《ウォーニング!!》

この作品は異性間に於ける性交を主軸とした小説です。

 
 
 
 

 
 
 
 

Written by 仕事人


 【ケモノのスミカ レギュ07 真鍮の処女》】
 
「ふぅ……」
 一仕事を終えた、と云った風にパイロットスーツを身に纏った女性がエアロックの扉を潜り、過度と思える程に冷房の利いたロッカールームの中で溜息を吐いた。
 バイザーの嵌ったヘルメットを付けているのに一目で女性だと分かるのは、スーツが機能的な都合に加えて、製造している側の、というよりは販売している側の都合だろう、まるで身体を圧縮する程に遊びがないので否応なく身体の線が浮き出ているからである。
 だから彼女は幾度か改良されたりして種類は変われど、殆ど同じといえる物を何回も、そして何年にも渡って使用し続けている其れを余り好いてはいない――尤も、彼女に限らず同じ稼業に就いている者でこんな窮屈なスーツを好き好んで着ている人間もそうそう居ないだろうが。
 彼女が首筋のアタチメントに手を掛ける。
 前述の通り幾度も身に付けているので、着るのも、そして脱ぐのも手馴れているので噛み合わせが外れる音と共に、ヘルメットの中に溜息が篭る前に彼女――ウィン・D・ファンションは頭部を外に解放すると、ひんやりとした空気が其の白い頬を撫でた。
 
 蒸れていたせいで額に張り付く金色の――厳密に云うと真鍮色の――前髪を振り払うように首と頭を同時に振るとショートカットの毛先から汗の雫がロッカールームの床にぽたぽたと落ちていく。
 スーツに通気性など当然のように考慮されていないので、吐息だけではなく熱も全身を一枚の服と一個のヘルメットで包むスーツの中に篭っており、彼女の顔面、そして身体は火照っている。
 此の部屋が必要以上に涼しくされているのは其のためだ。
 だが冷房だけで熱が収まる訳ではない。
 何せ今しがたウィンが終えた――といっても実際には三十分も前の事だが――仕事は特殊なものだ。
 其れを簡単に、そして簡潔に云うと――戦闘である。
 内容に差異はあるが、今回のを例に挙げると依頼を受けた後、当日に輸送機で運ばれ、投下されて――目標を殲滅する。
 美麗な造りの顔立ちと、細い身体には全く不似合いとも云える稼業であるが、彼女にはそんなのは些細な問題である。実際に武装を取り回して戦うのは、彼女ではなく、リンクスである彼女と一体化したネクストなのだから。
 死と隣り合わせ故の、そして他者の命を奪うという行為による極度の緊張で、何時も作戦終了後のウィンの精神、そして連なるように身体も昂っており、其れが熱として表出されるのだ。
 しかし昂りを鎮めるために彼女は特別に何かするというわけではない。順番が決まっているわけではないが、顔を洗ったり、ベンチに座ったり、飲料を口にしたり、ロッカールームの隣でシャワーを浴びたりするといった程度の事である。
 一般の人間が仕事終わりに行なうのと対して変わらない所作であるが、其れこそ彼女がリンクスの中でもトップクラスである所以だろう。戦闘行為という事柄以外にも、ネクストを操縦するに於いて自身の神経を使うリンクスのストレスは本来、並大抵のものではない筈であるのだが、前述の通り、非常に安定しているのだ。
 其の精神的な安定は戦闘での冷静さにも繋がり、持ち合わせているセンスも相俟って、表向きにはリンクス管理機構カラードに、実際にはインテリオル・ユニオンに所属するウィンが敵対企業に多大な損害を与える事になった結果《GAの災厄》と、そして彼女の愛機《レイテル・パラっシュ》のカラーリングをもじって《ブラス・メイデン》という蔑称まで戴くに至ったのだ。
 そんなウィンであるが、作戦さえ終われば一人の、只の人間である。
 女性と云うことを抜きにしても、自身の身体に纏わりつく汗が不快なので、普段通りにシャワーを浴びたいところなのだが――そうもいかない。
 というのもベンチに座るわけでもなく、また着替える訳でもなく、彼女が立ったままでいる事にも関係しているのだが、少し離れた壁際の洗面台に向かって彼女と同じようにパイロットスーツを身に纏っている白い髪と小柄な背中を見せている少年が其の理由だ。
 手や顔を洗っている彼の存在がどうにも気に掛かるのだ。別に不審だ、と云う訳ではない。しかし、彼女が部屋へ入ったのを一瞥したのと同時に慌てたように立ち上がって洗面台の方に向かい出したのだから、不審と云えば不審なのだが。
 そう云ったこともあるが、年端も行かぬとはいえ彼も一応は男性である。
 男性の近くで、服を脱ぎ、隣の部屋でシャワーを浴びるとなると――やはり抵抗がある。
 そもそも何故彼が此処に居るのかと云うと、彼もリンクスであり、そして今回だけという限定が付くものの、仕事仲間であるからだ。
 彼が受けた依頼に、ウィンが僚機として雇われたというのが、二人が一緒の作戦をこなした其の経緯だ。
 しかし、だからといって帰りまで――実を言うと行きもそうなのだが――一緒である必要は無い。
 ネクストに加えて今乗っている輸送機のように様々な企業の支援があるウィンに対して、彼は駆け出しの独立傭兵である。ネクストの運用に一杯一杯だから便乗しているのだ。
 一応、カラードからチャーター出来るのだが其れをしないのは金が掛かるからだろう。
 それにしたって本来は絶対に在り得ない事である。
 幾ら依頼主がインテリオルだとしても、其処まで面倒を見る必要は無い。なのに現状が成り立っているのは、ウィンと少年の間にとある共通項があるからだ。
 それは二人の師匠が同じ、と云う事に由来する。
 師匠の名は霞スミカ。
 何年も前にリンクスとして所属していたインテリオルに押し付けられて嫌々ながらに――と、本人は語っていた――ウィンにネクストの操縦技術を――まさに文字通り――叩き込んだ際に、何か得たものがあったのだろうか、ウィンがデビューしてから数年後、突如リンクスを引退してインテリオルから飛び出すや、独立してリンクス傭兵稼業を始めたのだ。
 そして、彼女が見出した其の稼ぎ手がウィンの眼の前にいる少年である。
 ウィンにも、そしてインテリオルにも通じているという事で、殆ど無理矢理に今回のように押し通したのだが――其れも今回で二回目だ。
 ――そういえば。
 ふとウィンは思い出した。
 数ヶ月前の協働の際にも輸送機が同じであったために、彼女は着替えただけでシャワーを浴びることはなく、結局自宅に帰ってから済ましたのである。
 それと少年は元々、”あの”トーラスと並んで――所属するユニオンの同盟企業とはいえ――悪名高きアスピナの被検体であったらしく、言語を知らないと云う訳ではないのだが喋ることが出来ないとスミカは言っていた。
 だが行きで再会した際には彼は丁寧に、そして礼儀正しくウィンに挨拶を述べており、驚いたものだ。
 数ヶ月の間に何かしらの変化があったようで、立ち入った事を聞くのは自分らしくないと思いつつも、興味が注がれたのだが――残念な事に説明してくれるに相応しい人物が今回は居ない。
「スミカが居ないのは……やはり、アレか?」
 ファスナーが半分程開いたパイロットスーツがずり落ちないように抜いた袖を腰で結んだタンクトップ姿で手を洗っている少年に、ウィンはこほんと咳払いを一つしてから話し掛ける。
 恐らく、熱心と云える程に彼が其れをしていたのは沈黙が気まずいと思ったからだろう。
 少年にしてもウィンにしても、知り合いとはいえ数度顔を合わしているだけの相手に気安く会話が出来るタイプではない。それでもウィンが話しかけたのは、何かしている彼と違って本当に何もする事が無く、気まずさを紛らわせる事が出来ないからだ。しかし、互いについては名前と顔ぐらいしか殆ど知らないのだから話題は全く無い。
 終わったばかりで仕事の話などはしたくないから、互いにとって最大の共通項であるスミカの事に話が及んだのは至極当然であろう。
 本当は本人が居てくれるのが一番良いのだが、多少がさつなところもあるが仕事には真面目なスミカが在席していない理由が推測できたのが幸いであった。
 しかし問題なのは――。
「そうですね。起きるのも辛そうでした」
「スミカのは酷く重いからな、しょうがないだろう」
「男だから僕には辛さが良く分からないです……そんなに辛いんですか?」
 敢えてはっきりと言う必要性は無いだろうが一応言っておくとスミカは今――そう、生理なのである。正しくは月経と云う。
 其れを理由としたオペレーターであるスミカの不在は前にも何度かあり、代わりにスミカと少年の一味である整備士の一人が代理でオペレーターをする事になっている。
 断る事も一応は出来るのだが折角来た仕事なので、しょうがなく受けているのだ。
 それでも代理を務める整備士代表のミゲさん(本名:ミゲル・シバ)は専門ではないので、低難易度と思える依頼、若しくは僚機を雇っていればがあれば、と云う条件付きである。
「私はまだ軽い方だが……女からすれば金的の痛みが分からないのと同じ……なのだろうか」
 旧世紀から謳われて久しい男女間の平等であるが、男と女がどうしても分かり合えない最大の問題がこれであろう。妙齢の女性と、いたいけな少年の話題としては少しいただけないような気もするが。
「あれは本当に痛いですね」
 そう言って少年は少し笑みを浮かべたが、何かを思い出しているのだろうか、頬が多少引きつっている。
 其れは実体験による熾烈な苦痛に加えて、酷く体調が悪いスミカの様子を思い出したから、というのもあるだろう。
 しかし、スミカには悪いとは思いつつも、少年は少しほっと胸を撫で下ろしていたりする。
 そして此れは実はスミカも同じなのだが――生理が”来ている”事にだ。
 ウィンとしてはスミカの身体が不調で無ければ一定の周期で来るのは当然としているのだが、そう考えるのは少年とスミカの間柄を知らないからであろう。
 二人は――此処ではそのペースについて詳しくは述懐しないが――一般的には多いであろう頻度で”行なっている”のである。
 しかも対策は完全に後手の一手。
 寧ろ其れで体調を崩さない事が不思議に思えるが、それなりに良い物を服用しているから、というのが理由であるとしておく。
 その事も思い出したのだろう、少年がふっと安堵の息を吐いたのを見て、ウィンは首を傾げるのだった。
 
 なんとか会話は続いたとはいえ、能弁ではない二人には其れも少しの間だけで、再び室内には重苦しい沈黙がねっとりと身体に圧し掛かる。
 所在なさげに視線を泳がした後、取り敢えず飲料に手を出したウィンであったが、其処でふと気が付いた。
 此の部屋に入ってからというもの、少年と一度も眼を合わしていないことに。
 では彼が何をしていたかというと、ずっと彼女に背を向ける格好で洗面台に溜めた水で手を洗ったりしているようだ。綺麗好きや潔癖の類にしたって長過ぎる。
 何処か怪我でもしているのか――それとも強迫症の一種のだろうかと、ウィンは俄かに不安になる。
 ――善く聞く話だ。
 ネクストやノーマルを介しているとはいえ自らの手で人を殺しているという自責が、手が血で汚れているというビジョンとなって表出する。
 身近にそういった人物が居る訳ではないが、もしかしたら少年はそうなのかもしれないとウィンは考えたのだ。
 確かに彼は駆け出しでも、それなりに依頼を完遂させている、所謂期待のルーキーであるが、ネクストを降りたら自分同様に只の人間である。しかも見た通りに少年だ。
 多感な時期に此の稼業は彼に精神的な逼迫を与えているとしても、何らおかしくは無い。それに年齢も一切関係無い事かもしれない。
「……大丈夫か?」
 ウィンは立ち上がると、彼が使っている隣の洗面台の前に立つと、そう声を掛けた。
 目の前の他人を思い遣るなど慣れていないが、同じ業の深い仕事をこなしている先輩として――何時かは敵同士になるかもしれないが――話でも聞いて、気を紛らわしてやろうと思ったのである。
 ――全く、何をやっているのか。
 心中の呟きは、柄でもない事をやっている自分、そして自分が今している事を本来行なうべきであろうスミカに向けられていた。
 しかし、自身に半分呆れながらも彼女の視線は少年に向けられてはいなかった。
 掛けた言葉は同時に自分に向けられたものであったのだ。
 鏡に映る自分へと。
「え?! あ、いや……その……」
 柄でもない事だというのは自分自身が善く理解しているから少年が多少の驚きを見せるだろうとウィンは予想していたのだが――此の反応は予想外だった。
 驚きどころか、動揺である。何か悪戯が見付かって叱られたような、そんな印象すら抱くほどだ。
 勿論、声を掛けたウィンはそんなつもりではなかった。
「いや、別に責めているわけじゃない。ただ……」
 遠回しな言い方のせいで伝わらなかったかと考え、今度は直接的に問おうとしたウィンは、鏡から慌てている風な少年の方に視線を移して口が止まった。
 思考が停止したと言い換えていい。
 何故なら、彼女の眼に――予想外なものが映っていたからだ。
 先程述べたが二人はパイロットスーツを着ている。其れは繊維レベル、そして機能的にも特殊な造りになっているのが原因でかなりきつめになっており、身に纏っている者の身体の線を強調しているのは先に述べた通りだ。
 強調している、という部分は生物学的に胸部や臀部が突出し易い女性であるウィンを見れば分かる事なのだが、何故か男性である少年にも似たような状態になっていた。
 というのもウィンが視線を少年に移した時点で既に手で隠されているのだが、今、彼がスーツを纏っている部分――下半身の一箇所が不自然に盛り上がっていたのだ。
「な……な……」
 先程の少年に倣う様に、今度はウィンが動揺し始めて、凡そ普段は冷静な彼女には似つかわしくない体で吃りはじめた。彼と違うのは驚愕も含まれている所であるが。
「な、なにを……」
 更にウィンの声には怒りと云った物も含まれている。
 傍目から見たら人を不安にさせる様子で、いざ心配して声を掛けてみたら下半身を膨らませていたのだから無理も無いだろう。詰問するべく声を荒げようとしたのだが――何と言えばいいか分からず、口篭ってしまっているのだが。
「……な、なんの……つもりだ……!」
 様々な感情で顔を紅潮させながら、渇いた喉に唾液を流し込みつつ、何とか言葉を紡ぐ。
 直前までは直接的な表現をしようとしていたのだが、今はえらく間接的なものである。しかし眼には非常に分かり易い、明確な軽蔑の念が籠められていた。
 突然知人とはいえ、親しくもない男性にそんなものを見せられたのだから無理も無いだろう。
「ち、ちがうんです……そういうことじゃなくて……」
「違うも何もあるか! 事実、貴様は……! ……えー、その……」
 少年がおどおどと弁解しようとしたのだが、ウィンは持ち前の威圧感で其れを退けようとしたが、言葉が尻切れになっていくにつれ、覇気も霧散していった。
 そして室内に、というより叱られてしゅんと肩を落とす少年と、肩を上下させているが怒りをどう処せば良いか分からなくなったウィンの二人の間には暫く、先程よりも更に重い沈黙が流れるのだった。
「……君もそういう時期だろうしな……怒鳴って、悪かった」
 年上として子供相手に感情を露にしたのが大人げないとでも思ったのだろうか、沈黙を破ったのはウィンの方であった。そのままぎこちなく身体を動かしてベンチまで戻る。
「僕も……すいませン……」
 其れを受けて少年も立ったまま、下半身に手を遣ったまま素直に謝る。
 しかし、またもや沈黙が流れそうになったのを恐れたのか、ウィンは少年に対してベンチに座れという風に手招きした後、恐る恐る切り出した。
「さっきの……」
「え?」
「”そういうことじゃない”というのはどういう意味だ?」
「あれはですね……ウィンさんに対して、その……こうなったわけじゃなくて……いや、それもちょっとはあるんですが……」
 ウィンの隣に座ってから少年はそのように言って彼女の肢体を一瞬だけ盗み見ると直ぐに顔を俯けた。
 其の仕草を見てウィンは部屋に入ったのと途端に立ち上がったのは、自分の身体を見て下半身を窮屈にしたからだと理解した。また他にも理由があるらしいが、彼は続きを言うのが躊躇われるらしく、あの、だの、その、だとか云って、もごもごと口篭っている。
「何だ」
 本人はそれ程ではなかったが――視線を床に移しているからそう思えたのだろう、実際は目を合わせるのが恥ずかしかっただけなのだが――聞く側からすれば苛立っていると思える口調で詰め寄られたことで少年がそろそろと続ける。
 「あの……何時もはですね。終わったら……スミカさんが……」
 そう云った瞬間、俯いていたウィンが問い質す顔を上げて少年を見たが、俯いていた彼は其れに気付くことはなかった。
「……その……してくれるんです……」
 間が空きながらも言い終えた少年が隣にちらりと視線を移すと驚いて硬直した。
 一目でそうと分かる、信じられないと云いたげにウィンが口を半開きにして彼を凝視していたからである。
 その間の抜けた表情はあのウィン・D・ファンションを知っている人間からすれば想像だに出来ないものであろう。
 
「え? 君と? あの……スミカが?」
 聞いた割にはええ、そうですと言いかけた少年の返答を聞く事もなく、ウィンは膝に肘を置いて額に手を遣った。
 少年が陰になった彼女の顔を伺ってみると、最初は嘘だと云った風に、次はいや、在り得るといった風に自己否定と自己肯定の二つを反復するように何度も繰り返していた。
「ちょ、ちょっと聞くが……」
「は、はい」
「君とスミカは、い、何時から?」
「ええっと……四ヶ月前ぐらいですかね」
「え? それは、以前の協働の直ぐ後じゃないか?」
「……あ。そうですね」
「そうか、そうなのか……それで、それでだ――」
 
