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[[小説/長編]]

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Written by 雨晴
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『君が、ランク9の?』

橋上を疾走する白のネクストの横につけると、直ぐに通信が繋がれた。目礼。

「はい。宜しくお願いします、ジェラルド・ジェントリン。こちらはストレイド、ハイン・アマジーグ」

そう伝えても、特に大きな反応は無い。上位クラスのリンクスならば、もう情報が回っていてもおかしくは無いか。構わないが。

『ジェラルドで構わない。こちらはノブリス・オブリージュ。君の戦績は聞いている』

お互い全力を、その言葉に同意する。

「アルテリア・カーパルス目視、ストレイド停止。戦闘準備」

プライマルアーマー展開、ジェネレーター正常稼働中、全兵装異常無し。
各関節異常無し、各ブースター異常無し。FCS起動。

『・・・防衛部隊が、全滅?』

20秒足らずでか?ジェラルドが信じられないという口調で話す。若干同意する。
アルテリアはクレイドルの要諦。そう簡単に突破できる防衛戦力が配備される筈が無い。それを、20秒。
ORCAは、やはり口だけではないと言うことか。

『ノブリス・オブリージュ。敵イレギュラーを排除する』

先に行くぞと言わんばかりにオーバードブーストを用いて前進する白を見ながら、一つ息を吐く。メインブースター起動、前進。

『本当に、こちら側で良いんだな?』

セレンの声に反応する。笑みが漏れた。

「これが私の答えです。心配して下さらなくても結構ですよ、セレン。もう迷いません」

一瞬の沈黙。そうか、ならば。彼女が息を吸い込んだ。
 
『お前も行け!』
「―――了解」

オーバードブースト起動。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
『二機か。警告はした筈だが』

敵機より通信。女性?

『舐められたものだな、私とアステリズムも』

知ったことではない。遠方より高速弾、回避間に合わず。レールキャノンか。問題無し、接近。オーバードブースト解除。
距離500、敵機は早い。高出力のブースターが、軽量機と思われるそれを前後左右に押し出している。
ノブリス・オブリージュは中距離戦志向。援護が必要とは思わない。ローゼンタール最精鋭、良い動きをする。
まあ、いずれにしても私にあるのは接近戦のみ。ならば、前進だ。攻勢。
クイックブースト連続使用。久しぶりに味わう実機の感触。敵機よりミサイル、迎撃。排除。
同時にアサルトライフル起動、マシンガンよりミサイルを展開、射出。命中せず。
連続クイックブーストで、速度は1500を超えていた。バックブーストからクイックターン、後ろを取る。

―――ッ!

取ろうとした後ろが、既にこちらを向いている。それどころか、レーザーライフルの銃口までもこちらを向いている。
乱数回避、距離400、敵機下方、アサルトライフル射撃。敵機回避。当たらない。
敵機ミサイル射出、複数。避けろ、意思に体が反応する。何とか海面に叩きつけた。
一息。

成る程、これがORCAの。
乱れていた呼吸を意識して戻す。オーバードブースト、一時退避。防壁の向こう側へ飛び出す。
目を閉じ、意識を集中させる。思い出せ、ハイン。
父の声が、聞こえた気がした。
 
 
 
 
テルミドールは、黒のネクストには気をつけろと言っていた。
ラインアークの生き残り。他のリンクスとは違う、と。
だが。

「どうした?」

大した敵とは思わない。

「ラインアークの生き残りなのだろう?」

確かに早い。が、それだけだ。悪いが、それだけではアステリズムには当たらない。
逃げていく黒を追いかけることは無い。白に襲い掛かる。
ジェラルド・ジェントリン。私がよく知っている男。
だとしても、今は敵だ。

『っ、早い!』

そうだろうとも。ライフルの正確な照準がアステリズムに被弾させるが、致命傷になどならない。
白の射撃が止む。羽のように背に背負った、巨大な砲の準備が始まった。
レーザーキャノンは展開に時間が掛かる。射撃までも。当たらないさ、そんなものは。
回りこんで、近距離戦。ハイレーザーライフルを用いる。命中。もう一発、そう思ったところで、レーダーが敵の接近を捉えた。

また来たか、そう思い、そのままハイレーザーライフルを構える。FCSのロックが追いつかないほどのクイックブースト。
オーバードブーストを併用し、恐ろしいとまで言える高速接近。
気付けば、黒が目前に居た。

「チッ」

ゼロ距離放たれたグレネードが直撃する。よろめき、立て直しを図る。コンマ5秒、そんな世界。
その世界の中で、黒が翻った。サイドクイックブースト。
気を取られた途端、目前が光に染まる。レーザーキャノンの直撃。

