小説/長編

Written by 雨晴


薄暗い通路が続き、先を行くレイテルパラッシュの背を追う。
戦闘は発生しなかった。巨大な施設だけに相応の戦力が配備されていると踏んでいたが、杞憂に終わったらしい。

『もうすぐクラニアム中枢だ』

通信。ウィン・Dの声にレーダーを確認する。大きな広間が存在し、それこそが目的地だ。

『貴方には、感謝している。嬉しかったよ』
「"君"で構いませんよ。それに私は私の意志でここに居るのですから、むしろこちらこそ、機会を与えてくれた貴女に感謝しています」

そうか、と返答が来て、会話は無くなる。

『存外、甘い男なのだな』

代わりにセレンからの通信。どこか感慨深げな、その声。

『まあ、そんな傭兵も悪くないがな』

特に返事はしなかった。彼女がそう思ってくれていることがわかりさえすれば、十分だったからだ。

『成就しろよ、お前の答えを』

その言葉に、目を閉じる。長かったここまでの道程も、全てこの為に。

「了解しました」

システムチェック、ジェネレーター稼働中、プライマルアーマー展開完了、全兵装スタンバイ。
各ブースター異常なし、各部間接異常なし、FCS起動、AMS正常に接続。広間へと差し掛かる。

『お前達、やはり腐っては生きられぬか』

若い声に、レイテルパラッシュと共に前進を止めた。黒のアリシアと、白のアリーヤがそこに居る。
その声には聞き覚えがあった。いや、忘れるはずが無い。

「マクシミリアン・テルミドール、ですね?」
『いかにも』

2機のネクストと正対する。レイレナード社製のフレームが、その背景を物語っているように思えた。

「私は、貴方を止める為にここへ来た」
『止められるものか』
「止めてみせますとも」

ストレイドの姿勢を前傾へと向ける。突撃準備。

『これは、ジェット?』

セレンからの通信に、動きを止める。
ジェット、記憶を探り、ORCA旅団のアームズフォートの名に行き着く。中距離索敵レーダー上、光点が4つ。
おそらく、クラニアムを破壊するつもりだ。
考える。2対2での戦闘中、クラニアムを潰されてはここに来た意味がない。
ならば。

「ウィン・D、敵蹂躙兵器をお願いできますか?ネクスト機もジェットも、どちらかを放っておく訳にはいかない」
『同感だが、大丈夫か?ここに居る以上、その2機の実力は高い筈だ』

確かに。そう思い、一つ頷く。だが。

「問題ありません」

言えば、数拍の沈黙が流れる。レイテルパラッシュの背にコジマ粒子が注がれた。

『死ぬなよ』
「了解しました」

音速を超え、ネクスト2機を飛び越していく。どうやらあちらの二機も、私を選んでくれるらしい。

「では改めて。始めましょう、マクシミリアン・テルミドール」
『そうしよう。ハイン・アマジーグ』

右腕、左腕兵装オンライン。再び前傾姿勢。

「私を殺せるものなら殺してみなさい、テルミドール。だが私はもう、簡単には死なない」
『そうかな』

オーバードブースト展開準備。
言い交わすのは、あの日の通信と同じだ。顔が自然に笑みを生み出す。

「そうです。父の為にも、マグリブの為にも、妹の為にも。何よりあの子の隣に居る為にも」

死んでたまるか。父から貰ったものは正義の名、誇り、技能。マグリブの汚名を晴らし、妹をこれ以上悲しませない。
そして、あの子の傍に居たいんだ、私は。
コジマ粒子吸入開始。

「さあ。亡霊同士、決着をつけておきましょう。憂いを残さない為に」
『ふん』

オーバードブースト点火。

「行きます」

突撃。
 
上空にアリシア、地上にアリーヤ。白のアリーヤへ接近すると、予想以上の瞬発力を見せ付けられた。左方へ弾く。
側面から確認、背部にブースター、モーターコブラにブレード。成る程、主眼は極至近距離。私と同じか。
後方よりミサイル、右腕兵装起動、打ち落とす。同時にレーザー弾、回避。アリシアは中距離か。
どちらから叩くか。考えている間にも波状攻撃が来る。幾らか被弾するが、問題ない。ミサイル起動、牽制開始。後退。
さて、いつまでも下がり続けるのも性に合わない。タイミングなんて気にせず潜り込め。オーバードブースト。
多段クイックブースト、速力維持、アリーヤをパス、バッククイックブースター、減速、クイックターン。
一瞬背を取るが、相手も早い。それはそうだ、そんな尖った装備は人を選ぶ。選ばれたのであれば、それはその能力故だろう。

