Written by ケルクク


初めて人を殺したのは10の時だったかな。
相手は母親だ。
場末の娼婦だった母親はいつも俺の事を邪魔者扱いし、気紛れに俺を虐待する事でストレスを解消していたんだよ。
そんな生活に耐えられなくなった俺は、ある日寝てる母親の喉にナイフを突き立て、金目の物を集めた後、家に火をつけた。
感想?そうだな。特に感じなかったが、強いて言うならせいせいしたかな。これでて口癖の「あんたなんか生むんじゃなかった」を聞かずに済むってな。

それからはスラムで好きに生きたよ。
腹が減ったら飯を奪って、気に入らない奴がいたら殺して、女が欲しくなったら犯した。
何度か捕まったが、奪った金の一部を渡したら直ぐに開放してくれたよ。

そんな生活を20年ぐらい続けてたら、気づいたら俺は世間で言うところの、武装勢力の頭になってたよ。
まぁ、やってる事は変わらなかったがね。
欲しい者は奪い、気に入らなければ部下でも、自分の情婦でも、自分のガキでも構わず殺したよ。
おかげで狂犬なんて恥ずかしい異名で呼ばれちまった。

思い返すと当時は相当調子に乗っていたよ。
いや、理由はあるんだよ。
企業の討伐部隊を何度か退けた事、他の武装勢力が全て傘下に入った事。ついでにシャレで参加したアリーナでも連戦連勝だったからね。
だから客観的に見ても当時の俺は率いていた組織も俺個人の力もかなり強かったと、両方とも当時の上位に入っていたと思うよ。

…まぁ、3日で全部失っちまったんだけどね。
そう、あいつだよ。最強の傭兵、生きる伝説。今では色んな呼び名があるけど、当時は余所からやってきた無名のレイヴンに過ぎなかった。
そんな雑魚に所属員3000、MT数百にAC8機を擁した俺の組織は3日で壊滅させられたのさ。
報告を受けた時は信じられなかったけど、実際に戦ってみて解ったね。なんというか、そう、次元が違った。
俺もそれなりに強い方だと自惚れていたけど、相手にならなかったね。一方的に翻弄されて蹂躙された。なんというか勝負にすらならなかった。
その時俺は悟ったよ。俺は犬なんだって。いくら鋭い爪と牙をもってたって、龍には勝てない。龍からしてみたら俺は俺が獲物にしてた連中と同じ獲物に過ぎないってね。
ハッキリ言って俺が生き残ったのは、生けどりにした方が報酬が上だからにすぎなかったね。

だがね、それだけだったらまだ良かったんだよ。
確かに、俺は組織と自信を失ったが完全に折れてはいなかった。実際、独房の中にいた時にはこれからは本物とカチ合わない様に、もしかちあったら直ぐに逃げるようにしてこじんまりとやっていこうって思ってたからね。
俺が本気で折れたのは、あれだよ。あの日。
全世界に、特攻兵器が降り注いだあの日さ。

あの日、俺は独房にいてね、サイレンが鳴ったりと色々と騒がしかったのは気になっていたんだが身動きが取れなくてどうにもならなかった。
どうしたものかと悩んでいたところにドーンと凄い衝撃が来て、目を回しちまってね。
目を覚ましたらまぁ、色々と滅茶苦茶になっていたよ。幸い大した怪我がなかったから崩れた壁から外に出たんだ。
そうしたら、外には地獄が広がっていたよ。陳腐な表現だと自分でも思うが、そうとしか表現しようがないんで勘弁してくれ。
だけど、考えて見てくれよ。俺はその時まで色々酷い事をしてきたのは解るだろ?
獲物は男は皆殺しだし、女は犯して遊んで結局は殺した。つまり、俺にとって破壊と血と贓物は死体は見慣れた、日常といってもいいものだったのさ。
そんな俺でも、あの光景は地獄としか表現できないんだ。それがどれくらい酷い光景だったかは察して欲しいね。

そしてそんな地獄を見た俺が思ったのは『負けた』だったね。
何が負けただって?あ~、説明するのは難しいな。
え~とさ、当時の俺はさ、殺したい時は殺して、破壊したい時は破壊した。
んで、俺はそのことに自信を持ってたんだよ。俺は何も縛られない破壊者だってね。その根拠が流した血と作った瓦礫の量だった。
その自信は、あいつ、ラストレイヴンに負けた後も残ってた。あいつの方が強い。でも、殺した人数は、破壊した量は俺のが多いってね。
馬鹿なプライドだとは思うが、強さって牙を折られた俺にはそれが最後の拠り所だった。
だが、その自信が、完膚なきまでに粉砕された。
目の前には俺が今までに流した血と作った瓦礫が屁みたいな量の血と瓦礫があって、しかも降り注ぐ特攻兵器によってそれはますます増えていった。
何というか、圧倒されたよ。そこには俺のチンケな悪意とは比べ物にならない、絶対的な機械的な無機質な悪意があった。
いや、あれはもう悪意じゃないな。神意ってやつさ。

