小説/長編

Written by えむ


 クレイドル03で見かけた「何か」。それがどうしても気になったレックスは、それを撮影し、ラインアークの技術部に画像の解析を頼んでいた。
 そして、それからさらに数日が過ぎ、セレンが解析結果が持って来る。

「……自律兵器?」
「あぁ、そうだ。主兵装はレーザーキャノン。火力はそう高くないが、数が数だ。集中砲火を浴びれば並大抵の物ではひとたまりもないだろう。そして、これらは恐らく接近してきた対象を自動で迎撃するためのものだろうとのことだ。最もどのくらいの数があるかはわからんが……」
「……クレイドル空域より、さらに上に行こうと思えば―――蜂の巣は確定ってことか」

 そう答え、レックスは思案顔を浮かべる。なぜ、こんな物が大量にあるのだろう?と。
 向かってくる物を迎撃するだけの単純なシステム。針も通す隙間のない数に物を言わせた布陣。それらが意味するものは一つ。
 ―――先に行かせないこと。
 だが、それらの先には何があると言うのだろう? これの答えも簡単だ。空の向こうには―――、空よりも広大な宇宙がある。
 でもなぜ宇宙に行かせないために、そんなものがあるのだろうか? さすがに、その答えはわからない。それこそ設置した本人でもないと。

「……」

 再び考える。そして、おもむろに立ち上がった。

「どうした?」
「ちょっと歴史の勉強をしてくる」

 突拍子もない発言に、セレンは思わずキョトンとした表情でレックスを見上げる。そんな彼女の表情を見て、レックスは苦笑を浮かべる。

「いや、ちょっと気になったことがあって。確認してくる」

 そう言って、レックスは部屋を後にし、ラインアーク内にある図書館へと足を運ぶのであった。






 そんなことがあってから、さらに数日が過ぎたある日のこと。企業連を通して、ラインアークにフォートネクストの出撃要請が届いていた。呼び出しを受けたレックスとセレンは、指導者であるブロック・セラノが待つ執務室へと出向く。
 部屋に入ってみると、ブロック・セラノと秘書。それに『彼』とフィオナの姿もあった。

「ちょっと遅れました。それで出撃要請が来たとのことですが…」
「えぇ、これを見てください」

 そう言って、ブロック・セラノが端末を操作すると、壁にかかった大型モニターにミッションの内容が表示される。

「ORCAの拠点を攻撃。目標はエーレンベルク。――衛星軌道掃射砲か」
「敵戦力は、防衛部隊に大型の固定エネルギー砲。更にネクスト機もいるみたいですね」
「投入する戦力も、ネクストにAFイクリプス…。旗機はBFFのストリクス・クアドロ。その他の投入されるメンバーも、トップリンクスばかりか」

 フィオナと『彼』が、セレンに続いて戦力について告げる。投入予定の戦力を見て、企業側がどれだけその気なのかは、もはや言うまでもない。

「敵戦力の詳細はわからないが、企業連が本気なのは確かなようだ。…それで、レックスどうする。今回のミッション受けるのか?」

 セレンがレックスのほうを見る。それに対し、レックスは少し考え…おもむろに尋ねる。

「セレン、変なことを聞くけど。衛星軌道掃射砲って、衛星軌道にある物を掃射するための砲だよな?」
「あたりまえだ。名前を見ればわかるだろう」
「ですよねー。と言う事は、つまり……ふむ」

 再び何か考え込み、そして納得したように頷き、その場にいる全員を見回して告げる。

「ORCAの最終的な狙いがわかった。本当の目的はクレイドルを降ろすことじゃない。ORCAはこいつを使って道を切り開くつもりなんだ」

 そう言って、レックスはモニターに映っているエーレンベルクを手で叩いてみせる。

「アルテリアを襲撃したのも、これにエネルギーをまわすためなんだ。クレイドルが降りることになるのは、その副産物みたいなものだよ」
「……そうだとして。何のために撃つんだ?」

 『彼』が尋ねる。かつて自分がエーレンベルクを破壊した時。その時は、GAの観測衛星が破壊されるのを阻止するためだった。だが今回の目標は、はっきりしていない。

「人類を救うためだよ。以前、僕にORCAの旅団長。テルミドールからメールが来た時、今の地上の状況と人類の未来を彼は気にしていた。だけどクレイドルを降ろすことは、どう考えても人類を救うことには繋がらない」
「そうですね。でも、それなら一体ORCAはどうやって―――」

