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Written by 独鴉
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WG戦前編です
中篇18.6 後編18.9となります
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ホワイト・グリント撃破前編・・・
 ラインアークへとエアキャリアーで移動中、セレン・ヘイズはリンクス戦争当時の事を思い出していた。
「アナトリアの傭兵か…」
 まだセレン・ヘイズがわか    いっいえ、今も十分若くて美しく麗しい女性ですが、国家解体戦争の終わったすぐ後、僅かな間だがフィオナ・イェネフェルト、そしてアナトリアの傭兵と面識があった。
国家解体戦争後、レオーネ・メカニカはアナトリアからいまだ流出していない技術を買うため要人数名がアナトリアへと向かうこととなった。
ノーマル部隊やフェルミの護衛だけでは不足を感じた上層部は当時レオーネ・メカニカでもっとも信頼性の高いリンクス・霞スミカとそのネクスト・シリエジオを護衛とした。
その時彼女は訓練課程にあったアナトリアの傭兵と出会っている。
時代遅れの古い戦士、いまや価値の薄れたAMS技術者の娘、彼女とて二人と直接会う前は周囲の者と近い考えを思っていた。
 何事もなくアナトリアに着いた要人達はすぐにアナトリアの代表と交渉を始めた。
アナトリア内に居る間、手空きの霞スミカはすでに噂となっていたレイヴンを見に訓練室へと向かっていた。
レオーネの技術者達の話ではあと一週間もすれば実戦可能な段階らしいがAMS適正の低さから大した戦力にはならないだろうと彼らは見定めている。
彼女も似た見解を持っていたが到着して訓練室の扉を開いた霞スミカは目の前の男に対して認識を大きく変えられることになる。
 霞スミカが研究施設内に設置されている訓練室に向かう最中、薄暗い通路ですれ違う警備兵や研究者と何人かすれ違ったが、研究機関にしては余りにも数が少ない。

「アナトリアも随分と落ちぶれたものだな」

 有用性の高い情報も少なくなり、技術者たちの殆どが他の企業に引き抜かれた今、アナトリアのAMS及びネクスト技術研究施設は実質閉鎖状態に近い。
通路を進む中所々にある各部屋は厳重に封鎖され表示も外されてしまっている。
唯一表示灯の明かりがついている訓練室にたどり着くにはシリエジオの待機させている格納庫から50分以上はなれた研究施設の片隅だった。
扉を開けて中に入るとレオーネで使われている機器よりも幾分旧型と思われる装置が置かれ、その中央に初期型のリンクス用パイロットスーツを着込んだ男が立っていた。
 突如訓練室に部屋に入ってきた霞スミカを警戒しているのか、アナトリアの傭兵と思われる男は殺気を込めた視線を霞スミカに向けている。
初期型のリンクス用パイロットヘルムをつけている以上視線など読み取れるわけないが、確かに、確実に殺気を込めた視線で霞スミカを見ている。
冷たい空気、死の込められた視線、目の前の男は霞スミカを敵と認識したようだ。
男は武器を何も持っていないが霞スミカが自衛用に腰にとめている銃を掴もうものなら即座に殺される。
そう彼女の戦士としての勘が訴えていた。
 ゆっくりと翼を広げ始めた鴉が羽ばたこうとした時、霞スミカの後ろの扉が開かれ白衣を着た女性が訓練室に入ってきた途端殺気が揺らぎ薄れてゆく。

「レイヴン、次の訓練は…。あら?あなたは確かレオーネの霞スミカさん。教授と話しておられたのでは?」

 羽ばたこうとしていた翼はゆっくりと閉じられ、霞スミカは呪縛のような殺気から解き放たれる。
どうやら霞スミカの認識を一応改めたらしい。

「あっ…あぁ、要人がそちらの教授との交渉に来ている。交渉中は手空きなので
訓練の様子を見に来たのだが構わないだろうか?」

 霞スミカは恐怖で波立っていた感情押さえ、悟られないよう平静を装いながら答えると女性は微笑みながらうなずいた。

「えぇ、どうぞ。宜しければ訓練を見て問題点など挙げてもらえると助かります」

 霞スミカは遠めに訓練を見ていたが、行われている訓練はシミュレーターとAMSを介して統合制御体を繋げた模擬実戦形式、しかしAMSとの接続はかなりの苦痛なのだろう。
訓練機からは呻き声が洩れ、オペレート計器からは苦痛を表す激しい脳波の揺らぎが表示されている。
10分ほどして一旦休憩が挟まれ、コックピットからアナトリアの傭兵がゆっくりと降りてくる。
その様子をフィオナは見ながら遠巻きに見ていた霞スミカのほうを向く。