 それから暫く少年はスミカとの交際について、ウィンの質問攻めにあった。
 一体何が彼女をそうさせるかは分からなかったが、恥ずかしいだとか、スミカに悪いだとか思うような問いもあり、実際にそう言ったのだが、何故かウィンがしつこく食い下がってきたので、結局は喋ってしまった。
 もしかしたら、心の片隅にスミカとの仲を自慢したい衝動のようなものがあったのかもしれない。
 
「そうだ。さっき君は”終わった後はいつも”って言ってたが……本当か? 本当にいつも?」
「はい……いえ、終わった後にしてくれるようになったのは、もうちょっと後からです。今日みたいにどうしても一緒に来れない時は流石に無いですけど」
「つかぬ事を聞くが……ど、どのような事を? そうだな……出来れば……具体的に……」
「大概スミカさんはロッカールームに先に来てて、ミッションの成果を褒めてくれたり、時には叱ったりした後に、僕のスーツのファスナーを下ろして……」
「ほうほう、それで?」
 気のせいか、ウィンの呼吸が荒くなっている気がする上に、さっきより近づいている気がしたが、自分達の話に必死に耳を傾けている様子のせいで言及する事が出来ず、妙な威圧感を感じつつも続ける。
「それでスミカさんは僕を脱がせると……その……僕のを手で扱いて大きくして――最近は僕も凄く期待しているので、最初から大きかったりするんですが――それでそのまま……」
「そのまま?」
「……出させてくれます」
 ウィンが、ほぉ~、と感心するように溜息を漏らしながら、頷きつつ仰け反る。
「……で」
「で? …… ”で”?! ま、まだあるのか?!だって、もう君は射精しているんだろう?!」
 がばっと音を立てながら仰け反って離れた以上の距離まで少年に近づく。まるで振り子のようだ。
 言葉遣いが丁寧な人柄のせいで、正確なのだが背徳感すら漂う言葉を彼女は口走っているのだが、其の鼻息を荒くしている様子では本人も気付いていないだろう。
 眼の前の美人からそんな言葉を聞いてしまったせいか、気恥ずかしくなって少年は顔を赤くする。
「あ、あの、それで終わりの時もありますよ」
 訂正するようにそう言うと、ウィンはそれはそうだろうと云う風にまた仰け反ろうとしたのだが、
「……口でしてくれる事もありますが」
「口……? く、口でか?!」
 またも振り子よろしく、上体を勢いよく戻した。
 全く想定通りの反応を見せてくれるので、少年は少し面白く感じ始めていたりする。
「ど、どんな風なんだ」
「えっとですね、立たせたままで……」
「……え? どっちを?」
「僕をです……一応、勃ってますけど」
「あ、そうか……続けてくれ」
「はい。スミカさんが屈んだり、跪いたりして……あ、僕をベンチに寝かせた状態でしてくれることもあります」
「ほぉ……それで気になることがあるんだがな。まぁ、口に限らず、手でもそうなんだが」
「はい?」
「君が射精した精液はどうするんだ?」
 其の直接的な表現に当てられたことで少年は噴出しそうになったが、まるで気付いていない女性に鼻水を垂らしているのを教えるべきかどうか悩むのに近いような――此の例が相応しいかは分からないが――そんな気がして指摘するのは躊躇われたので――結局そのままにしておいた。
「手の場合はスミカさんはティっシュで受け止めてくれます。……あ。手の時も偶になんですが、口でしてくれてる場合は口の中に出して……そのまま飲んでくれることもあります」
「ええ?! の、の、飲むのか!」
「……はい」
 それからウィンはカルチャーショっクでも受けたように、打ちひしがれていた。
 其の様子を見守りながら無理も無いだろうと少年は思った。
 ウィンに対してどの様に接していたのかは知らないが、気性が荒くなる事もあるが、彼女並みにスミカは冷静な人物である。ウィンにも其の影響は少なからずあったに違いないだろう。
 確かにスミカは公私の公、つまりミッション中は冷徹なまでの冷静さであるが、いざプライベートになると少年に触れたがる――言い方を換えれば甘えたがってくるとも取れる。
 昔からの付き合いであるために現在の状態に驚いているのはウィンのみならず、公の時を知っている少年も同じである。
 勿論、少年は其れが嫌な訳では決してない。寧ろもっと来て欲しいと思っているぐらいだ。
 冷静な彼女を知っている分だけ可愛く思えるし、それに自分からも触れたいのだから都合良い事この上ない。

