の結果、することになったキャンプとかみたいな楽しいイベントが一杯あったし、
ううん、特別なイベントじゃなくてもこの頃は何時も楽しい事だらけだった。
いくらお兄ちゃん達が働いてもお金は全然足りなかったから、いつもお腹は減ってたし遊び道具も足りなかったけど、それでも私達は満ち足りていた。
きっと天国というのは『ここ』の事だと思う。
だってリリウム・ウォルコットを演じるようになってから豪華な料理や最高級のホテルを経験したけれども、最高のシェフが最高の素材を使って作ったどんな料理もお姉ちゃんが作るすじ肉とジャガイモのクリームシチューには遥かに及ばなかったし、
王様が寝る様な素敵なベットも皆で頑張って張った穴だらけのテントの中で皆で包まった穴の開いた毛布の寝心地に比べれば全然だ。
きっとこの時の私達は世界で一番贅沢な暮しをしていたと思う。

そんな世界で一番の王様でも味わえない素敵な暮しは二年間続いた。
そしてお兄ちゃんが来てから二年後のある日、私の両親の一族を名乗る王小龍が私達の家に訪れ、多額の寄付と共に私を引き取る事を申し出た。
皆は自分の事のように家族に引き取られる私の事を喜んでくれ、ささやかだが精一杯の送別会を開いてくれ、お兄ちゃんは私のお願いをきいてお姉ちゃんにする様なキスをしてくれた。

そして、皆に見送られ家を出たその日の夜から地獄が始まり、その果ての二年後私は王小龍に壊されることになる。


「じょ、冗談じゃ…」
また一機、親衛隊たるサイレントアバランチの反応が消える。
仲間の仇を討とうと残った親衛隊がスナイパーキャノンを発射する。カラードに所属するリンクスの殆どが避けられないであろう計算され尽くした十字砲火。
だがそれを敵ネクストは左後方にQBで跳ぶ事で回避し、同時にACを起動させる。
「させん」061ANSCを発射する。だが敵はまるで読んでいたかのようにACの起動を止めQBで回避し、私の元に向かってくる。
舌打ちをし、061ABSRを撃ちながら後退。同時に稜線に伏せさせていた三機の親衛隊が敵への不意打ちを行「甘いな。王小龍」
嘲笑と共に敵が自らの足元にプラズマライフルを発射し、局所的な電波障害を発生させる。
発射寸前にロックを外され混乱する親衛隊に敵がACを発射する。
コジマの輝きの中に三機の親衛隊の反応が消える。
だが、その隙に何とか距離を離す事は出来た。それだけの為に精兵たる親衛隊を三機も失ったのは大赤字もいいところだが。

「やはりこうなるか」
予想通りとはいえ圧倒的に不利な戦況に顔を顰める。
本来ならストリクス・クアドロは相手の天敵である筈だ。
相手のネクストは外見、その他のデータから判断する限りARGYROSである筈だ。
ARGYROSは重厚なPAを備え、さらに地の防御力もEN・実弾共に高いという耐久力だけでいえばネクスト最硬といわれる雷電すら凌ぎ、さらに重量級としては平均以上の機動力も持っている優れたネクストだ。
だが致命的な欠点を二つも持っている為優れた性能を持ちながらも誰も使いこなせずトーラス本社で在庫の山を築いていた。
致命的な欠点の一つはEN負荷が極めつけに高い事だ。
PA及び高防御力を実現した代償に機体の重量とEN負荷は増加し、その重い機体をブースターで強引に動かし高機動を実現している為必然的にブースターは高出力・高負荷にならざるをえないために、必然的に瞬発力はともかく持久力を失う事になった。
だがこれはまだいい。問題なのはもう一つの欠点の方だ。
もう一つの欠点とは機体の安定性が軽量級に匹敵するほど極端に低い事だ。
つまり重量級の戦術の基本である被弾しながら相手の攻撃の隙を衝き相撃ち狙いで反撃という戦術が、被弾により体勢を崩してしまう為実行できないのだ。
ならばと相手の攻撃を避けようにもブーストを使うだけで凄まじいスピードでENが減ってゆきQBを使おうものならに数度で枯渇する極端な持久力不足の為、一発はともかく継続的に攻められるとどうしようもない。
だからこそ、高速かつ高貫通力かつ高衝撃力かつ高威力の061ANSCを持つストリクス・クアドロは相手の天敵になる筈であった。
常に敵との距離を離し遠距離から一方的に061ABSRで狙撃を行い削っていき、ENが枯渇した所で061ANSCを放つ。
仮に相手のENが残っていたとしても避けられないほどの高速で襲いかかり、分厚いPAを貫通し、地の装甲を上回る威力の061ANSCは確実に敵にダメージを与え、さらに衝撃で敵が固まっている隙に距離を離し接近を防ぐ。
さらにこちらにはノーマルといえ同様のスナイパーキャノンを背負った親衛隊が多数いるのだ。
本来なら戦闘にすらならない一方的な虐殺にしかならない筈であった。