知ったことか。両腕部兵装起動、リロード良し、アリシアからの攻撃は極力避けて、あとは無視だ。アリーヤを向く。

敵機突撃、右方回避、ドリフトターン。一瞬がら空きの側面へマーヴ、モーターコブラの弾幕を叩き込む。
すぐに正対、レーザー弾接近、モーターコブラからミサイルへ、ミサイル射出、敵アリシア回避運動、グレネード起動。
アリシアへグレネード射出、2。当たらずとも、気を逸らさせる。途端、視界が白を捉えた。無意識でのバックブースター。
高出力のエネルギーブレードが、コンマ数秒前に居たであろう場所へ展開され、消える。
コンソールに敵兵装の情報が呈示された。私の用いる格納のものとは一線を画す、その出力。規格外だろうと思う。
不必要な思考と共に、衝撃が来た。アリシアよりミサイル被弾、更に接近、打ち落とす。一つ首を振った。何をしているんだ、私は。
敵が精鋭だろうが、敵が何を繰り出そうが、何を用いようが。私の成すべき事は今、たった一つだ。

一度距離を取り、中距離から放たれるミサイルやレーザー弾を確実に避けていく。充填完了、リロード良し。
再度突撃。姿勢を下げ、クイックターン。アリーヤの後方。相手がこちらを向く前に、更にその先を行く。
クイックターン、射撃、上昇、クイックブースト、接地、ドリフトターン。敵機ブレード起動、進路を避け、隙を突く。
ブレード展開中には、一方にしか攻撃出来ない。その加速力は確かに厄介ではあるが、追えないスピードではない。
多段クイックブーストを、多段クイックブーストでキャンセルする。連続の多段クイックブースト。
高付加なそれは滅多に使わないが、敵の起動に追い付くためには必要な動作だ。流石に押し潰されそうになるのに耐え、食らいつく。
ライフル弾接近、当たりはしないが、牽制だろうか。ミサイル展開、目標を一時変更、アリシアを追い立てる。
躊躇うな、踏み込め。アサルトライフルとマシンガン。逃げるように引き始めた敵機を更に追い詰めていく。
後方からアラート、気にしない。距離からしてブレード効果範囲外、マシンガンも致命傷にはならないだろう。
敵機被弾、更に被弾、敵レーザーライフル命中、グレネード展開、クイックターン、アリーヤへ一撃、命中、クイックターン。
マーヴ起動、ミサイルを急加速で避け、殆ど距離の無いところで両腕部による全力射撃、敵プライマルアーマー排除、グレネード。
背を向け逃げる敵機は追わず、代わりに再びアリーヤへと正対する。連続クイックブーストで接近。さあ、1対1だ。
敵機ブレード展開、接近。相対速度からして一瞬、接地しドリフトターンで回避。
同時にオーバードブースト、1秒以内だけ吹かし、速力確保。こちらを捉えようとするアリーヤにミサイルを放つ。
敵機ミサイル迎撃、機を逃さず、一気に肉薄する。機体を捻り、斜め後方へと位置づけ、グレネード。
視界が背部ブースターの放つ光に遮られ、それでも食らいつく。多段クイックブースト、敵機旋回、マシンガンの連射。上方回避。
上方から押さえつけつつ叩くべきか。その思考の中、後方よりミサイル接近。アリシアか。回頭、全弾排除し、牽制を入れる。
後方にコジマ粒子収縮を確認。目を見開いた。

―――オーバードブースト!