「・・・やるじゃないか」

即席チームにしては良い連携だ。だが、もう同じ手は食わない。そう思ったところで、黒が視界に現れた。
どこから、その疑問が浮かんだと同時、マシンガンの全力射撃が来る。
応戦。だが、近すぎる。
バックブースト、クイックブースト。相手を引き離そうと努力する。引き離せない。
飛翔、3次元機動での回避。それさえも、相手はついて来る。先とは違う、黒の速さ。

他の奴とは違う。テルミドールの言葉が頭によぎった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
一度懐に潜り込んだならば、決して振り払われてはならない。極至近距離戦闘を主眼に置くならば、それは鉄則中の鉄則だ。
隙を伺い、相手の背から入る。そして食らい付け。
それは、父の言葉。今の私なら、あの人をこの場へ連れてくる事が出来る。
私には、答えがある。あの人に臆することなく、それを口にすることが出来る。

相手は速い。だが速さならば、こちらも負けない。噴射角と出力を調整し、未来予測を絡めて距離200から250を維持する。
徹底的に維持しろ、プライマルアーマーを弾き、直接叩き込め。
相手がミサイルで応戦しても、関係無い。多少の被弾は気にしない。

モーターコブラ、リロード良し。射撃。マーヴ起動。
ただこの位置を、この位置からの射撃を。離れるな、決して。
マーヴの弾丸数発命中。まだまだ、こんなものではない。

近距離戦。それしか能の無いと言っていたのは、父も同じだ。それでも父は強かった。
ならば、私も。
武装はバルバロイのショットガンやアサルトライフルではない。シミュレーターで教わったのは、それだった。
だとしても、近距離兵装だということに違いは無いだろう。あの頃と、きっと同じだ。

敵機の回避も中々早い。モーターコブラのサイティングが追いつかなくなった。ミサイルへ切り替え、射出。
数回連続で射出し、弾幕を張る。敵機に怯む気配無し。
敵機反撃、距離を保ちつつ下方へ回避。だが射線が安定しない。焦っているか?
敵の反応を見るために、1度かなりの近距離へ踏み込む。先よりも反応が鋭いようで、対応は雑だ。

好都合。

モーターコブラ起動、そのまま敵機を一気にパスし、真正面から向き合う。
回避方向は、右方。マシンガンをノーロックで射出し、進路を塞ぐ。さて、上か、下か。
下、敵機自由落下選択。追従、ライフル継続射撃、敵機回避、しかしそれは、想定内だ。
グレネード展開、予想方向へ射出。直撃せず、しかし爆風に巻き込まれる敵機。そのままミサイル射出、あぶりだす。

右腕、左腕兵装起動。
ノブリス・オブリージュ視界内。レーザーキャノン展開を確認。頼れる。
マーヴ、モーターコブラをノーロック射撃、調整し、敵機を誘導。ここだ。再びパスし、相手の行き先をミサイルで封じる。
仕留めろ、ノブリス・オブリージュ。同時、光条が来る。
僚機レーザーキャノン射出を確認、命中。

『私か、侮ったのは』

敵ネクストより通信。

『すまんな、皆。最早、共に成就は叶わん』

敵ネクスト反応消滅。戦闘終了。

『敵ネクスト、撃破を確認。終わりだな』

プライマルアーマー、AMS接続解除。

『このクラスのネクストが動くとは。反働家どもめ、何を考えている』

何を考えているか、その言葉に、あの無人兵器を思い出す。
彼らが戦うのは、彼らが抱く正義の為だ。テルミドールは、否定したけれど。あれも、正義だ。
だが。

「帰還しましょう、ジェラルド。他のアルテリア施設の動向も気になります」
『ああ、そうしよう。助かった、ハイン・アマジーグ。その動きは、あのランク9には相応しい』
「私も助かりました、ジェラルド。敵機の懐に入り込めたのは、貴方のおかげです」

だが、彼らのそれが正義だとしても、もう私は靡かない。
ただ自分の選んだ答えに従するだけだ。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「やはりこちら側についたか、あの男」
「これで貴様の思い通りか?王大人」

