Written by へっぽこ


そんなわけで、ブリーフィングルームでミーティングである。
正面のスクリーンには企業連から提示された、明日の作戦内容が映し出され、その隣で我らがセレンさんが清く正しく美しく、姿勢よく凛々しく頼もしく、丁寧な解説を加えている。
その、聞きなれた声に絆されて、加えて薄暗い照明も手伝ってか、うつらうつら。意識が霞む。
いつものスピーカー越し、窮屈な機体内で聞くセレンさんの声も好きだけど、やっぱり生が良いですよね。
心なしか棘が少なく、ピリピリした感じがないし、むしろ安心感すら感じるしで、おとくおとく。

だがしかし侮るなかれ。そこはそれ、腐ってもセレン・ヘイズである。
例え、声にミッション中の刺々しさがなくとも、中身はばっちり痛烈だ。
そんなわけで、正直机に突っ伏して眠りにつきたいところではあるのだが、ここは一つ頑張ろうと思うのだ。
が、そんな僕の決意とは裏腹に、体はだるく、頭の中ではついにメリーさんとこの羊が放牧を開始する。
首輪を付けた白くてもこもことした羊が、さながらラインアークのツインタワーのようなゲートから、わらわらと溢れだし、いやまて、あそこにいるのはメイさん……?
―――パカン、と軽い衝撃を受けて頭を上げる。
そこには丸めた資料片手に怖い顔のお姉様。

「……いや、寝てませんよ」
掌を顔の前で振ってアピールしつつ、あたりを見回す。
目に付いたスクリーンは真っ白く、ただプロジェクターの光を浴びるばかりで映像はなかった。
どうやら、知らぬうちにブリーフィングは終わっていたらしい。
そうして、いつのまにか静かなブリーフィングルームには僕らを除いて人影なく、二人きり。
ちょっとだけそわそわする。

取り残された僕は、取り敢えずセレンさんの顔をもう一度、ちらり窺い見てみると、セレンさんは先より幾分トーンダウン。怒っているというよりは呆れている、とそんな表情で小さく溜息をつき、右手で丸まる資料を広げ、逆側に一度丸め直してから僕の席の机に投げ置いた。
「今回の任務内容が書いてあるから目を通して置け」
そう、つっけんどんに言い放ち、すたすたと歩き出すセレンさん。
残された僕は渡された資料に目を通しつつ、頭の中で機体の再構築を開始する。

取り敢えず武器の選定から始めましょう。
予想される敵戦力、及び地形効果を考えつつ、戦闘スタイルを模索し、見合った武器を選定。
と、真面目モードにシフトチェンジしたそんな折、
「――ああそうだ、今回の任務には遼機が―――どうした?」
急に声を掛けられて、ピクつく自分が情けない。
ピンと伸びた背筋をそのままに、後ろにぐーっとゆっくり傾倒して、背もたれに寄りかかり、伸びをするような感じで上体を反らせて後ろを確認しようと首を倒してみたのだが、体が硬くてどうにもセレンさんの姿は捉えられない。
リノリウムの天井と消された照明が見えるばかりで、その殺風景さを見つめながら、
「まだいたんですか。もう、おどかさないでくださいよ」
ついついそんな悪態を吐いてしまった。

カツカツ足音がする、と思ったら、不意に視界にセレンさん登場。
上下逆さまにこちらを見下ろすセレンさん。
その目から放たれる不可視の冷凍ビーム。凍るのはきっと僕の心だ。
「いたらダメだとでも?」
両肩にそれぞれ手を添えられて、その冷たい手の感触がこう、ギチギチッと。
「いやいや、言葉のあやですよセレンさん!」
手の感触が若干弱まり、セレンさんは本題の方に話を進めた。
「それで、遼機は――」
「エイさんで行きましょう!」
「ヴェーロノークはリストに含まれていない。」
「じゃあメイさんで!」
「メリーゲートも含まれてない。」
「ウィン姉さん!」
「ウィン・Dもダメだ。」
「えー、なんだよそれー。クライアントが企業連なら誰と行ってもいいじゃないかー。ぶーぶー」
僕は体を起して机をバンバン叩きつつ、自分でもよくわからない抗議をする。
とたん、肩からセレンさんの手が離れる。
そして次の瞬間、後ろから覆いかぶさるように抱き締められた。