 フィオナが首を傾げる。レックスが言う通り、クレイドルを地上に降ろしても何も解決にはならない。そんなことをして人類を救えるとは到底思えない。

「宇宙だよ」

 そんなフィオナにレックスは答えた。

「この前、撮影した自律兵器。あれは宇宙に上がるもの全てを迎撃するためのものだった。それで気になって、少し歴史を調べてみたんだ。主に宇宙開発関連の。そしたら、ある時期を境にピタリと開発が止まっていた。それ以降、宇宙開発は行われてない」
「……レックスが見たと言う、あの自律兵器が原因か」
「それは、ほぼ間違いないだろうね。ORCAはそれらをエーレンベルクで一掃して、宇宙への道を開き、それでもって人類を救うつもりなんだよ。地上から宇宙へと逃がすことによって」
「ですが、だからと言って―――」

 そこでブロック・セラノが口を開く。その全てを言う前に、レックスは真剣な表情で頷き、言葉を続ける。

「それでもリスクは高すぎる。宇宙開発が止まってる現状でクレイドルを地上に降ろしても、道が完全に開くまではコジマ汚染の影響を長く受けてしまうわけだから。どちらにしても、ORCAのやり方じゃデメリットが大きすぎる」
「では、どうしますか? やはり企業連とともにエーレンベルクを?」
「いや、今回は辞退する方向で。それだけトップクラスのリンクスがいるなら、粗製リンクスはいなくても大丈夫だろうしね」

 苦笑を浮かべながら今回のミッションを受けないことを告げ、それからレックスは改めてその場にいる面々を見回す。そして真面目な表情のまま、さらに言葉を続ける。

「だからカラードのリンクスとしては出撃しない。ただ―――」

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 ところかわって。何もない砂漠の真ん中に、小さな野営地が一つあった。
 テントが幾つかも並んでおり、その周辺には20数機あまりのノーマルが並んでいる。そして、その中に混じってネクストの姿もあった。インテリオルの軽量タンク脚に、ライールコアを乗せ、武器腕のハイレーザーA12-OPS を積んだ機体――傭兵部隊コルセールの旗機であるバッカニアだ。

「………」

 テントの外。そこに携帯端末を手にして一人、バッカニアのリンクスであり、コルセールの長であるフランソワ・ネリスが立っていた。その視線は、端末の画面へと向けられている。

「……そろそろ頃合ってことか」

 そう呟き、端末を閉じる。そこへ一人の傭兵が駆け寄ってくると、ネリスはそちらへと振り返って尋ねる。

「どうだった?」
「姐御の予想通りでさ。企業らしき偵察班が、つかず離れずで俺らの後をついて来てますぜ」
「まぁ、そうだろうねぇ。この時期にカラードからの要請蹴って、勝手に動き出してるわけだし」
「で、どうしやす?不意打ちでもして黙らせますか?」
「さすがにそれはやばいって。滅多やたらに手を出したら、色々面倒だよ?」

 そう言いながら、ネリスはくるくると人差し指を回しながら、空を仰ぐ。考え込む時の彼女の癖みたいなものである。やがて、ニヤリと笑みを浮かべる。

「よし、あんまり監視されるのもイヤだし、姿くらましちゃおうか。いつもの手で」
「いつもの手…っていうと。アレですね!! すぐに伝えてきますぜ!!」
「うん、お願いするよ」

 ネリスの言葉に、傭兵はすぐさまテントのほうへと走っていく。それをその場で見送ってから、ネリスはその場で大きく背を伸ばした。

―――それから1時間あまり後。
 コルセールの動きを監視していた企業…BFFの偵察班は驚いた。僅か15分足らず目を離した間に、コルセールの野営地が影も形もなくなっていたのである。小規模とは言え、あれだけの数が移動するとなれば気づかないはずはないのだが。だが、あるはずの移動の痕跡すらも見られず、偵察班はただただ戸惑うばかりだった。
 