しかし現実は逆にこちらが一方的に押されている。
理由は簡単だ。相手とこちらの腕の差がネクストの相性差と戦力差を覆して余りあるのだ。
唯でさえEN消費の激しいARGYROSの両手に装備したEN兵器で攻撃を行う事のできる絶人の域に達したEN管理技術に、
瞬発力はともかく持久力が無いにも関わらず私を含めて二十発以上のスナイパーキャノンによる攻撃を捌き切った上に反撃まで行う操縦技術、
そして欠陥品のAC及びARGYROSを使いこなす戦闘技量。
見事だ。流石かつてのアクアビットの最高リンクスにして最高位のオリジナルだ。技術者上がりの私とは桁が違う。
敵ネクストのリンクスが行方不明の奴という確証はないがおそらく間違いはあるまい。ネクストの挙動に奴特有の癖が出ているし、なにより『王小龍』をあのような戯けたイントネーションで呼ぶのは奴しかいない。
まったく、オリジナルというのは敵に回すとこうも厄介か。今は防戦に徹している為何とかなっているがこのままではいずれ私達は奴に全滅させられる。
まったくもって不愉快な話だ。
だが完全に私の計画通りだ。
こちらは至極順調。さて、人形のようすはどうだ?

人形は一見優勢だった。
ストレイドとの距離を近距離よりの中距離で維持し突撃ライフルとレーザーを中心に手堅くダメージを積み重ね、ストレイドが頻繁に仕掛けてくる接近戦も上手く捌きドーザーは数発受けたもののコジマブレードは撃たせてすらいなかった。
殆どの者は人形がストレイドを圧倒していると見るだろう。
愚かな事だ。実際は逆だというのに。
アンビエントの適性距離は中距離よりの遠距離。つまり人形は自分の距離を維持しているのではなく、むしろ距離を離そうとして叶わずあの距離まで詰め寄られているのだ。
だからこそ本来一度もやらせてはならない接近戦をああも頻繁に仕掛けられている。
幾度かドーザーを受けたのは殴られて吹き飛ばされでもしない限り距離を離す事が出来なかったからであり、ストレイドがコジマブレードを放たないのも余裕がある時は確実に仕留められる状況でしか切り札を切らないストレイドのリンクスの主義によるものでしかなく決して人形が封じているわけでは無い。
故にいずれは攻撃を捌き切れなくなった人形にストレイドがコジマブレードを撃ち込み人形は破壊されるだろう。
一応人形がこのままストレイドを捌き切り削り倒す可能性もあるにはあるがそれは奇跡に等しい可能性だ。
この事に気がついているのは私とストレイドと奴の三人だけだ。
敵はこのまま状況が推移すれば自らが優位に立つのだから私が余計な事をしなければこの状況を維持しようとするだろう。
そして私は余計な事をするつもりはない。
或いは人形も気が付いているかもしれんが、問題あるまい。仮にこのままでは死ぬと気が付いていたとしても死ぬまで戦う事を私が望んでいる以上死ぬまで戦うだろう。

故にこちらも計画通り。
人形が撃破されるか、或いは奇跡が起こり人形がストレイドを撃破するか。
どちらにしてもそれは私達が全滅するまでに結果が出る。
ならばどちらに転んでも不都合は無い。
奇跡が起こればそれでよし。起こらず人形が破壊されてもそれはそれでよし。

