《ウォーニング!!》

この作品は異性間に於ける性交を主軸とした小説です。

 
 
 
 

 
 
 
 

Written by 仕事人


【ケモノのスミカ レギュ02 《セックス・ピストルズ》】

 朝である。
 陽光を浴びた小鳥達が楽しそうに囀り、舞うように飛んでいる。
 鳥達の眼下では草木が光合成によって酸素を産み出し、大気に潤いを与える。
 大きく厚い雲が天空を占有するように流れていくが、決して太陽を隠すことはない。
 そんな風景を見れば、大多数の人が「今日は良い日になりそうだ」と楽しい気分になれる筈だ。
 しかし、どんな天候であろうと、どんな時間帯であろうと、其の大多数の中に入らない者達も勿論、極少数ながら世の中には居るものである。

「――いい加減にしろッ!」
 スミカは激怒していた。必ず、かの邪知暴虐な男を叱らなければと決意していた。
 そう考えた結果、窓の外の小鳥達が蜘蛛の子を散らした程の怒鳴り声を上げているのである。
「……」
 仁王立ちの彼女の足元には正座している少年。
 彼の尻から伸びる尻尾は怒られて落ち込む心を表すように、ぺたりと床に垂れ下がっている。
 前述の男とは此の少年のことである。だが、先の邪知暴虐というのはちょっと言い過ぎだ。彼はほんの少しだけ自分を抑えられなかっただけなのだから。
「今日で三日連続だぞ! 合計なら十回だ!」
 口角泡を飛ばす、とは正にこのことであろう。
 怒っているスミカ自身も、怒られている彼にしても、気が荒いことは認識しているが、ここまで激昂しているのも珍しい。今の彼女を録画して、口から火、または破壊光線を吐いているように加工したとしても、似合いそうな程の表情で唾を撒き散らしている。
 さて、ではそろそろ本題に入ろう。
 何故、彼女はここまで怒りを露にしているのかと云うと。
「いいか、もう一度だけ言うぞ……! 私が起きていないのに……」
 そこまで言いかけて言葉が淀んだのは――恥ずかしい為である。
「……私が起きていないのに……“する”のは、やめろッ!」
 ここで彼らの服装について少し言及するとしよう。
 先ず正座している少年は有り体に言うと、何も着ていない。所謂スッポンポンだ。
そして、仁王立ちで腕を組んでいるスミカの方は、前が全開になっているYシャツ一枚切り。付け加えておくと、此れが彼女の寝巻きである。
 しかし、シャツの下には黒のブラジャーが透けて見えるのだが、下半身に何も着ていない。
 スカートやズボンを履いていないと云う意味ではなく――其れも含めまれるが――ショーツも履いていないので局部を外気に晒している。
 補足すると、彼女が寝る前には着けていた筈の其れはベッドの上に転がっている。また、他にも黒のハイソックスを履いてはいるが、在るか無しかは余り関係無いだろう。
 つまり、スミカは彼の手によって――ほぼ裸に引ん剥かれたのである。

 凡そ一時間前、スミカは夢の中にいた。
 すると、静かにドアがゆっくりと開き、忍び足で少年が部屋への侵入を開始。
 ベッドの傍で着ていたもの――此の時点で既にトランクス一枚だけだったが――を脱ぎ捨てると、そっとベッドの上に乗った。
 そして、掛け布団の中に潜り込み、横向きで寝ているスミカの肩に手を掛け、仰向けにしてから彼女の腰を持ち上げると、慣れ切った手付きで、するりと黒のショーツを取り去った。
 隠す物が無くなった彼女の股間に鼻を寄せて、空気を何度も何度も取り込む。鼻腔に凝縮された彼女の体臭が充満していき、惚けたように、ほうと吐息を漏らすと、其の温かで緩い空気の流れがスミカの股間を擽った。
「ん……」
 覚醒とは程遠い意識の中でも、彼女の身体は快感に身を震わせ、喉から甘い声を漏らした。
 既に早朝とはいえ、夜這いを掛けている今の状況。普通なら、少しでも相手が動きを見せたなら、起こさぬように慎重になるものである。
 だが、少年は幾度もの経験によってスミカは此の程度では起きないと云う事を知っているので、全く気にすることなく、行為を進めるのだった。
 鼻を寄せていた状態から、少し顎を上げて口を近づけると、何の躊躇いもなく、べろりと舌で秘所全体を舐め上げた。
 べっとりと唾液が陰唇に纏わり付くと、其の膜を押し出すように、じわりと膣から液が僅かに染み出てきた。
「はぁ、あ……」
 眠りながらも刺激に耐えるように、ぎゅっと眼を瞑ったスミカの顔を一瞥してから、何の躊躇も無く、寧ろ覚醒を促さんばかりに、ジュルジュルと大きな音を立てて花肉を吸い上げて、自身の唾液混じりの愛液を口中に吸い出した。
「ふぁ……あ、ンっ……」
 刺激によって益々溢れて来る液を更に音を大きくして吸引しても、スミカはを起きる気配を見せない。身体に力も入っていないのだが、其れとは対照的に秘裂は、ヒクヒクと反応していた。
 そんな様子を見てしまっては、此れだけで終わらす事など出来ず――また、そんなつもりも最初から無く――身体を起こした少年は、スミカの丸出しの下腹部と同様に、剥き出しの自身の一物を握り締め、擦り付け始めた。二つの粘液の混合物を、じっくりと練り込んで行った。
「あ……」
 そして、充血した亀頭を、開き気味になった膣口に宛がって――奥底まで一気に押し込んだ。
「――あぁうぅンっ?!」
 肉同士がぶつかり、身体の深い場所を突き上げられては、スミカも流石に眼が覚めた。
 起床早々、出し抜けに脳髄まで走った快感に、全身を棒のように、ピンと張り詰めらせた。
「起き、ました?」
「起きたか、じゃ、ない……っ! 何をして……あンっ!」
「シて、るんですよ・・・っ」
 スミカから睨む視線と怒る言葉を向けられながらも、矢張り、嬌声を上げる、身体を震わせると云った反応を見ると快感も一入に高くなり、少年は抽迭の速度を上げ出した。
「やめ、ろっ、もう……っ!」
 少年が絶頂に向かおうとしているのを感じ取り、止めさせようとして、スミカは身体を押し退けようとしたが、其れは“引く抜く”を強くするだけに終わり、寧ろ快感は増した。更に覚醒と同時に一気に訪れた強い快感に抗うことは難しかったらしく、彼女にもまた限界は迫っていた。
「もう……出ます……っ!」
 せめてもの想いだったのだろう。最期の間際に少年はスミカに一声掛けたが、
「あァっ! ン、ン、ンっ! 中は、ダメぇ・・・」
「ごめんなさい……無理、ですっ」
 結局は、制しようとする声も、押し退けようとする手も無視して、再び最奥に突き込むと――
「――くうっ、うぅ……っ!」
「――はァァうっ!」
 直後、二人の身体は快感によって打ち震えた。
 但し、一人は純粋な満足感の中で、もう一人は憤怒交じりの中で――。

「はぁ……はぁ……はぁ……」
 荒い息遣いと共に、少年はスミカの身体の上に凭れ掛かった。
 少し経って、息を整えてから、彼女にキスをしようと、面と上体を持ち上げると、
「――っ」
 スミカは眼に涙を浮かべて、彼を睨んでいた。
 こう云う場合、当然だが、睨まれるのはいつもの事である。
 怒りを和らげるように、いつも彼は「綺麗だった」とか、「気持ちよかったですか」などと惚けるスミカの耳元で囁いて、彼女を落ち着かせたり、もう一回戦に持ち込むのが常であるのだが、今回ばかりはそうも出来そうに無かった。
 スミカの眼にはいつもの怒りだけではなく、侮蔑のような感情までもが含まれていたのだ。
 其の眼を見て、少年が怯んでいると、振り抜かれた手で頬を張られた。
 そうして、万力の力で突き飛ばされて――今の状況、と云う訳だ。

「私は、お前のなんだ?! 只の性処理道具か?!」
 そう聞かれて「恋人です」と気の利いた返答が出来る訳もなく、言ったら言ったで、と云うより何を言ったとしても更に怒りを買うことは明白で、少年は黙っているしかない。
 大抵、スミカが怒る時というのは、正に嵐の如く、直ぐに頂点を迎え、直ぐに消えて行くものなのだが、今まで堪った怒りが此処に来て爆発したのだろう。既に20分は怒鳴り続けている。
 尤も、今まで彼女が彼を叱って来たのは、あくまでも、人型兵器《ネクスト》を操縦する傭兵《リンクス》の師匠としてであり、若しくは戦闘時にサポートするオペレーターとして、或いは彼の傭兵業を管理するマネージャーとしてであった。
 今は一人の女として怒っている訳だから、本来の彼女はこうだと捉える事も出来るだろう。
 説教、と云うよりは罵倒が終わってからは勿論、其の日の内はおろか、日付けが変わっても、スミカの機嫌が悪いのは続いた。少年は彼女の身体を求める処か、触れる事さえも出来なかった。延いては声を掛けるのも躊躇われる程だった。
 例えば朝に挨拶しても、言葉は返って来ないし、眼を合わせようともしない。
 其れ程に怒っているのだと理解した彼だが、スミカは謝罪するチャンスさえ与えてくれず、後悔と不安、そして寂しさに心が締め付けられる日々を送る事となった。

「――準備できたか?」
 一週間近くが経った在る日。二人は、リンクスとリンクスが仮想空間上で戦闘する《オーダーマッチ》をする為に、リンクスを管理する機関《カラード》の本部へ向かおうとしていた。
 出掛ける直前、スミカは少年にそう言ったものの、ぶっきらぼうな声だった。
 例の件が未だ尾を曳いていて、顔を合わせもせずに、投げ掛けただけだったが――少年からの返事がなかったので、スミカは仕方なく振り返った。
 初めて二人が身体を重ねた日まで、彼は全く喋る事が出来なかったので、慣れてはいる。だが、其れ以降は言葉での意思疎通が図れるようになり、またm今まで喋れなかったからなのだろう、彼は積極的にそうしている。
 此の一週間、相手にもしなかったことを拗ねているのかと思ったが、今までそんな素振りを見せた事が無かったので、怪訝そうに振り返った彼女が見たのは――普段通りの少年であった。
 しかし、彼の顔が何処となく赤い気がして、熱でも出したかなと思って「風邪か?」と声を掛けながら、額に手を伸ばそうとしたら、
「――へ、平気です」
 手が近づいて来るのを見た少年は、怯えたように身体を強張らせ、後ずさった。
 何にも触れることの無かった手から、何かが滑り落ちてしまったような空虚な感触を感じながら、スミカはゆっくりと手を引っ込めた。
「……そう、か」
 身体は向かい合っているが、視線を合わせる事に抵抗を感じながら、スミカは喉につかえるような息苦しさを掻き消すように、急いで彼に背を向けるのだった。

 カラードのエレベーターの中、スミカは独り、壁に寄り掛かって溜息を吐いていた。
 乗る直前に彼は「トイレに行ってきます」と言ったので、シミュレータールームがある階層へは一先ず彼女だけが向かっている。
 カラードに来るまでの広い飛行機の中は息苦しかった。こんなに狭い室内では尚更の筈なのに、そうではない。だから、吐き出した溜息は、肌を寄せ合わざるを得ない場所で、二人きりにならなくて良かったと思ってしまった自分に向けられたものだ。
 エレベーターの壁に掛けてある鏡に映る自分を見て、スミカは自分を責めていた。
 そう云う盛りなのだから、抑え切れないのは当たり前ではないか――と。
 確かに性欲を晴らすという目的もあるだろう。其れでも、行為の最中に自分への想いを余す事無く伝えてくれていたではないか――と。
 一週間前までなら、実際に抱いているかのように想い出す事の出来た体温も、今は何処かに消えてしまったように、感じられない。
 只、熱も冷たさもない空気に包まれたスミカは何年か振りに――涙を流した。
 ――帰ったら許してやろう。
 其の決意だけが、空虚で埋まる箱の中の彼女の心を埋め尽くしていた。