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 コルセールが姿をくらませ、ラインアークがエーレンベルク攻略戦への参加を断ってから、さらに3日あまりが過ぎ、企業連の部隊が衛星破壊砲基地へと移動を開始した。
 やがて、エーレンベルクを視認できる位置に、ストリクス・クアドロとアンビエント。そしてフィードバック、ルーラー、レ・ザネ・フォルと並ぶ。

「…思ったより敵戦力はないようだ」
「ですが、ここはORCAにとって重要拠点。何があるかわかりません」
「わかっているともリリウム」

 恐らく戦力の一部を隠すか何かしているはず。重要な拠点がこれだけしかいないはずはない。

「ネクストも確認されているけど。優先目標は衛星破壊砲ね。それさえ潰せば、勝利条件は満たせるわ」
「だがORCAのネクストを無視するわけにいかんだろう」
「…お互いリンクスだ、連携もないだろう。…好きにやれ。私もそうする」

 かわされる簡単なやり取り。作戦もへったくれもないが、

「作戦開始だ。――リリウム」
「はい、王大人」

 ストリクス・クアドロとアンビエントが並んで移動を開始。それと共に、残りの三機もその後に続く。そして、やや遅れてからAFイクリプスが上昇を始めた。






 時を同じくして、エーレンベルクの基地から一機のネクストが姿をあらわしていた。トーラスのアルギュロスをベースとしている、そのネクストはゆっくりとした動きで足を進める。企業側が動き出したのは偵察部隊の報告から明らかだった。よって奇襲されることもなく、すでに迎撃の準備はできている。

「…まったく。分かっていたとはいえ…メルツェルの小僧めが、きつい仕事を押し付ける。掃射砲を攻めるとなれば企業の連中も真剣だろうに」

 敵戦力は、ある程度予想していたとは言え多い。こちらも切り札を含め、強力な手はあるにはあるが。それでもこの防衛が楽な仕事でないのは確かだ。

「アレの準備はどうだ?」
『もう少しで起動可能です』
「そうか。…お前のほうは、まだ出るんじゃないぞ?」
『わかってる』
「だが期待もしておるんでな。しっかり頼むぞ?」
『任せとけよ。制限時間付きで』
「頼もしい限りだの。さて、それじゃあ一足先に行かせてもらおうか」

 ネクスト・月輪がブーストでの移動を開始する。それと共に、周囲に待機していたノーマル部隊が展開。迫る企業の部隊を迎撃すべく、所定の位置へと付く。
 やがて、正面に5つものオーバ-ドブーストの光が見え始めた。やや遅れて、AFイクリプスもが姿を現す。

「……来たか。………む?」

 レーダーにも敵影が映り始めたところで。別の反応が一つ近づいて来ていることに気がついた。企業の増援かとも思うも、それにしては移動速度が異常に速い。
 その接近には、企業側も気が付いていた。後方からの接近に警戒し、一端その場で動きを止める。
 やがて、接近してくるそれが目視でも視認可能となる。

「…VOB?」

 誰と言うわけでもなく呟きが漏れる。今回の作戦に置いて、VOBの使用は含まれていない。では、だれが? そんな疑問が浮かぶのも束の間、VOBを装備しているネクストがAFイクリプスへと近づいていく。そして両手に装備したロケット砲を連続で放つ。背後からVOBの加速が加わった大量のロケット弾を受け、AFイクリプスがいきなり撃墜された。
 突然の強襲に唖然としたのも束の間。VOBが企業部隊の頭上を通り越し、そこでパージ。そのままエーレンベルクと企業部隊の間へと砂埃を立てつつ降り立つ。
 突然の乱入者。砂埃が晴れ、その姿が露になると同時に、全域通信にて若い男の声が響く。

「こちらはラインアーク所属フォートネクスト。いきなり乱入なんかして申し訳ない気はするけど、わけあって―――」

 砂煙が晴れ、OIGAMIを背負ったフォートネクストの姿が現れる。
 そして――。

「エーレンベルクはいただく」

―――とんでもないことを宣言した。
 
To Be Countinue……


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移設元コメント


☆作者の一言コーナー☆
 えむです。オリジナル展開突入。あとはひたすら突っ走るのみ。
 今回はあえて本編コメントは控えめで。

 ではさっそくコメントレスをば。

>『地に足をつけてるタンクの底力。見せてやるよ』このセリフにしびれたぜ!その調子でアンサラーを地上から撃破・・・って企業連(ラインアーク)ルートだと実現しないのか!?
 なんかアンサラーフラグが立ちました。