視界の中、絶望的な戦闘を行っている私の可愛い哀れな人形を嗤う。

「頼んだぞ、リリウム。最期まで私の役に立て」


少女を引き取ったその日から調教を始めた。

調教のルールは簡単だ。
私の命令を破ったら『罰』を与える。
だが将来の姫の肉体に傷を付けるわけにはいかない。
しかし調教に肉体的な苦痛は必須だ。生物が最も恐れるのは精神的な傷ではなく現実的な痛みなのだから。
傷をつけるわけにはいかないが、肉体的な苦痛も与えなければいけない。
その二律背反した命題を解決するのがAMSによる疑似的な肉体とのLINKであった。
疑似的な肉体とLINKさせた上で疑似的な肉体を傷付ける。そうすれば体を傷付ける事無く痛みだけを繰り返し繰り返し与える事が出来る。

そして調教は始まる。
私の命に反するたびに罰を受ける少女。
少女は幻想の中、腕をもがれ、指を切断され、足を捻じ切られ、目を抉られ、舌を穿たれ、燃え盛る炎に全身を焼かれ、両耳より熱湯を注がれ、性器を刃物で切り裂かれ、頸骨が折れるまで首を絞められ、足の先から順に輪切りにされ、歯を一本一本抜かれ、腹を裂かれ内臓を引き摺り出され、全身の骨が砕けるまで殴り続けられ、抜き出された自らの内臓を咀嚼させられ、全身を強酸に浸され、溺死させられ、生きたまま動物に食われ、体を少しずつ削り取られ、尻から強制的に空気を入れられ風船のようにその身を破裂させられ、頭蓋に穴を開けられて自らの指で脳を破壊させられ、凍死させられ、全身を二つに引き裂かれ、感電死させられ、少しずつ血を抜かれ長い時間をかけてゆっくりと失血死させられ、ゆっくりと押し潰され、生きたまま肉体を腐らせられ、全身に数億の針を突き刺され、全身の血液を沸騰させられ、肛門からゆっくりと鉄串を衝き刺され口まで貫通され、爪を剥がされ………およそ人類が考え付くありとあらゆる苦痛をその身に受け続ける。
絶叫し泣き喚く少女が痛みに意識を失っても終わりではない。強引に覚醒させ発狂寸前まで罰を与え続ける。

それを一か月も続けると少女は悲鳴や苦痛以外の表情や感情を表に出す事は無くなり、また如何なる命にも従順に従うようになった。
次に私は、少女が私が口には出さないが望まぬ事をした場合にも同様の罰を与えるようにした。
これには少し時間が掛かったがそれでも三か月ほどで私の意を読み取るように仕上がった。
この頃になると罰を与えても悲鳴も苦痛も表に出さなくなった。
ようやく少女では無く人形と呼べる存在となったのだ。

だがまだ足りない。人間という存在は存外しぶとい。
人形の人間性は消えたのではなく凍りつき心の奥底に封じ込められただけなのだ。
この状態ではふとしたきっかけで人間性を取り戻し私に刃向う可能性がある。
従順な人形が第三者の愛や優しさ等によって人に戻り主に反逆する話は古今東西にありふれた話だ。
私はそのような愚者の仲間になるつもりは無い。
故にこの人形から唯一つを除いて完全に人間性を消し去らなければならない。

****

………い。

****

人形を専用の部屋から出し屋敷に住まわせ、姫としての教育を開始する。
その一環と称して人形に屋敷の一室や使用人や豪勢な家具に紛れて二匹の犬を与えた。
四か月に渡り虐待され続け、それから解放された後も孤独に耐える人形が二匹の犬に心を許すのは直ぐだった。
人形は二匹の犬に癒されていき徐々に人間らしさを取り戻していった。
私の予想通り一か月で私達の前では相変わらず無表情だが、部屋で犬といるときは笑顔を見せるまでに人間性を取り戻した。
故に私はその余分を削ぎ落す。

人形の夕食に人形に与えた二匹のうち片方を材料とした料理を出した。
知らない間は教育したとおりの完璧な作法で料理を食べる人形。しかし、料理の材料を教えると吐き出し、次いで泣き叫んだ。
私はマナーを破った人形に罰を与えた。
そして次の日の料理の実習の材料に残った一匹の犬を使った。
四肢を切り落された瀕死の犬に取り縋り、私に手当を懇願する人形。
私は人形に命令違反の罰を与え、犬を材料に料理をする事を重ねて命じ、それが犬を楽にする唯一の方法だと教えた。
人形は一晩悩み続け、結局目の前で苦しげに啼く犬に耐え切れず何度も謝りながら震える手で止めを刺し、泣きながら料理を行った。
その料理を私は人形と共に食べ、酷い出来だった事と料理を吐き出した罰として二度人形に罰を与えた。