 目的の階に着き、エレベーターのドアが、チンと甲高い電子音と共に開く。と、同時に、スミカは今日のオーダーマッチの相手の姿を捉えた。
 其の人物が居るべきシミュレータールームではなく、何故かエレベーターホールに居る事に疑問を感じながらも、声を掛ける。
「CUBEか?」
「はい。そうです。あなたは?」
 今、トイレに行っている少年以上に肌が白い――と云うよりも、病的に青白い――CUBEは何か考え事をしていたのだろう、顎に手を当てて俯いていたが、呼び掛けられて頭を上げた。
「今日のお前の対戦相手のオペレーターの、セレン・ヘイズだ」
 スミカは、そう名乗ったが、無論、セレン・ヘイズと云うのは偽名だ。
 少年やCUBEと同様に、嘗てリンクスであった。しかも、リンクスとネクストの価値を世にしらしめ、国家から《企業》が世界を支配するに至った戦争、《国家解体戦争》の英雄の一人だ。
 其の過去を隠す為に、また、当時、所属していた旧《レオーネ》、現《インテリオル・ユニオン》から殆ど出奔したのもあって、公の場では偽名を使っている。
 昔はリンクスだったと云うだけの、古巣に刃向かうつもり意思表示の名を次げた瞬間だった。
 探し物を見つけたように眼を見開いたCUBEが、ずいとスミカににじり寄って来た。
 只ならぬ雰囲気にスミカは身構えるも、CUBEの表情をよく見ると、とてつもない焦りを感じていることに気付いた。
「“彼”は……?!」
 骨張った身体から思われぬ程の迫力で問い質されて「今、トイレに行っているが……」と気圧されながら返すと、CUBEは「そうですか……」と先程よりは落ち着いたが、表情には尚も焦燥感が滲み出ている。
 スミカはCUBEにばかり眼が行っていたが、其の背後に、彼の所属するアスピナの関係者らしき女性が、やはり彼同様に切羽詰った表情をしているのを見止めた。。
 なんなんだ――と二人に不審の目を向けると、CUBEの背後の女性が急に質問をしてきた。
「突然で、しかも、不躾で、大変に申し訳ありませんが――彼が独立傭兵であると云う事は、つまり、貴女と同棲している、または、其れに近い環境ですね?」
「え? あ、ああ。そうだが」
 すると、女性は更に質問を重ねる。其れも聞く理由が分からないような質問を。
「失礼ですが――あなたと彼の関係は?」
 スミカは「は?」と、はっきりと厳しい声を出した。
 偶然にも、朝からの事もあるので、苛立ちを隠そうという考えが出る事もない。
 一体何が言いたいのか、それにそんなことを聞かれる筋合いはない――そう言おうとすると、
「仰りたい事は分かります。ですが――此れは貴方の安全の為に聞いているのです」
 早口の言葉で怒りの言葉が遮られたと噛み締める暇も無く、スミカは「私の、安全?」と呟く。
 益々、訳が分からなくなり、同意を求めるように少年に視線と言葉を向けようとしたが――此処に、彼は居ない事を思い出した。

 スミカがCUBE達と話している頃、一階では話題の当人が濡れた手をハンカチで拭きながら、そして俯きながら、トイレから出て来た処であった。
 更に彼の顔には水滴が滴っている。
 顔が濡れているのは、手洗い場の水道水で顔を洗ったからだが、それは熱の篭った顔を冷やすためでもあり――気を落ち着かせるためのものでもある。
 朝から落ち着かず、身体中が火照っている。と云っても病気ではない。
 確かに体温も平温よりは高いかもしれないが、少なくとも、病気とは言い難い。
 磨かれた床に映る、上気した自分の顔を見詰めて、少年は、もう一度、重い溜息を吐く。
 ――自分の身体に何が起こっているかは自身がよく理解しているし、ソレは、しょうがないことなのだとアスピナの人達も言っていた。
 ――だが、そのせいで、出発前にスミカの酷いことをしてしまい、傷付かせてしまった。
 そのように彼が自分に怒りを抱いていた時であった。
「だ~れだっ」
 女性の声と共に視界が塞がれた。
 しかし、此の異様な状を、少年は何度も体験している。
 彼の身長より頭一つ高く、背後から抱き締めるようにしているのは、同じリンクスであり、企業の一つ《GA》に所属するメイ・グリンフィールドだ。
 以前、協働した際に彼女は美少年にして純朴な性格の少年を、それはいたく気に入ったらしく、以降、今のように見掛けると、いつも、今のようにじゃれてくるのだ。
「ひさしぶり~。元気してた? 尻尾君」
 尻尾君、と云うのは、その協働の際、輸送機のロッカールームで、普段は隠している彼の尻尾を偶然に見てしまったメイが付けたニックネームだ。
 他の人間には意味が分からないだろう、其のニックネームは、彼女からすれば、共有の秘密を得たようで何処か嬉しいものだった。
 とは云え、何も少年に対して特別な感情、例えば恋愛感情を抱いている訳ではない。
 彼のような少年というのは彼女にとっては良い遊び道具のようなものだ。
 遊び道具と言ったが、勿論、此れにも他意はない。
 見た目は可愛らしい上に、ちょっと過度なスキンシップを取ると、顔を真っ赤にして恥かしがる反応が面白い。近所に住んでいて、昔から知っている弟のような存在とでも云えばいいだろうか。
 抱き着くと、彼は困惑して何も出来なくなるのも、いつものことで、更には、背を向けている彼を前に向かせて真正面から抱き締めて、よしよしと頭を撫でる――こうなると、弟扱していると云うよりも、小動物扱いしていると云った方が正しいかもしれない。
 特に正面から抱き締めると、少年は全く微動だにしなくなる。
 そうと云うのも、メイは本人もそう自負するほどの(自慢はしていない)、豊満な――そんな表現では収まりきらない程の――大きな乳房を持っているからだ。
 此の場合、頭一つ小さい少年を抱き締めれば、丁度、彼の顔が、其の大きな二つの膨らみの谷間に埋もれる。
 初めてこうした時には顔を真っ赤にして、メイの腕と胸の間で身体をばたつかせたものである。
 其の時も、其の以外でも、彼と共に居るスミカが――メイにとってはセレンだが――少年を引き剥がすので、揶揄うのは直ぐ終わってしまうのが常である。
 今日に限って云えば、珍しく少年とは別行動を取っているセレンと先程擦れ違い、彼女から「トイレに行っている」と聞いたので待ち伏せしていたのだ。
 セレンが居ないのをいい事に、メイはちょっとした悪戯心でいつもより少しだけ腕の力を強くしつつ、更に胸を前方に突き出して「尻尾君に会えなくて寂しかったぞ~」などと言ってやる。
 むぅと谷間の中で息苦しそうに唸りながら、逃れようと身体をばたつかせて、上手く逃れた暁には、其の綺麗な顔を耳まで真っ赤にしているだろう――と云うのがメイの予想であったが、
「……あれ?」
 微動だにせず、立ち尽くした侭である。
 息苦しさと恥かしさから悶える少年に、何かしら揶揄いの言葉を掛けようと思っていたので、何の反応も無くて、メイは間の抜けた声を上げた。
 まさか、本当に窒息してしまったのではないかと、本気で不安になった時であった。
「――っ!」
 直後、少年の口から聞いたことのない――しかし、他の異性、他の男の口からならば聞き覚えのある――苦悶の呻き声が胸の谷間の中から漏れ出した。
 更には、彼の小柄な身体が二、三度痙攣するように震え出したばかりか、下腹の辺りに、じわじわじと熱と湿り気が広がりつつある。
「え……えっ?!」
 メイは其の現象が何を意味するのか分かってはいるものの、本当なのかと半信半疑の疑惑と混ざった驚愕の声を上げる。そして、弾かれたように抱擁を解いてから、俯きながら突っ立っている少年と、自分の腹を完全に視界の中に収めた。
「ちょ・・・ちょっと、こっち来て!」
 ――洗わないと。水。水道。何処。そうだ。トイレ。
 断片的に嗜好が渦巻いた後、突っ立っている侭の少年の手を取って、女子トイレ――の前で立ち止まり、少年を見遣って、視線を右往左往させてから、決意して、男子トイレに引き込んだ。
 有無を言わさぬ勢いで、掴まれて身体ごと引っ張られる少年の手から、先程まで水気を拭いていたハンカチが離れて、はらはらと舞いながら床に落ちた。

(……気まずいな~)
 自分が持っていたポケットティッシュの中身を全て水で濡らし、半分を少年に渡して、男子トイレの個室に入るように促してから数分。
 彼が入っている個室のドアを横目で見つつ、メイは調子に乗り過ぎた自分を戒めながら、小分けにしたティッシュの残りの半分で、腹を拭っていた。
(人、来ないわよね……?)
 腹を拭ったティッシュを彼の隣の個室で流した後、たっぷりのハンドウォッシュで泡だらけになった手を洗いながら、今度はトイレ自体の入り口を横目で見遣る。
 カラードの一階は受付と食堂ぐらいしかない。食堂が混雑しないように職員の昼食時間は部署によってばらけているが、今はどの時間帯にも当てはまらない。とはいえ、もしも、誰かが入ってきたら何と言い訳すればいいのか。
 付着した臭いを消すように、何度も同じことを繰り返しながらメイは嘆息する。
 今の状況、そして、彼の年齢を考えなかった自分に呆れる一方で――距離を置かれたら、寂しいな――等とも考えて、洗面台に突っ伏すように俯きながら、再び重い溜息が漏れ出る。
 息を吐く声が消えると同時に、ふと背後に気配を感じて、視線を上げようとしたが――、
「きゃあっ……?!」

「――何だと?」
 メイが小さく悲鳴を上げた時から遡ること凡そ五分前。
 自分自身の安全に関わる事と、そう聞かされた話だったが、内容の突拍子の無さに、セレンは不信感も露らに聞き返した。
「ですから、彼はそろそろ――“発情期”に入る、と、言いました」
 二度聞かされても「はぁ……」としかスミカは答えられなかった。
 ソレがそんなにも危険のように思えなかったからだ。
 確かに少年は性欲が強い。しかし、若さから来るものだろう。
 最近、彼と距離を置くようになってしまったのも、ソレが原因とはいえ、先程エレベーターの中で、ソノ事について彼と話し合う決心をしていたと云うのもある。
 しかし、そんなスミカに対して、アスピナの二人は以前、緊張した面持ちだ。
「……セレン・ヘイズさん。貴女は、事態の重さが分かっていらっしゃらないようです」
「いや、そう言われてもな」
 業を煮やしたと言わんばかりに、二人は殆ど同時に溜息を吐くと、CUBEが意を決したように、何とも重苦しそうに口を開いた。
「いいでしょう、では実際に彼が起こした“事件”の事をお話します」
「事件?」
事件という、どうにも穏やかではない単語が出てきた瞬間、スミカは危険と云うものを、片鱗ではあるが、心の片隅で理解し始めていた。

「――アスピナに彼が居た頃の事です。職員とは余りコミニュケーションを取ろうとしなかった彼ですが、彼女だけには懐いていました」
 CUBEはそう言うと、ちらと視線と背後を見遣った。
 つまり、前に、此の女性が、少年の世話をしていたのだろう。
「そして、或る日。いつものように彼女が部屋の中に入ったのですが、彼は部屋の隅に隠れるように座っていました。何かあったのかと、心配した彼女が彼の肩に手を掛けた瞬間・・・」
 そこからはスミカも聞かなくても分かる話だった。恐らくは彼女に圧し掛かるなり、押し倒すなり――襲い掛かったか、襲い掛かろうとしたのだろう。
 成る程、と云う風に頷き、考え込むように俯いたスミカだったが、より暗くなった口調で「……まだ続きがあります」とCUBEが続けたのを聞いて「え?」と言いながら直ぐに顔を上げた。
「他の職員が彼を引き離したので彼女には何事もありませんでした。其の後、職員が自分で処理する方法を教えました。しかし……」
「しかし……?」
「何度“しても”、一向に収まる気配が無かったそうです。数回の話ではありません、突然の事にアスピナも回数を把握出来た訳ではありませんが――恐らく、数十回にも昇るでしょう」
「な……っ?!」
 驚愕した処の話ではない。有り得ないとさえ思う程の回数だ。
「投薬によって性欲を抑えようとも試みたのですが、常人なら一回の服用で三日は何もする気はなくなるような薬でも、二時間も持ちませんでした。どうしようもなく、急遽――下品で申し訳ありません――”そう云う道具”を取り寄せる事で、何とか発散させることは出来たのですが、”使い捨て”ではないタイプの物を、僅か一日で幾つも廃棄させたぐらいです」
 スミカは唖然としながら話を聞いていた。そして、何が危険なのかを、まざまざと理解した。
 少年との行為を数回もすれば、体力が続かなくなる。十回ですら無理だと思うのに、ソレの何倍もの回数を重ねたら――考えるだに恐ろしい事である。
「話は分かった――だが、何故すぐに言わなかった?」
「彼が貴女の下に引き取られて以降、情け無い事に……忘れていたのです。先日、古いデータを整理していた職員が発見したらしく、慌てて計算をした処、此の数日中に”ソレ”が来ると云う事が分かりまして。時期が判明したのも、つい、数時間前の事です、知らせようとした時には、既に貴女達は発ってしまっていて……」
 申し訳ないという風に、二人は頭を深く下げる。
「抑える方法はないのか?」
「残念ながら――ですが、或る”法則”が見付かっています」
「法則?」
「発情期を迎えても、直ぐに発散しようとはしません。“スイッチ”が必要になります」
 ソレが何か聞き返そうとスミカが口を開こうとするよりも前に、先にCUBEが言葉を発した。
「異性に触れられる事です」
 瞬間、スミカは、はっと息を呑んだ。
 今日の朝、熱を測ろうと額に触れようとしたら、彼は後ずさって、拒絶した。
 てっきり、自分を拒否したのだと思ったが、実際には違っていたのだ。
 彼は、あの時、”スイッチ”を押させないようにしたのだ。
 真実を、胸に突き刺さるような思い遣りを、知って、スミカが呆然としていると、ふと思い出したようにCUBEが更に言い加えた。忘れていたのも自然で、寧ろ言う必要すら無い事を。
「また、性的魅力が強い異性に触れられた時程、彼は自分を抑えられなくなると思われます」
 ――性的魅力。
 問題が問題だけに当然の事である。だが、単語を頭の中で反芻し、更にスミカは息を呑んだ。
 男が女に劣情する最もポピュラーな要素を持つ人物と先程会ったのを思い出したのだ、
 それも、会った矢先に、其の人物、彼女から、少年に触れるような人物を。
 勢い凄まじくスミカは振り返り、エレベーターのボタンを連打する。
 只事ではない様子にCUBEが「どうしました?!」と声を掛けて来たが、答える余裕は無く、やってきたエレベーターに飛び込むように乗り込んだと同時に、1階のボタンを押して、困惑している背後を二人を置き去りにしてドアを閉めた。
 ――早く、早く!
 焦燥感だけが募っていく中で、何故自分はこんなに焦っているのかとスミカは自問する。
 人が危険に晒されつつある事への一般的な道徳観からの不安は勿論、企業お抱えの人間に手を出してしまった場合、果たして彼は無事でいられるのかと云う危惧だと、結論付けた。
 しかし、もう一つ胸中では、言い知れぬ黒い感情が渦巻いてもいる。
 其れが何であるかが判明するよりも前に、或いは、認めるよりも前に、1階に着いたエレベーターのドアが開き、スミカは無我夢中で飛び出していた。