「そ、それで君は……どうするんだ……?」
 暫く考え込んでいた風のウィンが少年を横目で盗み見るようにしながら、そう切り出した。
 彼はまだ続きが聞きたいのかと半ば呆れつつも話そうと記憶を辿ったが、少なくともロッカールームでスミカの手に掛かっている時は何もしていないので返答に困った。
 というのも、そういった機会は余り無いとはいえ、不特定多数の人間が訪れる可能性のある部屋で少年が自制しなくなった場合、間違いなく行為が最後まで及ぶであろうと云うことを二人はなんとなしに予想しているからである。
 少年が下半身を晒しているだけなら、ロッカーの陰に隠れでもしていれば、幾らでも対処は出来るであろうが二人となると話は違ってくる。
 互いして積極的な二人であるが、流石に他人に情事を見られるのは憚れるという意識は一応はあるわけで。
 だから「ええと」と言いながら視線を宙に泳がす少年であったが、
「いや、スミカとの事じゃなくてだな……」
 ウィンは先程までの尋問とまで云える程の勢いとは打って変わって言い難そうにしている。
「……というと?」
「今、というか……これからだ……その……ソレを……」
 一瞬だけ向けられる方向が変わって、少年がつられた視線の先は彼の下半身であった。
 怒鳴られた際に僅かばかりに萎えていたソレは、先程のスミカによる行為を思い出したせいか、ウィンが見てしまった時よりも――二人に其の見た目の差が分かっていたかどうかは不明だが――更に大きく膨張していて、スーツを押し上げていた。
 ベンチに座るまでは隠していたのだが、語るのに意識を取られていたので晒していた其処であったが、言及された事で少年は今更ながらに再び手で覆った。
 そして、嫌な物を見せてしまったと思い、謝ろうとウィンに視線を戻したのだが、其の気遣いがいけなかった。
 彼は真正面から彼女の身体を見据えてしまったのだ。
 勃起しているという事は、つまり欲情している訳で、更に其れを隠そうとしているのは、つまり意識しているという意味である。
 劣情が座り込んだ眼は少年に無意識に眼の前の女性の肢体をつぶさに観察させてしまっている。
 戦闘を終えたばかりで、そして先程までの猥談で多少は昂揚しているせいか、赤みが入っている首筋。
 ぴっちりとスーツは身体中を包んでいるのだがそれ故に強調されている胸部の双陵。
 鍛えてもいるのだろうがスーツのせいで、更に引き締まっているように見える腹部や脇を通っている括れた腰のライン。
 スーツの滑らかそうな質感も相俟って、揃えられている脚の、滑らかそうである肉付きが良さそうな太腿や、臀部のなだらかな稜線。
 そして小さな三角形の仄暗い暗闇から伺える、僅かだが確実に曲線を描いている、細部まで分かってしまいそうな――見ていると想像してしまいそうになる彼女の秘所。
 端正な顔の造りと同じようにウィンの調律の取れた身体を見て、少年がごくりと生唾を喉に流し込む。
 自分が視姦していると気付いて視線を逸らした時には既に遅く、其の直前にはスーツの下半身の膨らみはウィンが見ている前で更に大きさを増していた。
 失礼な事をしてしまったと自省し、やはり手で隠したまま彼女の視線から逃れるように座ったまま身体の向きをずらしてから、また怒られると思って恐る恐る視線を寄越す。
 しかしウィンは怒りを見せているわけでも、呆れているわけでもない、それらとは異なる静かな――しかし何処か見覚えがある表情で彼を見ていて、そして吃りながら言った。
「しょ、処理しなくては、大変じゃないか?」
 座ったまま頬を紅潮させた顔を先頭にして少年に近付く。
 二人が座っている事や、直前に彼が僅かに離れていて、そして顔から近付いたことで、本来は身長が幾らか高いウィンの視線が彼よりも低くなる。下から覗き込むような仕草はまるで伺いたているように見える。
 そして其の視線は間隔に差はあるが、彼の眼と下半身をせわしなく反復している。
「い、いえ……あ、確かにそうですけど……でも、後でしますから……」
 突然のウィンの出方に面食らった少年がそう言ったが、直後には自身の発言を自省して心中で呆れ返った。
 平気です、ぐらい言えば其れで済むのに、何も自ずから自慰をしますなどと告白することがあろうかと云った風に。
 間の抜けている上に生理的行動とはいえ浅ましい事を述べたせいで少年が顔を更に紅潮させると――ウィンが更にもう一歩距離を詰めてきた。
「し、しかし、そうしてしまったのは私が原因でもあるんだろう?」
「え? は、はい……いえ!そんなことは……!」
「だったら……」
 ――私に何か手伝えないか?
 先程ウィンが打ちひしがれていたのは、厳格であると思っていたスミカの意外な一面を知った事以外にも、もう一つあった。勿論、こちらの方も相当なショっクである。
 いざ自覚すると照れがあるとはいえ離れて何年も経つが今でも尊敬している師匠というべき人の自分が今まで知らなかった――ともすれば知りたくなかったのかもしれない――一面を覗いてしまったのだから。
 ――あれで女性らしいところもあるのだな。
 それでも単純に衝撃を受けただけである。
 予想以上にスミカに淫蕩な一面があるとしても――少なくとも軽蔑まではしていない。
 寧ろ軽蔑は自身に向けられている。
 しかし、大義名分と呼ぶに相応しい言い訳をウィンは持っている。
 戦闘直後、つまり今日もなんとか命を拾ったと実感している最中であるから、と云う風に。
 ――それならば仕方が無いのではないか。
 師匠である件のスミカに似たのだろうか、どんな相手に対しても、自分に対しては特に厳格であるウィンにしては珍しい自己弁護だ。
 事実、お膳立ては成されていたのだ。
 死と隣り合わせによる緊張の熱。
 生を掴んだ歓喜の熱。
 そして人生の中で最も付き合いの深い友人の淫蕩な体験談による昂奮の熱。
 其れが絡み合い、交じり合った結果、ウィンは知覚していた。
 多少歪な体験を多く積んでいるとはいえ、眼にはいたいけに映る少年の前で、気付いた時には自身が――劣情を催している事に。
 其れが証拠に下半身を中心に三つが合わさったのよりも高い熱が燈った液体が胴体の底から緩やかに漏れ出した感覚があったのだ。
 そして、少年の欲望が篭った視線が其の流れを加速させていた。
「え……えぇ?!」
 聞こえていたが、何を言っているのか理解出来ないと云った風に少年が大きく声を上げる。
 しかし、其の反応とは彼の視線は裏腹にもはや息が掛かりそうな程の――実際熱い吐息が首筋を撫でている――距離まで見上げるようにして詰め寄ってきたウィンの濡れた瞳と、顎の下から覗いている――気のせいか、先端に僅かな突起が現れた――双陵、そして更に其の向こうの太腿の間を何度も往復して、また唾を飲み込むと熱が高くなった。
 ――だ、駄目だ。駄目だ。何を考えているんだ。
 自身の理性の代替として少年の頭の中にスミカの幻影がちらつかせるのだが、本能の代替であるウィンの身体の実体が覆い被さってくる。
 そうなるとウィン同様に下半身に熱が溜まっている少年は――最早これも云うまでも無いだろう、だからこそ彼の欲の権化は最初から膨張していたのだから――様々なモノを知覚し始めた。
 ウィンの身体そのものから漂ってくるのだろうか、それとも日頃使用しているシャンプーやボディソープのものだろうか、甘い芳香が鼻腔を擽っている。
 近付き難く感じていたからか怖い、というよりは畏いと云う方が正しいだろうか、どちらにせよ印象のせいでそういう見方をすることも憚られていたが、彼女の顔の造りが記憶の中よりも更に美しく感じられる。
 そしてその硬質な雰囲気や強い物腰に、無意識の内に勝手に硬いと信じ込んでいたのだが、其の想像よりもベンチの上で僅かに触れている手は例えスーツ越しであっても柔らかいと分かる。
 どれも今までの中で最も二人の間の物理的な距離が縮まったから感じられたものである。
 少年と同条件であるから、ウィンも彼と似たような感覚を得ている。彼と違って概ねの前提が好条件であろう。
 少年の眼に映り、表出を争っていた二つの像は、重なり合っていたためにピントがずれたようにどちらもがぼやけていたのだが、暫くすると、やがて解離して、どちらもが明確になった。
 左目に幻影が、右目に実体が、と云った風に。
 すると少年は幻影と確りと、確りと眼を合わせながら――実体の方に語り掛けた。
「あの……じゃあ……」
 ――お願い、出来ますか。
 幻影を見ている彼は彼自身が紡いだ言葉に驚いた。
 今言ったことはつまり、”そういう事”であると充分に理解している。
「あぁ……あ、その、すまん。言いだしておいて何だが……手はともかく、口でするというのは……」
 少年の心中の葛藤を他所に――勿論、分かる訳もないが――ウィンはそれなりに躊躇いが見えるとはいえ、話を進めている。
 だが好機であるとも彼は思えた。要請したばかりでなんだが、今なら打ち切る事が出来ると。
「あの……どちらにしても、ウィンさんを汚してしまうと思うので……」
 それなのに実体の方を見ている自分が勝手に進めてしまっている。
 ――右目が熱い。
 何故かそう感じた。
「そのですね……ウィンさんの……太腿で……」
「ふ、太腿で……?」
 それも下半身のモノと同じぐらいに右目の方だけが熱くなっているのだ。
 逆に左目は冷え切っている。
 ――勝手に動いてる癖に、恥じらいはあるんだな。
 そのように何処か遠くで自身を見ている風に少年が考えていると”彼”は立ち上がった。
 座って見上げるウィンを前にして、半分まで下げていたパイロットスーツのファスナーを更に下ろして行く。
 噛み合わせが外れていく、其の一つ一つまでもを捉える程に強いながらも惚けた眼で彼女は見ている。
 布地が膨らんでいる寸前、臍の当たりまで続いていたレーンを辿ると、腰で結ばれていた袖を解く。普通の服ならそのまま支えを失うことで、すとんと落ちていくのだが、窮屈なパイロットスーツではそうはならない。
 腰回りでしがみ付く様に引っ付いているスーツに手を掛けて下ろしていくが、ファスナー程、簡単ではない。
 いつも通りであるが殆ど力任せに引き剥がすようにして下げていく。
 スーツと肌の境が徐々に下がっていくと、其の境が膨らみに到達する。
 しかし、つっかえになっているために苦心したが、彼に工夫をする余裕は無かったために強引に進めると、元々脚が細い彼には其処からは楽であった。
 すとん、と行かないまでも寸前の脱皮のような緩慢さに比べれば、するりと云うような分、楽であった。
 それに途中での遮りは結果的に行程を一つ飛ばしてくれたので、其れについても楽ではあったのだ。
「え……?」
 スーツを脱ぎ終えると、ウィンは驚愕の声を漏らした。
 そうして少年はひしひしとウィンの視線を”直に”――少年が下着を脱いでいないのにも関わらず、既に直になのは、スーツを脱ぐ途中で一緒にずり落ちてしまったからである――下半身の”二つ”に感じている。
 昂奮を表わすように、反り返る程に屹立している肉棒に。
 そして同じく、昂奮を示すべく背後で左右にふるふると振られている尻尾に。
 ウィンは聞かずとも分かるような疑問と驚愕の眼差しを尻尾に向けていたので、彼はスミカを倣って、簡単に説明した。
 「ああ、これですか?気にしないで下さい、何故か僕は生えているんです」
 とはいっても気にならない訳が無いだろう。
 飾りだろうかともウィンは思っているに違いないが、それこそ臀部を中心にして縦横無尽に動いているから本物かと思えたろうが、そうなると今度は人に尻尾が生えている事など在り得ないという思考に嵌っているだろう。
「……触ってみます?」
 普段ならこの特異すぎる自身の特徴は隠すようにしているのだが、彼は恥じるでもなく淡々とそう云っていた。
 ここまで来ると、自分のことが正に別人のようだと思えていたが、だからどうだと云う訳でもない。
 ウィンは応えなかったが、無言でそれでも尻尾に視線を注ぎながら――時折ぶれたが――スーツを着たままのであったが、触り易くするために身体の向きを変えた少年に恐る恐る手を伸ばして――毛の集まりを指先で撫でた。
 他人には絶対に理解できない感覚であろうが、背筋がむずむずする感じによって尻尾そのものも、そして少年の身体も僅かに震えたのだが、ウィンは触っている方だけに集中しているから後者の反応には気付かなかったが、其の反応によって尻尾が本物であると判断出来た。
 そしていざ実感すると、もっと確かめたくなって、柔らかな毛先だけでなく、骨と皮膚、それに神経までもが通っているであろう毛に覆われた芯をそっと掴んでみると
「あぅ……!」
 少年が声を漏らして、尻尾が跳ね上がるのと同時に全身がびくりと震えたのでウィンは驚いて手を離した。
「す、すまない……痛かったのか?」
 瞬間的に目を瞑った少年に対して、申し訳なそうな様子で謝る。
 しかし、そう言いながらも、またそう聞きながらも、ウィンにはそうではないという確信があった。
 何故ならば、
「……いえ、気持ちよくて……」
 尻尾と一緒に視界の端でペニスも跳ね上がっていたのを見ていたし、そして声も、顔も明らかに性感を感じていたものだと感じていたからである。
「じゃあウィンさん……お願いします」
「……あぁ、わかった」
 尻尾を撫でられた感触に顔を紅潮させた少年がロッカーに入れてある私服のポケットからティっシュを何枚か取り出すと、促しながら其れを手渡すとウィンは立ち上がった。
 しかし立ち上がってみたのはいいが、どうすれば皆目見当が付いていないらしく、柔らかい紙の束を握ったまま覚束無さそうにもじもじとさせている彼女に「僕に背中を向けて下さい」と彼が指示を出す。
 我ながら良くここまで言ってしまえるなと考えつつも、矢張り其の迷いの無さに此れが自分では無いような気がするのだった。
 ウィンは言われた通りにロッカーの一つに正対するように少年に背中を向けると肩越しにこれでいいかと確認する視線を送る。
 それを受けた彼はこくりと一度頷くと、屹立した怒張を上下に揺らしながら、先端を眼の前の女に向けながらウィンに歩み寄る。
 言い出したのは自らであるが、いざ行なうとなると躊躇いも生まれるのだろう。恐々としたウィンらしくない小動物のような視線を背後の少年に送っているのだが、彼はそれにかまうことなく一歩、また一歩近寄っていき、身体同士が触れ合う寸前になって――ウィンが眼を逸らした。
 ――来る。
 見てはいないものの直ぐ其処にある確実な未来を予測して、ウィンは身体を硬直させる。
 しかし、彼女の時間の感じ方がおかしくなったのか、直後の筈の出来事はどれだけ経っても訪れる事はない。
 どうしたのだろうとかとやはり恐いのはあったが、恐いもの見たさもあったのか確認するように再び首を動かして顔を後ろに向けようとした時であった。
「あ……っ?!」
 よく考えれば受け容れるのだから開いていないといけない筈の太腿に触れられたと分かる感触が奔った途端、振り返ろうとしているのだか、横を見ているのだか分からないような中途半端な角度に首を回したまま、驚いて身体と、そして目蓋を固めてしまった。
 握り締められたティっシュがひしゃげる。
(……?)
 そして暗闇の中で太腿の感触を恐る恐る確かめてみると、スーツ越しのせいか、どうにも予想しているモノとは形が違うように思えた。いや、スーツ越しであっても確実に違うと言えた。
 何故なら、明らかに触れているモノの面積が広かったのだ。面と云ってもいい程に。其れが太腿の上を這い回っている。
 確認するべく恐る恐る目を開けて、自分の背面の下半身に目を遣ると、少年が掌で太腿の表面を撫でていた。
 其れを見てウィンは何をしているのかと思ったが、太腿での行為を所望した事から、彼が其処を好む性癖なのだろうかと考える。しかし、どうにも其れは違うように思えた。
 手を這わせている事は確かなのだが、感触を楽しむために撫で回している訳ではない、つまり触っているのは触る事そのものが目的ではないように思えたのだ。
 それでも身体を撫でられている事せいで背筋を奔るものがある。
「……何をしているんだ?」
 疑惑が高じて問うと、少年は太腿から顔へと視線を移して――手はそのままで――答えた。
「唾を塗って滑りを良くしているんです……っと」
 そう言うと彼は弾薬を装填するように掌を舐めて唾液を塗りつけながら、また一歩ウィンに近付き、後ろから抱きすくめるようにすると、今度は太腿の前面に手を這わした。
「は……ぁ……」
 本人にしか分かっていない――もしかしたら少年は感づいているかもしれない――熱を放ちながら、疼いている秘所の近くを撫でられるもどかしさにウィンが少年の腕の中で身を捩らせながら、か細く喉を鳴らす。
 恥ずかしげな声を上げた彼女であったが、其の眼は自身の太腿と彼の手を確りと見ている。
 更に少年は自分で一通り塗り終えた後、ウィンの右手を優しく取ると、彼女自身に唾液を更に広げさせる。
 ウィンは粘り気のある液体が滑らかな質感のスーツの上で照明によって反射しながら段々に広がっていくのを見て、自慰をしているような感覚に陥っていた。
 男を受け容れるために、潤滑液を溢れさせているというような厭らしい空想が彼女の頭蓋を蕩けさせていく。
 重なっている彼の手の、そして自分の手の指先が性感帯の周辺をつつっとなぞる度に。
 潤滑剤を塗り込んでいるのを良い事に、少年が先程から熱い棒を背中や尻に押し付け、擦り合わせながら、熱い吐息を首筋に掛ける度に。
 それらに反応した身体が薄いタンクトップを押し退けるように乳頭が迫り上がってスーツを押し上げ、秘所から愛液が流れ出ていくのを知覚する度に――ウィンの思考が更に形を失うように蕩けていく。
「ふぅ……!」
 平素の自分では絶対に在り得ない、何も考える事の無い怠惰な思考に――しない、というよりは根が生真面目だからか出来ない――ウィンが身を任せていると、背後からの呻き声と共に、閉じられた脚の隙間を熱が滑っていった。
 怠惰を割られたウィンが、失神から意識を回復させた瞬間のように、状況を確認する眼を下に向けると違和感に思考も身体も硬直した。
(え……!)
 まるで男性の如く、自身の股の間から異物が生えているからだ。
 勿論、急に其れは突然に生えた訳ではなく、背後からウィンの太腿の隙間を少年のペニスが押し入っているだけの事である。
 しかし、彼女の感じた違和感は、寧ろ眼下の事態というよりは、其れそのものに対するものだった。
 今は彼女の背後にぴったりと引っ付いている少年は文字通り真っ白な髪に覆われた頭部から、先程垣間見た下半身まで全身肌が白いために、全くそのままであるが白の印象が強い。
 先程までウィンは尻尾にばかり気を取られていたから、其の事に今更ながらに気付いたのだが、彼の男根はスミカとの度重なる行為の証左なのか、全体がやや黒ずんでいる上に――改めて言うまでも無いが、彼は少年であるのだが――サイズが大きいのだ。
 実を云うとウィンは、彼のモノは自分の脚の間で埋もれてしまって、ともすれば先端が僅かながらに見えるだけなのではないかと想像していたのだが――全くの予想外であった。
 太腿に擦られた事、そして視線を浴びている事が嬉しいのか、生きているように――事実、生きているのだが――充血していて赤黒くなっている先端が虚空の中で、そして竿がウィンの太腿の中でひくひくと震えている。
 中性的な顔立ちに加えて、そして充分に子供らしい面立ちを持つ彼のイメージを破壊する程に、其処だけは異常に男性的である――彼自身と対比すると、禍々しい程に。
 唾液に塗れてぬらぬらと光る様子はウィンの眼にはグロテスクであるとさえ思えた。
 だが、まるで別の生物のような肉棒を見ていると、彼女は恐ろしさ以外にも、期待のようなものまで感じていた。其れが彼女の中で男性器としては初めて見る程の大きさという事も原因の一つだろう。
 好奇心の方が優っていたのだ。先程触れた尻尾の時と同じく、ウィンがそっと手を伸ばそうとしたのだが、
「ふぅ……っ、はぁっ!」
 逃げるように、それでいて緩やかに太腿の中に引っ込んでいくと――今度は勢い良く出てきて、またゆっくりと隠れていくのを繰り返す。
 滑らかなスーツの質感の摩擦による性感で身体に力が入っているのだろう、ウィンの腹辺りを背後から確りと抱き締めている少年が嬌声を耳元へ吹きかけている。
 吐息と甘い溜息以外にも ぬっちゅっ、ぬっちゅっ と唾液に塗れた陰茎と太腿が擦れ合う粘性の音がウィンの、そして音を立てている少年の鼓膜を擽る。
 また二人の鼓膜を震わせている音はもう一つあった。
「ふぅ……ンン……」
 きゅっと瞑られた目蓋と同じように、それでも時折、隙間が開いてくぐもった溜息が漏れている、ウィンの嬌声である。
 ウィンは正直なところ、此の行為は自分の太腿の間をペニスが往復するだけだと思っていた。
 確かに欲情していると自覚している自分にとって男性器が密着する事は官能的な事ではあるが、所詮それだけだと。
 しかし彼女にとって予想外だったのは――考えが回っていなかったというべきか――行為を行なう場所が自身の秘所に近いという事だった。
 つまり、抽迭の度に少年の肉棒の雁首が秘唇をスーツ越しに引っ掻いている事で、図らずも彼女にも性感が訪れているのだ。
「あ……っ!」
 しかし、其れは摩るだけの弱い愛撫のようで、もどかしい。
 また否応無く感じてしまっている陰茎の大きさが拍車を掛ける。
 このごつごつとしたモノに思い切り擦られたら、どうなってしまうのだろうかと。
 考えるだけで下着が濡れていくのが分かり、いっそ腰を落としてしまおうかという空想が広がる。しかし、あくまで彼が落ち着くための手伝いをしているという自制心がある。
 其の二つの鬩ぎ合いを表わすように――若しくは快感のためか――ウィンの膝ががくがくと震える。
「あっ!あぁっ!」
 痙攣のような脚の震えは男根にも伝わっているのらしく、少年が強まった性感を更に甘受しようと抽迭の幅を大きくする。
「いい、のか……?」
「はっ、はい……っ! ウィンさんの太腿、すごくっ……! すごく、きもちいぃ……!」
 臀部に股間を叩き付けられているウィンが内向きになっている自身の足の甲に、先端から涎のように腺液を垂らしているペニスを見詰めながらそう問うたのは、羨望の念があったからだ。
 直ぐ下で柔肉に挟まれて震えているだけでなく、跳ね上がるのを見ながら、そして聞くまでもなく気持ちよさげな彼の喘ぎを聞いていると、自分もそのように感じたいと。
 抜く、差すを繰り返しながら一つ一つ言葉を紡いでいく彼の返答を聞くと、自分の女の部分が褒められているような得も言えぬ心持ちになり、ウィンが濡れた唇から甘い嘆息を漏らした途端、吐息と一緒に身体から力も抜けていくと――
「ひゃあンっ!」
「はぁぅっ!」
 屈むようにがくりと膝が落ちてしまい、其の拍子に丁度引かれていた肉棒の雁首に――股間の花肉を開くように、そして肉芽を押し潰すように――抉られて、突然に強い性感が奔る。
 高い嬌声が上がり、それによって反射的に身体を縮めるように力むと、股間のモノを締め付けられる格好になって少年もウィンと同時に甲高く喘いだ。
「やぁうっ!」
 今度はウィンの秘所に密着した状態で、男根が其の上を滑って行く。
 突発的に訪れた強い快感を逃すまいとしたのだろう、其の腰遣いは彼女の身体の奥底にまでずしりと響くような重々しいものであった。
 殆ど中腰のままで立て続けに襲った性感に、ウィンが僅かに仰け反ると握り締めていたティっシュの束がはらりと、手から離れていく。
「はぁっ! ふぅっ!」
 落ちていったのはティっシュだけではなく、ウィンも同様であった。
 緊張や昂奮によって膝が笑っている事は事実である。
 しかし、曲がった膝を伸ばそうと思えば出来ない訳ではないのだが、彼女はそれをしようとは露程も考えていない上、自制しているとはいえ、また一見すれば分からない程とはいえ、少年のペニスに秘所を――特に半ば捲れ上がった包皮に包まれているが勃起していると分かる陰核に――自ずから擦り付けるように、僅かに腰を前後に遣っているのだ。
「あ……う……」
 また少年の腰遣いが其れに都合が良かったというのもあるかもしれない。
 彼はウィンの太腿から肉棒が抜けてしまいそうな程、雁首の段差の裏側が見える程に引いてから、腰をやや上に向かって角度を付けて押し込んでいるので、秘唇に、そして其の少し上でぷっくりと膨らんでいる――スーツ越しでも彼は其の存在は感じている――陰核にも否応無く触れている。
 もしスーツが無かったら今頃は恐らく――寧ろ間違いなく――挿入してしまっているであろう。
 また単純に包まれているモノに性器を擦る事で奔っている快感だけではなく、押し込む度に陰肉を押し広げているような感触が、恥部を暴いているようで征服感を煽られている。
「あっ……あン……」
 硬質な雰囲気を放っている事で知られるウィンが、頬どころか首筋までほんのりと赤らめながら、他人の前で心地良さそうに眼を瞑って天井を仰いで、艶やかな声を漏らしている。
 心身ともに昂揚している事によって屹立している乳頭が背後から身体を揺さ振られる度に押さえ付けている布に擦られている。
 また充血して物欲しそうに開いているラビアや、其処から僅かに覘いているであろう膣口の肉に、自身が垂れ流した愛液をたっぷりと吸い込んだスポーツショーツが、少年の抽迭によってべったりと貼り付いてしまってるのだが、其れも結局は興奮によるものであるため、股間部が湿っているような不快感も、快感へとすり替わっている。スーツの気密性が高くなかったら、床が汚れていたであろう。
「ンっ……はンっ!」
 何時の頃からかウィンは、眼前のロッカーに上半身を預けて、背後の少年に臀部を突き出す格好になっていた。
 最も強い二つの性感帯を繋ぐ線が、彼女の足から、そして少年のペニスから直に腺液が垂れている床に対して平行になっているせいで、より確実に、挿せば亀頭が押すように、引けば雁首に引っ掛かって弾くように陰核が抽迭で刺激されている。
 少年も彼女のくびれた細い腰を確りと掴んで腰を尻肉に打ち付けているので、傍から見れば挿入しているとしか思えない光景である。
 ウィンが寄りかかっている鉄製のロッカーは、冷房によって冷えている。
 だから熱い吐息が掛かる度、もやが広がる程に温度差があるので、触れている頬が冷やされて彼女には心地良いだろう。だが直ぐに熱が伝わってしまうので、ウィンは腰を掴まれていて動き難いなりに、身体を捩じらせて冷えている場所に頬を押し付けている。
「はぁ……あっ……」
 ウィンはそれなりに自分が他人からどう思われているか知っている。
 だから今の、年下の少年に尻を突き出して背後から――挿入されてはいないとはいえ――犯されているような、淫らな体勢は他人が見たら信じられないだろうと考える――それどころか、自分でも嘘のようだとさえ思えていた。
 そんな風に彼女が自身のことを省みていた時であった。
「……あぅっ?!  あっ! あぁっ!」
 急に下腹部からざわざわとした波が走り、驚いたような声を上げると、更に嬌声が強くなった。
 性器を中心に熱が高まっていき、スーツの内側の肌の上で暑くて滲んでいた程度だった汗が急に汗腺から流れ始める。
 しかし、其れは異変といえば確かに異変であったのだが、彼女にはそれなりに慣れ親しんでいる感覚であった――最後に感じたのが少し遠いだけで。
(……く……来る……)
 其れはウィンにとって久方ぶりの絶頂の訪れの前兆であった。
 訪れる快楽の終点に身体がそわそわと落ち着きが無くなるような、浮つく感覚を覚える。
 一応建前としては少年の方が其れを迎えなければならないのだが、昂っている身体はそんな事を考慮させる余地を与えず、淫靡な期待感が心身に満たされていく。
「ぼ、僕……も、もう……イキ、そう……です……」
 すると偶然にも少年も限界が迫り出したらしく、申告するように声を絞り出すと、眼の前で弧を描いている背中にもたれかかると抽迭に――正に文字通り――本腰を入れ始めた。
 予め塗りこんでおいた唾液は乾いたが、代わりに先程から付着している腺液が、ウィンの脚の間で其れを溢れさせているモノを介して糸を引き、粘性の液体を混ぜるような淫音と、尻に股間が打ち付けられている打音が室内に響く。
 尻に腰を強く打ち付けられると、其処を通って膣壁まで衝撃が伝播して、外だけではなく、中にも刺激が与えられ、ウィンの身体が望んでいるモノが更に近付きつつある。
「あンっ!あっ やっ……!」
 日頃は鉄扉面とも云えるような無愛想な表情が目立つウィンであるが、緩く眼を瞑って、半開きになっている口許から吐息を漏らしている。
 そして半ば口角まで上がりかけた時であった。
 顔面を紅潮させながらも、はっと何かに気付いたような、思い出したような青ざめた表情を浮かべると、上げていた嬌声も止まる。
 ――ダメだ。
 ロッカーに寄り掛かっている両腕の間で、慌てたように顔を下に向けると、視界には彼女の股の間を行き来している肉棒と――くしゃくしゃになって丸まった紙の塊があった。
(……まずい)
 つまり其れは、そう考えている彼女の眼下で尚も動いているモノが限界を迎えた時に吐き出される精液を受け止める者が無いという事である。
 今の内に拾っておかなければと、落とした際に転がって少し遠くに行ったティっシュにウィンは手を伸ばそうとすると、
「あンンっ!」
 電流のような性感が走り、身体が硬直してしまった。
 腕を伸ばすだけでは届かず、身体まで下げようとしたのだが、自身の敏感な場所を自分から押し付ける格好になってしまい、より強く陰核を引っ掛かれてしまった。
 また悪いことに力んだ際に太腿に力が入り、男根に刺激を与えた事で少年を絶頂に更に一歩追い遣ってしまっていたのだ。
「うあっ! ああっ!」
 もう彼が限界に近い事は疑い様もなかった。
 焦燥感に駆られつつ、再度手を伸ばそうとしてみるも、やはり届かない。
 身体を落としてみようかとも考えるが、先程の二の舞になるだけだと、結局間に合わないのではないかと、そもそも自分も限界に近いのに耐え切れるのかと、ウィンが逡巡していると、
「ンっ! や……やめ……っ! ああンっ!」
 その思考を遮るように――切羽詰っている少年にそんな事を考える余裕は無いのだが――胸部を真下から掌で掴まれてしまった。
 乳房を確りと掌握しながら、触感を確かめるように手が蠢く。
 掴んでいる本人も掴まれている方も動いているために、スーツの下から盛り上がっている突起を擦り上げる。
 別に胸に触るなとは言っていなかったとはいえ、予想外の行動に、そして予想外の場所からの快感にウィンの身体が慄く。
「イキ、ます……イク! イクっ!」
「ンっ、ンっ、ンっ、ンンっ!」
 女の感触を愉しむ事で更に男根が悦びに打ち震え、女としての身体を称えられた事で子宮が疼く。
 胸を揉みしだきつつ、スーツの質感と其の先の身体の柔らかさを感じながらペニスを力の限りウィンの秘所に擦らせる。
 身体中を好き勝手に弄ばれつつ、抱き締める少年に身体を預けるウィンが迎え入れるべく腰を落とすと、消え入りそうな意識の中で最後の懸念を晴らすべく、無意識に股間に手を遣ると、掌を熱が過ぎていき――
「あっ! あぁーー……っ!」
「ンンっ……!」
 亀頭を撫でられたのを引き金にして、太腿に根元を締め付けられながら滑らかな生地に覆われている肉棒が熱い白濁を幾度も吐き出す。
 形が変わるほどに乳房を握り締められながら、秘唇と陰核を力強く抉られ、蜜壷の奥底にかっと熱が燈る。
 直に射精の脈動を感じながら、べっとりと張り付いて行く精液によってウィンの掌と臍の辺りはスーツ越しに温まっていき、自身の撃ち出した熱の篭る掌の中で少年の男根も、また温まっていく――
「あっ……! だめ……っ!」
 そのまま、ひしと身体を密着させながら余韻を感じていた二人であったが、少年が寸前の絶頂によって生まれた物とは別の温度を股間に感じると、ウィンが叫び声を上げて彼を振り払う。
 驚いた少年が胸からも手を離すと、逃げようとはしていたが、まだ身体に力が入ってなかったウィンはその場で崩れそうになったので、支えようとして腕を掴んで彼女はぺたりと床に尻を突く格好になった。
「やぁ……とま……止まってぇ……!」
 ウィンは涙声を上げながら股間を手で押さえ出した。
 どうしたのかと不安になった少年が覗き込みながら、其の肩に手を掛けると
「やっ!」
 不意に触られて驚いたのだろう、怯えるように身体を竦めたウィンが声を上げるのと同時に妙な音が聞こえた。
 勢い良く打ち出した水が障害物に当たったような、そんな音である。
 更にウィンのパイロットスーツの首元のヘルメットを繋ぐアタッチメント、ファスナーさえ開けなければ唯一、肌が露出する部分から、ほんのりと鼻につく臭いが漂ってくる。
 其れが嗅ぎ慣れている刺激臭だと分かった時には、目許に薄っすらと涙を浮かべているウィンの身体に何が起こっているか、少年は、
(……ウィンさん……漏らしちゃったんだ)
 直ぐに、そう理解した。
「う……くっ……」
 恥ずかしいやら、情けないやらでウィンが弱く嗚咽を漏らす。
 精液を受け止める物が無かった以外に、ウィンが彼の絶頂をまずいと思ったのはこれが理由であった――というよりは寧ろ此方の方が理由としては強い。
 昔から彼女は絶頂を迎えると尿を漏らしてしまう癖がある。
 癖と云っても本人がそうしようとして居る訳では無いので――寧ろ忌避しているので――迷惑な体質と云った方がいいだろう。
 必ず放尿するという訳でもないのだが、最後に用を足してからミッションを挟んで幾分か時間が経っていた上に、終わってからも排出していなかったせいで失念していた。
 尿意を感じていなくても、そうなってしてしまうのだから起こりやすいとは云えるだろう。
 スーツのお陰で床に水溜りが出来なかったのが幸いであるが、其の代償に恥の塊ということもあって、不快としか表現できない湿気が下半身を覆い尽くしている。
「だっ……誰にも……誰にも言うなぁ……」
「は、はい……勿論です」
 座ったまま、ウィンが振り返って少年を見上げる。
 本人は否定するであろうが、眼に涙を一杯に浮かべている、どう見ても泣いているとしか思えない表情で。
 しかし涙を流している女性に対するものとしては、其れは歪んでいるものだと自身で認識しているが――其の姿に彼は昂奮を覚えていた。
 ウィンが漏尿したことにではない――見掛けからは想像も出来ない失態という事でそれも多少はあるが。
 年上の女性が羞恥を感じながら涙目で自分を見上げている事に。
 そして手で以って放尿を止め様としたせいで、彼女のスーツの臍から股間辺りまでも、そして掌に向かって糸を引いている白濁に装飾されている事に。
「きゃ……」
 下半身を自身の放った精で塗れ、粘液の薄くなっている箇所がスーツの上でぬらぬらと妖しく輝いている様を見て、少年が生唾を飲み込むと、それに呼応するように射精直後で僅かに萎えていたペニスが剛直を取り戻す。
 それを眼前で見せられ、更に跳ね上がった事でそれを見上げる格好になったウィンが驚く声を上げる。
 彼としては女性が頬を赤らめさせて自身のモノを見上げているのは、視覚的に満足感があるが、これがスミカであったらと僅かに残念がる。
 (スミカさんなら……)
 ――嬉しそうに笑うんだろうな。
 スミカとの度重なる行為によって、彼はウィンの見せている初心な反応よりも、頭に思い描いているような淫蕩な仕草の方が好ましく思う。
 あの劣情を誘う冷笑を。
 性欲と一緒に性感を甘受する、あの仕草を。
「……もっとすれば、さっきの事は言わないでくれるか?」
「え? いえ、言い触らすなんてこと……」
 言い掛けて、少年は其処で言葉を止めた。
 ウィンが眠たげに蕩けさせた瞳で――先端が精液で汚れた肉棒を介して――自分を見上げている事に気付いたからだ。
 その視線を浴びていると、身体が赤外線を照射されるように熱くなっていくようだった。
 短く喘ぐように吐かれている異常と云えるまでに熱い吐息の残滓が身体を擽っているのもあるだろう。
「……じゃあ、いきましょうか」
 此の一線を越えたのならば、此処を超えてしまっては、もう後戻り出来ない――少年は、そう思いつつも、ウィンの腕を取って、身体を起こさせる。
 彼女も何処へと聞く事はなく、無言でそれに従って立ち上がる。すると其の拍子に眼の前の勃起に纏わり付く牡臭が鼻腔を擽り、そしてスーツの股間部の内側で溜まっていた尿が太腿を伝っていった。
 期待を秘めるかのように溢れた愛液と共に――。
 