次の日私は二匹の猫を人形に与えた。

****

これを六度も繰り返すと人形は愛玩動物を何の躊躇いも無く料理するようになった。
調教は成功だ。
もう少しでアニマは完成する。
さぁ、次の調教を開始しよう。

****

……たい。

****

次は新しい使用人を入れた。
その使用人は私の手の者で無い市井の者で、さらにその中でも善人に分類される女だ。
女は自分に近い年齢という事もあり人形に興味を惹かれ、そして人形の境遇を知り我等に対する怒りと人形に対する同情を抱いた。
そして女は哀れな人形を救おうと動き出す。
最初こそ私の策で無いかと疑っていた人形も、女の嘘偽りのない善意にやがて絆され感情を取り戻し女の胸で泣いた。
故に私はその余分を削ぎ落す。

私の計画通りに二人は仲を深めていき、遂には共に屋敷からの脱出を図る。
そして私は二人が屋敷から出たところを拘束し罰を与えた。
とはいっても人形には何も行わない。
ただ拘束した人形の前で女を死なぬよう自殺せぬように徹底的に嬲り尽すだけだ。
そして泣き叫び許しを乞う人形に刃物を持たせ、告げる。私達は女を殺さない。女を助けたければお前が殺すしかないと。
人形は嬲られ続ける女を助けようと足掻き続け力を失い、声が枯れ果て喉から血を吐くまで私に許しを乞い続けた。
そしてその全てが無駄だと悟ってから三日後の夜に人形は連日嬲られ続ける女に自分を殺すように懇願された事もあり、喉と瞳から血を流しながら狂ったように女に刃物を刺し続け、殺した。
私は女の絶命を確認し、血涙を流しながら血と共に声にならない叫びを出し続ける人形に見事な仕事をしたなと褒めた。

そして私は次の日人形と同い年の少年の使用人を雇い入れた。

****

愛を誓い合いここから出たら結婚しようと約束した少年を鈍器で殴り殺す。
あなたと同い年の子供がいたからねと笑いかけた女の首を荒縄で絞め殺す。
ちっ、失敗か、助けられなくてゴメンなと謝る青年の頭を拳銃で撃ち殺す。

そんな事を十度も続けると人形は助けを持ちかけられた時点で私に報告し、その後の処理も何ら躊躇いも無く行うようになった。
これで後一つ。
さぁ、アニマを作る為に、人形の心の拠り所を破壊する最後の調教を開始しよう。

****

…にたい。


ああ、神様私を許して下さい。
私は罪人です。
辛い時に私を慰め、慕ってくれた動物達を全て殺して食べてしまいました。
それに私を助けようとしてくれたアグラーヤお姉ちゃんや、こんな私を愛してくれた虚空君、他にもウィリングオバサンや、ジノーヴィーお兄ちゃん等の私を助けようとした皆を殺してしまいました。
だから私が地獄に落ちるのは当然です。でも私が殺してしまった皆は天国に連れて行ってあげて下さい。私はどんな罰で儲けます。助けてなんて言いません。だからお願いします。
私は昔を思い返せれば十分だから。私はそれだけで救われるから。それだけで私はどんな事でも耐えられるから。だから私に罰を与える代わりに皆を天国に連れて行ってあげて下さい。
そして神様、罪人である私がこんなお願いするのは図々しいでしょうがこれだけはお願いします。
私はどんな罰を受けても構わないから、どんな事をしてもいいから、そのかわり地獄で罰を受けていつか全ての罪を償う事が出来たら私を皆の所に連れてって下さい。私を皆に合わせて下さい。
もうそれだけが私の望みだから。それしか私の救いは無いから。それさえあれば私は生きていけるから。

だからお願いです。神様。

****

故に私はその最後の余分を削ぎ落す。


お兄ちゃんが私と初めて会った記念日だからってお祝いに私の好きなチョコをドラム缶一個分買ってきてくれた。
お礼を言う私にお兄ちゃんは「本来廃棄するもんをタダ同然で横流して貰っただけだから気にするな」と笑って頭を撫でてくれた。エヘヘ。
その夜は皆でお腹一杯チョコを食べた。