 スミカは息も絶え絶えになりながら、食堂の近くにあるトイレに着いた。
 恐らく、此の近くだろうと当たりを付けた訳だが、しかし、辿り着いて直ぐに、其の考えの甘さに気付いた。
 少年がトイレに行くと言ってから、既に時間が経っている。同じ場所に居る訳もない。
 其れに、もしかしたら、結局誰に会う事も無く、シミュレータールームに向かっていて、行き違いになった可能性だってあるのだ。
 そうであるなら、いいのだが――と考えていると、足元に落ちている物に気付いた。
 布切れ。だが、只の布ではなかった。
 贈り物とい云う程の物でもないが、少年に与えたハンカチだった。
 ソレを手に取ったスミカは再度、首を振って四方に視線を巡らすが、やや遠くのガラス張りの食堂の中には、まばらに職員達の姿が見えるだけで、どれほど遠くに居ようとも見付けられると自信のある、あの雪のように白い髪は視界の中には無い。
 ――何処だ、何処に居るんだ。
 尚も募る焦燥感が額から汗を噴出させる。
 まるで迷子の子供のように蓄積した不安に、涙が溢れ出そうになった時――“音”が聞こえた。
「ふっ……ふっ……!」
 獣のような息遣いを聞いた瞬間、スミカの背筋を何かが伝って行った。だが、悪寒ではない。
 何度も自分の耳朶を擽った音に、彼女の身体は反射的に反応したのだ。
 スミカは耳を凝らし、音が何処から来ているのかを確かめようとしたが、考えるまでも無い。
 遮蔽物など殆ど皆無にも関わらず、視界の中に居ないと云う事は、直ぐ近くの壁に青い人型が描かれている入り口の向こう、つまり、男子トイレの中に決まっている。
 周囲に人影は全く無いとは云え、スミカは人の目を気にするような素振りも見せず、そもそも、そんな事を考える余裕も無く、中に入って行く。
 一歩足を進める度に、音が大きくなっていくのが、はっきりと分かる。
 壁一面の鏡と洗面台の前を通り、外から死角になるように迫り出している壁の前で、何故か恐る恐ると云う風に、其の先を覗き込むように顔を出す。
 だが、幾つか並んでいる小便器の前には誰も居らず、向かいにある個室に視線を移す。
 一つだけ開け放たれている扉が在り、其の名中からは何かが動いている気配。
「ふぅっ! ふっ、ふぅ、あっ!」
 目前の遮りの向こうから聞こえる、あの、僅かな時の間に、聞き慣れるにまで至った音。
 そして、
「……っ! ……っ」
 ソレ以外の、くぐもった鼻息のような音。
 ――嫌だ。
 スミカの頭に一つの単語だけが、しかし、幾つも幾つもが重なって、浮かぶ。
 何が嫌だったのか。意味を噛み締める事も無く、個室の前に飛び出る。
 眼に入ったのは見覚えのある後姿と、其の背中のせいでどうなっているかはよく見えないが、奥には便器に座っている――否、座らされているのだろう――人物の長い木賊色の髪。
 耳に入ったのは、先程から聞こえている荒い息遣いと、抑え付けられているような声。
 鼻に入ったのは、生臭く、そして青臭い臭い。
 スミカは何も考えず――少年の首筋に手刀を振り下ろした。
 「ぐっ」と苦しそうな声と共に、少年の身体はずるりと床に崩れ落ちると、衝立を取っ払ったように彼の前のものが全貌を現した。
 便器に座っている、座らされているのは、矢張りメイ・グリンフィールドだった。
 快活な人柄で知られ、女子と言ったほうが正しいような女性は、力無く便座に背を預けながら腕を垂れ下げている。
 幸いというべきか下半身の衣服に乱れはない。
 しかし、上着はボタンが弾けて開かれていて、豊満な乳房は剥き出しになっており、白く濁った液体が大量にこびり付いていて、谷間を何筋もの白い糸が結んでいる。
 何処か遠くを見つめている双眸は、上半身全体と同様に、未だ少女の愛嬌を残す整った顔面中はおろか、木賊色の髪にまで付着している液体と同じように濁り、そして、曇っている。
「おい! メイ! 平気か?!」
 床に倒れこむ彼を跨ぎながら、スミカはメイの肩を掴んで揺らすが、反応は無い。
 メイは揺さぶられる侭で、遠くを眺める侭だ。
 揺らす度に身体中の精液が伝い流れ、床や衣服の上に、ぼたぼたと落ちていく。
「おいっ、おいっ!」
 スミカが尚も揺らしながら、口許を半開きにさせている緩んだ頬を弱く叩くと、
「……セレ、ンさん?」
 失神していたのか、呆然としていたのか。目が覚めたらしいメイは顔を上げると、弱々しく、目の前にいるスミカの偽名を口にした。
「大丈夫か?!」
「私……そうだ、彼に……っ」
 何があったかを思い出したのだろう。力なく垂れ下がらせていた腕で穢れ切った身体を抱えながら怯え出したメイは、床に転がる少年に気付いて、息を呑んだ。
「安心しろ、私が失神させた」
 メイは、ほっと安堵の息を漏らしたが、すぐ自分の身体や衣服の凄惨な状態を見て、困惑する。
「どう、して……?」
 顔見知りであるが、彼とは会話した事は無い――出来なかったからだが。しかし、こんな事をする人間ではなかったはずなのに。自分にしたことが信じられない。
 意識を失っている少年に、メイは、何故と、問い質す眼を向けるが、答えは返ってこない。
「言い訳にしかならないが……聞いてくれないか?」
 酷く辛そうな表情を浮かべるスミカが、少年の代わりに答える。

「――そんな、事が……」
 信じられないような話であったが、実際に体験した身であるので、信じざるを得ない、と云うのが、メイの素直な感想だった。
 正直な処、面白半分でしか興味を抱いていなかった少年の身体。だが、其れは彼の苦難の一つなのだと、そう理解してもいた。
「申し訳ない――全ては私の監督不行き届きのせいだ」
 話が終わってから、途中も、セレンは何度も頭を下げていた。
 ――自分はどうなってもいいから、彼のことを許してやってくれ。
 自ずからを卑下し、メイに謝罪しながら、只管に其れだけを嘆願し続けた。
「理由は分かりましたから――顔を上げて下さい」
 頭を下げ続けるスミカに、メイは困ったようにそう言う。
 確かに襲われたのは事実ではあるものの。少年の体質的な事情は理解できたし、スミカにこれだけ言われては咎めようという気にはならない。また、自分がちょっかいを出さなければ、こうはならなかったかもしれないと云う罪悪感めいたものもある。
「すまない……本当にすまない」
 それでもスミカは何度も謝り続けた。
 メイには自分だけにではなく、少年にも向けられているような気がした。

 其の後。連絡を受けたGAの女性社員がトイレの中で身体を拭いていたメイに着替えを持って来て、半径1m内には誰も近寄らせないように付き添われながら、メイはGAの施設に帰って行った。
 暫くしてから遅れてやって来たCUBE達も状況を把握し、意識を失っている彼の肩を担いでいるスミカにある提案をした。
 数日の間、こちらで彼を預かりましょう――と。
 それはデータを採取しようとかではなく、単純な善意だったのだろう。
 しかし、スミカは「こいつは私のリンクスだ」と、そう言って跳ね除けた。
 力強く発せられた返答にCUBEも無理強いする事が出来ず、不安を滲ませながら困惑しつつも、只一言、「彼をお願いします」とだけ言った。
 殊勝な態度が気になって、スミカは問うた。
「――何故、そこまで気に掛けるんだと?」
「アスピナとしては、只でさえ問題の多い当機関の実験体が問題を起こした、と云うのは好ましい事ではありません」
 切って張ったような答えを聞いてスミカは、「そうか」とぶっきらぼうに言葉を返した。
 所詮は面子かと呆れ返って。
 しかし、CUBEは続ける。
「アスピナ出身とはいえ、私と彼に面識はありません。其れでも、仲間だと思っています。だから彼の自由を守りたかったのです。それに――」
 予想外の人間味のある言葉を聞いて、スミカは立ち去ろうとしていた足を止めて、彼を見据えた。
「彼に自由を与えてくれた貴女に感謝していますので」
 そう言うとCUBEは「彼をよろしくお願いします」と言って頭を下げた。
「――わかった。任せろ」
 スミカはそれだけ言うと、ずれ落ち掛けていた少年を担ぎ直して、アジトに帰って行った。