 水が床に向かって放出される音がタイルで出来ている床と壁に反響する。
 壁から迫り出ている5枚の板と壁、そして人の胴体程の高さしかない押し扉で出来ている5つの簡易的な個室で室内は区切られており、板の合間の壁には平均的な成人の身長よりも更に高い位置で円形の、そして細かく網目状に穴が空いているノズルから放出された温水が白いタイルの光景が湿気で霞がかり、ぼやけている。
 殆ど汗を流すだけの、よく見受けられるタイプのシャワールームである。
 しかし入り口から見て個室の二つ目の、溝を伝って温水が排水溝まで流れていくタイルの上には、リンクス用のパイロットスーツがまるで人間を真上から押し潰したような形のまま放置されており、着ていた本人が脱いだ際に多くが零れ落ちたのであろうが、中にはまだ黄金色のアンモニア臭を放つ水溜りが僅かに残っている。
 更に個室の三つ目の前には、汗と湿気をたっぷり含んでいる灰色のスポーツブラが落ちている――こうなるとまるで兄妹がパン屑を道標にした童話のようだ。
 四つ目にはブラジャー同様に汗と、半分程が温水で濡れている白いタンクトップが、そしシャワールームの入り口から最も遠くにある五つ目の扉の前には――流れている温水の元が近いからか――しとどに濡れた三つ目の個室の前にあったブラジャーと同じ素材のショーツが落ちている。
 しかし色が濃くなっている程に水気を含んでいる其れは温水で濡れる前に既にパイロットスーツの中の水溜りと同じ液体によって違う色で染められており――股布と脚が抜ける部分は更に異なる液体で湿っていたのだが、其の痕跡は洗い流されてしまって窺い知る事は出来ない。
 そしてショーツが脱ぎ捨てられているタイルから視線を上げると、押し扉の下からは、水煙の中にぴったりと寄り合う四本の脚が垣間見える――前にある二本が爪先を支えにして背伸びをするように前のめりになりながら、壁際の奥の二本に僅かに更に寄っていくと、踵を突いて背伸びをやめ、また直ぐ背伸びをする、というのを繰り返しているのが。
 道標に従い、旧世紀の西部劇に出てくる酒場のような二枚の板で出来ている、押すと勝手に閉められた位置まで戻る扉を潜ると、其処には二人の男女が――片や少年であるが――温水を浴びながら、一糸纏わぬ姿で触れ合っていた。
 
