小説/長編

Written by えむ


「PA-N51…って言えば。今の時期は、真っ白か」
「あそこは季節によって、濃霧に覆われるからな。まぁ、お前が使っている頭部なら、さほどの問題はないだろう」

 レックスが使用している047AN02は市場で出回っている頭部パーツの中では、抜群のカメラ性能を誇る代物。霧による視界の制限などは、そう大した問題ではない。
 ちなみに、今。レックスとセレンの二人はGAからの依頼である『PA-N51襲撃』を前にしてのブリーフィングを行っている。作戦タイムと言う奴だ。

「施設の破壊は問題ないだろう。少し気になるのは、ミッション内容に、防衛部隊の排除も含まれていることだ」
「防衛部隊ね。たしか、PA-N51はアルゼブラの領域だったっけ。ってことは―――」
「恐らく、バーラット部隊だろうな」

 バーラット部隊。主な編成は刺突ブレード装備の高機動型ノーマル・セルジュークと、両腕の装備をロケット砲へ、脚部を逆関節型に換装したセルジュークの改良型ノーマル・シャヒードの2種。アルゼブラが誇る特殊部隊で、BFFの狙撃ノーマル部隊サイレント・アバランチと共に数え上げれる、有名なノーマルの特殊部隊だ。

「あそこの部隊は、やっかいなんだよな…。シャヒードが逆関節型特有のジャンプ力の高さを生かして、上下に振ってくる。そして、そっちに気を取られれば、セルジュークにとっつかれる。逆にセルジュークに注意を割くと、頭上からロケットが降ってくる。あの3次元機動を生かした強襲戦術は、見事としか言いようがないね」
「確かにな。まさにそのとおりだが…、詳しいな」
「コルセールにいた時にやりあったことがあるんだ」

 苦笑を浮かべながら答え、そしてすぐに真面目な表情へと変わる。

「まぁ、今回はこちらがネクストだし。やれると思う。むしろ、問題があるとしたら―――別にあるだろうな」
「どういうことだ?」
「今回のミッションで、イルビス・オーンスタインが出てくる可能性がある」

 レックスの一言に、セレンの表情が固くなる。
 イルビス・オーンスタイン。アルゼブラに所属するランク14。オーダーマッチでの勝率は高くないが、その実力はカラード最上位クラスに匹敵すると言われているリンクスだ。
 もし、それが現実となったら。今回のミッションは想像以上に難易度の高いものとなる。

「根拠はあるのか…?」

 レックスは、あくまで可能性があると言った。だが、そういうからには理由もある。
 セレンの問いに、レックスは小さく頷き答える。

「イルビス・オーンスタインは、GAを目の敵にしている。それは戦場だろうとなかろうと、GA関係と言う理由だけで襲撃してくるくらいだ。実際やりあったのも、コルセールが依頼でGAの工業用コロニーの警備をしていた時だったしね。
 GAが仕掛けてくる。その情報を、すでに向こうが察知していたら十中八九、仕掛けてくるだろうな」
「なるほど。それは十二分にあり得る話か…。だが、それでも受けるつもりなのだろう?」
「当然。そこまでやれば、GAグループとの関係は元に戻せるだろうし」

 そう告げるレックスは不敵な笑みすら浮かべていた。最上位クラスに匹敵するリンクスとやりあう可能性があると言うのに、物怖じしている気配すらない

「その様子だと、何か策でも思いついたか」
「策ってほどじゃないよ。備えておくつもりではあるけどね。それじゃあ、装備選びといくか…」

 そうしてレックスが選んだのは、いつもの有澤製グレネード2本とGAのガトリングガンGAN01-SS-WGP。腕にはガトリングガンとグレネードの二つを装備し、残るグレネード一本は格納へ。背部にはMSACの多連装垂直ミサイルWHEELING03 二つ。そして垂直型の連動ミサイルNEMAHA01。と言う編成であった。

□ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □

 そして、ミッション当日。白い濃霧が立ち込めるPA-N51に、白一色となったフォートネクストの姿があった。本人いわく、「迷彩って奴だよ」とのことだ。

『ミッションを開始する』
「了解!!」

 そしてミッションが開始される。開幕と同時にオーバードブーストを起動。最初の資源プラントへと肉薄し、近づいたところでオーバードブーストをカット。通常のブーストで浮上し、上からプラントの中心へとマニュアルでを一発。一撃資源プラントを吹き飛ばす。
 ジャンプしながら迫ってくる逆関節型ノーマルは着地の瞬間を狙ってのグレネードで粉砕。刺突ブレードを装備したノーマルも固まっていればグレネード。単体ならガトリングガンで片をつける。
 そうやって数を減らしながら、次へ移動。だが、そこへ突然ノーマルのロケットとは比較にならない爆発が巻き起こった。

「……ぐっ!!」

 とっさにクイックブーストを連続で使って、横へと動く。

「今の爆発と衝撃は、アルゼブラのグレネードSAPLA―――やっぱり出て来たな。イルビス・オーンスタイン…」

 攻撃してきた方へとカメラを向けると、クイックブーストも使って後方へと一端下がっていくネクストの姿が一つ。逆関節型の機体――間違いなくマロースだ。

『GAが仕掛けてくると聞いて待ち伏せてみれば。GAに雇われた独立傭兵か…』

 氷のように落ち着いた男の声が、通信機の向こうから届く。すでに遠くへと離れたらしく、047AN02のカメラを持ってしても、マロースの姿は確認できない。

『ふん、GAに尻尾を振る下種が…。追い詰めて肥溜めにぶち込んでやる』

 再び届く声。その声だけでも、かなりのプレッシャーを感じるほど。霧の向こうに、何か大きな怪物が隠れているような、そんな錯覚すら覚えてしまう。
 それでも、レックスは落ち着いていた。

「やれるもんならやってみるんだな。ただし一つだけ言っておこう」

 まだ残るバーラット部隊を片付けつつ、ガトリングガンとグレネードキャノンの残弾をチェックする。グレネードは予備がある。ガトリングガンは温存してきたが、ギリギリといったところか。大丈夫…やれなくはない。

「こっちは、お前の攻撃パターンは知ってるんだ。二流リンクスの駆る動きの鈍いタンクだからと言って甘く見たら、落ちるのはお前だぞ?」
『言ってくれる。ならば、その大口の程がどれほどのものか。見せてもらおうか』

 フォートネクストのレーダーに、多数のミサイルが表示される。散布型のミサイルだ。飛んでくる方向は正面から。すぐさま横へとクイックブーストを吹かし、回避行動へと移る。
 だが、その動きは読まれていたらしく、マシンガンが上のほうから降り注ぐ。PAがそれを遮るが、弾幕によってみるみる削られていく。
 それにもかまわず、レックスはフォートネクストを横へと走らせ、セレンへと告げる。

「セレン、バーラット部隊の残りの動きを見ててくれ!!マロースに集中する!!」
『わかった。気をつけろよ』
「もちろんっ」

 状態をチェック。PAがかなり消耗。機体のAPはまだ8割以上が残っている。
 
「……ここだっ!!」

 グレネードの発射音が響いた。それと同時にブーストとクイックブーストの両方を使って、フォートネクストが正面へと飛ぶ。後方で爆発。損傷は軽微、爆風が掠った程度だ。
 すぐさまクイックブーストで向きを変え、グレネードの発射音がした方へとガトリングガンを連射。それらの弾幕を空中で受けたマロースのPAが小さな光をいくつも放つが、すぐにクイックブーストによって射界の外へとかわされる。