「……う」
 ずきりと首に走る痛みと共に、少年は目が覚めた。
 脳が揺さ振られた結果の、攪拌された意識はまともに思考をさせてはくれない。
 身体の中で炉のように何かが燃えているのだけは知覚できる。
「――起きたか?」
 徐々に明瞭になっていく視界と意識の中で、声の主が誰だかは直ぐに分かった。分かったのだが、少年は、心の何処かで、ぼんやりとした違和感を感じた。
 何故、彼女なんだろうか――と。
 浮んだ疑問の意味は彼自身もよく分からなかった。
 意識を失っていたらしい、では、何故、そうなったのかと自問した瞬間に、違和感の正体を理解した――自分が何をしてしまったのかも。
「平気か?」
「……はい」
 起き上がった彼は先ず、スミカのベッドの上に居る事を確認し、其の感触を懐かしんだ。しかし、直ぐに感慨を払い、ベッドの主に視線を向ける。
「すまん。加減が出来なかった」
 スミカが謝ったのは、首筋に走る痛みだと彼は察した。だが、自分に原因がある事なので「……いえ」と静かに返した。そうして更に自省が起こり、少年は喉を震わせた。
「スミカさん……僕……」
 今にも泣き出しそうな、震える声は、後悔と自責が混じっているもの。
 スミカは「事情はアスピナの連中から聞いている。メイにも其れは話した。アイツは許してくれたよ」と胸中の重荷を取り除く言葉を掛けてやる。
 だが、尚も彼は、眼に涙を浮かべている侭だ。
 椅子に座っていたスミカは立ち上がり、ベッドの上の俯く少年に近寄る。
 すると、朝同様にベッドの上で彼は、壁際まで後ずさり、身を縮めた。
 ――来ないで。
 今度こそは、自分と云う存在への拒絶の意ではないと分かりながらも、少年と云う存在が遠ざかって行く事はスミカに辛さを与えた。
「……僕は」
 身の内から溢れ出す何かを抑え込むように、膝を抱える少年は掠れた声を漏らす。
 俯いた視線の先にある尻尾を見て、自分は人間ではなく、ただの動物なのだと自嘲する。
 ――人間なら、メイのように、自分を可愛がってくれる人に、あんなことをする訳がない。
 ――スミカのように、自分にとって大事な人が、何度も嫌がっていたのに、其れを無視して、無理矢理に行為に及ぼうとする訳がないのだ。
 だから、スミカに嫌われて当然だし、離れるべきなんだ――と。
「……勝手なことを言うな」
 「え?」と言いながら、少年は顔を上げる。言葉には出していなかったのに、と思って。
 しかし、どのようにかは彼には分からないとは云え、自身を心の中で卑下しているのだと、だから、自分には相応しくないとまで思っていることが直感的に分かったスミカは小さな声だったが、其れでも怒気を孕んだ声音で否定しながら、ベッドの上に乗り出す。
 其れを見て、少年はスミカから離れるように壁に引っ付く。
「……来ないで、下さい。僕はスミカさんを……」
 ――傷付けたくない。
 彼女を、そうしてしまう事が恐ろしい。
 身体を丸め、膝と腹の間に顔を埋めて、一歩一歩、ベッドを軋ませる音と共に近寄ってくるスミカを見ないようにする。
 触れられてしまえば、恐怖が現実となる。
 やがて、直ぐ目の前に彼女が接近し、手を伸ばしてくる気配を感じ取って、より一層、身体を縮こまらせる。此の場から己と云う存在を消そうとばかりに。
 しかし、どれだけ強く願おうとも、消えられる訳も無い。
「……っ」
 いよいよ迫って来る気配に、少年は息を詰まらせる――其の瞬間、
「私が……」
 スミカは触れようとしていた手を止めた。
「今、何を感じているか、分かるか?」
 そう聞かれて、少年は顔を上げる。しかし、質問の答えは分からず、首を横に振る。
「……嫉妬だ。これが、どういう意味か分かるか」
 言葉の意味は兎も角、何故かが分からず、もう一度、首を横に振る。
 すると、スミカは深く一つ息を吸い込んでから、其の意味を語り出した。
「私以外の女に、お前が欲情した事にだ。抱きたいのなら、そう言えばいい」
「でも、前にスミカさんが……」
「それは、お前が私の同意を得る事をしなかったからだ。いいか、私はお前と一緒に――」
 そこで止めて、スミカはずいと顔を寄せる。
 反射的に叱られると思い、少年は眼を瞑る。
 だが、何も言われないので、恐る恐る、ゆっくりと瞼を開けて行くと――真剣な眼差や面持とは裏腹に、ほんのりと頬を赤く染め、息を荒くして、何処か妖しげな雰囲気のスミカがいた。
「……感じたいんだ」
 其れだけ言うと、スミカは呆然とする少年の唇を奪った。
 一週間振りのキスを十二分に味わおうと云う風に、舌を、唇を、唾液を貪る。
「ふぅ、ン……ンむ……」
 離れなければと思いつつも、壁を背にしている少年は逃れられない。
 勿論、物理的な原因ばかりでもない。
 頭に靄が掛かって行くような心持に耽りつつある。だが、不意に、身体の中で鎌首をもたげ出したものを感じて、少年は躊躇いを覚えながらもスミカを突き飛ばす。
「知ってる、でしょう? 僕が前にどうなったか……このままじゃ、僕は……」
 何十回もしなければ収まらない――其れを言おうとしたのだが、突き飛ばされた侭の体勢のスミカのタイトスカートの中のショーツが見えた事で、言い澱んでしまった。
 薄い布の裏に隠れているモノの事を想像した――と云うのもあるが、黒い布地の中心に染みが出来ているのに気付いたからだ。
「他の女と……」
 完全にスミカの下腹部に気を向けていた少年だったが、何処か虚ろな声音に顔を上げる。
「お前が、他の女とするぐらいなら……」
 スミカの顔が徐々に、更に上気していき、呼吸が荒くなっていく。
「私は壊されたって……滅茶苦茶にされたって、いい」
 ――お前になら。
 最後の一言は濡れた眼で伝えると、スミカは突き飛ばされた事で開いていた両脚を、自ら更に開いて、スカートの中に手を入れる。同時に、ショーツをずらしながら、再び少年に密着する。
 獣のような息遣いと共に、彼の身体の前面に、突き出ている胸を押し付け、テントのように張り詰めている股間に秘裂を擦り付ける。
 座りながらも、劣情を抑えようとして、快感に耐えようと口を半開きにして、目を強く瞑ると、スミカの舌が彼の耳を舐りながら小声で囁いた。
「……挿れたいだろう?」
 普段は言う筈も無く、況してや、普段の情事の最中にすら言うことのないような台詞であった。
 今の、寧ろ少年を犯さんばかりに迫っている状況を心から愉しんでいるらしい。
 理性こそ拒否していたが、間近に男が居るのに一週間も交じっていなかった事に身体は不満があったからか。或いは、少年の欲望を自分にだけ向かせようと云う、心からの衝動的な打算からか。
 そう言いながら、スミカが、ぐいと強く腰を押し込むと、
「――あァうっ!」
 硬い壁と柔らかなスミカの体に挟まれる少年が、痙攣しながら高い嬌声を上げた。
 愛液で、びしょびしょになっていた股間部の水気の粘りを更に強されつつ、痙攣する毎に突き上げられて、肉棒の律動が秘所に刷り込まれて行く度に、スミカは「ン……」と鼻を鳴らす。
「――ッ!」
 射精の余韻に浸る事なく、少年は眼前のスミカの身体に手を掛けて、押し倒した。
 先程突き飛ばした時よりも更に力強かったが、スミカはそれに何も反応を見せなかった。予想していた、と云うよりも、望んでいたからだろう。
 現に、組み伏せた後、荒い息遣いの少年が見たものは、蕩け切った眼だった。
 挙句、視線を交えながら彼のズボンに手を伸ばして、衰える事のない怒張の先端を片手で摩りながら、もう片方の手でファスナーを下ろし出しまでした。そして、待ち切れないと言わんばかりにスリットが開き切る前に二枚の布を掻き分けて肉棒を探り、外に引き摺り出した。
 矢張り、愉しんでいるのだろう。そうしていた間、スミカの頬は妖しく歪んでいた。
「凄い、な……」
 何度、メイに放出したかは少年自身もよく覚えていないが、覚えていない程の回数の筈なのに漲っている肉棒を見て、スミカは溜息を漏らした。鈴口に付着した、今しがたの精液の残りを指に絡め、指の腹の間で糸を引かせる。
 先程からの痴態に完全に理性が何処かに飛んだのだろう、彼は自分のモノを手に取ると、精液で遊ぶスミカに何の声も掛けることなく、スカートは捲くれ上がり、ショーツもずれていて、露になっている秘所に――一気に押し挿った。
「――ンああァァッ?!」
 前戯はしないだろうとは思っていたが、まさか声を掛けられないとはまで思ってなかったスミカは、一週間振りに少年のペニスを何の心構えもなしに味わい、驚愕と軽く達してしまった絶頂感に、眼を見開きながら、仰け反った。だが、発情期を迎えた獣と化している彼は、ソノ余韻に浸らせる暇は与えようとはせず、そのまま抽迭を始めた。
「はぁうっ! はぁっ、はぁっ!」
 腰遣いが射精に向けてのものだと、何度も彼と身体を重ねているスミカには直ぐに分かった。
 膣を擦る肉棒が一際大きく、また、硬く膨らみ――来る――と、そう感じた瞬間。
 スミカは心中に幸福感が広がって行くのを知覚していた。
「――ああァァんッ!」
 膣内を駆けて行く熱が、深く奥底に到達し、更に熱いものを自分に撃ち込む。
 続け様に絶頂を引き摺り出されこそしなかったものの、劣情の権化に汚されている、満たされていると、そう考えるだけで、先の幸福感が更に大きくなっていく。
「あ……っ?」
 すると、急に少年が結合した侭の状態で、スミカの左脚を抱えるようにして持ち上げた。そして感触を楽しむように太腿に手を、味わうように脹脛に舌を這わせながら――抽迭を再開する。
「ふぁっ! あっ! イイ! これ、イイっ!」
 そこまで性行為に通じている訳ではない二人は、体位はいつも正上位と後背位ぐらいでしか行った事がない。
 今の体位も何と云うかはスミカも知らないし、少年も知らない。だが、スミカにとっては、膣をいつもとは違う角度で抉られることに強い快感を覚え、少年は美脚の感触を愉しめている。
「ンっ……あァンっ!」
 舌が脚を舐め上げて、細い指先が隅々まで愛でるように愛撫する、こそばゆさとは裏腹に、先程と変わらぬ猛烈な勢いで肉棒が膣を嬲って行く――そんな幾つもの快感に、スミカは身体を震わせ、嬌声を上げて歓喜を示す。
 未知の快感が故に思考は既に溶け始めつつあるが、しかし、何処か冷静な部分で――また、直ぐに出すつもりなのだろう――そうスミカが考えていると、再び少年の熱が膨らんだ。
 奥底に思い切り叩き付けようとしたのだろう。腰を引いた瞬間、初めての体位の所為か、膣内から、ちゅぽんと音を立てて肉棒が抜けてしまった。
 槍で全力の刺突を突き出すが如き勢いの侭に押し込まれたペニスは、スミカの胎内ではなく、体表に向かって突き出され、直後――彼女の肢体中に白濁が降り掛かった。
「ン・・・」
 最中、スミカは自身の顔面に砲口を定める先端から、精液が飛び出すのを捉えていた。
 凄まじい勢いで放出されたソレは、彼女の腰から上、豊満な乳房や、ソノ上で屹立している桃色の乳首を覆うシャツの上に大部分が飛び散って行き、残りの少量――残り、とは思えないような量ではあったが――東洋人種の名残を残す肌の頬に点々と、白濁の弾痕を刻んだ。
 少年と関係を結んでから、スミカは、ふと、精液を顔に掛けられる事もあるのだろうかと、想像した事がある。精液は子種とは云え、放出する場所が場所だけに、一種の排泄物のような物なので、ソレはあまりされたくないな、と其の時は考えた。
 だが、鼻のすぐ横から漂ってくる異臭とは別に、上気している頬よりも熱い、強く接吻でもされたような熱が頬に燈っているのを感じて、我知らずスミカは溜息を漏らしていた。
 本来なら、嫌な筈だった。だが、今の壊されたいという倒錯した想いを隠しもしていない今の心持にあっては、むしろ歓迎すべき事だった。
 そして、嫌な筈のものを被虐心を基とした快感として受け容れたス彼女は以前同様に、またも自身を覆う鎧が少年に壊されたのだと、感慨を抱くと共に自覚し、
「……なぁ」
「はい?」
「お前の好きな時でいいから、また、“かけて”くれないか・・・?」
 あまつさえ、勝手に口が開いたとは云え、お強請りまでしてしまった始末だった。
 しかし、これは彼の毒牙に掛かった――今のスミカにとっては、褒美に等しいとさえ、想われるが――メイに対する対抗心のようなものであった。はっきりとは言わなかったまでも、メイにした回数よりも多く、自分にソレをしろと云う意味である。

 そんな想いを察したのだろう、こくりと頷いた少年は、スミカの赤く染まる耳元に顔を寄せて、
「――変態なんですね」
 一言、愉しげに詰られたスミカは羞恥で顔を赤らめながらも、其の透き通る声で囁かれた言葉を何度も頭の中で反芻する。そうして、実際に鼓膜を震わせたのは勿論、今しがたのものとは云え、脳裏に思い浮かべる言葉だけで、ぶるるっ、と背筋を震わせる。
 初めて、少年と身体を重ねた時も、自分自身に今のに近い事を抱いたが、彼に直に言われるとなると、被虐心が満たされる官能も一入であった。
 そして、少年も、誰あろうスミカを――普段は立場が自分より上の女を――詰り、ソレに快感を覚えている彼女を見て、殊に強い昂揚を覚えていた。
 昂ぶりは即座に欲求と転じ、欲求は即座に行動へと移る。
 それからも、何度も何度も、少年はスミカを突き、膣内に、そして、身体中に精をぶち撒けた。
 スミカは恍惚としながら受け止めていく。
 射精されるだけのために挿入されると云う、正に一週間前に自分で言った、精処理道具さながらに扱われている事に。後ろ向きとも云えるが、少年と一つに成っている、男としての少年が女としての自分を夢中に貪っていると実感を強く感じて。心と身体を歓喜で震わせる――。