そっから先は覚えてねぇよ。最後の拠り所を失って打ちのめされた俺は、逃げるのも馬鹿らしくなって独房に戻ったのさ。
正直、あの後お前達が来なければ、飢え死にするか、崩れた独房に巻き込まれるかのどっちかだ…て、寝てるのかよ。


ガルムは苦笑して、いつの間にか自分の左腕を枕にして眠っているムームにジャケットをかけてやる。
「このバカ女が。自分から聞いといて寝るか、普通。たく、昔の俺なら俺様が話してる途中で寝るようなバカ女は殺してるところだ。命拾いしたな」と、ガルムは涎を垂らしながら眠るムームーの額を軽く指で突く。
ガルムは「ん~」とむずがるムームに苦笑し、「馬鹿な女だ。さて、明日は仕事があるってのに、これじゃぁ、左腕が痺れちまうが、まぁいいか」目を閉じた。


そして、俺はまた全てを失った。
馬鹿だが愉快な仲間の乗った輸送車両も、馬鹿で生意気で可愛くもなかったがいい女だったムームも守れなかった。
当然だ。相手は、ジナイーダ。一目見た瞬間に解った。この女はあいつと同類の本物だ。俺達がいくら群がったところで勝てはしない。
…逃げるべきだ。幸い距離がある。今なら振り返ってOBを使用すれば逃げられる。
逃げるべきだ。仇なんざとれるわけがない。俺が突っ込んでも死体が増えるだけだ。
逃げるべきだ。最初からそのつもりだったろう。適当な所でこいつらを盾にして逃げようと計画していたはずだ。
逃げるべきだ。元よりいつかこうなるのは解っていた。運に任せた行き当たりばったりでこれまで生き延びていた事が奇跡なんだ。いつか終わる事は解っていた。
……あぁ、だけど。だけど、俺は終わりを一秒でも長引かせる為に鎬を削っていたのではないのか?終わりがこないでいつまでも今が続く事を祈っていたんじゃないのか?
「おぉおぉおおおおおおおぉおお!!!!」逃げるべきだと頭では解っているのに、体は勝手に雄叫びをあげてジナイーダにOBを吹かして突撃していた。
迸る感情のままにろくに狙いをつけずに左右の武器に加えてエクステンションまで乱射する。
はははは!何をやっているんだ俺は!自殺行為だ!勝てるわけがない!
ほら、奇襲に面食らってエクステンションに当たってジナイーダが炎に包まれた今が最後のチャンスだ。まだ間に合う。このままOBを続けて逃げろ!

あいつ等は、気のいい馬鹿だった。生きる気力を失った俺の世話を焼き、俺がガルムだと知ってもお頭の子分だから俺達の仲間だと恐れる事も疑う事もなく、むしろACの整備や作戦について聞いてきやがった。
いや、疑う頭がない馬鹿なんだ。だから、断るのもめんどくさかった俺が適当に答えたアドヴァイスに感謝して、慕ったんだ。
はははは!本当に馬鹿だ!死んで当然だ!ちくしょう!!!

「あぁあああああ!!!」足を止めて冷却の為に動きが鈍ったジナイーダに追撃をかける。
だが、『面白い』の声と共にジナイーダは紙一重で俺の攻撃をかわす。
ほらみろ!冷却の為に鈍い動きでこれだ。勝てるわけがない。逃げろ!逃げろ!今から逃げても間に合わんかもしれんが、このままここにいたら100%殺されるぞ!

ムームは馬鹿共の頭だけあって、やっぱり馬鹿な女だった。
そもそも俺を拾った経緯が馬鹿げてる。
ハイエナしにきて、部下が大量の戦利品を見つけたのに自分は俺以外何も見つけられず、その事を部下にからかわれて見栄を張って俺を最高のお宝である人材と見抜いたから私が一番と虚勢を張って、引くに引けなくなって副長に任命しやがった。
そして、集団を率いてるのに残弾はおろか食料がどれくらいあるのかも把握していない、獲物の戦力も調べないというか獲物を探しもしない、適当にうろついて目についた相手を襲うという信じられない無計画。やっぱり馬鹿だ。
しょうがないから、俺が組織の内情を把握して、獲物の情報を集めて、損害が出ないように作戦を立ててやると、「流石あたしが発見した副長!これからは全部任せた!」って全部丸投げしやがった。馬鹿すぎる。俺がその気になったら乗っ取る事は簡単だったてのに。
戦闘にしてもそうだ。俺が馬鹿が理解できるように何度も何度も説明してやったのに、結局始まったら突撃しやがる。おかげで俺がどれくらい苦労したか。
料理もできない。片づけないから部屋が散らかりっぱなし。服を脱いだら脱ぎぱなし、何度言ってもシャワーを浴びた後に体をふかないで出てくるから部屋とベットがグショグショ。俺は仕事をしてるのに暇だとかまえと絡んできやがる。
俺が拒否しても、構わず迫ってくる。しかも自分優先で我儘で下手糞。3回はイかないと満足しない。フェラすれば5回に1回は歯を立てやがる。自分の周期も確認せずに膣出しをねだる。
はははは!何から何までしょうがねぇ!馬鹿すぎる!死んで当然だ、馬鹿女!