前方へクイックブースト。それは回避行動だ。
オーバードブーストに追加ブースターによる加速力、そこから繰り出されるのは近接攻撃。高出力のブレードが背を撫でる。
連続クイックブースト、即時離脱。十分に距離を取り、損害確認。折り畳まれていたグレネードの砲身が、半分削ぎ落とされていた。
APも一気に削られ、しかし幸いにも背部のブースターは健在だ。
安堵する。ブースターが無くては私など、何も出来ないのだから。グレネードをパージ。改めてマーヴを起動、リロード。
敵機が二機向かってくる。プライマルアーマー再展開良し、グレネードが無くなったのは火力の面から見れば痛いが、身軽にはなった。
一瞬考え、ミサイルもパージする。残弾、マーヴ72、モーターコブラ670。
極至近距離戦闘。私には、それしか能が無いのだから。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
真改のブレードが命中し、押され気味だったこちらもようやく攻勢に出られる。
遠目で見れば、グレネードを損傷したらしくパージしている。その後、ミサイルも。
直立する黒のアリーヤは、あとは腕部兵装を残すのみで、火力は薄い。長期戦に持ち込めば、撃破は可能だろう。
あとはレイテルパラッシュさえ落とせば、こちらの勝ちだ。笑みが漏れ、意識して抑える。
いや、まだ何をしてくるかわからん。あの男は特に。そう思考した途端、黒の背にコジマ粒子が注がれる。
オーバードブーストか。まあ、あの装備ではかなり接近しなければ勝ち目は無いからな。思い、前進を止める。
文字通り突進を掛ける黒に、真改と共に迎撃用意。ミサイルの展開は間に合わず、アサルトライフルとレーザーライフルを構える。
構えた頃には、黒は我々を通り過ぎていた。殆ど同時と言えるようなタイミングで衝撃が来る。連続被弾。歯を食いしばり、旋回。
そこに黒は居ない。気付けば、直上だった。アサルトライフルを向け終わる前に、数発のライフル弾を被弾する。
バックブースターを吹かして後退を掛ける敵機に、今度こそ機を向ける。
居ない。今度は連続クイックブーストでアンサングの右側面を交わし、スプリットムーンへと襲い掛かる。
眉間に皺が寄る。抑える暇も無く、真改の援護へ。火器を向けた途端、黒がこちらを向いた。オーバードブースト。
来るか。身構え、しかし衝撃は来ない。再び上空をパスされ、旋回。そこで後方から被弾した。フェイント。
思わず出た舌打ちを携え、再び旋回。正対すると、複雑な機動で逃げていく。いや、逃げたのではなくて目標を変えただけか。
スプリットムーンのブレードをひらと避け、後方からマーヴ、モーターコブラ。削られていく。
ミサイル起動、射出。真改を援護、敵機回避。だがその回避行動でさえ、こちらへ向かってくる為の布石だ。
衝撃。今度は真正面から。レーザーライフルを撃ち込み、しかし多段クイックブーストでの加速の前に未来予測は全く役立たない。
敵機のパスと同時に再び衝撃。機を向け、迎撃。当たらず、敵機が逃げ行く。
ヒット・アンド・アウェイ。初歩中の初歩である戦術。だが、これは。
  

 
 
 

 
 
 
 
 
 
  
照射警告、サイドクイックブースターにてカット、右方より敵アリーヤ高速接近、バッククイックブースター。
回避最優先、敵機前方、モーターコブラ命中、ミサイル接近警告、オーバードブースト起動、アリシアへ。敵機滞空。
直下からの全力射撃、敵機落下、垂直推力全開、敵機直下、降下フェイント、メインクイックブースターにて敵機前方へ、斉射。
敵兵装、ミサイル展開及び射出、オーバードブースト展開、敵アリーヤ上方を獲得、敵機マシンガン起動、降下、側方にて射撃、命中。

対多数戦闘は、マグリブのような組織にとっては避けられない課題だ。
だからこそ、父は近距離戦を選んでいたのだろう。高機動で敵をかく乱、そして殲滅。受け継いだのは、確かに私だった。
思い出す。基礎となる、ふたつの手法。
ひとつは、一機ずつ確実に叩いていく戦法。まとわりつき、その一機に注力する。
もうひとつは、同時に複数機を相手とする戦法。少しずつ、確実に削っていく。
攻撃優先である前者に対し、後者は回避優先。敵機に銃口を向けられたならば、即時離脱。別の敵機へ。

高火力兵装を失った今、頼るべきは自分が培ってきた機動力だ。常に10%以上のエネルギー充填率を維持し、飛び回る。
敵アリーヤから反撃、乱数回避、上昇。リロード及び再加速、敵アリシアへ、左方より回り込み、バッククイックブースター、前面へ。
プライマルアーマー干渉、内側に向け全力。敵アリーヤ接近中、一時退避、ドリフトターンによる正対、リロード。
再接近。敵アリーヤブレード展開、左上方へ回避、自由落下中、クイックターン、後方獲得。
全力斉射。
敵反応1、消滅。旋回、アリシアへと向く。リロード。敵機よりミサイル、回避。レーザー弾回避。