「簡単にはいかないか…。しばらくは根競べ―――」
『レックス、ノーマルが3機。接近しているぞ!!』
「おっと―――」

 セレンの警告に、すぐさまグレネードを撃ちこみ、まとめて吹き飛ばす。そちらへ注意がそれた瞬間に、3度目のグレネードがフォートネクストを襲う。

「……どういうことだ…?」

 再びグレネードを交わしたフォートネクストに、イルビス・オーンスタインは小さな疑問を浮かべていた。背後を取って狙ったはずなのに、後ろに目でもあるかのように反応し、発射と同時に動いたのである。
 反撃とばかりに襲い掛かるガトリングガンの弾幕から、マロースを回避させアサルトライフルと散布ミサイルで攻撃。フォートネクストは一応の回避をしようとするが、今度はさきほどのような反応の速さはなく、避け切れなかった分が被弾。
 一度地面へと着地し、再び散布ミサイルを発射。すぐさまジャンプして、上空へと飛び、フォートネクストの頭上からグレネードを叩き込まんとする。――またしても異常な反応速度にて回避。今度は爆風にすら巻き込めずに終わる。

「…………」

 アサルトライフルやサブマシンガンは当たる。散布型ミサイルもだ。グレネードの弾速は遅いが、三次元機動を生かして、死角から撃っている。見えない位置からの攻撃だからこそ、反応が遅れるのが普通だ。実際、死角からグレネード以外の武器を撃った場合は、ほぼ確実に当たっているのだから。例外は散布型ミサイルだが、これはレーダーに映るのだからわからなくもない。
 何かトリックがあるはず。今までのフォートネクストの動きを思い返し、そしてイルビスはあることに気づいた。

「…そうか、そういうことか」

 このまま、主力となるグレネードがあたらないのは問題だ。相手はタンク型。このままでは防御力の差で押し切られたかもしれない。しかし、グレネード限定で見せる驚異的な回避力の謎は解けた。
 イルビスは不敵な笑みを浮かべ、すぐさま残っているバーラット部隊に指示を出した。
 その動きは例外なく、バーラット部隊の動向に集中していたセレンが察知。レックスへとそのことを伝えられる。

『ノーマル接近。動きからして、逆関節型と射突ブレード機が1機ずつ!!』
「このタイミングで来たかっ。 セレン、今度はマロースの動きを。ジャンプしたら教えてくれ!!」
『わかった』

 まずは近づいてくるノーマルの対処に動くフォートネクスト。その動きに反応したかのように、マロースが一気に上昇する。

『跳んだぞ!!』
「…くっ。やっぱり早いっ…」

 ノーマルを撃破し、マロースの動きを追おうとするレックスだったが、上昇の早さに追従できず目視ではマロースを見失う。
 一方、上空へと跳んだマロースは、フォートネクストの真上を取っていた。ブーストを切って降下を始める。グレネードはまだ撃たない。そのまま真っ直ぐに降下し、充分に距離を詰めた上でグレネードを叩き込む。落下速度を加えて近距離で撃てば、相手もかわすことはできまい。
 まして真上は完全な死角。腕部武器なら狙えなくもないが、動きに向こうはついて来れていない。 白霧の向こうにうっすらと、フォートネクストの姿が見える。

「―――終わりだ。GAの犬め」

 距離が詰め、ブーストで急制動。爆発の範囲も考慮した上での距離を保ったところで、グレネードを撃とうとする。だが、その直前にフォートネクストが思わぬ反撃が放たれた。
 両背と肩に積まれていた垂直発射型ミサイルが一斉に放たれたのだ。

「ぐぅっ?!」

 何発かが被弾し、機体のバランスを崩す。もちろん、その程度で落ちるマロースではない。だが、大きな隙を作ってしまったのは事実だ。
 そして気がつけば、フォートネクストのカメラがこちらを捉えていた。そして、向けられるのは『両手』に装備されている有澤製のグレネード。しかも近距離。
 容赦なく撃ち込まれる一撃。だが、イルビスは最上位クラスに匹敵すると言われているだけのことはあった。驚異的とも言える反射神経でクイックブーストを吹かしたのだ。
 その結果、マロースの機体が横へと大きく飛び、グレネードの射線を回避する。―――そのはずだった。
 だが現実は違う。フォートネクストのグレネードが空中で爆発し、マロースはグレネード2発分の爆発に巻き込まれ、大きく機体バランスを崩して地面へと叩きつけられることとなったのである。