次の日お兄ちゃんが仕事に出かけた後、体重計の前で真っ青になっていたお姉ちゃんにお兄ちゃんにお礼をしたいというとお姉ちゃんはチビちゃんは偉いねと褒めてくれた!!やった!!!
そしてどうすればお兄ちゃんが喜んでくれるか相談して、お兄ちゃんが私の好きな物を買ってきてくれたので私もお兄ちゃんの好きな物を作る事にした。
厨房から手伝うと言ってくれたお姉ちゃんを追い出す。私のお礼なのだから私一人でやらないと駄目だ。
それにお姉ちゃんはお兄ちゃんを巡るライバルなのだ!お姉ちゃんは大好きだけどお兄ちゃんのお嫁さんになるのは私なのだ!!
これでお兄ちゃんをメロメロにして夜皆が寝た後にお兄ちゃんとお姉ちゃんが皆に内緒でしている秘密のチューに私も混ぜて貰うのだ!!!

やる気満々で厨房に立った私は何の料理を作るか考える。
難しい料理は出来ないし、火と刃物は使っちゃ駄目と言われたのでお兄ちゃんの好きな物を一杯入れたサンドイッチにしよう。
美味しい物や好きな物を沢山入れたら美味しくなるに決まってるもんね!私頭いい!!
大きなお皿の上に食パンを一つ載せる。
えーと、お兄ちゃんが好きなのはお肉だよね。冷蔵庫を開けてお肉を探す。
あった!!難しい漢字なので読めなかったが『豚バラ!加熱する事!!!』と書いてあったお皿にあったお肉をパンの上に載せる。
次は、お兄ちゃんはお魚さんも好きなのでやっぱり難しい漢字なので読めなかったが『鰯』と書かれたお皿の上にあったお魚さんをお肉の横に置く。
何か生臭い。匂いを消す為にバニラエッセンスをビチャビチャとかける。
うん!いい匂い!!
あ!お野菜も食べないと駄目だよね。野菜室からキュウリを一本とってお肉とお魚さんの間に入れる。
よし!!後は上にもう一個食パンを載せてっと!!!
できた―ーーーー!!!!!!!!!!
でもちょっと見た目が悪いかな?お魚さんとキュウリがパンからはみ出してるし。
そうだ!!お兄ちゃんから貰ったチョコをかけよう!!これなら隠せるしそれに甘い方がおいしいしね!!私頭いい!!
チンして溶かしたチョコをサンドイッチにかけてっと!よし!全部隠れた!
味見味見!!
端の部分をちょっと削ってみよう!うん!甘くて美味しい!!甘いバニラエッセンスの匂いでまるでケーキみたい!!
大成功!!

完成したサンドイッチをお姉ちゃんに見せてあげる。
お姉ちゃんは少し黙った後、笑顔で「………おっお美味しそうだね~~。これならアイツもノックアウトだね!」と褒めて頭を撫でてくれた。
えへへ。嬉しい。

サンドイッチを食堂のお兄ちゃんの席の前に置いて、玄関でお兄ちゃんが帰ってくるのを待つ。
早く帰ってこないかなぁ~。

****

体内時計が朝の訪れを告げる。
目を覚ます僅かの間に私は心の奥底に隠れ、自らの周りに諦めという防壁を幾重にも築く。
そして防壁を築き終わった私は完璧に姫を演じながら、防壁に守られた心の奥底、過去の想い出という最後の安息の場所で何時か此処に帰る事を祈りつつ幸せな夢を見続ける。
私は使用人の手を借りて身支度を整えつつ今日のスケジュールを確認して完璧な作法で朝食を摂りながら、お兄ちゃんを待ちきれずに玄関から出て門の前をうろうろしながらお兄ちゃんが帰ってくるのを待つ。
そして朝食後のクレイドルに載せる住民の選別を行いながら、ようやく道の向こうにお兄ちゃんの姿を見つけ全力でお兄ちゃんの元に駆け寄り「おかえりなさい!!」と跳び付く。

クレイドルに載せる住民の選別。
クレイドルに載る事が出来なかった者は汚染の激しい地上に何の保護も無く放り出される事となる。それは死と同義だ。
私は王小龍に地上に残された者が如何なる結末を辿るかを全て見せられた。
ある者は汚染で全身から血を流しながら発狂し、ある者は餓えの余り肉親同士で殺し合いその肉を喰らいあい、ある者は未来を儚み家族と共に断崖から身を投げたが自分だけ重傷を負うが死にきれず二日間苦しみ抜いた後に最期は生きながら家族の死体と共に野犬に食べられた。
私が不許可の判を押すたびにそんな悲劇が量産され私は罪を重ねていく。だけどいい。だって私はもう罪人なのだ。だから今更地獄で受ける罰が増えたって平気。それに罪を全て償えるばきっと皆に会える。だから私はどんな罰でも堪えられる。

