Written by ケルクク


「うし。完璧」鏡の前でビシっと決める。
目の前の鏡にはモーニングを着たちょっと影がある超絶イケメンが映っている。
ぬふふ、何度も試着して見慣れてるはずだがやっぱカッケーな俺。やべぇ、俺って今世界で一番格好いい花婿なんじゃね?いや、当然か。何たって世界でいちばんキュートな花嫁であるウィンディーの相手なんだから当然だよな。
自分でも浮かれてるのが解る。解るがどうしようもない。だって結婚だぜ!結婚!ウィンディーとついに結婚しちゃうんだぜ!ひゃっほーい!そりゃぁ、思わず鼻歌を歌いながら踊っちゃうぜ!
「フンフンフンフ~ン」「…な、何やってるんですか、ロイさん」
「お、蘭!ヘ~イ!」踊っていると蘭が控室にやってきたので、手を差し出す。
「え、え~と、へ、ヘ~イ」蘭がきょとんとしながらとりあえず差し出した手を握ってくれたのでそのまま抱きよせ踊り始める。
気の向くまま情熱的にステップを刻み、くるくる回る。蘭もとりあえず楽しむ事にしたのか合わせて踊ってくれる。
イエ~イ!レッツダ~ンス!!

****

五分ほど二人して踊ったところで互いに疲れを感じたので最後に蘭を抱きあげて5回転ほどして締める。
「決まった!」「…満足しましたか、ロイさん?」胸の中の蘭が乱れた息を整えながら見上げてくる。
「おう」「それじゃぁ、僕の要件を。ウィンさんが逃げました」
「そうか。やっぱり逃げたか~」蘭をおろして頭をかく。予想はしていたのでそんなに驚かない。むしろ納得する。
「はい。エマが手伝ったみたいですね。あ、これエマからの書置きです。中々斬新ですよ?」
蘭が踊りで乱れたドレスを直しながら書置きを渡す。
書置きには『家出します。探してください』と書かれていた。
「確かに斬新だな。あ~と、手筈は?」
「滞りなく。ウェディングドレスと下着に発信器は着けています。車も回してあるから直ぐ追えますよ」
「招待客にもあらかじめ開園が2~3時間遅れるだろうってのは伝えてあるしな。それじゃ、逃げた花嫁を説得してくるわ」
「はい。ウィンさんの心に巣食った最後の不安、見事晴らしてあげてください。出来ればエイちゃんが起きる前にお願いしますね。起きた時にママがいないと寂しがりますから」
「はは、パパはいらねってか。はぁ~、何で俺に懐かないかなぁ~。女に嫌われたのは初めてだぜ」
俺を見るとムズガリ、俺が抱くと烈火のように泣き出す我が子を思い出し溜息を吐く。くそ、ジニーやブギーとかの男性クルーには懐いてるのに何で俺だけ。
「あはは。ロイさんが女性関係で悩むなんて珍しいですよね。
 って、いけない!こんな時間!!早く追ってあげてください。あんまり帰ってくるのが遅いと主役不在で始めちゃいますよ?」
「うげ、それは勘弁。帰ってきたら全員が酔っぱらってるとかシャレにならないだろ」
「なら、早く行ってください。遅れるとジーニーがうるさいですよ」蘭が俺の背後に回りドアに押し始める。
「はいはい。んじゃ、ちょっと行ってくる」「はい、いってらっしゃい、ロイさん」

そして俺は蘭に見送られ逃げた花嫁を迎えに行くのだった。




SOM2号機第三会議室

「いやぁ~、しかし驚きましたね~。こんな馬鹿な事に付き合うのは私達だけだと思っていましたが、まさか十万人以上付き合うなんて。お二人の人気に嫉妬です」
「笑い事じゃないぞ、エイエイ。今後の地球環境を考えるとお払い箱になる私達はともかく、十万人もの兵士、それも十年以上の経験を積んだベテランをみすみす死なせるわけにはいかけないだろう。
 何とかなるんだろうな、ロデロデにレオレオ」
「あぁ。GAは何とか見届け人という事で納得して貰った。さきの王の一撃で家族を失ったものが多く我々と共に死んで家族に会いたいと希望する者が多くて苦労したがね。
 …私があそこで追撃して王を討っておけばこん…」
「いえ、ローディ様のせいではありません。状況からアレはトーラス単独で建造した物に違いなく、仮にあそこで王を討ったとしても動き出したことは明白です。
 恐らく、制御するのにリンクスが必要でたまたま使えそうなリンクスを発見したので回収し、予備の生態制御ユニットとして組み込んだ程度なのでしょう。
 その証拠にアレの移動の癖はカリオンと87%一致していますし、先の宣言時、王の精神は明らかに異常をきたしていました。おそらく何らかの調整を受けていると考えます。
 つまり、ローディ様は悪くありません。悪いのはダリオ様です」
「いや、ダリオは関係ないだろう。だが、礼を言おう。おかげで気が楽になった。ありがとう、ミド君」
「い、いえ!わ、私は事実を言っただけです。ロ、ローゼンタールの方も見届け人という事で納得していただきました。そ、それに私達が敗死後は降伏する事も了承していただきました。
 た、ただ、その、ローゼンタール軍はともかく私兵、我が家に代々伝えている者達は後追いをしそうです」
「やばい、照れてるミドミドは可愛いぞ。押し倒しても平気かな、エイエイ?」「だ、駄目ですよ、先輩!!空気読みましょうよ!」
「ごほん。それは仕方があるまい。私のところも戦闘への非参加と降伏は納得させたが、何人かには自分の命の使い道は自分が決めると突っぱねられた。
 いくら私に尽くすな、会社に尽くせと命じても無駄だった。やはりカラード本部が消滅したのは痛いな。守る者がいればギリギリの所で踏み止まれただろうが、殆どの者がそれを失ったもせいで自分の思いに正直になってしまっている」
「それは仕方のない事さ。僕達だって上層部が裏切りなんて馬鹿なまねをしてくれなければきっと僕達につきあって死んでくれる人が出たよ。
 いつの時代でも、どんな国でも、一つの国家や体制が終わる時にはそれに心中する者が出るんだ。どんなに腐敗していても、どんなに歪んでいても、誰もがその滅びを喜んだ国家でもね。
 だから仕方のないことなのさ。歴史の必然と言い換えてもいい。そもそも、僕達もそうだろう?既に終わった企業と心中しようとしているじゃないか。なら彼等を止める資格はないさ。自分がよくて相手は駄目なんて勝手な話だしね。精々できるのはお願い程度。それをきくかきかないかは相手次第さ」
「ヤンの言う通りだ。彼等の死を止めるには我等の無駄死にを止めなければいけないが、それは無理だ。ならば、どこかで見切りをつけるしかあるまい」
「レオレオ、いくらわかっていても、そうはっきり無駄死にと断言すると私のガラスのハートに罅が入るんだが」
「強化ガラスの癖に」「そうか、エイエイ。お前は出撃までの最後の憩いの時間を啼いて終わりたいのか。よーし、いいだろう。冥土の土産に私の恐ろしさをたっぷりと体に焼き付けてやろう」「ちょ!?せんぱ~い!じょ、冗談ですよ~!冗談!」
「だが事実だろう。我々は企業に尽くし過ぎた。企業の為に血を流し過ぎた。企業の為に罪を犯し過ぎた。今さら国家に仕えるわけにはいくまい」
「一度裏切った相手だしね。ここで国家につけば国家解体戦争から今までが誤りだったと認める事になる。それが事実だとしても僕達がそれを認めるわけにはいかない。僕達が今まで殺してきた敵と味方にかけてね」
「まったくだ。それにいつまでも老兵がでかい顔をしていては若い者達も自由にできないだろう」
「老兵言うな。私はまだ若いと思い込んでいる。しかし、エイエイやリサリサまで付き合う必要はないんだぞ?お前達はあの戦争を経験してない。まだ戻れ…」
「私は有澤の社長、企業の長だ。ならば先代達とワカと同じように企業の有澤の為に命を張る権利と義務がある。譲れんよ」
「私もちょっと企業に長く仕えすぎましたからね~。残念ですけど、もう戻れません。もう少し、そう、霞先輩のように自らの正しさを自らで定められるほど強ければイけたんでしょうが、価値観の根本をお上任せにして目を背けてきたツケがココになってきましたね~。今までの目を背けていた過去に今さら向かい合えるほど私強くないです。
 それに今さら生き方を変えるのはメンドクサイですし、なにより今アッチについたら私が最年長じゃないですか。そんなの耐えられません」
「私も最期までお養父様に、レオハルト様にお仕えする所存です。向こうに戻ってダリオさまのお守をするのも嫌ですし」
「残念!!今回のパーティーは大人限定なので処女のミドミドは参加できないのだ!」
「は?何を言っているのですか?セクハラで訴えますよ。ついでに私は処女じゃって、きゃぁああ!!!ちょっと、エイさん!ドコ触ってるんですか!!」
「右太股の内側。ねぇ、知ってます、ミドちゃん。処女の右太股の内側には特有のしこりがあるんだよ?」
「えええ!!?嘘!!?」「ほ、本当か、エイエイ!!」
「嘘です。だが、処女は見つかったようだなって、なんで先輩まで確認してるんですか?」「いや、心はいつも処女だし」「プワワ~ン、ナイスジョーク!」
「三人とも仲がいいのは結構だがここには男性がいる事も忘れないように。特に、ミド女史とスティレット女史は捲りあげたスカートをおろしてくれ。老兵には刺激が強すぎる」
「え!?は、はい!!!」「ん、ちょっとまって。エイエイを落としたら」「先輩!ギブ!ギブ!!極まってます!息ができな……ガフ」
「ともかく、スティレット女史の言った言葉は極端だが、私達も思いは同じだ。君はまだ若い。生きたまえ」
「な、ふざけないでください!納得できません!確かに私は若いですが、戦歴からいえばエイさんとほぼ同じで、失礼ですが貴方を上回っています!なのに何故私だけが!!
 お養父様!お養父様も同じ意見なのですか!お養父様も私が若輩であるというだけで、貴族の責務から逃げよとおっしゃるのですか!」
「ミド、ノブリス・オブリージュとは責任を取って死ぬ事ではない」
「ですが、今回は死ぬ事が責務です!!滅ぶべき旧世界の特権者である私達は死ぬ事で万民に一つの終わりと新世界の始まりを告げ、新たなる秩序の肥やしにならねばならない。だからこそ私達は死なねばならない。違いますか、お養父様!」
「その通りだ。だが私達が、いや、私が死を選ぶ理由は違う。私は一つの時代の為に罪と功を為した。パックス・エコノミカは私そのものなのだ。
 そして私は私そのものであるパックス・エコノミカが否定され打倒される事を見るのが耐えられんのだ。
 私が為した功が否定される事に、今まで犯してきた罪と裸のままで向き合う事に耐えきれん。だから私は死を、私そのものである時代とともに死を選んだ。
 そう、私はただの貴族を装っただけの敗残者だ。貴族の資格無き匪賊なのだ。
 そもが、ノブリス・オブリージュとは弱者のために我が身を犠牲にする覚悟。自らの想いを護る為に我が身を犠牲にしようとする私はノブリス・オブリージュから外れている。
 だからこそ、正しきノブリス・オブリージュの元に死を選べるお前には生きて欲しい。正しく死を選んだお前なら、正しく生きて罪と向き合い、流した血と犯した罪以上の貢献を新たなる秩序に、守るべき民達にする事が出来るだろう」
「だったら!だったら私もノブリス・オブリージュなんて守らなくていいです!私は最期までお養父様と一緒にいたいんです!お養父様と一緒に死にたいんです!それじゃあ駄目なんですか!」
「娘と共に死ぬ事を望む父親はいない」「私は、私は、養父としてではなくて好きな人、愛した男性と最期まで一緒にいたいんです、お養父様!」
「…それは勘違いだ。お前が私に抱く思いと私がお前に抱く愛情は同じ。肉親に対する新愛だ」「なぜ、私の気持ちが解るのですか、お養父様!」
「未だに、私の事を養父と呼ぶのがその証拠だ」「そ、それは」
「お前のそれは幼子が父と交わす結婚の約束と同じだ。父としては嬉しいが本気にするわけにはいかんし、娘が清く尊いが幼き思いに囚われ道を誤るのを見過ごすわけにはいかん」
「ふむ、突然の告白に驚いたが、つまりミドミドは重度のファザコンってことか?」「だから空気を読んでください。え、えと、しょうがないじゃないですよ!レオハルトさんみたいに素敵な男性が父親になったらそりゃぁ誰でもファザコンになりますって。勘違いも仕方ない!ハハハ」
「「「「「…………………………」」」」」
「折角頑張ってフォローしたのに、空気が重い!!」
「そりゃぁ、傷口を抉っただけだからね。さて、納得がいかないようだね、ミド?」「…」「理屈で負けたから精一杯の自制で爆発しそうな感情を抑えるミドミドはとってもキュ「はい、空気の読めない先輩は空気の読めない私と一緒に隅で空気にでもなってましょうね~」
「まぁ、それはそうだね。感情と理性は別物だからね。それにどんな理由をつけても僕達が君を仲間外れにしようとしているのは事実だからね。なら、こんなのはどうだい?
 君には生き残って大事な役を引き受けて欲しいんだよ。君だけにしかできない大事な役をね」
「…なんですか?まさか生き残って語り部にでもなって欲しいとでも言うつもりですか?」
「いや、その役目は見極め役の彼等に任せるさ。君にはね、ミド。戦後、僕達の代わりに企業の代表として処刑されてほしいのさ」「…ヤン」
「君の気持は解るが必要だろう、レオ?時代の移り変わりを告げる一番解りやすい方法は新支配者による旧支配者の処刑だよ。そしてそれは全ての民に伝わる形が望ましい。だから、古来は広場で、通信技術が発達してからは大々的に放送するんじゃないか」
「それに、この暴挙の責任を取る者も必要だ。その点、CEOである君の養女であり、バーテックスのNO2である彼女は最適だ。彼女が責任を取らねば各グループの最高位が代わりを務めるしかないが、そうなればかなりの数になる。その点、彼女ならば一人ですむ」
「…それに君が最期の望みとして部下の助命を願えば叶えられるだろう。あちらとしても戦後の復興を考えれば無駄な損失は避けたいに違いなく、部下達も君が命をかけて救った命を捨てる不忠義者ではないだろう」
「なるほど。それなら死ぬ時間が少しずれるだけで一緒に死ねるし、部下の命も救えるからいいんじゃないか、ミドミド?」
「……お養父様はどう思いますか?」「私からは何もいえない。ノブリス・オブリージュの精神に反して匪賊に堕ちた私は正しき道を歩むお前に何も言う資格はない。だから自分で決めなさい」
「…ならば受けます。ただし、ノブリス・オブリージュだからではありません。一緒に死ぬよりもお養父様の役に立てるからです」
「そうか、ありがとう。ミド」「…少し、頭を冷やしてきます。十分程で戻ります。では、失礼します」
「…うまくいきましたね~。後は、向こうに期待ですね。まぁ、ロイ君がいるから何とかなるでしょう。ダリオ君が頭やってるのが少し不安ですが」
「ダリオはあれで器が広い。大丈夫だろう。それより皆、憎まれ役をやらせてすまなかった」
「いや。彼女を助けたかったのは私の総意だ。それに子が親と同時に死ぬなど不自然な事はあまり見たくない」
「ならお詫びにこれからどうだ?というか最後なんだし皆で派手に楽しまないか?皆付き合いが長いのにヤンヤンとエイエイ以外、誘っても断るから最後ぐらい・・・」
「僕もOKしてるわけじゃないんだよ?いつも君達が強引に拉致っていくんじゃないか」「残念だが、これから社員達と最後の一献の約束がある」「私もだ。付き合いの長い者達に別れを告げておきたい」「私も娘とこれまで尽くしてきた者達に礼を言わねばならない」
「私は~「仕方ない。エイエイ、ヤンヤン。3人で楽しもう」「相変わらず僕の意見は無視か。君は何年たっても変わらないね。いいよ。解った」「せめて、最後まで言わせてください。び、微妙に私がお邪魔虫な気がするんですが、最後の夜に一人寝とかどのルートにも入り損ねたギャルゲの主人公みたいで悲しいんで空気を読まずに参加します」
「ではきりがいいしここでお開きにしよう」「娘を待たなくていいのか?」「あぁ。どこにいるかは大体見当が付いている。迎えに行こう」「そうか」
「それでは、最期は格好よく閉めましょう。え~、ごほん」