「宜しければ相手を務めてもらえますか?」

 突然の言葉に驚く霞スミカだが構わずフィオナは言葉を続けた。

「彼はネクストの動きを良く分からないのです。一度肌で感じたほうが良いと思います。
霞スミカさんはレオーネのオリジナルなので宜しければ・・・ですが」

「私はかまわないが、私のシリエジオのデータがないだろう」

「ここはアナトリアですよ?国家解体戦争時のでしたらシリエジオの物もあります」

 確かにアナトリアが疲弊した状態とはいえAMSと統合制御体関連の技術力ではいまだ上位に存在している。
余力の残っていた解体戦争直後ならば情報収集も可能だ。
そしてフィオナ・イェルネフェルトの提案によって霞スミカとアナトリアの傭兵のシミュレーターを介した戦闘が急遽行われることとなる。

 戦闘が開始されてから霞スミカの得意とする遠距離狙撃が一方的に相手を痛めつけていた。
アナトリアの傭兵が接近しようとブーストを多用した跳躍移動、つまりノーマルと同じ回避機動を行うがその程度でネクストの照準が狂うわけもなく、アーリヤのマシンガンとプラズマランチャーの射程外から容赦なく攻撃を与えていく。
だが、さすがというべきか寸前のところで駆動部を庇い戦闘不能の状態になることだけは避けている。
 2分以上一方的な攻撃が行われアーリヤは激しい火花を上げ限界が近い。
僅かにアーリヤの動きが鈍り、とうとうコアに一発のレールガンが直撃、反動で機体前面が跳ね上がりアーリヤは足を止めた。

「終わりだ。レイヴン」

 霞スミカがレーザーライフルのトリガーを引こうとしたとき、僅かに浮き上がったアーリヤコアの後部ユニットが光を放ち始めているのが彼女の目に映った。
OBの起動、速度の急速な変化にテルスのカメラアイとレーダー、そしてFCSの情報処理が追い付かずロック状態が一時解除されてしまう。
だが霞スミカは国家解体戦争を戦い抜いたオリジナルの一人、すぐにFCSを使用せず手動で照準を合わせレーザーライフルのトリガーを引いた。
一単射、アーリヤに回避運動の気配なし、直撃、そう霞スミカが確信したときアーリヤは右SQBを点火し回避。
粒子射出式レーザーライフルとはいえその速度は通常ライフル弾を遥かに上回る。
OBの起動中の相対速度から言って目視後に回避できるわけがない。つまり、

「私の動きは全て予測どおりということ…か」

 完璧な回避行動、こちらの動きを読まれている。そう霞スミカは感じた時絵も知れぬ恐怖が走り抜けた。
アーリヤはMQB点火、DRAGONSLYERからレーザーブレード発生、MQBとブレードQBで加速した直後背部から放出している光が一瞬翼のような形へと変わる。
 距離200、シリエジオからレールガンが射出されアーリヤへと向かっていく。
レールガンは現兵器中最高の弾速を誇る故、射出してから回避することはまず不可能、距離200未満、例え英雄ベルリオーズで合っても不可能なはずだった。
だが、発射される直前にOBをカットし左へ90度QTしつつバッククイックブースト点火、寸前のところでレールガンを回避、
シリエジオを正面に捉えつつ、地面との接触面から激しい火花をあげながらシリエジオの左サイドに滑り込む。
 攻撃直後の隙、回避不可能な死の距離、2分弱の一方的な戦いの間に霞スミカの手の内を全て読み取られていた。
接近されないための精密狙撃、牽制のためのASミサイル、それはEN兵器を最大限効果的に運用する為に最適化されたTELLUSの重い機体を扱う為の戦術。
それ故の絶対の弱点、接近戦の脆さ。

「くっ!」

 霞スミカは左腕を切り飛ばされることを覚悟し左SQBを二段点火、紫色のレーザーブレードは意図も簡単にPAを貫通し左腕を奪っていく。
AMSを介して損傷がフィードバックされ精神を抉りっていくがコアを削られる最悪の状況だけは回避。
QBの加速と急減速の反動を利用してQT,アーリヤの方を向きながらレールガンを構えようとした。
しかし、QTの終えたシリエジオの目の前にはコア目掛けて突き出されるDRAGONSLYERの紫の光が迫っていた。
 ブラックアウト、シリエジオはコックピットを貫かれリンクスは死亡、シミュレーターが終了しAMS接続が解除される。