「はぁ……うぅ……」
「あ……熱、い……」
 ロッカールームの時と同様に――手を突いているのがロッカーから壁に変わっただけ――ウィンが壁に寄り掛かりながら少年に温水が伝っている白い臀部を突き出す姿勢になっている。
 熱いと言ったが、頭上から降り注いで頭頂部から後頭部にかけて撫でていて、真鍮色の髪先から水流となって床に滴っている温水の温度の事ではない。寧ろ心地良いと云える程だ。
 彼女が今この瞬間も感じている其の熱というのは、桃肉の表面や、其の境の谷間を這いずり回っている、背後の少年の股間で反り立っている怒張が元である。
 ロッカールームでウィンの太腿を満喫した少年は彼女の腕を取ると、背中に手を回して隣のシャワールームにまで導き、奥の個室までの過程で、着ている物を次々と剥ぎ取りながら――勿論着ていた本人の助力も無い訳ではなかったが――自分の服も脱いでいった。
 裸体になって個室の扉を潜ると、大きく切れ長で琥珀色の眼に戸惑いと――期待の色を灯しながらも、屹立している乳頭を乳房ごと押し潰すように、そして愛液の垂れる秘所を、腕と手で隠すウィンに先程と同じ命令を下し、今に至る。
「あぅっ……ウィンさん、柔らかい……」
 ウィンの桃尻の表面を亀頭で愛撫したり、窪みが出来るほどに押し付けたり、寄せた肉で竿を挟んで扱き、雁首を引っ掛けたり、其の最中に掴んでいる脇腹を手で撫で回している少年が惚けたように独りごちる。
 此処に着た帰結がどうなるかは暗黙の了解のようなもので二人には予想付いているし、少年自身も早く其処に行き着きたいというのはあるのだが、先程彼女を後ろから抱すくめた際に股間が其処に触れてしまった時に、非常に女性らしい突き出た柔尻を自身のモノで味わってみたいという衝動が生まれてしまったのだ。
 そして予想以上に、期待以上の性感を感じてしまっているせいで、中々行為から抜け出せずに居る。
「はっ……あぅンっ!」
 慣れぬ場所からの性感によってウィンが控えめな、困窮したような嬌声を漏らす。
 既に一度絶頂を迎えて、身体が更に火照っている状態であるとはいえ、これほどまでに臀部だけを弄られた試しがなく、また性交に関しては全く体験が無いということでもないのだが、背筋を奔るむずむずするような感覚の処し方が良くわからないのだ。
 それに先程まで執拗に嬲られた性器が其処から近いというのもあるだろう。
 焦らされているようで非常にもどかしいのだが、それとは裏腹に期待感が募っていく事に言い様の無い悦を感じている。
 ウィンは、スミカではないが自分は此処まで淫蕩であったかと――尻を玩具にされて――自慰の際に勢いが付き過ぎた時の間違いを除けば――触った事も、そして触られた事も無いような菊門にまで、時折触れられてしまい多大な羞恥と同時に性感も感じてしまい、また勝手にとはいえ腰を背後の彼に押し付けているのを省みて其れにこそ羞恥を感じながらも、劣情が増しているのを知覚し、下唇を噛み締めるようにきゅっと真一文字にするが、
「あふっ……!」
 つるつるとした触感の先端が尻の間で、ずり上がって行く拍子に菊門を僅かに撫でられて唇の隙間から甘い溜息が漏れてしまう。
 そんな淫靡な喘ぎ声や、控えめとはいえ彼女の誘うように尻を上下させる動きが少年の快感を増長させていき、肉を寄せるように両側から臀部を押さえている手に力が入ると、まるで自慰のように、桃肉越しに強く肉棒を刺激していく。
「あ……!ま、また出る……出る……っ!」
 甘い呻き声を上げる其の瞬間も、滑りを欠かさないかのように流れ込んでくる温水によって濡れた温かな桃肉に竿を扱かれ、そして雁首が引っ掛かる感触が心地良く、状況も相俟って少年は呆気なく限界を迎えてしまった。
「や、やぁっ……! や……ン……」
 ウィンは首だけを動かして背後を見遣りながら、其れに抵抗する声を上げようとしたが、言葉が紡ぎ終わる前に既に事は終わっており――寧ろ始まったと云う方が正しい――臀部の谷間を駆けたペニスが脈動を伝播させながら、鈴口から空に向かって精液を撃ち出していた。
 急な放物線を描いた白濁は直後には重力に捕らわれてウィンの腰辺りに降り注がれていく。
 弧を描いている背面の上を凝固した熱が舐める傍らで、力尽きて尻に持たれかかる男根の先、尿道の中から垂れた残りが、嬲られてほんのりと赤く滲んでいる桃肉と其の合間に隠されている菊門までもを汚した。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
 疲労の溜まった少年と、何をどうしたらいいか判らずにただ穢された自身の身体を鑑賞しているウィンの荒い喘ぎとシャワーが床を打つ水音と共に室内に響く中で、点々と撒き散らされた精液が、懇々と流される温水に緩やかに乗ると、やがて彼女の太腿にまで伝い、また谷間をなぞるようにして秘所を裏から撫でる。
「ふぁ……」
 水で薄められたとはいえ、殆ど固形の粘液に摩るように秘唇の先端を触れられて、ウィンが堪らなさそうに嘆息を漏らす。
 太腿で男性器を刺激する所謂素股を少年にしてやってから、ずっと彼女の方は性器を触れられてもパイロットスーツ越しであったし、いざ外気に晒したとしても一度たりとも触れられずに周辺だけは執拗に責められていたせいで劣情が転化した熱は溜まったままであった上に、最初から、そして其の前からも欲情していた彼女にとっては当然の反応であろう。
 妖しく細めた切れ長の眼で、初めて男の欲望の権化を浴びせられてしまった自身の身体と、尻の上で尚も剛直を誇示する肉棒を陶然としている風にウィンが視線を送る。
 ふと僅かに視線の向きを上に遣ると視界の天井で顔を捉えた。
 先程から自身の下半身を犯している、黒ずんでいて大人びたペニスの持ち主とは思えない程に、清純を現すように肌や髪の色が白い少年は、二度に渡る射精で頬を紅潮させきっており、半開きの口からは――只の呼吸でしかないが、ウィンにはそう聞こえてきそうな――より強い快感を望む声を吐き出している。
「し、したいのか……?」
 恐る恐るといった風に、今まで以上の行為を求めているのかとウィンが尋ねると、少年は濡れた瞳から発される視線を確りと絡ませたまま、無言で頷いた。
 彼の後ろでは水滴を飛ばしながら、白い尻尾が左右に振られている。
「じゃ、じゃあ……さっきの事は黙っていてくれるな……?」
「……はい」
 続いて発せられた問いに少年が――短いとはいえ――明確に言葉にして答えた。
 自分自身で劣情していると十二分に自覚しているのにも関わらず、まるで脅されたからしょうがないと言いたげな、他の誰でもない自らに対して言い訳している――ウィンの誘いに。
 そしてウィンは年端もいかない少年を、そして自分自身を此処よりも更に奥へと誘うように、身体を反転させて今度は少年から壁に背を向け、そして水幕の向こうに行くように背中を其処に預ける。
 すると当然の如く――着ていた物を脱いだ時に彼に見られたとはいえ――先程から背中を向けていたために細部まではじっくりと見られる事は無かった身体の前面に突き出ている、または添っている恥部が露になった。
 大きさではスミカに劣るがそれでも豊満で形の良い白い乳房。
 其の上で乳輪までぷっくりと充血して膨らんでいる桃色の乳首。
 髪や眉毛と体毛の色と同じ、色素が薄く、僅かに茂っている真鍮色の陰毛。
 其の下では――矢張り性器を見られる事は殊更に恥ずかしいらしく、手で隠してしまっているが――力なく揃えられているために生まれてしまっている隙間から肌と同じ白い秘唇と、乳房と同じように桃色の陰核が僅かに覗える。
 そんな下半身だけを突き出す格好によって、先程までウィンの頭部を撫でていたシャワーは腹部へと標的を変えて、また背面に付着していた精液と共に下腹部を経由して温水が流れていっているために、”撫でる”というよりは”舐める”へと変わっている。
「……きゃンっ!」
 途端にウィンが子犬や子猫のような声を上げて身を竦める。シャワーの音に紛れてしまっていたが、確かに粘ついた音も鳴っていた。
 少年が挿入の準備として、彼女の手と真鍮色の茂みを掻き分け、性器を愛撫して潤滑剤を溢れさせようとしたのだが当のウィンは彼と眼ばかりを合わせていたために、其の動きに気付かず不意に秘唇の淵を撫でられてしまった事で驚いたような嬌声を漏らしてしまったのだ。
 小動物めいた鳴き声は可愛らしいと表現できるのだが、ウィンにとっては恥でしかない。しかし、今も尚触れられている秘所から脳髄に掛けてじわじわと昇ってくる性感を享受する事に一杯で、声を抑えようという気は彼女には毛先程も無い。
「あ……くぅっ!」
 陰毛に続いて、指が温水で薄まった愛液が纏わり付く秘唇を掻い潜ると、粘ついた音を立てて、ウィンの体内へと侵入を開始した。
 本人は兎も角として、人差し指の先端を挿入した少年にも分かり切っていた事であるが、既に其処は肉襞一つ一つを濡らしている愛液を纏っていた。僅かに指を挿れただけであるが、奥底まで既に満遍なく湿り気を帯びていると――つまり受け容れる準備が出来ている、と推測できる。
「ンぁ……あぁ……っ!」
 しかし彼女の身体が求めていると分かっていながらも、そして自分自身が望んでいながらも、少年は指を引き抜くどころか、膣肉の感触を味わうように更に奥までゆっくりと進めていくと、ウィンが溜息を漏らす。
 それに切なさのようなものが混じっていたのは、疼いていた場所を掻かれた事を待ち望んでいたのだが、物足りないからだろうか。
 だが心が漏らした要求に反し、寧ろ自分から寄り付くように、指の根元を間隔を空けて締め付けており、弱々しくも更に奥へ異物を――客を案内しようとしている。
「あぅぅ……っ!」
 ウィンは甲高い声を上げると、悶え苦しむように背中を壁に押し付けて、力んだ腕を宙でばたつかせた。
 腹の内を指の腹に引っ掛かれた――であるならよかったのだが、摩られただけの優しい感触に真実悶絶しているのだ。
 遠慮しているのか、焦らしているのかはウィンには判別付かないが、膣壁だけではなく、昂奮で張っている乳房や、その先端も表面を撫でられるだけだ。散々煽り立てられているせいで、触れられている箇所は彼の指の指紋の皺まで感じ取ってしまいそうな程に感覚が鋭敏になっている。
 しかし、羞恥も感じるし、体面もあるから本音を正直に言えるわけも無い。出来る事といえば、涙を浮かべた瞳で恨めしげに少年を睨むだけだ。
 細い指を持つ手に恥部を優しく、あくまで優しく嬲りまわされ、それに従うように雨のように降り注ぐ水滴が身体中をつつき、肌を撫でていく。
(も……もう……!)
 股の間を通った水流が指によって二股に別れ、その根元で溢れ出そうになっていた淫液が混じった川が一緒に床を打った時、それを合図とするようにウィンが求める物に手を伸ばした。
 まるで心臓を握り締めたように掌に脈動が波打つのを感じながら、掠れた声を喉から絞り出す。
「お、おねがいだからぁ……」
 ――挿れてくれ。
 肝心な場所は言葉にならず、上目遣いの視線だけで要求を示したとはいえ、浅ましい強請りをしてしまったと省みると、ウィンは羞恥で身が焼かれるような思いであった。
 眼を合わせている間にも、殆ど無意識に少年を煽るように握り締めたペニスを上下にゆっくり扱いているのも、それに拍車を掛けたが、どうしても手を離すことも上下動を止める事も出来ないのだ。
 細く長い指によって作られた輪が雁首を引っ掛けた途端、少年はぴくりと身体を跳ねさせると、肉棒を弄る手を上から覆うようにして強く握って、
「……いいんですか?」
 そう問うた。
 ウィンは自分が握っているのよりも更に強い力で、逃げられないように手を握られ、掌の中の存在感をより強く感じさせられている。
 まるで
 ――これがお前の中に入るんだぞ。
 そう宣告されるように。
 元々逃げるつもりは無く自発的に握ったとはいえ、手の中で篭る熱で火傷してしまうのではないかとさえ思えたので、ウィンは火傷から逃れるために、挿入されている指をふやけさせてしまいそうな秘所と同じように濡れた瞳をしっかりと少年の眼に合わせて、一度だけゆっくりと頷いた。
 それは彼の問いへの返答でもあり、また彼のモノが発する脅しを受け容れるものであった。
 だが、少しだけ怖れがあったからだろう。一つだけ、要求を伝えた。
「……優しく……頼む……」
 それを受け取った少年が頷くと、ウィンの股の間に向かって一歩進む。
 但し、前置きのような性器を宛がうような段取りは無かった。彼が近寄る間もウィンはずっとペニスを握っており、そして自ずから、その穂先を指の抜かれた自身の秘唇に向けていたからだ。
 先程の自省や嘆願は何処へ行ったのか、背中を壁に擦れさせながら急かすように腰を落として、性器同士を触れさせる。
「ン……」
 垂れ流れていた淫液が交じり合った粘音が立つのと、二人は殆ど同時に喉を鳴らしたのは同時であった。
 しかし、ウィンはそのまま中へ入れることはせず、そこで一旦手を離す。
 口封じの為に仕方が無く行為を行なうという建前を守るためであろう――少年が腰を押し出しているのを、そして接合部に熱い視線を送っているが。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
 どちらのだか判別の付かない吐息が交じり合う中で肉棒が蜜壷の中に徐々に挿入されていく。
 エラを張っている雁首に広げられた肉壁は入り口こそ狭かったが、いざ亀頭が半分を過ぎると其処から雁首までを一気に――段差の落差もあるだろうが、愛液が充満しているせいもあって――確りと咥え込んだ。
「あ……はぁっ!」
 ”返し”の役割を持つ雁首が、まるで歯車同士が嵌まり合うように膣口の裏側に引っ掛かると、ウィンは僅かに顎を上げながら強く眼を瞑った。痛みを堪えるかのような表情であるが、開かれた口から漏れた声は甲高く、甘い。
「う……くっ……」
 そんなウィンと同じように少年も苦悶の表情で声を漏らしたが、彼女とは逆に顎を引いた俯く格好で性感を遣り過していた。しかし、敏感な亀頭が埋もれた膣内の具合を有りのままに彼に伝えているせいで、下げた頭を上げられそうにもない。
 ウィン自身の希望に反して拒んでいるとさえ思えるほどに膣口はきつかった――少年は根拠は無いが彼女の性格などから、セックスをあまりしていないのだな、と予想した――だが、侵入を終えた先端は、その過程とは裏腹に突如として膣肉に愛でるように撫でられ、またペニスを二つに分けた場合、その結合部となる箇所は、きつく締め上げられている。
 その感触の差や、知人だが其処まで親しくない女性と性交をしている、そして恋人であるスミカに隠れて其れを行なっているという背徳感も快感を手助けしていることで、少年は動きを止めてしまっている。
 すると何時の間にかに彼の首元に回されていたウィンの手に――今は結合し合っている性器同士がそうなるように導いた――力が僅かに籠められた。
「ンン……っ」
 縋るように少年の身体が引き寄せられる拍子に僅かだが、結合がより深まり、ウィンが悩ましげな声を漏らすと、更に手に力が入って、細い首元に指が食い込む。
 少年が顔を上げると涙を薄っすらと浮かべたウィンと眼が合った。
 羞恥のせいか、快感が過ぎるせいか、彼女は口を開かないが、望んでいることだけは確かに伝えてきている。
 其れに応えるように、少年は眼を合わせたまま、挿入を本格的に始める意思を見せるため、彼女の腰をがっちりと掴むと、彼の眼に力が入ったのを見て不安になったのか、
「や、やさしくだからな……ゆっくり……頼む」
 ウィンは更に念押しをした。
 正直な所、其の事は失念しかけていたので、少年は彼女に、そして自身が確認するように「はい」と短かったが、確かに答えた。
 そのような佇まいを直すような間を置いて、口中に溜まっている緊張のせいで粘ついた唾液を少年は流し込んでから、前方に向かって、腰を中心にして体重を掛ける。
「あっ……あぁ……」
 肉の穂先がゆっくりと閉じられた膣道を押し広げていく。其の最中に生まれる段差と竿の間の隙間は、同じ形を保とうとする肉壁の圧迫によって直ぐに埋められていく。
 陰茎が外に露出している箇所が短くなっていく度に、体内に押し入られているウィンは、針の穴に糸を通すかのような慎重さを持っているために限りなく遅い抽迭の速度に似た緩やかな声を漏らしながら、顔を上げている。
「はぁ……はっ……」
 ウィンが優しくと要求したのは、久しく男のモノを受け容れていないため、急激な侵入で膣内に裂傷を起こしてしまうかもしれないと怖れていたからだ。想像以上に少年のが大きかったというのもあるだろう。
 しかし、此の遅さは想定外であった。
 云うまでもなく、狭いとはいえ膣というのは隙間がある。だが彼の侵入の仕方は、まるで山を切り崩し一からトンネルを開通させていくような慎重さなのだ。
 注射と同じように息を吐きながら、強い刺激を受け容れるつもりであったのだが、半分も行ってない時点で息が足りてないぐらいである。
 そうなると少年と眼が合うのも長くなってくる。
 だからウィンは――勿論、性感のためでもあるが――真っ直ぐに向けられる劣情の視線から逃れるように顎を上げている。まるで膣の肉襞一つ一つの具合まで具に調べられているような状態で眼が合うのは、余りに羞恥が強かったのだ。
「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」
 持続的に続く刺激によって、酸素を取り込んだ傍から吐き出してしまうので、ウィンの呼吸は激しい。
「はぁっ……はあっ……はっ……!」
 しかも肉棒がより奥まで分け入ってくる度に、性感は強くなっていくので、比例して呼吸もより激しくなっていく。
「はっ、はっ、はっ……くはっ!……はぁっ」
 呼吸は犬のようになっていて、もどかしさで勇み足で垂れ流れた愛液が、まだ埋もれていない竿までもを濡らす。
 そして最奥部までの距離も指の爪程度の残り僅かな距離に――今までのペースを考えると、まだ時間が掛かりそうな、でももう少しだと思える場所――辿り着いた途端――
「――はっ……うぅぅ……ぅ……っ?!」
 ウィンは身体を一際強く仰け反らせ、其の拍子に濡れた喉元を全て曝け出し、乳房を揺らしながら、湯煙でぼやける天井を、白く点滅する視界で仰ぎ見た。
「……くうぅ……はーー、はーー、はーー……っ」
 腰を突き出した体勢のままで硬直している細い身体が時折痙攣を見せる。
 突如訪れた急激な刺激によって、彼女は軽目であったが、性感の終着点に至っていた。
 股間を中心に支えられているから崩れる事は無いが、膝はがくがくと震えており、未だに眼は焦点が合っておらず、無意識に開かれた口からは喘ぎが漏れている。
 雲に乗っているような、いや、自身が雲と化したような浮遊感の中、秘所から噴出した愛液が雨の雫となって、繋がっている少年の股を汚す。
 「ウィンさん」
 心地良い余韻の中で名前を呼ばれ、思い出したように自身を絶頂に至らしめたのであろう少年に少し意識を向けると、何時の間にかに、互いに突き出している下半身同士が確りと隙間無く密着している事に気付いた。
 また先程の絶頂が膣の終点の寸前で、彼が一気にペニスを送り込んで来たのだろうと予想し、”そうされる”と”こうなる”のかとぼんやりとウィンは考える。
 抽迭の最中ならまだしも、挿入の時点でそんな緩急を付けられるような事は今までに彼女は体験した事が無かったのだ。
 自身の隙間がみっちりとはち切れんばかりの熱を包んでいるのに、そして其れが自分を奥底までをみっちりと埋め尽くしている事に気付き、震える下顎を押さえ込んで生唾の塊を嚥下してから彼の眼に応対の視線を送る。
「ウィンさん……すごく、綺麗です」
「なっ……!何を、言って……!」
 蕩けた眼と惚けた声で突然に賛美の言葉を聞かされ、ウィンは狼狽して眼を逸らす。
 こんな状態で面と向かって、そんな事を言われて気恥ずかしかったというのもあるが――聞いた瞬間に胸が高鳴ってしまったのだ。寧ろ其方の方が彼女にとっては恥ずかしいものであった。
 それに照れたとかそう云った意味ではなく、真実、羞恥を感じてもいた――何故なら、鼓動が大きく鳴った瞬間、今も尚、性感が走り続けている先にある子宮が疼いたような気がし、そして無意識に蜜壷が痙攣して肉棒を締め上げてしまっていたのを感じたからだ。
 恋人同士が逢瀬を重ねているような感覚に捉われるも、ウィンは直ぐ其れを否定する。
 掛けられた言葉は快感を強めるためだけのものでしかないと。
 何せ彼にはスミカがいるのだから。
 しかし少年の方はそんなつもりではなく――確かに其の意図も少なからず在ったのは事実だが――あくまでウィンに乞われた”優しく”という意味のものであった。
 彼の中では、人を――特に女性に関して――”優しく”扱う事は、ガラス細工のように丁寧に扱うという以外にも、愛でる意味合いが強いのだ――勿論、身体を重ねているからというのが強いが。
 しかし、ウィンにとっての”優しく”は単に乱暴な事を避ける意味合いだけであるから、両者の意図は確かに重なりつつも齟齬がある。
 「あっ……ンン……」
 頬を赤らめているウィンが顔を逸らしていると、少年が腰をゆっくりと引き始めた。
 そうなると当然、根元まで埋まっていた陰茎も充血して張った雁首で肉壁を引っ掻いていく。挿入した時と同じような緩慢な動作であるため、ウィンの感覚は鋭敏が極まっており、殊更に強くなる性感によって蜜壷が物欲しそうに蠢いて男を奥へと誘うが、拒むように少年のモノは遠ざかっていくと、相反する其の動きによって、性器同士の摩擦が強くなる。
「あぅ……やぁあ……」
 やがて充満していた膣内も隙間が戻ると空虚感さえ感じて、ウィンは寂しげな声を上げる。また結合を解いてしまうのではないかと思える程にペニスが引いていって、淫液に塗れた竿が全て露出したのに加えて、先端部までもが覘け、我知らず泣き出しそうな眼で子供が駄々を捏ねるような声を上げてもいた。
 其のか細い声を聞いたからか、膣口の裏に段差を引っ掛けた状態で少年は腰を止めると、また彼女の中に分け入って行くと、
「はぁぅ……」
 ウィンは満足そうに溜息を漏らした。
 しかし、既に彼女の中は一度広げられているために、また愛液の潤滑もあるので、先程よりは滑らかなのだが、矢張り其の動きは非常に緩やかなままだ。
 正直に云って、ウィンは先程までのは”慣らし”だと予想していたので――そうであって欲しいと思っていた――破瓜したばかりの処女を労わるような、抽迭とは到底呼べないような速度は余りに物足りなず、じれったそうに声を漏らしてから恐る恐る口を開いた。
 「焦らさないで、くれ……」
 顔を真っ赤にしたウィンに非難された少年だが、そんなつもりはなかった。
 では、どういうつもりであったかと云うと、矢張り彼女の言いつけどおりに、あくまで”優しく”である。
 とはいえ、涙を浮かべた恨めしい眼で見られれば、悪い事をしてしまったかと思いつつも、先からの嬌声の上げ方もあって、
(意外と素直な人なんだ)
 そんな感想も抱き、ウィンへの印象も僅かに変わるところがある。
 しかし”素直”であるというのを良く思い返してみると、中々に蠱惑的な事であり、昂揚感が高まるのだった。
「もっと……ンっ、もう少し……激しく、して……」
 普段のウィンの口調から考えるに、語尾に”くれ”がある筈だが、喉が詰まったせいだろう。何処かに掠れて消えてしまい、少女がするような懇願だけが彼の、そして本人の耳にも残った。
 瞳を潤ませながら、そして蕩けさせながらの殊勝な要求は少年の昂りに拍車を掛けていた。
 そう、彼女は先程から素直に、実に素直に快感を求めているのだ。
 平素からクールで知られる、年上の、美麗な女性にそんな事を言われては、少年の最初に言われた事を守ろうと云う意思も成りを潜めていく。互いに劣情で細くなっている眼を合わしながら、腰を掴んでいた手をするすると下ろし、濡れた太腿に緩やかに這わしていく。愛撫されている感触にウィンが身体をひくつかせている中、撫でつつ脚の裏の方に持って云った手を臀部に近づけると――ふっくらとした肉を掌で掴んだ。
「ひゃあぁンっ!」
 尻肉を鷲掴みにされたと思った瞬間、少年が其れを支えに一気に腰を突き上げた。中程まで挿っていた肉棒に膣を奥まで押し広げられた事でウィンが身体を跳ね上げさせながら――乳房が一歩間を置いて追う――高らかに嬌声を上げる。
「やぁっ! 奥……奥ぅっ! ……あぁ……」
 子宮口に鈴口をキスさせるように密着したまま腰を力強く押し込まれて、踵が僅かに持ち上がり、身体が落ちる度に接したままの亀頭に奥底がめり込んで行くと、矢張り遅れた乳房の下部が身体に当たって、肉同士がぶつかり合う音が小さく鳴る。
 そして温かな肉壁に包まれる感触を名残惜しむようにペニスがゆっくり抜けていって、ウィンが先程と同じく寂しげな溜息を漏らしていると、やがて挿っているのが先端だけになった所で、
「ンンンンっ!」
 再び膣内を荒々しく駆け上ってきた。
 離れるのを寂しがり、触れ合うのを悦んでいる――事実、突いた直後に少年もウィンも嬉しそうな声を上げる――ゆっくり抜けて行っては激しく挿っていくという緩急が付けられたものや、
「あっ! あっ、あぁンっ! はあンっ!」
 今この瞬間も流れ出ていて、そして膣壁と男根に纏わりついている愛液が攪拌される音を態と大きくするように膣の半分辺りを境に早く何度も反復していく抽迭を織り交ぜられて、ウィンは堪らないと言いたげな甘い声を止め処なく開かれた口から垂れ流しながら、少年の首元に回している腕に力を込めて縋るように抱きついた。
 二人の身体の間で豊満な乳房が押し潰れるが、情欲が凝り固まったような先端が彼の身体を小突く。
「ふあっ……あぁーー……っ、ンぁ……あ……」
 少年の肩に顎を乗せ、自身の真鍮色の髪を少年の純白の髪に、火照って頬同士を触れさせながら、乳房や乳頭を彼のそれなりに引き締まっている胸部に擦らせ、堪らないと云ったような甘い色を伴う風で耳朶を撫でる。
 すると彼はゆっくりと頭を回したり、身体を捩ったりしてウィンの腕と、頭を払うと真正面から顔を向かい合わせるようにしたので、ウィンが不思議そうな表情を浮かべていると、すっと顔を寄せてきた。
 キスをしようとしているらしい。だがウィンは唇が触れ合う其の前に声を出した。
「や……それは……キスは……駄目、だ……」
 既に性器同士を擦り合わせるセックスをしているのだから、キス程度、どうと云う事もなさそうであるのだが、ウィンは其れを最後の歯止めにしたかった。
 自分達は恋人同士ではない上に向こうには相手が居る事もある。
 そしてキス程度をしない事で、其処に殆ど失いかけている理性の最後の砦、自分は肉欲に溺れていないと云うなけなしの言い訳を求めている。
 だが少年にウィンのそんな心中が分かる訳もない。
 更に悪い事に、彼は優しくするためにはキスをすべきだと考えているのだ。現時点で殆ど履行されていなくなってしまった約束を出来る限り守ろうするために――そして熱い吐息が吐き出されているシャワーの湿気で怪しく濡れる唇と、其の奥から覘けている舌に惹かれて。
「駄目だと……言ってる……」
 顎を上げてくる少年に対してウィンは拒否の言葉を上げるが、語調は弱々しく、また顔を逸らしたりするなどの抵抗を見せる事もなく口許に視線を浴び続けるまま。
 そして彼も同じ場所に視線を感じている。
 二人の周囲に立ち込める熱気よりも熱い吐息の輪郭が段々と重なり合い、交じり合っていく。
「駄目……だめ……」
 そしてウィンがそう言うと、半開きの唇同士が触れ合って互いを押し潰し、間髪居れずに密室の中で突き出された舌が絡み合った。
「ふぅ……ンン……ンむぅ……」
 先程の言葉も何処へ行ったのか、少年がそうしているのと同じようにウィンは彼の唇を愛おしそうに――貪っている。
(駄目、なのに……だめ……なのにぃ……)
 そう思えば思う程に自身の舌を唾液に塗れた舌先が撫でる触感と、味蕾に触れた唾液の味で舌から果ては咽頭までが甘く痺れ、口蓋に木霊する粘音が頭蓋骨に染み渡って脳髄を緩やかに蕩けさせていく。
 フレンチ・キスというよりは最早舌という器官同士による愛撫の様を呈しているせいか、もっと分かり易い性交である抽迭の方の動きはやや単調になっている。だが抑えが利かなくなったのか、ウィンが自ずから腰を遣い出している。
「むぅっ! ……ンンぁっ!」
 抜き差しする肉棒に自身の鋭敏な場所を甘えるように擦り付けていき、抉られると、塞がった口の隙間からひしゃげた嬌声が漏れ出る。
 回している腕で、舐り回す舌で、前後する腰で。
 全身で以って絡み付いてくるウィンの痴態に中てられた少年は口腔の中で舌を、彼女の尻や太腿を、身体の隙間で潰れる乳房や自身を突いてくる乳首を手で滅茶苦茶に嬲りながら、抽迭のストロークを大きく、そして強くすると、
「ンあぅっ! ンンーーっ、ンンっ、ンっ!」
 ウィンは一気に全身を弄られ、突かれる快感が御気に召したらしい。甘い喘ぎを口腔に響かせて、嬉しそうに身を捩った。まるで嬌声が褒めの言葉のように感じた少年は、もっと其れを聞きたくなって増長する。
 撫でるだけだった乳首を指先で摘んで扱いたり、抽迭に変化を加えたりと云った風に。其の度にウィンは如実に反応を示した。
 また特に彼女が気に悦んだのが、肉棒を根元まで挿れて尻を掴んで引き寄せてから、密着した股間に触れる突起に刺激を加えるために腰を回した事であった。
 「――ンっ、やぁぁぁっ!」
 陰核を股間で押し潰されたまま回されるのに加え、膣を拡げるように掻き回され、更に奥にペニスを捩じ込まれた事で、口を離しながらウィンは高らかに甘美な鬨の声を上げた。
 途端に膣肉がうねり出し、肉棒が粘土の増した愛液に包まれて、身体ごと痙攣を見せる――絶頂に至ったらしい。
「――っうぅぅ……!」
 より刺激の増した中の感触に肉棒も、精神も少引き摺りこまれそうになって少年が呻き声を上げつつ、其れに耐える。停止したのは、ウィンが果てたばかりだから少し休憩を入れてあげようという題目を添える事で――とはいえ身体中を駆け巡っている快感を過ぎさせようと、曲りなりにもリンクスであるので肉体が鍛錬されている彼女に、力強くぎゅっと抱きつかれてしまっては僅かなりにも動くのも難しい訳であるが。
 そしてシャワールームには水の流れる音だけがするだけになった。
「はぁ……はぅ……ふ……っ!」
 キスをする前の少年の肩に頭を預ける格好になっているウィンが余韻を疲労の喘ぎと共に吐き出している。
 其れを聞きながら彼は、あのまま動いて自分も果ててしまっても良かったのではないかと、今更ながらに思いついたが既に後の祭りであった。
 どうやら彼女もそろそろ落ち着きを取り戻しているらしく、段々と呼吸が整っている。
 そうなると今度は果てたウィンに対して、尚も滾ったままでいる自分のモノをどうしようかと考え始める。
(でも、いいか……な)
 聞くところによると冷艶な美貌と其処から想像も出来ない戦果を上げている事からファンのようなものが多いらしい――以前に一度協働した際に知り合いになった、とあるリンクスから其れを聞かされた上に、其の本人も高らかに演説していた――ウィンの痴態を見れた、というより性交までしたのだから充分だろうと――いや十二分だろうと、少年が思っていると、
「はぁっ……ン……」
「むぅっ?!」
 俯いていた彼女が顔を上げたと思ったら、何と向こうから唇を重ねてきたので驚く声を上げた。見開いた眼が何処を見ているか分からない程に焦点の定まっていない蕩けた瞳を捉える。
 しかも直ぐに舌を入れて、絡ませたりもしている――更に少年の脹脛に片足を絡ませて、其れを支えにして先の絶頂を迎える前よりも大胆に腰を遣っている。
 そうなると依然勃起しているペニスは兎も角として、冷静さを取り戻していた心も蛇が鎌首をもたげるように昂ぶりが徐々に戻り始めると、其れに呼応するかのように彼も腰を最初はゆっくりと、そして段々に加速していくと云ったように前後させていく。
「はぁンっ、ンンっ、ンぁンっ!」
 水の流れる音だけがしていたシャワールームに、其れを掻き消す程に強い、肉同士が弾け合う音と、淫液が混ざり合い攪拌する音、甘い溜息めいた嬌声が戻る。
 今度は自分も果てるのだと示すように――一応、相手も感じさせようとして柔らかな身体を弄ったり、抽迭にある程度の緩急は付けている――少年が荒々しくウィンを突き上げていると、或る事に気付いた。
「-――ひゃうっ……ンンっ! ふぁっ……!」
 顔面を擽る吐息や鼻息は荒いのだが、彼女の嬌声が俄かに小さく、また舌の絡みも大人しいのだが、蠢いている下顎によって、弱くだが舌先に硬い歯が当たっているのだ。
 まるで何か喋っているようなので、酸素の補給がてらウィンが何か言いたい事があるのかと思って少年は口を離してみる。
 ――固くて、大きいのぉ……きもち、いぃ……!
 そう言った直後、ウィンは心地良さそうに閉じていた目蓋を開けて、驚愕の表情を浮かべている彼の顔を見た――気の抜けていながらも同じように驚いた顔で。
 完全に形を成してしまっていた言葉を聞かれてしまったのだと気付き、ウィンは羞恥によって今日の中でも最大に――なんなら人生という枠の中に当てはめてもいいぐらいに――此れ以上無い程、うなじから耳朶といった端まで頭部を真っ赤に紅潮させた。
「ンンっ!」
 そして彼の唇が動きを見せた瞬間、ウィンは頭突きをするような勢いで以って少年の唇を奪った――もとい、塞いで舌が回らないように彼の口腔に自分のを押し込んだ。何かを言う前に。
 前歯が相当な勢いで衝突したため、かなりの痛みが奔ったが、そんな事よりも其方の方が苦痛であった。
 唇が塞がっているのをいい事に、くぐもった溜息のような嬌声に化けさせていた筈の、厭らしく淫らな言葉を聞かれてしまった事の方が――そう、正に自身の蔑称である”ブラス・メイデン”に相応しいような言葉を。
「むっ! むうっ!」
 痛いのか、それとも何か言いたいのか、少年が声を上げようとしているが――言葉になっていないだけで実際は言っているのだろうが――ウィンが口を離す事は無い。寧ろ、もう顔を離されないように彼の首元にあった腕を背中にまで伸ばして、更に身体を引き寄せている。力一杯、抱き締める姿はまるで中世の拷問器具の一つである”鉄の処女”のようだ。
 殆ど隙間の無くなった二人の間に更に勢いが強くなった水流が当たる。
 先ほどウィンが腕を伸ばした時、肘が円形の周が掴めるように凹んでいるバルブに当たっていて、シャワーの水圧を最大にしていたのだ。
「ふぅンっ! ンンっ!」
 ウィンは先の羞恥のため早々に終わらせてしまおうと、また終わってほしいと、絡ませている脚の位置を高くして腰を更に前後させる。
 少年も追及するのを諦めたのか、ウィンが引っ付いているせいで乳房を揉むのを諦めて、両手を尻に遣って抽迭の速度を速めている――但し、淫靡さに満ち満ちていたウィンの言葉を頭の中で反芻してはいるが。
 更に云うとウィンの方は殆ど自棄になっていた。
 彼を絶頂に導こうとして自ずから膣を締め付けて腰を振っているのは兎も角、自分を果てさせるため、
(いいっ!ペニス、気持ち、いいっ! 突いて……もっと、もっと突いてっ!)
 シャワーの音が大きくなったのをいい事に、より淫靡な言葉を心中で、そして其れの成れの果てを塞がった口から高らかに上げているのだ。
 そんな言葉を恥じらいも無く上げてしまう、完全に肉欲に溺れてしまった自分を蔑む背徳感が更にウィンを、少年も細かな内容までは分からないとはいえ彼女が言うとは思えないであろう事を言っているのだと想像する事で二人の性感が一層に増していく。
「ンううっ! ンむっ!」
 やがて少年がくぐもりながらも切羽詰った声を上げて、ウィンの尻を掴んでいる手の力を強くしながら、抽迭を更に速くする。
(イク、イク、イクっ! 出る! 出るっ!)
 叫ばれた呻きは床を打つシャワーや、お互いの下半身が打ち合う音、愛液と腺液が交わった淫液の攪拌音に消される以前に心中で吐き出された物なのだからウィンに聞こえる訳も無いが、潰れた音となりながらもウィンに限界を伝える為に何度も出される。
 
