小説/長編

Written by 雨晴


"To nobles Welcom to the earth"。
貴族共、地球へようこそ。ORCA旅団がアルテリア同時襲撃に際して発した、短い声明文。
その言葉の下アルテリア施設の過半は制圧され、強固な防衛戦力が企業連の奪還を阻止している。

突如発生した未曾有のテロ行為。その対応を迫られた企業に、3つの難題が圧し掛かった。
ひとつは、都市蹂躙型アームズフォートの存在が確認されたこと。
ひとつは、かつてレイレナード社が建造した衛星破壊砲、エーレンベルクが彼らの手に落ちていることが確認されたこと。
そしてもうひとつは、クレイドル空域に出現した、未確認のネクストの存在。

全ての難題に対し、最精鋭を送り込む必要がある。企業連はそう判断している。
最も早く対応しなければならないのは無論、未確認ネクスト。それは、刻一刻とクレイドル03へと近づいている。
失敗すれば、1億もの人間が死ぬ。失敗は許されない。
現状の企業連で派遣することの出来る、最高のネクスト戦力を選出しなければならない。
各企業の老人たちの全会一致で、その名が直ぐに導き出された。
どの企業にも属さない、ランク9。
ストレイド。
 
 
 
 
本来であれば飛行を許されない高空を、高速で航行する輸送機がある。積み荷はネクスト。

「クレイドル03が近い。そろそろ準備をしておけ」
『了解』

セレン・ヘイズはその中で一人、男と会話していた。

「この作戦、老人達にとっては絶対に負けられないものだ。それに選ばれるのが何を意味するのか、わかるな」

肯定が返ってくる。この男は、自分の可能性を否定しない。ならば。

「見せ付けてやれ、お前の力を」
『言われずとも』

そうか、と苦笑。プライマルアーマーの展開が完了したようで、自動的にハッチが解放される。アームがストレイドを機外へと押し出した。
クレイドル03を視認、だが。

「・・・既に始まっているか」
『そのようですね』

そのエンジンからは黒煙が見える。戦力は、ネクストだけではないようだ。
あれは、自立型ネクストだろうか。旧レイレナード社の試作機が、なぜ。
今はそんな事を考えていても仕方ない。セレンは首を振る。息を吸い込んだ。

「急げ、クレイドルを守るんだ」
『了解。ストレイド、戦闘開始』

アームがストレイドをリリース。同時に、コジマ粒子がその背に注がれる。オーバードブースト。
見送りながら、その背に思う。死ぬなよ、と。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
唯一救われた点は、最も手前のクレイドルが襲撃を受けていたことだ。
戦力を確認する。ネクスト1、逆関節機。自立型ネクスト4。

『クレイドルとは、良く出来た体制だな』

唐突に、敵からの通信を拾う。低い、どこか楽しそうな感情が込められたもの。

『まとめて殺るには最適だ』

違う。なぜかそう思う。
この男は本当にORCAの人間か?違う。彼らの答えは、こんなものとは違う。
どちらかと言えば過去の自分を見ているようで、顔を顰めた。ならばそれは、私の越えるべき壁だ。
状況確認、自立型ネクスト、クレイドル攻撃中。先に、こちらか。

無人機は隙が大きい。エネルギー充填のためか、攻撃前に静止する。グレネード2発射出、一機。
後方より射撃、被弾。回避、確認。
ネクスト?ライフル?後回しだ。クイックブーストにて敵射程外へ離脱。ミサイル接近、回避。

自立型ネクスト2機目へ接近、敵機回避機動。だがそのルーチンは、あまりに雑だ。
遅い。ミサイル射出、マシンガン起動、下方より射撃。
撃墜。

3機目、距離800、4機目、右方推定1200。両機静止、エネルギー充填中。
攻撃か?これ以上このクレイドルの被弾は避けるべきだ。
だとすれば、攻撃前に仕留めなければ。2機を?同時には無理だ。この位置からは、どちらか一方へしか攻撃できない。
ここまでの思考を一瞬で追え、確認を含めてひとつ頷いた。サイティング、手動へ切り替え。グレネード展開。目を細める。
ノーロック射撃。3機目へ命中、撃墜。
マシンガン起動。クイックターンで回頭90度、オーバードブースト。

4機目へ接近、ミサイル確認、マシンガンで対応、被弾1、接敵。
グレネードのゼロ距離射撃。敵機撃墜至らず、マシンガンで撃墜。
自立型ネクスト排除。
次目標、不明ネクスト。
一気に肉薄する。
  
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「チッ」

使えねえ、そう思う。一機も落とせないんじゃ、くすねてきた意味が無い。

「まあ、いいか」

黒のアリーヤが迫ってくる。自立ネクストを数十秒で片付けたそれを見据える。
どう考えても接近戦使用。ジュリアス・エメリーはアレに殺されたらしいが。

ミサイルで牽制を掛ける。被弾しようがしまいが、無関係に飛び込んでくる敵機。
上昇。垂直推力とクイックブーストでクレイドルへ近づく。
まあ、アレは目標ではない。目標はクレイドルの連中だ。
途端、進路に複眼が見えた。超至近距離。
ライフルを被弾し反射的にサイドブースターを吹かす。距離を取ったつもりだった相手が、再びそこにいる。
再び舌打ちが出た。