「ハァ、ハァ、ハァ……!」
「あァ、ンぅっ! ンン……!」
 何回目なのか分からない放出を、どれ位の量なのかも分からない精液を、自身の身体の奥底に叩き込まれるのを感じながら、スミカは嬌声を上げ、身体を痙攣させる。
 すると、圧し掛かりながらスミカの腰を掴んでいた少年が、急にふらりと横に崩れ落ちた。
「……済んだのか?」
 受身も何もなく、ベッドに沈んだ少年に、スミカは言葉を掛けるが、返答は無い。文字通り、精も根も尽きて、寝てしまったのだろうと考えて、そのままにしておく。
 何回、行ったかは覚えていないが、想像してたよりは少なかった――そう考えた途端。
 もっとシて欲しかったのか――そう自問して、独りで顔を赤くする。
 独りだけが、其れを隠そうとしたのか。或いは、自分も寝ようと思ったのか。
 仰向けになった時は、彼が覆い被さっていたから気にならなかったが、付けっ放しであった照明の光を遮ろうとして、腕を自分の顔の上に置く。
 やがて、うとうとと、し始めた時であった。
 ふと、メイの事を思い出し、無事に帰れたかどうか気になった。
 GAから同姓の女性職員、実質的なボディガードが迎えに来ていたとは云え、途中で何かが――例えば、彼女の体面に関わるトラブルが――あったかもしれない。
 メイが被害を被ったのも、自分の監督不行き届きだとしているスミカにとっては、最後まで知る義務があると考え、連絡を取ることにした。
 幸い、未だ夜の10時で、メイ個人の連絡先も知っている。以前、協働した際に、メイが無理矢理に少年渡したもの――且つ、ソレを没収したものだ。
 快感の余韻と睡魔の気怠さを背負いながらも、パソコンの前まで行き、アドレスを打ち込む。
 いざ、通信を開始しようとした時、自分の格好を省みて、急いで音声のみに切り替えた。危うく、大量の白濁を付けたままの顔を人に見せる処であった。
『……もしもし?』
「メイか?」
 何か、忙しかったのだろうか。
 呼吸を整えるような間があったが、スミカは今回の件のせいかもしれないと判じる。
『セレンさん、どうしたの?』
「いや、何か問題はなかったか、と思ってな」
『……あ、ああ。そういうことね。私の方は特に問題なかったわ』
 今も間があったが、態々、安否を確認する程に義理堅いとは思っていなくて、驚いているのだろうと、スミカは考えた。
「そうか、それならよかった――本当にすまなかったな」
『いえっ、もう気にしないでいい、わ』
 何処かぎこちない風なメイの声音を訝しんだスミカであったが、いつもの過剰なスキンシップも発端の一つだということを知っていて、彼女が其の事を気にしているのだと考えて、敢えて問い質す事はしなかった。
 深く掘り下げなければ、無用な責任感を感じさせる事もなくなるだろうと云う判断であった。
『それよりも――セレンさんの方こそ……平気なの?』
 すると、正に恐る恐るという風にメイが尋ねた。
「えっ……まぁ、なんとか、なった、かな……」
 今度はスミカが言葉を濁しながら、苦笑交じりで答える。
 詳しく言う事でもないし、いざ終わってみて振り返ると、かなり恥ずかしく感じられる事も言ったし、行ったのだから無理も無いだろう。
 実際、思い返す時間も無く、少年が直ぐ寝てくれてよかったと思っている程だ。
『そう――大変、ね』
 メイも何と言えばいいか分からないのだろう、ぎこちなく言葉を掛けて来た。
「そう、かもな。それじゃ……」
、そろそろ会話が苦しくなって来て、スミカが何とも云えない空気の中で通信を切ろうとした、其の時だった。
「――きゃあっ!」
 急に臀部に何かの触感と、其れが起こした悪寒が走り、スミカは叫び声を上げる。何だと思いながら振り返ると、会話の話題になっていた少年が、彼女の尻を掴んで立っていた。
『セレンさん?! どうしたの!』
 通信相手が急に叫び声を上げたのだ。メイが驚くのも無理はない。
「何でもないっ。メイ、すまんがこれで・・・!」
 スミカは取り敢えず通信を切ろうと、ボタンに手を伸ばそうとしたが、少年に腕を掴まれる。
「な、なんのつもり……」
 再び背後に視線を送ると、驚いた所為で気が付いていなかった感触の原因に気付いた。
 自分の臀部に置かれているのは手だけではなく、強固さを取り戻した怒張だったのだ。
 精を放出し終えたと思っていた彼女には、先よりも更に驚愕だった。
 そして、同時に理解した。
 先程、少年が倒れたのは終わり等ではなく、インターバルでしかなかったのだと。
 困惑するスミカを他所に、彼は何も言わずに彼女の片腕を掴んだまま腰を引いて、肉棒を宙に泳がす。何をしようとしているなど考えるまでもなく、スミカは「やめろ」と言おうとするも、制しようも、止めようも無く、濡れを残す秘所に、再びソレが侵入した。
「――くァああっ!」
『セレン、さん……?』
 立った侭で後ろから貫かれ、スミカは嬌声を上げながら、ビクリと大きく仰け反る。
 メイが其れを聞いて、何が起きているか分からず、当惑した声を出す。いや、端末の向こうで何が起きているか、薄々分かっているだろう。只、ソレが本当に現実に起きているのかどうかを判別している最中と云った処か。
「すま、ん……切るぞ……」
 スミカは快感に耐えながら、掴まれていない方の腕を伸ばして、再び通信を切ることを試みる。
 しかし――と云うべきか。矢張り、と云うべきか――其方の腕も背後から掴まれてしまい、スミカは両腕を後ろに回された。自由が取れず、彼の意の侭の、まるで操り人形の様相である。
「くっ……ふぅっ……!」
 メイに聞かれないように、悟られないように、何とか声を抑えようとしている。だが、少年は、そんな精一杯の努力を嘲笑うかのように、ゆっくりと腰を引いて行き、
「ふぅぅっ……!」
 態と肉と肉が打ち合う音を大きく立てて、一気に奥まで捻じ込んだ。
「――ンンっ!」
 全身を強張らせて、我慢しようとしているが、声が漏れてしまう。更には全身に力を込める事は膣をも締め上げる事になり、より肉棒の感触が強く感じられてしまう。
 そんな風にスミカが、まるで自ずから貪っているかのように必死に堪えていると、
「――メイさん」
『……え。はっ、はいっ』
 唖然としていたか、呆然としていたらしい――どちらも同じようなものだが――メイが名前を呼ばれて、上擦った声で応えた。
『尻尾君、だよね……? な、何を……?』
 スミカと身体を重ねる前までは喋れず、以降もスミカ以外とは殆ど会話をしていない為、また、今日にしても会話をする暇も無かったので、メイが少年声を聞くのは此れが初めてになる。
 呼んだ相手が誰か、一体何をしているか。問おうとしたらしいのだが、
「お昼の事は、本当にごめんなさい」
『え? そ、それは理由があることだし、私にも責任が……ある、し……気にしなくて……』
 謝罪をされた為か、メイは反射的に自分の責任に言及をし始めたが、其の間にも聞こえてくるスミカのくぐもった嬌声によって、たどたどしくなっていく。
「そうですか。ありがとうございます。僕の方は平気ですよ――さっきまで、スミカさんと”シて”ましたし、それにっ……」
「――あぅンンっ!」
 少年は一旦、言葉を切ると、緩慢に繰り返していた抽迭を止め、先程と同じ要領の緩急付いた深い一突きを繰り出し、半ば強制的にスミカに嬌声を上げさせる。
「やめ……て」
 彼女が殆ど涙声で、そう言ったが、歯牙にも掛けずにメイとの会話を続ける。
「今もスミカさんに――“シて”貰っていますから」
 それを聞かされてもメイが『は、はぁ・・・』などと答えるしかないのは当然だろう。
 すると、彼はそれを皮切りに一気に抽迭を速め出した。
「あンっ! うぁっ!」
 嬌声は勿論の事、股間周辺の肉と尻がぶつかり合う音まで聞かせるようにする抽迭。
 スミカの身体は操り糸か、手綱を握られているように、がくがくと激しく揺さぶられ、肉壁を最も彼の肉棒の出っ張りが高い処で以て、容赦無く、激しく削られる。
「あン!  あっ、あっ、あっ!」
 堪えようとして果たせず、聞かれてしまっていると分かっているのに、スミカは、最早、開きっ放しになった口から甘い声を漏らし続けてしまっている――しかも、
「そろ、そろ・・・!」
 少年は直ぐにも射精する意欲を顕し始めた。
「やぁっ! だめっ、だめぇっ!」
 今、出されたら――。
 何を齎すか、何を起こすかを予期したスミカは涎と共に、眼から涙を緩やかに零しながら、身体を左右に揺さぶって自身から肉棒を抜こうとする。
 しかし、全くの逆効果で、少年により快感を与えるだけであった。
 背後から聞こえる彼の息遣いの間隔が、どんどん短くなっていく。
 まるでカウントダウンを聞かされているような中で、スミカは何とか腕を振り解き、出される前に通信を切ろうと、キーボードに手を伸ばす――しかし、結局は、叶わなかった。
「うぅっ、くぅうっ……!」
「あぁぁっ……!」
 抵抗虚しく、子宮口に直接叩き込まれるように精液を放たれ、絶頂を迎えてしまった。
 伸した手は何も掴まず、何にも届かず、宙で数瞬硬直した後、がくりと垂れ下がった。すると、キーボードに触れて通信を終わらせたが――もう、全てが終わった後だった。
 スミカは芯が抜けたように力が抜けて、床に尻餅を突き、ぺたりと座り込む。
 其の最中、スミカの望み通り――時、既に遅いが――彼女の膣から抜けた肉棒が、筆のように背中をなぞっていく。墨の代わりの出損ねた精液は僅かとは云え、スミカの髪まで汚し、薄いとは云え、漆黒の中で白濁は一際目立つ。
 片手をデスクの上に置いた侭で、放心したように座り込むスミカの割れ目から、流れた精液が床に小さな水溜りを広げ、近くに頬を伝って行った涙の水滴が雨のように落ちていく。
「この……変態が……ッ!」
 十二分に正しい表現だが、他に言う事もあっただろう。だが、絶頂の瞬間、其の断末魔をメイに聞かれた事がスミカの気を動転させており、頭に残っていた其の言葉が口から飛び出していた。
 腰の抜けた身体を力ずくで振り返らせながら、涙声で怒鳴る。
 振り返る前に言い切れていたのもの、完全に振り返ることは出来なかった。
 途中で頬に何かを押し込まれたからだ。
 勢い良く流れた視界が落ち着いた辺りでよく見ると、頬には肉棒の先端が密着していた。呼び掛けた相手が振り向くのに合わせて、頬に指を突き立てる、他愛も無い悪戯のように。
 無論、そうなったのは偶然ではない。スミカが振り返ると予測していた少年がこうなるように、一歩前に出ていたのだ。
「……っ」
 もう何度も見ているし、散々自身の体内を蹂躙したソレであるが、スミカは煌々と照明が付いていると云うのも含めて、顔に押し付けられたのは初めてであった。
 困惑し切って、スミカが動きが止めているのをを良い事に、少年は更に腰を突き出し、より一層に、紅潮する頬に肉棒を減り込ませる。
 塗れている自身の愛液と、こびり付く精液の塊、混ざった臭いがスミカの鼻腔を刺激する。
 すると、其処でも愛液が潤滑剤と成ったのだろう。押し込まれていたペニスが、ぬるんとスミカの頬の上を滑って、ぺったりと竿全体が顔面に覆い被さった。
 臭いを発する元が、より鼻に近づき、寧ろ鼻の先端にも触れて、直に臭いが鼻腔に届く。
 強烈な異臭が漂って来るまでも無く、自ずから吸い込んだと同時に、ドクンと自分の鼓動が一つ高鳴ったのをスミカは聞いた。
 くいと顎を上げて眼前で熱り勃つ肉棒に唇を近付ける。突き出されている先端から、こびり付いている体液を落としていくように、根元に向かって真一文字に顔ごと舌を添わせて行く。やがて、気付かぬ内に頬が睾丸に触れると、唇で根元を挟まれていた肉棒が逃げるように跳ねた。
「あ・・・!」
 生暖かさと弾力を持つ肉が己のモノを這って行くのを見ながら、声を上げまいとしていた少年であったが、柔らかな頬が睾丸に触れた途端、堪え切れなくなって、甲高く、甘い嬌声を出す。彼からすれば。口から漏れ出た音は性別に似つかわしくないものであったので、羞恥心を感じた。尤も、元より中世的な顔立ちの彼に、それは似合いのものだとスミカには思えたが。
 跳ね上がる事で、愛撫から逃げて行ったペニスだが、直ぐに彼女の眼前まで戻ってきた。
「ふ、う……ン」
 スミカは先程までは唇の先だけで挟んでいたのを、今度は唇全体で覆う。
 電話の時の仕返しなのだろう。上と下の両方を小刻みに動かす都度に、ビクリと全身も肉棒も震わす少年を愉快そうな眼で見上げる。先程、舌で舐った時とは逆に今度は肉棒の側面を唇で挟みながら先端まで戻って行くと、真正面から向き合った。
 赤く腫上がった亀頭に口付けを落としてから、顔を上げる。
 頭上で期待の視線で以って見下ろす彼に応えるように、舌を真下の雁首の裏側まで伸ばすのを介添えにして、一気に肉棒を咥え込んだ。
「はぁぁっ!」
 すっぽりと肉棒を包んだ温かな感触に、少年は自身の股に埋まっているスミカの頭を掴むと、大きく、そしてより甲高い嬌声を上げる。前屈みにながらも、腰を突き出して、自ずからもペニスを彼女の口腔の奥に捩じ込ませる。
「んんっ、ぐ……ン!」
 喉奥に侵入されたスミカは苦しげな声を上げる。だが、彼女はこうされるのは予想していた。
 苦しんでいるのを気にもせず、それこそ、“下の口”にそうするような抽迭をされると思っていたので、寧ろ、反復する前後動が無いことに驚いている位だ。
 ――良過ぎた、か? ……ふふ。
 自分を道具のように嬲っていた彼が、行き過ぎた快感の所為で微動だに出来ないのだと推測して、心中でスミカは勝気に嗤う。所詮は子供であると――彼女も経験が多い訳ではないが。
 そうして、愉悦を更に強くするため、少年の尻に手を回して固定してから、予想していたのとは反対に、自ずから頭を上下させて、怒張を粘膜で甚振り始めた。
 口腔に含んでいるペニス毎、口許から漏れ出る潤滑剤代わりの涎を、ジュルジュルと、態と大きく、そして、淫らな音を立てながら吸い啜り、唾液と交じった先走りの汁を喉に流す。
 口内で肉棒を震わせたり、背筋に走る快感を味わうように、ピクピクと身体を小刻みに戦慄かせる以外に、矢張り、少年には全く動きが無い。
 スミカは、心の何処かにあるサディスティックな感情を満たそうと、眼前には淫茎、口内には穂先と、顔の前のペニスから視線を上げて、彼の顔を見上げる。
 そうして、胸中に刺激が走る――だが、心を満たしたのは、ソレではなかった。
(――あ)
 少年の方こそが眼に愉悦を宿らせていた。
 そして、爛々と輝く真紅の瞳で、スミカを見下ろしている。
 見下ろされていると云う物理的な事実。そして、彼と視線を交えての、自分は“してやっていた”のではなく、“させられていた”と云う真実を理解した。
 口一杯に咥え込む事で、先程まで強固に確立していた優位は、いとも容易く簡単に崩れた。
 自身でも挑発的だろうと分かっていた眼の色が、途端に恭順を示す色になって行く。
 スミカは意識的にも自身の眼を、伺い立てるような、甘えるような色に変えて行きながら、同時に、肉棒への口撃を、仕返しから奉仕へと変えて行く。
 真心を持ちて慈しんで味わうように、彼のモノを口だけで愛で、感じれば素直に示す少年の表情の些細な変化を見る度に、更に丁寧に舌を蠢かせていく。
 彼自身も此れ以上無い喰らいに蕩けたスミカの表情が触媒となり、快感が倍増して行き――
「ンぅ、むっ……?」
 スミカの口内で精を放出しようとペニスが、脈打ち出す、膨らみ出す。
 惚け切ったスミカの思考は、ソレを遠くの出来事のように、ぼんやりとしか捉えず、只、(どんな味だろう……)としか考えることは出来なかった。
 しかし、此の侭で始まるのだとばかり思っていた予想に反し、
「――出、る……っ!」
 搾り出されたような苦悶の声が上がると共に、彼女の口内は突如として空虚になり、
「あぁうっ……」
 惚けているスミカの顔面に、粘性の白く濁った液体が、シャワーの如く降り注いだ。
 眼前で、宛ら爆発したかと思えるような射精の瞬間に、惚けながらも驚いて眼を瞑ったスミカが、ゆっくりと目蓋を開けて行く。
 先ず視界に入った鼻の頭の上に居座る異物に指を伸ばして、何かを確認し、更に額、頬、顎と顔中に感じる熱にも同じように触れて、(顔に、出された)と云う実感を強めていく。
 ぼーっとした面持と心持で座り込んでいるスミカだったが、「言いましたよね?」と声を掛けられて顔を上げると、同時に指先で頬を撫でられた。
「……”かけて”、って」
 そう言われて、スミカは、いつもの少年そっくりに、こくりと頷いた。
 彼は精液を掬った指を半開きの唇の縁に触れさせると、スミカは指を咥え、こびり付いた汚濁を舐め取る。汚れた先だけではなく、指の全体までもを唾液塗れにした。
 吸い付いて来る彼女の口内から指を引き抜くと、彼は微笑みながら、
「――まだまだ頑張って下さいね」
 そう一言告げながら、復活した怒張を、スミカの火照った頬に密着させる。
 頬の熱を感じながら、スミカは恐怖と期待、相反するものを同時に抱いた――。