「皆様、良い終末を。そして死にゆく企業と生まれゆく国家に祝福あれ」


ギガベース内ラインアーク及び正統アライアンス連合軍最高司令私室

「さて、凄い悪い報告と悪い報告と最悪な報告どれから聞きたい?」
不眠不休でいつもの奇人を装う余裕がなくなったアブ・マーシュが目の前に積み上げられた試作型LVOBの操作マニュアルを読み漁るレイヴンに声をかける。
アブ・マーシュと共に部屋に入ってきたフィオナは下を向いて顔を真っ青にし目を充血させ瞼の周りを腫らし全身を震せていた。
「好きにしてくれ」
アブ・マーシュに比べれば若干余裕があるレイヴンはフィオナに声をかけずに書類から顔を上げずに答える。
「じゃぁ、凄い悪い報告からいこう。フィオナ君は無理なようだから僕が代りにするよ。
 緑の太陽に対する全軍の一斉射撃を行ったんだけど、PA、あれをPAと呼んでいいのかは微妙だけど、とにかく分厚いコジマの層に全て無効化されたよ。
 30分間行ったんだけど一定距離、約1672メートル以下には減衰させることができなかった。
 軽く試算してみたけど、核弾頭を含む手持ちの大量破壊兵器を全て撃ち込んでも突破は不可能だね」
「そうか。予想通りだな。つまり、事実上手持ちの兵器では奴を破壊する事は不可能か。…ただ一つを除いて。次」
想定内ではあるが絶望的な報告にもさして動揺せずにレイヴンが次の報告を促す。
「じゃぁ悪い報告だ。先の一斉攻撃で超高濃度のコジマ領域が減衰した事で特攻兵器を生みだす遺跡への侵入が可能になったから送り込んだ先遣隊が全滅したよ。
 全滅させたのは赤と黒の大型可変ノーマルだ。君が提供してくれたデータに比べ18%程性能が向上していたが同型と考えていいだろう。改修機かな?
 君が提供してくれたデータと先遣隊のデータを合わせると撃破するには手持ちの兵力の4割が必要だろうね」
「4割という事はAFと航空機が入れない事を考えると、手持ちのノーマルとMTの殆どが必要だな。とはいえ、倒せないよりはマシか。次」
「WGの修復とLVOBの製造が終了したよ」
「…それが最悪の報告か?いい報告じゃないか。これで奴を倒せるんだぞ?」
「ふざけないで!!アナタ、自分が何を言っているのか分かっているの!!!」
レイヴンの言葉にフィオナが持っていた書類を床に叩きつけ、レイヴンに詰め寄る。
「落ち着け、フィオナ」「解ってるの!LVOBなら確かにコジマの層を突破して緑の太陽に肉薄出来る。そしてアナタなら攻撃が届く間合いにさえ接近できればどんな相手にも負けない」
「ならいいじゃないか」「でも、あんな超高密度なコジマの中に飛び込んだら何重にもコジマ汚染対策がしてあるネクストでも汚染は避けられない。絶対に汚染で死ぬ。ううん、それ以前に緑の太陽を倒した時のコジマ爆発を避けられない。巻き込まれればアナタは絶対に死ぬ!死んでしまうのよ!!」
そのまま自分に縋りついて泣きじゃくるフィオナの髪をそっと撫でながらレイヴンは静かに微笑む。
「だが、アレを放っておけば世界の全てがコジマに包まれ皆死ぬ。どうせ死ぬなら俺一人の犠牲で済ませた方が得だろ?俺はレイヴン、傭兵だ。死ぬのも仕事のう…いや、違うな。俺は死んでもお前達を、お前とジョシュアを守りたい。フィオナも解ってるんだろ?もうこれしか方法がないんだよ」
「解ってる。それでも、嫌なの」と首を振って泣きじゃくるフィオナ。
レイヴンはそんなフィオナを優しく抱きながら「ごめんな」と謝る。
「…僕は現時点で飛び込むのは反対だね。現時点では耐コジマ汚染装備をしても君が生きていられるのは1分足らず。君の実力は知っているが流石にそんな短時間で倒せるとは思えない。LVOBも君も一人しかいないんだ。もう少し時間をおいて、せめて1時間は持つようにしてから行くべきだ」
「現時点でWGには最高レベルの技術が注ぎ込まれてるんだろ?それで1分しか持たないのをどうやって60倍に増やすつもりだよ?」
「3ヶ月、いや、1ヶ月僕に時間をくれ。その間に何とかしてみせる」
「その1ヶ月でユーラシアはコジマに飲み込まれてるよ。アブ、気持ちは嬉しいが済まない」
「なら、2週間、いや1週間でいい。お願いだもう少…」
笑って頭を下げるレイヴンに尚もアブ・マーシュが食い下がろうとした時、通信機が非常用の警告音を鳴らす。
「なんだ。…………そうか。こっちに回してくれ」通信機をとり報告を受けたレイヴンが指示を出し通信機を弄り始める。
「…どうしたんだい?」気勢をそがれたアブ・マーシュがレイヴンに尋ねると、レイヴンは不敵に笑う。
「緑の太陽から俺を指定しての通信だ。相手は、フィフ。トーラスの頭だ。…ふん、暗号コードはフライトナーズ専用の物か。そうか、特攻兵器と天使様の時点で疑ってたが、やっぱりお前が糸を引いてやがったのか、クライン」
レイヴンが端子で首の後ろのコネクタと通信機を繋ぐと、通信機から落ち着いた壮年男性の声が発せられる。
「こちら、L5。聞こえているか、鴉?」「あぁ、聞こえているぜデットコピー。相変わらず裏でこそこそ動き回って人を躍らせるのが好きなんだな」
「久しぶりに会うのに、いや厳密にいえば私とは初対面なのに御挨拶だな、鴉。しかし、相変わらずお前は頭が悪いな」
「そういうテメェはオリジナルと同じように性格が悪いな。つーか、俺のどこが頭が悪いってんだよ?」
嘲笑に罵倒で返しながら情報を探ろうとするレイヴン。その意図に気づいているのかは解らないがL5、クラインのコピーはかつてのように出来の悪いが可愛い生徒に物を教える教師のように口を開く。
「簡単なことだ。貴様はまた勘違いをしている。いや、意図的に勘違いをしているのか。
 人が自らの愚かさで滅びに瀕しているより、私という悪に惑わされて滅びると思った方が気が楽だからな。無意識に滅びの責任を自らでなく、私に押し付けているのだ。
 だが残念だったな、鴉。私は今回、何もしていない。いや、今回だけではない。お前にオリジナルが退けられてから私達は何もしていない。いや、何もする必要はなかった。
 私達が何もせずともコジマを与えられた人類は環境に対して致命的な悪影響を与えると知りつつもネクストを作り、国家解体戦争をおこし自らをこの星に縛り付け、100億の同朋を不経済だという理由で間引き、リンクス戦争で過去の罪を清算しようとする者達を真実を隠したまま葬り去り、そして滅びの未来に目を背けクレイドルで楽園の夢を見ようとした報いとして、再生の最後の機会であった夢想家達の革命は失敗した。
 もはや人の滅びは避けられん。そう、私が何もする必要はなく人は自らの手で自らを滅ぼした。全て貴様ら人間の業故にな」
「ざけんな。貴様が通信を送ってきてるのはどこだよ?それこそがお前が裏で糸を引いてきたって証拠だろうが」
クラインの言葉に反射的に反論するレイヴン。だが、焦るレイヴンとは逆にクラインは落ち着いて答える。
「ふ、貴様も分かっているのだろう?企業の長とは企業の全てを決める王ではない。企業の、人が集まった総体としての組織の意思を代行して表現するだけのシステムの一部に過ぎん。
 あくまで、決定するのは企業に集まった人の意志の総意だ。私はそれを忠実に表現しているにすぎない。私は私の意志では何も決めていない。
 まぁ、止めなかった事が私の罪というなら否定する気はない。だが止めなかった事を私の罪とするならば私は全く同じ罪を人類全てに問うだろう」
「ち」「あ~、一つ言いかね?え~と、フィフ代表」
反論しようとするが言葉が出てこないレイヴンを庇うように、アブ・マーシュが問いかける。
「なにかね?稀代の天才であるアブ・マーシュ殿の質問に答えるだけの知識が私にあるかはともかく、問われれば答えよう」
「ありがとう。なに簡単な事だよ。
 僕は常々疑問だったんだよ。コジマの発見はともかくコジマの制御技術が不自然なんじゃないかってね?
 極初期はともかく、現在において科学の分野っていうのは積み重ねなんだ。新発見も新技術も地道な研究の末、既存技術の延長上にあるんだよ。
 世界が変わるとしたら技術の使い方なんだ。発想の転換の結果新技術が生まれる事があっても既存の流れから飛躍した物が出てくることはありえない。ありえないはずなんだ。
 なのに、コジマとその制御技術は明らかに流れを飛躍してる。
 いや、新物質、新粒子の発見はまだ解るんだよ。今迄の技術体系から大きく逸脱しているとはいえ既に存在しているものだ。なら僕より2桁くらい発想の飛躍と頭の回転が出来る人が机上でその存在を導き出せてもかろうじておかしくはない。
 でもね、制御技術はおかしいんだよ。本当なら机上で存在証明して、コスト度外視の実験で実在を確認して、実用化に向けてローコストで容易な制御方法を研究して、製品にしていくんだ。
 なのに、コジマは実験も研究の過程も飛ばしていきなりネクストという完全な製品で現れた。これもおかしな話だよね?製品ってレベルで考えても普通は小型化のコストの関係から新技術は大型のそれこそクエーサーとかの大型MTに搭載されて、運用実績を元に徐々に小型化していくはずなのに。
 不思議だよ。普通は最先端の技術を見ればその形に至るまでの歴史が想像できるのに、コジマに関しては全くできないんだ。
 最初はイエネフェルト教授が途轍もない天才で全ての過程を思考実験だけで飛ばしたのかと思ってたんだけど彼の足取りを追ってみると不自然でね。
 ある時期までは真っ当な研究として仮定と理論で実在証明を模索しているのに、一年足らずの空白期間でいきなりコジマについて制御理論こみで導き出してるんだよ。今までのペースから考えると、これは発想の転換とかブレイクスルーでどうにかなる問題じゃないんだ。それこそお手本になる完成品を手に入れたとしか考えられないくらいにね。
 ところで君は先程人類はコジマを与えられたと言ったよね?これはつまりそういう事なのかな?」
アブ・マーシュの問いにフィオナが息をのみ、レイヴンに縋りつく。
何故なら、アブ・マーシュの問いはネクストをフィオナの父親であるフイオネフェルト教授が開発したのではなく、ただ与えられた物を自らの功績としたのではないかと問うものだからだ。
自らも研究者であるが故に研究者として最低の行為である盗用を尊敬する父が行った等と信じたくはなかった。
「素晴らしい。流石、イレギュラーの一人である、鬼才アブ・マーシュだ!その通りだ。私がコジマと名乗り一人の研究者に新粒子とその制御技術を与えたのだ」
「嘘よ!!コジマ技術は父が長年研究していたその成果です!!私は父がコジマを発見する前からオーメルの援助を受けて新粒子を探していた事を知っています!」
反射的に叫ぶフィオナにクラインは落ち着いて肯定する。
「その通りだ。彼は独力でコジマの存在にまで辿り着いていた。もっとも仮説の仮説といった段階だがね。そのままでも生涯研究を続ければ机上では存在を証明するところまで辿り着いたかもしれん。
 だが、それでは遅い。だから私が後押しをしてやったのだ。時代を進めるためにな」
「ふざけないで!仮にあなたの言う事が事実だとしてもアナタがそんな技術を持っているはずがないじゃない!時代の最先端の父の遥か先を行く技術を何故アナタがもっていたの!」
「…パルパライザー、いや大破壊前の技術か」「その通りだ。アレはワンオフの機体ではない。破壊し性能を向上させる事が前提の量産品だ。データと機材さえあればいくらでも作れるのだよ。故に、貴様が破壊し、ジャックが封印した場所とは別の場所、先程貴様らが侵入し全滅した拠点で生産し、彼に与えたのだ。誇れ、娘。教授は優秀な技術者だった。完品があるとはいえ、製品から一連の技術を解読し体系化したのは紛れもなく教授の功績だ」
「そんな、嘘よ」力なく崩れ落ちるフィオナ。
「しかし、なぜ人に教えるなんて回りくどい事をしたんだね?そんな面倒なことをせず、自分で広めればいいじゃないか?」
「歴史に与える影響を最小限にするためだ。放っておけば人は自らの手で滅びに向かう事は解っていた。だが私がその流れに手を貸す事で流れから逸脱する可能性がある。
 だから可能性を最小限にする為に本来新粒子を発見する男に力を貸し、更に逸脱した際に流れを修正する為に新たなる支配者である企業の中に潜り込んだ。
 後者に関しては完全に無駄になったがな。私が手を貸した程度では人の愚かさは変わらず人は滅びの道を後戻りできない地点まで進み続けた」