ウィン・D・ファンションが鋭い視線を浴びせ、しかし初老は意にも介さない。

「主要アルテリア施設の内、無傷で取り返せたのはカーパルスくらいだ。礼を言わねば」
「・・・誰にだ」

決まっている、と初老。

「アマジーグの養子と、リリウムにな」

視線が更に鋭くなり、刺すようなそれに変わる。

「貴様、人を弄ぶのも大概にしておけ」
「弄んでなど。管理しているだけだ」

ウィン・D・ファンションの拳が握られる。暴発しそうなそれを、理性で鎮めた。

「力を持つ者は管理されなくては。かつてイクバールに管理されたマグリブの、或いはその英雄のように」

わざわざそれを例えとして持ち込んでくる初老の精神構造に、理性のタガが外れそうになる。
拳を握り締めたまま一歩踏み込んだところで、肩を掴まれ遮られた。

「また悪巧みか?王大人」
「・・・お前か、ロイ・ザーランド」

ロイ・ザーランドが全く、と呆れたような表情をわざとらしく演出する。

「この前も言っただろ?人のプライベートな部分に踏み込むべきじゃないって。さもないと」

そう言って、彼の目付きが変わる。いつものとぼけた表情でも、目付きでもない。
いつかハインの見せたような。

「撃ち殺すぞ、王小龍」

言って、懐からオートマチックを取り出す。ウィン・D・ファンション越しに、王小龍の頭をサイティングする。
廊下には3人しか居ない。騒ぎは起きない。王小龍が、口元を歪めた。笑みに近い表情。

「残念だが、迫力が足りないな。ロイ・ザーランド」
「そうか?」

ああ、と一言。無表情へと戻る。

「あの時のハイン・アマジーグのほうが、まだ良い顔をしていた」

王小龍が銃口を気にせず、そのまま彼らを無視して歩いていく。
初老にとって、若者がどう思おうが騒ごうが、関係の無い話だ。
彼ら駒をどう配置するか。それだけが王小龍の悩む、唯一の考え事であった。

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**コメント [#lff7df01]
- 遅くなりました、久々のネクスト戦、対アステリズム戦です。少し短めですが、次回から少しずつ長くなっていくのでとりあえず今回はこれで・・・ 前回分、大量の感想有難う御座います。ものすごく嬉しいです!大人嫌われ過ぎですがw では、また次回。失礼します。 -- [[雨晴]] &new{2009-07-31 (金) 00:44:12};
- 前回も思ったことですが、ハインとリリウムの為にも、あの陰謀家は排除すべきですね。 --  &new{2009-07-31 (金) 01:54:13};
- GJ。毎回楽しみにしています。しかし、王大人がいなくなるとハインとリリウムはくっ付いていなさそうだ。 --  &new{2009-07-31 (金) 02:30:34};
- 王をマーヴで蜂の巣にしてくるノシ --  &new{2009-07-31 (金) 02:40:46};
- 王をAAでスクラップに(ry --  &new{2009-07-31 (金) 03:17:43};
- ちょっと王にオーメル凸ライで北斗百烈剣かましてくる。 --  &new{2009-07-31 (金) 03:20:12};
- まあ、腹は立つけど王の考えも間違ってはいないか。何せリンクス、ネクストはその気になれば一億虐殺出来るわけだし……個人が持つにはあまりにも大きすぎる力だからなぁ --  &new{2009-07-31 (金) 08:07:21};
- 『お前も行け!』と『撃ち殺すぞ、王小龍』のセリフの使い方がツボにはまりました。かっこいい!! --  &new{2009-07-31 (金) 10:03:34};
- さて、次回はどれに出撃するのか・・・ --  &new{2009-07-31 (金) 12:17:52};
- ロイ兄さんかっこよすぎるだろ・・・ --  &new{2009-07-31 (金) 17:47:42};
- プログラム、実行。目標、確認。 ・・・排除開始。 するべきだ。誰かナインボール・ネクスト連れて来い。老人を叩きのめす。 --  &new{2009-07-31 (金) 17:48:22};
- 王ジジイは任せろ!俺が興と干と≧でいたぶっておく(性的なry --  &new{2009-07-31 (金) 20:36:15};
- ↑↑待て、いくらなんでもオーバーキルだ。コジマミサと核と32連動で十分だろ。 --  &new{2009-07-31 (金) 21:46:06};
- ハインさん覚醒wどこまで強くなるんだw --  &new{2009-08-01 (土) 01:38:40};
- 黒アリーヤにマーブ、モタコブ、グレにミサイル積んで企業連ルート一周してきた。疑似ハインさん体験!w・・・もう俺オルカルート攻略出来ない・・・(リリウムとロイ兄さん的な意味で --  &new{2009-08-01 (土) 19:46:31};
- 殺っちまえロイ --  &new{2014-09-19 (金) 04:47:31};
- この小説だと、ハードルートでは敵増援として出現するグレイグルームは登場しないんだね。 --  2023-12-23 (土) 16:50:08

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