「――あンっ! あっ! はぁ! イイ、のっ!」
 立った侭で壁に両手を付いた体勢。膝が笑って、今にも崩れそうなのだが、少年の手に尻ごと腰を持ち上げられながら突き上げられて、スミカは善がる。

「くぅっ!スミカさ、んっ!」
 注ぎ込んだ精液が流れ出る暇も無い程に、直ぐにスミカの向きを引っ繰り返して、壁に彼女の背中を叩き付けるようにして、少年は突き上げる。

「ん、ぶっ! ぐぶっ、ンンっ!」
 また、挿入の合間に、スミカは床に座らせられ、口での奉仕をさせられ、或いは奉仕をして、精液を、顔や服の上から、身体に掛けられ、飲ませられる。

「あうっ! ンぁっ、はぁうっ!」
 ベッドの上に行くのも億劫なので、堅い床の上で組み伏せ、まるで身動きを取れなくさせるように、掴んだ両手首を頭の上で固定して、少年は腰を振る。

 そのように、何回も、何回も、行為は続けられた。

「あ……あ……」
 やがて、スミカは人形の如く身動ぎもせず、只、只管に少年に射精されるだけと成った。
 膣から零れた精液や、彼女の愛液や小水が、血痕のように部屋中の床に点々と残っている。
 虚ろな眼の通りに、力なく投げ出される身体は、全身の隅々まで汚濁に塗れている。
 凄惨としか言えない光景だ。
 しかし、それでも――、
「――ううっ!」
 弱々しい呼吸に紛れる、微かな嬌声を出す以外に何も反応を示さない、そんな状態でも。
 彼女の身体は精液を注がれる度、反射的に膣が肉棒全体を締め上げる。
 奥底は亀頭を撫で回して、射精の手助けをし、熱で穿ってくる肉と汁を吸い付いて受け止める。

 そうして、漸く、最期が訪れようとしている。

「――スミカさんっ! スミカさんっ……!」
 少年が、名を叫びながら、残った力を振り絞るようにして、ペニスを捩じ込み、突き込み、擦り回した果てに、彼女の奥底で、最後の精を放出した。
 スミカは抽迭によって揺さぶられるだけの、殆ど息をしているだけで、長い夜の終わりを告げるにしては、呆気無いと感じられる幕切れであった。
 とは云え、彼女は半分は覚醒し、半分は気絶しているようなものなので無理からぬ事だろう。
 しかし、その半分は、遂に終わった事だけは分かったのだろう。
 直ぐにスミカは焦点の定まっていなかった眼を閉じ、眠りに落ちて行った――。

「――う」
 疲労困憊の中で寝入ったスミカだったが、身体に温かい何かを感じて、眼を覚ました。
 視界はぼやけていて、何も判別できない。更には水音も聞こえたが、矢張り状況が分からない。
 漸くし、起き抜けの視力の所為だけではなく、薄くて白いものに覆われていると分かった。
 煙かと、火事かと思って、身体を起こす。だが、確かに熱いのだが、湿気も感じる。
 やがて、スミカは自分が風呂場にいるのだと理解した。
 身体に走る違和感を探ろうとして、気怠いので頭を動かさず、眼だけを動かして、自身を見る。
 すると、彼が湯で濡れたタオルで一生懸命に身体を拭いているのが見えた。汚れた身体を洗ってくれているらしい。
 そして、眼からは――あれだけ、したとは云え――目の前の裸体に劣情している色は露程も見られない。只、綺麗にしてあげたいと云う健気さだけだ。
 腕を拭き終えた少年がスミカの胴体に眼を向けてから、彼女が起きている事に気付いた。
「――あ、起こしちゃいましたか?」
「いや、こっちこそ、こんなことをさせて……」
 スミカは先程まで拭いて貰っていた手で少年の頭を撫でながら、「私も洗ってやるからな」と言って、彼にされながら、自分も手にボディソープを付ける。
 二人は互いの体を綺麗にしてあげるのだった。

 身体を洗浄したとは云え、部屋には濃厚なフェロモン臭が漂っている。
 無論、臭いを放つ元も。
 流石に、二人共、疲労困憊なので、今から部屋を掃除する体力も、気力も残っておらず、風呂場から出ると、服も着ないで、汚れたシーツを取っ払って、ベッドに身を委ねる。
 此の侭、眠りた処であったが、スミカはある疑問をぶつける。
「――どうして」
「はい?」
「どうして、呼び捨てにしたりしないんだ?」
 思い返すと、痴情もつれる情事の最中でも、自分を丁寧にも、さん、を付けて呼んでいた。
 絶頂の間際でも、それは変わることがなかった筈だ。
 尤も、深い関係に成ったからと云って、必ずしも呼び捨てにしなければならない訳ではないと云うのは、スミカも考えている。
 だが、男が持つプライドやら自尊心と云うのは、そう云うのを基点とする、女への支配欲を持っているものなのではないかとも考えての疑問だった。
「それはですね、僕が・・・」
 その答えを言おうとして、少年は言い澱んだ。何処と無く恥ずかしそうに。
「お前が?」
「……スミカさんより、大きくなったら――そう呼ぼうと思っているんです」
 確かに、彼は頭一つ程、スミカより身長が低い。スミカは気にした事はないが。
 しかし、年頃の少年からすれば、自分よりも恋人は身長が低い方が――正確には、自分の方が恋人より身長が高い方が――と、そう思うのは当然の事であろう。
「――もし、此のままだったら?」
 スミカは、いじらしい男心を理解しながらも、意地悪い事を言う。
「絶対、大きくなりますっ」
 スミカの意地悪に膨れっ面になって、少年は反論した。
 ――そうでなければ、彼女を呼び捨てに出来ないのだから。
 高らかに宣言するように、固い意志を秘めて。
「悪い悪い、悪かった――楽しみにしているよ」
「……待っていて下さいね」