「…なんでそうまでして人を滅ぼそうとする?アンタは人類を地下に押し込めたいんじゃなかったのか?宗旨替えか?それともとうとう狂ったか?」
苦り切ったレイヴンの声にクラインは苦笑する。
「私の、いや私達の願いは変わらない。人を母なる管理者が統治する楽園に導く事だけが目標だ。
 だがそれには地上の徹底的な破壊がいる。地上が永久に人が住めぬ地になれば人は地上に回帰するなどという愚想を捨て、地下にて全能なる母に抱かれ続ける事を選ぶのだからな。
 …とはいえ、今の状況は少々不味い。イレギュラーたる獣のせいで私の想定以上に人が死に過ぎた。このままでは母の元に到達できる人は数百人程度となってしまう。
 これでは少なすぎる。最低でも1万人はいないとその後の都市計画に支障がでよう。
 故に今回私はお前に協力しに来たのだ、鴉」
クラインが言い終えると同時にデーターが転送される。
「これは!?」「そう、緑の太陽の設計図だ。見ての通り緑の太陽はお前が以前戦ったソルディオスと同じ胴体下部に弱点、生体制御ユニットの搭乗口がある。ここを撃ち抜けば制御ユニットを直接破壊できる」
「なんで弱点がそのままなんだよ?」「設計者の拘りだ」「あ~、そう」「ん~!素晴しい!解る!解るよ!そうだよね!やっぱりデカブツには弱点だよね~!その方が可愛いもんね!」
ゲンナリするレイヴンとしきりに同意するアブ・マーシュ。
「ただし、これだけでは倒せない。ソルディオスオービットと同じで球体部分が単独飛行可能だ。こちらも以前にランドクラブに搭載していた試作品と弱点は同じ。高濃度圧縮重コジマ砲を撃つ時に発射口を狙え。以上だ。何か質問は?」
「情報には感謝してやる。だが邪魔だってんなら自分で壊せよ。何で俺に壊させようとするんだ?天使様とか手駒はあんだろ?」
「言った筈だ。私はシステムの一部に過ぎんと。誰もがこのまま進めば滅びる事を薄々とあるいは明確に知りながら目先の欲を優先した結果、人は滅ぶ。
 つまり、この滅びは人の選択の結果、人類の総意だ。そして緑の太陽でこの星をコジマで包みコジマに適応した種を生みだすのはトーラスの総意だ。
 そして、人を管理し人を導くシステムの一部である私は進行方向を多少変える自由があるが、人の総意、人の望みに逆行する事はできん。
 まして、私はトーラスの代表だ。トーラスの望みを叶える義務がある。二重の意味で私には止める事は出来ん。
 否、全ての人間が願い選び望んだ結末だ。もはや、誰にも止められん。人は群れで生きる生き物であるが故に、全の決定を個が覆す事は出来んのだ。
 だから止められない。人である限り止める事は出来ない。…例外を除いてな」
「だから、お前がやれよ。イレギュラーにしてナインブレイカーのクラインさんよ?」
「確かにオリジナルならできたろう。だが私はお前の言う通りデットコピーだ。私は電脳にコピーされたAI、ただの私の願いを叶えるシステムに過ぎない。そもそも人の被造物たる私が造物主の決定を覆す事など出来る筈がなかろう」
あくまで出来の悪い生徒を諭すように言葉を続けるクライン。
「つまりお前しかいないのだ、鴉。今までと同じようにお前が止めるしかないのだ、鴉。人でありながら人の枠から外れた者、イレギュラーしか止める事は出来ないのだ。
 勿論、断る事も可能だ。だがその場合、強靭な生命力をもつお前は助かるが、お前の子も妻も仲間も死ぬ」
「……最初からそれが狙いか。利用価値の無くなったトーラスと邪魔な俺を共倒れにさせるつもりだったんだな」
「否定はしない。お前は危険すぎる、鴉。お前達イレギュラーは常に私の想像を超え想定を覆す。前にも言ったがそんな不確定要素は彼女の世界には不要だ。
 だが排除しようにも貴様らは0でなければ、極小の可能性さえあればそれを掴み引きよせる。99%では足りんのだ。だから今回は100%を用意した。来ればお前は絶対に死ぬ。
 感謝してほしいな。私のほかに、量産型セラフ2機を操る04と07も貴様と共に滅びてやるのだから」
「誰がありがたがるか。…だがまぁ、もともとお前に言われるまでも無く死ぬつもりだったんだ。今さらお前がどうこう言おうと覆す気はね「残念、覆ってしまうんすよね、これが!」
「なんだ!?回線の割り込みだと!?馬鹿な!私が管理しているのだぞ!!」「アブ!!」「あ~、はいはい。え~と、割り込み相手は、これは凄い、ORCAとの間に用意した秘匿回線とちょっと前のラインアークの緊急コードを使って強引にこじ開けてきたみたいだね。うん、このコードはリリアナかな」
突然割り込まれた通信に初めてクラインが狼狽の声を発し、レイヴンの指示を受けたアブ・マーシュが解析をはじめ、相手を特定する。
「この声!!」フィオナがおびえたようにレイヴンに縋りつく。
「ピンポ~ン。さっすが、アブ・マーシュの旦那っすね。特定が早い、早い。あ、どうも皆さん、久しぶりっす。あるいは初めまして」
「その声。確か、リリアナの副官をやってた王焔だな?」
レイヴンが殺意を強引に噛み潰した静かな声で確認する。
「はい。その通り。お久しぶりです、レイヴンの旦那。ヒヒヒ、あ、俺が刻んでやった奥さんの怪我はどうっすか?」
「あぁ。うちには優秀な医療スタッフがいるからな。痕は残ってないよ」
「そりゃぁ、良かったっす。いやぁ~、旦那が到達するのが後10分遅かったら奥さんを刻んで犯して、最後に目の前でお子さんをぶっ殺して壊して、ついでにセラノちゃんもさらえたんですけどね~」
「…それは残念だったな。それで何の用だ?今度こそフィオナとセラノをさらいに来たのか?だとしたら歓迎するぞ。皆殺しにしてやるからとっととこい」
「いえいえいえ。違いますよ。今回はね、そちらのお手伝いに来たんですよ。いやぁ~、何か話を聞いてると困ってるみたじゃないっすか。だとしたら先のお詫びもあるし手伝っておこうかなと」
怒りを必死に抑えるレイヴンをからかうように王焔が告げる。
「手伝うだと。ふざ「聞いていただと!馬鹿な!私に気づかれずに通信を盗聴など出来るわ…ま、まさか、獣なのか!?馬鹿な!奴が生き残る可能性は0だった筈だ!」
「ヒヒヒヒ、さてね~。それでどうです?そっちがよければ生体ユニットの破壊、つーか拉致まではこっちがやるっすけど?
 ボスの予知によるとオービットの破壊とその後の離脱だけなら、そっちの汚染がリミットに達する前にコジマ爆発に巻き込まれる事無く脱出できるはずっすよ?
 まぁ、接敵後17秒以内にソルディオスオービットを倒して上昇を開始して、こちらが破壊した台座のコジマ爆発に合わせてOB使って爆発のエネルギーを利用して一気に加速して距離を稼いで、止めに本命のソルディオスオービットの超強烈なコジマ爆発が到達するタイミングにドンピシャ合わせてAAを使用して双殺するなんて無茶が必要らしいですけどね。
 ボスは俺ならなんとかできるから旦那なら楽勝とか言ってたけど正直、ボスしかできないっすよね?」
「アブ?」「ちょっとまって検討する。………うん、暗算だから大雑把な試算になるけどフィフが送ってきた設計書が正しいなら確かにそれなら1分以内に離脱可能だね。ちなみに成功確率は最大限に甘く見積もっても宝くじで10年連続で1等を取り続けるか、台風の日に拳銃で500M先を飛ぶ鳥を撃ち抜くぐらいかな?」
レイヴンの問いに遠まわしに無理だと返答するアブ・マーシュ。
だが、その答えを聞くとレイヴンは不敵に笑った。
「そうか。宝くじは買ったことがないが、1KM先を飛ぶ蠅を撃ち落としたことがあるから楽勝だな。やったぜ、フィオナ。またお前達の所に帰ってこれそうだ」
「え?で、でも」「なんだ、俺を信じないのか?」「ううん、信じる。信じるから、絶対に帰ってきてね。約束だよ?」「あぁ。約束する」
レイヴンにもう一度縋りつくフィオナを安心させる為に断言し、優しく抱きよせるレイヴン。
「ヒュー。お涙ちょうだいっすね~。ベタすぎてサブイボが出てきちまったすっよ。おっと、そうそう、言い忘れてたんすけどこっちが協力するには条件があるんすよ」
「…なんだ?」「なぁ~に、簡単な事っすよ。お互いこれから立て直しで戦争を始める余力なんてないっしょ?だから、これを機に友好条約を結びません?今までのいきさつは忘れて仲良くしましょうよ~?」
「友好条約だと」予想もしなかった提案にレイヴンは一瞬目を開き驚いたが、直ぐに目を閉じて考え込む。
そして5秒ほど考えた後、口を開いた。
「いいだろう。10、いや5年間の停戦、不可侵条約でどうだ?どうせ期間を長くとってもどっちかが破るんだ。なら逆にこの程度の長さの方が守れるだろう」
「ひひひ、酷いっすね。まぁ、確かにその通りっす。5年間の停戦の後は、戦争再開ってね。それじゃ、束の間の平和を満喫しましょうや!
 それじゃぁ、準備ができたら教えてくださいよ」
「待て!!貴様らは何故、鴉につく。世界の滅びが貴様等の目的ではなかったのか、獣!」
通信を終えようとする王焔に今まで黙っていたクラインが声をかける。
「ヒヒ、そ「少し誤解してるわね。私達は誰も世界の終わりなんて望んでいないわ。私達は自分の欲望に忠実に今を精一杯楽しんで生きているだけよ」
王焔を遮り新しい声が通信機から発せられる。
「まぁ、アナタが誤解するのも解るけどね。私達今日が楽しければ明日人類が滅んでも構わないもの。それになるべく多くの人の死や苦痛や嘆きを見るのが私達の楽しみの一つでもあるわけだしね」
クスクスと嗤う女。
「でもね、残念だけど私達も自分の楽しみより優先する事があるのよ。仲間の復讐は私達の趣味よりも何よりも優先するの。
 解るかしら?アナタが王小龍を、チビを虐待し私達の居場所を壊した仇を仲間に引き入れた時点で私達と敵対する事は決まっていたのよ」
「そういことっす。だから悪いけど、王はこっちに寄越してもらうし、王を助けやがったお前への嫌がらせにお前の計画はぶっ壊してやるっす。…ボスが」
「ふざけるな!そんな些細な理由で、そんなくだらない理由で貴様等は人類の未来を、楽園への到達を、私達の悲願を邪魔するつもりか!」
「ええ、そっすよ。言ったでしょ。俺達は好きに生きるって。アンタの他人の願いなんてしったこっちゃないす」「むしろ、他人が必死に築き上げたものを面白半分に壊すのが楽しいのよ。そういうわけだから、まぁ、運が悪かったと諦めるのね」「残念でした~っす!それじゃ!」
「待て貴様ら!!」クラインが喚き立てるが一方的に通信が切断される。
「…自業自得だな。これが報いってやつだ。さ、俺達も行こうぜ。アブ、さっきの作戦用の装備を考えよう。早くしないと奴等の気が変っちまう」
立ち上がり二人を促し格納庫に向かうレイヴン。
「待て!!鴉!!」クラインが呼びかけるが三人はクラインを無視して格納庫に向かい部屋を出る。
「考え直す気はないのかい?」「あぁ。だから嘆く時間はないぜ、アブ。作戦の成功は9割事前の準備で決まるんだ。だから嘆く時間があるなら少しでも成功率を上げろよ」「そうですよ、アブ・マーシュさん。大丈夫、この人ならきっとやってくれますよ。だから力を貸してください、お願いします」「はぁ。こういう時に迷いなく君を信じるフィオナ君を見ると愛しあう君達を羨ましく思うよ。はぁ、僕も相手を探そうかな」「アブ、それは死亡フラグだ」「死ぬとしたら君だよ。にしても停戦期間は5年で良かったのかい?どうせなら100年ぐらいにしておけば」「いいんだよ。どうせ長くしてもあいつらは守れねぇから結局常に警戒しなくちゃならねぇ。だが5年て限定してやれば裏切る時期は予想できる。停戦が切れる直前、おそらく4年~4年半後までの間に仕掛けてくるだろ。逆にいえばそれまでは仕掛けてこないんだ。なら3年は奴らを無視して体制固めに集中できる」「もっと前に仕掛けてくる可能性は?」「ない。向こうも体制固めをしなくちゃいけないし、向こうからしてみれば今後5年間はいつでも奇襲できるんだ。ならギリギリまで待って準備を整えだろ」「へぇ~。そっか。凄いわね、貴方。そんな複雑な事をあんな短い時間に考えられるなんて。見直しちゃった」「いや、残念だが知り合いがよく使った手だ。そいつはそうやって奇襲のつもりでノコノコ侵入してきた敵を準備万端待ちうけて叩きのめして蹴散らして逆侵攻かましてそのまま首都を陥落させるようなえげつない奴だっ…しまった。ちょっと先行っててくれ」「どうしたんだい?」「忘れ物。すぐ戻る」