システムチェック。
ジェネレーターより報告、正常稼働中、プライマルアーマー充填率100、エネルギー充填率100。
兵装チェック、背部両兵装放棄。左腕マーヴ、残弾43。右腕モーターコブラ、残弾340。
FCS正常作動中、AP60%減少。各関節、ブースター、過負荷による機能低下を確認。短時間戦闘であれば支障無し。

一息。敵機も様子を見ているようで、動かない。ウィン・Dは4機目のジェットを落としに掛かっている。
胸ポケットに触れた。そこにある写真を想像する。慌てていてぎこちない、可愛らしい笑顔。
重なるのは、どこか妹に似ているあの女性の姿だ。待っていてくれるだろう。幸せ者だ、私は。あの人の許へ戻らなければ。
だから、私は勝つよ。お前が誇れるような兄になってみせる。私は、かつての私ではない。

オーバードブースト。音速を以って接近する。
突撃、突撃、突撃。両腕部兵装起動、全力射撃。クイックターン、上方にて頭を抑え、撃ち込む。敵機の離脱を確認。
逃がさない。接地し、オーバードブースト。すぐに解除、通常推力で射程圏へ捉える。射撃。
敵機と正対、サイドクイックブースター、メインクイックブースター。数回絡め、かく乱。その間にも、攻撃を続ける。
マーヴ残弾30。最後のリロードだ。敵機よりミサイル接近、モーターコブラ射撃、命中、ミサイル撃破、ライフル弾回避。
当たらない。当たるはずが無い。レーザー弾接近、回避。肉薄、ゼロ距離にてモーターコブラ、命中。
敵機硬直、後方へ回り込み、後方からマーヴ連射、モーターコブラリロード良し、斉射。
今この場所で、持てる力を出し切ればいい。それが全てだ。
ライフル弾回避、追撃、敵機上昇、下方よりモーターコブラ、命中、一時退避、リロード。
連続クイックブースト、これで最後だ。真正面、直近からの全力射撃、敵機後退。逃がさない。ここが私の間合いなのだから。
敵機落下、更に追撃、左腕兵装残弾警告、4。モーターコブラ射撃再開、命中。

『―――最後に敗れる、そんな運命か』

通信、敵機活動停止、崩れ落ちる敵機を見下ろし、マーヴの銃口は外さない。

『心しておけ』

レイテルパラッシュの全目標撃破を確認、右後方にネクスト反応、僚機。

『貴様らの惰弱な発想が、人類を壊死させるのだと』

一息。緊張を解き、意味を思う。彼の信念も、間違いではないのだろう。
だが、それでも。

『人類など、どこにも居ないさ。オッツダルヴァ』

一瞬目を閉じ、空ける。コアを目掛けて引き金を絞る。金属を穿つ音が、鮮明に聞こえてきた。
敵ネクスト反応消滅、戦闘終了。
ウィン・Dと共にクラニアムを後にする。これ以上、ここに留まる理由がないからだ。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「これで、我々も晴れて反逆者ですね」

クラニアムの外へと出れば、企業連の大部隊に囲まれていた。ギガベース2機を中心とした、アームズフォート部隊。

『この程度であれば突破できるだろう』
「確かに」

ウィン・Dに同意し、左腕のマーヴをパージ。格納兵装をオンラインへ。戦闘準備。

「行きますか」

オーバードブースト起動準備。

『待て』

セレンの静止に、起動を止める。何ですかと問えば、どこかと通信中のようだ。数秒の後に返答が来た。

『前方のアームズフォート部隊より。数多の人命を救った貴君らを歓迎する、だそうだ』
「・・・何ですか、それは」

ウィン・Dも似たような感想を得たようで、声からは疑問の色が滲んでいる。セレンが続けた。

『企業連からしてみれば、ORCAの主力が潰えた今、その功績を自らの手によるものだとしたいんだろうさ』
『・・・奴らの取引相手も居なくなったことだからな』

ウィン・Dから溜め息がひとつ。機を進ませ、向かうはアームズフォートだ。武装解除。

「こうも露骨に来ると、腹も立ちませんね」
『同感だ』
「まあ、それもどうだっていい事です」

そう。どうだっていい事だ。笑みがこぼれる。目下私のすべき事と言えば、あの子を攫いに行くことくらいなのだから。


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