「ンっ、ンっ、ンっ、ンンっ! ぅうンンっ!」
 だが同時にウィンも絶頂が近付いていることで腰が震えて身体が崩れ落ちそうだ。絡ませている脚を下ろせばよさそうな物だが、尚も確りと絡めたままで力みも加わって震えが強くなっている。
 だが逼迫した声からは想像出来ないが、一応狂ったようになった腰遣いから少年の状態は理解している。
(出される……中に、出されてしまう……中に……中にぃ……!)
 其れが危険だと分かっていて、離れなければいけないと思いつつも、まるで身体が云う事を聞かず――寧ろ彼の身体を更に強く抱き締めてしまっているのは、期待しているのを知覚しているからか。
 ”このままでは恥ずかしいから終わらせたい”と云う、或る意味で彼女の理性的な判断によって激しさを増した行為は、そんな彼女の背徳感に塗れた欲求によって一線を越えた――。
「――ンむううぅぅぅーーっ!」
 ウィンが離れてくれる事を期待しつつも、決して自ら彼女を振り解こうとはしなかった少年が其の一線を越えるように身体をあらん限りの力で突き上げると、収縮していたヴァギナを暴力的に押し開きながら抑制の利かぬ白濁を尿道から勢いよく噴出していく。
「ンンンーーっ!」
 粘ついた水流を奥底に叩き込まれたウィンは無意識に腰を遣い、深い所の天井に最高潮に張り詰めた先端を押し付け、痙攣の強くなった肉襞にペニスを撫でさせて更なる射精を促し、彼女の中はそれから数度吐き出された精液と多量に分泌された自らの淫液によって熱く満たされた。
「は……あぅっ……はあ……」
 絶頂の瞬間は張り詰めたウィンの身体が力を失って、背中を壁に預けてずるずると崩れていくと、硬直していた唇が離れて二人の舌が一瞬粘性の強い糸を紡ぐもシャワーによって直ぐに切られ、空気の抜ける音と共に性器同士の結合も解かれた。其の抜けていく間に、擦られたペニスが残りの一塊を吐き出すと、シャワーの水流の水滴を弾き飛ばていく。
「……出され、ンく……イっ、ちゃ、った……」
 最後の精液が濡れた床に尻餅を突いて荒く身体全部を使って喘ぎながらも、浮ついたように蕩けた言葉を吐いているウィンの乳房に薄まりながらもべっとりと張り付く。
「ひゃっ……あぁ……ぁ……や……また……またぁ……」
 絶頂の余韻で収縮している膣が入り口から粘つきのある様々な淫液の混合液を吐き出す感触にウィンが声を漏らし、会陰を伝って其れが尻の下の水溜りに流れていった。すると秘所から淫液とは異なる透明の液体が流れ出す。
「だめ……だめぇ……とまら、な……」
 果てた直後で身体が緩んでしまったせいだろうか、そして力が入らないのだろうか、またもウィンは少年の前で放尿してしまっている。だが彼女の状態とは打って変わって、最初こそ弱かったものの次第に勢いは強くなりだして弧を描く程になった。
 せめてもの抵抗か、ウィンは膝を閉じたが矢張りそれでも止まる気配は無く、勝手に勢いが弱くなるまで其れは続いて、やっと止まった頃、
「はぅ……」
 不本意ながらも、全身を悪寒が奔っていく心地良さに声を漏らした。
 淫液も小水も流れるシャワーの勢いによって、排水溝に渦を描いて吸い込まれていく。
 まるで今あった事を無い物とするかのように。
 それでも――やがて洗われてしまうのだろうが――背中を壁にもたらせて惚けたように座るウィンの、呼吸と共に上下する乳房には性交の証明が残っている――。
 「今日の事は……スミカには秘密だからな」
 性交の後、身体を洗って服を着替えた二人がベンチに座ると、ウィンがそう切り出した。
 快感の後に訪れたのは虚無感と――後悔である。
 しかし、悔いても過ぎてしまった事である以上、そうするしかなく少年は黙って首を縦に振った。
 今回の事が露見して最も困るのは彼であろうから、其れも当然だ。
 訪れる沈黙が気まずく、酷く鬱積したような顔でウィンがロッカールームを出ようとすると、
「あの……すみませんでした……」
 少年が俯きながら、そう言った。
「いや……その……まぁ、うン……」
 だが熱に浮かされた行為の仔細は殆ど二人の忘却の彼方とはいえ、明らかにウィンにも責任はあるが――認めたくなかったからか、彼女にしては似つかわしくなく、曖昧な言葉で有耶無耶にして部屋から去っていった――。

作戦場所から少年のアジトまでは遠かったため、日も変わった頃にようやっと彼は、整備士とストレイドと共に輸送機を降りた。互いに部屋に篭っていたために、勿論、ウィンとはあれ以降機内で顔を合わせる事は無かった。ただ彼女のオペレーターから「スミカさんに宜しく」と二人分の言伝を頼まれただけで。

また肩や首を回しながらタラっプを歩いていく整備士の、
「やー、ウィンちゃん。相変わらず可愛かったねー」
「そうですねー」
「あたしもあんなクールな美人になりたいなー」
 などと他愛も無い話を聞いていると、非常に胸が痛む思いであった。
「ンンっ……よし」
 そしてある部屋の前で少年は力んで”平素”を装う準備をしていた。
 だが要するに普段どおりで居ればいいのだから、意味の無い、下手したら逆効果な心構えである。
「スミカさん、帰りました」
 そして至っていつも通りに――つもりで――そう言いながら、扉を開ける。
 するとベっドの上に膨らみが、と云うよりはスミカが寝ていたので、緊張した面持ちで一歩ずつ近付いていく。
「スミカさん?」
 寝てるのかと思い、小さくした声を掛ける。
 すると、蹲っていたスミカが急に起き上がったかと思うと――
「わぁっ!」
 ベっドの上に引きずりこまれていた。
 何故か背中に湿気を感じつつ、落ち着いた視界の中で彼の眼に入ったのは、自分に跨って見下ろすスミカの姿であった。
 