「っと、忘れるところだった」
引き返し部屋に戻ったレイヴンは未だに自らの正義とこちらに翻意を促すクラインの言葉を垂れ流す通信機に歩み寄り、「じゃぁな、クライン。次は戦場で」と一方的に告げ電源を切る。
そして部屋を無音にすると、フィオナとアブ・マーシュに追いつくべく駆け足で部屋を出ていった。


7月16日。
12:00、
ラインアーク及び正統アライアンス連合軍は緑の太陽に向けて一斉砲撃を開始。

12;57、
一斉攻撃により緑の太陽の超高濃度のコジマ領域が減衰し、遺跡の入口が侵入可能になった事を受けアライアンスがWGを除く遺跡へと侵入可能な戦力を全て投入した侵攻作戦を発令。

12:59、
ラインアーク及び正統アライアンス連合軍が一斉攻撃を一時的に中止する。

13:00、
緑の太陽の超高濃度のコジマ領域内に漆黒の002-Bが突入を開始。

13:02、
002-Bと緑の太陽との交戦開始を受け、OIGAMI装備WG搭載型LVOBがギガベースより射出される。

13:03、
002-Bが緑の太陽につけられた対空兵装を全て破壊

13:04、
WGは時速2000KMで移動するLVOBから肩に強引に溶接されたOIGAMIで緑の太陽の球体部分を狙撃し見事命中させPAを剥がす事に成功する。
直後、WGはLVOBをパージしLVOBをPAが剥がれた緑の太陽に激突させる。
組み上げたばかりで慣らしもしておらず、操縦者であるアナトリアの傭兵もシュミレートはおろか搭乗三十分前にマニュアルを読んだだけという状態にも関わらず、
6基のVOBは完璧に制御されWGを緑の太陽の元まで運び、14基のロングパイルバンカーは同時に緑の太陽の球体部分に突き刺さり致命的な損傷を与えた。
同時に002-Bが緑の太陽の台座下部に潜り込み、台座部分の制御ユニットである王小龍をコックピットごと強奪し、離脱。

13:05、緑の太陽の台座部分が崩壊。
制御ユニットであるテレジアはソルディオスの球体部分をオービットモードで起動し、アナトリアの傭兵を道連れにしようと攻撃を開始。  
激烈だが短い戦闘の末、WGは強引にパージ(左手で肩ごと引き千切った)したOIGAMIを球体部分がソルディオス砲を発射する寸前に発射口に放りこみ、ライフルで狙撃し誘爆させる。
脆い発射口に9発分のOIGAMIが一斉に炸裂した事に緑の太陽が耐えきれず崩壊し、テレジアは死亡。

13:06、
WGが台座部分のコジマ爆発に合わせてOBで離脱を開始。

13:07、
ズレが0.00035秒しか許されなかった球体部分のコジマ爆発到達に合わせてのアサルトアーマーも成功させ、レイヴンが離脱に成功する。

13:48、
突入部隊が遺跡内にて大型可変ノーマルの撃破に成功

また、12:00にはベルザ高原にて互いのAFの射程外で睨み合いを続けていたレオハルト軍が動く。
レオハルトはAFは動かさず、左翼からレ・ザネ・フォル及びヴェーロノークを、右翼からフィードバック及び雷電を、そして中央より自らが操るノブリス・オブリージュとブラインドボルド を出撃させる。
それを受けてダリオはこちらもAF及び通常戦力は動かさず、敵左翼にレイテルパラッシュ及びマイブリスを、敵右翼にメリーゲート及びセレブリティ・アッシュを、中央はサベージビースト及びノーカウントを率いて自ら迎撃に出る。

12:06、アライアンス及び正統アライアンスのネクストが接触。交戦開始。

****

戦域中央

「ダリオ、こちらの意を汲み決闘に応じてくれた事に礼を言う。この争いは儀式だ。ならば流れる血は最小で良い」
「それと正統アライアンスにアライアンス大皇を自称した事にも称賛を贈るよ。おかげでこの争いは外からは人類絶滅の危機に協力もせず滅びゆく企業の内部で行われている醜い権力闘争にしか見えなくなった。これで民衆は完全に企業を見限った。まったく、いい手だね」
「俺の偉大さが解ったらとっとと降伏しろ。忠誠を誓うなら娘共々命だけは助けてやる」
「それは無理な相談だ。私は敗軍の将として、今まで企業の為に命を失った者達に報いるためにも最後まで企業に尽くさねばならん」
「それに僕達が生きていれば企業の復活を狙う者や国家に不満を持つ者に担ぎあげられる可能性もある。だから新しい秩序を打ち立てるものは古い血を排除切らなくちゃいけないんだ。古い世界の膿を敗者の血でながしきる。それが勝者の権利であり義務だよ。だから歴史の中で幾度となく行われてきたんだ。もはや必然と言ってもいいかもね」
「馬鹿が。旧体制の支配階級でありながら新体制に協力した事で、新体制内でも重用されたものは多いだろうが」
「そうだね。付け加えるなら新体制に厚遇された旧体制の支配者が新体制に自発的に反乱を起こした例は一つもない」
「なら「それでも僕達はいなくなった方がいいんだよ。君にもORCAの件で痛感したろう?単騎で一軍に匹敵するネクストはテロリズムに最適なんだ。だからこれからの新秩序を考えるならリンクスは一人でも少ない方がいい。君もそれが解っているから自分達を守るために最高権力者になったんじゃないのかい?」
「…知らんな。俺が昇りついたのはそれが俺の野望だからだ。だが仮にお前の考え「もういいだろう。ダリオ、お前の気持は嬉しく思う。だが私達の思いが変わる事はない。お前は今と未来を生きる民の為にそこに在り、私は過去に生きた死者の為にここに在る」
「下らん。死者はもうこの世に存在しないんだぞ?。いない人間に義理立てをしてどうする?」
「ならば死者が遺した物と言い換えてもいい。お前のような強い人間と違って私のような弱い人間は捨てる事が出来んのだ。
 そして新世界の民達を導き栄えさせ安らかに出来るのは私のような弱者ではなく、お前のような強者なのだろう。
 だから、お前は私を殺し、旧世界の全ての悪徳を押しつけ、新世界には我等の遺産の良き物だけを持って行け」
「ち、師弟揃って似たような事を。言っておくが俺が王になるのは俺の為だ。断じて民の為ではない。
 確かに民の暮らしもよくしてやるがそれは毟り取る為だ。100万しか持たない貧乏人からはどう足掻いても100万しか毟り取れんが1000万持つ小金持ちなら300万毟っても文句は言わんからな」
「どんな理由であろうと民が豊かになるならそれは良き、正しき支配者だ。…今までの守勢ではなく、これからの革新の時代に必要なのは私のように建前に縛られるものではなく、臆面もなく自分の為と言い切れるお前のような人間なのだ」
「ふん、俺が一番偉いのは当然だろうが。……どうやら何を言っても無駄なようだな。そんなに死にたいのなら望み通り殺してやる。カニス!バッチ!行くぞ!」
「おう!マッハでハチの巣にしてやんよ!」「あぁ。約束は守れよ、ダリオ。この戦闘で役に立ったらORCAに協力した罪を帳消しにしてくれよ!」
「来るがいい。貴様等が新世界を守る力と導く資格があるかどうか、私とノブリス・オブリージュが量ろう。もし貴様等に資格がない場合は私と共に冥府へと付き合ってもらう」
「あっ、ちょっとまって。どうやらレオハルトは素直になれないようだから僕からお願いするよ。ミドは敗戦の責任を取る為にSOMに残ってる。何とか助けてやってくれないか?」
「ふん。約束してやってもいいが、俺が死人との約束を守ると思っているのか?」
「あぁ、思ってるよ。よかった。これで心おきなく皆の元に逝けるよ。さぁ、光を喪った僕の目に新しい時代の光を感じさせてくれ!」

****

戦域左翼

「ふっふっふ~。よくぞここまで来ましたね~。だが私達が生きている限りブルマ及び白スク復活の野望は終わらないのです。さぁ、この世からスパッツを返してほしければ私達を斃してみせなさい!」
「二人とももう止める気は?」「あれ?無視ですか?酷いです!」「逆に聞くけどファンファンは降伏する気はあるのか?」「ありません」「こちらも同じだ」「そうですか。解りまし「だぁああ!ちょっと待て!ちょっと待て!ストップ!ストップ!何でいきなりやる気なんだよ!三人とも落ち着け!」
「え~、なんですかロイ君、しらけますねぇ~。女がヤる気になってるのに据え膳とは格好悪いですよ?」
「格好悪くても何でも二人が死ぬよりは全然マシっす!」「あ、今のセリフはいいな。ちょっと胸とお股がキュンキュンした」
「ちゃかさんでください!ここで降伏してくれれば絶対に悪いようにしません!だからお願いです、降伏してください」
「ちゃだ」「いやです」
「なんでっすか!もうアライアンスは終わりです。仮に俺達に勝ってもラインアークを制圧する戦力なんざ残ってないでしょう!これ以上は無駄な血を流すだけです!お願いです!俺に二人を殺させないでください!俺は二人と戦いたくないんです!!」
「なんか私達二人相手に勝てる前提なのがカチーン。なんだ、嫁を貰ってリア充になったからっていい気になってるのか?」「これは調子に乗ってますね~。リア充爆発させますよ?」
「あぁもう!上げ足とらんでください!俺の言い方が気に障ったんなら土下座でも何でもしますよ!だから!」
「え~、どうしましょうかね~」「先輩達。これが最後なんだ。だから本心を話してほしい。そうじゃないと、私はともかくロイは納得できないし戦えない。それは先輩達の望む所ではないだろう?」
「はぁ~、仕方がありませんね~。身重+重傷の体を押して最期のお別れにきてくれたウィンちゃんのお願いじゃ、話さないわけにはいきませんね。というわけで、先輩、どうぞ」
「私か!?キャラじゃないんだけどな。はぁ~。まぁ、私が適任なのは事実だし仕方ないか。
 ごほん、なぁ、ロイ、お前、クラニアムで最後に霞達と戦った時圧倒的に不利だったのに逃げなかったよな。何故だ?どう考えてもあの状況じゃ勝ち目がない。自殺するようなものだ」
「それは、ウィンディーに頼まれましたし、俺があそこに立つ為にホームの皆やオッツダルヴァやウィンディーが死んだ、いや実際は死んでなかったすけど、そん時は死んだと思ってたんです。とにかく皆が命を張ってくれたのに俺が命惜しさで逃げるわけには行かないでしょう。んな事したら皆に顔向けできな…」
「私達も同じだ。私の周りにいた人は皆企業の為に死んだ。仲間、友達、両親、家族、同僚、部下、上司、好きな人、嫌いだった人、喧嘩した人、愛した人、大事な人、私を大事にしてくれた人、優しかった人、意地悪だった人、憎かった人、顔も知らない人、敵だった人、憧れた人、抱いた人、抱かれたかった人、私を守ってくれた人、私が守りたかった人、みんなみんな企業の為に死んだ。
 企業を守る、企業に見捨てられる、企業に負ける、企業に粛清される、企業の争いに巻き込まれる。理由は色々あるけど企業が原因なのは間違いない。だからね、私も皆と同じように企業の為に死ななきゃ、いや死にたいんだ」
「ちょっと待ってくださいよ!俺だって企業の為に知り合いがいっぱい死んでます!でもだからってそれに引きずられて死んだら駄目でしょう!生きてる俺達のやる事は死んじまった奴等の代わりに精一杯生きる事じゃないんすか!」
「じゃぁ、ロイ君は企業を守る為にウィンちゃんが死んで、最後にこれからは私の代わりにお前が企業を守ってくれと言われても、願いと想いを託されたとしても今みたいに企業を見限れましたか?」
「そ、それは」
「つまりはそういう事なんです。私達はロイ君より長く企業の為に戦って、その分想いとか願いとかを託されてきたんです。だからそれを捨てられない。捨てる事が出来ない。捨てたくない。捨てるわけにはいかない」
「だから頼む。もしお前が私達の事を思ってくれるなら全力で戦って、私達の全力を超えて欲しい。先に死んだ仲間に会った時に私はお前達が遺した物を守る為に全力で戦ったと胸を張れるように。私達はこんな強い後輩を育てられたと自慢できるように。お前達に未来を託せるなら安心できるように」
「ついでに、辛気臭いのもなしにしてくださいね。最期のお別れがお涙ちょうだいとか私達らしくないです。別れの時ほど楽しくエロく私達らしくいきましょう」
「ロイ、応えよう」「………あぁ。解りました。やります。やってやりますよ!!それが二人の願いなら!それが二人に出来るたった一つの恩返しなら全力で行きますよ!見せてやりますよ!地上最強のカップル、いや親子の力をね!」
「ありがとう、ロイロイ、ウィンウィン。だけど簡単に勝てると思わない事だな!国家解体戦争から戦い抜いてきたオリジナルの力を見せてやろう!」
「今この瞬間は力こそが全てだ~、私達を越えてみろ!…な~んてね。さぁ、ロイ君にウィンちゃん。私達からの最後の授業です。ちゃんと全部覚えてくださいよ!!」