 スミカは空想する――彼よりも、そして自分よりも身長の高い、其れでも、彼の面影を持つ青年に、自分の名前を呼ばれながら抱擁されて、彼と口付けをするシーンを。

 そして、少年も空想する――スミカよりも大きくなった自分が、彼女の細くて美しい手を取り、其の指にぴったりの指輪を嵌めて、プロポーズをするシーンを。

 二人の人生で最も長かった夜から、一週間目、時刻は23時。
 もう直ぐ、八日目であるが、其の間、少年はスミカの寝室に忍び込んで、夜這いを掛ける事は一度もしなかった。
 まあ、三日間位はそんな気が起こる訳も無かったろう。重ね重ね言うが――あれだけしたのだから、当然と云えば当然である。
 とは云え、四日目にはミッションがあったのだが、ネクストのコアの中で、ふと、彼女の痴態を想い出してしまって、窮屈なパイロットスーツが更に窮屈になった上に、心拍数が急激に上昇したせいで、スミカに心配されてしまい、誤魔化すのが大変だった。
 他の者に聞かれぬように限定通信で。催したと、本人に囁く選択肢もあったろうが、あの日、心で彼女と繋がったのだと想っている少年には、そんな事をする必要は感じられなかった。
 そんな風に精神的に成長した少年に今――悲劇が訪れている。
 発端は五日目の事である。
 朝にスミカと顔を合わせたのだが、何処となく彼女の挨拶がそっけなかった。
 虫の居所が悪かったのか、それとも気の所為かと考えて、其の日は気にする事はなかった。
 だが、六日目。
 矢張り、同じように朝の挨拶をしたら、スミカは今度は眼を合わせてくれなかった。
 何故だろうかと思う反面、曲りなりにも少年は前科持ちなので、自分を省みてみた。しかし、どれだけ思い返してみても、答えが出なかった。
 そして、七日目。
 不安を抱えつつも、平静を装って挨拶をしたらば――、
 なんと、無視されてしまった。
 此れはもう、虫の居所が悪かった等で済む話ではない。何せ、スミカは明らかに少年に対しての不機嫌を、雰囲気でも態度でも表情でも露にしていたのである。
 具体的に言うと、顔を合わせた途端に――プイ、だ。
 本当に不味いと考えて、彼は一週間前からの記憶の洗い出しをしている真っ最中である。
 しかし、矢張り、先日同様にどれだけ考えても答えが出ない。此の一週間、スミカに失礼な事は、何一つしていないのだと自身を持って言える程である。
 否、正確には一つだけ心当たりがあった。
 しかし、其れを思い付いた瞬間、在り得ないと判じたような事だ。
 とは云え、他に手掛かりも無いので――“していない”事を試してみようと考えて、少年はスミカの部屋の前に居る訳である。
 ドアの前に立ち、手を挙げた。言うまでもないが、ノックをする為に。
 しかし、彼の予想が当たっているならば、これは好ましくない行為と云えるので、何もせずにドアノブに手を伸ばして、恐る恐ると云う風に成りそうなのを抑えながら捻る。
 鍵は掛かっていないドアは造作も無く開き、実に一週間振りに――既に時刻は0時を回っているので、正確には八日振りに――スミカの私室に侵入した。
 少年がスミカに試みようとしている事、其れは――“夜這い”である。
 思い付く限り、八日以上前にした後、この八日間で唯一、スミカにしていない事、或いは、八日前との差異と言えば、其れしかなかったのだ。
 此れは何も、彼の思考が浅ましいからではなく、一つの可能性と云うだけだ――と、一応は付け加えておくとしよう。
 だが、未だ仮定の段階である事も事実だ。
 もし、外れていた場合は、現状のスミカの不機嫌に、更に拍車が掛かることに繋がる。
 なので、少年は、まるで泥棒のように抜き足、差し足、忍び足で物音を立てないように、ゆっくりとスミカが寝ているベッドに近づく。
 しかし、其の途中で、彼女が夜這いされるのを求めていると云うのは、どのように証明されて、どのように確信を持てるのだろうかと思い立った。反対も然りである。
 寝ているスミカを態々起こして聞く――此れは愚策だ。どちらでも彼女は怒るだろう。
 先ず、求めていた等と思われていた事が彼女の自尊心を傷つけるだろうし、当たっていた場合でも、彼女の思い通りのシチュエーションから外れてしまう。
 ――じゃあ、どうすればいいのか。
 結局、此の事に関しても、答えは導き出せず、少年は安らかにベッドの寝ているスミカ、ベッドの傍で立ち往生する。
 夜目が利く彼には暗闇の中でも、ベッドの上で、羽毛布団に覆われて寝入るスミカの姿を、確りと捉えている。
 腕を組みながら考え込んで、凝と彼女を見ていると、ふと(綺麗だ)などと思ってしまい、劣情が刺激されそうになったので、頭を振って、邪念を振り払う――及ぼうとしている事を考えれば、寧ろ、其れは自然な処か、然るべきなのだが。
「う……ん」
 すると、スミカが寝返りを打った。
 只、其れだけだったが、少年は心臓が止まりそうになりながら、即座に床に伏せる。動く気配が無くなったのを確認してから、そろそろと上体を起こして、様子を伺う。
 寝ていることを再確認し、ほっと溜息を漏らしたが、
 ――自分は何をしているのだろうか。
 今の自分を省みて抱いたのは、呆れるような、情けないような、そんなものであった。
 ――こんなことをしている位なら、いっそ、直接、彼女に聞けばいいのではないか。
 聞かれぬように嘆息を一つ漏らして身体を起こし、部屋から出ようとする。
 だが、ふと、違和感に気付いて、スミカの姿を、もう一度見る。
 頭の先から、ゆっくりと視線を辿らせて行く。特に変わった所はないと、そう考えた時、彼女の首から下――胸部から下を覆っている布団と首の間を見て、ソレに気付いた。
 服が違っている。
 スミカは寝巻きとして、いつもはブラウスを着ているのだが、ソレではなかったのだ。と云うよりも、服を“着ている”のだが、服を“着ていない”ようにも見えるのだ。
 確信めいた答えを得た充足感と共に、少年は鼓動のリズムを速めながら、布団を捲る。
 そうして、現れた光景は、はっきりと言えば――想像以上であった。
「……やっと、来たのか」
 少年が驚愕に息を呑んでいると、スミカが薄目を開けながら、不満そうに言った。
 どうやら今まで狸寝入りをしていたらしい。
 此れでスミカが夜這いされる事を求めている証明も得られた訳だが、少年が見たのは、言葉に拠る絶対の証明すらが些細なものに見える、彼女の返答であった。
 スミカは服を着ているが、本来服が持つ役目を放棄していて、服と呼ぶ事も出来ない、かと云って下着ですらない。其れ等の中間に属するようなものであった。
 スミカが着ているのは――羽織っている云った方が正しいだろう――所々にふんだんに使われているレースや、胸元の可愛らしいリボンに彩られた、黒いシースルーのベビードール。
 所謂“セクシーランジェリー“の類であった。
 ブラジャーは着けていないので、薄布の下の乳房、果ては乳首までもが隠れることはなく、寧ろ透けて見えているが為に、より官能的になっている。
 ショーツの方は履いているのだが、矢張り全体が薄いので、捲ってもいないのに“履いている”事が見て取れる上に、ショーツ自体も扇情的なデザインだ。
 少年が官能的な装いに彩られたスミカに魅入られていると、彼女は――少年は身体の方にばかり意識を向けているので――恐らく、顔を赤らめて「・・・どうだ?」と尋ねた。
 当然と云えば当然だが、矢張り、羞じらいがあるらしい。。
 何処で何時買ったかは知らないが、相当な覚悟が無いと購入できないだろう。
「――綺麗です、スミカさん」
 惚けながら少年はスミカの全身を視界に収めながら、一言、そう呟いた。
 聞かれたから答えた、というよりは言いたくて言ったら、偶然に答えになったと云う風に。
「嬉しいよ……じゃあ」
 ――抱いてくれ。
 スミカが、そう言おうとした矢先に、少年はベッドの上に飛び乗っていた。
 そうして、彼女の唇を奪ったと同時に、身体を弄り始める。
「ふふっ。こら……そんな、にがっつかなくても、私は逃げないぞ?」
 スミカが必死な様子に茶目っ気を含めた声で言うと、少年は彼女の耳元に口を寄せて、
 ――逃がしません。
 スミカは其の言葉に、甘い溜息を漏らして、身体を嬉しそうに震わせた――。

 【アナザー・サイド・ストーリー】

「ふぅ……」
 カラードで懇意にしていた少年に――彼にも様々な理由があるとは云え――強姦されかけたメイ・グリンフィールドがGAに与えられている自宅に帰宅し、玄関のドアに背中を預ける。
 溜息の理由は前述の事からの動揺は勿論。GAから送られて来た女性ボディガードを従えて移動するということに慣れていない事。また、幸い近くを通る人間がいなかったからよかったものの、カラード本部から自身から漂う臭いに気付かれないかと不安だったからだ。
 そうと云うのも、見える範囲のものは拭き取ったにしても、件の少年に彼女は上半身に――文字通り、浴びせられるように――精液を浴びせ掛けられたからだ。
 少年は“発情期”だったと、そう聞かされた。
 初めは眉唾だと思ったが、元々、彼はアスピナの実験体だ。どんな過程があったかは知らないが、尻尾の事を勘定に入れると、強ち嘘とも思えなかった。
 体験した身からすれば、ソレが原因であるとしか言えない凶行であったし、何よりも――。
 そこまで考えて、メイは頭を振る。
 思い出してしまったからだ――無言で自分に襲い掛かってくる、彼の姿を。
 酷い事をされたとは思いつつも、少年を悪いように考えたくなかったのだ。彼の境遇を聞いたという事もあり、そして、彼自身を気に入っていた為に。
(取り敢えず、お風呂に入ろう。そうすればサッパリするだろうし……)
 玄関のドアに凭れ掛かる侭だったメイは頭の中を駆ける情報や感情が鬱陶しくなって、自分を落ち着かせようと深呼吸をしようとする――だが、此れが間違いであった。
「――っ!」
 鼻から思い切り空気を取り込んだ事で、未だ身体の何処かに残っている――いや、染み付いてしまったらしい、独特の生臭さを勢い良く鼻腔に到達させてしまったのだ。
 そして、ソノ臭いが彼女の記憶を想起させた。
 彼の姿――ではなく、自分の乳房の谷間に埋もれながらも、蹂躙する肉棒を。
 思い出した途端に奔った疼きを知覚しながら、記憶を辿るように、自身の胸に視線を落とす。
 同時に、頭を占有し始めている記憶が、益々、明瞭さを増していく。
 顔が火照っていくのが分かる。顔だけではなく、全身に火が燈っていくよう。
(私、どうしちゃったんだろう……)
 自分は乱暴されたのだと、自身に言い聞かせつつも、込み上がる疼きを抑えられない。
 数時間前とは云え、過ぎた過去の事であり、自分に劣情を向けているのが、恐ろしい男ではなく、いつもの可愛らしい少年に重なって、美化されているからかもしれない。
 或いは、そんな理屈など関係無しに、自分が欲情しているのは、無理矢理襲われた故か、若しくは相手が端整な顔立ちの年端も行かぬ少年故か。いずれにしても倒錯的だ。
 明確な否定の基準は直ぐに浮かばないものの、それは“いけない”事だと、理性が訴える。
 其の一方で、そう云った事に劣情を催している自覚が理性の箍を外して行く。
 やがて、メイは上着を脱ぎ捨て、上半身は豊満すぎる胸を覆うブラジャーだけになった。
 そして、もう一度大きく、今度はゆっくりと。まるでワインのテイスティングのように、身体に残っているか、沁み込んでいるかする精液の残り香を吸い込む。
「はぁ……っ」
 異臭としか言えない類の臭いであるが、自分の今の心境が異常であるのだから、全く気にならない。それどころか牡そのものの臭いに嗅覚を擽られて、戦慄きが背筋を奔っていく。
 臭いを堪能した後は、少年が熱い怒張で嬲っていた乳房に手を伸ばすと、ソコにソレが在るかのように――残念ながら、今はいないが――いつも恋人にしてあげているように、ソレを包みながら扱くように、乳房を寄せ上げながら揉みしだく。
 比喩ではなく、が谷間に水溜りを作っていた所為だろう、僅かに乳房を揺らしただけで、生まれた空気の流れが、在るとしても残滓の筈の精液の臭いを強めていく。
「ふぅ……ん」
 メイは両側から添えている手を捏ね繰り回し、谷間に埋もれる幻影ごと乳房を刺激して、くぐもった鼻声を漏らす。上下左右に回されて形を変えていく二つの肉の弾力が手を押し返す。
 もう一つの幻影を見る。虚空から現れた、彼女のよりも幾分か小さく、そして、白い手。
 ソレは添えるように彼女の両手に重なると、乳房を弄び始めた。
「はぁ、あぁン……っ」
 自身の手の動きと同期する手に刺激されて、か細い善がり声を上げる。
 無論、幻が実際に体に触れる筈も無い。
 しかし、今、メイに快楽を与えているのは其の手だ――少なくとも、今の彼女にとっては。
「ンぁうっ!」
 掌で中心に寄せるようにしていた手が指を広げ、乳房を力強く、乱暴に掴み上げる。豊満なメイの肉は掌の中に収まり切る事はなく、掌握と云うよりは側面から支えていると云った具合だが。
 掴んだ手の先にある十の指の夫々が蠢き、乳房全体に、じんわりと刺激を広げて行く。
 手は時折、乳を搾るように、ぎゅっぎゅっと、握る、離すを繰り返し、徐々に滑って行き、
「あ、あンっ!」
 先端にある桃色の突起に人差し指が触れて、メイの身体が、ピクンと跳ね上がる。
 乳房の下部を中指、薬指、小指が、上部を親指が摩る。
 同時に、人差し指が突起の周りを囲む乳輪をなぞるように這う。
 中心に向かって螺旋を描くように指先が進んで行き、震えによって、僅かだが。其の途中にも乳首に接触する度に身体が小刻みに跳ねた。
 そして、くるくると細まる螺旋の軌跡が限界を迎えて、
「はんっ!」
 爪の先が勃起した乳首の根元に触れた。
「あっ! あっ!」
 乳首を上から押し込むように、爪を往復させて、掻く。爪で押されて簡単に倒されるものの、直ぐに立ち上がり、また、倒されるを繰り返す。
 もう片方の乳首は人差し指と親指で根元から摘み、まるで男が自身のモノを慰めるように、挟んでいる侭で指先を上下させる。
「ンっ、ン! ンン……っ」
 胸の先端を苛めながら頭を下げて、谷間を埋める不可視の肉棒を舐めるように、宙で舞わせている舌に、手で押し上げた乳房に触れさせる。すると、最早、本当に感じたか否かも曖昧だが、口中の隅々まで穢した精液の味が舌に広がった。
 敏感な場所を責めている所為か、本当に口淫をしているような気分の所為か。股間に感じる湿り気と疼きが強くなって、メイは無意識に太腿同士を擦り合わせる。
 如何ともし難い疼きを抑えようと、一度両手を離し、乳房の夫々を中間に向かって押し込み、乳首同士を突き合わせる。触れ合って、隣接するソレ等を左手の指で同時に摘み上げる。空いている右手だけでスカートのベルトを器用に外して、下半身を隠す二つの布を取り払おうとするも、時間を掛けるのが嫌だったので、膝まで下ろすだけに終わらせる。
 奥から滲み出る愛液によって既に湿っている熱い秘裂が外気に晒された事で、風が通って心地良く、更にソコを湿らせ、更に熱くさせる。
 液が照明の光に反射して妖しく光る様は、快感を求めているようだ。
「はぁ……あ、あっ、あっ……!」
 股間に手を遣って、花肉を撫でながら、外側の触感から内側も充分に濡れている事を確認したメイは揃えた指二本に力を込めると――、
「ンンンーーっ!」
 躊躇することなく、中に向かって、突き挿した。
「あぁっ! あンっ、い、イイ・・・っ」
自 分だからこそ知っている、膣内の最も感じる場所を指で乱暴に擦って、グチュグチュと愛液が掻き混ぜる淫らな音を大きく響かせて、快楽を貪る。
 もう片方への責めも忘れずに、桃色の乳首が赤く染まる程に摘み上げ、扱き回す。
 よりドアに背中を預けて身体を固定し、指が膣壁を抉る往復に合わせて腰を前後に振る。
 ガタガタとドアを揺らして仰け反りながら、嬌声を高くさせて行く。
 すると、突然、メイは乳首から手を離した。
 かと思うと、ぐいと乳房を持ち上げて、俯かせた顔に乳首を向かうようにさせ、充血した乳首を唇で食い付き、吸引しながら、挙句には前歯で緊く噛んで――、
「ンぅぅうンンっ!」
 一際大きく、口吻を塞いでいる口内にも、玄関にも甘い声を響かせ、ドアに寄り掛かっていた身体を浮き上がらせるようにして――メイは絶頂したのだった。