「馬鹿…な……」

 空中で炸裂するグレネード。そんな兵装など聞いたことがない。そもそも、フォートネクストのグレネードは有澤製のNUKABIRAだ。そんな機構がないことも、よく知っている。
 すでにマロースのAPは危険域に達していた。ガトリングガンで少なからず削られていたのもあるが、決定打はやはりミサイルとグレネード2発の爆風にさらされたこと。そして叩きつけられた際のダメージによる物だ。
 まだ動くことは出来る。だが、すでにフォートネクストはグレネードキャノンの狙いを定めていた。






 その後。イルビス・オーンスタインが撃破されたことで、残ったバーラット部隊は総崩れ。フォートネクストは、残りのプラントを撃破して帰途へとついた。

『ミッション完了か。…なんとかなったな』
「相手がうまく乗ってくれたからな…」

 主力であるだろうグレネード。それを回避し続ければ、必ず相手は接近してくると、レックスはそう予想していたのである。そして、真上から来ることを想定し、垂直発射型のミサイルを乗せたのである。そしてノーロックのまま、真上に来た時を狙って撃ち出したのである。
 全部色を白くしたのは、装備を視認されにくくするためだ。マロースのように激しく動き回っていれば、装備がどんな物かまでは簡単に識別は出来ないはず。ミッション開始から一度も使わなかったのは、相手に悟られないためでもある。

「しかし、上位クラスってとんでもないんだな…。あのタイミングで撃ったグレネードを避けるとか。有り得ないだろ、あの反応速度…」
『私からすれば、空中でグレネードを炸裂させたお前の方こそ有り得ないと思うがな。どうしたら、ああなるんだ…』
「あれは…射線を交差させてグレネード弾同士を衝突させたんだ。マニュアル操作ならではの裏技だな。普通はああいうことが起きないように補正がかかるからね」

 レックスの言うとおり。通常なら、射線が交差してお互いの攻撃が阻害することのないように一種の安全装置が働いて自動的に補正するようになっている。だがレックスは腕部制御をAMSも使わずマニュアルで動かしているため、その安全装置も働かない。だからこそ出来た裏技みたいなものだ。

『…なるほど。確かに裏技だな』

 レックスの説明に納得し、ようやくセレンはレックスの真髄が見えてきた気がしていた。
 一言で言えば、レックスの最大の武器は「柔軟さ」だ。発想の自由さと言い、思いつく作戦と言い、今まで見てきたリンクスとは一線を介している気がする。

『…どうした?』

 不意にレックスが説明を中断し、セレンの思考も現実へと引き戻された。

「レーダーに反応が一つ。まっすぐこっちに来ている」
『なに? これはPA反応。ネクストだと…?』
「カメラでも捉えた。…アリーヤだ」
『アリーヤ…?気をつけておけ、敵か味方かわからんからな…』
「わかった…」

 その場でいったん止まり、グレネードキャノンを構えるフォートネクスト。それに対し、相手は止まる様子はなく、真っ直ぐに突っ込んでくる。それどころか、背部にコジマ粒子が集束し始めるのが見えた。

『オーバードブースト…? …!!来るぞっ!?』
「――――!!」

 セレンの叫びが響く。
 と同時に、正体不明のネクストがオーバードブーストとクイックブーストを使って、瞬間移動とも見間違えるような速さで一瞬にして距離を詰め、右腕の装備――レーザーブレードを大きく振りかぶった。

To be countine……


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移設元コメント


☆作者の一言コーナー☆
 最初の挨拶ネタが尽きた、えむです(ぉぃ

 イルビス・オーンスタイン撃破。小説補正バリバリ(言うな
 これで、ようやくレックスも主人公リンクスらしくなってきた気がします。
 さて次回は、次のネクスト戦の前振りとなる予定。どんどん話が動きます、たぶん。

 後、余談ですが。
 一応今回も再現機体でこのミッション挑みました…。
 結果は、残り1分・AP20%、弾薬ほとんど撃ち尽くし。よって評価E。
 でも…クリアできたのだから奇跡だと思いました、マジで。 

 では今回はこのあたりで。
 ここまでお付き合いいただきありがとうございました(・▽・)ノシ


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