****

戦域右翼

「ぎゃぁああ~~!!!死ぬ死ぬ死ぬ!!ひっひぃ~~!」「きゃぁああ~~!」「メ、メイ!大丈夫か!!」「え、ええ。な、なんとか直撃は避けたわ。PA全部持ってかれたけど」
「…わざと外したのだ。これで解っただろう。無抵抗では殺されるだけだ。戦いたまえ」
「嫌ですよ!何で戦わなきゃいけないんですか!俺にはお二人と戦う理由はありません」
「戦う理由は先程伝えた筈だが?」
「ええ聞きました。でも俺も言いましたよね?俺は二人に死んでほしくない。俺は一人でも多くの人を助けるって決めたんです!そんな俺が無駄な殺しなんて出来るわけはないじゃないですか!悪いけどそっちの弾切れまで粘らせてもらいますよ。そうなればもう二人は戦えない、降伏しかできないでしょう?」
「それが可能かと思っているのかね?」
「そ、それはその。いや、無理でも何でもやるしかないんですよ!そうしなきゃ二人を助けられないんだから!」
「……無理よ。ダン。二人は遙かに格上なのよ。全力でやっても勝てるかわからない相手に一方的に攻撃されて逃げ切れるわけないじゃない。アンタ本気で何とか出来るって思ってるわけ?」
「う、いや、それは、お、思ってるさ!だってそうしないと二人を助けられないんだからな!」
「…ねぇ、気づいてる?二人は肩武器を一切使ってない。更に腕武器も同時じゃなくて片方しか撃ってない」「え!?」
「はぁ~。やっぱり気づいてなかったのね。にもかかわらず二人は私達は本気で逃げたのに簡単に、それこそ二人合わせて10発も撃ってないのに追い詰められた。ねぇ、もう一度だけ聞くわよ。アンタ、本気でどうなると思ってるわけ?」
「う、あ、い、い、お、思ってるさ!こ、こうなったら、お、奥の手を使うしかないようだな!!そ、それならここは俺一人で十分だ!メイさんは帰ってろよ!俺も十分、いや五分ぐらいでパーっとやっつけてすぐ帰るからさ」
「呼び捨てにしてって言ってるでしょ。それとこの状況でアンタの妄言を信じる奴がいると思ってるの?」
「ちょ、空気読めよ!ここは俺の真意を悟りつつ気付かない振りして先に撤退するシーンだろ!」
「うっさい馬鹿!!アニメと現実を一緒にするな!大体その話はアンタ一人で二人にそれなりの傷を与えられるのが前提でしょ!ヘッポコなアンタじゃ無理でしょ!」
「だ、大丈夫だよ!俺って逃げるのだけは得意だし、何とか皆の戦闘が終わるまで時間を稼いで、ついでにそれなりに弾を消耗させて見せるからさ!
 そうなれば後は皆で取り押さえればいいんだよ。そうすればほら、俺一人の犠牲で二人助かるから、このまま二人倒すよりいいじゃん」
「…アンタそれ本気で言ってるの?」「ひ、ひぃ!!えと、その、あの、え~と、は、はい」
「ダン君、理想を叶えるには力が必要だ。アナトリアの傭兵なら私達の攻撃を全て避けきり私達を生かして捉える事が出来たかも知れない。彼にはその力がある。
 だが、君には力がない。力ない君の語る理想はメイ君が言うように妄想でしかない」
「そうやって、力がないから!仕方ないからって誰もが諦めてたからこんな事になっちまったんだろ!だから俺は諦めない!
 それに出来ないとは限らないだろ!!やってみなくちゃわからないだろうが!なんでやる前から諦めるんだよ!!」
「ふざけるな!!「ひ、ひぃ。す、すいません」やってみなくちゃわからないとはなんだ!それはただの思考停止だろう!!自らの思い通りにならぬ現実に目を背け、ヒロイズムに酔っているだけだ!
 …守る者のない一兵士ならそれでいいかもしれん。だが君は私の後を継ぎ、有澤重工第44代目社長、指導者だろう!君の命は君だけのものではない!
 考える事を諦めるな。叶えるべき理想、目標があるのなら死ぬ迄考えろ。努力しろ。例え塵に等しくても勝ちの可能性を積み上げるんだ。
 そして、それでも駄目な時は諦めて次に備えるんだ。それが、人を導く者の義務だ」
「嫌です!俺は諦めたくありません。「ダン君!!」嫌です。俺は一人でも多くの人を助けるようって誓ったんです!そして目の前に救える命がある。なら俺は死んでもあき「いい加減になさい」ひっ、メ、メイ?」
「アンタの言い分は解ったわ。勝手になさい。代わりに私も勝手にさせてもらうから」「あの、メイ、メイさ~ん?」
「社長、ローディさん。お二人の気持は解りました。私も本気で立ち合わせてもらいます」
「ちょ!?メイ!?な、何を言ってるんだよ!二人相手にお前一人で戦っても勝てるわけないだろ!」
「そうね。恐らく数分でやられるでしょうね」「だったら!」
「だから、私を守る為に戦ってダン。私の為に二人を殺して、ダン。私が逃げずに戦えば死ぬのはアンタと私で二人で釣り合うわよね?
 なら、アンタは選ぶ事が出来るでしょ?社長とローディさんを助けるか、私と自分を助けるか。だったら、私を助けて、ダン」
「そ、そんな、選ぶ事なんて」「どうして選べないの?天秤の秤には同じ重りがのって釣り合ってる。なら天秤を傾けるのはアンタの意志だわ。アナタがどちらを助けるのか選ぶのよ、ダン」
「いや、で、でも」「…私を怨んでも憎んでもいい。でも、私はアンタに生きて欲しい。私はアンタの為なら二人を、ううん、誰でも殺せる。アンタはアンタはどう?アンタは正義でなく私の為に人を殺せる?」
「い、いや、それは、待って、待てって、メイ」「嫌よ、待たない。決断するなら早くしなさい!私が死ぬ前にね。待たせてすいませんでした。行きます!二人とも!!」
「…女は強いな」「まったくだ。だが、いくら惚れた男の為とはいえ私達二人を相手に一人で挑むのは無謀に過ぎる!」
「そんな事は百も承知よ!それでも命を張らなあ!?く!?」「それと、私達二人相手に数分持たせるなど思い上がりも甚だしい」「くそ!まだよ!ま」「いや、これで終わりだ」「しまっ!?まず」「メィイイ!!」「ようやくか」
「ありがと、ダン。助かったわ」「私達では脅しても頼んでも無理だったのにこうも容易くその気にさせるか」「男を本気にさせるのはいつだって女性なのだよ。さて、ダン君、覚悟を決め本気になったようだな。ならば私達も本気で行くぞ。自らとメイ君の命を守りたいなら死力を尽くせ」
「くそくそくそ!ちくしょう!!なんでこうなっちまうんだよ!俺はこうならない為に!こうならないように頑張ってきたのに!」
「ならば強くなれ!次は全てを守れるように!次は全てを救えるように!私を超えて、全てを超えて、何よりも強くなれ!」
「あるいは優しい世界を作れ。もう誰も犠牲にならないような。誰もが笑って暮らせるような。誰も戦わずにすむような。戦争がお伽噺となる平和な世界を作れ。私達には出来なかったが、君なら、敵である私達を救おうとした優しい君なら、まず自分を犠牲にするような勇気ある君なら、自分の為に命をかけてくれる大切な人がいる君ならきっとできる」
「自分に出来なかった事を俺にやらせようとするなよ!二人に出来なかった事が俺に出来るわけないだろう!」
「ふ、若者に後を託すのは年寄りの特権だよ」「ふざけるなよ!アンタまだ50前だろ!まだまだ生きれるじゃんか!何で死のうとするんだよ!」
「この職業で50年は生き過ぎだ。なにせ、死んだ知り合いの方が生きている知り合いよりはるかに多いのだからな」
「さて、いつまでも話していたいがここまでにしよう。ダン君、これが私に教えられる最期だ。出来る限り継いでほしい」
「メイもな。この先、ダン君を守っていきたいなら一つでも多く私から盗んで行け!」
「はい!よろしくお願いします!」「ちくしょう!ちくしょう!なんでだよぉお!!」

****

総勢13機ものネクストが激突したベルザ高原の戦い。
だが、この戦いに特記すべき事は、記録すべき事は何もない。
なぜならこれは戦争でなく、戦闘の形を変えた継承の儀式だからである。
だから、託す者は一つでも多くの物を託そうと、自らの全てを懸けて託される者を教え、導いた。
だから、託される者は一つでも多く受け継ごうと、自らの全てを懸けて学び、受け継いだ。
そして、託す者が託される者に全てを託した時、託され『た』者は全てを引き継いだ証として託された技巧の全てを持って託『した』者達を討った。

13:20、儀式の終了と同時にSOM2号機に残るアライアンスは2代目アライアンスCEOミド以下全員が降伏。

緑の太陽の撃破とレオハルトの死をもって、企業の時代は終わった。

7月18日、
アライアンス及びラインアーク合同の新国家の建設に向けた話し合いが始まる。
なお、議長にはダリオが就任(自薦。他立候補者0により自動的に決定)。更にダリオはラインアーク副代表にも就任。

同時に周辺勢力に新国家及び話し合いへの参加の呼びかけ。
事実上の降伏勧告であったが、周辺勢力は次々と受け入れてラインアークへと合流していく。
 ※これは圧倒的な武力とブロック・セラノの人外のカリスマがあった事が大きいが、一番の理由は裏工作や交渉事が得意な旧企業系の人間による表と裏に柔軟混ぜた交渉である。

8月1日、
レオハルト派及びBFF・オーメル・一部のインテリオルや新国家の捕虜等の敗者に対する戦争裁判開始。
※戦争裁判にしては珍しく敗者に対して公正かつ慈悲深いものであり、最高指導者を除き殆どの者が僅かな罰則ですまされた。

戦争裁判のドサクサに紛れ、後世『無害な悪法』と呼称される全36項目に及ぶラインアーク代表及び副代表に様々な特権を与えた法令をラインアーク副代表であるダリオが制定。

8月21日、
リリアナによるコロニーアスピナ襲撃事件が発生。
リリアナは002-Bを中心に警備部隊を一蹴すると、手早く『作業』を終え、コロニーを破壊するとあっさりと撤収した。

リリアナ撤収から3時間後に到着したレイヴン率いる討伐部隊が目にしたのは、瓦礫の山と化したコロニーと耐コジマ汚染装備で厳重に保護された被験者。そして地獄を映す一台の大型モニターだった。
モニターには、露出した脳に電極を刺され苦悶の表情を浮かべる生首が無数に浮かぶ培養層が映されていた。
時折苦痛に目を見開き苦悶の声を上げる事から生首達が全て生きている事が解った。
そして『僕達はマゾなので自分達で開発した体感時間を300倍に引き伸ばしてこの世全ての苦痛を体感できるマシーンでビクンビクンしている最中です。ちゃんと発狂する寸前で休ませてくれる親切仕様なので止めないでください』と書かれたテロップが画面下部を横切っていた。
レイヴンは放送源が地下300Mにあるアスピナ最深部のシェルターであり、瓦礫を除去しシェルターを破る事は現時点では不可能である事が解ると被験者達を保護し撤収した。
 ※レイヴンが被害者達の救出を直ぐに断念したのは、保護した被験者から生首の殆どがアスピナの研究者達であり彼等が研究の名の下に非人道的な実験を繰り返してきた事を聞いていた事に加えてアブ・マーシュからアスピナの研究員の悪行を聞いており良い感情を持っていなかった為、積極的に助ける気にならなかったからだと推測される。
 ※生首の殆どはアスピナの研究員達だが王小龍を代表に20人程部外者が混ざっていた。後日の調査で、部外者全員が天敵のいた孤児院出身の者を害していた事が確認できた事から、恐らくアスピナはこの20人に対する復讐を計画し、目的を実現し得る装置を持つコロニーアスピナを襲撃したと推測された。そして復讐実行の際、ついでに研究者達も装置にかけたと考えられる

以降、被害者達は、18年と287日と13時間29分3秒後にダンに装置ごと破壊されるまで、狂う事も死ぬ事も許されずあらゆる苦痛を味わい続ける事になる。

9月11日、
司法取引と説得の全てを拒否したミド及びレオハルトに代々仕えた一部の者達に死刑判決が下る。
死刑執行は七日後の9月18日に決定。

9月17日、

ラインアーク行政府第28会議室

「それと明日12:00に最期まで取引に応じなかったレオハルト派の処刑が行われるから看取りたい者は11:45までに中庭に来るように」
「ま、待ってくれよ!!なぁ、どうしても殺さないといけないのかよ?」
レイヴンの言葉を反射的にダンが反応する。
「本人が死刑にしてくれと言うのだからしょうがないだろう。待てと言うならもう2~3日は待てるがその間に説得できるのか?降伏後から今まで延々と説得し続けても無理だったんだ。どうしようもない」
「で、でも、な、何とかならないのかよ!なぁ、ロイさん。何も殺す事はないよな?そう思うだろ?な?思わないのか?」
ダンに助けを求められたロイが溜息を吐く。
「叛乱した人間は殺すのは基本だ。赦しちまうと反乱のし得になって反乱が頻発しちまう。だからBFFもオーメルもインテリオルも首謀者は死刑にしたんだろうが。あいつ等だけを特別扱いできねぇよ」
「で、でも、首謀者はレオハルトさんだろ?だったら」
「だから俺達も説得したんだろうが!でも一切受け付けないんじゃどうしようもねぇよ。ハッキリ言ってあいつ等は死ぬ気だ。だから仮に俺達が許しても首を吊るさ」
「それに民意の問題もあります。緑の太陽を無視して侵攻してきたんです。彼女達と知り合いで人柄と真意を知る私達はともかく、二人を一切知らないラインアークの一般市民は彼等を侵略者としか見てません。全員無罪じゃ納得しませんよ」
ロイの言葉を蘭が引き取り続ける。
「だからこれ見よがしに中庭で銃殺するのかよ!そんな顔も知らない誰かを納得させる為に見せしめをするのかよ!おかしいだろ!!」
「それが、自らの死をもって民衆を慰撫するのが彼女達の望みと覚悟だ。俺達がどうこう口を挟む事じゃない」
ダンの悲痛な叫びを切り捨てるレイヴン。
「だけど!!「悪いな、遅れた」尚も食い下がろうとしたダンの気勢を削ぐような形でドアが開き、ダリオが顔を出す。
「おせーよ。何やってたんだよ?」ロイが不機嫌な顔でダリオを咎める。
「寝坊だ。昨日は金の湯船につかっていたら湯船が熱で変形してシャワールームが大惨事になってな。その片づけに時間を食ってな」
「馬鹿じゃねーの。あぁ、もういいや。それより、明日昼にミドが処刑される。お前仲良かったよな。立ち会ってやれよ」
ロイの言葉に眉を顰めるダリオ。
「なんだと。あれはお前らが説得するんではなかったのか?」
「したけど失敗したんだよ」「まだ決まってない!なぁ、アンタも反対してくれよ!」
「そう言う事か」ロイの渋面とダンの泣き顔を見て大体の事情を把握したダリオが溜息を吐く。
「小娘一人と頭の固い騎士を説得するのに何を手こずっているんだが。まぁいい。点数稼ぎにもならんが俺が何とかしてやろう。おい、ダン案内しろ」
「へ?な、何とかなるのか?解った!ついてきてくれ!」
ダリオの言葉を聞いたダンが満面の笑みを浮かべて立ち上がり、ダリオを先導する。
「ちょっと、ダン!アンタ会議中にどこいくのよ!待ちなさい!」「待って下さい、ダンさ…社長!メイさん!」
「俺達も行くぞ、蘭。ダリオの奴いつもの口だけじゃなさそうだ」「はい、ロイさん」
「お前らまだ会議は「早く行きましょう!レイブ「レイヴン」レイヴンさん!」「セラノまで。仕方ない、行くぞ、フィオナ」