(……何やってるんだろ、私)
 肩で息をしながら絶頂の余韻を味わっていたメイだったが、余韻が薄れていって残ったのは、そんな虚無感だけだった。
 まさか、あんな年端も行かない上に、加えて、自分を犯そうとした少年を自慰の肴にしてしまうとは。自分はそういう趣味だったのかと思うと、羞恥心と罪悪感が募る。
(たまってるのかな……)
 溜まっていた疲れが一気に噴出したようで、メイは服を着直すと、入ろうとしていた風呂に入ることなく、寝室に向かい、そのままベッドに崩れ落ちた。

「ん……」
 暗闇の中でメイは眼が覚めた。
 ベッド傍のスタンドに電気を付けて、時計を見ると、夜の10時を回っている。
 疲れていたとはいえ、昼頃から此れだけ眠ってしまったとは、彼女自身が驚いた。
 どうにも中途半端な時間に起きてしまったので、夕食を作ろうとか、風呂に入ろうかとか云う以前に、そもそも起き上がろうと云う気にもならない。
 ベッドの上で仰向けになりながら、どうしようかと考えて、考える度に面倒臭さが増していく悪循環が働き、鬱屈そうに溜息を吐く。
 そうしていると、眠る前に風呂に入りそびれた所為で、かなり薄くなったとは云え、またもや、あの臭いを嗅ぐ事になってしまった。
 だが、矢張り直ぐ風呂に入ろうという気が起こらず、ベッドの上と云う状況の為だろう。
 そろそろと、手が下腹部に向かい出す。
(冗談抜きで欲求不満なのかなぁ。最近、シてないし……)
 そんな考えを受け容れるのは少し癪だが、放置するだけで収まりそうにもない。
 時間も時間だ、もう一回もすれば体力を使って寝れるだろうと、メイは何処か言い訳めいた理由を作る。そうして、ベッドの上でごろりと寝返りを打って、傍にあるサイドテーブルの一番下の引き出しを引いて、“ある物”を取り出そうとしたのだが、
「――ん? こんな時間に誰かしら・・・」
 端末が電子音を鳴らした。取り出そうとした物は其の侭に、戸締りをするように、確りと引き出しを閉める。何処か気恥ずかしさを持ちながら、壁にある照明のスイッチを押してから、端末の前に立ってボタンを押す。
「……もしもし?」
『メイか?』
 掛けて来たのはセレンだった。しかし、今日のことが関係しているのだとは思うが、自分にどう云う用件があるか分からない。
「セレンさん、どうしたの?」
『いや、何か問題はなかったか?』
「……あ、ああ。そういうことね。私の方は特に問題なかったわ」
 心配してくれているのだろう。昼に謝っていた時も思った事だが、彼女の責任感の強さには頭が下がるとメイは感心した。
『そうか、それならよかった――本当にすまなかったな』
「いえっ、もう気にしないでいい、わ」
 再び謝罪されてしまいメイは少し言い淀んだ。
 と云うのも、メイは発端は自分の所為だと思っているのもあるが、其れだけではない。
 自宅に帰った途端に、少年を肴に自慰に励んだ。彼女が心配してくれているのにも関わらず。
 其の事が、心配してくれているスミカに対する罪悪感を覚えたのである。
 居た堪れ無さから、話題を変えようとしたのだが、何も思い付かなかったので、
「それよりも――セレンさんの方こそ……平気なの?」
 会話の向かう先は結局は其処に収束してしまった。
 聞いてから、聞くべきではなかったかなと、更に罪悪感を強めて。
『えっ……まぁ、なんとか、なった、かな……』
 今度はスミカが言葉を濁しながら、苦笑交じりで答えた。
「そう――大変、ね……」
 何と言えばいいか分からないのもあるが、疲れているような彼女の声を聞けば、何があったかを容易に想像出来るので、ぎこちなく、そう言うしかメイには出来なかった。
『そう、かもな。それじゃ……』
 セレンが困りながら電話を切ろうとする。
 メイとしても、会話が嫌な訳ではないが空気感が苦しかったので僥倖だった。
 しかし、おやすみなさいの一言を言って締め括ろうとした矢先。
『――きゃあっ!』
『セレンさん?! どうしたの!』
 セレンが急に叫び声を上げた。
 メイは泥棒でも入ってきたのかと思って、驚きながら応答を求める。
「何でもないっ。メイ、すまんがこれで・・・!」
 危機的な緊急事態と云う訳でも無いらしい。それでもセレンが焦っていると分かる。
 原因が分からない侭で、通信が切れてしまうかと思ったが、切れることはなく、暫く通話が続いており、よく聞き取れないが声が聞こえてくる。
 様子を探ろうと、メイは端末の前が立った侭で、聴覚に意識を傾けていると、
『――くァああっ!』
「セレン、さん……?」
 再びセレンが叫び声を上げた。
 だが、其の声、と云うよりも、声音には先程のとは違って、驚愕に拠る強張りではなく、妖しげな艶が含まれている事に、メイは直ぐに気が付いた。
『すま、ん……切るぞ……』
 そう言った後も矢張り通信が切れることはなく、只々、セレンの上擦っていて、くぐもった、艶かしい声が、ずっとメイの耳朶を打ち続ける。
 緊張か、それとも別の感情の故。立ち尽くした侭のメイが、ごくりと生唾を飲み込んだ瞬間。
『――メイさん』
「……え。はっ、はいっ』
 唖然としていたか、呆然としていた――どちらも同じようなものだが――メイだったが、セレンのではない声に呼ばれて、上擦った声で応えた。
『尻尾君、だよね……? な、何を……?』
 少年の声を聞くのは此れが初めてだが、他の人間が居る訳もなく、彼の名を呼ぶ。尤も、動転していた所為か、習慣のようなものになっているからか、渾名の方であったが。
『お昼の事は、本当にごめんなさい』
「え? そ、それは理由があることだし、私にも責任が……ある、し……気にしなくて……」
 謝罪をされた所為で、メイは反射的に自分の責任に言及をし始める。しかし、少年の声を聞いた事で一瞬、忘れていたが、先程から、ずっと続いているセレンの喘ぎ声を再び認識してしまい、たどたどしくなっていく。
『そうですか。ありがとうございます。僕の方は平気ですよ――さっきまで、スミカさんと”シて”ましたし、それにっ・・・!』
「――あぅンンっ! やめ……て」
「今もスミカさんに――”シて”貰っていますから」
 そんなを聞かされた処で、メイは「は、はぁ……」などと答える事しか出来ない。
 何せ通信の向こうで知り合いがセックスをしていて、しかも、聞かされているのだから。
 動揺の具合は、少年がセレンの本名を口にしている事も気付かない程だ。
「あンっ! あっ、あっ、あっ!」
 メイが一度は冷えた身体に再び熱が篭もりつつあるのを無意識の内に、だが、はっきりと感じていると、セレンの嬌声が一段と激しくなった。
 只、熱い吐息を吐き散らしながら、事の顛末を聞き届けるように耳を傾けるばかりだ。
「そろ、そろ・・・!」
「やぁっ! だめっ、だめぇっ!」
 荒い息遣いを共にする、少年の苦しそうな呻き声、スミカの悲壮な叫び声を聞いて、メイは何も映し出されていない端末のディスプレイに、見せ付けられた彼の肉棒を幻視していた。
 二人の声が上擦っていくのに比例して、目の前の幻影も抽迭を速くさせつつあり――、
「うぅっ、くぅうっ……!」
「あぁぁっ……!」
 セレンと少年が絶頂を迎えたらしいのと同時に、メイの眼前で白濁が爆発した。
 丁度、あの時のように――。
 気が付けば、通信は切れていて、メイの耳には自分の呼吸の音だけが聞こえていた。
 昂奮の証左だと理解すると同時に、下腹部が熱くなっている事、疼いている事も知覚し、メイは殆ど駆けるような勢いでベッドに取って返す。
 サイドテーブルの引き出しを乱暴に引っ張り出し、先程、取り出し損ねた物を掴み取る。
「はぁ、はぁ、はぁ……!」
 男性器を模ったシリコン製のディルドを手に取って、片手で下半身の衣類を下ろし始める。
 舌を這わし、万遍なく潤滑剤として唾液を塗り込んで行く。挿入の準備は彼女の身体の方が既に準備を完了しているが、脱ぎ終わるまでの繋ぎだ。しかし、丹念で愛しげでもあった。
 乱暴にスカートとショーツから片足だけを外すと、両脚をベッドの上に投げ出すように大きく全開に開き、眼前で唾液で照明の光を反射するディルドの底を掴み直す。
 そうして、手を震わせながら、本物なら亀頭に当たる部位を、膣口に宛がうと、
「うぅううっ・・・!」
 ずぶりっ、と一息に沈めさせて、彼女の膣内は、みっちりと異物に埋め尽くされた。
 付け加えておくならば。彼女の中に埋まっているのは、正確にはディルドではない。
 メイが張形の側面にある突起を親指で押し、カチリと何かの作動音がした途端、
「――はあァァーンっ!」
 正確には、バイブレータであった。内臓のローターによって、陰茎を模した棒状の部位が小刻みに振動し、更に畝ねる動きで全体が上下しながらメイの膣内で暴れ出す。
「ひぁあっ! あうっ! うァあっ!」
 放って置いても刺激を与え続けるソレを激しく抜き挿しし、時には子宮口にまで突端を押し込んで、メイは独り、独りだけの部屋で高らかに喘ぐ。
 指よりも強く激しい快感が背筋を奔って、メイの脳髄に流れ込む。
「もう、もう、イッちゃ……イッちゃぅうっ……!」
 少年とセレンのセックスの断片を聞かされて、寝る前よりも昂奮が強いのだろう。
 時折、メイはコレで自身を慰めているが、普段よりも遥かに絶頂の予感が速い。
 バイブの形状と振動が膣壁と愛液を激しく搔き回す中で、指で行なう時の比ではない淫音と嬌声を鳴り響かせながら、己で己を貫かんばかりに奥に押し込み、
「――イっくぅぅうう……っ!」
 メイは強く膣で玩具を締め上げながら、果てた。
 ビクビクと下半身全体が痙攣する度に、より一層に振動が響いて、絶頂が長引いていく。

「あんっ、あんっ!だめぇっ!またぁ、またイクぅ!!」
 一度果てても、身体の火照りも疼きも収まらず、メイは何回も、挿れる角度や体勢を変えながら、しかし、最初からラストパートの激しさだけは変わらずに、自身を慰め続けた。
 居るはずのない異性に激しくするように強請ったり、時には口先だけは拒んだりしながら、手だけに留まらず、動かないバイブに自分から腰を振ったりして、快楽を貪る。
「すごいっ、すごいよぉっ! 気持ちいいよぉっ!」
 そして、今は、うつ伏せになって尻を通って手を回し、後背位で乱暴に犯されているかのように、バイブを抽迭しながら、空いた手で皮が剥けて尖る陰核を弄っている。
 更にはベッドに乳房を乳頭を擦り付けて、全身で快感を味わっている。
「あっ あっ あ! あぁぁンっ! キてる! キそう! キちゃうぅっ!」
 そして、またやってきた絶頂の寸前、あらん限りの力で膣を締め上げつつ、振動と畝ねりを最大にしたバイブを子宮口にぐいぐいと押し付け、クリトリスを捻り上げ――
「――ンンぁあああっ!」
 電流に打たれたかのように、ビクビクと四つん這いの身体が跳ね上がる。
 音を立てる程の勢いでシーツの上に潮を撒き散らしながら。
「あっ、あ……はぁ、はあぅ……」
 長い絶頂の後、脱力してベッドに沈んだ。
 余韻に浸って全身を投げ出している間も、小刻みに何回か噴出し続けながら――。

 最後の絶頂後、スイッチを切ったバイブを抜いてから、メイは、ぼんやりとしていた。
何処か、まだ物足りない気がしていたのだ。
 まだ足りないのかと云うと、そうではない。一人で慰める分には先ので充分だ。
 矢張り、玩具でもなく、独りでもなく、相手が欲しくて。
 今度は己の劣情から目を背けずに、そう考えて、メイはある事を思い付いた。
 レイプされかけた代償として、彼を一日借りる――と云うものだ。
 中々の名案だと彼女は思った。
 本当に実行に移そうかとも内心で考えた程だ。
 しかし、自分に何度も頭を下げたセレンの姿や声を思い返し、また、察するまでもない位の彼女の少年への想いを思うと、とてもではないが、そんな気にはなれなかった。
 だから――、
(……彼氏、作ろ)
 そう結んで、メイは独り、眠りに着くのであった――。


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