「……スミカさん?」
 しかし、再度声を掛けても反応は無く、無言の威圧感や、差にもう一つを感じていると、スミカの手が少年の身体に伸びる。
「な、なに……ちょ……あ」
 其の手がベルトに掛かったため、少年が驚いた声を上げる。
 其処で彼は思いだした。スミカは生理の後に――”来る”タイプである事を。
 更に例の重い症状で数日の間、二人はセックスをしていないのも相俟って、今の状態という事だ。
 少年がそれなりに納得したような心持ちになっていると、既にズボンを脱がし終えたスミカがぽつりと口を開いた。
「ウィンディーとヤったのか?」
「なっ……なんで……」
 ――分かったんだ。
 とは流石に言わず――言いそうになったとはいえ――咳払いをしてから、
「そっ、そんなこと、言うんですか」
 口振りでは心外だとばかりだが、実質的には、応えるのを曖昧に拒否した。
 多少、吃っていたが仮にやましい事がなかったとしても、いきなりそんな事を詰問されれば、男なら誰だって動転するものである。
 するとスミカは無言のまま、トランクスから離れると、ボタンを外して彼のシャツを脱がせ始めた。
 矢張り少年も鼓動を高鳴らせながら無言で其れを見守っている。
 やがてスミカがシャツを開いて、露になった上半身に顔を近づけて、二三度、鼻で空気を吸い込んでから、少年の顔を見る。
「……ウィンディーの臭いがするぞ」
 ――ウィンの臭いが分かるのか。
 ――身体は洗ったはずなのに。
 ――引っ掛けかもしれない。
 様々な憶測や思考が一斉に頭を埋め尽くし、少年は全身から冷や汗と脂汗を流した。
「いえ……あの……」
 どう答えたらいいもの迷っている少年が口篭る。
 スミカはそんな彼の反応を一瞥してから、無感情に言った。
「まぁ、数日分堪っている筈だから、一回”出してみれば”分かるか」
 そしてトランクスの前からペニスを取り出すと少年の身体に跨り直して、何故か既に隠す物の無い秘所を宛がい、淫音を立てるのだった――。
 インテリオル本社で、ウィンが担当のオペレーターとネクストの整備状況や今後の依頼の事などを話していた時であった。
「――ん。誰から……だっ」
 ポケットの中でポータブルが着信を知らせたので、手に取って見ると、スミカの名前が表示されていた。
 明らかに動揺した声にオペレーターが怪訝そうな顔をしたが、其れを無視して電話に出る。
「……もしもし」
『ウィンディー、私だ。久しぶりだな』
 元々、二人は師弟の間柄であるので私的な電話番号も知っているが、其処は二人の性格上、電話する事など滅多に無く、まともに声を聞くのは一回目の協働以来である。
「ああ、久しぶりだな」
『この前の事だがな。どうだった?あいつは上手くやれていたか?』
 其れを聞いてウィンの額から汗が流れ出る。
 オペレーターが心配そうな顔で見ているが、気付かない振りをして、平静を取り戻すように頭を振り上げる。
「……ああ、彼は中々いい動きをしていたぞ。私見だが、ランクの半分より上なのは確実だ」
 本当に思ったことを述べたので、不自然なところは無い筈であると彼女は思いながらも、内心かなり動転している。
『そうか、ランク3に其処まで言われるなら確かだろうな』
 ――上手くいっている。
 ウィンが確かな手応えを感じた瞬間。
『だがな、ウィンディー。私が聞きたいのはそっちじゃない』
「なんのことだ……?」
 吃もりこしなかったものの、其の口調は硬直の極みであった。
 するとスミカは少しの間、無言になった。
『ウィンディー、ウィンディー……ウィン・D・ファンション?』
「な、なんだ?」
 まるで愉しんでいる風に名を何度も呼ぶスミカにウィンは恐怖めいたものを覚える。
 更にスミカは溜息を吐きながら、ゆっくり言った。
『私が聞きたいのはな、ウィンディー?そんなありふれたとぼけじゃないんだ。そうだな、具体的に言うなら……』
 ――パイロットスーツで素股したりして、
 ――または挿れられたままクリトリスを潰されたりして、
 ――挙句には”固くて、大きいのが気持ちいい”なんて叫びながら、イクのはどんな気持ちなんだと聞いているんだ。
「――っ」
 ウィンの顔色が血の抜けたような真っ青になった。
『どうしたウィンディー? 今言ったのに間違いでもあったか?』
 正しいとはいえ、勿論、そうだと答えられる訳も無く、ウィンは押し黙っているとポータブル越しのスミカの声が遠くなった。
『間違っていないよな。ん? どうなん、だっ?!』
 厳しく詰問するようなスミカの声の後、矢張り遠くから悲鳴のようなものが聞こえた。 『……間違っていないそうだが、どうなんだ。ウィンディー?』
「や……あ、いや……その……」
 どうやら少年に聞いたらしく――というよりは尋問、もしくは拷問によって聞き出したのだろう――述べた事には間違いが無かったが、どう言い訳したらよいものかとおどおどと口篭っていると、 
『――どうなんだっ!』
 大声で怒鳴られて、正否を問われた。
 ウィンはスミカの弟子であった時分を思い出し、それは素直に答えることになった。
「……はい」
『そうか。で、どうだった、私の男は?良かったか?』
「……はい」
『聞いたところによると、お前は三回程イったそうだから、それはそうだろうな。ああ見えて、意外と”大きかった”ろう?』
「……はい」
 黙っても、口答えをしても叱られるのは身体に染み付いているのでウィンは粛々と答弁をする。
 決められた短い答えを。
 当然、まだ怒り心頭であろうが、スミカはウィンの様子にふんふんと満足そうな声を上げると、とんでもない事を言い出した。
『それで取引だがな、今回のお前の取り分――全部寄越せ』
「……は……え?!な、なんだそれは!」
つい慎ましく答えてしまいそうになったが、自身の報酬を全額渡すことなど承服出来ないので、異を唱える。
『別にいいだろう。お前は私達のような独立組と違って、企業専属だから整備士やオペレーターの給料、それに必要経費なども向こうから出てる。つまり純粋にお前の取り分だけを寄越せと言っているんだ』
 スミカはスミカで何か問題があるのかと云った風に論じたが、ウィンも金に其処まで執着は無いとはいえ、報酬が無くなるのは嫌だった――ウィンの貰っている金額からすれば、非常に慎ましいものだが、今月は少し、ちょっとした物を買いすぎてしまったのでキツいというのもあるが。
『断るのか?』
「当たり前だ!」
『ふぅん、そうか』
「な、なんだ」
 スミカの何かを含めたような言葉に危険な物を感じ、ウィンが強く出れなくなる。
『お前、忘れてないか』
「……なにを」
『お前とアイツの内容を、私は知っているんだ。其れこそ、事細かにな』
「そ、それがどうした」
 そう強がったものの、実際は恥ずかしい限りである。
『だからな、私は其れを”ヤツ”に教えてやろうと思っているんだ』
「誰の事だ。それに他人に言うな!」
『”ヤツ”だよ、”ヤツ”。お前も知っている奴だ』
 「誰だって言う、ん、だ……」
 ウィンはスミカが誰の事を言っているのか、何故か察しがついた――いや、察してしまった。
「な、スミカ……まさか……!」
『そうだ、お前も気付いたとおりの奴だ』
 ――そう、テレジアだ。
「や、やめろ!それだけは!それだけは止してくれ!お願いだ!」
 さて、ウィンが何故にここまで斯様に慌てふためているのかを説明しよう。
 ミセス・テレジア。
 トーラス所属のリンクスであり、嘗ての大戦時で活躍したリンクス、所謂オリジナルの一人であり、同じ称号を持つスミカとは旧知の間柄である。またトーラスはインテリオル・ユニオンに属するために同グループ内のウィンとも知り合いである。
 それだけなら知人に知られて恥ずかしいで済むのだが、このテレジアがリンクスだけではなく、企業人としてもトーラスに所属しているのが問題なのである。
 というのもテレジアはあらゆる企業の中でもGAグループの有澤重工が榴弾武装と装甲以外で得意とする、ある分野で唯一肩を並べる部署――アダルト・グっズ製作部に在籍しているのである。
 其処では所謂大人の玩具からアダルトビデオまで作っているが、テレジアはスタッフになる事もある。関わり方としては演出、監督――極稀だが女優としても――そして脚本と様々だ。
 それがどういう意味かと云うと――ウィンはカラード管轄の女性リンクスの中でも三本の指に入る美貌と、ファンを持つとされる。そんなウィンのセックスのプレイ内容がテレジアに知られるとなれば、必ずや彼女はウィンに似た女優を探し――場合によっては作り上げ――そして其の内容を再現したものを作り上げるだろう――売り上げが期待できるのもあるが、テレジアの純然たる趣味によって。
 
『えぇーっと、テレジアのアドレスは、と……』
「わかった! わかったから! 全額払う! それでいいだろう?!」
 殆ど悲鳴でウィンがそう言うと、電話越しだがスミカが笑った気配がした。
『よし、明日までに口座に振り込んでおけ。いいか明日だぞ。一日でも遅れたら、三日後にはお前好みのプレイが、お前に似ている女によって、お前のプレイと云う触れ込みで世界中に知れ渡る事になるぞ』
「わかってる……わかってるから、もう勘弁してくれ。本当にすまないと思ってるから……」
 最後は悲鳴から泣き声に変わっていた。
 
『よし。いいだろう。それじゃあ私はまだ仕置きが済んでないから、この辺で……』
「あ、ちょっと待て……彼が言っていたのは、さっきの事だけか?」
『ああ、そうだが。何だ、まだ何か特殊なプレイでもあるのか?』
「い、いやっ! そんな事はないぞ……幾ら既にばれているとはいえ、嘘を言われたら、嫌だなと思ってだな……」
『……そうか。まぁ私としてはさっきの充分だから、いいがな。じゃあな、アイツじゃなくても、もう人の男に手を出すなよ』
「あ、ああ……本当に悪かっ……」
 最後まで聞くことなくスミカは電話を切っていた。
 
「はぁぁ……」
 どっと疲れが圧し掛かってきたウィンが溜息を吐く。
「どうしたの、ウィンディー? スミカさんだったようだけど」
 ずっと隣で聞いていたオペレーターが心配そうな声で尋ねる。
「いや、何でもない……」
 そう言いながらボタンを押して、もう一度溜息を吐く。
 しかしウィンは疲れた事よりも、罪悪感が大きかった。
 セックスをしてしまった事はウィンにも責任があるし、スミカに話したのはしょうがないとしても、彼は”あの約束”だけは守ってくれたらしい。
 恐らくスミカが強請りに使うのに最も適した事だったのに。
 それなりに潔く間違いを述べたらしい事はスミカを裏切ったという思いがあったからだろう、それに加えて自分の名誉をそれなりに気遣ってくれた彼の、健気さを思うと少し胸が痛み、またそう思うと少しだけ鼓動が一つ高鳴ったウィンであった――。
 
「……まぁ、スミカさんもそりゃあ怒るわよね。自分の男に手を出されたら」
「なっ!何で、何でお前が其れを知っている?!」
 突然にオペレーターが秘密の筈である事を言い出したので、ウィンが狼狽する。
「あら、やっぱりそうなんだ。見掛けによらず、ウィンディーも結構――スキなんだぁ」
 だが其れは確証が無く、カマを掛けたものだったらしい。
 まんまと嵌ってしまったウィンは顔を赤らめて言い訳を開始する。
「しょっ、しょうがないだろう!彼がだな……こ、困っていたから……」
「そうね、作戦の後だから昂っていたんでしょうね」
「そ、そうだ。そうとも……私は彼を鎮めるために、しょうがなく……」
「でもウィンディーも気持ち良さそうだったわよね。あんなに声を張り上げてたじゃない」
「……お前、聞いてたのかっ?!」
 ウィンが叫びながら椅子から乗り出すようにして、顔を近づけると、
「あらま……やっぱり、そうなんだ~。あの子、あんな歳なのにアッチが上手いの? 流石はスミカさんね。ウィンディーの師匠なだけはあるわ……あぁ、そっか。だからウィンディーもエッチなのね。弟子は師匠に似る、かしらねー」
 またも誘導に引っ掛かってしまったらしい。唖然とした表情ながらもウィンが彼女を睨む。
 此れはいつもの事だ。このオペレーターはウィンよりも幾つか歳上なだけなのだが、普段からこのようにからかわれているのだ。
「ねぇねぇ、どうだったの? 彼、凄かったの? それとも、おっきかったの?」
「う、うるさいっ!誰が言うかっ!」
「いいじゃない、ケチ。まっ、ウィンディーは男を知らないからね。ちょっと上手いだけでメロメロになっちゃうものねぇ」
 下手に相手をすると、また引っ掛かる可能性が大いにあるので、ウィンは最後に憎まれ口を叩くことにした。
「……ふん、寧ろお前の方こそ引っ掛からないように気を付けるんだな」
「平気よ。私のタイプは年上だもん。あなた達みたいに年下にキュンキュンしちゃわないもん」
「……なぁ、お願いだから誰にも言わないでくれよ、セーラ……お前は口が軽いからな」
 ウィンがそう言うと、セーラはおもむろに手を差し出してきた。
「なんだ」
「言わないで上げるから、お金頂戴。若しくはロイさんでもいいや」
「今回の報酬はスミカに取られて無い。それと散々言ってるが、ロイと私には何の関係も無いっ!」
「いいもーん。だったら皆に言っちゃうもんねー。ウィンディーは年下好きのエッチなお姉さんだって」
 セーラが立ち上がって何処かに行こうとするのをウィンが慌てて止める。
「わ、わかった!金は……次の依頼が終わったら払うから、それでいいだろう?」
「あらぁ? やっぱりロイさんは嫌なんだ? もーう、ウィンディーちゃンったらストライクゾーン、広いんだからーん」
「だ、黙れェ!」
 廊下を笑いながら逃げるセーラをウィンディーが顔を真っ赤にしながら追い掛け回すのを他の社員が怪訝そうに――ではなく、ああ、またかと云った感じの見慣れた眼で見ていると、騒ぎを聞きつけた警備員に小言を言われているのも見ていた。
 
 スミカは、ウィンを強請り終えると、ポータブルの電源を切って、前を向いたまま――其の身体は一糸纏わぬ裸体だ――背後に視線を遣る。
「スミカさぁん……もう、許してぇ……」
「ダメだ。お前は数日分、イったんだろう?だったら出す必要は無い」
 ベっドの上で横たわる少年の上で、背を向けた格好で圧し掛かっているスミカが身体を上下させて、情けない声を出す彼に肩越しに視線を送っている。
 但し膣内に入っているペニスは彼女の手によって根元を握られているせいで、既に三回分の射精を遮られていた。
「……あぁっ! また……イキそうっ! 出るぅっ……うぅ……出そう、なの、にぃ……っ」
 身体を、肉棒を痙攣させるが、性感の振動は先端にまで達する事は無く、全てスミカの手で止められてしまい、殆ど泣いている声を上げる。
「イキそう、だったのか? 奇遇、だなっ! 私、も……イキそうだっ……イクっ!」
 すると少年の様子を嗜虐感の篭った眼で観察していたスミカが背中の汗を下敷きにしている身体に飛ばすようにして仰け反ると、身体がぶるぶると震える――しかし、尚も手は強く握られたままである。
「ふぅっ……ほら、立て。次は後ろからだ」
 ひとしきり絶頂の余韻を甘受した後、少年にそう促す。
「お願いです……出させて……」
 矢張り果てそうで果てれないのは辛く、少年が嘆願するとスミカは妖しく頬を吊り上げた。
「そうだな、一回ぐらいはいいかな」
「ほ、本当ですか……!」
「但し、私があと……そうだな、三回イったら、な」
 嬉しそうに上体を起こした少年であったが、ノルマを言われて寂しげな顔を浮かべる。
 其れがスミカには愉しくて仕方が無い。
「ん? 嫌ならいいんだぞ? 終わりにしてしまっても」
「分かりました……頑張りますからぁ……」
「よし。いい子だ……ほら、頑張れ……あンっ! いいぞっ! いいっ!」
 それから、少年は寸止めされている辛さと戦いながらも腰を振り、スミカは手の内に脈動と性感を甘受し続ける。
「ああンっ! またっ、またイクっ! 私っ、お前のでイク、のっ!」
「くぅぅ!うぁぁっ!」
「はぁ……はぁ……あっ……すごいぃ……」
「あと、二回ですよね……?」
「……ん? そうだな。いや、んー……やっぱり。もう三回、な」
「そ、そんなぁ……」
「嫌なら――く、ふぅっ! そうだ、それで、いいっ!」
 そんな風にスミカはそれから何度も回数を水増しする。
 ただ其れが仕置きだと思っている少年は言われた通りに、眼に涙を浮かべた悲壮な顔で彼女を責め続ける。
 だがスミカの表情は彼を虐めている愉しさだけではなく、もっと満ち足りた顔で喘いでいた。
「やっぱり、お前のじゃなきゃ、お前じゃなきゃ……私は……私はぁっ!」
 ただ必死な彼には伝わりそうもなかったが、スミカは気恥ずかしいからか、それでも良いと思うのだった――。
 
 ウィンがオペレーターのセーラに揶揄われ、更にスミカから金銭的な脅迫を受けるよりも少し前、少年がスミカに仕置かれる発端の不貞が行われたのよりも大分前。
「うぅン……」
 窓から差し込む朝日の眩しさを目蓋越しに感じたスミカがベっドの上で呻きながら、逃れようと身体を窓の逆方向に捻る。だが寝返りを打ったのは、他にも理由があったからだ。
「ン……ン?」
 眼を瞑ったまま隣の方に腕を伸ばして、目的の物に触れようとしたのだが、手は虚空を掻いたので手応えの無さそうな声を出す。
(あぁ、そうだった……いないんだった)
 普段は隣で寝息を立てている恋人は今日は仕事に云っていて、彼女の隣には隙間があるだけだ。
 其処は何年も前から誰もいない席であり、また僅か数ヶ月前に遡っても其れは同じであるから、慣れ親んでいる筈の空席である。だが、ある日から埋まっていたせいか、いざ空いてしまうと――
(……こんなにあったっけか)
 前よりも少し、いや大分広く感じるようになってしまった。
 孤独には慣れていた筈だが(ヤキが回ってしまったかな)と思いつつ、彼は先日出たばかりだから、今日には帰ってくるだろうと考えると、数日振りに気分も良くなった。
 というのも彼女は月経が来ていた上に、元々生理症状が酷い性質なので、此処何日かはベっドの中に篭っていたのだ。
「ンっ――はぁ……っ!」
 暫く振りの心地の良い朝であるから、ベっドの中から出て思いきり背伸びをして、其れを甘受する。
 だが寝る前までは重りが入ったように鈍かった頭が冴えてきたせいか、色んな放置せざるを得なかった物に意識が回り始めた。
 先ず思い立ったのが、洗濯物である。
 スミカ達の一味は、彼女がインテリオルに居た頃から連れ立った整備士と、今の稼ぎ手である少年によって構成されるが、大別すると整備士とスミカと少年、という風に分けられている。
 只でさえ整備士達にネクストの整備で忙しいのに、リンクスまで気を遣わせるのは悪いし、そもそもリンクスである少年の生活管理はオペレーターである自分の役目であるとスミカは自負している。
 だから食事などは兎も角として、洗濯機も分けられているが、元々アスピナ機関の被検体であった少年が家事など出来る訳もなく――一応、教えているとはいえ、ネクストの操縦と比べて覚えも出来も悪い――彼の身の回りの世話はスミカがやっているのだから、二人はベっドさえ共にしてなかったらスミカは完全に保護者である。
 だから洗濯籠に数日分の衣類が山を作っているのは確実だ。
 今日は掃除とかが大変だなと思いつつ、理由があるとはいえ、自分は家に居て少年は外で頑張っているのだからしょうがないと考えて、洗濯機などが置いてある脱衣所に向かっていると、
(……なんか私達、夫婦みたいだな)
 そんな風に思えた。
 世の中は何処もかしこも大変だから、男女平等どころか不平等とさえも言ってられないご時勢であるが、昔からの夫婦スタイルに自分達を当て嵌めて――スミカはちょっと足取りが軽くなった。
 