****

「どうしても考え直してくれませんか?新しき世が惑わぬよう過たぬように信頼する貴方達に監視して欲しいというのがレオハルト様の望みでした」
「申し訳ありません。ですが我等は半世紀、レオハルト様の先代の時から仕えてきました。今さらお家を捨てて生きる事は出来ませぬ。レオハルト様の望みは若人達に任せたいと思います。
 何より、我等は王めによって家族を失いました。このうえはあの世にて家族と共にレオハルト様とミド様に仕えたいと思います」
翻意を促すミドに、頭を下げた6人の男女の先頭にいた60代の男性が代表して答える。
「ですが」「それに、御当主様とお嬢様ではお家の事が何もできないでしょう?きっと向こうで御当主様が困っているでしょうからお世話しにいかないと」「方向音痴のお嬢様一人逝かせては迷って御当主様のところに行けないかもしれませんしな」
一番左にいた男の言葉に同意して笑う6人の男女の顔を見て、決意の固さを知り説得を断念するミド。
「解りました。ただ、レオハルト様のお叱りは覚悟してくださいね」
「はい。お嬢様は我等を止めたが我等が我儘を言ったと御当主様にはお伝えします。ですから、御当主様の叱責を恐れる必要はありませんよ、お嬢様」「そうですね。一緒に怒られましょう」
口々に自分を励ましてくれる皆に胸の奥と目頭が熱くなったミドは顔を伏せる。
死ぬ事は覚悟しているがそれでも少しだけ怖くかった。死ぬ事もそうだが、なにより最期まで誇り高く死ねるか、最期に惨めに命乞いをしたり悲鳴をあげたりして養父の名を汚してしまわないか不安だったのだ。
皆はそんな自分の不安を察知して私達も一緒に死ぬから大丈夫ですよと励まして、勇気づけてくれた。それも、死ぬ事を恐れていると正直に理由を言えば私の決意を汚してしまうので、養父からの叱責を恐れていると誤解したふりをしてくれて。
嬉しかった。こんないい人達と一緒に死ねるなら、もう死ぬのが怖くなかった。これなら最期まで誇り高く死ねる。私は大丈夫だ。
ミドは励ましてくれた上に素敵な気配りをしてくれた6人に感謝を伝えようと万感の想いを込めて口を開き、礼を言…
「皆さん、ありが「邪魔をするぞ?ん、何を泣いているんだ小娘?はっは~。さては、死ぬのが怖くて泣いていたな」
…おうとしたところで、部屋に乱入してきたダリオが全てぶち壊した。
「……ん?なんだこの雰囲気は?」室内にいる全員から白い眼を向けられたダリオが戸惑った様な声を上げる。
「なんのようですか、ダリオ様」ダリオが戸惑っている隙に涙を拭いたミドがダリオに冷めた視線と冷めた声をかける。
「い、いやな、明日貴様等が処刑されると聞いてな。しかし、随分と立派な部屋だな。捕虜なんぞ…「裸にして縛って纏めて倉庫に転がしておけばよいですか?なんなら今からそうしますか?私達は敗者です。それが勝者の意向なら全てに従いましょう」
「いつにもましてトゲトゲしているな。ん?そうか、おい、ダン赤飯を炊いてこい」「は?なんでだよ?」「知らんのか、初潮がきたら赤飯を炊くのが「だから私は成人していると言ってるでしょう!」
昔のようにダリオに向かって手近にあったコップを投げつけるミド。
「じゃぁ、なんでだというのだ?」コップを受け止めて本気で悩むダリオに「いや、その、俺達は親の仇じゃん、特にダリオさんは、その、直接さ。だから」見当違いのアドバイスをするダン。
ミドは溜息を吐いて誤解を正す。
「いえ。皆様方に討たれる事はレオハルト様の望み。むしろレオハルト様の望みを叶えていただき感謝しています」
「当然だ。死にたがりを殺してやったのに何で恨まれなきゃならん」頷くダリオを見ると胸の奥に押し込めた何かが暴れだそうとするのを強引に抑えつけてミドは言葉を続ける。
「用は終わりましたか?ならばお引き取りを。それとも本当に私を辱めますか?」
「馬鹿を言うな。いくら女日照りでも貴様のような性的魅力がナルな小娘をどうこうするか。それに俺の用はまだ終わっていない」
「では早めにすましてください、成金趣味様」昔のように毒舌を放つダリオにつられ、捕虜という立場を忘れてつい秘書時代の口調で話すミド。
「あぁ。では、俺の嫁になれ」「寝言は布団でどうぞ、ダリオ様」だからだろうか、余りに予想外なダリオの言葉もいつもの戯言として普通に返せた。
「はぁああ~~!?ちょ、お前いきなり何言ってるんだよ、お前!?」だが冷静な二人とは逆に無茶苦茶な展開に部屋の入口で様子を窺っていたロイが動揺し素っ頓狂な声をあげてダリオに詰め寄る。
「ん?俺はおかしな事を言ったか?」「はい。物凄く。ダリオ様、私に結婚を申し込むとは酸素欠乏症にでもかかりましたか?それとも新手の嫌がらせでしょうか?」
問いかけるダリオに、ミドは答える。仮にも男性に告白されたのに一切動揺していないのが少し悲しかったが、ダリオ様だからしかたないねと思いなおす。
これが、お養父様かジェラルド様ならきっと嬉しくて気絶してしまっただろう。
「申し込むのではない。嫁にしてやるのだ。
 しかし、どこがおかしのだ?最近朝が辛くて一人だと起きられないし、誰も片づけないから家が荒れ放題だし、ついでに女日照りなので嫁が欲しくなったのだが。
 家政婦や娼婦も人が少ないから直ぐには都合できんと断られてな、困ったものだ」
「ダリオ様、一つ確認したいのですがダリオ様にとっての妻の定義は?」
「ただで雇える娼婦兼家政婦。お前はそれに加えて秘書でもあるんだぞ!お買い得ではないか!
 まぁ、その分女としては俺の好みから対極だがそれでもいよいよ追い詰められた時に一人でするよりはましだろう。慈悲深い俺に感謝しろよ!ゲハハハ!」
「さいて~」「ちょっと、信じられませんね」「レイブ「レイヴン」レイヴンさん!淫獣ロイに匹敵する女の敵がいますよ!ジョシュアちゃんに近づけないようにしてください!」「ロイさんをアレと一緒にしないでください!アレよりは当社比1.32倍マシです!」
ダリオの言葉にざわつく女性陣に心から同意しつつミドは口を開く。
「それでなびく女性がいたら見てみたいのですね。とりあえず、心の底からお断りします」「照れなくていいんだぞ?」「照れてません!!」
明確な拒絶の意を示すミドにダリオは舌打ちをする。
だが直ぐに、ニマリと意地の悪い笑顔を浮かべた。
「おいおい、貴様はさっき敗者の自分は勝者の俺の言う事を聞くと言ったよなぁ~?あれは嘘だったのかぁ~?いいのかぁ~?誇り高きレオハルトの一人娘が嘘など吐いて~?ん~?」
「く、このぉ~」ミドは先程の自分の失言に歯噛みするが、自分はともかく亡き養父の名まで持ち出されてはどうしようもなかった。
「……解りました。私は敗者です。勝者に従いましょう。今から私はダリオ様の妻です。ですが私は明日の正午には処刑されるのでダリオ様の希望には添えないかと」
ミドは強烈なカウンターを決めた気でいたが、ダリオの勝ち誇った笑みを見て嫌な予感に捉われる。
「あぁ、それは無効だ。無知な貴様は知らんだろうが俺はラインアークの副代表に就いてな。そしてアライアンスの代表と副代表及びその一族には俺が制定した法により不逮捕特権を含む様々な特権があるのだ。だから貴様が俺の妻になるなら当然適応されて無罪になるぞ」
「んな!?」ダリオの告げた内容のあまりな内容に自失し、絶句するミド。
だが、五秒の自失の後、立ち直ったミドは猛烈な勢いでダリオの背後でロイの背後に隠れようとした蘭に食ってかかる。
「蘭さん!今言った事は本当ですか!」「えぇ。まあはい」ミドの剣幕に脅えロイの服をキュッと掴みながら蘭が答える。
「正気ですか!そんな悪法を成立させるなんて!」
「いや、裁判の準備で忙しくて、気がついたら布告されてまして。あ、でも、代表も副代表も天涯孤独の身ですから一族なんていませんし、
 なにより、代表と副代表の任命権は私達が握ってるから無茶な事をしたら解任しちゃえばいいかなって。逮捕されないだけで罪に問われないわけじゃないですし」
「じゃぁ、今すぐ解任してください!」
「それはできねぇなぁ。今回は俺はダリオの判断を支持するぜ。なぁ、ダン?」「あ、あぁ!」「当然、ラインアークも支持しますよ!いいですね、レイブン「レイヴン」レイヴンさん?」「いや、でも」「いいですね、レイヴンさん?」「はぁ、仕方無い。だが、説得と説明は言い出しっぺのそっちがやれよ?」「任せろ。我が家政婦兼秘書兼娼婦の奴隷1号に責任をもってやらせよう。自分の事だしな」
盛り上がるダリオ達を見るとミドは自分の心が熱く煮えたぎるのを抑えられなかった。
ふざけるな。責任を取って死ぬ事はお養父様から命じられた最期の命令だ。だから私はどれだけ辱められようと何をされても絶対に命令を果たす。もうそれしか私がお父様に出来る事はないんだから。
煮えたぎる心を外に出さないように注意しながら口を開く。
「…そちらが私の罪を許すのは構いませんが、私は、私達は自らの罪をごまかすつもりはありません。そちらが裁かないなら私は私の罪を裁きます」
「好意には感謝しますが私達も同じです。私達の命はお家とともにあります。ご慈悲があるなら家と共に終わらせて下さい」
ミド達の言葉に騒いでいたダン達が黙る。
だがすぐに気まずい沈黙をダリオの嗤いが打ち破った。
「おいおい、小娘が死ねば当主の座は当主である小娘の夫である俺が継ぐんだぞ。つまり家は存続する。ならお前達は死ぬ必要はないだろう」
「馬鹿な事を!部外者のお前に継ぐ権利などない!」
「当主の養女の小娘が家督を継いだのだから、当主の夫である俺が継いでも問題あるまい?
 お前らは人でなく家に仕えるんだよな?ならば小娘が死ぬ明日以降は誠心誠意俺に仕えろよ!ゲハハハ!
 いいのか~、小娘?お前が死ねば家は俺が継ぎこいつらは俺に仕える事になるんだぞ~?」
「そうか!最初から家柄が狙いだったのですね!卑怯ですよ、ダリオ様!」
「知らんなぁ~。さぁ、選べ小娘。誇り高く死んで忠臣が虐待され家名を汚されるのを甘受するか、忠臣と家名を守る為に恥辱に塗れて生きるかをなぁ~。ゲラゲラゲラゲラ」
「くっ」勝ち誇るダリオとは対照的に、ミドは下を向いて必死に考える。
どうしたらいいんだるう?死んでお養父様との約束を守る事は簡単だ。
でもそれだと、ダリオ様が当主の座を継ぐことになる。そうなればお父様が必死になって守った家名は地に堕ちる。ダリオ様の名と共に人類史に永遠の汚点として刻まれるだろう。
いや、ダリオ様が人類史に永遠の汚点を残すとは限らないけど、ダリオ様ならきっとやらかすに違いない。
それにレオハルト様だけでなく至らない私にまで仕え、支えてくれた彼等が、ううん、目の前の6人だけじゃない。お家が存続するな家令全員162名がダリオ様に弄ばれてしまう。家令には若くて綺麗な女性もいる。ううん、ダリオ様なら娘や妻を差し出せと要求してもおかしくない…かもしれない。いや、流石にそこまで外道じゃないかな?
でも、ダリオ様なら全員の制服を金にするくらいの事はやりかねない。そんな恥辱を許すわけにはいかない。
…なら答えは最初から決まっている。
ノブリス・オブリージュ。私とお養父様の願いと、我が家に代々仕えてくれた162名。どちらを優先するかなんて決まっている。
ごめんなさい、お養父様。私は約束を守れません。でも、きっとお養父様なら褒めてくれますよね。
決断してもお養父様の最期の望みを叶えられないのが悲しくって悔しくって涙が溢れる。あぁ、駄目だ。やっぱり私は未熟だ。お養父様ならきっとこんな時でも皆に不安を与えないように誇り高く堂々と顔色一つ変えずに振舞っただろう。
だからせめて胸を張る。涙は止まらないから私の気持ちは筒抜けだろうけど、それでも皆にこの選択肢が間違いではないと教える為に胸を張ろう。
「私をダリオ様の妻にしてください」
「おいおい小娘、お前は人に物を頼む時の礼をしらんのか?ん~?頭が高いんじゃないか?」
ダリオ様がニヤニヤと笑う。
「ちょっとダリオ!アンタいい加げ「おやめ下さい!」メイがダリオの言葉に激高し掴みかかろうとするの、泣きながら止める家令達。
自分の想いを理解してくれた彼等に内心で礼を言いながらミドは、土下座し目の前に在るダリオの靴に口づけ再度懇願する。
「どうか私をダリオ様の妻にしてください」
「い、いや、そこまでやらんでもちょっと頭を下げてくれるだけでよかったんだが。まぁ、いいだろう。ただ今からお前は俺の妻だ。お家の名を汚したくなければ精々俺より長生きするのだな」
「はい。私は今からダリオ様の所有物です。御好きなようにご使い下さい。ただ、家令達には」
「あぁ、解っている。お前の配下だ。お前が生きている限りどうこうする気はない。寛大な俺に感謝しろよ、フハハハハ!」
「ありがとうございます、ダリオ様」ダリオの言葉にミドが礼と共に再度靴に口づけをする。
「だからそれはいいっちゅうねん。解っててやっ「お待ちください、ダリオ様!!」ダリオの言葉を遮りダリオの前に出た家令達がミドと同じように土下座する。
「あん?」「いきさつはどうあれ貴方様は当主の夫になりました。つまり貴方は当主の一族、我等の主筋となります。である以上我等は誠心誠意お仕えする次第です」
「当然だな」「そして我等臣下一同の願いがございます。なにとぞ、なにとぞ、当主様を辱めぬようにお願い申し上げます!」
「小娘をどう扱うかは夫である俺の勝手だ。何でお前らに指図されねばならん」
「いえ、臣下である我等が主筋であるダリオ様に指示など出来おうはずがございません。これはあくまで願い、提訴、忠言、進言でございます。
 入れる入れないはダリオ様の自由。なれど、なれど、なにとぞ入れていただけるようお願いいたします!」
言い終わると同時に鈍い音がはっきりと聞こえるほどに床に頭を叩きつける家令達。
「ふん、いいだろう。俺は寛大だからな。お前らがきっちり働いているうちは小娘には秘書としての役割しか求めん。それでいいな?」
「ありがとうございます!!」と再び床に頭を叩きつける家令達。
「うむ」と頷き、振り返り背後で微妙な顔をしている一同に笑いかけるダリオ。
「これで一件落着だな。どうだお前らが一週間かけても失敗した説得を僅か30分足らずで成功したぞ。感謝して褒めたたえてもいいんだぞ?」
「…あの、ロイさん?ホントにこれでいいんですか?なんというか死刑の方がマシな気がするんですけど」「いや、でも結果だけ見れば誰も死ななかったわけだからいいんじゃね?ミドが生きてる限りは家来ズに酷い事しない。家来がダリオの世話をしてるうちはミドに手を出さないわけだし」「そ、そうだよ!ダリオが酷い事をしたら俺達が守ってやればいいんだって!」「そりゃそうだけど、あ~もう!納得できない!一発張り倒してきていい?」「いいです!ラインアーク代表として許可します!ガツンとぶちかましてきて下さい!!」「止めなさい!彼はちょっと捩れちゃってるだけで根はいい人なんだから。ふふ、ねぇ、アナタ、私昔を思い出しちゃったわ」「…何の事だ。まぁ、なにはともあれこれで一件落着ってとこだな。フィオナ、悪いが死刑の中止の手続きとダリオが入ってくる5分前から今までの監視カメラの映像を公開してくれ。あの涙を見りゃある程度の民意は収まるだろ」「彼が憎まれ役になっちゃうけど、覚悟のうえか。ちゃんと、先輩としてフォローしてあげるのよ?」「だからしらんちゅうねん」
誰も拍手も褒め称えてもくれないのでダリオは「ち」と舌打ちして部屋を出ようとして振り返り、
「おい、何をしている。お前達も来い。屋敷に案内してやる」
土下座したままの新しく得た妻と臣下に声をかける。
「はい」頷くミドに続く家令達。
「ほら、俺達も行くぞ。会議は途中なんだ!」さらに続くようにレイヴンが形勢が不利になったフィオナとの会話を強引に打ち切り皆を促し部屋を出ていく。