背中に胸が当たり、肩越しに頬に息があたり、首に腕が回され―――あ、これ抱きしめられたんじゃないや。
ギシッとセレンさんの腕が瞬時に僕の首を締めあげ、落としにかかる。
いやはや、これ以上ないくらい綺麗なチョークスリパーだ。
やばい!まじやば!

バタバタもがく僕の手が時折プロジェクターの光をさえぎり、スクリーンに影が映る。
まるでサスペンスドラマのワンシーンみたいだ。
ていうかこれ、はたから見たら殺人現場ですよセレンさん!しかも現在進行形、誰か助けて。
と、ジタバタしたところで、助けなど来るはずもなく、ならばと僕は渾身の口撃を開始する。
「じょ、冗談です! 僕はセレンさんひとすじっす!」
ピタっと腕の締め付けが停止する。

おお、利いたか純粋本音攻撃!と、思ったのもつかの間で、二秒のインターバル後、ギュギューとさっき以上の力がこもる。
シット!作戦が裏目に出てしまったっぽい。
ノーモア、バイオレンス照れ隠し。
「―――。」
そうして、すーっと急速に意識が遠のき、まどろみの淵でやっと解放されて床にへたり込む僕が見上げた先、そこにはちょっとだけ頬を染めた困った顔のセレンちゃんがいるのだった。

     /

翌日のこと、僕は作戦に向けて粗方の準備を整えたところで、セレンさんとは別な管制官に遼機の件をそれとなく尋ねてみた。
が、セレンさんが内々で勝手に決めてしまったらしく、判らないとのことだった。
しかもその当事者たるセレンさんはというと、昨日の今日で僕と会うのは流石にばつが悪いのか、朝から姿を消している。

そんなわけで、主オペレーター不在のまま任務へと飛び出した僕は、作戦領域手前の僚機合流ポイントで今回のパートナーを待っていた。
「目標のエーレンベルクには、その周囲に多数の―――」 
代役のオペレーターが任務内容を淡々と説明する中、僕はなんとなく締まらない面持ちでいた。

まったく、なんというていたらく。
これから切った張ったの大立ち回りで、生きるか死ぬか、その瀬戸際を駆け抜ける数十分がスタートするのに。 思わずはぁとため息を吐いたりなんかして、やるせなさが無意識に僕の口を動かした。
「なんだかなー」
「ORCAの敵ネクスト―――何か問題でも?」
「あ、いやどうぞ続けて。」
こんな調子でどうする。
いかんいかん、と頭をぶんぶん振って調子を強引に戦闘モードへ移行させる。

「――後方より、ネクスト反応。急速に接近中、遼機です。」
「はーい」
オペ代理に生返事で答えて、レーダーを確認。それから無線で謎の遼機にファーストコンタクトを試みる。
「ハローハロー、えーっと、こちらは―――」
「いらん。お前が誰であろうが関係ない。任務を遂行するだけだ」
名乗る前に割って入られた。

むう、まるで誰かさんを彷彿とさせるSっ気だ。
あと、心なし声もそっくりじゃない?
急速接近の遼機は合流ポイントで油を売る僕の機体を軽く飛び越えて、そのままターゲットへまっしぐら。
「いつまでつっ立てるんだ。さっさと始めるぞ」
「は、はい! 了解っす」
スピーカーから檄が飛ぶ。その声に条件反射で背筋が伸びた。

そうして僕は、いつか見た事のある機影の後を追いかけるのだった。


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