住民の選別を続けて六千人を殺した後、或いはお兄ちゃんの手を引っ張ってお兄ちゃんを仕事着のまま食堂に強引に連れて行って席に座らせた所で、王小龍がやってきて今から視察を行うと告げた。
私は飛行機内で食事をとりながら、お兄ちゃんがご飯を食べるのをじっと見つめる。お兄ちゃんは目の前にあるサンドイッチを中々食べてくれない。お兄ちゃんがサンドイッチを食べて「美味しい!!!」といった所で「私が作ったの!!」と教えてあげて驚かせたいから早く食べてくれないかな?………みんながごちそうさまをし始めたのにまだお兄ちゃんは食べてくれない。もしかして食べてくれないのかな?一生懸命作ったのにな。悲しくなって鼻を啜りながら俯いていると、突如バチンと大きな音がしたので顔を上げると自分にビンタをしたお兄ちゃんが「逝くか!」と呟いて「お!これ旨そうだな!も~らい!!」とサンドイッチのお皿を手に取った所で、目的地に着いた。
勢いよくサンドイッチを頬張るお兄ちゃんを見ながら、タラップを降りて周囲をみまわ!?
「ここは私達のおうち?」
荒れ果ててるけど間違いない!!ここは私のおうちだ!!
気が付いたら家に向かって走り出していた。
朽ち果てた門を潜りながら動くのに邪魔なドレスを脱ぎ捨てる。
「ただいま!みんな!お兄ちゃん!お姉ちゃん!!」
埃が積もる玄関で叫ぶが誰の返事も無い。ううん、人の気配が無い。
ちがう!そんな事無い!
私は皆の名前を呼びながら、片っ端からドアを開けていく。

誰もいないなんて嘘だよね!

****

そして全てを巡った後に辿り着いた裏庭で朽ちかけた皆のお墓を見つけた時、私はここで何が起きたかのか悟った。

皆死んだ

お姉ちゃんのお墓の前で座り込む私の前に王小龍が現れ告げる。
「ここは半年ほど前にお前が選別し、不許可とした者達が居た場所だ。孤児ばかりだから全て死に絶えたようだな。
 それにしてもかつての家族にも私情を挟まないとは成長したな」
そして王小龍は嗤いながら私の頭を撫でた。

私が殺した。

****

帰るべき場所を自らの手で破壊し、帰る資格を無くした事を悟ったこの瞬間、最後の希望を失った(チビ)は死んだ。
死にたい。


涙を一粒流した後、人形が立ち上がり「ありがとうございます。王大人」と完璧な作法で頭を下げる。
ふむ。ようやく完成したか。
後は、相応しきロールを与えるだけだな。

****

帰路についた私は人形に、リリウム・ウォルコットとして振る舞う事を命じた。

****

人形は一カ月程度でリリウム・ウォルコット(理想の王女)を完璧に演じきる様になった。
素晴らしい。誰もこれが二年前までは市井の小娘であったとは思うまい。

そう、人形作りにはこの方法が最も効率的なのだ。
王小龍。あなたが二十年以上の歳月と莫大な費用をかけて造ったBFFのクイーンを私はたった二年で造り上げた!
そう、アニマを作りたければ人間性を全て削ぎ落し無垢なる人形に戻した後に、改めて自らの理想に造りかえればよい。
これが最も効率的だ。いくら優秀だとしてもメアリー・シェリーのように生まれた時からの英才教育と惜しみない愛情を注がなければ造れないクイーンなどナンセンスだ。
そんな替えの効かない人形に何の価値がある!私の方法なら短期間で仕上げられ、さらに量産できるため幾らでも使い潰す事が出来る!!
さらに私の作品はあなたの作品より遥かに低コストにもかかわらずあなたの作品を全て上回っている!AMS適性も!操縦技術も!カリスマも!執務能力も!ありとあらゆるもの全てをだ!
何より私のアニマはあなたの作品とは違い自由意志など持っていない!!私の意のままに動く私だけの理想の道具なのだ!!!
だから王小龍、地獄であなたの作品と共にみているといい。私がアニマを使ってあなたが到達し得なかった遥かな高みに上り詰めるのを。
その時こそ!あなたが否定した私の正しさが証明されるのだ!