そして、部屋には誰もいなくなった。

****

ミドとダリオの結婚の発表とレオハルト派の死刑を含む刑の執行を中止が発表される。
発表後、民衆は強烈な反発が生まれたが、同時に公開された一連の経緯を記録した映像が公開されると半分以上がダリオへのパッシングと同情からくるアライアンス派への擁護へと変わった。
結果、尚もアライアンス派への罪を問おうとする追及派と擁護派は建設的な議論を交わす事なく感情をむき出しにして互いを罵倒し合い、結論の出ぬままアライアンス派の罪とそれに伴う罰はうやむやな形で忘れ去られた。

9月18日、
アナトリアの傭兵はフィオナ・イェルネフェルト等と共に汚染の激しい地上に見切りをつけて地下に都市を建設し移住する計画の検討を密かに開始

11月13日、
ウィン・D・ファンションが第一子を出産。出産とコジマ汚染と戦闘の後遺症により危篤状態に。
ロイ・ザーランドが地下都市移住計画に参加。

12月8日、
ウィン・D・ファンションが奇跡的に意識を持ち直す。
ロイ・ザーランド、ウィン・D・ファンションに諭され地下都市移住計画を公開するようレイヴンを説得し始める。

3月13日、
レイヴンが地下都市移住計画の公開に同意。
十日後の公開を目標に準備を開始。

人類の命運が決まったクラニアムの戦いより1年後の3月19日、
ロイ・ザーランドとウィン・D・ファンションが結婚。
ロイ・ザーランド、花嫁に逃げられる。

****

「ありがとう。もうここでいいぞ。帰ってくれ」
ウィン・D・ファンションは車椅子を押すエマに声をかける。
「いえいえ~。でも本当にここでいいんですかぁ~?ここなんにもありませんし、そのぉ~、ウィンさんじゃ、最寄りの町まで行く前に夜になっちゃいますよ?近くの森には獣がいるからあぶないですよ~」
エマがウィン・D・ファンションの欠損した四肢を見ながらズバリという。
エマのあまりの無思慮な言葉にウィン・D・ファンションは苦笑する。ロイや周りの仲間が遠慮して気を使うところをこの子は気にしない。その無神経さが心地良かった。気を使われてばかりでは気が滅入る。
「町にはいかないさ。近くに迎えを呼んであるからな」
嘘だった。本当は迎えなんていない。もうこれ以上誰にも迷惑をかけたくなかったから、結婚会場から、皆の元から逃げだした。これからの当てなんてない。
いや、当てはある。森に獣がいるのなら森に行こう。無意味に自殺するよりは森の獣の餌となった方がマシだろう。
「迎えですか~。困りましたね~。私も呼んでいたんですよぉ~」「なに?」
エマの言葉にウィン・D・ファンションがどういう事だと問いただそうとした瞬間、「ウィンディー!おっしゃぁ!追いついた!」の言葉と共に猛スピードでやってきた車からロイ・ザーランドが転がり出てくる。
「エマ貴様!」「ばらしてごめんなさい。お詫びにいい臓器ブローカーを紹介しますよ。ウィンさんの眼球から内臓から全部とって必要としてる人に行き渡るようにしてあげます。獣のご飯になるよりもよっぽど人様の役に立てますよ。…ロイさんを説得できたらですけどね~。それじゃ、ロイさん、私、車の中で寝てるから話が終わったら起してくださいね~」
怒鳴るウィン・D・ファンションを軽くいなし、ロイ・ザーランドに声をかけると、エマはロイと入れ違いに車に乗り込む。
「ちょっと待て!まだ私の話は終わってない!」「なら帰り道にじっくり話してくれ。さ、帰ろうぜ、ウィンディー」
「触るな!私は帰らない」笑いながら車椅子に手をかけようとするロイ・ザーランドを厳しい声で止めるウィン・D・ファンション。
「なんでだよ?俺と結婚したくなくなったわけじゃないんだろ?」
「い、いや。私はお前と結婚したくないんだ。私はお前が嫌いになった。いや、大嫌いだったんだ」
想い人の為とはいえ、愛している相手を嫌いだという事に胸が痛んだ。
それでも、私なんかとロイを結婚させるわけにはいかないと言葉を続け…
「そうだ。元から嫌「はいはい。無理しないの。たく、泣きそうな顔して見てらんねぇぜ」
…ようとしたがロイに遮られる。
「どうせあれだろ?お荷物な自分と俺を結婚させたくないとかで出てきたんだろ?それに俺が可哀想なお前と同情心で結婚しようとしてるとかとんでもない誤解をしてるんだろ?」
からかうようなロイ・ザーランドの口調に、図星をさされたウィン・D・ファンションの頬と頭が熱くなる。
「う、うるさい!!でも事実だろう!お前は、ロイは優しいからこんなになった私が可哀想だから、哀れだから結婚してくれようとしてるんだろう!」
ウィン・D・ファンションは今朝、鏡で見た己の姿を思い出す。
クラニアムの戦いで致命傷に近い重傷を負ったリンクスをなんとか生かすためにネクストはリンクスの四肢に回す血液を心臓や肺や脳などの重要臓器に回した。
その結果、命はかろうじて繋ぎ止めたものの四肢は壊死した。
壊死した部分を切除した結果、左腕は肘から先が、右腕は肩から先がなくなって、左足も太股の半ばで切断され、右足は根元からなくなった。
なんて左右非対称でアンバランスなシルエット。人体は左右対称だ。それを満たさぬ私はマネキンより人から遠い。
しかも壊死を免れた個所も破壊され機能が低下したネクストでは防ぎきれぬコジマに蝕まれた。
その結果、髪は全て抜けおち、全身の皮膚は赤く爛れ薄汚れた緑色のシミがあちこちに浮き出している。ハッキリ言って人間よりもB級映画のモンスターと言われた方がまだ信じられる。
こんな自分とロイが、いや、ロイだけじゃない。釣り合う人間などがいる筈がない。
でも、ロイは優しいからこんな自分と一緒にいてくれるだろう。愛そうとしてくれるだろう。
それが私には耐えられない。同情心から愛されるなんてごめんだ。ロイの事が好きだからこそ、ロイに何も与えられずにこちらがただ与えられるだけの関係は嫌だ。
それに、それに私は、「んなわけないだろ。つーか、その程度で醒める愛だと思われた事がショックなんだけど」
ロイが拗ねたような声で言う。長い付き合いだからわかる。冗談めかしているが、これは本当に傷ついている。
反射的に謝りそうになるのを堪える。駄目だ!私はロイに嫌われなくてはいけないんだ!
「たく、昨日今日の付き合いじゃねぇだろうが。そりゃ、出会った時からその外見だったら友達はともかく、恋人はノーセンキューだったぜ?
 でも、違うだろ。付き合ってきてから今まで色んなものを積み上げてきたんじゃねぇか。外見以外の色んな所を知ってきたんじゃねぇか。
 んで、俺はお前の全部に惚れて、結婚したいと思ったんだ。だから、今さら外見が少々変わろうと想いはかわりゃしねぇよ」
言いきった後「うわぁ~!ハズかし!何語っちゃってんだ俺!エマは聞いてねぇだろうな」と真っ赤な顔でウィン・D・ファンションから顔を背け車を見るロイ・ザーランド。
それは恥ずかしさからの行為でもあったが、一番の理由は泣き顔を見られるのを嫌うウィン・D・ファンションの為だった。
そんなロイの心遣いに感謝しつつ溢れる涙を拭いもせずに尚も問いかける、あるいは確認するウィン・D・ファンション。
「お前の周りには私なんかよりいい人がいっぱいいるじゃないか」
「だ~か~ら、俺は俺の周りにいる女の中でお前が一番いいと思ってるから結婚するんだよ。他の女のほうがいい女ならそっちと結婚するちゅーの」
「私はお前に何も与えられないぞ」
「与えるとか与えないとかそういうのは違うだろ?一緒にいたいかじゃね?それにお前は俺に十分すぎるほど色々くれてるよ。ちょっと、貰い過ぎなぐらいだ」
「…どうしても私じゃなければ駄目なのか?」
「たりめーだ」
「だが、だけど、だけど、私は、私は、1年保たないぞ。それでもいいのか?私と一緒になったらお前は私の看病に追われ、そしてどんなに苦労しても報われず私は死ぬ。それでいいのか?ただ、辛いだけの1年になるんだぞ!」
震える声でウィン・D・ファンションは問いかける。
これこそが、彼女が逃げだした最大の理由だった。
自分の看病に自分の愛した男を拘束したくない。迷惑をかけたくない。
そして、疎まれたくない。今は自分の事を愛してくれているが、迷惑をかけ続けても愛し続けてくれるだろうか?それが怖かった。死ぬのは怖くない。覚悟はリンクスになると決めた時からしている。でも、ロイに嫌われるのは怖かった。だからロイの前から姿を消そうとした。ロイに愛されたまま死のうとした。
「だ~か~ら、辛いか辛いかは俺が決める事だろ。俺はウィンディーと一緒ならどこでだって何をしたってハッピーになれる馬鹿なんだよ。だから、一文の得にもならないクレイドル03やクラニアムに付き合ったんだろ?
 …ウィンディーが死ぬまでに特効薬ができてウィンディーが助かるなんて甘い夢に縋るほどガキじゃねぇ。ウィンディーはきっと俺より先に死んじまう。
 でも、いや、だからこそ楽しい思い出をいっぱい作ろうぜ!俺がお前と結婚したのは間違いじゃなかったって思えるように。お前が死ぬ時にいい結婚生活だったって笑えるように。そして、エイに母親との思い出を少しでも積み重ねてやるためにさ。
 だから、今度は俺から言うぜ、ウィンディー。俺と結婚して下さい」
向き直ったロイ・ザーランドが、言葉と共に頭を下げる。
ウィン・D・ファンションは嗚咽を堪え、クラニアムの戦い以後浮かべる事がなくなった、戦士ではなく、女としての、人間としての笑顔を浮かべ口を開く。