>「チャージ済みコジマライフル」はなんとなく格納庫の会話で読めたが、その次は「上を向くためにクレイドルに衝突する」とは…   いくらOGOTO2本に減っていたとしても、クレイドルに対する被害は……  それ以前の被害と比べたら笑える程度か    次はメルツェルとの化かし合いになるのか、それともヴァオーと少佐によって比較的普通の戦闘になるのか(おぉ、次タンク対タンクじゃないか)
 ビッグボックス戦は、もう少し後になります。というか、下手すると(ry

>あの「ガクンッ」を小説で再現とは恐れ入る…。次回はエーレンベルクか・・・期待してます。
 期待に添えられるかはわかりませんが、がんばります><

>銀翁と戦うとなると壮絶な削り合いな予感。GAパーツで大丈夫なのだろうか?
 後編をお楽しみにっ!!
 
>アサルトセル存在のヒントを僅かながら得たレックスですが、完全にその存在を知ったとき企業連に完全に協力しなさそうな気がする。かといってORCAに協力するわけでもなさそうだし・・。レックスのAnswerがどのようなものになるか期待してます。
 レックスのAnswer。恐らく、今回あたりで大分見えてくるのではないでしょうか。たぶん…だけど(マテ

>アサルトセルを見つけたかぁ…今後どうなるか気になりますねぇ・・・まさかとは思うけど、破壊した後にエーレンべルグのデータとか持ちかえってきたりして。
 持ち帰るどころか、もっと大それたことに乗り出しました。

>クレイドル空域でフルチャージコジマライフルだと・・・?! しかしその奇策さえ避けるとは、流石古王。

 
>個人的にアサルトセルの見つけ方がすごく気に入りました.このタイミングで来るかと驚き,次の展開にわくわくしてます. ラインアークルートが描かれた作品でアンサラー戦は今のところしらないですけど,今回は期待してしまいますねぇ
 アンサラーフラグ立ちまs(ry

>卑怯な手段も躊躇わない…さすがは元レイヴンw そしてやはりタンク乗りの鏡…! いかん、俺が女なら間違いなくレックスに惚れる!!
 レックス<ごめん。好きな人はもういるから…(汗

>まぁた「逆関節」が「逆間接」になってるところが。・・・前にも無かったっけ?
 あったかもしれません。ごめんなさいorz

>あの自立型を瞬殺って・・・。成長したなレックス・・・
 昔だったら、きっとフルボッコでした。伊達に訓練重ねてません。

>格納の中でチャージとか奇策過ぎるwww・・・ってクレイドル空域でコジマライフル使っていいんかい!余計な突っ込みスマン
 いいんです。ネクストいる時点でもう手遅れだし…(マテ

>自律型のブレードにてこずるだろうとニヤニヤしていた俺涙目。古王のセリフで「や ら な い か」って、別にそっち系は意識してないよね?wwww
 してませんwwww

>「撃ち負けはせんよ、当たるのであれば」が社長なら、「撃ち負けはしないよ、当てるんだからな」というのがレックス君という感じだな。さて、これからどうなる……?
 …おおwいいですね、それw 採用させてもらいますw(ぇ

>格納コジマか……。……、しかし、チャージ済みだともし衝撃で誤射したら洒落じゃ済まないよなぁ。
 だけど誤射しないのが主人公補正と言う奴なのです。大丈夫!!

 以上、コメントレスでした。
 予想外にコメントが多くて、本気でびびりました。なぜ…?(汗
 なにはともあれ、たくさんのコメントありがとうございましたっ。

 さて次回は、エーレンベルク攻防戦(たぶん後編)。
 自分の中では、今回が最大の山場です。乱戦と登場人物の同時展開数的な意味で。
 もう、どうなるかは作者も予想が付きません。ただ突き進む、それしか能がない。

 では今回はここまで。お付き合いいただきありがとうございました~(・▽・)ノシ


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