「……あ~あ。確りと溜まってるな」
 其処にはスミカ一人しか居ないのだが、洗濯籠の有様を見ては隣に少年が居るかのようにぼやいた。
 寝込む前の自身の物も入っているとはいえ、やはり殆どは彼のだ。
 しかし、愚痴を溢していてもしょうがないので、早速山を崩して口を開いた洗濯機のドラムの中に放り込んでいく。よくスミカを昔から知る者はがさつと評する事もあるのだが、其れに反して綺麗好きなのである。
 それに加えて先程の思いつきもあって、鼻歌を鳴らしながら衣服を次々に投げ込んでいると
「……ん」
 少年のタンクトップが出てきた。
 幾ら数日分とはいえ、山が出てしまうのには彼の生活が関係していて、この類の服が其の原因である。
 高速で上下左右へと俊敏な動作をするネクストの搭乗者、リンクスである少年は小柄であるが、それなりに筋肉は付いている。だがネクストの機動は普段の何倍ものGが掛かるため身体を鍛えないと保たないのだが、少しでもGを軽減するために出来るだけ体重を増やさないようにしてはいる。
 其の為、依頼が無ければカラードの本部でシミュレーターを使おうが、休日であろうが毎日トレーニングをしなければならないので、どうしても洗濯物が増えてしまうのだ。
 そして今スミカが手にしているのも多量の汗を吸い込んでいる上に、既に放置されて何日も経っている物である。スミカは山を見たくなかったので、円筒状のドラムだけを見て、手当たり次第に掴んでいたせいか、其れに気付かず、眼の前で持ってくるまで気付かなかった。
 上下する腕は其れなりに勢いが付いていたせいか、振り回されたタンクトップは風を生んでいた。
 無言でスミカは其れを見る。
 誰も居ないから声を出しても意味が無いとはいえ、軽快な鼻歌も止まっていた。
 そしてもう一度鼻をひくつかせて空気を取り込むと、当然だが汗の臭いがした。
「……ンっ」
 先程の思いつきよりも更に刺激的なことを思い付いたスミカは、喉を鳴らしながら生唾を飲み込んでから、タンクトップを恐る恐る鼻先に近づけて行く。其の間、呼吸は止まっていた。
 そして掴んでいる其れで鼻全部を覆い隠すようにしてから――思い切り吸い込んだ。
「はぁ……っ!」
 少年の体臭が鼻腔に充満し、スミカはぶるりと身体を震わせる。
 悪臭と形容出来る物なのだが、まるで彼が其処にいるような、そして嗅いでいると得も言えぬ気持ちになって、彼女は何度も吸い込んだ。その度に身体を頭から下に掛けて、電流が貫いていくようであった。
 すると、その内にタンクトップを両手で掴んでいた筈が彼女が気付いた時には、離していた片手が――股間に伸びていてショーツの中心に触れた指先が湿り気を感じた。
(何をしているんだ、私は……)
 自分がしている事は臭いを嗅いで自慰に耽るなどという浅ましい行為である事に思い至って、自己嫌悪に陥ったが、それでも手も鼻も止まらない。
 吸気した臭いが鼻腔を刺激する度に秘所から愛液が溢れ出してショーツを濡らし、其の股布越しに陰唇を擦る指の触感によって、秘所が液を垂らす。
 股間から奔る性感によって自然に身体が前屈みになるが、指だけは尚も淫らに動き回り、挙句恥部を隠していたショーツをずらし、
「ふぅぅ……っ!」
 既に内部で熱が燈り出している膣の中に挿し込まれた。
「ンンっ! ンっ!」
 濡れた肉壁を擦る度に身体がひくつき、脚が震える。
 指先に纏わりつく愛液が厭らしい粘音を立てて、静かな室内に響く。
 其処でスミカは折角、性感を高める物が鼻先にあるというのに、息をしていない事に気付いた。
 というのも、依頼の為に殆ど人は出払っているが何人かは残っているのに行なっているのが私室ではない上、そして本当に久しぶりの自慰の為に、行動の一つ一つが躊躇われているように、ぎこちなくなっていたのだ。
 しかし、もう止まらない。
 だから今まで吸っていなかった分、何時の間にかに人差し指と中指と揃えていた二本で自身の最も好きな場所を抽迭しながら、思い切り空気を取り込んだ時であった。
「っ――ンンっ! ……あぁぁっ?!」
 途端に身体に強い電流のようなものが駆け巡り、スミカはタンクトップで鼻を押さえたまま仰け反って全身を痙攣させると、膣内から強い粘性を持った汁が流れ出て挿れていた指を伝って彼女の手を汚していった。
「はー……っ! はー……っ!」
(うそ……今ので……私……イった?)
 荒々しく呼吸しながら、スミカは自答した。
 だが、今も全身を甘い余韻を包んでいる事を確認すれば答えは考えるまでもなかった。
 背徳感に加えて、基になっている素晴らしい性具があるとはいえ、僅かな時間だけで果ててしまった事にか彼女自身が驚きを隠せなかった。
 だが生理後に性欲が僅かに高まる自分の性質を思い出して、納得しようとしたが、それでも早すぎると思えた。
 あまりに近い、その癖、不可思議な問題であるために理由を考えると、其れも直ぐに判明した。
(私……あいつと……)
「……したい、んだな」
 自分の事ながら確認するように、タンクトップがずれて露になった口から言葉にすると、子宮が疼く感覚が彼女を襲い新たに分泌された愛液が挿れたままの指を更に汚した。
 そしてスミカの意識が今度は数日前に自分に重なっていた少年を、というよりは其の裸体を思い浮かべた。
 それだけではなく、自分の全身の隅々までを弄ぶ手を、キスするために近付く眼と顔や触れた唇を、そして荒々しく体内を突き立てる肉棒を。
 僅か数日前だと云うのにとても遠くの事のように思えた。
「……したい……あいつと……セックス、したい……ちん○、いれられたい……」
 一人だけの部屋ではしたない欲求を声にする事に強い快感を覚え、スミカは遠くを見詰めて何度も同じ事を呟きながら秘所を再び嬲り始める。
 数日前の空想はやがて帰ってきた彼に抱かれるという未来の物に変わり、宙を見ていた眼も集中し易いように閉じられて、細やかなで嬉しげな嬌声を漏らす口は口角が上がっていた。
「……あっ……あぁっ……そこ、いい……」
 幻の少年に呼び掛けているスミカは床にぺたりと座り込んで、秘所だけではなくシャツと下着越しに乳房も揉みしだいている。今は優しくスミカを責めているために、其の動きに合わせるように手が緩やかに蠢く。
 そして彼が膣から指を引き抜き、身体の上に跨った。
 今から挿れる指を三本にしようと、激しく抜き差ししようとスミカが考えていると、途端に全く違う想像が浮かんだ。
 
(もし……直ぐに帰ってこなかったら……)
 其の想像は其れまでのを粉々にしてしまうものであった。
 すると空想はどんどん悪い方に行ってしまう。
 例えば任務の達成がてこずってしまっていて帰る時間が更に延びてしまったりだとか、彼が怪我をしてしまってセックスをするどころではなかったりだとか、彼が死んで――。
(嫌だ……そんなの……嫌だ)
 最悪の想像を消し去ろうとスミカは先程の甘美に耽るために指を動かしながら、良い考えを頭に巡らす。
 ――あいつは私が育てたんだ、だから強い。
 ――あいつが私を置いたままにするわけがない。
 そして、彼に何も無い事を証明する、とても相応しい事柄が浮かんだ。
 ――それにウィンディーがいる。
 自分の嘗ての弟子にして形骸化しているとはいえカラードのランキングの中でもランク3というトップクラスに位置するリンクスが協働相手なのだ。そして依頼そのものもネクストが出てくる訳ではなく、既に少年にとっては狩り慣れた量産型アームズ・フォート数機の撃破だ。
 故に安心と云えるのだが、スミカの手は止まっていた。
 少年が死ぬという突飛な想像よりはマシだが、確実に起こるであろう事を予見して。
(あいつと……ウィンディーが……)
 ――セックスする。
 スミカは確信しているが、当然の如く確証も何も無い。只の直感である。
 だが少年が性を意識してからというものの、何人もの女が少年と身体を重ねている。
 中にはスミカと間違えたり、スミカが指示してそうさせた者も居たが、其の全員が彼にそれなりに好意を抱いている事は事実だとスミカには思える。
 人間の比ではない発情期の際に襲われたメイは、確かに強姦紛いの行為であったが介抱した時に見た彼女の眼には確かな劣情が潜んでいたのを見逃さなかった。其れに後になってから連絡をした彼女には、少年に対する悪意は一切無いように感じられた。
 自分と間違って行為に及んでしまったスティレっトは酒も入っていたとはいえ、彼を本気で拒否する事はなく、最後までしてしまっていた上に、其の後は強く主張こそしなかったものの、まだ望んでいた。
 テレジアに至っては態々、謀を用意してから少年との行為を望んだ。
 夫婦間に刺激を与える建前もあったろうが、誰でもいいという訳ではなく、選んだからにはそれなりの理由があるのは明白だ。
 今のところ最後のエイは自分自身が愉しむためであったとはいえ、彼の独り善がりの行為でも彼女は感じていた。それに行為後の彼の裸体を見た時のエイの眼は確かに女のものであった。
 そして自分。
 出逢った当初から元々惚れていたのだと今になっては自覚しているが、当時は彼に求められるまでは気付いていなかったのに、悦んで彼を受け容れて、今に至っている。
 そしてスミカは以前から、ある考えに辿り着いていたことを思い出した。
 ――彼が女を惹き付けるような、何かを持っている事である。
 其れが例えば男性的な魅力だったり、実は其の特異な体質がもしかしたらフェロモンのようなものを出していたり、若しくは理屈では説明出来ない魔性のようなものだったりと確証は無い。
 だがそうでもなければ、これだけの事が起こる筈が無いとスミカは思わざるを得なかった――彼が単純に女を手当たり次第に抱いているという想像を消す為に作られた理論である事も事実であるが。
 だが何かしらの理由で女を惹き付けるにしても、恋人がいながら其れを拒否しないのにも責任はあろう。
 女癖の悪い男だと、自分を裏切ったのだと詰って、少なくとも恋人同士の関係を切ることもスミカの選択肢にはある。
 しかし彼女には其れが出来ない理由がある。
 其れはリンクスを主軸とした今後の組織内の崩壊を招く可能性もあるからだとか、彼が欲望に身を任せて女を抱くように自分も劣情を満たしたいからという訳ではなかった。
 其れは実に単純な事だ。
 ――私は、私はあいつを愛している……!
 彼が自分以外の女と関係を持っている、はっきり言えば女としての自尊心を傷つける男であったとしても、其れだけは譲れなかった。
 だから彼が酷い男だとするなら自分も駄目な女だとスミカは思う。
 そんな男を愛してしまっているのだから。
 スミカは遣る瀬無い気持ちになりながらも、彼との行為と、数日前という単語からある事を思い出し、立ち上がるとおもむろに籠の中を漁った。
 綺麗好きを自負する筈であるが、乱暴に衣類を周りに放り投げている。
 今は精々、情欲に溺れてやろうという自暴自棄が其処には見える。
 やがてスミカは目当ての物を見つけた。
 数日前に彼が履いていたトランクスである。
 汗の香りがするタンクトップから、より性的なエッセンスもそして香りが強い物へと代えた訳であるが、其れは只のトランクスという訳ではない。スミカが数ある中でも其れに絞ったのは理由がある。
 その下着を持って彼女は急いで自室に戻り、ベっドの上に飛び込むと、すぐさま邪魔なショーツを脱ぎ去った。
 そして昂揚していて頬が紅潮している顔に其れの中心を近付ける――だが中心とは云っても、スミカが目指す場所には明確な印があった。
 数日前のセックスの最中の事である――其の前と云った方が正しいか――彼女は悪戯心でトランクスを履いたままの少年の股間を執拗に刺激し、行き過ぎてしまった結果、彼はその中で射精してしまったのだ。
 一応、水洗いはしたものの性交後と云う事もあっておざなりで、更に月経が来てしまったことで洗われる事も無かった――そう、スミカが今まさに嗅ごうとしているのは、其れなのである。
「はっ……はっ…… はっ……!」
 犬のように吐息を吐きながらスミカは我慢出来ないと云った風に、指で秘所を弄りながら布に広がる精液の薄い沁みに鼻を近づけていき――空気を取り込むと、
 「――ふぁぁぁ……っ!」
 完全に蕩け切った甘い牝の溜息を吐き出して、ヴァギナから涎のように愛液が流れ出て、横になっている身体が嬉しそうに跳ねた。
「ンあっ! ンンっ! あぁっ!」
 物欲しげに開かれている膝、尿を漏らしたかのように濡れたラビアの間に挿れられた三本の指が僅かな距離を短い間隔で何度も行き来する度に、攪拌音が鳴る。
 潤って刺激し易い秘所に快感が走る度に、牡の臭いが鼻をつく度に愛液が一層流れ出る。
「ふぅーー……っ! ふぅぅンっ!」
 うつ伏せになった顔の下に香りを敷くようにして両手を自由にすると、先程から下着に擦れるだけで性感が奔っている、つんと固くなった乳首を抓って引っ張ったり、捏ね繰り回したり、包んでいた包皮を邪魔だと云わんばかりに押し退けて存在を主張している陰核を往復させて擦ったり、少年のペニスにそうするように上下に扱いたりして、抽迭も相俟って何度も絶頂を迎え入れ、引き寄せる。
「あぁぁンっ! ひやぁあっ!」
(私っ……こんな事して、変態、みたいだ……っ!わたし……やらしい……へんたい……っ!)
 過呼吸のように精液を嗅ぐだけではなく、沁みに口付けや、舌先を触れさせてみたりして、もし彼がこの場にいれば被虐感を与えてくれるだろうと妄想を膨らませて、自身の肉欲を眼一杯煽る。
「だめ……っ! イク……っ! イクっ、イクっ、イクっ、イク、イっ……クぅぅ……っ!」
 舌で沁みを舐めて牡臭を肺に送りながら、陰核を摘んで押し潰し、出来る限り膣の深い場所を指で削るように抉ると、過度な性感によって持ち上げた尻が逃げるように引きそうになったが、其れを押し止め、寧ろ押し込んだ瞬間、濡れて沁みが既に広がっているシーツに更に愛液がぶちまけられて、スミカは果てた。
「ふぅ……ふぅ……はぁ……はぁーー……っ」
 少しの間、呼吸が出来ないぐらいの快感によって視界がばちばちと点滅した。
 力を失って崩れた身体が沁みの上に落ちると不快な湿気が下半身を包んだ。
 そうしてスミカは暫くの間、少年のトランクスを眺めながら呼吸するだけの時間を送っていたが
(あいつが……あいつの、が……ほしい……)
 物足りず、シーツとトランクスごと手を握り締めた。
 そんな風に劣情が昂りを見せるのを知覚しながら、疼いている秘所を嬲り回そうと震える手を伸ばした時であった。
「スミカさん、帰りました」
 彼の声がした。
 胸が今までの自慰以上に高鳴るのを聞きながら、スミカは何故か涙が流れそうになったのは、先刻に彼に悪い事が起きてしまう想像をしたからだろうか。
 泣かれているのを見られたくなく、また感づかれたくもなかったので、呼びかけには反応せず、彼が帰ってきた嬉しさよりも欲情が強くなるのを待った。
 そして、背後に其の存在を感じ取った瞬間、スミカは本能のままに動いて彼を引き寄せる。驚いているらしい彼が何かを言っているか気にもならない。
 ――ウィンディーとヤったのか。
 ――臭いがするぞ。
 一応、ウィンを抱いたのかカマを掛けてみたり、身体を嗅いだりして――確かに微かだが甘い香りがしたのは、、無性に苛立ったが、予測していた事であるから多少は抑えられた。
 ――出してみたら分かるな。
 そして浮気を確かめるような事を言ったが、確信しているからどうでもいい。
 一回出させようと思ったのは、先程嗅いでいたような薄まったのではなく、出したばかりのが欲しかったからだ。
 ――それから、たっぷり遊んでやる。
 例え自分が駄目な女でも構わなかった。
 自分だけが彼を支配出来る事を、どんな眼に遭っても彼が自分を大切にしようとする事さえ確認できれば、スミカにはそれでいい。
 ――そして虐めながらも抱かれている事を嬉しがる風に鳴いてやろう。
 彼を愛しているのは自分だけなのだから。
 それだけ確認できれば、感じれればスミカにはそれでいい――。


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