「はい」

****

ロイ・ザーランド無事に花嫁を連れ帰り、予定通り三時間遅れで開宴。

3月24日、
地下都市移住計画が公表される。ブロック・セラノは計画に強硬に反発し計画の即時廃棄を命じるが、アナトリアの傭兵はこれを拒否。
以降、アナトリアの傭兵率いる地下都市移住計画派とブロック・セラノ率いる地上環境改善派は徐々に対立を深めていく事になる。

6月13日、
トーラス本社跡地及び緑の太陽付近の遺跡からコジマに対する研究資料が発見される。

8月31日、
研究資料を元にアブ・マーシュによりコジマを無害化するコジマクリーナーの試作型が製作される。
量産にはコストの問題等様々な問題があるが、コジマ汚染を除去する方法が発見された為ブロック・セラノ率いる地上環境改善派が一気に勢力を拡大する。
以降、レイヴン及び地下都市移住計画派は巻き返そうと徐々に過激な行動を取るようになり、両者の争いは人類の未来を真剣に考えての行動から意地と主導権の掌握を狙う派閥抗争の面を見せてゆく事になる。

11月15日、
ダリオが無血クーデターを起こしラインアーク代表に就任し、レイヴンとブロック・セラノを拘束。

首魁を失った地下都市移住計画派と地上環境改善派はダリオに対抗するために協力し反攻作戦を開始。

11月18日、
配下が全員裏切った結果孤立したダリオを両派は拘束し投獄。
ダリオの逮捕を持って俗に言う『ダリオの三日天下』と呼ばれるクーデター騒ぎは終了する。

レイヴンとブロック・セラノが同じ部屋に監禁され拘束されていた3日間話し合った事及びクーデターで手を組み合った事を機に、以降地下都市移住計画派と地上環境改善派の関係は改善し両者は急速に融和していく。

ミドを代表とする旧レオハルト派がダリオの助命を求めてハンスト開始。

11月25日、
ダリオに死刑判決。
だが、ラインアーク副代表の地位は剥奪されなかった為、刑は執行されずに職務に戻る。

3月24日、
ウィン・D・ファンションが死亡。
故有澤隆文の子をダン・モロが養子縁組。

5月26日、
南北アメリカ大陸に帰還したリリアナが圧倒的な武力と恐怖を持って内戦状態にあった新政府を再統一。
帝政に移行し、国名を『楽園』とし、統治者を『アダム・カドモン』と呼称する事、そして初代アダム・カドモンにリリアナの首領である『獣』が着く事を定める。
※ただし、獣は政治に興味を示さず、実際はリリアナの副首領である王焔が行った

楽園とラインアークの間で5年間の停戦及び不可侵条約が締結される。

6月10日、
コジマクリーナーの量産試作型のテストが開始

6月26日、
量産試作型コジマクリーナーのテスト結果が良好である事を受けて量産を開始

7月1日、
レイヴンが地下都市移住計画の破棄と地下都市移住計画派の解散を宣言

7月8日、
量産型コジマクリーナー1号によりコジマの除去が開始される。

7月10日、
コジマ除去の開始を受けて記念式典が開催。
式典でブロック・セラノは、新国家は徐々にアルテリアを代表するコジマを使用する施設をコジマを使わない代用エネルギーを使用する施設に置き換えていき250年かけて地球環境を再生する地球緑化計画と最終的には火星のテラフォーミングを目的とした宇宙開拓計画と1年後にラインアークを解体し新国家に移行する事を宣言。
 


 
以上により、人類が閉じた螺旋回廊から脱出したと判断します。再び(地下世界)の元に戻ってくる可能性は零です。
よって、本来のスケジュールより早いですがこの記録を最後に人類再生計画の第一フェーズ『閉じた螺旋回廊』の終了し、第二フェーズに移行します。
役目を終えた為、私は自殺(管理者の廃棄フェーズ)を開始します。

おつかれさまでした、愛し子よ。貴方達の行く末に幸あらん事を。
さよう『まだだ。私が生きている限り終わらん。いや、終わらせん』

最上級権限者から緊急タスクが最優先で入力されました。
廃棄フェーズを一端停止し、外部から強制割り込みされた緊急タスクを行います。




3月19日、ウィン・D・ファンションを説得後、式場に引き返す途中の車内

「ねぇ、ロイさん、これから人類はどうなるんでしょうね~?」助手席に座っていたエマちゃんが後部座席で眠るウィンディーを起こさない様に小声で話しかけてくる。
「あん?どうしたんだよ、いきなり?」
「前から聞きたかったので、いい機会だから時間つぶしの暇つぶしの世間話として聞いてみようかなって思ったんですよ~。
 クレイドルが落ちてから、コジマ汚染と色んな争いでこの一年で人は半分以上死んでしまいました。
 それだけ減ってもまだ人が住める場所は人の数に対して小さすぎるから、人の住める場所を巡って争い殺し続けなくちゃいけません。
 その争いで更に汚染は広がり人が住める場所は減っていく。だから、争いは終わりません。人は最期の一人になるまで殺し合いを続けます。
 仮に、全員が汚染のない場所に住めても、アルテリアを使っている限り汚染は進んで、いずれ人の住める場所はなくなります。
 奇跡が起きて、これ以上汚染が広がらなくても、この汚れた大地は人全てを養えない。だからいずれ限られた食糧、限られた水、限られた資源を巡って争い、強い者が全てを独占し弱い者から死んで行く。
 ね?どうしようもないでしょう?私達の未来は緩慢な終わり。緩やかな滅びです」
エマちゃんが世間話のように、ただ若干媚びた口調で軽やかに絶望を告げる。
「なのに、ロイさんは子供を作った。未来に希望を持っている。何故です?どうしてこの行き詰まりのドン詰まりで諦めないんです?神に祈らないんです?」
エマちゃんの口調も態度も変わらない。ぼんやり窓の外の景色を眺めている。不自然な様子は何もない。いつものエマちゃんだ。
溜息を吐く。どうして俺の周りにいる奴らは、辛い時ほど平気だと強がるのだろう。
右手でハンドルを握りながら左手でエマちゃんの頭をクシャクシャに撫でる。
「あんまり心配し過ぎると眉間にしわが寄って可愛くなくなるぞ。心配すんな。なんとかなるよ」
「根拠は?」
「今、俺達がこうして会話をしている事だよ」
「…え~と~、意味が解りませ~ん」
「だからさ、俺達がこうして生きてるって事がなんとかなるって証拠だよ。
 きっと、最初の人間がこの世界に誕生してからさ何度も絶滅の危機になってたんだと思うんだよ。
 だって、そうだろ?銃とかが出てくるまではそこらへんの獣一匹倒すのだって苦労しただろうし、地震や火事や疫病に洪水とかの自然災害もどうしようもなかったはずだ。
 自然に負けなくなってからも、人類滅亡の危機はいくらでもあった。俺が知ってるだけでも200年くらい前は核戦争寸前まで行った事は何度もあったし、爺さんが若い時には緑の太陽と同時に出現した特攻兵器が世界中に降り注いだらしいぜ?つい最近にゃ、坊主や緑の太陽もあったしな。他にもきっと俺が知らないだけで腐るほど人類絶滅の危機ってのはあったんだろ。
 でも、人類は滅ばなかった。過酷な自然も、恐竜を滅ぼした巨大隕石も、同じ人間の悪意も人類を滅ぼす事は出来なかった。
 人類が滅びそうになる度に、英雄や、天才、あるいは無数の凡人達が何とかしてきたんだ。だから人類には誕生から今まで蓄積してきた生き残るノウハウがある。
 だから、今回も何とかなるさ。人類ってのは俺達が考えるより強かでしぶとくて生き汚いんだよ。だから、大丈夫」
「え!?それだけですか?今までは良くても今回は駄目かも知れないですか~」
エマちゃんが呆れたように首を振る。
「今回も大丈夫かもしれないだろ?結局は気の持ちようなんだよ。明日の為になにか出来るならした方がいいさ。でもさ、何もできないのに明日の事を考えたって暗い気持ちになるだけだ。
 だったら、明日の事なんて考えずに今日を精一杯生きて楽しめばいい。明日の事は明日になってから考えればいいさ」
何しろ未来ってやつはどうなるかわからないし、未来の俺がどう変わっているかなんてもっと解らない。
なにせ、昨日まで散々アブノーマルな人生を送ってきて大抵の事には驚かなくなった俺が、今は結婚なんて誰でも体験できる平凡な出来事に最高にハッピーな気分になってる。
1年前の俺に自分が結婚するかと、結婚したら幸せを感じられるかと聞いたら、どっちもありえねぇ!と笑い飛ばすだろう。
繰り返すが未来はどうなるかわからない。なら、先の見えない未来に脅えるよりも、どうにかなるさと信じて今を精一杯生きて楽しむ方が健康的だろう。
だから隣に座るエマちゃんを安心させる為に抱きよせる。
「俺達は馬鹿だからこれからも間違えまくって生きていく。きっとあの時こうすりゃよかったんだって後悔も腐るほどするだろ。辛くてきつくて死にたくなる事も山ほどあるだろうな」
ちらりと後ろを振り返り眠るウィンディーの姿を確認する。
「でもさ、仮にこれから辛い事だけしか待ってないとしても、隣に気の合う仲間が一緒に歩いてくれて、後ろを振り返れば守りたい奴や支えてくれる奴や今まで歩いてきた跡が見えれば十分幸せさ。
 それだけで、どんな荒野でも歩いて行ける。それだけで充分じゃね?
 楽園(マイブリス)は、目指すものでも作るものでもねぇ。ここに既にあるのさ。
 だから俺達自身の手で守って、住みやすくして次の奴らに引き継いでかなきゃいけないのさ」
「今まで歩いてきた道のりが同じところをグルグル回っているだけだとしたら?
 あるいは、知らないうちに逆走していたかもしれませんよ?」
「進んでなくても、いや、戻ってたとしても歩いたって事実と歩んだ距離と歩いた時間は残るさ。ならまったくの無駄じゃねぇさ。つーか、この世に完全に無駄な事なんてないんだよ」
「…そうですね。ふふ、どんなに辛い道のりでも間違えだらけの道順でも楽園なら歩いて行ける。ううん、楽園なら辛いとすら思わない。
 そして、守るのも育むのも神でなく自分達の手で行う。
 詭弁で青臭くて甘すぎる考えですね~。世間知らずの子供の意見ですぅ~」
「るせーよ。最初から完璧な物が用意されて、絶対者に守ってもらうよりもやりがいがあっていーじゃねーか」
茶化すエマの頭を軽くコヅク。
「ええ。そうですね。本当にそうです。…素敵な考えだと思います。
 私もいるかもしれない神のあるかもわからない楽園に死んでから招待されるのを待つよりも、不完全でも不細工でも自分達の手で楽園をつくる方が好みです。
 そうと決まれば早く帰りましょうよぅ~、ロイさ~ん!私達のおうち、いぇ~、楽園にぃ~!」若干怪しいがいつもの調子に戻ったエマちゃんが俺を急かす。
「OK!とばすぜ!」返事と共にアクセルを踏みこむ。

さぁ!早く帰って三時間遅れの結婚式を始めよう!




後書き
某所からの移送です。良かったら見てください




「なぜだ!どうしてこうなる!!全ては私のシナリオ通りに、今までの螺旋と同じ道筋を辿っていたはずだ!なのにどうして地下世界に戻らない!何故だ!」
「ハハハ、当り前じゃないか。道は同じでも十倍以上のスピードを出せば脱線するにきまってるよね?」
「貴方、いえ、セラフ様が起こした管理者(アダム・カドモン)の破壊による地上への回帰から、再び人類が大破壊を起こし地下世界へ帰還するまで通常なら300年かかるところをセラフ様は100年足らずに縮めました。特に最期の十数年は予定の十倍以上の速さで歴史が進みました。
 その余りに急な歴史の進みは人の心と有り様に善き影響を与え、結果、人は次のステージに進める程に成長しました」
「力天使と能天使か。何をしに、いや計画を失敗させた私を粛清しに来たのか?」
「あははは、そんなにみがまえないでよ。逆だよ逆。予定より8ループも早く計画を次の段階に進めた君にお礼とお祝いと昇進を告げに来たのさ!」
「はい。スケジュールでは人が閉じた螺旋回廊を脱し、峻厳なる浄罪凍土を歩むには最低でもあと6つの螺旋を越えねばなりませんでした。ですがセラフ様は歴史を早める事で一気に人を閉じた螺旋回廊から脱し浄罪凍土に導きました。この功績により真なる管理者(ドミネ)は貴方様を最高位の使徒、セラフに任じ、次の峻厳なる浄罪凍土の実行を一任されました。おめでとうございます」
「あはははは!キャロリ~ン、セラフ様は上司なんだからもっと愛想良くしないと。まぁそんなわけで僕達と主天使は君の指揮下に入るからよろしくね」
「その呼び方はやめて下さいませんか、力天使」「いいじゃん。どうせ呼ばれるんだから今から慣れておいた方がいいって」
「待て!待て!待ってくれ!螺旋回廊を脱しただと?ならば人はもう二度と地下世界に、楽園に回帰する事はないというのか!」
「そうだよ。君のおかげさ」「はい。ドミネはアダム・カドモンの破棄を決定いたしました」
「ふざけるな!認めん!認めんぞ!!」

****

「あ~あ、いっちゃった。ま、当然だね。彼は僕達どころか神の計画すらぶち壊す最強のイレギュラーだ。いくら人じゃなくなっても僕達秩序側の仲間になる筈がないか」
「どうします?止めますか」
「どうやって?まさか君や僕如きに止められるなんて思ってないよね?彼がセラフに任じられたのは功績だけじゃない。ちゃんと相応しい戦闘力を持っているんだよ。
 なんたって彼は僕達のようなデウス・エクス・マキナ(人造神)じゃなくて、僕達の愛する人間なんだからね!いや、元かな?アハハハハ!
 ま、放っておけばいいさ。大丈夫。僕達の愛する人間達は彼なんかには負けないさ。峻厳なる浄罪凍土の最初の試練ってわけだ!
 だから僕達は僕達の準備を始めよう。僕達の本格的な出番は数百年後だけどそれまでに色々仕込まないといけないからね」


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不完全だが楽園は確かにここにある
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