「くそがぁ!」冷却が終了し、縦横無尽に動き回るジナイーダが捉えられない。
ジナイーダの攻撃でニフルへイムの装甲が凄まじい勢いで削られていく。
ほれ見た事か!勝てる相手じゃない!降伏しよう。もしかしたら、許してくれるかもしれない。

馬鹿な奴らだった。死んで当然だった!でも気のいい愉快な奴らだった。
俺は、そんなあいつ等をいつの間にか仲間だと思ってたんだ!助けたいって、一緒に生きていたいと思ってたんだ!
馬鹿で生意気で可愛くもない、我儘で子供っぱい女だった!死んで当然だった!でも、いい女だった!笑い顔が素敵だった!抱いた後すがりついてくるのがたまらなく愛おしかった!
そうだ!俺はムームを愛していた!一緒にいたかった!家族になりたかった!愛していたんだ!

「それを奪ったお前を許せるわ『終わりだ』
ジナイーダの放ったロケットがモニター一杯に映った次の瞬間、衝撃と熱が俺の意識を刈り取った。


どれくらいたったのだろうか?俺はぐしゃぐしゃになったコックピットの中で目を覚ました。
奇跡的に軽傷だったので、緊急解放ボタンも効かなくないほどひしゃげたコックピットハッチを蹴とばし、外に出る。
周囲には誰もいなかった。
ジナイーダも、バーッテクスの姿も。仲間も。ムームも。

重い足を引きずってスクラップになった輸送車両にと向かう。
全ての輸送車両を確認したが、誰もいなかった。
あったのは、見慣れた死体だけだった。
馬鹿な仲間はもう二度と馬鹿をする事はない。

溜息を吐いて首を振り、METISへと向かう。
あぁ、俺のニフルへイムに負けず劣らず酷い状況だ。こりゃぁ、修理は無理だな。取れる部品もない。スクラップだ。
外部のコックピットハッチ強制解放ボタンを押すが、反応がないので、ひしゃげたハッチに手を懸け力任せに引き開ける。

そこにあったのは、機械とシートと人肉が適度に混じったミンチだった。
面白いものを探すようにクリクリとよく動いた目も、夕日みたいでしょと自慢していた少しパーマが入った赤い髪も、似合わないピアスが付いた耳も、虫歯がない事を自慢していた歯も、普通と言い張った貧相な胸も、腕も足も何もかももうどれだかわからない。

…奇跡なんて信じた事はない。こうなる事は解っていた。予感がしていた。
それでもどこかで祈っていた。俺が生き残ったのだからムームも生きてるんじゃないかって。
それでもどこかで期待してた。開けた瞬間に「遅い!早く助けろ!」ってむくれたムームの顔が見れるんじゃないかって。

もうムームが馬鹿を言う事はない。我儘で俺を振り回す事はない。
全身から力が抜ける。立っていられなくなって崩れ落ちる。
もうムームは二度と笑わない。話さない。
よろよろと這ってかつてムームだった死体を抱き締める。
抱きしめた死体は、まだ温かかった。
何かがこみ上げる。もう駄目だった。

その日俺は、生まれて初めて泣いた。


後書き
某所からの移送です。良ければ読んでください。
新規投稿一発目の小説をエロやホモにするのはアレなんで、アタイにしては珍しく真面目な話しを最初に移送しました。
それでは、GW中にあと66本移送しないといけない事に絶望しつつお別れです


「ねーねーねー!あたしの事好き?愛してる?」
「は?いきなりなんだ?俺は仕事中だ、後にしろ、馬鹿」
「いいから答えろよ~!あたしはガルムの事をすっごい愛してるの!」
「うぜぇな、この馬鹿女。はいはい。好きだよ。愛してる」
「心が籠ってない!あたしはガルムの事超好きなのに、ガルムがそんなならあたしが負けたみたいじゃんか~!もっかい!やり直し!」
「だぁあ~~!!後にしろって言ってるだろ!明日の襲撃が出来なくても知らんぞ!」
「いいからいえいえいえいえ~~!心をこめて愛してるって好きだって言え~!!」
「あ~もう!泣くな!駄々をこねるな!噛みつくな!首を絞めるな!子供かお前は!この馬鹿!!」
「う~!!!」
「はぁ。睨むなよ、馬鹿。仕方ねえなぁ。一度しか言わないから良く聞けよ。…愛してるよ」
「えへへ~。あたしも~」
「…知ってるよ、馬鹿女」


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神の子は言った。左の胸を揉まれたら右の胸をはだけなさい、と。
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