「クソが」

アルゼブラ製のライフルとショットガンが敵を捉えきれず、仕方なくオーバードブーストで撤退する。
警告、後方からミサイル複数。クイックターン、ミサイルを打ち落とす。だが、それは囮。爆発。グレネードの直撃。
空中戦で軽量の逆接機相手にグレネードを使う奴なんて、頭が悪いか腕が悪いかのどちらかだと思っていた。
口元が歪む。爆風の向こうから、銃口が見えた。久々に味わう恐怖感。銃口が輝く。
プライマルアーマー消失、回避、回避、回避。

メインブースターを一杯に踏み込み、ようやく敵の射程外へと飛び出す。感じた安堵に、愕然とした。恐怖?馬鹿な。
正対し、ミサイルを絡めてライフルで引いていく。だが、一発たりとも当たりはしない。
敵機の回避運動は正確そのものだ。FCSの未来予測が機能していないのではないか。
必要最低限のクイックブーストで、確実な回避。突然、黒が落下し始める。
何だ?そう思うと同時、黒が視界から失せた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
長時間滞空戦は厳しい。ブースターにアリーヤのものをそのまま使っているからだ。
たまにジェネレーターの回復速度が追いつかなくなる。

まあ、これが無ければ始まらないしな。

そう思いつつ、張り詰めていた緊張感を一時的に取り除く。
敵機は600前方。クレイドルへ向かおうとすれば、いつでも接近できる。
今は充填だ。飛んでくる弾丸やミサイルをあしらいながら、コンソールを操作。各クレイドルの損害状況を確認。
今のところは、奇襲で受けた被害以外問題は無いようだ。
ミサイル接近、回避。ライフル弾回避、回避。ミサイルで牽制。

そろそろグレネードの残弾が気になる。パージするか?いや、納期の事を考えれば、次の戦闘に間に合わないか。
有澤製グレネードの魅力は、その信頼性だろう。重いが、流石グレネードの老舗。扱いやすいし、威力もある。壊れもしない。
その信頼性を獲得する為に、ひとつひとつがハンドメイドらしい。この大きさをハンドメイドとは、恐れ入る。
ミサイル接近、排除。

さて。

意識を戦場に戻す。プライマルアーマー回復、エネルギー充填率95、各兵装展開準備良し、リロード良し。
どうするか。そう思考し、いつかのリリウムとの戦闘を思い出す。
口元が少し緩んだ。垂直推力をカットし、自由落下。あのときの機動を試してみよう。

数秒後、オーバードブースト点火。敵の視界から消えるよう、クイックブーストも使用。
敵機直上、オーバードブースト解除。バックブースターでブレーキを掛ける。距離300、敵機回避行動。だが、それは。
ホワイト・グリントのリンクスには及ばない。
彼は速かった。判断力も、反応速度も、回避錬度も一級品。

両腕部兵装起動、射撃。命中。
敵機迎撃、ショットガン、チェーンガン。ショットガンは取り回しに難がある。チェーンガンは直下に対しては効果がない。
当たらない。
敵機オーバードブースト展開準備。させるか。垂直推力全開、メインクイックブースターで一歩前へ出る。クイックターン、正対。
マシンガン全力射撃、プライマルアーマーを弾く。オーバードブーストの点火に失敗し、メインブースターの火がちらりと見えた。
同時、敵機が突っ込んでくる。これまで見せなかったその姿勢に、しかし冷静に対処する。
バッククイックブーストとサイドクイックブーストの連続。視界内に収めつつ、後退する。理由が分かった。

クレイドルか。

被弾していたクレイドルが、高度を下げる為に規定のコースから外れている。

プライマルアーマーが回復したらしい敵機が、高速でそちらに向かう。させない。オーバードブースト。
敵機射程まで、・・・ダメだ。敵射線上にクレイドルの推進装置を確認する。敵機に躊躇いは見られない。
一瞬で見出した判断。このクレイドルは、これ以上被弾させるわけにはいかない。

なら、射線上に潜り込め。

クイックブースターで敵を追い越し、クイックターンで敵を見据える。その前に、被弾した。連続。衝撃。
マシンガンで敵の位置取りを変えようにも、こちらが何を考えているかわかっている様だ。そのまま、これでもかと弾を撃ち込んでくる。
回避が思い通り出来ず、ミサイルの対応はマシンガンに任せる。全て打ち落とす。
クレイドルの推進装置にたどり着きそうな弾丸は、徹底的にストレイドへとぶつける。AP減少、ジリ貧だ。
セレンからのAP警告。まだだ、まだ。まだ動くな、もう少し。
敵、ライフルリロード開始。

ここだ。

全力で500の距離を詰める。プライマルアーマーが干渉し合い、剥がれ落ちていく。
右腕を振りかぶった。モーターコブラ。皿状の頭部へと突きつけ、全力射撃。よろめく敵機。リロード警告。
そのまま上へ回り込み、グレネードで叩き落す。落下していく敵機に乗り上げ、マーヴを起動、モーターコブラ、リロード完了。
斉射。金属を抉り取る音を間近で聞き取る。