「くぅ…」

 霞スミカは撃墜された故の高いAMS負荷からくる頭痛に耐えながらシミュレーターから降りる。
しかし、レイヴンはその程度ではすまなかったらしい。
レイヴン側のシミュレーターは慌しく救護服を着た連中がレイヴンを引きずり出し救護室へと運んで行くのが目に入る。
レイヴンにはそれほどAMSとの接続は耐えがたい苦痛なのだろう。

「良い経験になりました。ありがとうございます」

 フィオナは霞スミカにそう伝えると足早に救護室へと向かっていった。
その後姿を見ながら霞スミカは戦闘の内容を思い起こしていた。
時代遅れ、古い戦士、相対して見ればその考えが間違いである事が彼女には分かった。
あの男は人間という存在が可能な戦闘領域を著しく逸脱している。
ネクストと接続可能なリンクスとしてではなく、戦士として、兵士として、直接力を振るう存在として人間の領域を超えてしまっている。
旧時代のレイヴンに伝わる蔑称“イレギュラー”最後にそんな言葉が彼女の頭をよぎった。

「伝説的なレイヴン、アナトリアの傭兵か。戦場で会う事は避けたいものだな」

 いまだ流れる冷や汗をゆっくりと拭うと格納庫に置かれているシリエジオへと彼女は向かった。
 それ以降、アナトリアの傭兵と霞スミカは戦場での対峙及びシミュレート対戦さえした事は一度もない。
レオーネ・メカニカは最高戦力を失わない為、企業の存続に対して影響を与えるもっとも重要な任務のみを与え、ノーマルや小型機動要塞を緊急支援用に付けるなど万全の体制をとっていた。

 それから数年・・・アナトリアの傭兵は兵士としての全盛期が当に過ぎ去っているにも拘らずランク9を維持、いや、事実奴の棲み家たるラインアークと護るべき存在を捨てればGAやオーメルそのものを壊滅させられるかもしれない。
そんなのを相手に勝てるどころか生き残れるどうかも怪しい。

(危険ならば、撤退か)

 今はまだ勝てなくてもリンクスとして大きく成長する可能性はある。任務失敗の汚名はいつでも晴らせるが死んでしまえばそれまでだ。
危険と判断すれば即刻撤退を指示する。それがセレンの最終決断だった。

「セレンさん」

 珍しくリンクスからの通信。普段戦闘前はこちらから情報を伝えることは有ってもリンクスから声をかけてくることはほとんどない。

「どうした。何か情報が欲しいのか?」

「いえ、レイレナード本社で負けた私がホワイト・グリント相手に戦えるでしょうか?」

「レイレナード本社だと?」

 レイレナード本社襲撃を行ったのは確かにアナトリアの傭兵だが、防衛側にリンクスが居た事はセレンにとって初耳だった。

「私の居た傭兵部隊は護衛として本社防衛に当たっていました。私は外郭部でMT部隊と共にでしたが、中破した機体と共に運よく生き残った私以外は全滅しました」

「奴と相対して生き残ったのか!?」

 ネクスト相手にノーマルで生き残る。それはほぼ不可能なはず、性能比が余りにも違う。

「いえ、一障害として捌かれただけです。出なければ今頃生き残っては居ません」

「…標的以外ゆえに助かったということか」

「訓練も実戦経験も積みネクストにも乗っています。ですが、私の力で」

「そこまでだ」

 リンクスの言葉を制する。まだ自らの実力で手に負えない相手だと思っているのだろう。

「奴の全盛期は当に過ぎその力は落ちている。ランク1との共同でやれなくはないはずだ」

 オーメルサイエンスが出せる最高の戦力 ランク1 オッツダルヴァのステイシス、
そして中立に近い独立傭兵として選ばれたストレイド、この2機でも勝てるかどうかセレンにも予測が付かない。

「今は集中しろ。それしかない」

「…わかりました」

 分かったと言ってもやはり割り切れるものではないが、企業連の依頼を断るわけにはいかない。

「戦闘エリアに到着した、ストレイド降下するぞ」

 エアキャリアーのハッチが開かれラインアーク橋上にストレイドが降下していった。

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