「お許しください、王大人。リリウムはご信頼に背きました…」
奇跡は起こらずか。
計画通りだ。内心の喜悦を押し隠し逆上し怒声を上げる。
「リリウム!おのれぇ!許さんぞ!全部隊攻撃だ!奴等を生かしておくな!!」
「落ち着きください!大人!リリウム様が斃れられた以上我々では勝ち目がありません!ここは退却を!」
予想通り忠臣たる親衛隊から諌めの声がかかる。
表情の緩みが声に伝わらない様に苦労しながら一喝する。
「きさま!!私にリリウムの仇をとらずに退けというのか!ふざけるな!」
「落ち着いてお考え直しください!今の我々の戦力では仇どころか一矢を報いる事すら出来ません!
 それにリリウム様も自分の為に大人まで斃れては悲しみになる筈です。ここはリリウム様の為にもどうかお退きください!大人!!」
「しかし」
「王大人!!」
「………了解した。私は撤退する。すまんが殿を頼む」
「はっ。リリウム様の遺命でもあります。我々にお任せを。
 それと差し出がましい口を利いた事をお許しください。処罰は後ほど」
「そうだな。罰としてトロットの代わりに親衛隊の副隊長に命じる。故に生きて帰れ」
「はっ!」
余りの順調さに嗤いを堪えるのが辛かった滑稽劇を終えると同時にQTし、OBを起動する。
そして私の盾となる様に敵との間に展開する親衛隊を確認した瞬間、遂に堪え切れなくなり慌てて通信を切った後声を出して嗤う。
愚か者共め。精々頑張って生きて帰って欲しいものだ。単純かつ有能な愚者は幾らでも使い道があるからな。
それにしてもこうも上手くいくか。
これで『愛娘』を失った私が喪に服すからと今度クレイドル03で行われるGAの首脳会議に欠席するのは自然な流れだ。
その結果、『ORCA』のクレイドル03襲撃を私は免れる。
そして首脳部を失ったGAのCEOに唯一首脳部で生き残った私が就任する事は全く持って当然の話だ。

GAのCEO。
遂に私が三大企業の頂点に立つ時が来たのだ!!
あぁ、リリウム。いや、ウォルコット姉弟の呪われし忌み子よ。感謝するぞ。私がCEOになれるのはお前のお陰だ。
お礼に解放してやろう。

さぁ、私があえて奪わなかったお前の最後の望みを果たすといい!


「お許しください、王大人。リリウムはご信頼に背きました…」
ストレイドのKB-O004がアンビエントに突き刺さりコジマ爆発が起こる寸前、リリウム・ウォルコットらしい最期の言葉を通信する。
直後コジマ爆発が機体内部で炸裂し、アンビエントが四散する。
AMSから体の内側から爆ぜる感覚と共に大量のエラーが送り込まれ、同時にコックピットが激震し何度も壁や天井に叩きつけられる。
そしてAMSから送られてくる負荷に脳が焼き切れる寸前に一際大きな衝撃と共に電源が落ちAMSからの信号が途絶える。
死ななかったので自分の様子を確認する。体の負傷は全身打撲程度で、脳の損傷も致命傷ではない。
次に自分の取るべき行動を考える。
王小龍は今度の出撃で自分が撃破された場合、好きにする事を望んでいた。
つまり、自分がリリウム・ウォルコットを演じる必要は無いという事だ。
しかし、好きにしろか。難しい命令だ。もはやリリウムではない人形に、ただのチビの残骸でしかない人形に望みなど無い。
だが好きにしろと王小龍が望んでいる以上、自分は好きにしなければならない。
目を閉じ自分がやりたい事を探す。
死にたい。
………見つけた。自分がやりたい事。自分が出来る前、チビが壊れる寸前に祈った事。チビの最期の願い。

私はやりたい事をする為に耐Gスーツから備え付けのコンバットナイフを取り出す。
そして耐Gスーツを脱ぎ捨てインナーを引き千切る。























後書き
某所からの移送です。良かったら見てください





















そして少女は五年振りに心からの笑みを浮かべ、自らの胸にナイフを突き立てた。


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これは少女に戻った人形が死の間際に見た幸福な夢
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