『早すぎるが、まあ、仕方ない』

グレネード展開、距離200まで後退。

『殺しているんだ。殺されもするさ』

射出。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
『良くやった。彼らはお前が守ったんだ』

セレンの賛辞を聞きながら、プライマルアーマーを解除。クレイドルに着地する。
護衛部隊のノーマルに迎えられ、クレイドルの内部からは沢山の人の目が向けられている。その騒ぎは、喜んでいるように見えた。

「悪くないものですね」

それは、かつて守りたかったものではないけれど。でも。

『そうだな』

これもきっと、私の答えだ。
頷く。

「セレン、近くに前線基地はありますか?状況の確認がしたい」

少し待て、そう言われて待つ。直ぐに、レーダー上に光点が現れた。

『GA社のグレートウォールが、発見されたORCA旅団のアームズフォート対策の為に出撃している』
「アームズフォートですか」
『ああ。その作戦は既に成功している。整備と弾薬の補給を、喜んで引き受けるそうだ』
「了解」

振り返り、飛び出す。
その汚染されていない空は、本当に綺麗だった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「君が、ストレイドの?」

話しかけると、その若者はネクストへ向けていた視線をこちらへ向けた。一礼。

「はい。ハイン・アマジーグと申します。あの、失礼ですが」
「グローバル・アーマメンツ社、ローディーだ。君の噂は聞いている」

あなたが、と改めて一礼をする若者に、礼儀正しい男だと感想を得た。

「GA社の英雄とお話させて頂けるとは、光栄です」
「私など、ただの老兵だとも。それよりもクレイドル03防衛、成功だと聞いた。労いを一言な」
「有難う御座います。あなたも、ORCA旅団のアームズフォートを撃破されたと伺いました」

お疲れ様です、と労われる。有難うと返す。
途端、少し疑問を抱くような視線を向けられた。

「何だね?」
「失礼かもしれませんが、顔色が芳しくないように感じます」

ああ、顔に出ていたか。目を瞑り、抑えようと努力する。

「AMS適正が低いものでな。作戦後は、あまり気分が優れん」
「大丈夫なのですか?」

心配そうに尋ねてくる若者に、大丈夫だと制す。しかし、と本当に心配そうにされる。人の良い男だ。もう一度制する。

「父も、AMS適正は高くありませんでした。心身に、かなりの疲労を催すものだと伺っています」

その言葉に、マグリブ解放戦線のアマジーグを思い出す。
直接戦ったことはないが、劣悪なAMS適正で驚異的な能力を発揮していたという。

「まあ、こればっかりは経験では騙せないからな」
「何か飲まれますか?」
「いや、構わない。大丈夫だ」

言って、グレートウォール内のネクストハンガーへと視線を移す。そこには二機。フィードバックと、ストレイド。

「ローディー様」

良く世話になっているオペレーターに声を掛けられ、向く。焦ったような彼女に、どうしたのかと尋ねる。

「BFF社より、支援要請です。エーレンベルク攻撃隊が劣勢との事で」
「状況は?」
「第一陣は壊滅、第二陣であるアンビエント、ストリクス・クアドロ両機が戦闘エリアに向かっているようです」

隣の若者が肩を動かした。

「それで、私に要請が?」
「はい。敵戦力はネクストをはじめ堅牢とのことで、2機では心許ないと」

わかった、準備しよう。そう歩みを進ませたところで、引き止められた。

「ローディ、今のあなたが戦場に出ては危険です」
「大丈夫だ、慣れている。フィードバックも、先の戦闘での被弾箇所は殆どない」
「私が出ます」

何?その疑問が顔に出ただろうか、若者が続ける。

「幸い、私はまだ戦闘に出られます。私では、不足でしょうか」

しかし、とオペレーターが間に入る。

「ストレイドの修復は、殆ど完了していません」
「弾薬の補充は?」

すぐさまの切り替えしに、オペレーターが一瞬躊躇う。

「・・・終了しています」
「なら、問題ありませんね」

ですから、と迫るオペレーターに柔和な笑顔を向けるストレイドのリンクス。

「被弾しなければ良いんですよ。装甲類は構わないので、各ブースターと間接部の点検をお願いしても宜しいですか?」

ローディー様、と助けを求めるような視線を向けられる。心なしか顔が赤い。
いつかロイが、"アイツは天然タラシですよ"と言っていたのを思い出す。確かに。そう思い、笑ってしまう。
オペレーターから訝しげな視線を受けた。

「構わないのか?ハイン・アマジーグ。頼んでしまっても」
「ええ」

迷いの無い、その返事。

「ただし、弾薬費と修理費はそちら持ちという事で」

その言葉に、笑みが増した。それで後腐れ無しと言う事か。こちらの面子を潰さずに。
面白い男だ。

「わかった。すまないが、宜しく頼む」
「わかりました」

言って、一礼。またお会いしましょうと去っていく。若者の後姿は、堂々としていた。

「老いたな、私も」

それは、心からの感想だった。


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